それから暫くして。
「「すいませんっしたーっ!」」
「いやまぁ、良いんだけど……」
ボクらは、フレンドサファリゾーンのエントランスホールにて、件のかいじゅうマニアにDO☆GE★ZAしていた。それはもう、三つ指付いた、綺麗な低姿勢だった自信がある。
あの後、持ち合わせの回復薬とマツリカ氏のフェアリーパワーを全投入した甲斐あってか、かいじゅうマニアの人が息を吹き返したので、こうして改めて謝罪する事にしたのだ。
むろん、園長様も同伴である。
というのも、このかいじゅうマニア氏(名前はヤモイ)と園長様(エモイ)は親子らしく、初代サファリゾーンも元は息子を喜ばせる為に始めたのだとか。何その深イイ話。
「いやいや、気にせんでええよ。怪我の大元は、わての管理不行き届きのせいや。お客さんらこそ、怪我せんで良かったわ。お詫びに、今回と次回の利用料金、只で取り放題サービスしいたるさかいな」
おお、エモイ園長、太っ腹じゃないの。まるでヤドンのように大らかな人だ。
「「ありがとうございます!」」
「はっはっはっ、まぁそういう事もあるがな!」
「「本っ当にこいつのせいで……ん?」」
ボクがキバナ氏を指差し、キバナ氏がボクを指差した。おう、やろうってか。受けて断つ!
「「アタタタタタタタタタタタッ!」」
「おいおい、喧嘩はやめーや」
「「ホワタァッ!」」
「ひでぶっ!?」「父ちゃーん!?」
「「あ……」」
こ、これは……、
「「あらまビックリ~!」」
「ビックリじゃないが!? 何で父ちゃん殴ったんだよ!?」
「「こ、この握り拳が勝手に!」」
「んな訳あるかぁ! 言い訳するならもっと真面な事を言え!」
「「まぁ、流れで……」」
「流れ作業で人を殴るなぁ!」
「「すいません! 本当に、マジで、こいつが悪――――――んんっ?」」
「いや、もう良いから止めて? 謝るから、とにかく落ち着いて? ね?」
「「はい……」」
うーん、どうしても人に頭を下げるのって苦手なんだよなぁ……。
「うん、とにかく落ち着いてタイムマシンを探そうぜ!」
「おい、過去へ逃避行しようとするな」
それと、パルデア人の前でタイムマシンは禁句な?
「いやー、ごっつぅ威勢の良い人たちやなぁ!」
「「あ、蘇った」」
「いや、勝手に殺すなよ、人の父親を……」
口封じが出来て楽かと思いまして。
「それはそうと……「イダイナキバ」、やったか?」
すると、エモイ園長が真面目なトーンと声色で話し出す。その手には、イダイナキバが収納されたFSボールが。
「わての記憶が正しけりゃ、こないな奴、入荷した覚えはまるで無いで」
「えっ、そうなんですか? ドンファンと間違えて連れて来たとかじゃなく?」
「わてが連れて来るんは、基本的に群れから逸れたりした、身寄りの無い個体だけや。そいつらをここで掛け合わせる事で、新しい群れを作っとる。つまり、最初の時点では進化前なんや。だから、間違える筈がない」
「なるほど……」
確かに、ドンファンとならまだしも、ゴマゾウとイダイナキバを間違える筈がないか。
「ですが、わたくし、ここで「タケミ」ちゃんを捕まえましてよ?」『アラブリー!』
しかし、エリカ氏はここで新たなタマゲタケを捕まえたらしい。何でだよ。
「わたしも「ガプリン」捕まえたよー?」『ガプリャアアアッ!』
さらに、マツリカ氏まで「サケブシッポ」を捕獲したという。エリアゼロにしか居ない筈の古代種が何故こうも溢れ返っているのだろうか?
