神様みたいなわんこ男子に救われたTS黒髪美少女が、優しさによって心を開き一緒に幸せになる話   作:阿久津なぎ.

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25.因縁の対決

 俺の家の前に立ったとき、俺は膝が震えていた。今まで避けていた母さんとの本音の話。浩之という強い味方を得ても、怖いものは怖い。

 

 浩之が強めに手を握ってくれる。それに縋るようにしながら、俺たちは玄関の前に立って手を離す。俺としては離したくなかったが、母さんが発狂したら手がつけられるのが浩之しかいないからだ。

 

 玄関を開けると、目の前に母さんが立っていた。まるでホラーのワンシーンのようで、俺はひっと悲鳴をあげてしまう。母さんは死んだ目で俺と浩之を見てから、浩之をきっと睨む。

 

「お子様がなんのの用かしら」

「お話があってきました」

 

 その瞬間、鬼でも殺したような鋭い視線が俺に向けられる。それから守るように浩之が立ちふさがってくれたおかげで、俺は反射的にしゃがみこんで謝るという失態を犯さずにすんだ。

 

「瑛太くんを睨むのはやめてください。これは、僕の独断でしたことなので」

「瑛太のせいじゃない? ……じゃあ、全部話したのね! この親不孝者!」

「落ち着いてください!」

 

 俺を蹴飛ばそうと足を上げかけた母さんの体を、どこにそんな力があるのかというほど見事に浩之が羽交い絞めにして後ろに引き寄せ俺と距離を取らせる。

 

「かあさ……」

「呼ばないで! 私はあなたの母親なんかじゃない!」

「……っ」

「ここじゃ話にならない。家に入らせてもらいますよ」

 

 恐ろしいほど冷静な浩之の声が母さんをずるずると引きずって家の中に入らせる。俺は全身をぶるぶると震えさせながら家に入り、玄関を閉めた。

 

「離しなさい! 警察に言うわよ!」

「それじゃあ、今までのネグレクトも警察に素直に話されるっていうことでいいんですね?」

「そんなことまで……! この売女(ばいた)! やっぱり、あんたなんてうちの子じゃ……!」

「いい加減にしてもらえませんかね。おれ、あんまり気が長くないんで。あんまり罵倒するなら実力行使に出ますよ」

 

 ひんやりとした、聞いたことのない浩之の声が聞こえる。母さんはそれに怯んだのか、一瞬暴れることをやめた。

 

 それからの浩之の行動は素早かった。もうしばらく母さんと顔を合わせて座ることのなかったリビングにさっと入ると、奥側の椅子に座らせる。

 

 俺がおずおずと部屋に入ると、浩之は安心させるようににっこり笑って片手をあげてそこで止まるように指示してきた。

 

「今興奮状態だから、何してくるかわからないからね」

「私はいたって正常よ! なに? この売女に惚れたとでもいうの? はっ、とんだお笑い草……」

「そうです。だからここまでしてお母さんとお話しようとして来たんですよ」

「なにを……。いっ!? あああああ! 痛いから、やめて! おとなしくするわ、おとなしくすればいいんでしょう!?」

 

 浩之が母さんの腕を後ろに回してひねる。関節が外れそうになった母さんは悲鳴をあげ、ようやくおとなしくなった。

 

 浩之は俺のところに戻ってくる間際ぽんぽんと俺の頭を軽く叩くと、写真で見せてもらったときのような荒んだ目で母さんを見た。

 

「先ほどは失礼しました。あまりにもお話を聞いてもらえないもので、つい」

「そんなことはどうでもいいわ。話があるんでしょう? さっさと話してどこへなりとも行ってちょうだい」

 

 ああ、やはり母さんは俺を見捨てる気だ。元からそうなんじゃないかとは思っていたけど、いざ口に出されると心が潰れそうになる。

 

「それは、瑛太くんを見捨てるってことですか? 養護義務を放棄すると?」

「子供がたいそうな言葉使ってんじゃないわよ! 私の子供だもの、私がどう扱おうが勝手でしょう!?」

「そうですか。しかし、瑛太くんはお母さんと仲直りがしたいと思っているようですよ」

 

 俺は浩之の後ろに隠れながら頷く。

 

 俺は、多少変わってしまっても母さんと普通に話ができるようになりたい。一緒に食卓を囲んで、今日あったことなどを話したりしたいだけなのだ。昔のようになんてもう贅沢は言わないから、せめて自分に興味を持ってほしい。

 

 それでも母さんははっ、とそれを一蹴した。酒でも飲んでいたのかという態度の悪さで、先ほどの痛みを忘れたかのように浩之を睨む。

 

