神滅《かみごろし》の三王の異世界進行録   作:不浄皇

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大変遅れて申し訳ありませんでした!
それではどうぞ!


第一章 深淵からの再誕
巻き込まれる者達


 

 透織サイド

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 4時間目の授業終了のチャイムが鳴り響き、昼休みの時間となった。それぞれのクラスメイトが購買に向かったり、数人で持参のお弁当を囲って談笑を始めている。

 

 

龍太郎

 「透織、一緒に食おうぜ!」

 

 「うん、ちょっと待ってて。カオちゃんからお弁当貰ってくるから」

 

光輝

 「わかった」

 

 今日は朝が少し慌ただしかったから、僕の分のお弁当はカオちゃんが預かっている。昼休みになったら渡される手筈だ。

 

 

 (えーと、カオちゃんは……あそこだな)

 

 昼休みの際、カオちゃんを捜すのは意外と簡単だ。何故なら彼女はこの時間になると一度、必ずある場所へと向かうからだ。

 

 

香織

 「ハジメ君、よかったら一緒にお昼にしない?」

 

 …いた。やっぱりハジメ君の席だ。珍しいことにいつもなら昼休みは教室からすぐに退避する彼だが、今日はまだ残っている。…まぁ、彼の表情は明らかに強張っているのを観るに、どうやら意図してではないようだ。

 因みに暁君は、その様子を『あ~あ』と言いたげに眺めながら、自分お手製であろうホットサンド(照り焼きっぽいチキンと野菜を挟んだボリューム満点の奴、しかも美味しそう)を食べている。

 

 

ハジメ

 「あぁ~、白崎さん?誘ってくれるのはありがたいんだけど、もう食べ終わったから天之河君達と食べてきたらどうかな?」

 

 引き吊った笑みでやんわりと断りながら彼がヒラヒラと見せたのは、『10秒でチャージ』でお馴染みのゼリー飲料の残骸だった。

 

香織

 「ええ、お昼それだけなの!?ダメだよちゃんと取らなきゃ!()()()()()食べて良いから!」

 

 そう言ってカオちゃんは、青い包みに入った弁当箱を手渡そうとする。

 

 

 

 ……て、ちょっと待って!?それって、僕のお弁当だよね?カオちゃんの分はピンクの包みだよね!?

 

 

 「…あの、カオちゃ…

 「透織!!」

 

 このままじゃお昼抜きにされると危惧した僕は、カオちゃんに声をかけようとするも、その前にシズちゃんに大声で呼び止められた。

 

 「…シズちゃん、何かな?」

 

 「あ、あの…よかったら私のお弁当食べない?今日はちょっと多目に作り過ぎたから、分けてあげられるわよ?」

 

 

 

 ざわわっ(What)!?

 ざわわわわっ(おおぉ~~)

 

 何故かほんのりと頬を赤らめ、大きめの弁当箱を手にしながら早口で提案するシズちゃん。

 

 「え、いいの?ありがとう、助かるよ!」

 

 

 

 ざわわわ(イエェス)っ!!

 ざわわわわ(ぐぬぬぬぬ)……!

 

 

 …さっきからなんか妙に周りが騒がしいな?しかも男子は今朝のハジメ君のような怨めし気な、女子は好奇と期待に満ちた視線でこっちを見てるし……まぁ、シズちゃんも嬉しそうだし、いいか。

 

 

香織

 「……よし!」

 

ハジメ

 「し、白崎さん?」

 

 …後、カオちゃんは何で自称新世界の神みたいなドヤ顔(夜神 〇の『計画通り…!』)で、小さくガッツポーズしてるの?ハジメ君、ちょっと引いてるよ?

 

 

 「…白崎、喜ぶのはまだ早いと思うぜ?」

 

香織

 「…えっ?」

 

 

龍太郎

 「おーい透織、どうした?」

 

光輝

 「香織は見つかっ……何故、南雲が透織の弁当を持っているんだ?」

 

 

 いつの間にかお昼を食べ終わった暁君が、今度は魔法瓶で持参したコーヒーを嗜みながらそう言うと同時に、その場に龍ちゃんと光ちゃんが合流。そして光ちゃんはハジメ君の机上の弁当箱(恐らくカオちゃんが置いた)を見つけると、険しい表情を浮かべ始める。

 

 …まずい、あれ絶対勘違いしているよ。

 

 

 「あの、光ちゃん?実は今日、シズちゃんが僕の分のお弁当を作って来てくれる約束をしてたんだよ。ね、シズちゃん?」

 

 「ふぇ!?…あ、え、ええ、そうそう!でも私うっかりその事を香織に伝え忘れててね、それなら余ったのを南雲君にあげようって話になったのよ。でしょ、香織!?」

 

香織

 「う、うん!だからハジメ君、遠慮せずに食べて良いからね!」

 

ハジメ

 「えっ!?あ、あの…」

 

 ざわわわわ(クソガァア)!!

