ウチのカルデアがなんかおかしい   作:味噌そぼろ

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 唯一変化の無かった天草。
 衝撃を受けた藤丸だったが……。


ケモミミ事変 その4

 「やはり、貴方が黒幕でしたか」

 「あ、天草……」

 

 藤丸はまだこの状況を信じられないでいる。対して、玉藻の前はひどく冷静だった。

 

 「まさかバレるとはね」

 「一目見たときから、貴方はどことなーく胡散臭い感じしてましたからね。目的は一体何です? わざわざケモ耳生やして終わりってワケないでしょう?」

 

 詰め寄る玉藻の前。もしかしたら異変の度に天草をどこかで疑ってたのかも知れない。

 

 「ホントはもっと違うことをしたかったのですが、どうやら仕込みの段階でノイズが入ったみたいでね」

 「仕込み? ノイズ?」

 「……あー」

 

 仕込みについてはわからないが、ノイズというのは多分、寝る前のアレだろう。

 まさかケモ耳を数えるだけでカルデアが救えるとは。

 いや、ケモ耳になった時点で救えてはないか。

 

 「でもまぁ、目的自体はそのうち成就しそうですが」

 「その目的とは何です!?」

 

 声を荒らげる玉藻の前。ここまで感情的になる彼女を、藤丸は初めて目撃した。

 

 「全人類の救済――――その前準備として、カルデア(ここ)を手中にしたくてね」

 「全人類の……救済だと!?」

 

 『救済』、その言葉に、藤丸は強い抵抗を覚えた。

 救済、つまり救われるべき人たちは必ず存在する。

 しかし、人の使う『救済』には、同時に『選定』の意味も含まれてしまう。

 救われるべきだから救済するのではない。都合がいいから救済する。

 金持ちを救うのは見返りの金のため。女を救うのは己の欲求のため。

 規模を極端にするなら、ノアの方舟にのる存在を、自ら仕分けするようなものだ。

 それを全人類を対象に行うというのか。

 なんて自分勝手。なんて上から目線。

 そんな風なことを、藤丸は瞬間的に感じとったのだ。

 

 「救済とカルデアに一体なんの関係が――――」

 「聖杯ですよ」

 

 天草はどこからともなく、聖杯を取り出した。いや、彼が操る魔術で生み出した幻像(ビジョン)の類だろうか。

 

 「遍く願望をかなえる聖杯ならば、必ずや全人類の救済も成し遂げてくれるでしょう。その聖杯が、カルデアには潤沢にある。本来は英霊(サーヴァント)の魂が必要なので、試しに一つ使って実験がてら(それ)を集めようとしたんですがね」

 

 『冬木の』聖杯戦争では、本来は『根源』に至るべく、7騎の英霊(サーヴァント)の魂を用いてソレへの孔を穿つことを目的としていた。無論、その理由が表向きに明らかにされることは無く、『万能の願望器を手に入れるために英霊(サーヴァント)を召喚し戦う』という理由をでっちあげてよその魔術師を招き入れている。

 ……でっちあげているとはいえ、聖杯が万能の願望器であることに変わりはない。ソレを求める魔術師(マスター)7人、英霊(サーヴァント)7騎によるバトルロワイアル(生存競争)。それが『冬木の』聖杯戦争のカラクリだった。

 カルデアの聖杯も、聖杯であることに変わりはない。しかし念には念を入れて……ということか。

 

 「聖杯に救済を……願うってのか!?」

 「いや、マスター。奴が願うのはそうじゃない」

 

 藤丸の声に応えたのは、天草の声でも玉藻の声でも無かった。声の主は――――。

 

 「アタランテさん!?」

 「マスター、奴は救済そのものを願わない。重要なのは()()()()()()()の方だ」

 

 アタランテは藤丸の方は見ていない。あくまで天草の方を見据えていた。

 弓道の選手が的を見るとき、的の中心のみに焦点を合わせるように。

 獲物を見つけた狩人が、その急所のみを見据えるように。

 

