ギター自作JK   作:水里露草

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 ライブ回で機材ネタないのでちょっと少なめです


結局ありがとうとごめんなさいを面と向かって言えるやつが一番えらい

 

 

 

 なんともありがたいことに、私にゃ友達が結構たくさんいる。とりあえずクラスのみんなはそうだし、他の同級生にもよく絡みにいくし、下級生だと香澄ちゃん──かすみんとかを通じてそれなりにいる。

 みんな優しいんだぜ。私の好きなバンドだのエフェクターだのの話をなんか嬉しそうに聞いてくれるし、わかんなかったらその場で軽く調べたりしてくれるし。今日のライブだって、聞いて回ったらみんなチケット買ってくれるとか、なんなら私が渡す前にもう買ってくれてたりとか。

 私は恵まれている。何もかも。

 でも世に曰く、禍福は糾える縄の如し。この幸せだっていつ逆さにぐるりんと行くかはわからんわけでさぁ。返せるうちに、できるだけ返しときたいよな。

 

 つっても、身を削って切り渡すわけじゃなく。

 恵んでもらったものを綺麗に整えて、あぁ、あげてよかったなって思ってくれるように。

 

「じゃ、本日はCiRCLEカバー曲deクリスマス会、ありがとうございましたー! これみんな知ってるかな? はるまきごはんさんの『銀河録』! いきまーす」

 

 ま、辛気臭い顔したってしゃーないし、いつも通りの私でいくがな! ガハハ!

 

 ──ただし、全力で。

 

 たった2音のシンプルなリフ。左手だけで軽く鳴らすそれを花音ちゃんの秒針めいたスティックの音に乗せながらフィードバックを起こす。迫る情景の奥から、私は静かに歌いだした。

 

 この曲は私にとって名前そのまま、銀河のイメージだ。渦巻く星、深い宇宙、夜明けの藍色。冬の硝子みたいな空の向こうから溢れるもの。流れる時間の向こう側に置いてきた美しい思い出、みたいな解釈してるけどどうなんだろうな。

 

 銀婚式のアンプと真鍮の筐体が支えるファズの鈴なりで紡ぐシンプルなコード。ローポジションのDadd9は誤魔化しが利かない。フルピッキングのニュアンス表現は紗夜ちゃんにたくさん教わった。アルペジオに等速と倍速のリバースディレイを掛けて散りばめながら、Xノブが特徴的な青いリバーブで水の中に沈める。

 遠くで誰かが動き始めたようなスネア、歪んだ夜のベースライン。情景をひとつひとつ噛みしめるような歌詞をその上に浮かべていく。

 

 まだ、まだ、まだ爆ぜない。チリチリと予感だけがはち切れそうな冬のステージ。ほの暗い青の照明を目に吸い込む最前列の子たちは固唾を飲んで待っている。

 

 足下はお気に入りのファズ。パワーサプライひとつでチューナーペダルまで賄えるシンプルな直列繋ぎのボードに私の全哲学がある。

 

 さぁサビだ──ハイゲイン!

 

 唸るチューブアンプ、手元フルのボリュームでも潰れず分離してハコを包む超新星爆発のディストーション。それでいて歌は少し柔らかくクリアに、ヘッドボイスで原キーをかっ飛ばしていく。遥か彼方までひた走ってしまいそうなそれらを千聖ちゃんの錨と花音ちゃんの地平が繋ぎ止めてくれる。

 宇宙に更なる肉薄、ブースターを踏み込んで点火する中低音リフ、ぴたりと息を揃えて止まるアンサンブルからハーモニクスで翔んで──照明が明るく切り替わった。

 

 みんなが見える。

 彩ちゃんバイト前なのに真ん中でもみくちゃにされてるし。紗夜ちゃんもRoseliaの練習あるって言ってたのに、燐子ちゃんと一緒に壁際にいる。あっちはトップバッターだったかすみんとおたえの応援かな、ポピパちゃんたちだ。彩ちゃん以外のパスパレは流石に上手く端の広めなとこに陣取ってんな。逆にハロハピの子たちは前の方で見てくれてる。

 嬉しいなぁ。

 嬉しい嬉しい。

 嬉しいから、もっとイイ感じに弾いちゃお。

 

 みんなの顔を見ながらありったけを返す。まともな残響は作れませんってメーカー側が断言してるイカれたディレイペダルと水みたいな揺らぎを作るシマー系ペダルで空間を埋めながら、私は一番と同じようなアルペジオにタッピングハーモニクスも混ぜていく。より幻想的に、煌びやかに、夢でも浴びるみたいに。

 

