尽きぬ憧憬   作:なんでさ

7 / 19
 前話後書きにて記載しましたように、2話連続投稿となっております。前話「紅い背中」が、前回更新からの続きとなっておりますので、そちらからご覧ください。


氷ついた迷宮

 

 グラウンドβで執り行われる戦闘訓練。

 それは屋内戦を想定した、生徒同士のぶつかり合いだった。

 

 二人一組のチームを組み、それぞれヒーロー側<アタッカー>とヴィラン側<ディフェンダー>に分かれて戦う訓練形式。

 ヴィラン側は指定された建物に籠城し、核兵器の起動準備中という設定。そしてヒーロー側はこれを阻止する為、敵アジトに潜入するというルールだ。

 双方、相手メンバー全員の捕縛が共通の勝利条件。そして各側は、仮想の核を確保か、制限時間まで核兵器を防衛するのがそれぞれのもう一つの勝利要件となる。

 

 第一回の訓練としては複雑だが、各々の基礎能力を測るための実践形式ということだ。

 

 チーム選定はクジ引きで決定される。

 なので、俺も箱に手を伸ばそうとしたんだが――

 

「――おっと。言い忘れていたが、人数の関係上、衛宮少年はしばらく待機だ」

「は・・・・・?」

 

 あまりにも突拍子もない発言すぎて、思わず間の抜けた声を出してしまった。

 それはまあ、キリの悪い人数だとは思っていたが、それにしたって何故除外されるのか。

 

「理由は二つだ。一つ目は先に言ったように人数の問題。そしてもう一つは――お楽しみというやつさ!!!」

「は・・・・・?」

 

 再度、思考が停止する。

 いったい彼は何を言っているんだろう。お楽しみとはどう言う意味か。

 校長。雄英は、差別も特別扱いもしないのではなかったか。

 

 色々と不平不満を感じつつも、大人しく試合を観戦した。

 第一試合から私情で爆豪が暴走し、それに応えた緑谷が腕を壊したり、轟がその規格外の個性で建物ごと氷漬けにしたりと、要所要所で目に付く場面はあったが、概ね滞りなく終了した。

 それぞれの講評も完了し、いよいよもって俺を省いた理由を求める時間になった。

 

「オールマイト!なんで衛宮だけ待機だったんですか!」

 

 切島の質問を切片に、他のクラスメイトもざわつく。

 実際、異例の対応であった事は間違いない。

 オールマイトには、是非とも納得のいく説明をしてもらいたい。

 

「一番大きいのはやはり人数の問題だ。そしてもう一つは――最も成績の良かったペアと、ヴィラン側として対戦してもらうためさ!!」

「はい・・・・・?」

 

 またしても理解が及ばず、間抜け面を晒してしまう。

 言わんとする事は分かる。

 あぶれてしまう生徒にも、きっちり授業を受けさせるための措置という事だろう。問題は、

 

「ち、ちょっと待ってください!やれと言うならやりますけど、せめてなんで俺が選ばれたのかぐらいは教えてください!」

 

 対戦相手が成績最優秀者である理由はなんとなく分かる。

 全員、既に一回は対戦を終えている。体力や情報アドバンテージなどを考慮すると、一番余裕のあるペアをぶつけるというのは、そうおかしな話じゃない。

 だが、単に人数的な問題であるなら俺以外でもよかったはずだ。

 轟や八百万などは推薦入学である事から、特別扱いされる理由はわかる。先日の個性把握テストでも、この二人はツートップだった。

 爆豪なんかも、その個性の強力さや本人のバトルセンスを考えれば、候補としては十分な筈。

 にもかかわらず、何故あえて俺を選んだのか。

 

「無論、君が最も適していると考えたからさ!いずれ皆も知る事になると思うが、衛宮少年は一般入試の実技における成績最優秀者なんだ」

 

 オールマイトの発言に、周囲がざわめいた。

 俺も、頭を抱えたい気分だった。

 

・・・・・あれかぁ。

 

 今まで完全に忘れていたが、先日合否通知を受け取った際、確かに根津校長がそんな事を言っていた気がする。

 細かい数値まで記憶していないが、実技は俺がぶっちぎりで一位だったとかなんとか。

 結果さえあれば自分の評価はさほど気にもならないため、全く記憶していなかった

 なるほど、その道理であれば俺にもお鉢が回ってくる可能性は十分にある。ただ、

 

・・・・・なんか、爆豪あたりからめちゃくちゃ睨まれてないか・・・・・?

