尽きぬ憧憬   作:なんでさ

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 どうも、なんでさです。
 読者の皆様方、いつもお読み頂きありがとうございます。
 
 実はとある読者の方から、何やら拙作がランキングとやらに載っていると、感想欄でお教えいただきまして。「そういえば、右上の方にランキングってあったな」などと、利用から6年越しに気付き、そちらを見てみればなんとびっくり、拙作のタイトルが第4位で掲載されており、一時は3位にまで上がっておりました。
 
 それまで碌に触った事もなく、いったいどういった仕組みなのかは分かりませんが、おそらく拙作を多くの読者の方にお読みいただけたが故、そしてヒロアカと衛宮士郎という二つの掛け合わせが齎した結果と考えております。
 
 ヒロアカ、そして衛宮士郎をと言うキャラクターに出会わせてくれたFate/stay nightの原作者のお二人、そして何より拙作をご評価頂きました読者の皆様に感謝いたします。
 未熟者に過分なご評価、誠に有難うございます。

 これ以降も、この評価に恥じぬよう、そして自分が想い描く物語を完成させられるよう執筆を続けていきたいと思います。
 読者の皆様も、これからも長い目でお付き合いくだされば幸いです。

 それでは、前置きが長くなりましたが第5話目、どうぞお楽しみください。


今できる全力を

 50m走を終えた後も、測定は滞りなく進む。

 途中、性欲の権化のようなクラスメイトからイチャモンをつけられたが、それもとりあえずは後だ。

 

・・・・・まあ、アイツに関しては要注意人物、ということで。

 

 一応、あの場はやり過ごしたが、女性にモテたいが為だけに雄英に来たとまで豪語する彼が、あの程度の警告で懲りるはずもない。

 そもそもの話、そんな理由だけで雄英の入試に挑み、あまつさえ見事に合格できるほどの人物なのだ。

 果たして彼が優秀なのか、本当にエロスの力のみでやってきたというのか。

 いずれにせよ、侮っていいものではない。

 

・・・・・とにかく、今は気を切り替えていこう。

 

 忘れてはならないのが、ここは雄英だということだ。

 気もそぞろなまま乗り越えらるほど緩い試練を、雄英が課すはずがない。

 色々と頭の痛くなる同級生を一時忘れ、目の前の測定に集中する。

 

 既に握力測定を終え、次は第三種目となる立ち幅跳び。

 俺の個性でもなんとか応用が効かせられる二種目のうちの一つだ。

 ここで出来る限り点数を稼いでおく必要がある。

 

・・・・・さて、今回守るべき最低限のルールは・・・・・

 

 一応は様式の定められた測定。

 破ってはならない原則というものは、当然ながら存在する。

 50m走ならフライングをしてはいけない、レーンをはみ出してはいけない等が該当する。

 その上で、どこまでなら応用を効かせてもいいのか。

 

・・・・・助走は無し、“体の一部”が接地した時点で、そこが記録になる。

 

 他にも細かな決まりはあるが、取り敢えず注意すべき点はこの二つだろう。

 これらを考慮した上で、俺が取れる選択は――

 

「・・・・・よし、いくか!」

 

 順番が回り、いよいよ俺の番となった。

 踏み切り線に立ち、自身にとっての理想的な結果をシミュレートする。

 方法としては、不可能ではない。最終的に必要なのは、俺自身の能力だ。

 

「投影開始<トレース・オン>」

 

 始動コードを打ち込み、思い描いた設計図を展開させる。

 

「・・・・・これだけあれば、十分か」

 

 これから挑む測定に用意したのは、身の丈を優に越える長大な槍。

 俺の技量ではまともに扱うことさえ出来ない物だが、今回はそう仰々しく振るう必要は無いのだ。

 

「ふッ――!」

 

 息を吐き、投影した槍の穂先を大地へと打ち込む。

 一度の刺突で完璧に抉り貫いた手応えを感じ、そのまま倒れ込むように前のめりに。

 できる限り勢いを付け、

 

「・・・・・っ、ぉお――!」

 

 地面に突き刺さったままの槍を軸に、槍の全長を生かし、天へと跳び上がる。

 棒高跳びの要領で体を押し出し、そのまま勢いを殺さず、前方へと飛び込んだ。

 

「っ・・・・・つぅ」

 

 ほぼ高高度からの落下染みたダイブというだけあって、着地時には受け身を取りつつ全身で転がって、その勢いを可能な限り殺した。

 それでも着地の衝撃は相殺しきれず、砂の上を転がったこともあって、痛みと少々の擦り傷、それから体操着が砂まみれという三重苦に見舞われた。

 少しばかり血は出たが、大した量でもないし、多少の無茶は覚悟の上だ。

 

「それよりも、早速新品の服汚しちまった・・・・・」

 

 個人的には痛みや傷よりも、そっちの方が大変だった。

 こうまでした甲斐あって、記録としては悪くない数値は残せた。それでも、これはなかなかにキツい。

 砂汚れっていうのは案外落ちにくい。

 油汚れみたいに洗剤で溶けないし、繊維の奥に砂が入り込んでなかなかしつこいのだ。

 この手の汚れを落とすには、手揉みも含めて根気強く洗濯するしかない。

 まだ入学初日というのに、こうもはやく汚す事になるとは、偏に己の未熟さ故か。

 

「おーい、衛宮くん!」

「飯田くん?」

 

 呼び声に反応してみれば、既に立ち幅跳びを終えていた飯田くんが何やら走り寄ってきていた。

 

「どうかしたのか?」

「いや、どうもこうも凄い勢いで転がり込んでたから、無事か確かめに来たんだ。見たところ、血が出てるみたいだが――」

 

 傷口を覗き込む彼は少し心配げな顔をしている。

 初対面の時点で真面目な人だとは思っていたけど、まさかわざわざ様子を見に来てくれるとは。

 ヒーロー科の人間は、つくづく良い人たちの集まりだ、と感動を覚える。

 

「心配させて悪い。でも、出血はたかが知れてるし、運動してればこれぐらいの傷はよくあることだよ。まあ、服が汚れたのはちょっと気になるけど」

「大事ないなら構わないんだ。・・・・・しかし、傷を無視して汚れの方を心配するのか・・・・・」

「いや、砂汚れって結構面倒だぞ。洗っても洗っても、なかなか落ちきらないんだよ」

 

 こういうの、実際にやってみないと、その苦労は分からないもんだ。

 施設のわんぱく坊主達も、言ってもなかなか聞かなかった。

 一度、自分達で汚した服を彼ら自身に汚れが落ちるまで洗わせる、という荒治療をやってからは、無闇に汚すことも無くなった。

 きっと、洗濯がどれほど面倒なことか分かり、その上でもう二度とやらされたくないと思ったんだろう。

 

「もしかして、衛宮くんは自分で洗濯をしているのか?」

「ん?・・・・・ああ、洗濯だけといわず、大抵の家事はやってるぞ」

「なんと――!」

 

 おお、なんて感じで如何にもな驚き方をする飯田くん。

 まあ、掃除だけ、とか。料理は、とか。特定の家事をやってる学生は珍しくないだろうが、家事全般こなしてる奴はなかなか稀だろう。

 子供の時分は、やはり親に任せるのが自然な流れだろうし。

 