「もう聞いてるかもしれないけど。うちは瑛太のせいで借金背負ってるのよ。そんな子を愛せるとでも思ってるの?」

「おれは親になったことはないからそれはわかりません。でも、もう親であるという自覚のひとかけらも残ってないのですか? 子供にも働かせて、その給料をほぼ全額没収する程度には?」

「しつこいわね。もうどこにでも行ってちょうだいと言っているのよ。瑛太。この際言っておくわね。私はあなたを恨んでる。もう昔に戻るなんて無理なのよ。高校に通わせてあげてるのが私の唯一の温情。わかる? この家にあなたの居場所なんてないのよ」

 

 その言葉は、的確に俺の胸に突き刺さった。

 

 やっぱり、そうだったか。俺は母さんが無理をして家に置かれている存在。確かにそれなら、時間が経過しても許してもらえるはずなんてない。

 

 でも、逆にすっきりした自分もいた。中卒で働くというのはとても厳しい道だろうが、俺を恨んでやまない存在と一つ屋根の下で暮らすよりずっといい。

 

 ごめんなさい、と言おうとした俺を浩之が片手で制止する。そして後ろにある俺の手を握って、言い放った。

 

「じゃあ、あなたの息子さんおれがもらいますね」

「……へ?」

「何を言っているの、あなた」

 

 それぞれ反応を返すと、浩之は不気味なほど笑顔になって母さんにお辞儀をする。

 

「あいにく、惚れちゃったもんは惚れちゃったんで。高校卒業したら、俺たち結婚します。戸籍を抜くのは、そのときまで待っていてもらえるといいんですけど」

「は……はあああああ!?」

 

 何を言っているんだこいつは。つい先日、付き合うのはまだ無理だと伝えたばかりではないか。それが、付き合うという段階を飛び越えて結婚だなんて。正気じゃない。

 

「ああ、二人とも正気じゃないと思ってるでしょうが、俺は本気です。去年5月から始めたバイト代と、ちょっとしたツテがあるんでね。そこで二人で住ませてもらいます」

「ちょ、ちょっと浩之、聞いてないよ! ツテってなに!?」

「今はいいから。……お母さん、それで問題ないですね」

「ぷっ……。あはははははは! 瑛太を厄介払いできるならなんでもいいわ! どこへなりとも連れて行って、もう二度と顔を見せないでちょうだい!」

 

 母さんはバンとテーブルを両手で叩いて立ち上がると、俺たちの横を抜けてリビングを出ていった。

 

 しんと静まり返る室内。俺は母さんに逆に見捨てられたというのがショックでへたりこみそうになるが、それを浩之が支えてくれる。

 

「ごめんな。仲直りさせようと思ったけど、瑛太のお母さん強情で言うこと聞いてくれなかったから、最後の切り札使っちゃった。怒ってる?」

「怒ってない。……って言ったら、嘘になるかな」

「ごめん」

「いや、でも。うん。これでよかったのかもしれない。高校中退して、働けばなんとか生活していけるだろうし……」

 

 そう言いかけた俺に、浩之は目を丸くする。

 

「だから言ったじゃん。これから一緒に住むって」

「えっ」

「だからお母さん……あいつも許してくれたんだよ。……怖くて半分話聞いてなかったね?」

 

 そんなの、アリなのか。記憶を辿れば、確かにそんなようなことを浩之が言っていた記憶がある。

 

「でも……いいのか? 学費はバイト代でなんとか払えるとしても、家賃とか光熱費とか」

「そういうのまるっと解決してくれる存在がいるの。うちのばあちゃんなんだけどな」

 

 そのとき初めて、浩之におばあちゃんがいることを知った。

 

 浩之と一緒に一旦家を出て、浩之がおばあちゃんとやらに電話をかけ始めた。

 

「あっ、ばあちゃん? 久しぶ……」

『このボンクラ孫! また何か警察のお世話になったんじゃないだろうね!』

 

 離れていても爆音で聞こえてきた怒声にビビる。えっ、おばあちゃんっていうとこう、もっと穏やかで孫には優しいイメージが。

 

「もう警察のお世話にはなってないよ! ほら、ずっと言われてた口調も変えたでしょ! わかってよばあちゃん!」

『ふん。それならいいけどね。で、今度は何をしてうちのアパート使いたいんだい?』

「恋人候補と同棲したいから」

『ぶぁっ……かもーーーーーーん!』

 

 今度は本格的に耳がキーンとなる。ずいぶんとパワフルなおばあちゃんだ。

 

 浩之がなんとか事情を簡単に説明すると、話なら聞いてやるということでそのアパートに行くことになった。

 

 ……で、同棲ってどういうこと?

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