 

 この二日間で知れた僅かな情報しかないが、爆豪勝己という人間は自尊心が高く、それに見合って向上心も高い。

 より高く、常に上へ。

 彼の横柄な態度は、翻って自己の価値をより上位のものとせんとする心意気からだ。

 その彼の前で、先日の入試において自らより優れた成績だった者が明示されたら、彼の闘争心に火を着けても不思議ではない。

 

・・・・・それにしたって、そこまで敵意向けなくても・・・・・。

 

 ただの入試の、おまけに相手は意思の無いロボット。

 隠し評価こそあったものの、それ以外ではその時の時運や相性でどうとでも変動するものでしかない。

 あの時の成績が俺の方が上だったからといって、それが俺が爆豪より優れている理由にはならない。

 彼が、そこまで俺を目の敵にする理由は無い筈だ。

 

「・・・・・とりあえず、お話は分かりました。それで、対戦相手と、俺のパートナーはどうなるんです?」

 

 指名されてしまった以上、いつまでもごねていても仕方ない。

 どの道、授業は受けなくてはならないし、俺も時間を無駄に浪費するつもりは毛頭ない。

 この中で最も優秀だったペアと訓練できるというのなら、それは願ってもない事だ。

 

「まず、君の対戦相手となるペアだが――轟少年・障子少年のペアだ!!」

 

 なるほど、轟・障子ペアか。

 今回の訓練を通して、最も強烈な印象を残したのはこの二人だ。

 轟による、その絶大な威力を誇る凍結の個性及び絶妙なコントロールは、相手に一切の抵抗をさせず無力化させる。

 そしてそれをより緻密に実行可能とさせるのは、相方である障子の索敵あってこそ。

 異形型の個性を持つ彼は、肩から左右二本ずつ、計四本の触手を有し、その先端に自らの体の一部を複製するようだ。

 先程の試合では耳部を複製していた事から、それはビル内の微細な音を聞き取るほど鋭敏なのだろう。

 

 この二人の相性の良さもあって、最初の試合ではものの数秒でヴィラン側を無力化し、すぐさま核の確保まで至った。

 戦う相手としては、申し分のないペアだ。

 勝ち負けはさておき、得られるものは多いだろう。

 

「そして君と組むパートナーだが、一番最後という事と相手が成績最優秀ペアである点を考慮して、この二人以外から君が選んでくれ!」

 

 それはまた、なんとも都合の良い話だ。

 相手が如何に成績が最も優秀なペアとはいえ、情報アドバンテージという点においてこちらは圧倒的優位に立っている。

 体力に関しては、彼らの第一試合の顛末から相当な余裕はあるだろうが、それでもこちらが有利な事には変わりない。

 いっそ、二対一ぐらいの方が塩梅としてはトントンだったのではないか。

 

・・・・・まあ、選ばせてくれるって言うんなら、ありがたくそうさせてもらおう。

 

 俺とて彼らに勝つ気でいる。

 情報や体力面で有利とはいえ、それに胡座をかく気もなし。半端な姿勢で訓練に臨むほど、楽観的ではない。

 勝つ為の手段は、選び得るものはなんでも利用する。

 

「それじゃ、遠慮なく――」

 

 

 

 

「――それで、何で私を選んだんです?」

「そりゃ勿論、勝つためだよ」

 

 指名させてもらった八百万を伴ってビルに踏み込み、渡された見取り図を片手にその構造を想起する。

 よくある廃ビル、或いは工事中の建物といった感じで、内部には程よく小部屋があり、そちらは廃材やら建築素材やらが放置されている。

 屋内戦をする分には、いい塩梅の配置といったところだろう。

 こちらがヴィラン側である事も考慮すれば、勝ちの目は十分ある。

 

「いえ、ですからそうではなくてっ。何故、私だったのかを聞いているんですっ!!」

 

 背後からの叫びにも似た問いに反応し、彼女へと振り返る。

 語気の強さからも分かる通り、彼女が現状に対して強い疑問や不満を抱えているのはよく分かる。

 

「いきなり指名されたと思ったら、特に説明も無くここまで連れて来て。まさかとは思いますが、顔見知りだったから選んだ、とは言いませんわよね!!」

 

 無論違う。

 そんな安易な理由でパートナーを選ぶほど酔狂でもなければ、俺は自分に自信があるわけでもない。

 とはいえ、ここまで碌に説明もせず付き合わせたのは事実。

 彼女の怒りを、理不尽と言う気はない。

 

「さっきも言ったけど、勝つ為に八百万を選んだ。真剣に、お前となら勝てると思って指名した。ここまで黙ってたのは、向こうに無闇に情報を渡したくなかったからだ」

「・・・・・嘘は、ありませんわよね?」

「当然だ。皆、それぞれ強みはあるけど、今回のルールでなら、八百万が一番あの二人と相性がいい」

 

 故に、パートナーとして来てもらったと。

 彼女に真っ直ぐ向き合う事で、その意志を伝える。

 

「・・・・・・・・」

 

 しばし無言のまま、彼女は俺を見据えていた。

 そして検分が終わったのか、一度眼を閉じ深く息を吐いた彼女は、改めてこちらと向き合った。

 その眼に宿るのは、確かな闘志。

 

「――では、作戦をお教えくださいますか、衛宮さん?」

 

 

 

 

 

 

「――時間だ」

 

 オールマイトからの開始宣言を受け、轟焦凍と障子目蔵はビルへと足を踏み入れた。

 先にビルに入った衛宮士郎と八百万百は、既に準備を整えている事だろう。

 

・・・・・しかし、何で八百万を選んだ。

 