「――もしや、朝言っていた早起きの原因はそれか?」

「そうだな。朝飯の準備したり、下の子達を起こしたり、その他色々とやる事が多いから、必然的に朝は早くなる」

「それは、なんというか、すごいな・・・・・」

 

 飯田くんの驚きに、なにやら別な色が混じった気がするが、気にしないようにする。

 というより、なんて思われてるのかなんとなく分かる・・・・・分かってしまう。

 

・・・・・中一ぶりだなぁ、この反応。

 

 かつて中学で同級生と交流した際、こういった反応はよく見てきた。

 言いたいことは分かるし、彼らの言い分も分かるのだが、それにしたって気分のいい捉えられ方ではないのだ。

 なんで、今は知らんぷりする。

 実際に言われたら、その時はその時だ。

 

「――そういえば、飯田くんは測定、どうなかんじなんだ?」

「あ、ああ。今のところはまずまず、といったところだな。50m走は独壇場みたいな種目だったが、握力はあまり振るわなかった。立ち幅跳びはそれなりにというところだな。そっちはどうだった」

「握力は俺も素の身体能力での挑戦だから、全体的に見るとそんなにいい成績は残せてないな。50m走はそれなりにやれたと思う。立ち幅跳びはご覧の有り様」

 

 個性柄、お互いに得手不得手がはっきり分かれている。

 飯田くんの個性は『エンジン』らしく、脚力を活かせる種目は概ね良好な数値を残せるだろう。

 ただ、それ以外となると応用が効きにくい。

 ボール投げ、上体起こし、それから長座体前屈は、彼が如何に工夫できるかだろう。

 

「まあでも、種目の半分は脚力を活かせるものだし、飯田くんならまず確実に俺よりは上になるだろ」

「それは勿論だ。自分に有利なフィールドで簡単に上回られては、俺は己が情けなくなる」

「はは・・・・・」

 

 彼の言うことはもっともだが、そこまで大袈裟に捉えなくてもいいとは思う。

 まだまだ始まったばかり、自身に未熟な点があるのなら、これからの三年間でそれを埋めていけばいいだけだ。

 加えて、彼も多くの鍛錬を培っているのだろうし、そう易々と負けはしないだろう。

 

「さて。立ち話もこれぐらいにして、次の準備でもしとこう。四つ目は確か、反復横跳びだったよな」

「ああ。俺としても、ここで力を発揮しておきたいところだ」

 

 お互いの健闘を祈りつつ、それぞれの準備に取り掛かる。

 次の反復横跳びでは、飯田くんと違って俺は大して実力を発揮できない。

 というより、残る種目で大きな記録を狙えそうなのは、後はソフトボール投げぐらいだ。

 だから、それ以外で俺がやれる準備なんてのは、軽いストレッチ程度だ。

 

・・・・・今のところ、それでも最下位にはなりそうにないけど・・・・・

 

 存外、皆もこの個性把握テストに苦戦しているのだ。

 一部の汎用性の高い個性持ちや、そもそも素の身体能力が桁外れに高い連中は、大抵の種目はそつなくこなしてるけど、それ以外は良くも悪くも得意不得意が出ている。

 それに安心して油断する気など微塵もないが、わかっているクラスメイト達の個性や身体能力を見る限り、ぶっちぎりで最下位になる事は無いはずだ。

 

・・・・・というよりも、現状で一番まずいのは“彼”なんだよな。

 

 視線を巡らすと、すぐに目についた、緑色のもっさり頭。

 なんだか深い山の木々を思い起こしそうな頭髪が目印の同級生――緑谷出久。

 

 既に三つの種目が測定を終了し、次は折り返しとなる四種目だ。

 50m走、握力測定、立ち幅跳び。

 それら三つの測定で、彼は個性を使っていない。

 三種も行えば、一度くらいは個性を活用しても良さそうなのに、その気配はまるでない。

 どの測定にしても、今のところ彼は純粋な身体能力のみで挑んでいる。

 

 無個性ではないだろう。そう言うには、彼の身体能力はそれなりには鍛えている程度のもので、常人の範疇を出ない。

 少なくとも、彼の身体能力のみでは雄英の厳しい入試を超えられはしないだろう。

 個性を有していることはまず間違いない。

 ここまで使わなかったのはたまたま相性が悪く、ここから他の種目で巻き返すつもりなのか。

 

・・・・・どう見たって、そういう感じには思えないんだよなぁ。

 

 次で半分とはいえ、まだまだ始まったばかりだ。

 ここまでの記録が振るわずとも、いくらでも挽回のチャンスはある。にもかかわらず、彼の表情は必死そのもので、顔色はいっそ青褪めていると言えるほどに悪い。

 相澤先生の話を真に受けているのと、現状に一切の余裕が無い事の証左だ。

 このままでは、遅かれ早かれ潰れてしまいそうだ。

 

・・・・・流石に、ほっとけないか。

 

 或いは余計な心配で、まだどうにかできる秘策があるのかもしれない。

 けれど。血色の悪い顔で、種目を経るごとに表情を歪ませ苦しんで――それでも、諦めずに食いついている。

 決して力強くはない。どんな苦境も乗り越えてやるのだと、そんな風に言える心意気はない。

 ただ、それでも諦めたくないと。こんなところで立ち止まりたくないのだと――そう、死に物狂いで挑みかかるその姿が、眩しく思えた。

 

――だから、というわけではないけど。

 

 杞憂であればそれでいい。

 彼がまだやれるのだというのなら、ただ要らぬお節介焼いたのだと、俺が詫びればいい。

 それでも、本当に彼が追い詰められているのだとしたら。

 

・・・・・あんな風に頑張れるやつと、初日に別れるのことになるのは嫌だな。

 

 実に自分勝手な理由で動いてる、とは自覚してる。

 けど、せっかく一緒のクラスになれて、彼自身も必死の思いでここまで来ているのだ。

 それがこんなつまらない所で終わってしまうなど、それこそ見過ごせない。

 

「――よ。調子はどうだ?」

「え――!?あ、あの、えっと・・・・・」

 

 息を整える緑谷に歩み寄り、出来るだけ気さくに話しかける。

 彼が登校してきた時、少しだけ人見知りの気があるのが見て取れたから、彼が緊張してしまわないようにしたつもりだったが、やはりいきなり声をかけられて、驚いたようだった。

 こういう時、己の無愛想さを呪いたくなる。

 

「悪い、驚かすつもりはなくて、ただ、話がしたかっただけなんだ」

「えっと、そ、そうなんだ・・・・・」

 

 一拍おいて落ち着いたのか、普通に会話できるぐらいには、こっちを受け入れてくれたみたいだ。

 

「緑谷っていうんだろ?朝、飯田くんと話してるの聞こえてたから」

「う、うん、そう。緑谷出久っていうんだ」

「俺は衛宮士郎だ。よろしく頼む」

 

 手を差し出し、彼の反応を待つ。

 彼もすぐにその意味を理解してくれたのか、おずおずといった感じで握りしめてくれる。

 

「うん。よろしく、衛宮くん」

 

 手を握り返す時、さっきまで追い詰められていたような表情が、ほんの僅かだが和らいだ。

 それに内心でホッとしつつ、軽く握りしめた互いの手を解す。

 

「そ、それで衛宮くんは、どうして僕のところに・・・・・?」

「あー、いや。さっき言ったみたいに、ちょっと話に来ただけだから、そんなに構えなくていいぞ」

 