 「方法って……」

 「第三魔法――――魂の物質化だ」

 「第三魔法……ですって!?」

 

 真っ先に反応したのはやはりキャスターの玉藻の前。彼女は主に呪術を用いるが、それでもキャスターの工房にいる身として、魔法について色々な知識が身につくのだろう。

 第三魔法。別名を天の盃(ヘブンズフィール)。第三魔法による魂の物質化とは、肉体ではなく、魂を存在として具現化することである。

 簡単に言えば不老不死の実現である。現代の文明では不老不死を再現した例は無いため、魔術の域を超えた『魔法』に分類される。

 

 「キャスターでもない貴女がなぜそれを――――」

 「いや、()()()()()()()()()()()()()()()。あの天草という英霊(サーヴァント)にも、何か因縁めいたものを感じる。これも何かの運命なのか?」

 「奇遇ですね。私も同じようなことを考えていました」

 

 藤丸の知る由もないが。

 アタランテ(赤のアーチャー)も、天草四郎(シロウ・コトミネ)も、別の世界(聖杯大戦)で出会った経験がある。別世界での出会いとはいえ、その経験が時空を超え魂に刻まれていても不思議ではない。

 

 「どうします? バレてしまった以上、私はマスターを放ってはおけない」

 「……マスター、タマモと一緒に逃げてくれ」

 「そんな……あ、ジャンヌ! ジャンヌも一緒に――――」

 

 ずっと無言だったジャンヌ・ダルクに声をかける。彼女の力なら、アタランテと協力して天草を抑えられるはず――――。

 そう、思っていたが。

 

 「こゃーん」

 「え!?」

 

 ジャンヌは座り込んで狐の鳴きまねを始めた。

 

 「ジャンヌ!! ジャンヌ!? しっかりしてくれッ!」

 「フフ、やはり始まりましたか」

 「始まったって、なにが」

 「以前、皆さんが子供になってしまった時と同じですよ。肉体の変化が、精神にまで影響を及ぼしてしまう――――その現象が、再び起こったのですよ」

 

 子供化の時もそうだった。皆が外見だけでなく、本当に子供のようになってしまって収拾がつかなくなってしまったことがある。その時も同じなら、やはり元からケモ耳のアタランテや玉藻の前には影響がないのだろう。

 

 「その聖女にもアタランテさんと似た感覚がありました。私にとって最大の障害となる予感がありましたが……これは僥倖でしたね」

 「ジャンヌ・ダルク……」

 

 ジャンヌもまた、別の世界(聖杯大戦)で二人と出会った経験がある。世界戦が変わっても、運命に引かれあうのだろうか。

 

 「マスター、早く退避を。ここは私が」

 「う、うん。任せたよ」

 

 玉藻の前と共にその場を離れる藤丸。

 アタランテは藤丸が離れたのを確認すると、天草に向けて弓を引いた。

 

 「やめたほうが、身のためですよ?」

 「こっちの台詞だ」

 

 

 

 

 

 アタランテが戦っている間に何としてでも解決をしなければならない。

 だが、解決への糸口は既に藤丸の手中にあった。

 

 「マスター、一体どこに向かっているのですッ!?」

 「聖杯の管理庫ッ! 皆が聖杯のせいでケモ耳になったんなら、きっと聖杯で解除出来るはずッ!」

 

 そう、目には目を、聖杯には聖杯を。黒幕が身内、さらに事故ではなく故意によるものであることはショックだったが、解決策が思ったより早めに見つかって良かった。

 

 「令呪ならまだ温存してある。聖杯にありったけ注げば、皆を元に戻すことくらいなら出来るはず!」

 「……温存せずに使うべきでは」

 「ギクゥ!」

 

 図星を突かれた藤丸だが、一日一画補充されるとはいえ、たった三画の絶対命令権(令呪)である。慎重になるのも無理はないだろう。

 

