あの子と私 作:へんなおとこ
ホープの朝は軽いランニングから始まる。これは独断で行なっているものではなく、きちんと耕隆に許可を得た上でのものである。当たり前のことではあるがひとつ話を挙げておこう。少女らはウマ娘という、走る為に生まれ、走る為の才能が最初から備わっている。しかし、それを少女たち自身が開花させようとしてもなかなか難しい。才能はたしかに開花させるものではあるが、開花させるのは大抵才能を持っている当人ではなく、その人を支える者である。それはその当人を間近で観察し、何が当人にとって大事かを見極め、必要なことを取捨選択できるからである。つまるところ、客観的な視点が必要なのである。だからこそ、ウマ娘を支えることを第一としたトレーナーがいるのでもある。耕隆の基本的な考え方は、ウマ娘は誰しも才能を持っており、それを最大限に引き出すことこそトレーナーである、というものである。その考え方は、様々なトレーナーにとってスタンダードなものであるが、中には一から育て上げることこそ志向と考える者もいる。
「お疲れさま。はい、水筒」
とはいえ耕隆にとっては、邪道、とも言える考え方である。だが、しかしだ。現実は、そう簡単ではないのだ。才能を引き出すことも、また才能のあるトレーナーにしかできない。その点では、耕隆は恵まれてはいなかった。彼には情熱がある。だが逆にそれしかないとも言える。
まぁ、どうだって良いことなのだ。彼は、力が足りないのならその分努力する。単純明快。乗り越えることの難しい才能がないという絶望は、彼の壁にすらならない。
「ありがとう」
「朝から精が出るね。俺は全然頭が起きないよ」
「その割には、随分とシャキッとした服装をしているじゃない。それに、そのノートみたいなのにもなにかたくさん書いてるみたいだし」
「俺の事情は、まぁ無視しても構わないものだしな。君のために働くんだ。このくらいはしないとな」
耕隆はどこかおかしい。
シャワーで汗を流しすっきりした後、ホープは教室へ向かった。彼女は学生だ。勉強をするのは学生として当然のことである。彼女も例外ではない。
教室の扉を開ける。そこには、彼女のクラスメイトたちが和気あいあいと談笑している姿があった。
「おはようございます!ホープさん!今日もギリギリですね!!!!」
「おはよう。けど、余計な一言があるわよ?」
ホープに元気よく挨拶してきたのは、サクラバクシンオーという少女である。彼女は入学初日に学級委員長を名乗り、皆を驚かせた。しかし、自分から名乗っただけはあり、学級の模範になるために日々努力を怠っていない。それが上手くいっているかと言われれば、そうでもないのだが。彼女のその表裏のない性格により、クラスメイトとの関係は良好である。
「おっと!チャイムが鳴ってしまいますね!席について先生を待ちましょう!」
「まったく。いつも騒がしいんだから」
そんなサクラバクシンオーが、ホープも嫌いではなかった。むしろ、好ましい部類に入るだろう。
新しい学校の授業では新しいことを学ぶわけで、彼女の時間は早く進んでいった。新しいことを学ぶというのはいつだって楽しいものだ。楽しいが、時間が早く進んでしまうと、それを長く体験できない。新しい、というものの欠点はそれだ。自分のモノにするには時間がかかる。だからこそ、自分のモノにしたときの達成感は計り知れない。彼女には、それがわかるだろうか。
カプサイシンによる胃への攻撃は辛い