ギター自作JK   作:水里露草

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めっちゃファズの話します なんなら次回はモダンファズの話します


ジミヘンを通るとファズとボリューム操作の渋かっこよさに目覚める

 

 

 

 説明しよう!

 ファズとは!

 かっこいいのである!

 

 ……が、それ以上の詳しい説明をするには私の睡眠時間が終わりすぎてて「ファズってね! すごいの!」みたいな幼稚園児的説明しかできないだろうっつー危惧と、あとせっかくなら眩く鋭くやや泥鉄臭いめくるめくファズの世界をご案内できるプレゼンター……いやセレブレーターが必要と判断したので、私は蘭ちゃんに土下座して一晩時間を頂いた。

「早まったかも……」って呟きが落ちてきたけどもう逃がさないゾ♡

 

 さぁて資料作って今持ってるファズも全部集めて……あーいろいろやることやってねえや。改造テレキャスをリアだけの1ピックアップに変えたかったんだよ。セレクターも外して……あと事務所バンド(仮)の弾いてみた、やろうとは言ってるけどこれみんな録る時間あんのかぁ? 姐御が受験終わってからかな。先輩はどうせもう講義そんなないだろうから暇してるとして、殿下は空いてっかなぁー……ラインで予定だけ聞いて……つーかなんで1発目から『爱丽丝』なんか選んだんだ私たちは……あとはあれと、これと、これと…………。

 

 

 

 

 

 バリ寝落ちしてたわ。

 

「いやぁ、今朝いきなり『麻弥ちゃんCiRCLE来れない!?』ってラインが来たときは何事かと思いましたよー」

「ほんとごめん麻弥ちゃん! ありがと!」

「いえいえ。ファズの話となればジブンも機材好きの端くれ、どこだって駆け付けますよ!」

「そんなヤバイ沼なんだ……」

 

 ガッツリ2時間も借りたCiRCLEはAスタのど真ん中、私とタメを張るオタクにお越し頂いた。お仕事でもちょいちょいご一緒したことがある、上から読んでも下から読んでも大和麻弥ちゃんである。今日も眼鏡が知的で可愛い。ちょっとダボついたダークグレーのパーカーと、その首元から覗くくすんだグリーンのハイネックシャツがお洒落だ。千聖ちゃんに買わされたかな? 下はすぐにでもドラムを叩けそうなカジュアルな濃紺のダメージジーンズと白いバッシュ。加工の下に黒いタイツがチラ見えしててなんかちょっと……こう……いけませんな!

 

 ちなみに彼女がどのくらいのオタクかというと、えーと、なんだ。私の知る限り販売サイトも数年更新されてないようなドの付くマイナーラックマウント型アンプの話ができるのは彼女だけってくらい。なんなら私より詳しいんじゃね?

 なんでMAKO AmplificationだのSteavensだの知ってんだ。わかってもせいぜいMezzabarbaくらいだろ。昔初めてスタジオで会ったとき話の流れでラック機材の話になったんだけど、「Steavens、Radioactivatorなら知ってますけどいいですよね! 音もドイツ系アンプらしいキメ細かい歪みが……」って言ってきたあたりで抱き締めた覚えがある。Steavensはパワーアンプの1002もいいぞ!

 ちなみにMAKOの話だと、Mak4ってラックプリで盛り上がったっけ。4チャンネルで結構ハイファイな、CAEの3+SEばりにいい感じのアンプ。中古屋で見つけて一時期持ってたんだけどアンプマニアな小春子お姉ちゃんにあげてしまった。多分今頃は改造されてMIDI端子とかつけられて、1002とエフェクト用のちょい古いAxe-Fxと一緒にラッキングされてることだろう……余談だなこれは。

 

 そんなオタク中のオタクである麻弥ちゃん、当然ファズにも詳しかった。

 

「ファズの入門ならジブンとしては価格や評判的にAnimals PedalやEffects Bakeryでもありだと思うんですが、やっぱりギタリストじゃないので音はともかく細かい使用感まではちょっと説明できそうになくてですね……なので最初はこのカテゴリーそのもののイデアを知るためにも定番の赤ファズ、青ファズ、あとエレハモのBig Muffあたりを触って基準になる音と使い勝手を知っておくのが良いのではないでしょうか! ……ところで今日はどこまで? トーンベンダーMk1、Mk1.5、Mk2の違いとかまでいきますか? 一応復習してありますが……」

 

 うーん信頼できる。

 

「や、流石にファズフェイス系主体でシリコンとゲルマニウムの音の違いくらいで済ませるか、興味出たらモダンファズも触らせてみっかなーって程度だったわ」

「……あの、結弦子さん。言っときますけど、あたしノートとか持ってきてませんから」

 

 蘭ちゃんの目が険しい!