 ざわわわわ(空気読めよ)…?

 

 戸惑うハジメ君に再びクラス全員から鋭い視線が向けられる……ゴメン、ハジメ君。君の現状は理解しているけど、暁君(ディフェンス)がいる分、まだそっちのほうがマシだと思うから…。

 

 

光輝

 「例えそうだとしても、せっかく香織が透織の為に作った手料理を、寝起きで味の良し悪しも判らない南雲が食べるなんて、俺が許さないよ?」

 

香織

 「いや、別に光輝君には関係無いよね?」

 「…後、たまに出るそのキザっぽい言い回し(セリフ)止めなよ……ワザとじゃないんだろうけど、ぶっちゃけキモいよ?」

 

光輝

 「なっ?!」

 

ハジメ・雫・龍太郎

 「ブフッ!?」

 

 「ブフォッ?!…ゲホッ、ゲホッ!…ひひ、ひひゃははは!」

 

 僕とカオちゃんの切り返しにその場全員が吹き出す。暁君に至っては飲んでいたコーヒーでむせながらも大爆笑していた。

 

 そして光ちゃんが羞恥心で顔を赤くしながら暁君を睨み付けたその時だった。

 

 

 

 (…えっ、何あれ?)

 

 

 突然光ちゃんの足元に、白銀に光り輝く円環と幾何学模様、所謂魔方陣が出現した。呆気にとられていた次の瞬間、それは輝きを増して一気に教室全体の床を満たす程に大きくなる。

 

晴彦

 「ぜ、全員、今すぐ教室から出ろ!早く!!」

 

 パニックになる中、七彩路君が叫ぶと同時に、爆発するように眩い光が教室を包み込んだ。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 どれだけ時間が経過したのだろうか?光が徐々にに収まったのを感じた僕はゆっくりと目を開き、そしてその光景に唖然とする。

 

 そこはさっきまで僕らがいた学校の教室ではなく、大理石のような素材で出来た床と柱、壁には後光を背負った金の長髪をした中性的な顔立ちの人物が絵描かれた壁画にドーム状の天井をした、テレビとかでしか見たことがない外国の宮殿や教会の大聖堂みたいな建築物の広間だった。

 

 

香織

 「ルーくん、大丈夫!?」

 

 辺りを見回していると、不意にカオちゃんに呼び掛けられる。声の方を向くと彼女だけでなく、光ちゃん達もいた。

 

 

 

 「な、なんじゃこりゃぁあ!?」

 

ハジメ

 「…暁君、こんな状況でネタに走らなくていいから」

 「いや、ネタじゃねぇよ!!」

 

晴彦

 「…これは、一体…?」

 

信良

 「?、!?、?!」Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) 

 

 

 いや、どうやらあの時、教室にいた全員が巻き込まれているようだ。

 そして今まで気付かなかったが、僕らがいたのは広間の最奥にある台座で、その周りには法衣らしき物を纏った30人程の集団が祈るような体勢で跪いていた。

 やがてその中から二人の男女が前に出る。

 女性は若く、顔立ちからしておそらく僕らと同等か少し年上だろう。晴天みたいに透き通った青い瞳に、稲穂のような金色の腰位まである綺麗な長髪で、凛々しさと愛らしさを合わせた整った容姿をしている。集団と同じような法衣を身に着けているが、その上からでも分かる程の抜群のプロポーションを誇っており、神聖な雰囲気を纏うその姿は、正に”聖女様”といった風貌だ。

 もう一人の男性は、法衣集団の中でも一層豪華な装飾の法衣に、こちらも豪華な細工が施された烏帽子を被った、明らかに只者では無さそうなお爺さんだ。年齢は70代位だが、纏う覇気が強すぎる為か、顔の皺と老熟した目が無ければもっと若く見えそうだ。

 

 

???