 轟焦凍にとって、衛宮士郎は謎の多い人物だ。

 先日の個性把握テストでは上位十名には並んでいたものの、その結果はさほど目覚ましいものはない。

 増強型や異形型でもない以上、身体能力・機能は通常の人間の範疇を超えない。

 その個性もまた、利便性は高いもののそれほど高性能というものでもない。同じ創造型の個性というなら、相方として指名された八百万の方がよほど上等だろう。

 

 しかし、テストで見せた弓による射と、一般入試での最優秀者であるという事実は見過ごせない。

 彼の中で、衛宮士郎はパッとした印象の無い人物だが、その反面、残した記録は無視し難いものがある。

 自身の中での評価と現実のそれが噛み合わずに矛盾する。

 

 その上、ビルごと凍結させうる自身の個性を把握した上で八百万を指名した不可解さも、ある種の不気味さを感じさせる。

 八百万のスタイルであれば、個性で創造した物でトラップを仕掛けるというのがセオリーだろう。

 だがそんなものは、一緒くたに全て凍らせてしまえば機能しなくなる。その時点で、直接的な戦闘能力に秀でない八百万は大きくその戦力を減じさせる。

 仮に、衛宮士郎がこの1-Aでもトップクラスの実力者だと仮定して、そんな男がこの事実に気づかないのか、という疑問が拭えない。

 

・・・・・関係ねぇ。どっちにしろ、やる事は一つだ。

 

 依然、相手の思惑は不明だが、その作戦ごと上から捩じ伏せれば、そんなものは意味を成さない。

 何か仕掛けがあるとしても、相応の弱体化は望めるだろう。

 

「どうだ。あいつらの位置、把握できるか?」

「――五階の広間に一人。もう一人は・・・・・すまない、なんとも言えない」

「・・・・・そうか」

 

 轟にとって、ここで二人とも見つけられるのがベストではあるが、その点は向こうも対策をしているという事。

 既に彼らは戦闘時の様子を知られている。相応の準備をするのは当然だろう。

 

「今度も一気に凍らす。外で待ってろ」

 

 素気なく告げ、轟は通路を進む。

 広間に一人で陣取ってる以上、そこに仮想核が配置されていると見ていい。

 ならそこだけ威力を弱めて、相手の無力化に十分なだけの出力で凍結させる。

 もう一人は、障子がもう一度索敵し道中で見つけるか、或いは無視して核を確保してしまえば楽だろう。

 いずれにせよ、この一手で決着であり――

 

「がっ・・・・・!?」

「・・・・!?――障子!」

 

 背後から聞こえた呻きに、必然的にその方向を確認せざるをえなくなる。

 振り返った先では、いましがたビルを出たばかりの障子が蹲っていた。

 

「おいっ、どうした!」

 

 捨て置く事もできず、入り口まで駆け寄り確認しようとする。

 

「来るな、轟・・・・・!」

「・・・・・っ!」

 

 静止の言葉に、踏み留まる。

 

「――やられた。外に出て少し振り返った瞬間、屋上から狙い撃たれた」

 

 そう言う障子の額は、ほんのり赤みがかっており、近くには矢が五本転がっている

 矢の数から考えて、額以外も撃ち抜かれたということか。

 何より驚くべきは、彼の体に確保テープがかかっている事だった。

 

「ほぼ同時に五本、うち二本は後端にテープを取り付けて、俺を挟み込むように撃ち込まれた」

 

 それが事実なら、彼は障子が外に出てほんの少し振り返った一瞬を正確に狙い撃った事になる。

 それが仮に、初めから待ち受けていたが故の奇襲なのだとしても、ほんの僅かな刹那に弓矢でテープを巻き付けるほどの技量は、驚嘆に値する。

 

「加えて、撃ち抜かれたのは眉間、頸動脈、心臓。どれも人体の急所だ。鏃は無かったから傷は無い。ただ――」

 

 実戦なら死んでいた。

 言外に、障子はそう言っている。

 今回の訓練では、仮想核の確保か相手チーム全員の捕獲が勝利条件となっている。

 気絶しても、制限時間内に動けるのなら、ルールとしては続行可能だ。しかし――

 

「訓練とはいえ、確実に絶命する攻撃を受けた――済まない、俺はここまでだ」

 

 訓練であるが故に、その容態は現実のそれに則ったものであるべきだ。

 彼らの中に、致命傷からでも蘇生可能な個性を有する者がいたのなら話は別だが、このペアにそういった人間はいない。

 相手がヴィランとしての設定である事を鑑みても、致死レベルの攻撃を受けたのなら、その時点で命を落としたも同然だ。

 仮に、確保テープを巻き付けられていなかったとしても、障子はその時点でリタイアを申し出ただろう。

 

「・・・・・やってくれるな、衛宮」

 

 障子の決定を受け入れ、再び一人で進む。

 どちらにせよ、初めからする事に変わりはない。

 このペアにおいて、障子目蔵の役割は相手の位置などを把握する索敵要員。それを果たした時点で、彼の仕事は終わっている。

 後は、障子の様に邪魔を受けないうちに、このビルを凍結させる。

 