 そうなの、と怪訝そうな顔をする緑谷。

 まさか、お前が心配で見に来ました、なんて言えない。

 そんなこと言ったら、余計に恐縮するか、もっと驚かれるかの二択だ。

 

「それより緑谷。ちゃんと水分取ってるか?さっきから見てると、顔色が良くないぞ」

「え!?・・・・・いや、飲み物は持ってきてないけど、大丈夫、だよ」

「馬鹿。春先とはいえ、お天道さんの下で運動してるんだから、汗ぐらいかくだろ。――ほら、俺ので悪いけど、今のうちに飲んどけ」

 

 あたふたと手を振って取り繕う緑谷を無視し、少々強引に持参したスポーツドリンクを渡す。

 気分が悪かったり、精神的に参ってる時は、とりあえず水分をとって落ち着くに限る。

 押し付けられた緑谷も断ろうとしていたが、俺が梃子でも動かないもんだから、根負けして大人しく受け取った。

 

「・・・・・えっと。じゃあ、いただきます」

「ああ。遠慮せずに飲んでくれ」

 

 ボトルを傾け、ゆっくりと中身を飲み下していく。

 数秒、同じ姿勢のまま飲み続け、しばらくしたら満足したのか、プハー、なんてお決まりの声を発する。

 

「ありがとう。――少し落ち着いたよ」

「どういたしまして。緑谷もこれからは自前で用意しといた方がいいぞ。こういうの、これからもあるだろうし」

 

 ボトルをしまい、一言だけお小言を。

 これから徐々に気温は上がっていく。

 運動着着てグラウンドに出るよう指示されてるんだから、運動するのは分かりきっている。

 この歳になって、日差しにやられて体調不良など起こしたくはない。

 

「――それでさ。最初の話に戻るんだけど、緑谷は今のところ、調子はどうだ?」

「うっ・・・・・」

 

 緑谷は嫌なことを思い出した、みたいな顔をし、また顔色が悪くなり始める。

 一旦、忘れ気味になってたけど、まあ現状が変わらないのは事実だしな。

 

「その様子だと、今のところは厳しそうか。個性は使えないのか?」

「・・・・・うん。個性自体は使えるんだけど、今の僕じゃほとんど制御できなくって、細かな調整もできないから、反動で体を壊しちゃうんだ」

「・・・・・・・・・・」

 

 妙な話だ。

 個性は生まれついてのもので、その成長と共に体に馴染んでいき、当人もまた徐々に制御を覚える。

 これまでおよそ十六年。

 それだけの歳月があれば、たとえ全く個性を使わなかったとしても、それは彼の体に馴染んだものであるはずだ。

 それが全くと言っていいほど制御不能など、まずあり得ない。

 

「何か、事情があるのか・・・・・?」

「え、っと。僕、去年まで“無個性”だと思ってて、それが、たまたまあるってわかって、その・・・・・」

 

 自分の個性について、緑谷は言い淀んでいる。

 何か言いたくないことでもあるのか、言えない事情でもあるのか。

 別に、ここで緑谷の個性について聞き出したいわけじゃないし、ただおかしな事があるのだと、不思議に思っただけだ。

 彼が言いたくないのなら、特に聞く気もない。それに、

 

・・・・・人に言えない個性、って言うのなら、俺も同じだしな。

 

 自分自身、個性についてみだりに公言できない身だ。

 役所に提出する個性登録だって、お偉いさんの意向も汲んでただの創造型の個性としか記入していない。

 だから、緑谷にとって、それが触れてほしくない秘部なら、あえて踏み込む必要はない。

 

「――そうか、それは難儀だな。しかし、どうにかできないのか、それは」

「・・・・・うん。今の僕には、“0か100“しかできなくて、一度でも使えばその時点で・・・・・」

「・・・・・・・・ふむ」

 

 難儀なものとは言ったが、そこまで両極端とは。

 確かにそれなら、無闇に個性を使うわけにもいくまい。

 大方、入試ではその一回こっきりの切り札を使い、見事に結果を残してみせたのだろう。

 傷の方も、雄英に勤めているというリカバリーガールが治癒した、というところか。

 

 だがそれでは、この個性把握テストで結果を残すのは厳しいだろう。

 最後の最後に自傷覚悟という手もあるが、生憎最終種目は長座体前屈。

 反動と言うあたり、増強型だろう緑谷の個性は対して活かせない。

 このままいけば、最下位は確実。

 

・・・・・どうしたもんかなぁ。

 

 いっそのこと、相澤先生の発言は最下位が除籍という意味ではない、と伝えるか。

 いや、アレはあくまで俺の推論であって、確実に大丈夫とは言い切れない。

 もしこれで安心してしまった緑谷が、ろくな結果を出せないまま、“見込み無し”と判断されてしまっては元も子もない。

 そうなると、俺にできることは・・・・・

 

「――なあ、緑谷。俺の個性について、少しだけ話していいか?」

「えっと、全然大丈夫だけど・・・・・」

 

 緑谷は戸惑いつつも、了承の返事をしてくれた。

 では、お許しも出たことだし、ほんの僅かばかりの助力となれる事を祈って。

 

 

「俺の個性、“投影”っていうんだけどさ。簡単に言えば物を生み出す能力で、特に刀剣の類に特化してる」

「・・・・・・・」

 

 緑谷は静かに話を聞いている。

 俺の意図が分からないからか、ただ邪魔をしないようにしてくれているだけか――それとも、何かを見つけようとしているのか。

 

「便利そうな個性に思われるんだけどさ、実際には相当、扱いが難しい代物なんだ――それこそ、制御を誤れば命を落とすほどに」

「っ・・・・・!?命って、衛宮くんそれは――」

「心配しなくても、今はちゃんと扱えてるし、失敗して死ぬなんてことは無いよ」

「そ、それならよかった・・・・・」

 

 いきなり飛び出してきた、死という存在に驚いた様子だが、今は何ともないので、問題はないと安心させる。

 こちらを慮ってくれるのはありがたいが、今はできれば自分の事に注力してもらいたい。

 

「それで続きなんだが。今言ったみたいに、俺の個性は制御するのにも命懸けでさ。昔は苦労したし、個性の訓練をする度に何度も死にかけた」

「っ・・・・・」

 

 かつての経験を聞き、緑谷が息を呑むのが分かる。

 おそらく、叫びそうにでもなったのを、咄嗟に止めてくれたんだろう。

 それに感謝しつつ、話を続ける

 

「そんな風だったから、俺はある時から、一つの指針を立てたんだ」

「指針・・・・・?」

「ああ。自分が何をするのか、どうやって行使するのか。まあ、目的設定みたいなものだな」

 

 その頃からだろう。

 俺が、徐々に自らの個性を扱えるようになったのは。

 

「常に命懸け。少しでも雑念が入れば失敗する――だから、自分の中から自己というものを悉く排して、自分をただ一つの目的の為に稼働する機械のようにした」

 

 衛宮士郎の個性とは、詰まるところ心の戦い。

 如何に自らを律し、強固な精神を保てるかが全てだった。

 だから、心が揺れれば個性は行使できず、鈍な精神では刃が容易くこの身を切り裂く。

 

「たった一つ、決して譲れないモノを心の中心に据えて、それを果たす為にはどうすればいいのか。その工程を、徹底的に突き詰める」

「たった一つ、決して譲れないモノ・・・・・」

 