 「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 あの後、僕らは長テーブルが置かれた別の広間に案内され、そこで先程の集団の長であるお爺さん、聖教教会教皇『イシュタル ランゴバルト』と名乗る人物から説明を受け、それを要約すると以下通りになる。

 

 まず現在僕達がいるのは“トータス”と呼ばれる、もといた場所、つまり地球とは別の世界だそうだ。

 そしてこの世界では、北一帯を僕らとほぼ特徴が変わらない“人間族”、南一帯を“魔人族”が支配しおり、両種族は対立して、何百年も戦争を続けている。とはいえ、個々の能力では魔人族、数では人間族が勝っている為、ここ数十年は戦力が拮抗し、大規模な争いは起きていない。

 だが最近、魔人族が“魔物”と呼ばれる、強力な力を使える怪物を多数使役することに成功。これにより人間族は数のアドバンテージを失い、今まさに危機的状況に陥っているそうだ。

 

 

イシュタル

 「そこで我ら聖教教会が崇める人間族の守護神にして、世界の創造主たる『エヒト』様は、その運命を回避するべく、あなた方をこちらへ喚び寄せたのです。“神託”によればこの世界(トータス)よりも上位の世界の人間であるあなた方は、こちらの人間よりも優れた力を有しているのです」

 

 (……『エヒト』。聞いたこと無いな)

 

 そう考えているとイシュタルさんは、神託を聞いた時の事を思い出したのか、どこか恍惚とした表情を浮かべて言葉を続けた。

 

 

イシュタル

 「あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 (……間違いなく狂信者(危ない人)だ、この人)

 

 …というか、“神”か何か知らないけど、何故そんな得体の知れない存在の言葉を疑うどころか嬉々として従うのだろう?あまりにも歪過ぎるよこの世界…。

 

 

愛子

 「ふざけないでください!結局この子達に戦争させようってことでしょう!?あなた達していることはただの誘拐です!早く私達を帰してください!」

 

 

 突然立ち上がり猛抗議し出したのは、4時間目の授業担当で、そのまま教室に残って生徒と談笑していた結果、巻き込まれてしまった社会科担当教師、“愛ちゃん”こと、『畑山 愛子(はたやま あいこ)』先生だ。常に生徒の事を第一に思い、一生懸命に頑張ってくれてはいるものの、残念なことに大抵は空回りしてしまっている。加えて彼女は今年25歳になるのだが、ボブカットの髪型に140cm位の低身長で童顔という外見で、一見だと下手すれば小学生にしか見えない。

 そんな見た目と性質が庇護欲を掻き立てるためか、生徒達からは非常に慕われており、現に先程の理不尽な召還理由にぷりぷりと怒りながらイシュタルさんに食ってかかる彼女を、生徒全員がほんわかしながら眺めていた。

 

 

イシュタル

 「…お気持ちはお察しします。しかし、あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 

 ………………………

 

 

 だが、そんな空気も次のイシュタルさんの言葉で霧散した。一瞬で周囲の空気が凍りつき、先程まで騒いでいた先生までもが何も言えずに固まっている。

 そんな中、七彩路君だけが冷静に問い質す。

 

 

晴彦

 「失礼ながらイシュタル殿。それはどういうことか、詳しくお聞かせ願えますか?」

 

イシュタル

 「先程も申し上げましたが、あなた方を召還したのはエヒト様です。我々があの場にいたのは、単にあなた方の出迎えと、エヒト様への祈りを捧げる為です。人間の我々に、異世界へ干渉する術はありません」

 

晴彦

 「…成る程。つまり、あなた達では我々を元の世界に帰すことは不可能で、仮にそれが出来るとすれば、召還した張本人であるエヒト神のみ、ということですか?」

 

イシュタル

 「その通り、全てはエヒト様の御意志次第、ということですな」

 

 そんなイシュタルさんの返答に、生徒全員が事態を把握した。

 

 

 「ウソだろ、帰れないってなんだよ!?」

 「いやよ!何でもいいから帰してよ!!」

 「戦争なんて冗談じゃねぇ、ふざけんな!」

 「なんで、なんで、なんで……」

 