「――今度は、こっちの番だ」

 

 今度こそ発揮された轟の個性は壁を、床を、天井を伝って瞬く間に広がり、ものの数秒でビル全体を凍らせた。

 

――『半冷半燃』

 

 それが轟焦凍が有した、規格外の個性だった。

 右半身は冷気を、左半身は炎熱を操り、それぞれがその属性に合った現象を引き起こす。

 右半身の力を使えば氷を操り、ビル一棟を一瞬で丸ごと氷漬けにするほどの冷気を発することができる。

 この力を用いて、彼は一度目の試合を相手に抵抗させる事なく完封していた。

 学生である事を考慮しても、能力としての高さは既にプロレベルの実力を兼ね備えているのが彼だ。

 

・・・・・さあ、どう来る。

 

 障子が脱落するというアクシデントはあれど、流れとしては第一試合と大して変わりない。

 であれば、彼らもまた同じようにその動きを封じられ、無念にその顔を歪めているのだろうか。

 

・・・・・んなわけねぇよな。

 

 相手の思惑も実力も未知数のままだが、この一手で制圧出来たと楽観できるほど、容易な相手でないのは確かだ。

 前回の試合内容から、障子が孤立する事を見越して撃破した衛宮士郎が、凍結に対して何の策も持たない筈がない。

 加えて、彼の相方は八百万。無数の無生物を創造する彼女なら、こちらの凍結を無効化する術を有していてもおかしくはなく、その頭脳も明晰である事は察せられる。

 

 この一手は精々、相手を弱体化させた程度が関の山。

 ここから先、相手からの反撃が襲ってくる筈。

 故に轟は、慎重にその歩を進めた。

 

「・・・・・・・・・」

 

 みしり、と薄氷を踏み破る音が耳に届く。

 ビル全体、氷に支配された無音の世界。

 吐き出す息の些細な音ですら、大きく感じられる。

 

「・・・・・・・・・・・なんだ?」

 

 カ、カ、カ、と。

 断続的に、不規則に響く硬質な音。

 静寂に満ちた通路であったから気付けた。

 それは、徐々に轟に近づいており――

 

「・・・・・!?」

 

 咄嗟の反応で身を翻した事が、彼を救った。

 謎の物体が、通路を高速で跳ね回りながら、轟目がけて襲い掛かってきた。

 僅かでも反応が遅れていれば、間違いなくそれは彼を捉えていた

 

「・・・・・っ!」

 

 いったい何が、轟がそう考える間も無く、同じ存在が迫っている。

 それも、更に数を増やしていた。数にして同時に三つ。

 どれひとつとして同じ軌道は描かず、ランダムなルートで向かってくる。

 回避は、困難。

 

「・・・・・っ、何だってんだっ!」

 

 不規則な軌道に戸惑い、回避ではなく防御を選択。

 右半身より、自身を覆うようにドーム状に氷壁を生み出し即興の盾とする。

 ガ、ガ、ガ、と三度音が続き、氷壁にその物体が突き刺さった。

 

「これは、矢か・・・・・?」

 

 氷に囚えた事で、その正体をようやく知る。

 そこにはドームを貫通し、半ばで停止した三本の矢があった。だが、その形状は通常の矢のように、直棒ではない。

 薄く引き伸ばした細い板に捻りを加えたような、しなりを持った矢。

 そのしなり故か、突き立った矢の後ろ側は、未だ衝撃によって振動している。

 それが意味するところを理解して――

 

「弓で跳弾でもしたっていうのかよ・・・・・」

 

 俄には信じがたい事実だった。

 だが現実として、これらの矢は通路を跳ね回りながら轟へと迫ってきた。

 矢の形状からしても、その考えは間違っていないだろう。

 いったいどれほどの技量があれば、このような絶技を実現できるというのか。

 こと弓による射という一点において、衛宮士郎は常人を遥かに凌駕した地点にいる。

 

・・・・・そもそも、こっちは見えてねえだろ。

 

 再度襲いかかる矢を防ぎ、その仕組みに頭を悩ます。

 衛宮士郎がどこに陣取っているのか、障子がいない今、それを知る術は轟には無い。

 だが少なくとも、目視できる範囲でいない事は確実だ。

 それで、どうやってあの不規則かつ正確な射撃を行なっているのか、それが分からず――

 

「――いや、そもそも狙ってないのか・・・・・?」

 

 どの矢も明確に自身に向かって飛んできた為、それが精密な狙撃によるものと轟は考えた。

 だが、その考えが間違っていたとしたら――?

 

・・・・・矢はどれも、入り口に向かってきた。てことは――

 

 精密なのではなく、あえて雑な狙いで放つ事で、確実に軌道に巻き込む射撃をした。

 そう考えれば、目視せずとも彼を捉えられている現状に説明が付く。

 依然、その技量が隔絶したものである事には変わりないが、少なくとも遠方から常にその動きを把握している、などという理不尽はあり得ないはずだ。

 

・・・・・だったら、一気に押し切る!

