しかし、事態は単純なものではないようで……。
「子供の姿になる薬」の制作者であるパラケルススの元を訪ねるため、藤丸、アタランテ、メドゥーサの三人はキャスターの工房へ向かった。
「エレナ、いる?」
「いるってよ! また厄介ごとに巻き込まれたみたいね……」
相変わらず面倒見の良いエレナ・ブラヴァツキ―。前回同様、彼女に頼ることになりそうだ。
「それで、
「え?」
「気にしないで。エレナさん……」
メドゥーサが暴走しかけるアタランテをなだめていると、奥から小さくなったパラケルススが現れた。
「やぁ、皆さんおそろいのようで」
「おぉ! 見ろ、マスター! 私の
「……パラさん、少し話があるんだけど」
藤丸はアタランテにはもう目もくれなかった。それよりも、目の前のパラケルススに話を聞く方が先だ。
「子ギルに渡した『子どもの姿になる薬』の事だけど……」
「あぁ、あれは問題作でね」
パラケルススは、自分が作り出した薬について語りだした。
「子ギル君が「若返りの薬」が無いために代わりを欲しがっていて、なんとか私で再現しようとしたのですが……揮発性が高くてこぼしてしまうとあっという間に広がってしまう。子ギル君がこぼしてしまった分については対処済みだから後から来たアタランテたちは大丈夫なんだけど」
「なるほど……どうせなら私もと思っていたが」
「それで、問題作というのは?」
アタランテの言葉を遮る藤丸。とりあえずはパラケルススも事態の終息に向けて活動していたことは分かった。
「霊基そのものを子供に変化させて見た目をも変えてしまう……それだけじゃない。見た目だけじゃなくて、
「なんだって!?」
精神まで子供に――――つまり、今は見た目だけの変化に留まっているアルトリアやメドゥーサ達が、このままだと本当に子供になってしまうのだろうか?
「無論、私も例外ではない。今は何とか解決策を模索していいるけれど、一度変えた霊基を元に戻すというのだまた難しくてね……」
こうして藤丸たちに薬の作用を説明しているパラケルススも、薬の影響を受けてしまっている。いつ子供になってしまうかわからない状況下でも、解決策の模索に勤しんでいるのだ。
そんなパラケルススに感動していた藤丸だが――――
「キャァァァァァァ!!」
そんな彼のもとに、悲鳴が届いた。
「アストルフォの声だ! パラさんありがとう! がんばって!」
藤丸はパラケルススにお礼をいい、声のした方に向かった。
「ま、待ってくれマスター! 私も行く!」
「私も――――」
「いいや、君は待っていてくれ」
アタランテと共にマスターへついていこうとするメドゥーサを、パラケルススは呼び止めた。
「一番最初に薬の影響を受けた君の話を是非伺いたい。エレナも一緒に来てくれるかな?」
「よくってよ!」
キャスター二人による、メドゥーサへの
藤丸が叫び声のした場所につくと、どうやらアストルフォとデオンが喧嘩したようだった。
「うぇぇぇぇん、デオンがぶったぁぁぁ……」
「そんなつもりじゃないもん……ふぇぇ」
「zzz……」
遊んでいるうちにヒートアップして、体が強く当たってしまったのだろうか。いつもなら、こんなに号泣することはないだろう。さっきまでの二人とは大違いだ。
そしてそんな二人をよそに爆睡しているアルトリア……よく寝ていられるが、王の器のなせる
「精神が子供に……こういうことか」
「なるほど、これは良いものだ」
「うぉ!? アタランテさん!? もう追いついた!?」
「……マスター、私の敏捷はAランクだ。甘く見るんじゃない」
さすがはアキレウスと比肩する程の健脚の持ち主。ただの人間である藤丸に追いつくのは造作もないことだろう。
「……もしかして、今頃エミヤとロビンも大変なことに」
「なんだと!? うらやま……じゃない心配だ!」
子供化した
「パパ―おかしーまたつくってー」
「パパ―」
「やめろ! 俺はパパじゃない!」
