「僕三票ーーー!!!?」
「なんでデクに…!!誰が…!!」
「まーおめぇに入るよかわかるけどな!」
あ、あれ…?おかしいな、緑谷…?お前って委員長だったっけ?あれ?原作…あれ?
朝からオールマイトオールマイトと鳴くマスコミを適当にあしらい、教室へ。そしてホームルームで相澤先生から学級委員長を決めてもらうとの指示が下され、俺が私がと騒ぎ出す皆を飯田が静止。投票にて決めるべきとの流れになり、現在。緑谷三票、八百万二票それぞれ獲得していた。ちなみに飯田は一票。
「さすがに聖職といったところか…!!俺に投票してくれた誰か、すまない…!!」
そ、その一票は俺のなんだが、お前なんで…え?
おかしい。俺の記憶では委員長は飯田だったはずだ。俺は委員長をやるつもりはなかったし、飯田が委員長になると原作で知っていたので飯田に投票した。結果が分かりきった投票だぜと思っていたらあら不思議、緑谷が委員長で八百万が副になっているではないか。八百万に関しては原作通りだから驚きはないが。
「うーん悔しい…」
「ママママジでマジでか…!」
俺も緑谷と同じ反応なんだが…原作が変わった?やっぱり俺という原作外の存在がいるのは蝶の羽ばたきよりも影響が強かったか?いや待て、最初から飯田が委員長だったか?何かしらワンクッションあった気がしないでもない、が…あー思い出せない!なんか、なんかあったような!
俺はヒロアカが大好きだ。しかし物語の全てを覚えているわけではない。大きな出来事や俺の好きなシーンはおそらく全て覚えているだろうが、それ以外は割とあやふやだ。戦闘訓練の時も緑谷と爆豪が戦うってこと以外はほぼほぼ覚えていなかったし…やはり何か忘れているという線が濃厚か?
そんな疑問も、昼食時に鳴った警報で解消。あっこれかぁ!
「委員長はやっぱり飯田くんが良いと…思います!」
「委員長の使命ならば仕方あるまい!!」
「私の立場は…」
パニックを起こし避難する生徒たちを飯田が収め、その行動を見て緑谷が委員長の座を飯田に譲る。そうそうこんな展開だった!非常口飯田を見てみたかったぜ。警報鳴った時はトイレにいたからどうすることもできなかった俺です。八百万が若干不憫だが、もうそういう空気になっちゃってるからなぁ。ドンマイヤオモモ。
そして、ここから本格的に始まるのだ。
死柄木の、
…USJ事件が迫ってる。原作知識の確認は怠らないようにしよう。忘れているであろう細かい部分も考慮に入れながら。
※
細かいところは覚えていないが、大体の流れは分かってる。
まず黒霧がヴィランたちを転送。それを相手にするために相澤先生が単独で突っ込む。その後黒霧が生徒たちを逃がさないように退路を断ち、皆をUSJ内にランダムに転送。ここで確か…13号先生がやられるんだったな。
唯一飯田が脱出に成功し、オールマイトや他プロヒーローたちに救援を要請。オールマイトが到着してゲームセット…だったはずだ。
そして問題なのは、オールマイトが来るまでの時間。相澤先生が脳無と死柄木を相手にし、瀕死の状態に追い込まれる。そう、そこが怖いんだ。
俺がこの世界に来て、最も大きく感じた不安。俺がいることによって、または俺が変えることによって原作が崩壊し、主要人物がぽっくり死んでしまうのではないか。ヒロアカに限らず、こういう作品は誰かの窮地を救うために「あと数秒遅ければ死んでいた」みたいな状況が多い。その数秒の差が、
そういう考えがあったから、俺は原作知識を使うことに躊躇いがあった。ただでさえ俺という異物が紛れ込んでしまっているんだ、歴史の修正力とかいうあやふやなものに期待もできなかった。
バルファルクの力が使えるようになってからは正直テンションで雄英入学を決めたし、原作介入の件も「まあなんとかなるだろ」と軽く考えていた。
今も多分、俺の中でそういう甘えがある。オールマイトもまだ戦える状態だから大丈夫だろうという考えが、数秒の差なんて軽く乗り越えてくれるだろうという身勝手な期待が。
ただ、俺にはやらなければならないことが明確にある。それは尾白の代わり。
俺が雄英ヒーロー科に来ても、クラスの人数は20人から変わらなかった。つまり原作から弾き出された、俺が弾いてしまった者がいる。それが尾白だ。あの尻尾のふさふさを触ってみたかった。
尾白がいないことによって生じる出来事は俺が自分で尻拭いしなければならない、んだが、困ったことに今回のUSJ事件での尾白がどう動いていたかをさっぱり覚えていない。どこで何してたんだっけあいつ?