 

 決定すると同時、すぐさま走り出す。

 既に残り時間十分をきっている。

 受けに回って慎重に進んでいては、矢が飛んでくる頻度からして、確実に時間切れになる。

 ならば強引にでも走り抜け、最速で仮想核を確保する。

 

・・・・・道中、襲いかかってくる矢は反射でその都度迎撃していけばいい。

 

 矢の威力は既に知れている。

 その進行方向に踏み込む瞬間、氷で受ければそれで――

 

「――ーっ!?、つぅ・・・・・」

 

 その疾走は、彼の意志によらずに早くも阻まれた。

 通路を駆け抜け、曲がり角を曲がった直後に、彼は盛大に転倒した。

 転けた際の衝撃で舌を噛んだりしなかったのは、不幸中の幸いだろう。

 いったい何故、このような無様を晒す事になったのか。

 倒れ込んだ姿勢のまま、足元にその元凶を見る。

 

・・・・・凍りついた、箱・・・・・?

 

 精々、高さ10cmかそこらしかない小箱。

 走っている時に足に触れたとしても、そのまま蹴飛ばしてしまいそうなそれはしかし、ビルごと覆い尽くす氷によって、凍りつき完全に固定されていた。

 轟は、その凍結した箱に足を取られ転倒したのだ。

 

・・・・・こっちの個性を利用されたっ・・・・・!

 

 対策は練ってきていると思っていた。自身の戦い方に対応してくるだろうと考えていた。

 だが、こんな形で自身の個性を逆手にとられるなど、彼は考えもしなかった。

 

・・・・・それ以前に、こんなちゃちな罠、普段ならかかりもしねえ・・・・・!

 

 これでもう、轟は当初の速戦即決を続行できない。

 彼がどれだけ急ぎたくとも、こんなトラップがあとどれだけ仕掛けられているか分からない。

 走りながらそれらを警戒し、なおかつ飛んでくる矢に対応しなくてはならない。

 

「衛宮、士郎・・・・・!」

 

 忸怩たる想いに呻きながら、未だ姿すら掴めぬ対戦相手の名を口にする。

 その間にも、矢は無情にも襲い掛かり、倒れたまま迎撃を余儀なくされる。

 刻限は、徐々に近づいている。

 

――仮想核<ターゲット>は、未だ遠い。

 

 

 

 

 

 

・・・・・予想以上、というべきか。

 

 生徒達と共にモニタールームで対戦を観察するオールマイトは、衛宮士郎という人間の実力の程に、いま一度驚きを感じていた。

 

 そもそも今回、わざわざ彼一人を残して成績最優秀ペアに当てたのは、未だ実態の分からないその力を試すためだった。

 原理も原因も不明な特異な個性。

 それをただ一人でここまで鍛え上げた衛宮士郎が、どれほどの実力を有するのか。

 調査という観点からも、教育方針の模索という視点からも、現状における彼の力を把握したい。

 それが、衛宮士郎に対する雄英としての本音だった。

 

 轟・障子ペアという強敵を前に、その個性を如何に運用し、彼らに立ち向かうのか。

 轟焦凍という人間は個性及びその練度が一年生としては非常に高く、試金石にはうってつけだった。

 

 だがその思惑は、ものの見事に裏切られている。

 雄英が知りたいのは、あくまで衛宮士郎が保有する個性としての力だ。

 だが彼は、その個性を最大限生かして彼らに立ち向かうのではなく、あくまで戦略的な――盤面上での勝利を重視した立ち回りをしている。

 

「何つーか、もはや狡いとかそういうの通り越してえげつねーな、衛宮のやり方」

「情報が割れてたとはいえ、あの轟ちゃんをここまで手玉に取るなんて・・・・・」

 

 対戦を観戦する生徒達が、引き攣った顔でそうこぼした。

 他の者も同じ意見なのか、多くの生徒が頷いたり、口々に見解を述べている。

 

 一度目の轟・障子ペアの対戦内容を踏まえ、屋外に退去した障子を瞬く間に無力化。

 轟がビルを凍結させるもこれを回避し、ビル内の上階から一階入り口に向かって弓矢で跳弾を行うという、離れ業までやってのけた。

 このペアが最初に残した印象が強かった分、二人を終始、翻弄する衛宮士郎の戦略及び戦術は、強烈に映る。

 その上、轟の個性を利用したトラップまで仕掛ける始末。

 

・・・・・こういう作戦を思いつくのも大したものだが、人の心理をよく理解している。

 

 真っ先に相方を行動不能にし、矢による攻撃で足止めし、轟をその場に釘付けにした。

 この時点で既に五分が経過しており、身動きを封じられている轟は少なからず焦っていた。

 それ故、防御を止め攻撃に転じる事で勝利しようとしたのだ。

 その、焦りと勝機を見出し一歩を踏み出した意識の隙を突き、転倒などという古風な方法で罠にかけた。これで轟は出鼻を挫かれ、さらには以後も同様のトラップを警戒せざるをえなくなった。

 