 案の定みんなパニックになって騒ぎ始める。

 当然だ。こんなのさっき愛ちゃん先生が言ってた通り誘拐と大して変わらない。しかも、まだ確証が無いとはいえ異世界にだ。冷静でいられる訳が無い。

 現に龍ちゃんは未だに放心状態だし、カオちゃんはショックで顔を青くしながら口元を手で押さえているし、シズちゃんはそんな彼女を宥めているものの、本人も相当動揺しているのか、微かに手が震えていた。

 

 

 「……ふざけやがって!」

ハジメ

 「ちょ、暁君?!ストップ、ストップ!」

 

 更に長テーブルの最後方では、暁君が鬼の様な形相でイシュタルさん達を睨み付けていた。今はハジメ君が必死で抑えてはいるが、あれだと何時向かって行ってもおかしくない。

 その様子を、イシュタルさんは特に何も言わず、静かに眺めていた。だが、何となくその瞳の奥に侮蔑の感情が込められている気がする。一方、その傍らに控えている先程の女性は、暁君を警戒するように鋭い視線を向けていた。

 このままでは不味いと思った僕は、どうするべきか考えていると、あることに気が付く。

 

 

 (そういえば光ちゃん、さっきからずっと黙っているけど、どうしたんだろう?)

 

 …何故だろう?()()()()()()()がした僕は、彼が座る席の方を向いた直後…

 

 

 

   バァン!

 

 突然、光ちゃんが立ち上がりながらテーブルを両手で思い切り叩く。そしてその音で生徒全員が鎮まり、自身に注目が集まったのを確認すると、おもむろに話し出した。

 

 

光輝

 「…皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味が無い。彼にだってどうしようもないんだ」

 

 …確かに彼の通りだ。今不平不満を言っても状況が好転しない。それどころか、より悪化する可能性もある。

 

 

 (…よかった。思っていたよりも光ちゃんが冷静で助かったよ。)

 

 

 

 

 

 ……なんて安堵していた僕は、次の光ちゃんの言葉で、それは大きな間違いだったと思い知らされた。

 

 

 

光輝

 「……俺は戦おうと思う」

 

 

 (…えっ?)

 

 ざわわっ(ファッ)?!!

 

 一瞬、その場全員が思考停止に陥るも、先に復帰したシズちゃんが直ぐさま光ちゃんに詰め寄る。

 

 「ちょ、待ちなさい光輝!何言ってるの!?」

 

光輝

 「雫、この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それに、魔人族が彼らにどれだけ酷い仕打ちをしてきたか聞いてただろう。それを知って、放っておくなんて俺には出来ない!」

 

 (っ!?……しまった!)

 

 その言葉に、僕は今更ながら気が付く。

 先程の事情説明の際、途中からイシュタルさんがやけに魔人族が人間族に働いた残虐非道を強調するように話していた。おそらく彼は召還の間から僕らをずっと観察して、一番影響力があるのが光ちゃんだと見抜き、正義感の強い彼を戦争に参加させるよう誘導したんだ。

 

 

光輝

 「それに、人間を救う為に召還されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん、どうですか?」

 

イシュタル

 「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

光輝

 「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように、俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 握り拳を作り、無駄にキメ顔でそう宣言する光ちゃん。それに唖然としていると、今度は龍ちゃんが不敵な笑みを浮かべながら立ち上がった。

 

 

龍太郎

 「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺もやるぜ?」

 

光輝

 「龍太郎……」

 

龍太郎

 「それによ?何かここに来てから妙に力が漲っている感じがしてんだ。…皆もそうじゃねぇか?」

 

 ざわ()っ!?

 

 龍ちゃんの言葉に、生徒全員が『言われてみれば確かに』といった表情になる。…そういえば、今気付いたけど、僕も何故か身体が何時もよりも軽い気がする。

 

 

龍太郎

 「だったら皆。光輝に任せっ切りじゃなくて、俺達もやってやろうぜ!この全員なら、何があろうと乗り越えられんだろ!違うか?」

 

 ざわわわぁ(おぉ~~)

 

 「龍太郎!?」

 

 「あのド阿呆共がぁ!?本気(マジ)合挽きミンチに(まとめてド突き回)したろか!?」

 

ハジメ

 「だぁかぁらぁ、落ち着けって!?ほら、一旦深呼吸して暁君!ヒッ、ヒッ、フゥ~!」

 

 ……うんハジメ君、君も落ち着こうか?…それ、出産の呼吸(ラマーズ法)だよ?