 

「安心して蘭ちゃん! 流石に歴史の話とかしねえから!」

「ファズの歴史の話をすると、どうしてもジミヘンやビートルズにも触れなきゃいけなくなりますからねー。英国ロック史は濃いのでまた今度に」

「次があるの……?」

 

 ダメだ、ドン引き確変状態だこれ。もうとっとと準備始めちまおう。

 ループスイッチャーとジャンクションボックスを活用して、ひとつのアンプに六つのループと二本のギターを接続。こっちのスイッチャーを押すと対応するファズが、こっちのスイッチを切り替えると私のギターか蘭ちゃんのギターどっちを鳴らすか切り替えられるってわけよ。便利! あとファズは前後に歪み置くと印象変わるから、ループスイッチャーの前段には私のあんバターを、後段には蘭ちゃんのMUSEを置かせてもらった。特にMUSEはなー、わかりやすくShigemoriの音になるから比較にちょうどいいんだわ。

 ……実を言うと電気系にそこまで強くねえから、こういう接続関係はほとんど麻弥ちゃん任せだけどな!

 

 私のギターで配線チェックをしてると、蘭ちゃんが言う。

 

「今の結弦子さんがそのペダル踏むとちょっと見づらいですね」

「んぁ、マジ?」

 

 今の私はオレンジコーデだ。膝丈の長さ、フレッシュな果実みたいな色の厚いシャツワンピースは二の腕から手首のあたりにかけてがゆるいニット地になってて、こいつがふんわり優しい雰囲気に一役買っている。下にはもう少し暗いダスクオレンジのコーデュロイパンツ。こっちはスキニーばりに細くて、上下でシルエットの段をつけてるってわけよ。膝まである髪も今日は太いゆる三つ編みで、やっぱりオレンジのシュシュでまとめてたり。靴もオレンジのスニーカーだ。

 で、そんな色で赤ファズ踏んでると色が近くて見づらいらしいけど蘭ちゃん半笑いじゃね? ちょっと?

 

「いいのかなぁそんなこと言ってよぉ。自分も可愛いカッコしてるくせによぉ! 可愛いねえ蘭ちゃん! 青地に白で丸とジグザグ模様の入ったセーター! さっきまで巻いてたふわふわの白マフラー! スキニーはまあいつも通りとして温かそうなもこもこの裏地付きクロックス! いやマジで可愛いな……写真撮っていい?」

「いいからチェック進めてくださいよ」

「チェック進めたら撮っていいの!?」

「いいわけないでしょ!」

 

 怒られちった。日本語ってムズカシイな。心の中のイヴちゃんもブシドーブシドーと……あれ? 擁護は?

 

 いや実際のイヴちゃんは絶対こっち側だろ……と思いながらチェック完了。麻弥ちゃんの方にサムズアップすると、全く同じタイミングで向こうからも返ってきた。親友!

 

「さぁイカれたメンバーを紹介するぜ! まずはこれだ、Jim DunlopのFFM1、そしてFFM2!」

「通称青ファズ、そして赤ファズですね!」

 

 解説の麻弥ちゃん迫真の補足。

 

「説明不要のギタリストJimi Hendrixが愛用したFuzz Faceの小型リメイク版で、FFMというのはファズフェイスミニの略称です! 青い筐体のFFM1は回路にシリコントランジスタを、赤いFFM2はゲルマニウムを採用していていますね。この素材は現在に至るまでほとんどのファズに採用されている業界スタンダードなので、このふたつを聴き比べるだけでもファズのなんたるかに触れることができるでしょう!」

「触れられるだけでわかるとは言ってねえからな♡」

「えぇ……」

 

 青ファズ、シリコンの方を軽く弾いてみる。蘭ちゃんのよく使うMarshallのJCM800のクリーンクランチをフルテンのファズでプッシュ、手元を軽く押さえて強めのクランチまで落とす。わかりやすいのは『That Is How I Roll!』かな。イントロのパワーコードリフからゴロゴロと毛羽立つ(Fuzzing)ようなわかりやすく目の粗い歪みが載る。