「「イダイナキバ」にしろ「アラブルタケ」にしろ「サケブシッポ」にしろ、けったいなネーミングやな。どないなポケモンなんや?」
「ああ、それについてはオレ様たちも聞きたい。あんまり詳しい情報がないからな」「そうですわね」「聞きたーい」
「えっとですね……」
という事で、ボクはかいつまんで古代種たちの概要を説明した。
雄大なパルデア地方のど真ん中に空いた、巨大な穴――――――通称「エリアゼロ」と呼ばれる場所は、テラスタルエネルギーの結晶により時空が歪んでおり、過去や未来が入り混じる矛盾した世界だった。そのせいで時折、時系列の違うポケモンが迷い込む事があり、古くはパルデア帝国の時代(約2000年前)から研究が為されていたが、その殆どが返り討ちに遭ったらしい(帝国もその損失により滅亡した)。
だが、10年前、オーリム博士とフトゥー博士という天才夫婦が、遂に最深部までの開拓に成功し、研究施設を建造した。
その上、テラスタルエネルギーの結晶を機械に組み込み、ポケモンバトルに使用可能な「テラスタルオーブ」をも開発し、研究は順風満帆……かに思えたのだが、博士たちは自身の抑え切れない好奇心により、“禁忌”の研究に手を染めていた。
そう、「タイムマシン」である。
古代の世界や遥かな未来に想いを馳せていた博士らは、テラスタルエネルギーの結晶を利用したタイムマシンを用いて、過去や未来のポケモンたちを次々と現代へ呼び寄せていたのだ。付いていけなくなったスポンサーや研究員に見捨てられてもなお、己の分身たるAIロボットをこさえてまで。
しかし、神は何時までも、その狂気の沙汰を見逃してはくれなかった。セカンド・コンタクトとなるコライドンとミライドンの暴走により、オリジナルの博士たちは死んでしまったのである。
しかも、既に歯止めが利かなくなっていた博士たちは、AIたちの合理的な判断すら蹴ってタイムマシンを存続させ、半自動的に“楽園”を築こうとし続けた。完全にマッドのそれだ。AI曰く、息子であるペパーの事は愛していたようだが、この頃の彼らにあったのは、“夢を見続けたい”という妄執だけだったのだろう。
そして、縄張り争いに負けた最初のコライドンとミライドンがチャンピオンたちと接触し、彼女らの活躍によって、ようやく事態は治まったのである。過去や未来に消えた、AIたちのエールと共に……。
「つまり、それがホンマなら、タイムマシンはもう止まってるんやな?」
「その筈なのですが……」
そもそも、エリアゼロで厳重に監視しているのに、そんなポンポン逃げられてはパルデアリーグの沽券に関わる。ボクの副職が無くなるから止めて。
「そなら、一体どうして――――――」
と、その時。
「きゃああ!?」「何あれ!?」「空が!」
突然、外が俄かに騒がしくなった。何事かと思って、外へ出てみれば、
「おい、マジで何だありゃ?」
「そんなの、ボクにも分かりませんよ……」
「空が……割れている……!?」
「………………」
空の一部が、ガラスのように罅割れていた。そうとしか言い様のない、異常な光景がそこにはあった。
《フフハハハハハハハハハハ!》
さらに、罅割れの向こうから、女とも男とも付かない不気味な嗤い声が響き、
『ゴヴォォォマァアアアンドァッ!』
――――――やせい の トドロクツキ が あらわれたッ!
「……もしもし、アポロさん、緊急事態発生。「コードP」です」《了解しました。早急に手を打ちましょう》
◆コードP
トキワコンツェルン全社員に共有されている緊急コードの1つで、史上最悪の緊急事態を現す。
最初にして最後の「コードP」――――――“シルフカンパニーの汚点”は、とある存在によって世界中で億人単位の死者を出したジェノサイドであり、“ポケモンと人間の信頼関係”という現代社会において無くてはならない物が失われる寸前まで至ったカタストロフである。
それによりシルフカンパニーは完全に失墜、トキワコンツェルンに吸収され、彼らの“目玉商品”は文字通り闇に葬られた。それにちなみ、裏の界隈では「■■■■ショック」とも呼ぶ。
しかし、パルデアの大地で行われた、過去と未来のパラドックスが生み出したカオスにより、時空の彼方へ消えた筈の“本当の悪魔”は再び蘇った。