 

 

 ………じゃなくて!?

 

 

 「ちょちょちょ、ちょっと待って光ちゃん!?勝手に一人で決めないでよ!」

 

光輝

 「な、何を言っているんだ透織?まさか、彼らをこのまま見捨てるつもりか!?」

 

 (見捨てるも何も、それはこの世界の人達の問題であって、僕達には一切関係無いよね!?それなのに、『自分達の為に戦ってくれ。でなければ家には帰さないぞ?』なんて、横暴にも程があるよ!)

 

 …と、正直に言いたいところだが、それでは光ちゃんは反発するだけで、こっちの言葉に耳を傾けないだろう。

 

 

 「…いや、そうじゃなくて!いくら何でも急過ぎるって言いたいんだよ!」

 

 「透織の言う通りよ!龍太郎も勇み足になって突っ走らないでちょうだい!」

 

 

 さっきの二人の言葉で、殆どの生徒が希望を見出だし、冷静さと活気を取り戻し始めてはいるのは確かだ。だけどそれは一種の現実逃避に過ぎず、恐らく誰も(光ちゃんと龍ちゃんも含め)今どういう状況か理解していないだろう。にも拘らず、戦争に参加しようとしているのだ。

 …それだけは何としても阻止しないといけない。此処は何とか光ちゃんを説得して、一旦答えを保留にした後、空いた時間でどうするか考えよう。

 

 

 

 …だがそんな僕の思惑は、意外な人物によって打ち砕かれる事になる。

 

 

晴彦

 「イシュタル殿。幾つかお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

 さっきの僕の発言で場に静寂がになるなか、此処で先程まで黙って状況を観察していた七彩路君が、挙手しながら口を開いた。

 

 

イシュタル

 「構いませんよ……え~と?」

 

晴彦

 「あぁ、これは失礼。自己紹介がまだでしたね?七彩路 晴彦と申します。クラス委員長…まぁ、この集団(クラス)の代表者みたいなものです。以後、お見知りおきを…」

 

 ざわわ(おぉ~)~!

 

 そう言って洗礼された動作でお辞儀をする七彩路君。その堂々として様になった姿に、生徒全員が感銘の声をあげていた。…もっとも、本来生徒達を率いる立場である教師の愛ちゃん先生は、立つ瀬が無いのか若干涙目になっていた。

 

 

イシュタル

 「…ええ、コチラこそ……それで、聞きたい事とは何でしょうか?」

 

晴彦

 「先程、我々は優れた力を持っていると申していましたが、元々私たちは戦争とは無縁の社会環境で生きて来た身なのです。一応武術を習得している者も何人かはいますが、あくまでも嗜み程度で、実戦では通用するとは思えませんよ?」

 

イシュタル

 「ふむ…つまり、『力があっても、扱えなければ意味が無い』と言いたいのでしょうか?成る程、もっともな懸念ですな……しかし、それに関しては心配ご無用ですぞ」

 

 曰く、現在僕らがいるのは正教教会本山で、『神山』と呼ばれる高山の頂上にある。そしてその麓には教会と密接な関係にある『ハイリヒ王国』という国があり、そこでまずは座学と戦闘訓練を受けてもらう手筈になっているらしい。

 

 

晴彦

 「…その言い方だと、他にも人間族の国や領地があるんですね?そこからも協力や助力を得ることは…?」

 

イシュタル

 「もちろん可能です。先程も申しましたが、エヒト様は我々、人間族の守護神。故に人間族の殆どが、正教教会の信徒と言っても過言ではありません」

 

 …つまり、人間族の支配領域のほぼ全てに、正教教会が浸透しているってことか……どうやら想像以上に巨大な組織のようだ。

 

イシュタル

 「…晴彦殿?他にご質問があるようでしたら、遠慮無く申して構いませんよ?」

 

晴彦

 「…では、最後に一つだけ……今回の様な事例、異世界召還は過去に行われたことは有りますか?」

 

 その問いに、イシュタルさんは記憶を探る様に目を瞑り、しばらく考え込む。

 

 

イシュタル

 「……いいえ、私が知る限り、トータスの有史以来、初めてですな。恐らくエヒト様は、このままでは我々人間族は遠くない未来滅亡すると悟ったのでしょう。そして、それを阻止する為に、貴方達が選ばれたのです」