 マーシャルのいつもの歪みとは明らかに毛色の違うそれに、ドン引きにドン引きを重ねていた蘭ちゃんが玩具を見つけた子猫みたいに「おっ」と目を見開く。

 そこからハイポジションの単音リフに。手元を跳ね上げて撃ち放つメロディは、明らかにハイがノコギリのように鋭い。このゲイン感の強いスパークする明るさはファズフェイス系に特有のもんだ。

 よしよし、蘭ちゃんの目がすっかりマジになった。

 

「弾いてみっか? このスイッチが今ので、こっち踏むと赤いやつの音になるよ。設定は一緒な。全部フルテン」

「へー……うわ、赤い方はなんかブチブチしてる気がするし……」

 

 そう言いつつも「ブチブチしてる」音で『Scarlet Sky』の単音リフを弾いてみる蘭ちゃん。本来はモカちゃんがやってたと思うんだけど、やっぱ他のパートでも覚えてるんだな。タッピングをはじめとしてやたらテクニカルな演奏を得意とするモカちゃんほどじゃねえけど、こういう普通のリフなら蘭ちゃんも全然上手え。

 感心する私に麻弥ちゃんが耳打ちする。

 

「結弦子さん、『Y.O.L.O!!!!!』って曲あるじゃないですか」

「んぁ? あー、こないだ発表された新曲? 日菜ちゃんのカッティングからプログレみたいなテンポチェンジするやつ」

 

 私がランウェイでギター弾いた日、パスパレはライブで新曲をお披露目してたらしい。昨日も寝落ちしてたから情報とかまだ全然仕入れられてねえんだよな。

 

「あれAfterglowの皆さんに楽曲提供して頂いたんですよ」

「……マジ? 知らなかったんだけど」

 

 おいおいおい公式公式公式、なあ作曲者情報載ってねえんだけどふざけんなコラ!!!!!! 提供アーティストコメントとかねえの!?!!?

 あっ彩ちゃんがSNSで経緯と感謝述べてた!

 

「彩ちゃん好き!!!!!!!!」

「なに急に叫んでるんですか」

 

 ひとしきり弾いたらしい蘭ちゃんに睨まれた。このオタク丸出しのテンションを今ぶつけるとせっかく乗り気になってきたのに水差しそうだから、全力で抑え込んで「どうよ、感触は」とクールを気取る。

 

「……悪くないですね」

 

 あっクール♡ これ以上私を惚れさせてどうするんだ? 今度ギターあげちゃお♡

 

「使い勝手良さそうなのは青い方ですかね。たぶん、このノコギリで削ったみたいな毛羽立った感じが特徴なんだと思うんですけど、青い方……シリコンだっけ。こっちの方がちょっと大人しい感じというか、ほんのりディストーションっぽい気がして」

「おぉ、わかるじゃんわかるじゃん! そうなんだよな、シリコンファズは比較的汎用性が高くってなぁ!」

「でも、結弦子さんがよく手元でイジってるから真似してみたらクリーンまで落ちて。ここまで下げられるのはディストーションには無い感触ですよね」

「よくそれに気付いてくれたな……」

 

 Myriad Fuzzは中でもかなりセンシティブな部類なのであれだけど、でも入力の大きさでクリーンからディストーション並みのところまで調節できる歪みの幅広さはファズの大きな魅力だ。そこまで気付けず「かっこいいけどなんか使いにくいな……」で手放す人が多いというのに、この一瞬でよくぞそこまで……!

 私の中で蘭ちゃんへの好感度がぐぐぐぐぐっと上がっていく。やべ、なんか蘭ちゃんが輝いて見えてきた。恋か?

 

「蘭さん、赤い方はどうでしたか?」

「赤いのは、最初はちょっと使いにくいなって思ったんですけど、触ってるとこれも面白いかなって。手元絞ってクリーンにしても結構キャラが立つっていうか、ゲインのギラついた感じがちょっと残ってたんですけど」

「いわゆる鈴鳴りクリーンというやつですね!」

「それがアルペジオとか弾くのになんか良いな、って。あと、ソロのときはこのブチブチした毛羽立ちの強さが返って良い味付けになる気がしました」

「わかります! わかりますよ! 独特の明るさと強烈な歪みで抜けてくるソロ、カッコいいですよね!」

「個人的には、青いのを前段の歪みでプッシュした音と、赤いのの後段にMUSEかけてマイルドにしたやつが好みでした」

「天才!!!!!!!!!!!」

 

 全力で喝采を上げる私たちと満更でもなさそうな蘭ちゃん。可愛すぎるな、今度会うときのプレゼントはビグスビーをつけたオールマホガニーのES-339タイプでいいか?