 今日の私は真っ白だ。ちょっと胸元のキツい何の変哲もないハイネックのTシャツ。裾をスキニーに仕舞い込んで、足下はバッシュ。膝まである自慢の髪も流石に結んでる。聞いた人が曲のイメージを投影するスクリーンになるためだ。他のふたりにもそう伝えて、白で統一してもらってる。

 大仰なモチーフはいらない。パンクさも派手さもいらない。大層なブランドもいらない。今日のバンド名だって頭文字から取ってYCKだし。

 音楽やってるんだ。それ以外は一旦、ぜーんぶ忘れてもらわねえとな。

 

 サビ前、再び爆発する星轟。20フレットまで昇天する高速シュレッドを更に上へとベンドさせて尾が棚引く。彗星を地表で見送るようにスライドで低音まで飛び降りて、その先で千聖ちゃんと目が合った。シンコペーションのフレーズがオクターブで揃った瞬間、うねりを上げるスネアロールの風でまた歌が舞う。千聖ちゃんの下ハモと花音ちゃんのファルセットでつつむ上ハモ、手を引かれるみたいに歌う。歌う。歌う。

 

 中空へ放り出されるCメロ。青いリバーブのSustainスイッチを踏み込んで背景をじわじわと塗り重ねつつ、歌だけは記録映像のループみたいに単調に。

 迫る。迫る。迫る。氾濫していく空間系を踵と爪先で踏み抜いて──飛び立て!

 

 最高のゲイン、ロケットの吹き散らすBmにタッピングのアフターバーナーで第三宇宙速度へ踏み込んで、ミックスボイスと共に離陸する。固くリズムキープしていたキックを満を辞して崩す迫真のドラムフィル、後押しされたオーバードライブベースの流麗なソロが後を追う。

 

 声が揃う。音楽だけがある。

 凍える空気の中で遠い夏を想う名曲の描く藍色だけが。

 

「あー……生きててよかったー」

 

 最後のギターソロ。未練を振り切るエンディングのフレーズを宇宙の風に流しながら、私は心から呟いていた。

 

「……ありがとう! YCKでした! 素敵なクリスマスになると良いな!」

 

 ボリュームをゼロにして手を振ると湧く湧く大歓声。ライブ大成功! SSランク! フルコンボ!(?)

 っぱライブだよな! スタジオ作業も楽しいけど現場が一番キまるわ!

 

 あっ忘れてた。

 紗夜ちゃ〜〜〜〜〜〜ん♡(満面の笑み)(両手ガン振り)(ぴょんぴょんジャンプ)

 ちゅ♡(両手投げキッス)

 すんげえヤな顔すんじゃん。今度会ったら抱き締めてぐるぐるしたろ。紗夜ちゃんには公衆の面前で愛を叫ぶくらいでちょうどいいと心の中の日菜ちゃんも言っています。

 じゃハケるか。ばいば〜〜〜い♡(視線固定)(両手でハート)(ウィンク連打)

 

「ふー……私が殺されたら遺品整理頼むわ。はーあっちぃ、んしょっ」

「じゃあやめなさいよ……ていうか何、その脇腹近くまで空いてるハイレグインナー」

 

 袖に戻って早々、頭ぽかぽか心臓ばくばくアドレナリンどっばどばで暑くなってきたからシャツ脱いでインナー姿になってんだけど、そんな私に呆れ顔してる千聖ちゃんが「あら?」とステージの方を向いた。

 

「……手拍子、されてるわね」

「されてるね……」

「されてんなぁ」

 

 …………?

 ………………あ。

 

「アンコール忘れてた! ごめんなさい!」

「ちょっと!?」

「ど、どうしよ……!」

 

 三人でほっぺたくっつきそうなくらい顔突き合わせて泡を食う。

 何やる? 『初めての恋が終わる時』、は部分転調あるから流石にぶっつけだと千聖ちゃんがしんどい。『unravel』、いや花音ちゃんがキツいか。私も今フェイザー持ってないから片手落ちになるし。『オリオンをなぞる』? 死ぬわ!

 ……そうだ!

 

「……整いました! 花音ちゃんBPM160くらいで四つ打ち、千聖ちゃんがDメジャーの王道進行始めたら8小節ループで!」

「な、何する気なの……!? いやでも仕方ないわねっ、花音! お願い!」

「う、うん……!」

 

 とりあえず何食わぬ顔でダブルピースしながら出ていくと想像の5000兆倍デカい歓声に迎えられちまった。死ぬんだぁ……!