 人間、急いでいる時、焦っている時ほど注意が散漫になる。

 普段であれば回避できる危険も、逸る思考のままでは見えなくなる。

 事実、曲がり角を曲がって少し先に設置されたトラップに、轟は気付きもしなかった。

 あの状況で彼が速戦即決に出ると分かった上で、この戦法を実践したのだ。

 

 入試の段階で既に高い実力を有している事は分かっていた。

 だがここに来て、その戦略・戦術眼においても、目を見張るものがあると理解させられる。

 いったいどんな鍛錬を積んでくれば、この年齢でここまで俯瞰した戦いを行えるというのか。

 No. 1ヒーローたるオールマイトをしても、衛宮士郎の戦い方は異常に映った。

 

「あいつが仕掛けた罠って、この先まだまだあるんだよなぁ」

 

 当たり前だが、ここまで思考して戦略を練る衛宮士郎が、最初の罠一つで満足するはずもなく。

 轟の個性を逆手に取った罠や、それに対策した上で設置された仕掛けも配置されている。

 そのどれも、容易に踏破できるものではない。

 

・・・・・結果が出る前に、こういう考えをすべきではないんだろうが・・・・・。

 

 公正に、公平に評価し、どちらに対しても贔屓目などない。

 だがその上で、オールマイトは確信していた。

 今回の対戦、勝利するのは間違いなく衛宮・八百万ペアだと。

 

 

 

 

 

 

「三階通路、階段近くですわ」

「――了解」

 

 “監視カメラ”から見える情報を伝え、それを受けた衛宮さんが矢を放つ。

 ほぼ同時に三本が射出され、飛び跳ねながら通路の奥へ消えていくのを見送る。

 もう、何本の矢を放ったのか。

 訓練開始からここまで彼は姿勢をまるでブレさせず、確実に轟さんを消耗させている。

 

「三階東廊下、“氷のカーテン”近く」

 

 彼が私の指示を受け、今度は角度を調節して放つ。

 これは、こちらが仕掛けた罠をすり抜けさせるための措置。

 せっかく用意した罠を自ら台無しにしてしまっては、元も子もない。

 

・・・・・しかし、恐ろしいほどの戦略眼ですわね、

 

 弓の技量もさる事ながら、相手の個性はおろか、この建物まで利用した戦法は、自分にもすぐに思い至れる事は無かった。

 転倒を狙って最初に仕掛けた罠など、ほんの序の口。

 通路に彼の刀剣や私が創造した金属製のポールなど様々な物を立てかけ、その上にあったスプリンクラーを誤作動させる事で、轟さんが凍結させた際に氷の壁となる様にした。

 それは下にあった通せんぼを巻き込んで凍ったため、骨子を持った事でより頑強になり、その上排除しようにも下手にやると、凍結から解除された物が雪崩れ込むという徹底ぶり。

 隙間も彼の矢がすり抜ける程度の間しかなく、人間が通り抜けるのは不可能。

 

 途中の小部屋はいくつか内側から完全にドアを押さえ、咄嗟の退避も許さない。

 たまに開く物もあるが、そちらは各階の通路に点在させているのと同様、”無線“の監視カメラで監視している。

 飛び込めば最後、衛宮さんが刀剣をそこに生み出し射出できるようにしている。

 

 他にも通路を脆くした簡易的な落とし穴や、各所に張られたワイヤートラップなどetc.etc.・・・・・

 このビルはいま、ちょっとしたトラップ地獄と化している。

 

 轟さんの個性を利用し、彼の心理を逆手に取り、短時間で効率的に建物の至る所にブービートラップを仕掛ける。

 私とて、雄英に入学するため、そしてトップヒーローになるための研鑽は欠かしていない。

 そういった兵法や戦法も学んでいる。自身の頭脳から、戦いにおいてそれらを駆使した行動が出来ると、自負していた。

 けれど、衛宮さんのそれは私に比べ、より現実的・実践的であり、現段階では戦略性、戦術性ともに彼の方が上手だ。

 加えて、彼の技量と個性も、それに磨きをかけている。

 

・・・・・油断はできませんが、おそらくこの階までは来られないでしょうね。

 

 既に時間は一分を切っている。

 現段階で三階の途中では、残り時間内にここまで来るのは物理的に不可能だろう。

 もう勝利はほぼ確定。何もせずともタイムアップとなる。――それでも、彼は手を緩めない。

 弓を構え、矢を番え、ここからは見えるはずのない轟さんを、今も視界に収めているかのように真っ直ぐと前を見据えている。

 個性把握テストの時と同じ。一切の音が消え、この場が彼に支配された様な錯覚。

 

・・・・・しばらく一緒にいると言うのに、慣れませんわね。

 

 もう十四分以上になるが、いまだにこの感覚は消え去らない。

 まるで、周囲一帯が本当に衛宮さんという存在に呑み込まれ、書き換えられたかのように思えてしまう。

 彼は錯覚だと言うし、私もそれに異論はないが、そうと分かった上で、この雰囲気に圧倒される。

 

 これは彼の凄まじい集中力が生み出す、一種の力場のようなモノなのかもしれない。

 こうまで射に専心を向けられる彼が、その矢を外す未来が見えない。

 きっと彼の中では、相手が回避したり防いだりする事も、全て見えている結果でしかないのかもしれない。

 