 

 

 そう言ってイシュタルさんは、視線を一瞬光ちゃんに向ける。

 

光輝

 「………!」

 

 「………はぁ~」

 (…あぁ、ダメだこりゃ…)

 

 案の定光ちゃんは、改めて確固たる決意に満ちた表情を浮かべていた。長年の経験からして、こうなると彼は何を言っても決して自分の意見を曲げないだろう。

 

 

イシュタル

 「…それで晴彦殿?貴方はどうお考えなのか、お聞かせ願えますか?」

 

 光ちゃんの反応に満足したイシュタルさんは、再び七彩路君に視線を戻しながら答えを催促する。

 

 

晴彦

 「…そうですね。こちらが提示する“条件”を二つほどのんで頂けるのであれば、その話をお請けしても構いません」

 

 ざわっ(はい)

 

 七彩路君の発言に、その場全員が疑問符を浮かべる。…いや、約二名(無償で承諾しないことに不服な光ちゃんと、戦争自体反対な愛ちゃん先生)は何か言いたそうにしていたが、本人は黙って視線を向けて牽制するだけに留めた。

 

イシュタル

 「条件ですか…どのような内容ですかな?」

 

晴彦

 「まず1つ目は、『戦争における全ての行動に対する我々の人権の尊重』……まぁ、簡単に言えば、『捨て駒や無謀と思われる作戦の強要、無理矢理戦わせるようなマネは決してしない』ことを確約していただきたい」

 

 …ざわ(はいぃ)っ?!

 

 その言葉に、生徒のほぼ全員がギョッとなる……たぶん、その危険性を考えて無かったのだろう。 

 

 

光輝

 「おい七彩路!イシュタルさん達がそんな事するわけ無いだろ!?」

 

晴彦

 「…あのな、天之川?さっき聞いた話ではこの戦争、彼らの存亡が掛かっているんだろ?だったら、『()()()()()使()()()()絶対に負けられない』って考えるのが自然じゃないのか?」

 

光輝

 「そ、それは…!」

 

 七彩路君のもっともな指摘に、それでも光ちゃんが喰って掛かろうとすると、今度はカオちゃんが口を開く。

 

香織

 「…七彩路君の言う通りだよ。それに、此処に居るイシュタルさん達にその気が無くても、他の人に関しては判らないでしょ?」

 

光輝

 「うっ!?」

 

 カオちゃんの意見に、思わずと言った感じで押し黙る光ちゃん。生徒達も再び不穏な空気に包まれる。

 

 

イシュタル

 「…フム、確かに我々の現状を鑑みれば、その様な凶行を行う輩は一切居ないとは言い切れませんな。…分かりました。私、正教教会教皇イシュタル ランゴバルトの名において、アナタ方の身の安全を保証致しましょう」

 

 ざわわわわぁ(おぉおおお)~!!

 

 だがそれも、穏やかに笑ってそう宣言するイシュタルさんによって一瞬で払拭、歓声が沸き上がる。

 …確かに世界最大級の宗教のトップがそう言ってくれれば、大変心強いだろう。

 

 …もっとも逆に言えば、僕達の命運は彼が握っているとも言えるけど…。

 

 

晴彦

 「…感謝致します、イシュタル殿」

 

イシュタル

 「これぐらいなら構いませんよ。それで、2つ目の条件は?」

 

晴彦

 「2つ目は、戦後の報酬……いや、どちらかと言えば、保険についてですね」

 

イシュタル

 「っ?保険とは?」

 

 イシュタルさんを含め全員が疑問符を浮かべているなか、七彩路君が説明し出す。

 

晴彦

 「イシュタル殿。アナタはさっき、過去に異世界召還が行われたことは無いと仰っていましたよね?それはつまり、エヒト神は今回初めてそれを試みたことになります」

 

イシュタル

 「…フム、それがどうかしましたか?」

 

晴彦

 「先程、天之河が立てた仮説通り、人間族の救済を成し遂げれば、エヒト神が元の世界に帰還させてくれるのなら何の問題ありません……ですが、“初めての試み”とは不測の事態が付き物です。()()()ってこともあり得ます」

 