 「とにかく、今は皆を元に戻すのが先だ! ウチのカルデアにはケモ耳の英霊(サーヴァント)はかなり少ないから、アタランテさんが食い止めてくれているうちに――――」

 

 藤丸の言葉は、廊下の壁面が吹き飛ぶ音で寸断された。

 ドグオォォォォォン!!! という嫌な音と共に、瓦礫と――――人が吹き飛ばされて来た。

 

 「ぐ、ァ……! 一体何……が――――!」

 

 視界を遮る(ちり)が晴れ、瓦礫の中に見えたのは――――。

 

 「あ、アタランテさん!? そんな――――そんなバカな!!」

 

 思わず駆け寄る。抱きかかえ、声を掛ける。

 

 「アタランテ! 大丈夫か!?」

 「マ、マス、ター……」

 

 アタランテは息も絶え絶えだった。あんなに強いアタランテが――――藤丸はとても信じられなかった。

 

 「すまなかった……思えば、私はずっと……酷い英霊(サーヴァント)だった……」

 「そ、そんなこと――――そんなこと言うなよぉッッ!!! 玉藻! アタランテに治療を!」

 

 もはや『さん』付けすら忘れて叫ぶ藤丸。

 酷い英霊(サーヴァント)だと? 冗談じゃない。自分に弓を向けて来たのは正直、怖かった。それでも、今日までずっと一緒に戦ってきた仲間じゃないか。今だって俺たちのために天草の相手を引き受けてくれたじゃないか。そのおかげでホラ、聖杯の管理庫もすぐそこに――――

 

 「別れの挨拶は済みましたか?」

 

 廊下に空いた穴の向こうから響く声。

 

 「天、草……!」

 「おやおや、随分怖いですねぇ」

 

 アタランテと確かに交戦していたはずの天草。

 しかし、藤丸たちの目の前に現れた彼は――――

 

 「無傷……!?」

 「中々手こずりましたが……どうにか追いつけたみたいですね」

 

 アタランテは間違いなく強力な英霊(サーヴァント)に分類される。天穹の弓(タウロボロス)による一撃に高い敏捷性、そして狩人としての経験等々――――。

 そんなアタランテを天草が無傷で――――つまり一方的に――――痛めつけることが出来るとは考えられない。

 

 「天草がアタランテに勝つなんて……」

 「アタランテさんのことはあんなに心配していたのに、私にはそんな言い方ですか」

 

 天草はそういうと、両腕に魔力を込めた。

 

 「ま、まさか」

 「そう、私の宝具です。もっとも、貴方は私のマスターですから、能力くらいは把握しているでしょうがね」

 

 天草の宝具は『右腕(ライトハンド)悪逆捕食(イヴィルイーター)』と『左腕(レフトハンド)・天恵基盤《キサナドゥマトリクス》』の二つである。それぞれ心眼(真・偽)の能力を持つうえ、あらゆる魔術基盤に接続しているために扱える魔術の幅も広い。裁定者(ルーラー)(クラス)にいなければ、おそらくは魔術師(キャスター)(クラス)があてがわれていただろう。

 それを踏まえた上で藤丸は再度思考を巡らせる――――

 

 「対魔力か!」

 

 アタランテの対魔力スキルはDランク。魔力除けのアミュレット程度しかない。

 それをアタランテは承知で戦ってくれたのだ。

 

 「どうやら色々と察していただけたようで。さて、長話もここまでにしましょうか」

 

 天草は懐から取り出した黒鍵を――――魔力の刃を持つ投擲用のナイフを――――投擲した。魔術使いとしての技量がまだまだ未熟な藤丸が受ければ抵抗する間もなく仕留められるだろう。

 だが、それは()()()()()()()

 

 「マスター!」

 

 投擲された黒鍵を弾き飛ばす英霊(サーヴァント)が一騎。

 洗練されて煌びやか、それでいて花のような佇まいの英霊(サーヴァント)は――――ッ!!

