神様みたいなわんこ男子に救われたTS黒髪美少女が、優しさによって心を開き一緒に幸せになる話   作:阿久津なぎ.

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22.変化していく心と関係

 それからもちょっとした変化は続いた。

 

 浩之が俺が馴染みの男性客と話しているとちょっと不機嫌になったり、かと思えば俺も浩之がお姉さん方と話してるとなんだか心がもやもやしたり。

 

 そんな俺たちをさおりはにまにまと眺めるのみで、ちゃっとアプリで相談しても『なんのことだかわからんなぁ~』と言葉を濁すばっかり。俺は何が何だかわからないまま、日々を過ごしていた。

 

「最近瑛太ちゃん綺麗になったよね」

 

 俺は目を丸くしてクラスメイトの早川さんから投げかけられた言葉を受け止める。

 

 言われてみれば……。バイト代が入ったことで化粧水変えたし、最近メイクなるものにも挑戦するようになった。結果は惨敗で、俺にメイクは早すぎる文明だったんだと思うようにしたが。

 

 でもリップをつけるようになったりとかそういうことはするようになったから、他人から見れば綺麗になったと思われるのかもしれない。母さんが嫉妬の視線を送ってくるくらいには、俺は女らしくなっていた。

 

 誰のために? と聞かれると困るけど。俺も女の子になってしまったからには身だしなみを整えなきゃいけないだろうし、ファンのみんなにかわいいと言ってもらえるのはまんざらでもないし。

 

 それにバイトでも自分一人だけ何もしてないっていうのはなんだか違和感を覚え始めたのだ。

 

 今まで俺は元は男なんだからと謎の気合が入っていたが、ここ最近はもう女の子なんだからしょうがないじゃないかと思えるようになっている。

 

 それもこれも浩之のおかげで、というかこいつが俺を女の子扱いするからこうなったんだと言っても過言ではない。

 

「そ、そうかな? 確かにリップつけたりはするようになったけど、それだけじゃそんな変わらないと思うけど……」

「ううん、変わった。すっごく可愛くなったもん。乙女はそういうのわかっちゃうんだよ。うんうん、瑛太ちゃんも女の子の階段を上り始めたかあ」

「女の子の階段って、そんな大人の階段みたいな。だいたい、浩之が俺を女扱いするのが悪い」

 

 突然話を振られた浩之はへにゃっとして、やはりへにゃりと笑うのだった。

 

「だって、せっかくかわいいんだからもったいないじゃん。俺としては今からでもハグしたいくらいだけど」

「きゃー!」

「お前さらっと恥ずかしいこと言うな! 早川さんも乗らない!」

「ごめんね……。乙女はそういうの敏感な生き物なの……」

 

 早川さん、キャラ変わってないか? 女の子っていうのは、そういうのを聞くと豹変してしまうものなのか?

 

 俺はごほんと咳払いをして話の流れを変える方向でいく。

 

「それより。俺たちももうすぐ二年か。早いよなあ」

「そうだね。うちの学校クラス替えがないから、三年まで一緒だよ!」

「げっ。せ、席替えはあるよな?」

「席替えはある。でもお昼休み一緒に食べような!」

 

 ぐっと親指を立てる浩之に俺は呆れた。こいつ、二年になっても一緒に飯食う気なのか。

 

 浩之は大人な一面を見せる反面、普段は小学生かと思うくらいわんこ度が高い。こいつを彼氏にするやつは大変だぞ。

 

 そう思って、心がちくりとする。まただ。別に浩之がどんな子と付き合おうが勝手なのに、心は勝手に傷ついてこのままがいいと願ってしまう。親友を知らない女の子に取られるのは、なんだか嫌だった。

 

 例えば、早川さんと浩之が付き合うとして。無理だ、なんだか心が痛んで見てられない。最近さおりと話してても心がなんだか悲鳴をあげるのに、付き合われたらどうなってしまうんだろう。

 

 嫉妬。人間はこれをそう言うらしい。

 

 別に女性に嫉妬しても仕方ないだろうに、と思うのだが、浩之が絡むと話が違ってくる。

 

 浩之は俺の親友で、唯一の理解者だ。それが離れていってしまうと考えれば嫉妬の一つや二つ当然だろう。ライブにだって支障が出てくる。

 

「お、おう。早川さんは隣になりたいやつとかいるの?」

「お友達と隣になれたら嬉しいなあって思うけど……。なかなか難しいよね。瑛太ちゃんは当然浩之くんと隣だよね?」

「だから! どうしてそうなる! 俺にだって選ぶ権利はあるんです!」

「えっ、瑛太おれの隣嫌なの? ちょっと傷つくわ……」

 

 明らかに演技なのに、俺は焦ってしまう。浩之に嫌われたら俺の新しい学校人生もバイト人生も、つまるところ全部がダメになってしまう。

 

「あっ、えーと。今のは言葉のあやってやつでな。本気でそう思ってるわけでは……」

「じゃあ! やっぱりおれと隣がいいんだよね!?」

 

 んばっと音を立てて顔を上げる浩之に言葉に詰まる。

 

 ここで認めたら早川さんのおもちゃ決定だし、浩之は調子に乗るし、俺は返事に困ってしまうしで、詰んだ。

 

