ソウルツリー……ポケモンたちの眠る塔にして、ゴーストポケモンの楽園と呼ばれる場所。白磁の壁に囲まれたドーム状の空間に無数の墓石が並び、それが何層も続くのが特徴。黒っぽい外装とは対照的だが、ジメジメとした空気と静まり返った雰囲気のせいで、とても気味が悪い。常に薄っすらと霧が掛かっているのだが、時々人の顔のように見えるのは、きっと気のせいだろう。そうだよね?
つまり、今すぐに帰りたい。だけど、困った小さな女の子を捨て置く事も、また出来ない。だから、ボクは武者震い(怯)する身体を諌めつつ、ソウルツリーへ足を踏み入れた。
「おねーさん、どうしたの?」
「DOUMOSINAIYO?」
「じゃあ、なんでアンノーンみたいなうらごえでしゃべってるの?」
「ソレハネ、オネーチャンハ、ロボットダカラダヨ」
「へー、ガラクタなんだー」
何気に酷いなキミ。スクラップですらないんだ……。
それより、オミヨちゃんの落とし物だ。話によると、全部で107個の翡翠石で作られたネックレスらしい。何だ、その煩悩マイナス1みたいな数は。大きさにもよるけど、探すの大変そうだなぁ……。
いや、真に苦労するのは、探す事ではない。
『キィ~ヒィ~』『クフフフフ……』『ミタ~ッ?』
このゴーストタイプのポケモンたちと、如何に目を合わせないか、である。チクショウ、色んな地方のゴーストポケモンを掻き集めやがって。おかげで、ここが何地方なのか一瞬忘れそうになるだろうが。
うぇ~ん、いっぱい居るよぉ~!
「南無大慈大悲救苦救難広大霊感」「宇宙天地與我力量降伏群魔迎来曙光」「光明遍照現威神力魔界鬼界降伏怨念 不思議力」
と、各界の結界内に配置している祈祷師の皆さんが怖過ぎる。その呪文は何で、左手に嵌めたグローブはどういう意味があるんですかねぇ!?
く、くそっ、惑わされるな、ナンジャモ!
ボクは落とし物を拾いに来ただけで、何も悪い事はしていない。そうとも、ボクは悪くない、だってボクは悪くないんだから!
は、早く……早く見つかってよぉ~!
「あ、1個見付けた」
墓石のお供え物として。何でだよぉっ!
『タタリィ~!』「うぎょぁああああっ!?」
――――――やせい の ムウマ が あらわれたッ!
「ふざけんなよテメェッ!」『ムマォッ!?』
ヤバい、恐怖のあまり、キバナ氏みたいな事をしてしまった。成仏しろよ!?
「あ、また1つ見付けた」「すごーい!」
卒塔婆に引っ掛かっていた。だから何でだよ!
「ウォォォ……ゾゾゾ、ゾンビィーッ!」「おわぁあああああっ!?」
やせい の キチ○イ……じゃなくて、祈祷師が勝負を仕掛けて来たッ!
「ボクの傍に近寄るなーっ!」「ぐへぇぁっ!?」
ダイレクトアタックで倒した!
「ハッ……私は何を? おお、貴女が助けて下さったんですね? 何か最近、ツリー内部に悪霊が蔓延ってるってんで、派遣されたんですけど――――――私、まだ新米で、よく幽霊に取り憑かれるんですよー」
「仕事変えた方が良いよ、絶対に……」「おつかれさまー」
結局、彼女の手持ちが何だったのか。真実は闇の中だ。
というか、どうなってるんだ、ここは。何で悪霊退散する筈の祈祷師が操られているんだよ。こんなんじゃ、ロクに墓参りも出来ないだろうが!
「それをなんとかするのが、きとうしのしごとなんだってー」
「へぇ……」
じゃあ、こいつただの役立たずじゃん。捨ててこう。
「ああ、待って下さい! このままじゃあ、私また取り憑かれちゃう! お願い、助けて! その凶悪な霊力で、私を助けてよぉ!」
「誰が凶悪な霊能力者だ」
マジで役に立たんな、この小娘。他の祈祷師さんを見習えよ。ちゃんと結界張って、セーフティゾーンを維持してんだぞ?