「じゃあママ」
「性別まで変えるな!」
「マントちょーだい!」
「あああ引っ張るな! 俺の宝具だこれは!」
「これなにー?」
「よせ! それは毒の矢で――――」
案の定、エミヤもロビンフッドも大変なことになっていた。いくら世話焼きで子供人気の高い彼らでも、この数の子供を一度に相手取るのは苦しいらしい。
「なんてこった……このままじゃあの二人まで危険なことに」
「これだ……」
様子を見ていたアタランテは、やけに不気味な笑顔を浮かべていた。
「これって、なにが?」
「子供たちが愛される世界こそが、私が聖杯に託す願い。しかし、現実は非情で、子供たちが虐げられる地獄も存在してしまう」
アタランテは子供に振り回されているエミヤ達――――否、エミヤ達を振り回している子供達を指さした。
「見ろ、子供たちの姿を。子供は悪を知らない、故に悪を為さない。世界中の人間が子供になれば、子供たちは大人に食い物にされることもない。なんなら、世界中の
「なに怖いこと言ってんだよ……」
突っ込みそうになる藤丸だが、どうやら彼女は本気らしい。今は人理の乱れなどなく、大規模なレイシフトも戦闘も起こってはいないが、いつまた『次』があるか分かったものではない。
それに、こんな大量の子供達を抱えてしまうと、カルデア崩壊の危険まである。
一人や二人でも、子供の相手は難しい、しかもそれが数十人以上となると、一人と三騎だけでは厳しいものがある。
そこに『次』が来てしまうと、もはや為すすべもなく蹂躙されるのがオチだろう。百戦錬磨のアーチャー三騎を抱えていても、子供の相手で疲弊しきっているし、クラス的にもバランスが悪すぎる。
「アタランテさん、やっぱり解決しなきゃダメだよ。世界中の人間が子供になったって、新しい問題が山積みになるだけだ」
「何だと!?」
アタランテは激怒した。目の色が変わる。その手には、いつの間にか弓が握られていた。
「私の願いを侮辱する気か!? 見損なったぞ!」
「そうじゃない! 話を聞いてくれ!」
必死に制止する藤丸。普段なら冷静なアタランテも、子供の事になるとなかなか言葉が通じない。
「子供が愛される世界、それは素晴らしいことだと思う。でも、皆が子供になっちゃったら、一体だれが子供を愛してくれる? 子供は確かに悪を知らない。でも――――他人を愛することだって、まだ知らない。それは親が、大人たちが子供に教えていくことなんだよ、きっと。だから、世界中の人間を子供にするのは――――」
「そうか、わかった」
ようやく話を聞いてくれそうなアタランテに、藤丸も安堵した。
しかし、実際は全く違っていた。
「ならば、――――ならば、汝は我がマスターなどではない」
手にした弓に矢を
藤丸めがけて矢を放つ。『
急すぎる死の危機に理解が追い付かない。もはや令呪すら間に合わない。
放たれる必殺の一撃――――しかし、その矢は届かなかった。
“解体するよ”
ガキィン! と金属音が響く。投擲された小型のメスが、正確に矢を弾いたのだ。
「じ、ジャック!?」
「
最初から子供の姿であるジャック・ザ・リッパーは、薬の影響を受けなかったのだろう。語彙力が終わってたのは、単にナーサリーライムと遊んでいただけだからだろうか。
「ありがとう、ジャック」
「ここはわたしたちに任せて、にげて、
ヤンデレ事変の時には自分にメスを向けたジャックが、今回は自分を助けてくれている。何か因縁めいたことを感じる藤丸だが、今は感傷に浸っている場合ではない。
「わかった! ここは任せた、ジャック」
「おのれ……子供を盾にする気か、藤丸ッ!」
「ちょっと、俺たちは―!?」
藤丸は逃走、ジャックはアタランテの足止め、悲鳴を上げるロビンフッド達は子守り、それぞれの役割を全うするため、各々は死力を尽くす。
前回ちょくちょく出せるように精進しますと言っておきながら間が空いてしまった。すまない。
次回……次回こそは……!