 まったくもうほんとバカ! トリ務めんだしアンコールくらい考えとけや! はい!(自戒)

 ちょっと困った顔で出て来るも意外とメンタル強い花音ちゃんがスローンに腰掛けてすぐに四つ打ちを刻み始め、女優能力フル発動で涼しい顔しながら現れた千聖ちゃんがそこに八分を乗せていく。雑な指定だったけど、本当にそれだけやるんじゃなくてフレーズやリズムにちょっとアップテンポで爽やかなアレンジが入ってる。ナイス!

 Myriad Fuzzだけ踏み込んで簡単なペンタのリフ、なんかイイ感じにリズムのキメが入ってふたりの音が引いたところで即席のAメロ、コードストロークをしながら息を吸う。

 

 くらえっ、花咲川女子学園校歌ポップロックバージョン──!(ヤケクソ)

 

 

 

 

 

 なんとかなった。

 

「いやぁ、天才だな私ら」

「花女の子が多かったのが幸いしたわね……」

「手数的には一番楽だったのに、最後のが一番大変だったよ……」

 

 それなー、と溜め息付きで同意する。いやまあ、十割私のせいなんだが。

 ライブを無事に終えた私たちはというと、他の演者ともども後夜祭というかまりなちゃんからプレゼントがあるとかでCiRCLEに残っている。とはいえ何をする気にもならなくて、ロビーにあった横長の椅子に並んで座って疲労困憊でうだうだしていた。

 あ? 動画用のカメラ回ってる? 知らん知らん。好きに撮りな。

 

「うらぁー」

「ふえぇ……」

「ああもう……」

 

 隣の花音ちゃんによろよろーっともたれかかり、そのまま反対の千聖ちゃんまでドミノする。なんとか片腕を伸ばした千聖ちゃんに頭をぺちぺち叩かれるけど、花音ちゃんをふわふわ抱き締めながらのコレってさてはご褒美でしかないな?

 ちょっと姿勢を戻して左右から花音ちゃんを挟む形でうだうだしてると誰からともなく笑いが込み上げてきて、みんなでくすくす言い出した。

 

「疲れたけど、ちょー楽しかった!」

「うん! ゆづちゃん、誘ってくれてありがとう」

「にゃはは、こっちこそ急に呼んだのにありがとな!」

「……結弦子、ちょっとこっちに頭傾けなさい」

「んぁ? なにさ」

 

 花音ちゃんの髪に若干埋まりながら言われた通りにしてみると、ぽん、と手を置かれた。

 おや?

 

「……頑張ったわね。お疲れさま」

「……おう! お疲れさま! 一緒に出てくれてありがとう!」

 

 私からも頭を撫でようと手を伸ばすと顔を背けられた。なにさ! お構いなしに撫でる。逆の手で花音ちゃんも撫でようとしたら千聖ちゃんの手の上に着地した。同時に撫でてたんかい。

 

「あのー……いいんですか? まだカメラ……」

「いや、思いっ切り目の前で撮りながら言われましても……」

 

 千聖ちゃんは困ったように言うし、花音ちゃんもちょっと恥ずかしそうにしているが、ふたりとも特に逃げようとはしない。一応これネットに上がるんだよ? わかっとんのか?

 

 ……!

 

「つまりちさかのは私のハーレムってことでいいすか?」

「いいわけないでしょ」

「あぶっ」

 

 ふたりともすっといなくなって私だけ倒れ込んだ。あんまりだ!

 




 明石結弦子
 たのしかった!

 白鷺千聖
 後日アップされた動画を見たら結構ふたりとベタベタしててちょっと恥ずかしくなるも、まあいいかとスルー

 松原花音
 Sp○tifyでまったく知らない音楽を聞く頻度が急増する ハロハピともこのふたりとも、次やるときはもっと上手にやるために

 

 一区切り。ありがとうございました。
 あ、本編に入れるのは流石に無粋だと思ってできなかった結弦子のボードの話をします
 今回の足下はスイッチャーとかなしの直列 順に音作りの中核VemuramのMyriad Fuzz、ミディアムゲイン・オーバードライブのGalea、ブースターのBudiと来て、空間系としてBananana EffectsのAURORAとWalrus AudioのSloを入れている チューナーはペダルじゃなくてPlyTuneのクリップタイプにしてスペース削減、パワーサプライはボード裏に貼ってるStrymonのOjai R30
 ちなみにこれは趣味ボードなので仕事用だとMyriadだけ一緒、他はEffects BakeryのあんバターコッペドライブとかWalrusのDeep Six Compressorが入ってたり、空間系がOrangeのRockerverbについてるリバーブとStrymonのTimeLineになってたり 後日そういう話書きたいね
 
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