 その、“炉心”ともいうべきものを常に目指すことで、最適な方法を模索し続けられる。

 逆を言えば、それを失った衛宮士郎は、ガラクタも同然なのだ。

 

「そういうのは、緑谷の中にもあるんだと思う。それが何かは人それぞれだけど。重要なのは、そのために自分をどうやって運用するか、だと思ってる」

「・・・・・自分自身の、運用方法」

 

 独り言のように反芻する、緑谷。

 ブツブツと何事かを呟き、考えに没頭していってるのが分かる。

 それはさっきまで、必死にもがき苦しんでいた顔とは違う――明確に、為すべき事を見つけたやつの貌だ。

 

・・・・・ちょっとは、役に立てたかな。

 

 もしかしたら、緑谷は自力で答えを見つけていたのかもしれない。

 それでも、俺の話なんかで力になれて、彼が自分の夢を追っていけるのなら、それはとても喜ばしいことだ。

 

「・・・・・俺も、そろそろ次の番が回ってくる頃だ。長話に付き合わせて悪かったな。そっちも頑張れよ」

「あっ、待って、衛宮くん・・・・・!」

 

 呼び止める声に足を止め、もう一度緑谷と向き合う。

 彼はしばらく、クシャクシャと表情を変えて、百面相していたけど、やがって意を結したように顔を上げ、真っ直ぐに俺を見つめ返す。

 そこにはもう、さっきまでの弱った顔はなく、恐れながらも立ち向かおうとする、“強い”貌があった。

 

「僕も、絶対残れるように頑張るから――だから、衛宮くんも頑張って!」

「――ああ。俺も、こんな所で躓く気は無い」

 

 ギュッと拳を握り締め、シンプルながら精一杯の声援を送ってくれる緑谷。

 それに対し、こちらも強く誓いを抱いて、己が理想を貫くのだと示してみせる。

 結果はどうなるかは分からない。

 ただ、これだけは確かだ。

 

――緑谷出久は、強い人間だ。

 

 

 

 

 

 

 自分の番も終わり、反復横跳びは可も不可もなく完了した。

 個性を活かして出来るだけいい結果を残したいものだが、現段階における衛宮士郎の個性では、あまり有用な手は無かった。

 逆に、あのエロの化身のような生徒――峰田実というらしい――は、反発作用でもあるのか、自らの頭髪を捥いで(直ぐに新しいのが生えていた)左右に積み重ねることで、その反動で凄まじい回数を稼いでいた。

 やはり雄英に合格しただけあって、エロ魔人なだけ、というわけではないようだった。

 

・・・・・次は、いよいよソフトボール投げか。

 

 俺が考えられる限り、ここが最後の稼ぎどころだ。

 ダントツでクラストップ・・・・・なんていうのは、まあ不可能だが、それでも相応の結果は残してみせる。

 爆豪みたいに、700m弱は無理だが、せめて近づくことはできるはずだ。

 

・・・・・次の人は確か、朝に緑谷と話してた子か。

 

 ボブカットにした茶髪と、丸みを帯びた愛嬌のある顔立ちが人好きのしそうな女子。

 ちらっと視線を向ければ、既にサークルに立ち投球準備にかかっている。

 彼女も確か、さほど大きな記録を残していない人物の一人だった。

 どんな個性を持っているのか判然としなかったが、ここでその実態が分かるか。

 

・・・・・雄英にまで届いた人たちの個性・・・・・知っておけば、いずれ何かの役に立つ筈だ。

 

 情報とは、ただ知っているだけでも大きな意味を持つ。

 誰が何を出来るのか、どうやって為すのか。そういうのは知れば知るほど、自分の力になる。

 敵であれば対抗策を、味方であれば連携の強化を。

 情報はあればあるほど、それだけ自分が取れる択が増える。

 

・・・・・いやそれにしても、かなりリラックスしてるな。

 

 これからそのボールを遠くにまで投げ飛ばそうというのに、彼女はあまり気を張ってはいない。

 のほほん、とした感じでいかにも自然体だ。

 その余裕のある顔から、おそらくは相当に自信があるのだろうが、とても大きな数値を叩き出せそうな雰囲気は感じない。

 それどころ、あんな体勢では碌に飛ばす事も出来ないはずだが・・・・・

 

「てーい!」

 

 とても可愛らしい掛け声と共に、全く腰の入っていないピッチングを行う。

 思った通り、全く勢いの無いヘロヘロとした急速で・・・・・って、ちょっと待て。

 

「あれでなんで飛んでく・・・・・というか、どこまで行くんだよ!?」

 

 上下にブレっブレの波打った軌道を描いて、今にも着弾しそうな癖に、そんな様子一切見せず延々と上昇していく。

 投げた本人は、おー、とでも聞こえてきそうな顔で、ボールの行く末を見守っている。

 そして、実際に出た記録は――

 

「――∞!?」

 

 いったいどこまで飛んでいったのか。

 正確な数値を記録できる特注のボールが、計測不能と判断した結果。

 おそらくは、今なお空の彼方まで進んでいるのだろう。

 

・・・・・まさか、成層圏越えた、なんて言わないよな。

 

 流石にそこまでとは考えたくないが、∞という記録は伊達ではない。

 加えて、今の様子からして彼女の個性は対象に浮力を付与するか、或いは重力そのものに干渉しているかのどちらか。

 特に、対象の重力そのものを無<ゼロ>にする個性であれば、障害にぶつかるまでその進行は止まらないはずだ。

 

「今更ながら、とんでもないな。ヒーロー科・・・・・・」

 

 当然といえばそこまでだが、流石に全国から選りすぐりの学生が集められただけあって、誰も彼も百人といない逸材ばかりだ。

 こうまですごい人達の中にいると、少々気後れしてしまうが、それぐらいでめげるほど柔じゃない。

 

「次だ。――衛宮士郎、円に立て」

 

 相澤先生からの指示を受け、ボールを手にサークル内に移動する。

 これまでの種目違って、このソフトボール投げはかなりルールが緩い。何せ、円から出なければそれでいいのだ。

 俺自身、大した動作を必要ともしていない。

 ここがおそらく、衛宮士郎にとっての勝負所だ。

 

「投影開始<トレース・オン>」

 

 自己に埋没し、記憶の海より引き出すは、使い慣れた黒の大弓。

 色々と考えはしたが、何かを射出するという行為においては、俺にとってこれが最も性に合っている。

 

・・・・・そのまま矢に刺す、なんてことも考えたけど。

 

 初めから矢の先端にボールを突き刺してしまえば、普段の要領通りでやれる。

 ただその場合、どうしてもボールに傷を付けてしまう。相澤先生は最初の時点で壊すな、と言っていたのだ、それを破るわけにもいかない。

 そうなると、直接ボールを打ち出す他ない。

 

「なあなあ、あれって弓だよな」

「まさか、あれで飛ばすんか・・・・・?」

 

 投影した弓を目にして、見学しているクラスメイト達がにわかに沸き立つ。

 おそらく、普段から見慣れない物であるが故に、物珍しいのだろう。

 だが、今はそちらを気にしている暇は無い。

 

・・・・・チャンスは二回か。

 

 それだけあれば、初の試みを試すには十分だ。

 

「――――ふぅ」

 

 息を吐き、矢として放つボールを弦に添える。

 そのまま、一拍置いて――

 