「…」
「…あ、すまん口田、どうした?」
「…」
「酔い止め?ああいや、酔ってる訳じゃないんだ。ありがとな」
これから
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」
ああっ、かっちゃんがいじられる会話だ!ちくしょう前半部分聞き逃した!!
※
「ふーーーー…」
細く長く、深呼吸をする。今、スペースヒーロー13号先生が個性の持つ危うさ、それを扱うための心得を語っている。ごめん13号、話が半分も入ってこない。
これから数多くの困難が、危機がこのA組を襲う。その序章がこれから始まってしまうと思うとどうしても緊張する。
ヘドロ事件、ワン・フォー・オールの継承、心操の普通科入学からA組委員長決め、爆豪のスタートライン。大なり小なり差はあれど、原作から大きくずれた展開にはなっていない。少なくとも、今はまだ。
だからできれば来ないでほしいなと願う傍ら、原作通りに進んで原作通りに終わるならかかって来いやちくしょうという考えも抱いて。
広場に現れたワープゲートを見た俺は、何が起こってもいいようにさっさと個性を待機状態にした。
「一かたまりになって動くな!13号、生徒を守れ!!」
広場にいる多数の
「すごい…!多対一こそ先生の得意分野だったんだ」
「分析してる場合じゃない!早く避難を!!」
「させませんよ」
「くそ」
俺はどうしたらいい。俺がいることによって相澤先生が死ぬ可能性は本当にあるのか?原作と違う展開になるのか?俺はまだ何もしてない、今はまだ何もするべきではないんじゃ…
「初めまして、我々は
連合の目的も原作から変更なし、そしてみんながいるこっち側に黒霧が現れたのはランダム転送のため…!なら俺は黒霧を抑えるか!?しかし抑えるっつっても40秒が限度な上、13号先生の邪魔をしてしまう。
だめだ、思考がまとまらない。俺が何をすべきかが分からない。
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが。何か変更あったのでしょうか?まあ…それとは関係なく…私の役目はこれ」
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
「危ない危ない…そう…生徒といえど優秀な金の卵」
「ダメだ、どきなさい二人とも!」
俺が何もできず棒立ちしているのとは違って爆豪と切島が黒霧相手に攻撃を仕掛けるが、この段階ではまだあいつらには黒霧攻略の情報が足りていないから撃破は無理だ。しかし13号もここで黒霧相手にやられるはず、だったら爆豪たちよりも先に俺が行くべきだったか?
「散らして、嬲り殺す!」
頭ばかりが働いて、体はてんで動かず。
原作知識というものを持っていながら俺は何もできず、黒霧によって転送された。
その先は火災ゾーン。
「くそったれが!」
転送先は当然のようにチンピラ共に囲まれた状態で、ぱっと見20人いないくらいの数。皮肉ながら、俺は原作にあまり影響しない場面に転送されたことによって思考に余裕が生まれていた。さっきの情けない自分を客観視できるくらいには。
何なんだ、あの醜態は。
「ガキ1人だけかよ黒霧さん!もっと殺したかったぜ!」
「思いっきり個性使えりゃ何でもいい!悪く思うなよガキ」
このUSJ事件において、メインとなるのは広場だ。あそこ以外はそう大した出来事は起きていないはず。起きていても覚えていない。
だから、ここなら原作を考えず思いっきりやれる訳だ。
「二回も使う必要は無え。一回で終わらせて、早く広場に!」
「死ねガキ…ッ!?」
クソモブがバルファルクに勝てると思うなよ。
※
「はぁ、ふぅ。こんなもんか」
所詮は寄せ集めのチンピラ、厄介な個性は誰も持っていなかった。むしろ厄介なのはこの場所だ。そこら中で火災が発生している状況が作られているから暑くてたまらない。スタミナの回復には全く向かない、さっさと移動しよう。
スタミナを温存しながら小走りで広場に向かう。まずは広場だ、それは間違いない。他の奴らが心配っちゃ心配だが、一番心配なのは死柄木と脳無の相手をする相澤先生だ。飯田はもう脱出できているだろうか?救援を要請できなければ詰みかもしれない今、俺は広場に必要か?飯田の援護に行くべきか?俺のバルファルクは、脳無や死柄木に勝てるのか?
