「モカ〜! 私の接続どうしたらいい!? DarkglassとVivieは今まで通り使いたいんだけど……」
「ひーちゃん、曲ごとに音作り変えたりはしないよね〜?」
「あんましない! 指とピック切り替えたりしてなんとかする!」
「じゃあ、これをアンプだと思ってね〜。スルーアウトからQちゃんに入れるから、ワイヤレスの子機はDIにつけて、こっちの側に置いちゃってー。ひーちゃんときどき足下蹴っ飛ばしそうになってたもん」
「うっ! そうなんだよね……」
「モカ、あたしは自分の足下にペダル広げてていいでしょ?」
「うん。蘭は足下も結構操作するだろうからねー。掛けっぱなしにしたいものだけ考えといてね〜」
「音量とか確認してみるから、ひまりちゃんと巴ちゃん、準備できたら教えてね」
「は〜い!」
「おう! いやーどうなるんだろうな、アンプ無しライブ」
トモちんの最後の言葉にみんな不安そうなような、ワクワクしてるような。蘭はメラメラかな?
『アンプ無しライブ』、Quad Cortexとワイヤレスシステムをもらったあたしたちが見出した新しい可能性で……結弦子さんに支払う『代金』のアイデアだった。
最高のライブで返さなきゃだからね〜。
Quad Cortexを買って(もらって)から今日で1週間くらい。三が日も昨日で終わって、冬休みのおしまいが近付いてきてる。初ライブは14日だから、特に新曲はないとはいえ実はもうそんなに時間がなかったり。
オリジナル曲で使う音は年末年始にみんなで大体作れたから、コツを掴んできたあたしが不発のひーちゃんに代わって大号令。スタジオで実際に試すべく、初営業日のCiRCLEに朝から突撃することになった。
いつもミキサーで出力してて操作に慣れてるつぐが、Quad Cortexから伸びるケーブルを念入りに指差し確認した。
「つぐ〜、配線大丈夫〜?」
「うん、準備できたよ。まあケーブル繋いでラインレベル取るだけだから……」
さらっと言うつぐ。すっかり機械に強くなって……ほろり。
「よし、チューニングもオッケー。ひまりは?」
「ばっちり! いつでも行けるよー!」
「じゃあ、まずは巴ちゃんからお願い!」
「キックだけか? それとも適当に四つ打ちしとくか?」
「一旦キックで、ひまりちゃんの確認終わったら四つ打ちに来てもらっていい?」
「了解了解、っと……」
「……よし、じゃあひまりちゃんも!」
「おっけーい! 最近スラップも多いし、とりあえず指でやるね」
う〜ん、つぐがいつの間にかエンジニアの知識をツグり込んで来てる。
『アンプ無しでライブをしてみたい』って構想をまりなさんと、たまたま居合わせたいつものPAさんに伝えてみたらなんだかすごく好感触で、自分たちだけで音作りをしてみたいと無茶を言ってみたらそれも通っちゃったから、今ドラムにはライブ本番みたいにマイクが立てられている。バスドラに使う低音用のやつ、スネアに付けるクリップみたいなので固定されたやつ、シンバルとかハイハットとかをまとめて拾う左右セットのやつ。つぐが淀みなく配線してマイクチェックまでテキパキ済ませるのを見たときはツグり具合に戦慄したものよ。
スタジオで先輩さん──
……いつか、あたしたちだけでレコーディングやったりとか、できるようになるかなぁ。こう、凛として時雨みたいな?