「・・・・・あれ?あんまとんでない?」

 

 周囲から、ザワザワと戸惑った声が聞こえる。

 当然だ。わざわざ弓を使って飛ばしたというのに、普通に投げるのと大した変わらない飛距離でしかないのだから。

 これでは、期待はずれも良いとこだろう。

 

――もっとも、本番はここからだ。

 

 第一投は、完全に捨て球。

 慣れない作業だから、どうしても感覚を掴んでおきたかった。

 故に、衛宮士郎の真骨頂は、これより試される。

 

「――投影開始<トレース・オン>」

 

 既に生み出していた弓を無に返し、再度投影を行う。

 だが、今度の弓はそれよりさらに長大。普段使い慣れたそれに比べれば、二回りは大きい。

 それに合わせて、弦の張りもより強くしてある。

 それこそ、己の膂力ではなんとか引き絞る事ができる、程のもの。

 

「――相澤先生」

「・・・・・何だ?」

 

 弓を投影した後、先生の一応の確認をしておく。

 より遠くまで飛ばすには、どうしても必要な工程なのだ。

 

「ちょっと、地面に穴を開けることになるんですけど、いいですか?」

「・・・・・好きにしろ。ただし、開けた穴は自分で埋めろ」

「ありがとうございます」

 

 正式にお許しも出たところで、今度こそ本番。

 これだけの剛弓、ただ引くだけでは碌に扱えもしない。

 だからより安定するように、弓の端を地面に埋め突き立て、弓そのものを固定する。

 

「――よし」

 

 弓は真っ直ぐに突き立てるのではなく、斜め上を向くように固定し、自身も片脚で跪く様に構える。

 弓本体は形状を変え、中央に射出口を備えてある。これならば、より安定した射が可能だ。

 

「――――――」

 

 深く息を吸い込み、己が目指す遥か彼方を見据える。

 これより射を終えるまで、衛宮士郎は外界より切り離される。

 周囲の喧騒は消え、木々の掠れも、風の音さえも聞こえない、完全なる無音。

 

 軌道は弧を描くように、放物線を目指す。

 引き絞る腕はかけられる負荷に悲鳴を上げ、筋繊維が徐々に千切れていくのが分かる。

 その痛みの全てを無視し、

 

――残心。

 

「――――」

 

 矢とした球は思い描いた通りの軌道を描き、遥か遠方で着弾。――いや、それ以上。

 途中、上空で風をうまく捉えたのか、想定より少し先に届いた。

 

「――ん?」

 

 弓を虚空へと消し、記録を確認しようと思って後ろを振り返ると、何故か皆して固まっている。

 なにやら眼を見開いている者いれば、大口開けてるやつもいる。

 いったい何に対してそんな顔してるのかは分からないが、各々目と喉の乾燥には気を付けてほしい。

 

「先生。記録はどうでしたか」

「・・・・・ああ。600.5mだ。地面を埋めて、次のやつと替われ」

「分かりました」

 

 記録を教えてもらい、最初の条件通りに掘った穴を埋めて次にバトンタッチする。

 試みとしては初だった為、形になるかは不安であったが、二投与えられていたのが幸いした。

 後は、残る種目を全力でやりきるだけだ。

 

・・・・・それにしても、なんか静か過ぎないか。

 

 バトンタッチした、男子生徒――確か、尾白くんだった。

 彼は既に測定に入っているので別として、なんだか周りが妙に閑散としている。

 今までの彼らの様子からして、話し声のひとつやふたつは聞こえてきてもおかしくなさそうだが、そういった気配はない。

 ただ、皆の輪に戻ったあたりから、チラホラ視線を感じるのが気になる。

 

「――衛宮くん、少しいいか?」

「ん・・・・・?」

 

 すでに測定を終えた者同士の飯田くんに呼びかけられた。

 なにやら複雑な表情をしているが、いったいどうしたのか。

 

「どうしたんだ?」

「一つ聞きたいんだが、君の個性は創造系、で合っていたよな?」

「ああ。見たまんまだぞ」

 

 朝初めて出会った時も、軽い触りは彼にも教えている。

 測定中も、何度かその様子は見ているはずだ。

 なのにここでまた同じ事を聞いてくるというのは、いったいどういう了見なのか。

 

「・・・・・いや、それならさっきの感覚はいったいなんだったのか、と気になったんだ」

「感覚・・・・・?」

 

 出てきた言葉に、全く理解が及ばない。

 おそらく、俺の行動に何か感じる物があったんだろうが、生憎俺の個性は基本的に物を創造するだけだ。

 間違っても、他人の感覚器官に影響を及ぼす様な力は無い。

 

「何と言えばいいのか、俺としても言語しずらいんだが・・・・・君が弓を引いていた時、まるで呑み込まれた様な、圧倒されたかの様な感じがしたんだ」

「・・・・・ああ、そういうことか」

 

 飯田くんの言葉を聞き、ようやく言っている意味が分かった。

 なるほど。それは確かに、経験してみないと正体の分からない感覚だろう。

 

「あいにく個性でもなんでもない、ただ雰囲気に感化されただけだよ」

「雰囲気・・・・・?いや、そんな馬鹿な」

「テレビで弓道の大会の様子とか見た事ないか?ああいうのって、本質的には無心である事が肝だからさ、とにかく無我を目指すんだ」

 

 弓道とは究極、自己の廃絶が目標だ。

 如何に我を消し去り、どれだけ静かな心でいられるか。弓道が目指すのは、完全な無我の境地。

 そんな話を、幼い頃にどこだったかで聞いて、それが自身の個性と通ずるものがあると感じ、それ以来弓を引き始めた。

 

 徹底的な自己の排他は、それだけで一個の極小の世界を形創る。

 己以外何もなく、余分な思念は一つもない無音の世界。

 そしてそれは、時によっては周囲をも巻き込むことがある。

 自己以外の不純物は、それ故に同化するように、当人の意識に影響される。

 弓の世界では、そういった極地に至った人が僅かながらに存在するらしい。

 

「まあ、言ってみれば場酔い、所謂プラシーボ効果だ。少し他人の気配に当てられただけで、何も実害は無いよ」

「それはそうだろうが・・・・・それに、君の言ってる事が正しければ、君はそういった達人と同等ということじゃないか」

「――まさか。俺なんかまだまだ半人前だよ。今回、飯田くん達が影響を受けたのは、今まで触れた事のない初めての感覚だったからで、俺はそんな境地には達してないさ」

 

 弓の腕には少々自信はあるが、それは結局のところ、個性鍛錬の副産物でしかない。

 無心でなければ死に直結するほど扱いづらい個性の制御を鍛えた結果、この年にしては異様に早く無我でいられるというだけで、本当にその道を極めた一流には到底及ばない。

 

「・・・・・そうか。まだ分からない部分もあるが、さっきの感覚の正体は理解した。測定終わりに邪魔して済まなかった」

「こんなことぐらい、全然問題ないぞ」

 

 飯田くんはようやく納得したのか、ひとまず俺の話を受け入れた。

 まあ、こういうのは実際に関わってみないと分からないものだから、戸惑うのも無理はない。

 もしかしたら、他のクラスメイトにも同じ事聞かれるかもしれないな。その時は、出来るだけ分かりやすく説明できる様にしておこう。

 

・・・・・結構、回ったな。

 

