ロリショタ事変 その1
ヤンデレ事変から数日後、藤丸は――――寝ていた。
疲れは癒えているものの、それと眠気とでは話が違う。眠い時はいつまでも寝ていたくなるし、自らを優しく包み込むお布団の温かな感触に身を委ねていたいのだ。
しかしそれでも、朝は来るし、目は覚まさなければならない。彼の後輩であるマシュは、
この日もいつも通り、藤丸を起こすために、彼のマイルームにアナウンスをした。
『おはようございましゅ、しぇんぱい!』
「ぶっっ! ハハハ! あーはっはっはっはっはっは!」
かんだ。しかも二回。短時間で二回も。
藤丸はベッドから転げ落ちた。それでもまだ笑っている。笑い声なのか、別の生き物のモノマネなのかも区別できない程笑っている。
『もー! 笑わないでくださいよ先輩!』
「ご、ごめんマシュ……ブッ! フフフフハハハハハ! マシュ、おはようございマシュ、フッハハハハハ!」
藤丸はまた転げまわった。普段真面目なマシュが思い切りかんだのだ。顔を赤くしてほほを膨らませているマシュなどお構いなく笑い続けている。
「だ、だめだ。一旦外出て落ち着こう……ヒハハハハハ!」
『笑い方が怖いですよ先輩……』
過程はどうあれ、なんとか当初の目的を果たしたマシュは、藤丸が部屋から出たのを確認すると、通信を切った。
マイルームから外に出た藤丸は、食堂へ向かった。水を飲んで落ち着く。それが彼の戦略だった。
「ふぅ、なんとか落ち着いてきた。さて、コップは――――」
食堂に入り、食器棚を漁っていた藤丸だったが、不意にその手を止めた。
ガサガサ、ゴソゴソ、サクサク
――――何やら、物音がする。
「……だれか、いるのか?」
物音のする方、冷蔵庫の方へ向かう藤丸。
そこにいたのは――――
「アルトリア!?」
「ま、マスター!?」
音の正体はアルトリア。アーサー王の名としても知られる、言わずと知れたブリテンの騎士王。聖杯戦争におけるヴェテランの一人である。
彼女が冷蔵庫の中を物色して朝食を食べていたらしい。
「き、騎士王が盗み食――――」
「か、勘違いするな! これは私が大切に保管しておいたビスケットだ!」
よく見ると、ちゃんと箱には名前が書いてあった。
「こ、これは失礼しました」
「まったく……」
誤解を解いたアルトリアは、まだ中身のあるビスケットの袋に封をし、冷蔵庫に収め――――
「あ、アルトリア!?」
「む、どうかしました? マスター。そういえば、ずいぶん背が伸びましたね」
「いや、アンタが縮んでるんだ!」
アルトリアはかなり背丈が小さくなっている。服装はそのまま背丈にあったものになっていたため、パッと見では気づかなかったが、小さくなっている。というか、若干幼くなっているようにも見える。
「な、え、私が!? まさか、周囲のものが急に巨大化したわけではないのか!?」
「そんなことがあるわけ――――」
ないだろ、と言いかけたが、藤丸の胸中にある疑惑が浮上した。
「アルトリア、他の
「い、いえ、まだ一人も」
「まさか……」
藤丸の脳内に去来する光景。ヤンデレ化した
まさか、今回も――――
食堂から出た藤丸は、まずデオンの部屋へ向かうことにした。
彼(彼女)はヤンデレ事変の時に藤丸を助けてくれた存在である。そして自己暗示:Aのスキル。精神干渉をシャットアウト出来るスキルも持ち合わせている。今回も、きっと大丈夫だろう。
そう願いながら、彼(彼女)の部屋へと向かった。
息を切らせながらデオンの部屋の前までやってきた。
中からは話し声が聞こえる。デオンと仲がいい
「デオン! 無事か!?」
ドアを開けた藤丸が目にした光景は――――
「えー、いーじゃんデオーン、一緒に遊ぼうよ~、せっかく子供になったんだしさ~」
「離れろアストルフォ!」
幼くなった
「俺の聖杯は此処にあったのか――――」
「あ! マスターじゃん! やっほー」
「ま、マスター!?」