 煌びやかな才能を見せつける蘭ちゃんは「さっきなんか言ってましたけど」と続ける。

 

「ファズフェイスと……ビッグマフ? でしたっけ。これはまた別物なんですか」

「そうだなぁ、うん。別物だけど、もうこいつはそんなに細かい説明要らないかも。踏みゃわかるってレベル」

 

 お馴染みファズフェイスや英国ロック史の流れに乗って様々な名盤に刻まれてきたトーンベンダーもキャラがわかりやすいが、ビッグマフは殊更顕著だと思う。ジミヘンが使ったとされるノブを三角に配置した最初期型「トライアングル」はファズというよりややディストーション寄りの暴れつつもクリーミーなサウンド、その次の「ラムズヘッド」はクリーミーさを残しつつもファズらしいチリチリ感と低音の押し出しが強い強烈な歪み。そこから「サードバージョン」と呼ばれる現行品のベースとなったモデル、更に数多のバージョンを経て現代に至るっつー感じだが。

 

「だってこれだぜ? ほら」

 

 私のギター、例のバカみたいな改造から更にフロントを外して1ピックアップになった結弦子ちゃんギターが、シングルコイルにあるまじき劇圧極太リードトーンを叩き出した。

 蘭ちゃんがぽかんと口を開けた。

 

「………………は? 壁?」

「コードの分離感の悪い潰れ感と高域の電気的なチリチリ感、ちょっとブーミーなローの力強さ。これぞマフですよ!」

 

 麻弥ちゃんが拍手して喜ぶ。詳しいねぇ、流石すぎて私の手もノリノリになってくる。

 チューニングを手早くドロップDに。手元はボリューム全開、トーンだけグッと絞って軽めのストロークから叩き出す極悪なロングトーンは『LOUDER』のイントロだ。刻みもなんもねえ白玉音符をぶっ放して拡散感ゼロのままどこまでも伸びていくサスティーンの気持ち良さはマフ系の特権よ。

 そこから音が潰れて一層力強さを増した強烈なオクターブリフ、もう一度ロングトーンのコードを挟んで手元のトーンを夜明けのごとく開いていく。切り付けるようなスライドアップから単音リフをジリジリと焼き付けて、最後のオクターブは軽やかに。

 適当にメタルコア的な刻みフレーズをエンディングっぽくつけて締めると、蘭ちゃんの背後に宇宙が広がっていた。

 

「……え、なにこの……なに?」

「これもまたファズよ……触る?」

 

 こくん、と小さく頷く蘭ちゃんが自分のギターを恐る恐る握るのを見て私はおおよそ確信していた。

 

 落ちたな……!

 




 明石結弦子
 この後セッションでもしてみるかなー、ファズフェイスとオレンジアンプでブルースっぽい音作ろっかなー

 美竹蘭
 これが……強さ………………?
 ちょっと違うと思うよ

 大和麻弥
「トーンベンダー系と一口に言っても様々でして、そもそも原型であるTONEBENDERにしてもmk1、mk1.5、mk2、mk3とあり、そこから更に多様なマイナーチェンジを経て形成された『トーンベンダーの音』を更にリスペクト、インスパイアドして作られているのが現代のトーンベンダー系というわけです。ゲイリー・ハーストが個人制作したmk1の外観を模したものが多いのですが、このmk1の時点でさえ回路の違いによる出力レベルの大小などの違いがあります。65年ごろにジェフ・ベックがThe Yardbirds『HEART FULL OF SOUL』で使用してたものはおそらく出力の低いもの、ファズ&ワウスタイルで知られるミック・ロンソンが70年代『ALLADIN SANE』などに用いていたのは出力の高いものであるとの説が今のところ有力ですね! 現代にも通ずる『ファズらしいサウンド』でありながらもどことなく哀愁の漂う枯れたトーン、素晴らしい音色ですね! ここからmk1.5になりますと(以下略)」

 青葉モカ
 Effects BakeryのSandwich Fuzzを最近買った
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