 飯田くんと話してるうち、にかなりの人数が測定を済ませていた。

 皆それぞれ、己の持ち味を活かして臨んでいる。

 そして、次の生徒は――

 

・・・・・遂にか、緑谷。

 

 目立つ緑色の髪が、歩き出す彼に合わせて揺れる。

 まだ色々と葛藤していそうな顔だが、少なくともその眼に宿った色は、決して諦めのそれではない。

 

「・・・・・」

「あっ・・・・・」

 

 サークルに歩み出そうとする緑谷、ふと目が合った。

 何か言った方がいいかとも一瞬、考えたが、おそらく余計な言葉は不要だ。

 なら、俺が今やれることおといえば、

 

・・・・・見せつけてやれ、緑谷。

 

 声援は心の中に留めて。

 声はなく、ただやってやれ、という意を込めて、軽く腕を上げサムズアップ。

 

「っ・・・・・!」

 

 こちらの意図を察したのか、彼もまた同じ様に指を突き立てる。

 そこにさっきまでの迷いはなく、今度こそ決意を固めた人間の顔があった。

 

 彼がどんな秘策を思いついたのかは分からない。

 ただ、あんな風に前を向いている人間が、ただの無謀で動いているはずもない。

 そして、何より予感があるのだ。

 

――緑谷出久は、これよりとんでもないことをやってのけると。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 いよいよ順番が回ってきて、その白い円の中に立つ。

 与えられたチャンスは二回。その二度のうちに、大きな記録を残さなくてはいけない。

 

・・・・・残る種目は三つ。それぞれの特徴を考えて、多分ここがラストチャンス。

 

 自らが与えられ”受け継いだ個性“。

 今までこの体の中に無かった力は、使えば容易くこの命を危ぶめるほど、途方もなく強大なモノ。

 

 この力を発揮する為、いろんな事を考えた。

 考えて考えて考えて・・・・・繰り返し何度も考えて、その度に方法は頭の中に浮かんで――その殆どを打ち消す。

 そんな事を何度も繰り返し、それでも光明が見えてこなかった。

 今この瞬間も、自らが望む通りに力を調節出来る術は思いつかない。けど・・・・・

 

――重要なのは、そのためにどうやって自分を運用するか、だと思ってる。

 

 自分とは事情も背景も全く異なるクラスメイト。

 扱う力もまた別物で――そのためのリスクが、どうしようもなく近しかった。

 幼い頃から何度も死にかけて、その度に体を酷使してきたと、彼は言った。

 それでも。そんな扱いずらい個性を磨き続け、ここまでやってきた。

 

・・・・・とても、強い人だ。

 

 僕が子供の頃なんか、何にも取り柄がなくて、ただ憧れた人の影を追って、意地悪だけどとてもすごい幼馴染の後をついて回るだけだった。

 いつか、自分も彼らのように成れたらと、ただ憧れていただけの日々。

 そんな時にはもう、彼は自分の命をかけて自らの力に向き合っていた。

 当時の僕にはきっと、とても真似できないだろう。

 

――そういうのは、緑谷の中にもあるんだと思う。

 

 そんな強い人が、自らに定めた、たった一つの決して譲れないモノ。

 それと同じモノが、僕の中にもあるのだと言ってくれた。

 その時が初めての会話で、彼は僕が何に憧れているのか、何を背負っているのかなんて、何一つ知りもしない――それでも、僕ならきっとやれるだろうと、そう思ってくれていた。

 

・・・・・ああ。

 

 これが、二度目だった。

 昔から力が無くて、“個性”も出なくて、ただ憧れた人達を見上げていただけの僕を。

 何も持っていなかった僕を、それでも信じてくれたのは、彼が二人目だった。

 

・・・・・だったら、応えないと。

 

 “あの人が”僕を選んでくれたのを。彼が僕を信じてくれたのを。

 生まれてこれまで、ほとんど向けられてこなかったこの信頼を、決して裏切りたくはない。

 

「――――っ!」

 

 覚悟を決めて、今度こそ投球に移る。

 全力で力を使って、それで行動不能になるのは論外だ。

 未だに力は制御しきれない。望んだ出力に調整するなど、到底できない。

 

・・・・・けど、それなら・・・・・!

 

 今の緑谷出久には、決して成し得ない。使った瞬間、体が壊れる。

 しかし、だからこそ。

 今のままではいけない。憧れたヒーローになんて、成れっこない。

 彼や多くの人が長い時間をかけて自分を鍛えてきたというのなら、僕はその何倍も頑張らないといけない。

 

・・・・・今の自分にできる全力で、僕にできることをッ!!!

 

 この身に宿った力を全力で――ただ、“一指のみ”に集中して――

 

・・・・・SMASH――ッッッ!!!!

 

 ボールは、遥か彼方まで飛んでいく。

 遠く遠く、肉眼では見えないほど遠く。

 今までの自分では到底不可能な――けれど、今の自分ができる全力の結果。

 

「・・・・・っ」

 

 痛みが頭を埋め尽くしそうになる。

 人差し指は赤黒く腫れ上がり、筋繊維は軒並み断裂、骨も当然無事ではない。

 それでも、

 

「まだ、動けるっ・・・・・!」

 

 誰に言うでもない確認。

 力は調整できない、体を壊す力を全力で行使した。

 それでも、この体は動かせる。

 まだこれから先、やりきれる!

 

「705.3m・・・・・本来ならもう一投だが、その様子じゃ難しいだろう。記録としても十分だ。戻っていいぞ」

「・・・・・は、いっ!」

 

 痛みに堪えながら、なんとか先生に返答し、その場を動く。

 歩く度に、その振動が指に響く。けれど、ここでめげてちゃ次の測定には移れない。

 早く戻って、少しでも痛みを引くようにしないと。

 

「・・・・・あ」

 

 その途中で、衛宮くんと目が合った。

 少し無愛想で、笑顔は見た事ないけど、真っ直ぐに僕を見据えている。

 

「――――」

 

 彼は無言のまま、僕に向かって片手を上げる。

 さっきと同じ。ただ、こうなると思っていた、と。

 そんな言葉が、聞こえたような気がした。

 

「――――」

 

 だから僕も、彼に無言で手を上げる。

 この仕草で、どれだけの想いが彼に伝わるかは分からないけど。それでも僕は、君が信じてくれた様にやれたのだと。

 痛みに歪んで、とても綺麗な顔だとは言えないけど。

 

――憧れたヒーローの様に、笑顔でその期待に応えた。

 

 

 

 

 

 

「デク、テメェどう言うわけだっ!!!」

「・・・・・なっ!?」

 

 こちらに戻ってくる緑谷に向けて、爆豪がこれまでにない激情で襲い掛かろうとする。

 全く前兆も予兆もない行動に一瞬、反応が遅れた。

 

・・・・・まずいっ!

 

 彼が何に対して憤っているのか分からないが、指を負傷した緑谷に攻撃させるわけにはいかない。

 一歩遅れたが、今からでも妨害は間に合う。

 

・・・・・あいつの横合いから、進行方向を遮る形で木刀を射出する!