『タイムアーーップ!!勝者、ヴィランチーム!!!』

 

 制限時間が過ぎ、オールマイト先生の宣言が響き渡った。

 結局、轟さんは四階に足を踏み入れることなく終わったようだ。

 訓練は勝利で終わったが、私は彼の戦いが衝撃的に過ぎて、勝利の余韻をそれが上回っている。

 喜びは、あまり湧いてこなかった。

 

「お疲れ様。お前がいてくれたおかげで勝てたよ、八百万」

「・・・・・いえ、こちらこそ」

 

 創造した弓を消した衛宮さんは伸びをし、その体を解している。

 その顔は普段の無愛想なものに戻り、さっきまでの無機質な表情は鳴りを潜めている。

 

 彼は、私がパートナーだったから勝てた、と言ってくれた。

 その言葉は嬉しいし、自身が大いに作戦に貢献できたと理解している。

 初めに彼が言ったように、今回のルールでは確かに私達は轟さんのペアと相性が良かったのかもしれない。

 

 しかしそれ以上に、衛宮さんの力が大きく作用していた事実には変わりない。

 私だけでは、ここまで使った創造物全てを有用に扱う事は出来なかったかもしれない。

 おまけに道中で轟さんを常に消耗させることができたのは、彼の常軌を逸した弓の腕前によるもの。

 私では、こうはいかない。

 

「さ、俺たちもさっさと戻ろう」

「・・・・・そうですわね」

 

 衛宮さんの後をつき、講評を行う部屋へと戻る。

 その途中、頭を占めるのは彼の戦い方、そして似た個性でありながらこうまでかけ離れている、それぞれの能力の違い。

 彼は、自らの個性が特殊だと言った。その事については聞かなかったし、訓練前も彼が出来ることの説明も、短時間だった為にあまり聞けなかった。

 戦いにおいて彼との間に違いがあるというのなら、それこそが最も大きな要因なのか。

 

・・・・・短絡的な考え方ですわね。

 

 個性も特殊なら、戦いがそれに伴って特殊であるとは限らない。

 相手の思考、場の特性を理解し、利用し、決して相手の土俵には乗らない。

 その戦い方は個性から来るものではなく、彼自身が身につけたものだ。

 同型の個性でありながら存在する差異は、ただ別の人間であるというだけでしかない。

 しかし、だからこそ。

 

――彼にはいったい、どんな光景が見えているのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

「四人とも、お疲れ様!早速だが、講評のお時間だ!!」

 

 訓練を終え、モニタールームに戻ってきた俺たちをオールマイトが明るく迎え入れる。

 轟はともかく、こちらの疲労などたかが知れているが。ただ、八百万は個性の性質上、使い過ぎると消耗するから、後でその辺りは確認しておこう。

 

「今回の訓練、他の皆とは大きく条件の異なるものではあったがその分、見るべき点も多々あった。何か意見のある子は手を挙げてくれ!!」

 

 オールマイトが生徒達に向けて挙手を促す。

 俺としては、あまりにも皆のやり方とかけ離れすぎて、若干浮いているのでは、と恐々としている。

 

「はい、先生」

 

 投げかけられた問いに真っ先に答えたのは、大きなまん丸い目が印象的な女子。

 確か・・・・・蛙吹さん、だったか。

 

「衛宮ちゃんは、轟ちゃんの個性と戦い方を把握した上で、それを常に逆手に取った戦法を選んでいたわ。上手く自分とパートナーの個性を利用して、時間稼ぎをしていた。そのおかげで、轟ちゃんは制限時間一杯まで足止めを喰らうことになっていたわ」

 

 分かりきった事ではあったが、こうして目の前で堂々と自分の訓練の様子を評価されると言うのは、良くも悪くも気恥ずかしいものがあるな。

 俺自身は、八百万の協力のおかげで、出来ることはやりきったと考えている。

 それが彼らの目にどう映っているかは分からないが、せめて恥ずかしがらずに胸は張っておこう。

 

「轟対策っていうなら、八百万、仕掛けた罠とかになに撒いてたんだ?」

 

 今度は切島が、八百万に向かって問いかけた。

 こちらでは映像しか見えないし、見た目からでは分からないのも仕方ない。

 

「融雪剤、もしくは凍結防止剤と呼ばれるものです。轟さんが初手でビルを凍らせてくるのは、分かりきっていましたから」

「カメラとか動作させたい罠の類は、あらかじめ氷がすぐ溶けるように細工をしてもらったんだ」

 

 わざわざ彼らの戦法を見させてもらった上で訓練を行ったのだ。

 それを活用せず無策で挑むのは、却って彼らに失礼だろう。

 だからこそ、徹底的に彼らの強みを潰し、利用する戦い方を選んだ。

 こっちがヴィラン側というのなら、拠点に罠を仕掛けておくのは当然だしな。

 

「勿論、それらも大事だが、衛宮少年が今回の訓練で重視したのはもう一点あるぞ!」

 

