神様みたいなわんこ男子に救われたTS黒髪美少女が、優しさによって心を開き一緒に幸せになる話   作:阿久津なぎ.

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2.転校生、人気者につき

「えー、藤原瑛太さんだ。名前と見た目でわかる通り、TS症候群の子だが、みんな仲良くするように。それじゃ藤原さん、挨拶を」

「はいっ! 藤原瑛太です。わけあってこんな恰好してますが、どうぞよろしくお願いします!」

 

 俺はクラス全員の顔を見るふりをしながら浩之を探す。

 

 すると、窓際から一列離れた席に本当にいやがった。こっちに手を振っているが、見なかったことにする。

 

「このようにいい子だ。TS症候群だからと邪険にせず、藤原さんの気持ちを汲んで接するように。席は……あー……。山本の隣か」

 

 担任に言われてそちらを見ると、確かにそこの席が空いている。嘘だろ。

 

 対する浩之は嬉しそうににっこり笑っている。この野郎。あとでしばいてやる。

 

「じゃあ、ホームルームは終わりだ。授業開始まであんまりうるさくするんじゃないぞ!」

 

 そう言って担任は教室を出ていった。可も不可もない担任。こういうのが一番嫌いだ。いつだって、こんな担任が評価を気にして生徒を犠牲にする。

 

 席に向かって座ると、わっとクラスの人間が集まってきた。

 

「顔ちいさーい! 美容液とか使ってる?」

「俺、正直タイプなんだけど。彼氏いるの?」

 

 ああ、ああ。とるにたらない質問ばっかりだ。寒気がする。

 

 それでも前みたいな思いはもうごめんだ。俺は努めて笑顔を作って対応する。

 

「美容液は一応。ニキビとかできるといけないから。あとごめんね、まだ性自認は男だから彼氏はごめんなさいなんだ」

「あっ、今度カラオケ行かない? 好きな曲とか知りたいなー」

「あはは。カラオケはもう少し慣れてから行きたいけど、好きな曲は教えられるよ」

 

 大丈夫。みんなは俺が愛想よく答えることに満足して笑顔だ。まだ誰も、俺を嫌っていない。

 

 昔のことを思い出して膝がわずかに震えてきたとき、横から浩之の声がした。

 

「おいおい、みんな! 転校生が可愛いのはわかるけど、みんなの勢いがすごすぎて藤原さん困ってるぞ!」

 

 俺は驚いた。ここでそんなことを言ったら反感を買っていじめられてしまうじゃないか。

 

 俺は前の学校でのことがフラッシュバックして、机の上に置いていた手を誰にも気付かれないようにぎゅうっと握る。

 

「藤原さん、ほんと?」

「迷惑だった?」

「ち、ちが」

「違うよ。嬉しいけど、一気にこられると困ることってあるだろ。それと藤原さんの友達第一号、おれだから!」

 

 にかっと笑ってそれとなく手を重ねられる。その暖かい手のおかげで、不思議と膝の震えと手を握る力がほぐれて広げられるようになる。

 

「えっ、なにそれ聞いてないんだけど!」

「隣の席になっただけだろ?」

「みんな知らないのか? 転校生の隣の席になったやつは無条件で友達になれる法則を。だから、おれと藤原さんは友達!」

「まーた始まったよ浩之理論」

 

 周りが談笑に包まれる。みんなばかだなあ、なんて言いながら浩之を見て笑っている。

 

 この不穏な状況を切り抜けた? このアホの子でしかないわんこ系男子なだけの浩之が。こいつは、一体……。

 

「ね、藤原さん! あ、友達なんだから名前で呼んでいいよね。よろしくね、瑛太!」

「あ、ああ。よろしく。他のみんなもごめん。俺人見知りだからさ、ちょっとずつだと嬉しいな」

「おっと、そうだったのか。言ってくれればよかったのに!」

「じゃあ、そろそろ授業始まるし席に戻りますか。藤原さん、ごめんね」

「あ、いや……。こっちこそ、ありがとう」

 

 そう言いながら各自の席に戻っていくみんなを見ながら、手を重ねたままの浩之の手をぺいっと弾く。

 

「おれのあったか手ホッカイロが!」

「浩之くん、だったっけ? ありがとう。助かっちゃった。お礼は……」

「そんなの気にしなくていいよ。だっておれたち、友達だろ?」

 

 その柔和な笑顔は昨日の晩と変わらない。それでも、俺には心を開けない理由がある。

 

「うーん、友達になるのはいいけど。一人だけ特別扱いはできないかな。みんなちょっとずつ友達になってくれるのに、浩之くんだけ助けてくれたからって友達になる理由ないでしょ?」

「それは……」

「だから、また今度。機会があったら友達になろう? ほら、他のみんなも聞いてることだしさ。名前は呼び捨てでもいいけどね」

 

 俺が視線を向けると、バレた、といった顔で全員が顔を逸らした。このクラス、面白いかもしれない。

 

「うう。本当に友達ダメ?」

「だーめ。みんな平等! ほら、席に戻って。俺も初めての学校で初めての授業受けるから緊張してるんだ」

 

 そう言うと、さすがに浩之はそれ以上食い下がることはしなかった。席に座り、机の中から教科書とノートを取り出し始める。

 

 そう、それでいいんだ。俺に友達なんていらない。人間なんて信じるに値しない。浩之は奇跡的にいいやつみたいだけど、友達なんてまっぴらごめんだ。

 

 俺も鞄から教科書類を取り出したりしている間に、教科担任が教室に入ってきた。俺は急いで対応した教科書とノートと筆箱以外を机の中に突っこむと、授業前の挨拶に入った教科担任の顔を見つめた。

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