 

「投影<トレース>――」

「――そこまでだ」

 

 自らの個性を行使する直前、一人の男が既に動いていた。

 

「・・・・・っ、んだ、これ・・・・・っ!」

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器だ。――暴れるなよ、個性消してあるからな」

「・・・・・っ!?」

 

 相澤先生が首元にマフラーのように巻いていた布に、その体を絡め取られ全く身動きが取れないでいる爆豪。

 おまけに、個性を消したという、その発言・・・・・

 

・・・・・抹消ヒーロー、イレイザーヘッド。話だけは聞いたことがある。

 

 プロヒーローの中には、一眼見ただけで対象の”個性を消し去る個性“を有する者がいると、ほんの僅かに聞いたことがあった。

 それがまさか、ここ雄英に勤める教員の一人だったとは。

 

・・・・・個性を消す個性・・・・・確かに、俺たち一年坊にはうってつけか。

 

 良くも悪くも、未だ未熟な駆け出し。

 個性絡みで何か不測の事態が起こっても、彼がいれば瞬く間に制圧が可能だ。

 彼が1-Aに充てられている理由は、おそらくそういうことだろう。

 

「あまり個性を使わせてくれるな――俺は、ドライアイなんだっ」

 

・・・・・もったいな!

 

 見ただけで相手の能力を封じるという、強力無比な力を有しながら、その利点が長時間使用できないとは。

 なんとも惜しい話だ。

 

 それから、相澤先生は次は無いと爆豪に告げ、この場はひとまずおさまった。

 緑谷もこちらに戻ってくる。

 

・・・・・それにしても。

 

 測定後、こちらが上げた腕に対し、痛みに苦しみながらも笑みを浮かべてこちらに応えた。

 掲げられたその手の一指は、ひどく腫れ上がって痛々しい。

 おそらく、あれでは歩いているだけで激痛に苛まれているだろう。

 それでもあんな風に笑えるのは、やはり彼の中に大切なナニカがあり、それに恥じないように生きているからか。

 最初に予想したように、やはり緑谷出久は強い人間だった。

 

・・・・・なんにせよ、あのままってわけにもいかないか。

 

 見ているだけでこっちまで痛くなりそうなあの指を、このまま放置しておくわけにはいかない。

 測定はまだ続くのだ。下手に動かして悪化でもしたら、それこそあいつの頑張りが無駄になる。

 

「お疲れ、緑谷。早速だけど、ちょっと手、出せ」

「え・・・・・?」

 

 待機場所に戻ってきた緑谷に対し、向こうが何か言う前に、そっとその手を取る。

 

・・・・・これはまた、かなり酷いな。

 

 無生物以外への解析は少し難しいのだが、そんなことも言ってられない。

 なんとか指の状況を解析し、その状態を把握する。

 

・・・・・指先から第二関節までの腫れ、中は筋繊維の断裂に内出血、おまけに骨もおじゃんだな。

 

 最初に緑谷が語った情報と、先ほどのボール投げの様子から、緑谷の個性はやはり規格外の超パワーといったところだろう。

 あれだけの出力、指の一本であそこまで飛距離を稼げるほどの威力だ、その反動は計り知れない。

 

「・・・・・緑谷、力抜いて自然にしてくれ。応急処置だけど、ひとまず固定する」

「う、うん・・・・・」

 

 緑谷は大人しくこちらの指示に従ってくれる。

 軽く曲げられた指に、投影した固定材で挟み込み、それを緩まないようにしっかりと包帯で巻きつける。

 

「・・・・・っ」

「――よし。急拵えで悪いが、ひとまずこれで耐えてくれ。終わったらすぐに保健室に行けよ」

「うん、ありがとう」

 

 処置を終えたので緑谷の手を解放する。

 彼は少し手を動かしたりして、調子を確かめている。

 

「どうだ、少しはマシになったか?」

「・・・・・うん。さっきよりは全然痛くないよ。ほんとにありがとう、衛宮くん」

「いや、俺が勝手にやったことだから、そんなに気にしなくていいよ」

 

 緑谷は見たところ、少し無茶をするきらいがある。

 あのまま測定などさせては、碌な記録も残せないだろう。

 俺としては、ここ一番で頑張れた彼が半端にこのテストを終えてしまうのは、どうにも我慢ならなかっただけの事だ。

 

「ううん、もちろん()()もそうなんだけどさ。さっき、衛宮くんがアドバイスしてくれたから、僕も自分の力を出せたんだ。だから――」

「ストップだ。生憎、何もしてないのに礼を受け取る主義はない。あれはお前が自力で手にした結果だよ。俺がいようがいまいが、お前はきっと、自分の中で解答を見つけてた筈だ」

 

 何を言おうとしたのかは知らないが、その言葉の方向性は大体察せられる。

 しかし、いま言ったようにこの結果は緑谷自身の力で成し遂げたもの。そのことで無関係な俺に礼など、それこそこいつ自身に向かって失礼だ。

 

「い、いやでもね!」

「でももへったくれもあるか。自分で掴み取った事なんだから、ちゃんと自分を誇ってやれってんだ、この馬鹿」

「馬鹿・・・・・!?」

 

 当然である。

 指一本お釈迦になるような事しといて、その成果を他人のおかげなんて言おうとしてる奴は、正真正銘のばかもんだ。

 そんなの、本人が認めても俺が認めない。

 

「いいから、今はとりあえず自分の体を労っとけ。まだテストだって終わってないんだ。すぐに次の測定始まるぞ」

「・・・・・うん。確かにその通りだ」

 

 俺の言葉にひとまず折れたのか、それともこれからの測定をどうするか考えてるのか。

 どっちにしろ、まだやるべきことはある。

 俺にしろ緑谷にしろ、油断してる暇なんて微塵もないのだ。

 

「ほら、そろそろ移動だ。俺たちもさっさと行こう」

 

 移動を促すつもりで、軽く緑谷の肩を叩く・・・・・ことはできないから、撫でるように添えるだけにして、先に進む。

 残る種目、緑谷に施した応急処置で、彼が何とか最後まで耐えてくれるといいのだが。

 

 

 

 

 

 

 全員分のソフトボール投げの計測を終えたあたりで、相澤は思わず溜息を吐きそうになった。

 原因は主に二人。

 一人は、衛宮士郎。

 その特異さと精神的な危うさから、同僚から様子を見ておくように頼まれた人物。

 そしてもう一人は、

 

・・・・・緑谷出久、まさかこうなるとは。

 

 先日の入試において、撃破ポイントゼロでありながら、救助ポイントのみで合格をもぎ取った異色の生徒。

 以前の映像では、その個性の制御も碌にできずに、肉体に致命的な反動を受けていた事から、今回のテストで相澤が真っ先に除籍候補者としてマークしていた。

 能力としても心構えとしても、“まだ”緑谷出久はヒーローに成り得ない人物だった。

 

・・・・・それが、ああも変わるか。

 

 ソフトボール投げまでは、はっきり言ってひどいモノだった。

 個性を使えずに測定を行なっているから当然、数値は低かった。ただそれ以上に、焦って追い詰められて行き詰まってるその心が、相澤にはどうしても見過ごせなかった。

 この段階で、彼は緑谷に見切りをつけるつもりだった。

 だが、反復横跳びを始める辺りから、その顔にそれまでになかった熱が篭った。

 

・・・・・衛宮士郎との関わりで、何かを掴んだか。

 

 立ち幅跳びを終えたところで、両者が接触していたのは知っている。

 その会話内容までは把握していないが、あれをきっかけに緑谷が吹っ切れたのは間違いない。

 事実、彼はソフトボール投げで個性を使用しながらも、行動不能になることは無かった。

 全身バラバラにしてしまうほどの強力なパワーを、指一本のみで行使する。

 最小限の被害で、最大限の利益。

 それは以前までの彼には、どうあっても為し得ないことだった。

 

