「フゥ……」
ボクはフカフカのベッドで溜め息を吐いた。
今ボクは、トキワシティの格安ビジネスに居る。ハンチョウだからではない。休息の為だ。
あの後、復興は駆け付けたトキワコンツェルンとキラ☆ギンガ団にお願いして、ボクらはニビシティからトキワシティに移動した。避難誘導とかならまだしも、大規模な復旧作業となると、流石に個人では手に余るので、妥当な対応だろう。ボクらも人間(キバナ氏は怪しいが)なので、戦い疲れたら普通におやすみグッナイしたい。
「……キバナ氏、起きてますー?」
《あん? 何だよ、今から寝る所だったのに……》
ふと電話を掛けてみたら、眠そうな声でキバナ氏が出た。就寝前だったか、そりゃスマンねー。
でも、ベッドでごろ寝している時こそ、駄弁るのに一番最適な環境だと思うのよ。半分夢現だから、脳の外側だけで実りの無い話をしても問題無いし、却って睡眠導入剤にも為り得る。暇潰しには持って来いだろう。
――――――まぁ、ボク自身が話をしたい、ってのが一番の理由だけどね。
「捕まえた火竜、どうしてますか?」
《今は大人しくボールの中で寝てるよ。回復に専念してるんだろうな。もっとも、全快したら、どうなるかは分からんが……》
捕まえた火竜と電竜は、世界のルールに則り、ポケモンのような生物に変化した。ナンバーこそ付かないが、図鑑の登録には成功し、様々な情報も開示されている。
それによると、火竜は「リオレウス」、電竜は「ライゼクス」と言うらしい。どちらも空中戦闘能力に長け、種族的にライバル同士なんだそうな。だから執拗に襲い掛かってたのね。
……で、言うまでもないが、別名通りリオレウスは“火球”や“火炎”を吐き出し、ライゼクスは“放電”と“電荷攻撃”を得意としているという。タイプに関しては、リオレウスが「ほのお/ひこう」、ライゼクスが「でんき/ひこう」の複合で、双方共に「特定タイプの技の威力が上がるが、代わりに特定タイプが弱点になる」という独自の特性を持っている。リオレウスは「ほのお」と「ひこう」の技がパワーアップする代償に「ドラゴン」を苦手とし、ライゼクスは「でんき」と「ひこう」技の威力が高まる代わりに「こおり」が弱点となる、らしい。
さて、完全にポケモン色に染まってしまったリオレウスとライゼクスであるが、一番の変化は身体が縮んだ事だろう。何10メートルもあった巨体は見る影もない……という程でもないが、どちらも半分程の大きさになっている。ポケモンとしては充分にデカいけど。
ついでに見た目も少しマイルドになっていて、何と言うか、ちょっと丸くなった。それでも鋭い感じは残ってるから、凶暴な印象は拭えないが、そのまんまの姿よりはマシかな。
《お前のライゼクスはどうしてんだよ?》
「今は眠ってます。出したら暴れそうな気もしますが……」
そんなポケモン化したモンスターたちを、成り行きとは言え、ボクたちはゲットしてしまった。責任は重大である。何せ攻撃的な外来種だからね。逃がす事は当然出来ないし、他人任せなど以ての外だ。
《気を付けねぇとな。……他の地域に出た奴は、追い払うか
「………………」
キラボシ氏によると、他の街や地方でも時空の割れ目が観測され、そこから現れたモンスターの殆どはゲットされる事なく、追い払われるか――――――殺されてしまったらしい。見るからに凶暴で、実際に大暴れをする物だから、当然と言えばそうなのだが、やっぱりポケモンが死ぬのは、目の前でなくとも嫌だな。可哀想に……。
ボクらの前に現れたリオレウスとライゼクスは、運が良かったんだね。二度と戻れない、という裏事情は別として。
「とりあえず、
《おや、随分と物騒な言葉を使うなぁ》
「優しさだけで世界が救われるなら、誰も苦労しませんよ」
《だろうな》
「はい」
今や共存関係にあるポケモンでさえ、人慣れしていない野生の個体は危険である。怪我はもちろん、下手すれば殺されてしまう事もあるだろう。ましてや異界からの来訪者ともなれば、尚更注意が必要だ。言って分かれば良いが、そんな事はまず無理だろうし、再び暴れ出しては、周囲だけでなく自身も危うくなる。恨みつらみというのは、根深く根強いからね。絶滅するまで攻撃する、という事もゼロとは言い切れない。
だからこそ、ボクらは彼らを生かした事に責任を持たねばならないのである。
《とりあえず、オーキド博士に見せておくか?》
「そうですね。明日はマサラタウンに行きましょう」
流石に素人じゃ詳細な生態までは分からないからね。こういう事は、専門家に聞くに限る。ニビシティもトキワシティもロクに取材出来ていないが、背に腹は代えられないだろう。それがお互いの為だ。
「……怪我、大丈夫ですか?」
と、ボクはずっと聞いてみたかった事を尋ねてみる事にした。
もちろん、怪我の程度を聞きたい訳では無い(全然そうじゃないとは言わないが)。
《ああ、精々着地した時に膝を擦り剥いたぐらいだし、問題ないさ》
「それはそれでどうかと思いますが……でも、ボクが無茶振りしたせいで、怪我をさせちゃいましたからね」
《何だよ、今更心配性か? 止めとけ止めとけ、お前さんには似合わねぇよ》
「言い方よ」
《むしろ、オレ様としては、何かにつけて突っ走るのをどうにかして貰いたいね。付き合わされる身としては、物申したい訳よ》
「正直スマンかった」
全面的に同意するしかない。
《ま、人間誰でも得手不得手はあるし、間違いだってするさ。その時に正してやるのが、仲間ってもんだろ》
「臭いですね」
《失礼な奴だな、お前は。いいから、もう寝ろ。明日も早いんだからよ》
「はいはーい、分かりましたよーだ」
ボクはアカンベーをしてから、ピッと通話を切った。
「ふふふ……」
本当にキザな人だよ、まったく……。
◆トキワシティ
「永遠の色」を名に掲げる都市。シティという割には手狭で建物も少ないが、“都会の中の田舎”という事なのかもしれない。ポケモンリーグへの入り口となる街であり、サカキの潜伏場所でもあり、カントー地方のチュートリアルを担う場所である。
この世界線では「トキワホテル」をメインとした避暑地として機能している。その為、訪れるトレーナーの質に高低差がかなりある事で有名。
ちなみに、この世界におけるサカキ様は異世界侵略旅行中なので、ロケット団とはあまり関りはなく、大分前からグリーンがジムリーダーを務めている。