 生徒達の意見を肯定しつつ、皆にさらに踏み込んだ思考を促す。

 それを最初に気づいたのは、飯田くんだった。

 

「・・・・・衛宮くんはおそらく、轟くんの心理状況を考慮した上で、罠を仕掛けていたように思えます・・・・・轟くん、ひとつ聞いていいか」

「――なんだ?」

 

 飯田くんが何かを確認しようと、轟に声をかける。

 聞かれた本人は、やや間があったものの、素直に応じた。

 

「君は、仮想の核が何処にあると考えていたんだい?」

「五階の大部屋だと考えてたが・・・・・」

 

 それはそうだろうな。

 訓練開始時点で八百万にはそこで待機してもらっていたし、俺も障子を無力化した後は、直ぐにそっちに合流し、部屋に面した通路から狙撃してたし。

 だから、彼がそこに核があると“誤解”するのは自然な事だ。

 むしろ、そうでなくては困る。

 

「やはりか。・・・・・轟くん、仮想核は五階ではなく、四階の角部屋にあったんだ」

「・・・・・!」

 

 驚いた顔で、轟がこっちを見てくる。

 ここまでの訓練の様子や、俺たちの個性なんかを考えたら、目標の前で待ち構えていると考えるのが普通だろう。

 当然、障子はこっちの大まかな位置を把握してくるはずだから、そこに核があると考える。

 こっちとしては、まさしく()()が狙いだった。

 

「核が最上階にあり、そこで二人が防衛しているという先入観。そこを衝いて、あえて誤認させる様な動きをしていた。常に相手の思考や行動を予測した上で、彼らは作戦を展開していた様に思えます」

 

 衛宮士郎には、大それた力はない。

 弓に関しては相応に自信があるが、それ以外はからっきしだ。

 身体能力は人間の範疇を出ず、長く鍛え上げてきた剣の腕は、どこまでいっても凡人の域を出ない二流だ。

 そんな俺が轟みたいな奴に勝つには、自分たちの力だけでなく、その場の全てを利用し尽くさねばならない。

 訓練場の特性、相手の性質、行動パターン。碌な付き合いのない彼らではあるが、前もって戦い方を見れたことが幸いした。

 それがなければ、おそらく最初の一手で大きな痛手を被っていた。

 

「最初の罠なんかもそうだが、相手の能力のみならず、その思考や性格を予測するというのは、戦いにおいて重要なファクターだ。如何に強い力を持っていても、どう動くかを知られていては、容易に対策されてしまうからね!!」

 

 飯田くんの見解に、満足そうに頷き、講釈を述べるオールマイト。

 トップヒーローである彼も、そういった予測や対策に苦しめられてきたのだろうか。

 常に不敵な笑みで人々を励まし、ヴィランたちを恐怖に陥れてきたNo. 1ヒーロー。

 その大きな背は倒れる事なく、敗北や失敗など、まるで知らないようにも思える。

 

・・・・・けど、だからこそ、見せないようにしているだけかもしれないな。

 

 確かに彼は偉大だ。

 その力も、在り方も、常人には到底辿り着けない領域に在る。

 だが、それに比例して彼が背負おうとするものは多い。――いや、“多すぎる”。

 

 自らを平和の象徴と定義し、偶像として人々を照らす。その過程で、ただの一つも取りこぼさずにここまでやって来たなど、俺は思わない。

 犠牲は確実に存在し、しかし自らがシンボルであるからこそ、それを悟らせてはいけない。

 彼が真実、心の底からのヒーローであるというのなら。その隠さねばならない影に、どれほどの傷を負っているのか。

 未熟者の俺には、到底計り知れない事だ。

 

「皆、今回の訓練ではそれぞれ得るものも多かったはずだ。内容も初回にしては随分良かった。今日、学んだ事をしっかりと反省し、今後に活かしてくれ!!」

「はい――っ!!」

 

 そう言って締め括ったオールマイトは、負傷して保健室に運ばれた緑谷に講評を聞かせに行くと告げて、俺たちの前から立ち去った。

 その際、やたら猛スピードで走って行ったのが気になったが。何か、急がねばならない理由でもあるのだろうか。

 まあ、気にしてもしかたないか。

 いまはとりあえず、八百万の体調だけ確認してから、さっさと着替えて教室に戻ろう。

 

 




 全話で言いました通り、二話続いての投稿です。

 前々からヒロアカを見ていて思ったのですが、轟は個性の制御及び運用については突出するものがありますが、当人の戦闘技能や応用力なんかは低いんでしょうかね。
 個性柄、少々大雑把な面があったり、近接格闘能力は低く、自らの個性が効きづらい相手にはとことん苦戦するような印象を受けます。
 今回のお話では、そういった点を士郎に衝かれることになりました。もっとも、先に彼らの戦いを見ていなければ、士郎も大いに苦戦しましたが。

 拙作も、そろそろUSJ襲撃が近づいてきましたが、作者としましても描くのが楽しみなポイントです。
 その際には、是非とも衛宮士郎の勇姿(ズタボロ)をお見逃しなく。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。