・・・・・恨みますよ、“先輩”・・・・・

 

 表情にはおくびにも出さず、物憂れげな顔で依頼をしてきたミッドナイトに愚痴を吐く。

 同じ年に、同じくらい目の離せない問題児が、二人も揃ってしまった。

 通常の教師としての職務を果たしながら、この二人に対して常に気を張らなくてはならない。

 相澤としては実に頭の痛い話だった。

 

 もしミッドナイトからの頼みを聞いていなければ、こんな事で悩むことは無かったかもしれない。

 と、彼は考えているのだが。

 いずれにしろ二人とも彼が受け持った生徒。教師として、生徒ひとりひとりに真摯に向き合おうとする彼は、結局のところいずれはこの問題にぶち当たることに変わりはないのである。

 そんな事実など全く考えず、これからの教育方針について、彼は心中でさらに深く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ、結果発表だ」

 

 全種目の測定がつつがなく終了し、いよいよその評価が開示される時が来た。

 あれから俺は、残った種目を個性を使わず出来る限りの全力で乗りきった。

 結果としてはどの種目も、同年代の全国の平均的な数値よりは大きく上回っている――が、ここはヒーロー科なので、当然ながらクラス全体で見れば並かそれ以下だ。

 俺としては、自分の力を出し切ったので、特に不満はない。

 テストも大した問題もなく終わって、結果としても上々だろう。

 

・・・・・流石に、八百万の弾けっぷりには驚いたが。

 

 時は少し遡って、持久走測定時。

 測定が始まって、直後のことだった。

 凄まじい爆音が聞こえ、その方向を思わず見やった。

 そちらで待機していたのは、八百万だったのだが・・・・・

 

『マジか・・・・・』

 

 その時に目にしたのは、確かに八百万だった。

 しかし、そこにはエンジンを蒸し爆音を轟かせながら疾走する()()()に乗った彼女の姿があった。

 

・・・・・確かに創造の個性、って言ってたけどさ・・・・・。

 

 何でもアリとはいえ、それにしたって度肝を抜かれる。

 まさか体力測定の種目で、自身の身体能力を一切活かさず、完全に文明の利器に頼るとは。

 

・・・・・ていうか、八百万の個性はあんな物まで創れるのか。

 

 どこか近しい性質の個性持ち同士だと思っていたが、まさかこうまでかけ離れているとは。

 あんなの、俺の頭ではどうやったってイメージしきれない。

 当の八百万本人は測定終了後、いかにもやってやりましたわ!みたいな顔してこちらに小さく手を振ってたし。

 

・・・・・八百万よ、その姿には微笑ましいものを感じるが、俺はお前とお前の個性のぶっ飛び具合に恐れを抱いている。

 

 ちなみにだが。

 持久走での成績一位は当然、八百万だった。

 

――以上、回想終了。

 

 途中、色々とおかしなこともあったが、それでも概ね無事に終了した。

 後は結果がどうなっているか――そして、除籍の話がどうなっているのか、だ。

 

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭ではなく、一括で開示する」

 

 相澤先生がそう言った後、彼の持つ端末から、空中にデカデカと結果が投影された。

 合否通知と同じ、凄まじくハイテクだ。

 

・・・・・一位は八百万、流石だな。緑谷は・・・・・

 

 八百万の結果に得心しつつ、自分の順位はさほど気にならないので、緑谷がどうなったのかを探す。

 ボール投げの後、すぐに応急処置はしたから、痛みは多少マシになっていたはず。あとはあいつ次第だが・・・・・

 

・・・・・あった。順位は十九位・・・・・見事最下位回避だな。

 

 ソフトボール投げで指を痛めた後も、挫けずに全力を出しきった賜物だろう。

 これでひとまず、最下位による除籍という名目は躱せた。

 

・・・・・あとは、相澤先生がどう出るか・・・・・

 

 おそらく、なんらかの発表があるはずだと、先生を見つめる。

 そして、その予想が正しいのだと証明するかのように、彼は口を開く。

 

「――ちなみにだが、除籍の話は“嘘”な」

「「「・・・・・・・へ?」」」

 

 ちょっと忘れ物した、ぐらいの気軽さで。

 まるで重みを持たせず、意地の悪い笑みを浮かべてその真意を語る。

 

「君らの個性を最大限引き出すための、“合理的虚偽”」

「「「はぁああああああああああ!?」」」

 

 グラウンドいっぱいに、クラスメイト達の絶叫が響き渡る。

 そばで耳を塞ぐ間も無く叩きつけられたため、めちゃくちゃ痛い。

 

「よ、よがっだぁ・・・・・」

 

 先生の発言を受けて、最下位だった峰田がヘナヘナと脱力している。

 そらまあ、先生の話を信じてたなら、さっきの結果発表は死刑宣告そのものだったんだから、ああもなるだろう。

 

・・・・・しかし、合理的虚偽ね。

 

 相澤先生の話がどこまで本当だったのか。俺の推測は当たっていたのか。

 真実は、”彼のみぞ知る“といったところか。

 

・・・・・いずれにせよ、初日から脱落者が出る、なんて事にならなくて良かった。

 

 ヒーロー科での試練は、まだまだ始まったばかり。

 今日でこそ全員が無事に残れたわけだが、いつまたこんな事をやり始めるか分からない。

 またそのうち、似たような事をやらかす可能性は、いくらでもあるのだ。

 彼らにせよ、俺にせよ、今日残れた事実に安堵している暇など、ありはしないのだろう。

 

・・・・・まあ、それはそれとして。

 

 それでも、この雄英の洗礼とも言うべき試練を乗り越えたやつを労わる時間ぐらいは残っているはずだ。

 ここで何かしてやれることはないけど、今日一番頑張ったやつが保健室に向かう前に、一言労いの言葉をかける。

 それくらいの余暇は、きっと許されるだろう。

 

 




 どうも、緑谷くんの描写に四苦八苦したなんでさです。
 
 今回のお話では以前からの続きとなりますが、その中で最も苦しめられたのが緑谷くんでした。
 作者はFate及び型月にはそれなりにドップリと使っておりますが、ヒロアカは新参も新参。まだまだ知らないことも多々あり、衛宮士郎に対する解像度に比べれば、緑谷くんに対する理解度は浅いと言わざるを得ません。
 それでもアニメやネットでの情報から、作者が認識するこの時点における緑谷出久、は描写できたと思います。
 もしかしたら、ヒロアカファンの方には違和感ありますでしょうが、どうかこういうものと受け取っていただければありがたいです。
 勿論、感想欄などで違和感などをお書きになってもらっても構いません。むしろ足りない理解力が補われるので、作者としても大歓迎です。

 最後に補足といたしまして、今回の個性把握テストで緑谷くんが最下位になっていなかったのは、士郎が指の負傷に簡易的に処置を施したがため、とお考えください。
 アニメを見てると、緑谷くんは単純な身体能力では相応に高いものがあるように見えたので、傷さえ響かなければ、もうちょっとマシになっていたんじゃないか、という作者の想像の結果です。

 今回にて遂に邂逅を果たした正義の味方とヒーローの雛型達、今後の展開で二人がどう影響しあっていくのか、これからのお話をお待ちください。

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