「……うん、このくらいかな。それじゃあモカちゃん、やってみてもらっていい?」
「おっけ〜」
展望はともかく。
今度は音作り総監督あたしの手で、Quad Cortexに表示されたひーちゃんのエフェクトラインを弄っていく。今はAmpegのリグなんだけど、実際にスピーカーから音を出してみるとちょっとギラギラし過ぎな感があるかも。編集アプリからダウンロードしたMarkbassのBIG BANGのユーザーリグがひーちゃんのサウンドや全体的な曲調には良さげだったから、なるべく近いセッティングのままでちょ〜っと差し替えてみて……およ? これはなかなか〜……うん。
「ひーちゃん、どう〜? スッキリしすぎかなぁ」
「う〜ん……確かに、ちょっとスッキリしすぎかも……はっ!? もしかして!」
ひーちゃんが手元のトーンノブをほんのちょっぴり開いた。そしてこっちにちょこちょこやって来てDarkglassの方の歪みを少しだけ強めると、プリアンプの迫力ある歪みとモデリング元のソリッドステートらしいレスポンスの速さが良い具合に共存した。
「どうよ!」
「……悪くないじゃん」
「蘭の好きそうな感じだよね〜、こういう派手めなベース」
「えっへん!」
ひーちゃん渾身のドヤ顔、そしてすっかり手癖のロータリーをバチバチ。ちょっとドンシャリ気味でも生っぽい質感までは損なわず、それでいてタイトめなローがスネアやバスドラの迫力を担う部分を邪魔せず融和していて……う〜ん、エモいですなぁ。
つぐのキーボードも低域だけQuad Cortex内でベースアンプに入ってるし、これも合わされば曲の土台はがっちりどっしりと盤石だと思う。
「じゃ、次はあたし?」
「うん。ひまりちゃんと巴ちゃんはそのままで、蘭ちゃんは……一番使う音色でお願い!」
「わかった。あー……ひまり、巴。C#7、E7、F#7で」
「またPurple Hazeじゃん!」
「キー違うけどな。アドリブか?」
「うん。あたしもリフなぞる気ないし、適当にお願い」
「無茶振りすんなぁ」
ブルースロックの名曲、カウントもなくピッタリ頭を揃えて蘭がゆったりとコードを伸ばした。アレンジはお任せってことらしい。6弦はミュートして1・2弦は解放のまま、第五音を省いたコードフォームの平行移動で弾く手癖の響きが繊細な力加減で妖しく揺れる。
その下で、ひーちゃんがフレットに軽く叩きつけるような指弾きで裏拍多め、16分のシンコペーションで取っていく。『夜の踊り子』でも聴いたかな? 合わせてトモちんも表拍を外しつつグルーヴィに弾ませる。流石はダンス部トモちん、実はこういうR&Bとかダンス系のビート上手いよね。
さて、蘭の音に関しては事前に作り込んでるから微調整だけだ。アンプは元々MarshallのJCM800を使ってて、他のも試したけどやっぱりこの音に落ち着いた。手元フルアップで軽くクランチするようにして、そこから7くらいまで絞る。あたしとしては結弦子さんよりサンボマスターを思い出すかも。
更にそこへクリーンバイパスフィルターのついたVitamin Cファズで太さをプラス。前段にはStrawberry Red Overdriveで純粋なゲインブーストをして、後段にはMUSE。Shigemori特有のハイファイな音、弦のジャリンジャリンしたきらびやかさと歪みすぎないのに華やかな倍音の出方をする際立ったキャラクターをエッセンスに加えて、これで完成。ザクザクゴリゴリのパワーと分離感のある明瞭なコードでバッキングをする最強ギターボーカルのトーンだ。
これを邪魔しないように、あたしは曲ごとに違うリードトーンを作ってる。『Scarlet Sky』ならOrange系の音にファズフェイス系を噛ませてちょっと枯れたような味わいに。『ランブリングメモリー』ならデラリバとTS系にうっすらコーラスもかけたりする。『ツナグ、ソラモヨウ』なら裏でメロディをやるから、蘭みたいにビッグマフを軸、オーバードライブを後段に置いてマイルドにした音で馴染ませにいく。リバーブやディレイも曲に合わせて入れたり入れなかったり……まあ符点8分のディレイとか、Bメロの味変用にちょ〜っと仕込んではいるけど。
