「……知らない天井だ」
1度は言ってみたい台詞を吐いてみた。
えーっと、おはこんハロチャオ?
今何時で、ここは何処ですかな?
「もちゃくちゃ……」
「とりあえず、隣で見舞いのリンゴをもちゃくちゃするのを止めて貰おうか」
食い方が汚いんだよ、キバナ氏。
「いやー、お前全然目を覚まさないからさ。腐る前に処分しようかと思って」
「だからって患者の目前で食うなや」
しかも、結構良い値段する奴を食いやがって。恥を知れ!
「――――――あの後、どうなったんですか?」
とりあえず、ボクは病院に運ばれて一命を取り留めた事だけは分かる。それ以外は意味☆不明★DA!
「空の割れ目はマツリカが呼んだ助っ人のおかげで、どうにか塞がった。呼び出されたポケモンたちも捕獲され、エリアゼロに転送されている。今は復興の最中って感じだな」
「はぁ……」
「ちなみに、お前はあれから丸1週間は寝てた」
「マジですか!?」
まぁ、回復薬を使って傷は塞がっても、失われた血肉は戻らないからね。下手に治すと、内出血で知らぬ間に死ぬ可能性もあるし、結構リスキーなのよね、回復薬を人間に転用するの。
「マツリカ氏は?」
「“後遺症”の発作が起きてな。今はエリカが傍に居て落ち着いてるようだが、これからどうなるかは、オレ様にも分からん」
「そうですか……」
うーん、折角のナイスキャストだったのになぁ……。
「――――――で、結局あれは何だったんですか?」
空が罅割れ太古のポケモンが降り注ぐなんて異常事態、聞いた事も無いぞ。
「それについては、ワタシが答えよう!」
すると、病室のドアを開けて、目付きの悪い銀髪の女性が入って来た。宇宙服をスーツに落とし込んだような、中々に素敵なファッションに身を包んでいらっしゃる。胸元の隆盛を携えた「G」マークが燦然と輝いていた。
「キラボシ☆!」
さらに、仏頂面のまま横ピースした。何だ、そのスター団と仲良く出来そうな挨拶は。
「え、えと、どちら様ですか?」
「ワタシは「キラボシ」。「キラ
「は、はぁ……」
そもそも、ギンガ団って何だっけ?
「シンオウ地方の開拓団を祖に持つ組織で、今は宇宙開拓を主な目的に活動している。……
「
何ですか、キバナ氏、その意味深な言い方は。
「それに関してはワタシが話そう。我が兄上の所業についてな」
「兄上?」
「そうだ。前総帥:アカギはワタシの実兄であり、シンオウの神々を利用して“感情の無い完璧な世界”を作ろうとした男だ」
語り口を交代したキラボシ氏によると、彼女の兄アカギは開拓使団「ギンガ団」の2代目団長を務めたシマボシの子孫に当たり、その名に肖って現在のギンガ団を結成。表向きはエネルギー開発や宇宙開拓を謳いつつ、裏ではシンオウ地方の神と呼ばれしポケモンたちを使い、新世界の神になろうと目論んでいたが、とある少年少女の活躍により頓挫し、「やぶれた世界」という異次元空間へ旅立ってしまったらしい。この世の常識が一切通じない静かな世界で暮らす事にしたのだという。
大分拗らせてんな、アカギさん。人間関係にトラウマでもあったんだろうか?
その後、キラボシ氏は実質的に失脚した兄に代わり組織を立て直し、隠れ蓑にしていた開発事業を目的として活動を再開したのだとか。わーお、ドラマチック。まさに地上の星って感じ。
「ただ、我々もまた、表立っては言えない事をしていてね」
「ゑ?」
「それが創世神「アルセウス」の探求なのだよ」
「は?」
「いや、むしろ、それが一番の目的かもしれないな。エネルギーの研究も、宇宙開発も、異次元空間の研究も、全てはマルチバースの果てに居ると言われている、アルセウスに会う為なのだ」
「えぇ……」
何それ、マッドじゃん……。
「分不相応な事をしているのは重々承知しているがね。それでも、ワタシは己の好奇心に誇りを持っているよ。例え夢追い人と笑われようともね」
「………………」
ま、ボクも配信者だから、とやかく言わないけどね。
「そして、異次元に関しては、トキワコンツェルンと共同体制にある。だから、偶々こちらに会合に来ていたのだが……おかげで最小限の被害で対応する事が出来たよ」
「あ、そうだったんですね」
マツリカ氏の言ってた助っ人って、もしかして貴女ですか?