 元から詰んでいるのなら、俺は浩之を失わないためにも二人のおもちゃになることを選ぼう。

 

「いや、まあ、知らないやつと隣になるくらいなら浩之と隣になったほうがいいよな」

「ほんと!? うれしい!」

「おわ! 抱き着くな! 視線が痛い! 痛いから! 俺たち別にそういうんじゃ……」

「えっ」

「えっ?」

 

 今度はなんだ。浩之は何に対して驚いてるんだ。

 

 確かにここ最近は人通りが少なくなってきたら手を繋ぐことが慣例化してきたからハグくらいでぎゃあぎゃあ騒ぐものではないのだが……。

 

 いや、騒ぐ。普通に騒ぐ。だって男が女の子に抱き着くんだぞ。大問題じゃないか。それに俺たち、付き合ってないし。

 

「浩之、なんでえっとか言った」

「だって俺たち、付き合ってるんじゃないの?」

「やっぱり……!」

「はああ!?」

 

 爆弾発言に俺は思わず浩之を引っぺがした。浩之は後ろに倒れそうになりながらもバランスを取って体を前に戻す。

 

「え? 違ったの?」

「え、いや、浩之にはさんざん世話になってるから完全否定とかひどいことはしないけど。よく考えるんだ。俺は元男だ。そんなのを好きになったら……」

「だって今は女の子じゃん」

「うっ……」

 

 正論パンチに打ちのめされて俺は黙ってしまう。

 

 確かに今俺は女だ。だけど、だけどそれを認めたら浩之の彼女確定じゃないか。

 

 確かに世話になっているから、彼女もどきみたいな存在になってもいいのだが。でもそれじゃ浩之は不満だろうし、俺も中途半端にそういう目で見られるのは困る。

 

「いつから!? 浩之くん! いつからなの!?」

 

 早川さんまたキャラ戻っちゃったよ。そんなに他人の色恋沙汰に興味出るもんかね。

 

「いつからっていうか……。たぶん、そうだと思って……」

「きゃー! 早くみんなに伝えなきゃ……」

「ちょっと待って早川さん」

 

 みんなのもとに走ろうとした早川さんの手首を掴む。

 

 俺の、俺の意思は? 仮に100歩譲って付き合っていたとしても、まず俺にも確認取るべきじゃない?

 

「どうしたの瑛太ちゃん!」

「俺の、俺の意思はどうなるんですか」

「だって、浩之君が付き合ってるって言ってるんだからもうこれは公然の事実みんなに早く共有しないと」

「待って早川さん。興奮しすぎてバグってるよ思考が」

 

 とっさに止めてよかった。そうじゃなきゃ学年全員に吹聴して回られるところである。

 

「止めないで! 恋は止まらないものなの!」

「あー……。俺は付き合ってないと思ってるんだけど」

「えっ」

「えっ、じゃなくて。ガチに」

 

 俺の正直なところを伝えると、早川さんは急に勢いがなくなった。よかった、浩之はじんわり涙目だが、こればっかりは俺の学校生活にかかわってくる。

 

「だ、だって浩之くんは……」

「浩之は浩之、俺は俺、だよ。早川さん。浩之はありがたくも俺と付き合ってると思ってくれてるみたいだけど、俺はそうじゃない。オーケー?」

「お、おっけー」

「よし。じゃあ言いふらすのなしね」

 

 冷静になった早川さんは顔を真っ赤にしてこくこくと頷いた。

 

「瑛太ー。俺フられて悲しいんだけどー」

「自業自得だろ。それに、その。学校で言うべきことじゃないだろそれ! TPOってやつをわきまえてくれ!」

「瑛太がそう言うなら……」

「よろしい。今日のまかないは俺が奢ってやろう」

 

 最近、さおりにも「付き合ってるんじゃないか」と煽られる日々が続いていた。加藤店長はそういうのに興味ないのか何も言ってこないが。

 

 パートのおばちゃんたちの噂になっても嫌なので、さおりにも口封じしておかなければ。

 

 そこで休憩時間終了のチャイムが鳴る。

 

「あっ……。ご、ごめんね瑛太ちゃん。人の恋とか目がなくて……。二人の友情はこれからも応援してるから!」

 

 早川さんはそう言い残して自分の席に戻っていった。俺はため息をつき、教科書とノートを取り出して教科担任が入ってくるのを見る。

 

 付き合ってる、か。確かに手を繋いだりしてたらそりゃ勘違いもするよな、と思う。

 

 でも、なんだろうこの気持ちは。付き合っていると言われて、まんざらでもないような、嫌ではないこの気持ち。だからといって今から付き合えるかと言われたらNOだが。

 

 俺はどうしたいんだろう。浩之のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。俺の心を解きほぐして、親友になってくれた。それに感謝してないはずがないし、むしろ何かお礼がしたいくらいなのに。

 

 さっきハグされたときの感覚が残っている。嫌ではない。むしろ暖かくて、気持ちがいい。

 

 この前のノートを貸し借りするときといい、チョコクッキーを渡してから何かが変わってきている。それがどう変化していくのか、俺はわからない。

 

 とりあえず今は授業に集中しよう。そう思って、教科担任の軽快なチョークで黒板に文字を書く音を聞きながら俺は集中していった。

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