 

 「デオン! 来てくれたかッ!」

 

 やはりデオン。カルデア最古参の彼女()がマスターの危機に真っ先に駆け付けてくれた。

 

 「デオン! デオンは大丈夫なのか!?」

 「大丈夫。私の自己暗示スキルはランクA。十分に抑えられるさ」

 

 デオンの自己暗示スキルは精神干渉をシャットアウトする効果を持つ。自身に対する強力な暗示で、肉体さえ変化させる。流石に聖杯による影響であるケモ耳までは治せなかったが、彼女()の精神を守り抜いた。

 

 「もう問題ニャい!」

 「ちょっと浸食されてるッ!?」

 

 ……守り抜いたハズである。

 

 「なぜ――――なぜ白百合の騎士がここにッ!?」

 「愛のちから――――」

 「マスターからは留守番を言い渡されたけど、クーフーリンから助太刀に誘われてね」

 

 藤丸の言葉をかき消す無情な宣告。しかし助けに来てくれたのは素直に嬉しい。

 クーフーリンはルーン魔術も扱うことが出来る。探索のルーンで藤丸の危機を察知したのだろうか。

 

 「しかし英霊(サーヴァント)が一騎増えたところで――――」

 「グァルルルルルルァァ!!」

 

 まだまだ余裕をかます天草に、獣のような青い影がかみついた。

 その影を、藤丸はよく知っている。

 

 「クーフーリン! お前、ケモ耳になっても……!」

 「ぐっ……おのれ……! 犬如きがッ!」

 「イヌって言うなワンワン!」

 

 逆に侵食されていない部分のあるクーフーリン。

 それにしても――――例えケモ耳の影響で精神が変化しても潰えない忠誠心。なんと誇り高いことか。

 

 「マスター! ここは私たち構わニャいで、早く聖杯を!」

 「ワンワン! アオオオォォォン!」

 

 二匹……いや、ニ騎の英霊(サーヴァント)の激励を受け、聖杯の部屋に入る藤丸。

 

 「よし! 令呪三画の魔力をつぎ込んで聖杯にお願い! 『皆を元に戻して』!」

 

 

 

 

 

 

 「……とまぁ、今回も命がけだったワケでして……」

 「ハハハ、面白いなぁ、お前は」

 「わ、笑わないで下さいよ!」

 

 異変が解決して元通りになったカルデアで、スカサハと藤丸が話している。

 二人並んで座っている。最近はこうして話すことが増えて来た気がする。

 

 「いや、すまない。だが面白いよ。召喚されてから、お前への興味は尽きない」

 「師匠……」

 「立香、そう(かしこ)まるな。せっかく異変を解決したんだ。今は、『スカサハ』と呼んでくれ」

 「す、スカサハ……」

 「よろしい」

 

 顔を赤くして俯く藤丸。彼はスカサハの事が気になっているようで、彼女と話すときはよくこんな調子になる。

 

 あの日以来、天草は地下に幽閉された。カルデアでは初めての事だったが、妥当な処遇だろうと藤丸は考えている。いつの日か、心を入れ替えたら、また一緒に戦いたい。

 聖杯の管理庫には何重にもセキュリティがかけられた。藤丸と一部の職員にしか入ることは叶わないだろう。

 ともかく、異変が二度と起こらないことを祈るばかりである。

 

 

 

 

 「そういえばマシュってなんのケモ耳だったんだろう」

 マシュの部屋に入る藤丸。ノックも何も無いが、今は彼女は外出中である。

 特に変わりはない部屋だが、机の上には、『デンジャラス・ビースト』の服が脱ぎ散らかされていた。

 色々察した藤丸は、決意を新たに、マイルームへと戻っていった。

 




 かなり駆け足になってしまったが
 第三部、完!!
 また次回、機会があればッ!
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