「さぁ、始めましょうか……命を捨てて掛かって来なさい!」
「「………………」」
大和撫子らしからぬ凛とした表情で勝負を仕掛けて来るエリカ氏と、呆然と対峙するボクとキバナ氏。何がどうしてこうなったのか。それは数十分前に遡る――――――。
◆◆◆◆◆◆
ロケットゲームコーナー、レーシングコーナーの観客席にて。
「いいわ、いいわよ……もう少し……そこそこそこ、そこで抜くのよ! ……よーし、やったわ! 流石はわたくしの「ダリア」ちゃん! 今回もブッチギリよぉーっ!」
何か、見ちゃいけない物を見ちゃった気がする。
「キバナ氏、あれって……」
「どう見てもエリカ嬢ちゃんだが……見ない方が良かったかもな」
全面的に同意します。エリカさん、疲れてるのよ、アナタ……。
「ここ、カットした方が良いですよね?」
「まぁ、ギャンブルは個人の自由だけど、面子的な物もあるからな」
という訳で、ボクらは全てを無かった事にして、レーシングコーナーを立ち去ろうとしたのだが、
「あ、エリカさん、久し振り~♪」
「「うぉおおおおおおおおい!?」」
まさかのマツリカ氏が地雷を踏んでしまった。何でだよぉおおおっ!
「……ハッ!」
あ、気付かれちゃった。ヤバーい。
「え、えっと、楽しいですよね、サイホーンレース」「うんうん、大人なら楽しみの1つくらいないとな!」
「ま、待って下さい! 何処の何方か存じませんが、違うんです! これは何と言うか……癖になってるだけです!」
「「バリバリのギャン中じゃん」」
「ど、どうしましょう……このままでは、わたくしの大和撫子なイメージが……っ!」
「「自分で大和撫子って言っちゃったよ」」
「こうなったら、口封じに抹殺するしか……」
「「抹殺するしか!?」」
いやいやいや、ちょっと待っ……話せば分かる!
「お、落ち着きましょう!? 確かに配信してますけど、ちゃんとカットしますから!」
「いいえ、信用出来ません。だから貴女を抹殺します」
「わーい☆♪」
全然話が通じなーい★♪
「おっと、そうはいかんなぁ!」
「キバナ氏!?」
すると、キバナ氏が自前のスマフォロトムを見せ付けるように構えた。
「念の為にと自分でも撮っておいて良かったぜ。……少しでも危害を加えるようなら、ボタン1つで今までの映像がネットに大放流だ!」
「くっ、卑怯な……!」
「いや、卑怯なって言うかさ……」
うんうん、それ以前の問題だよね。少しは人の話を聞こうよ。
「――――――くっ、殺しなさい!」
「「何故そこでくっころになる!?」」
まるでこっちが悪者じゃん。そりゃないよ。どう考えても、口封じにボクらを抹殺しようとする、アンタの方が悪人だろうが。印象操作をするんじゃない。
「とりあえず落ち着きなって。ほら、深呼吸、深呼吸。ヒッヒッフー」
「アンタもベタだな……」
それは赤ちゃんをひり出す時の呼吸法でしょうよ。
「……ふぅ……分かりました」
「おっ、分かってくれたか?」
「ならばポケモン勝負です!」
「何を分かったんだお前は!?」
合法的に口封じしようとしてるだけじゃん。
「さぁ、ジムまで来て貰いますよ! 行け、モジャンボ!」『ジャモ~ン♪』
「「うわーい!?」」「わーい♪」『ワーン♪』
そして、ボクたちはあっという間にモジャンボのツルで捕獲され、ジムへ連行されるのだった。
◆◆◆◆◆◆
「……で、今に至る!」
「うん、まるで意味が分からんな」
ボクもそう思います。楽しいカジノタイムを返せ。
「頑張れ~♪」『ワンパ~ン♪』
「「お前のせいなんだよっ!」」
クソッ、呑気に応援なんかしやがって!
しかし、周りをエリカ氏の親衛隊(♀)に取り囲まれてるし、戦って勝つ以外に道はなさそうだ。
だが、その前にどうしても聞いておきたい事がある。
「あの……頑なに隠したい理由は何となく分かりますが、そもそも、どうして
そう、あのお嬢様なエリカ氏が、レース中毒になってしまったのか、である。カットするにしても……いや、カットするからこそ、知りたいと思ってしまうのは、やはり配信者だからだろうか。ただの野次馬根性とか言ってはいけない。好奇心はニャースを殺すとか言った奴は抹殺する。
「――――――そうですね、理由も知らずに死にたくはありませんよね」
「どうしても殺したいじゃん」
「当たり前です」
「当たり前なんだ……」
「それで、理由ですが……特に深い理由はありませんよ。世間じゃよくある話です。父が失脚し会社が吸収されて以来、「犯罪者の娘」と揶揄され続け、世の中の全てが敵に見えてしまうなど。わたくしにとって、隣人は疑うべき相手で、赤の他人は憎むべき敵なのですよ」
「は、はぁ……」
うわぁ、大分メンタルを病んでらっしゃる。
「しかし、ジムの皆さんに支えられ、自分なりの生き方を見付け、成功を収めました。そして、そのきっかけとなったのが、サイホーンレースなのです」
「「だから、何がどうしてそうなった」」
「簡単な話です。人生のどん底に落ち、自棄っぱちになったわたくしは、残り少なかった全財産を、一目ぼれしたあのサイホーンの「ダリアちゃん」に賭け、そして勝ち取ったのですよ。それ以来、あの子が走る時は必ず賭けをするようになった……それだけです」
「「おおー」」
何か普通に良い話じゃない?
「という事で、冥途の土産も携えた事ですし、そろそろ始めましょう!」
「「でも
嗚呼、誰か助けて……。
「ヒューヒュー♪」『パンパース♪』
お前ら殺す!
――――――ええい、こうなったらしっかりと撮影して、最高のバトり動画を配信してやらぁっ!
◆エリカ
大和撫子を絵に描いたような、タマムシジムのジムリーダー。くさタイプの使い手であり、弱点は多いながらも厄介な(そして物理的にも)搦め手を駆使して挑戦者を惑わしてくる。
また、多芸かつ天才肌のようで、個人的に生け花教室を開いている他、アロマセラピーのオーナーやタマムシ大学の講師を務めるなど、かなりの遣り手女史である。
しかし、この世界線では父親(シルフの社長)のせいで人生のどん底を経験しており、外面こそゲームの通りだが、その内面は煉獄と化している。
ちなみに、彼女の人生の転換点となったサイホーンは、色違いの♀で名前は「ダリア」という。