あの子と私 作:へんなおとこ
ホープには輝かしい未来がある。きっとそうなる。しかしだ。この物語の登場人物はホープだけではない。耕隆の未来は、なにが待っているのか。そんなものは分かるはずもない。現在から予測を立てるしかない。ならば現在の耕隆はなにを考えて、なにをしているのだろうか。彼の日々、ホープを支える裏側があるはずだ。
しかし、それを記すのは今ではない。今は彼女が大事だ。ホープの日々を、ホープの仲間を知る必要がある。耕隆を知るには土台が必要だ。
「さぁ!トレーニングを始めましょうか」
「君、今日は随分気合いが入っているじゃあないか」
「目覚めが良かったのよ。いつもより少しだけね」
「そりゃあ結構なことだなぁ」
「それに、いい夢を見れたのよ」
トレーニングは、毎回基礎を鍛えるものを行なっているが、今回はデビュー戦に向けてのレースを意識したものを行うようだ。ホープの三年間も長いものではなく、詰めたスケジュールでトレーニングをしなければならない。だからこそ、初めてのレースであるデビュー戦を勝ち取り、次に繋げる必要がある。立ち止まる暇が二人にはなかった。
「レースというのは魔境である。というのは、あまたのウマ娘達はレースにおいて、一着、優勝のみを狙っているからだ。そのためには、どんな努力も欠かすことはない。俺たちだってそうだ。いまレースに勝つために練習を繰り返し、身体を上手く使えるように基礎を鍛えている。しかしだ。それでも足りない。ならば知識、知恵を絞るしかない。幸い、まだデビュー戦。多くのウマ娘たちはまだ初めてのレースだ。だからまぁ、がんばれ」
「これだけ喋って最後それって。まぁ、ありがとう」
ホープはこれからデビュー戦に挑む。緊張を解すためか、ホープを鼓舞するためか、耕隆は話をした。少し堅苦しく、そして雑なものであったが、どこか暖かかった。
ホープは周りを見渡す。緊張が解れたおかげか、視野が広がったのだろうか。冷静に分析を行うことができた。今回は中距離のレースだ。ホープの得意とする距離ではある。そのため、トレーナーは
「最後にぶち抜け」
という簡単な指示を出した。もちろん、ほかの作戦もあるが、それを主軸に走れと言われたのだ。
「無茶なことを言ってくれたわね。無茶というだけで、できないってことではないのだけれど」
そうホープはボヤく。とやかく言ったところで、本番は目前にあるのだ。やるしかない。ホープは覚悟を決めた。
ウマ娘たちが全員ゲートへと入る。初めて、というわけではないが、レース本番のゲートはとても居心地のわるいものだとホープは感じた。気持ちが逸る。静寂がムズムズする。
ゲートは開いた。
ホープの目の前には、緑だけがあった。