今回は、次のライブでやる予定だし『That Is How I Roll!』の音色にしようかな。Mesa/BoogieとSD-1とその他諸々で芳醇に歪ませたやつ。
最後はEQで、蘭の声の美味しいところ……大体800Hzと、3kHzあたり? そのあたりをギター側でちょっと空けてあげながらバランスを取れば、弦楽器隊は完璧だ。その上で人間の耳に聞こえない音域とかを調べてちょっと大胆に落としていくと適度な余白が生まれて、つぐのシンセがぐっと魅力的に生きてくる。
全員ひっくるめたトータルのリバーブはPAさんがやってくれるそうだし、そこは手付かずでいっか。つぐもそう判断をしたのかバランス調整を終わらせて、蘭がちょっと力任せなコードカッティングを始めたあたりでオルガンの音で参加していった。
あたしも混〜ざろ。新しい年、新しい機材、でもいつも通りなセッションだ。
「意外と違和感なくいけたな……なんていうか、普通?」
「そうー、だね? 私ももう少しこう、迫力とか落ちるかなーって思ってたけど」
ソロ回しに区切りがついてリバーブ音も消えた頃、スティックで肩をとんとん叩くトモちんの呟きにひーちゃんも追従した。あたしの感想もそんな感じ。スタジオに備え付けのアンプから背中に音圧を受ける感覚がないのは違和感といえば違和感だったけど、これはそのうち慣れちゃうと思うし。
「蘭はどう〜? 変なとこあった〜?」
「……アンプが鳴ってないのにスピーカーから完成した音が出てきたのが、まあヘンだったかな」
「あはは、わかる〜」
楽しいよなむず痒いようなでモニョモニョしてる蘭。以心伝心〜。
「でも、ピッキングの表現の出方とかみんなとの一体感はいつも以上だった気がする」
「あー、なんかわかるな。アタシいつも走りそうになるとひまりに寄せるんだけどさ、今回はみんながビシッとハマってたから気持ちよく叩いても走らなかったわ」
「いつもそうしてよ……」
「同じ機材通してるからかもね〜。いつもは、みーんな違う配線、違うアンプで出たものをバラバラで処理してるし」
「ピッキングのニュアンスの良さもモデリングアンプだからなのかも! 真空管だとニュアンス出すの苦労したじゃん? こう……なんかヌケて来ないっていうか」
「ベースもそうなのかわかんないけど、確かにJC使ってみたときよりMarshallのときの方が、ちょっと丸くなるなってた気がする。強く弾くとアタックのとこが余計な歪み方するし」
「ひーちゃんが今使ってたリグ、そもそもソリッドステートアンプのやつだけどね〜」
「えっそうなの!?」
ソリッドステートアンプ、よく音の立ち上がりが真空管より遅いって言われてるのを見かけるけど、あたしはこうしてモデリングに切り替えたってわかんなかった。ソリッドステートに方が立ち上がり速いって言ってる人もいるし、ものによるのかなぁ。とりあえずQuad Cortexに関しては立ち上がりが良いというか、弾き方に対してセンシティブに出る個体でモデリングしてるのかもしれない。
なんにせよ、みんなの呼吸の合い方が音にきちんと反映された感があった。
小さく頷いたつぐが「考えてみれば、だけどね」と前置きして言う。
「普段からお客さんに届いてる音ってこんな感じなんだよね。なんの違和感もなく普通に聞こえるってことは、それだけきちんとできてたって思っていいんじゃないかな?」
「つぐ、いいこと言う〜」
パチパチ。結構本気で称えると、つぐは嬉しそうに「ありがとう、モカちゃん」とはにかむ。たぶんたくさん勉強したんだろうな。つぐはもっと褒められた方がいい。
「音作りがしっかりしてたお陰だよ」
「そうそう。すげーじゃん!」
わかる。Quad Cortexの性能がすごく高いお陰で、出したい音を大体そのまんま出せてる。テクノロジーの進化って偉大だね〜、ほんとに。
「すごいよね〜?」
「おう、モカすげえよ! きっちり使いこなしてんじゃん! アタシもワンショットパッドとか足そうかなぁ」
「巴は余計なことしない方がいいよ」
「蘭は人のこと言えないだろ」
「あたしはあれこれ要らないだけ。……まあ、モカが頑張ってくれたおかげでこの構成のままやれたのは、そうだけど」
……あれ?