 …要するに、『目的を果たしても、元の世界に帰れない可能性もあり得る』ってことだ。生徒達に再び緊張が走るも、“万が一”という部分のお陰で、そこまで重くは観ていないだろう。

 

晴彦

 「もしそうなれば、自分達で元の世界に帰還する術を模索することになります……もちろん、容易な事ではないのは承知しています。なので…」

 

 そこまで聞いてイシュタルさんは、“保険”の意図を察したのか、顔を綻ばせる。

 

イシュタル

 「…ああ、成る程。そうなった際は、我々に全面的な援助と協力を要請したいということですかな?」

 

晴彦

 「その通りです。ついでに帰還するまでの間、最低限で良いので我々の衣食住も保証して頂きたいのですが、どうでしょうか?」

 

イシュタル

 「もちろん構いませんとも!…まぁ最悪、戻れなくても安心してください。その際は全員、教会が手厚く保護しますので」

 

 ざわ(ちょ)っ!?

 

イシュタル

 「…おっと、これは不謹慎でしたかな?ホッホッホッホッ」

 

 茶目っ気に笑うイシュタルさんに釣られてか生徒達も、『勘弁してくださいよ~』と言いた気に苦笑する……もう完全に彼に心を許しているようだ。

 

 

晴彦

 「…なら、私に異論はありません。その話、お請け致します。天之河、問題無いだろ?」

 

光輝

 「あ、ああ。みんな!俺達なら必ず、この世界(トータス)を救い、元の世界(地球)へ戻れる。だから頑張ろう!」

 

 おぉおおお~!!

 

 …結局、光ちゃんと七彩路君の戦争への参加声明を皮切りに、他の生徒も次々と同意していった。愛ちゃん先生が涙目になって止めようとしているが、まったく効果は無い。

 

 

イシュタル

 「しかし、晴彦殿。その若さで大したものですなぁ。私、貴方の事を気に入りましたぞ?」

 

晴彦

 「…光栄です。イシュタル殿こそ、流石は教会のトップなだけあります。せっかくの機会なので、色々と学ばせてもらいますよ」

 

イシュタル

 「お手柔らかに頼みますよ?ホッホッホッホッ…」

 

晴彦

 「ははははは…」

 

 そんななか、七彩路君とイシュタルさんの二人は、お互いに称賛し合いながら笑っていた……何か両者の間からバチバチと火花が散っている幻影が見えるけど……。

 

 

透織・雫

 「……はぁ~」

 

 そしてその様子を眺めながら、僕とシズちゃんは疲れ切った表情で、揃ってタメ息を吐いた。ハジメ君と暁君、カオちゃんの三人から同情するような哀れみの視線が向けられてくるのも、それが余計に辛い。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 その後、僕達は受け入れ先のハイリヒ王国に向かって移動を始める。

 その道中僕は、制服の内側のポケットにあるピルケースに触れながら、今後の事を考えていた。

 

 (…ピルケースにあるのは一週間分。医者の話では、『なるべく一日一錠、最低でも二日に一回服用してくれ』と言っていた。つまりリミットは大体二週間って事か)

 

 幸い、ファンタジー小説みたいなこの世界なら、()()の代用品も探せば見つかるだろう。

 

 

 …いや、それどころか、もしかすれば……?

 

 

香織

 「…ルーくん、どうしたの?」

 

 「…何でもないよ……ねぇ、カオちゃん」

 

香織

 「っ?…何かな?」

 

 ……いや、確かに()()()()()も探せばあるかもしれないけど、今はそんな余裕は無いだろう。

 

 

 とにかく、今やるべき事は…

 

 

 「必ず、家に……父さんと母さんの元に帰ろう」

 

香織

 「……うん、“みんな”でね」

 

 そう決意して、僕達は歩みを進めていった。

 




以上になります。
今回、昼休みからトータス召還までだと短く感じたので、そのまま会談場面まで書かせてもらいました。
そこへチマチマと色々付け足していった結果、いつの間にか一万字超え……言い訳みたいですみません。
それではまた!



P.S.
ハジメのヒロイン事情について、またアンケートを取らせてもらいます。
後、透織の入院期間を半年から3ヶ月に変更します

ハジメのヒロインについて(ハーレムは確定)

  • 原作通り(某吸血姫様がメイン)
  • 香織がメイン(吸血姫様が挑戦者)
  • 両方(香織と吸血姫)いってまえ!
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