「それは違う」
違うんかーい。
「マツリカ氏にとって、“彼女”以上の助っ人は居ないだろうからな」
「はぁ……」
じゃあ、あれか。過去にカントーを旅した仲間の1人なのかも。
「さて、ワタシの事はこれくらいにして、本題に入ろう。あの裂け目が一体何なのか、だったな?」
「ええ」
「では、話す前に1つだけ聞いておきたい事がある」
何だよもう、勿体付けるなって。
「……君は、「ポリゴン」というポケモンを知っているかね?」
………………。
「当然でしょう」
ポリゴン。
シルフカンパニーが開発したAIで動く人工のポケモンで、会社の栄枯盛衰を一手に担った体現者。
――――――そして、ボクのトモダチだ。
「ならば、話は早い。彼らの起こした騒動についても知っているな?」
「……はい」
ポリゴンは素晴らしい性能の持ち主で、人の生活においてあらゆる面で支えとなっていた。それこそ、世界中に浸透する程に。
しかし、ある日突然、全個体が一斉に暴走、人やポケモンを攻撃する事件が発生し、多くの被害者を出した。それにより全てのポリゴンは“処分”され、文字通り闇へ葬られた。
ボクにとっては、唯一無二のトモダチを失った、悪夢のような日だった。
「そして、これは極一部の人間しか知らない事だが、その事件には元凶となる存在が居てね。奴のばら撒いた悪質なプログラムがポリゴンたちを暴走させたのだ」
「えっ……」
そんなの、知らない。
「我々はそいつを“最初で最後”という意味を込めて、「
「どうしてそこまで……」
「さてね。復讐鬼の心理など分からないし、理解しない方が良い。問題は奴がまた現れたという事だ。次はどんな手を使ってくるかは不明だが、アルセウスが創造したこの“夢と冒険の世界”を荒らされる訳にはいかない。だからこそ、ワタシはトキワコンツェルンと協力体制と取る事にした。これからはギンガ団も、「Z」の魔手から世界を守る為に戦うよ。……話は以上だ。病人に長話は酷だろうし、そろそろ失礼させて貰う」
そう言って、キラボシ氏は踵を返した。
「――――――それと、マツリカの事をよく見てやってくれ。彼女は「Z」により、絶対に癒える事のない心傷を負った。だから……
「キラボシさん……」
「キラボシ☆!」
いや、それは忘れないんかーい。何なんだ、この人は。
「楽しみにしてます、か……」
色々と思う所はあるし、言いたい事もまだまだある。知りたい事は山程だ。
だけど、ボクはあくまで配信者。皆に笑顔をお届けするインフルエンサーである。決して英雄や救世主に成りに来た訳では無い。そこを勘違いしては、本末転倒だろう。
だから、
「次は何処に行きましょうかね?」
「とりあえず、傷をしっかり治せ。話はそれからだ。それまでは、プニ男でもプニプニしてろ」
「はーい。おいで、プニちゃん」『プニプニ~♪』
次の取材は、何処にしようかな?
◆「Z」
10年前、世界中のポリゴンを暴走させた“本当の悪魔”。
彼女の計画には次なるフェイズがあり、人間とポケモンが憎しみ合って疲弊した所に“ウルトラビーストの大群を呼び寄せて生態系を完全に崩壊”させ、その後“「選ばれし子供」を魔王として君臨させて、この世を終わらぬ煉獄に変える”のが最終目的であった。言うなれば、“ポケモン世界でダークザギみたいな物を意図的に作り出そうとした”ようなものであり、「Z」の下衆っぷりが伺える。
そして、当時11歳だったマツリカの旅仲間であった少年を魔王とする為、マツリカともう1人の仲間と共にハナダの洞窟へ拉致し、「第3フェーズ(UB呼び寄せ)を非常停止するキー」である自身がマツリカに憑依する事で、“大事な旅仲間であるマツリカを手に掛けなければ、世界中の人間とポケモンが絶滅する”という重過ぎる十字架を背負わせ、彼の心を完全に破壊して、本物の魔王に仕立てようとした。
だが、様々なイレギュラーと子供たちの強い意志が重なり、その野望は打ち砕かれた……かに思われたが、彼女の怨念は時をも超えて蘇った。
その正体は――――――。