バルファルク相手に大抵の攻撃は意味を成さない。今の切島の硬化よりもなお堅い外殻があるからだ。しかし死柄木の崩壊が相手であれば話は別だし、オールマイト並みのパワーから繰り出される脳無の攻撃はおそらく効くだろう。奴らを相手取り、戦えるのか?
黒霧を前に何も
「…くそったれ」
「ところでヒーロー、本命は俺じゃない」
「!!」
広場を視認できる距離まで来た。そして今まさに脳無が動いた!相澤先生が殺されるかもしれない、俺は何をすべきだ!?下手に飛び出して殺されれば雄英にもみんなにも迷惑がかかる。俺の力が通用するかどうかもわからない、万が一通用したところで一分と保たないこの力ではどうすることも…!
「個性を消せる、素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではつまりただの無個性だもの」
脳無が相澤先生に襲いかかる。あの超パワーは個性によるものじゃない。相澤先生の抹消では消えない。
グシャ、という鈍くて嫌な音が聞こえる。腕が折られたんだ。続いて響く相澤先生の苦しげな声。当たり前だ、腕が変な方向に曲がってる。どれだけの痛みかなんて、腕が折られた経験のない俺には分からない。オールマイトはまだ来ない。
ゴッ、という重くて嫌な音が響く。顔を叩きつけられたんだ、地面に窪みができるほど強く。これが原因で相澤先生の抹消時間は短くなったと原作で語られていたはず。当たり前だ、脳無の力で叩きつけられて、無事で済むわけがない。オールマイトは間に合うのか?
五感を通して俺に訴えかけてくる。ここはアニメでもマンガでもない。これは現実だ、と。
俺は今まで何を見ていたんだ。何も見えちゃいなかったんだ。
黒霧が死柄木の隣に現れ、生徒を一人逃したことを伝えている。飯田たちは上手くやれたんだ。さすがは未完のヒーローたち。
で、俺は?
「ゲームオーバーだ、あーあ…今回はゲームオーバーだ。帰ろっか。けどもその前に」
「平和の象徴としての矜持を少しでも、へし折って帰ろう!」
背筋にゾワッとした感覚。これは、これは!忘れていた、ここがオールマイトの来る、最も危険なタイミング!水難ゾーンの浅瀬で緑谷たちが見ていることに死柄木は気付いている!生徒を、みんなを殺そうとする!相澤先生は、あれは無事なのか!?意識はあるのか、消せるのか!?
「………本っ当かっこいいぜイレイザーヘッド」
死柄木の個性を消した。その直後、脳無によって再び顔を地面に叩きつけられ、おそらく抹消が解けた。オールマイトはまだか。まだ来ないのか。いや、そもそも。
オールマイトは本当に来るのか?
「手っ…放せぇ!!」
緑谷が応戦する。しかし側から見ている俺の目にも追えない速度で脳無が死柄木の盾になった。緑谷の腕は壊れていない。その腕を脳無に掴まれた。蛙吹が舌を伸ばし緑谷を助けようとしている。蛙吹と峰田が死柄木に触られる寸前にして、ようやく俺の体は動き始めた。その時になって。
個性を待機状態にすらしていないことに気づいた。
「もう大丈夫」
「私が来た」
バァンというドアを破る派手な音がUSJ全体に響き渡る。その音と共に死柄木と脳無の動きが止まる。
「あー…コンティニューだ」
俺はオールマイトの登場を、素直に喜べなかった。