神様みたいなわんこ男子に救われたTS黒髪美少女が、優しさによって心を開き一緒に幸せになる話   作:阿久津なぎ.

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16.正義の味方、だった

「お前さ、元ヤンって本当なの?」

 

 俺の唐突な質問に浩之は目を丸くした。そしてどうしてそれをだとか、恐喝するようなこともなく、口を開いた。

 

「言う必要ないかなって」

「ビフォーアフター激しすぎだろ! 写真見せてもらったけど完全に別人だったじゃねーか!」

「いやあ、それほどでも」

「褒めてねーよ!」

 

 あくまでしらばっくれる気らしい。俺が浩之のブレザーを掴んでゆすってみてもびくともしない。こいつ、今でも鍛えてるな。

 

「……ったく、どうしてヤンキーやめたんだよ。内申点に響くからとか女子連中は言ってたけど」

「それはある。だけど一番は、人を殴るのに飽きたからかな」

 

 なにこのサイコパス発言。人を殴るのが好きだったのかこいつは?

 

「あ、別に人を殴るのが好きだったわけじゃないよ。……こらしめて回っても、いじめっていうのはなくならないってわかったからだよ」

 

 その言葉を聞いて、俺は胸が苦しくなる。

 

 確かにいじめはなくならない。あのとき校長先生が俺を逃がしてくれたあと、あいつらがのうのうと生きているのが憎い。もし俺が逆の立場になったらやり返していただろう。

 

 浩之には、浩之なりの正義があった。でも、正義ってのは俺が前に言ったように偽善で。なくなっては困るけど、元からなくても困らないものなのだ。

 

「それで、ヤンキーやめたのか」

「だいぶ引き留められたけどねー。でも、いじめがなくならないならおれはただ人をぶん殴るだけの問題児だ。それに気付いて、死にたくなって……瑛太に出会った」

「家族が喧嘩してたって話は」

「ごめん、あれ嘘。だっておれ、元ヤンだからさなんて言ったら瑛太、絶対おれと仲良くしてくれなかっただろ?」

 

 ぐうの音も出ないとはこのことか。確かに元ヤンだからってそれをひけらかされていたら、俺はさらに警戒して浩之を遠ざけていたに違いない。

 

 いろんな人間を見てきた。だから浩之の人間を見る目が鋭いのか、と納得する。

 

 いじめる側もいじめられる側も、それを傍観する側も見てきた浩之が感じた絶望がいかほどか、俺にはわからない。

 

「俺が元ヤンであることでおれのことが嫌いになったらいつでも離れていいんだよ」

「んなわけねーだろ! 確かにびっくりしたけど……。今の俺があるのは浩之のおかげなんだ。今さら『元ヤンでした』程度で嫌いになるもんかよ」

 

 浩之が安心した顔をする。俺の頭を撫でると、再び歩き出す。俺は慌ててその横について一緒に歩く。

 

「人を殴るのって、どんな感じがするんだ?」

「んー……。自分も結構痛いよ。骨に骨が当たるわけだから。それに痛みを知った瞬間泣きついてくるいじめっ子は嫌いだった。立場が変わっただけの話なのにね」

「……俺のいじめの話を聞いたとき、どう思った?」

 

 俺は期待半分、恐怖半分で聞いてみる。もしかしたら哀れだったとか、そういう同情の感情が出てくるのが怖くて。

 

 浩之はまた目を丸くして、くすくすと笑った。そして見たこともないような鋭い目で視線を落とす。

 

「殺してやりたいって思ったよ」

 

 ぞくりとした。こんな浩之、見たことがない。元ヤン時代の写真を見せられたときも荒んだ目をしていたが、今は何か、別の感情もあるような──。

 

「どうして」

「ん?」

「俺なんかを、そこまで庇ってくれるんだ?」

 

 純粋な疑問だった。

 

 俺は浩之を歌で救ったかもしれない。でもあのときの俺の歌は無力な独りよがりの歌ばかりを歌っていて、誰かを救えるような状態じゃなかった。

 

 浩之は鋭い目のまましばらく考えていた。そして夕日をバックにして、穏やかに笑って言う。

 

「おれは瑛太の神様になりたい。それで、瑛太を救って……幸せにしたい。今まで救えなかったいじめられっ子たちのぶんまで、瑛太が笑えるようにしたいんだ」

 

 どうして。

 

 どうして自分を大事にしないんだ。俺が救ったのは確かかもしれない。そんな自己犠牲で幸せにされるほど、俺は大それた存在じゃないのだから。

 

「浩之、それは一つ間違ってるよ」

「え?」

「俺も浩之を幸せにしてやりたい。マネージャーだからとか、そういうんじゃなく親友として。幸せにさせてほしい。今まで痛かった分、痛くない幸せを掴んでほしいから。だめか?」

 

 浩之は目をぱちくりさせて、それからへにゃ、と笑う。

 

「本当に瑛太は、甘えることを知らないなあ」

「だって親友なんだろ。親友って、お互い支えあっていくものだと俺は思ってる。違うか?」

「ううん、違わない。ありがとな、瑛太」

「それはこっちのセリフだっての」

 

 浩之が拳を俺に向かって突き出してくる。俺は一瞬意図がわからなかったが、すぐに理解して拳を合わせた。

 

 俺たちは親友になったばっかりだ。今はよくても、これから喧嘩とかするかもしれない。

 

 でもそのときは歌を歌おう。お互いの痛みが、少しでも癒されるように。

 

「でも、瑛太。これだけは言っておくよ」

「なんだよ」

「今の体は女の子なんだから。助けが必要ならすぐ呼んで。助けられることなら、何でもするから」

「なんかお前、今日恥ずかしいことばっか言ってんな」

「むっ。人の真剣な気持ちをからかう人は助けません!」

「ごめん、嘘、嘘だって。ありがとな。浩之」

 

 浩之はやはりへにゃりと笑って、俺の頭を撫でてくれる。俺はこの手が好きだ。だから、今度こそなくさないようにしたい。

 

 もうすぐお互い別れなきゃいけない十字路のところまで来る。俺は浩之とじゃれあいながら思う。この時間が、ずっと続けばいいのに。

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