「……えへへー。モカちゃんはスマートな美少女だからね〜」
あたしじゃなくて、すごいのは機材なんだけどなぁ。
買い被りだって言ったら、悲しい顔するかな。
「結弦子さんとデートで奢ってもらった抹茶パフェや季節のフルーツタルト、やまぶきベーカリーとはまた違ったタイプの絶品クロワッサン、結弦子さんオススメのグリーンスムージー……それら全てのカロリーをひーちゃんに送ってるからね〜」
「やめてよ!? 昨日体重計見て悲しい思いしたからそのジョークはつらい!」
「機材だけじゃなくてご飯までか……結弦子さんにもお礼言わないとな」
「そうだねー。感謝感謝〜」
あたしのことは軽〜く流しておきたい。すごいのは蘭で、みんなで、あたしはそのすごさを引き出せるものを譲ってもらっただけだ。感謝されるのはあたしじゃない。
「……ほんと、礼言っとかないとな」
トモちんがちょっと表情を崩して一息吐くと、居住まいを直して「じゃ、改めて曲やるか!」とスティックを回して構え直す。
「ライブのセトリ、昨日ラインに載ってたやつでいいんだよな?」
「えっMeshuggahやるの!?」
「モカのジョークでしょそれは……」
「あはは……えーと、『That Is How I Roll!』、『Y.O.L.O!!!!!』、『Scarlet Sky』、アンコールで『天ノ弱』だね」
「じゃあ、順番にやってこっか。モカ、音の切り替え大丈夫?」
「だいじょ〜ぶい。音色をたくさん切り替えるのはあたしだけで、蘭とひーちゃんはQちゃんの設定全部一緒だしねー」
言いながら、それぞれ向かい合うように位置につく。譜面は頭の中。情熱は指の中。いつも通りは音の中。なんの気負いもいらない。……あ、でも足下は気をつけなくっちゃね〜。高い機材だし、ミキサーには有線で出してる。蹴っ飛ばしたら大変だ。
使ってないけどアンプの前。みんなの顔をぐるっと見回して、ひーちゃんがうずうずし始めた。
「じゃあ新年一発目の曲合わせっ、気合い入れてこー! えい、えい、おーっ!」
「……」
「……今年もこうなの!?」
「いやー、やっと今年始まった感じするな」
「あけおめーひーちゃん」
「ひどい!」
さてさて、いつも通りのやり取りも挟みまして。
──『アンプ無しライブ』まで、あと10日。
今日も『かっこいい』を追い掛ける。
美竹蘭
ワイヤレス使って『アンプ無しライブ』ってアリーナライブとかデカい演奏みたいでちょっとワクワクしてる
モカをすごいと思ってる
上原ひまり
正月太りしたけどめちゃくちゃベースの練習したからセーフ……スラップはカロリー使うし……!
モカをすごいと思ってる
羽沢つぐみ
PAさんに色々聞いたしツイッターで情報たくさん発信してるタイプのエンジニアさんのツイートとかいくつも照らし合わせて確認したしDTMもちょっと触ったりとにかくツグった
モカをすごいと思ってる
宇田川巴
今回のことで先輩に結構な出費を強いたみたいなので個人的にお礼の品を何か持っていく気でいる
モカをすごいと思ってる
青葉モカ
すごいのは機材とみんな
次回は章末恒例ライブ回です