安らかに、光の中に消えていきそうな表情をする藤丸を見てもいつも通りのアストルフォ、そして対照的に焦るデオン。
何とか気を取り戻し、アルトリアを交えて現状を話し合うことになった。
「……それで、いつから子供になったのかはわからないのか?」
「ああ。私は起きた時にはこの姿に……。それよりも、急にアストルフォが部屋に入ってきたことの方がびっくりだよ」
「良いじゃんかよ~、ボクも子供になったときは驚いたけどさ、ホラ、子供は遊ぶのが仕事っていうじゃん? せっかくならデオンと遊びたいかな~って」
「なるほど、一理あるな」
「私には盗み食いを疑ったくせに……」
ジト目で藤丸を睨むアルトリア。誰もいない食堂の冷蔵庫を開けて何かを食べていたらそう思うのもおかしくは無いが、冷蔵庫は食堂にしかない。アルトリアを責めるのはあまりにも酷だろう。
「ごめんごめん、謝るよ」
「全く……。そういえばデオン、貴方には自己暗示のスキルがある。子供の姿になったとしても、すぐに戻ることが出来るのでは?」
「それが……どうにもうまくいかないんだ。服装というか、霊基そのものが変化しているみたいで」
どうやら、『元の姿』をいくら自己暗示しても、今の子供の姿が『元の姿』と化しているらしい。
「そういうことか……他の
「それは違うと思うよ」
口を開いたのはアストルフォ。理性が蒸発していることに定評のある彼である。どんな突拍子もないことを言い出すやら――――
「アーチャーから三人、種火集めに行っている
「アストルフォ……お前、ホントにアストルフォか?」
理性が蒸発しているとは思えない推理。そういえば、彼の理性蒸発:Dのスキルは直感と同じ効果もあったっけ――――そう藤丸は納得した。
「えっへん! どうだ、ボクのピンク色の脳みそだって、たまには冴えるんだゾ!」
「やっぱりいつも通りか、安心した」
とはいえ、アストルフォの推理は信用に値する。今はまだ子供化している
「それで、種火集めに行っていた
「えっと、確か――――エミヤ、ロビン、アタランテのはず」
「そうか……待て、アタランテ!?」
「ど、どうかしたかい? マスター」
アタランテ、ギリシャ神話の女狩人。獣のようでいて、それでいて高潔な雰囲気を漂わせる純潔の弓兵。普段ならカルデアで問題があっても基本的に「そうか」とだけ言って積極的に関わりはしないだろう。
しかし、今回だけは別である。
「アタランテは子供が大好きだ。カルデア中の
「うぅ、なんか寒気がしてきた」
青ざめるアストルフォ。
とにかく、現状の把握、そしてアタランテを子供と会わせないこと。その二つが優先事項だ。
「俺はアーチャーを迎えに行く。皆はとにかく
安全な場所へ、そう言いかけた時、アナウンスが入った。
“レイシフト帰還。種火集め、お疲れ様でした”
「まずい……!」
藤丸は部屋を飛び出した。
「あぁ、こんな姿になってしまっても、
「いいえ、きっと大丈夫です。マスターのイケ魂ならきっと――――なんなら
「フハハハハハ! 我が姿、幼子に変わろうと、我が叛逆の道に変わりなし!」
「ええと……こりゃどうなってんですかね」
「さぁな。また『おかしなこと』でも起きたんじゃないか?」
ロビンフッドとエミヤは一足先にカルデアの中に入った。しかしながら、見慣れた
「俺たちゃ『外』にいたからセーフ……って感じですかねぇ」
「そんなところだろう。すぐにマスターに連絡を――――」
「……なんだ、これは」
後から来たのは――――アタランテ。
その直後に息を切らせた藤丸もやってきた。
「ハァ、ハァ、お、遅かったかぁ……」
膝を落とす藤丸。アタランテは目を閉じ、安らかな微笑みを浮かべた。
「嗚呼――――、私の求めた聖杯は此処に――――」
「俺と同じこと言った!?」
そのまま倒れこむアタランテを、藤丸はすんでのところで支えた。
明けましておめでとうございます! 年明け一発目の「おかしなこと」はロリショタ化! 果たして藤丸君はどう切り抜けるのか……。
同時に、第二章開幕!