「……分かったよ、もう。じゃあ、探し物が終わるまでだからね」
「あ、ありがとう!」
「そして、出たら直ぐに職安に向かいなさい」
「手厳しい!」
うるせぇ、見捨てないだけ有難いと思え。ついでに探し物も手伝え。今はニャオハの手も借りたいからね。
「ちなみに、ここのシステムってどうなってんの?」
墓参りをするのにも命懸けとか、もう事故物件でしょ。
「ここの幽霊ポケモンたちは、人の恐怖心を糧とする代わりに、危害を加えない契約をフジ老人と交わしています。それでも万が一の事態や参拝者が休息する為に、祈祷師が各階で結界を張りつつ、監視と管理を行っています。だから、基本的に命の危険がある事はありません」
「あくまで“基本的に”なのね」
普通に怖いんだけど。
「あ、ありましたよ! ヒスイの石!」
「おっ、何処何処、何処にあるのっ!?」
「はい、あそこの無縁仏の祭壇です!」
「いぎょわぁあああああああああっ!?」
ヤバい、何か老若男女のパーツが合体した、歪な悪霊がこっち見てるぅ!
「祈祷師ィ!」
「えっ、ちょっ待……てょわわわわわ~ん!?」
「よし、取り憑かれたな! お前も家族だ!」
「ギャース!?」
という事で、わざと祈祷師を取り憑かせた上で、ボコボコにして強制成仏させる。やはり世の中は暴力が全てだな!
「よくやったぞ、サンドバック!」
「その綽名は酷くないですか? 一応、私にもヒスイという名前があるんですが……」
「へー、ヒスイさんっていうんだー」
知るか、早く行くぞサンドバック。
その後も、墓石の裏、卒塔婆の後ろ、手洗い鉢の底、柄杓の中etc……と、割と意味不明な場所に落ちていた(というか隠されていた)翡翠の石を、ヒスイやオミヨちゃんと探し出し、ようやく107個全てを見付ける事が出来た。
「やっと終わったぁ……」
「あ、ごめん、おねーさん。いちばんおおきい、「むらさきすいしょうのまがたま」があるんだった!」
「オワター\(^o^)/」
どうして今更そんな事を言うのオミヨちゃ~ん?
し、しかし……キッズ人気の為なら!
ここでボクが優しいお姉さんを演じる事で、キッズからの評価がシビルドン登りになるなら、やったらぁ!
「でも、あと探してないのは、立ち入り禁止区域の「ハートフラワー」内部だけなんですが……」
「うっ……!」
何そのこの上ない悪条件。絶対に何かあるですやん。
「でも行く!」
「思い切りが良い!」
見切り発車とも言う。
だが、そんなの知らんなぁ!
立ち入り禁止だろうと、そこに探し物があるなら、突っ込んでやる。何せ、ボクは優しいお姉さんなんだからね(ヤケクソ)!
「おはこんハロチャオーッ!」
「そんな掛け声であけるの!?」
やかましい、ボクの定番挨拶にケチを付けるな。
という訳で、「KEEP OUT」処か「封」の文字が刻まれた、明らかに開けちゃいけない扉をぶち壊して、ボクらはハートフラワーへ侵入した。
「く、暗い……」『プニー』
ソーラーシステムの内部というだけあって、中には無明の闇が広がっていた。プニちゃんライトが無かったらキツかった。
「あ、あれ、ですかね?」
そんな暗黒世界のど真ん中に鎮座する、不気味な石の上に、紫水晶の勾玉が載っていた。
……何だろう。「罠発動!」ってなりそうで怖いんだけど。
「な、何か嫌な予感がしますよ! 流石に、アレに手を出すのは――――――」
「えい!」
「アレェエエエエエエッ!?」
しかし、ボクは取る。そこに宝物があるからだ。よし、これで――――――、
「おつかれさん」
「………………!?」
気が付くと、目の前にオミヨちゃんが立っていた。割と後ろの方に居た筈なのに。
さらに、その手には紫水晶の勾玉が握られ、彼女の周囲を翡翠の石たちがグルグルと円を描いて飛び交っている。どう考えなくても異常事態である。
「オミヨちゃん、これは一体……?」
「ありがとうね、おねーちゃん。わたし、自分では石を動かせないの。何せ、封印されてるからね」
「封印?」
「そう。だけど、おねーちゃんのおかげで、わたしは解放された。あとは、「かなめいし」を壊すだけ」
「何を言ってるの?」
「
そして、翡翠の石に鬼火が灯り、オミヨちゃんを包み込んで、その身を変じさせる。
『オンミョォ~ン!』
――――――やせい の ミカルゲ が あらわれたッ!
◆ソウルツリー
元ポケモンタワーであり、トキワコンツェルン社長アポロの意向によって増改築された。
内部は生まれ変わる前同様に墓石が並び、ゴーストタイプがウヨウヨと漂っているが、確かな実力の祈祷師たちにより守られている為、命を奪われるような事態にはならない。その代わり悪戯程度なら許されているので、ゴーストタイプのポケモンたちにとっては安定した餌場を提供されているようなものであり、どの個体もきちんと契約を守っていて、破る奴は駆逐される、という環境になっている。
頂点にはソーラーシステムを兼ねた展望台「ハートフラワー」が設置されているが、訪れる者は少ない。