【巨乳】もんくえに転生したと思っていたらもんぱらだった件【天使】   作:ちゅーに菌

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感想ありがとうございます。そろそろ本編を始めたいところですね。ちなみにハイパーインフレしている戦力はどうにか落ち着けますので安心してください。


アリスベア

 

 

 

 

 

「あらあら? 何を読んでいるんですの?」

 

 宿に宿泊客が少なく仕事を終えた空き時間に読書をしていたルカは、背後からその女性に突如として声を掛けられた事で大きく肩が跳ねる。

 

 椅子に座ったままのルカが顔を横に向けると、そこには稚気でありながら人を食ったような笑みを浮かべているアリス服姿の金髪の女性――アリスベアと呼ばれている人物の姿があった。

 

 彼女は時々ルカの宿に顔を出すカナン達の構成員の一人であり、剣の腕だけはルカも一目を置いているカナンが"単純な技量なら私よりも上です"と語る程の剣客である。

 

「ベアさんか……」

 

「うふふ……なんだか楽しそうですわね」

 

(なんか怖いんだよなこの人……)

 

 本の内容に没頭していた事で驚いたというのもあるが、それ以上にアリスベアが気付いたら真横に立っていたという事実に驚く程度には、ルカはこの女性の事を計り兼ねていた。

 

 ルカとしては、カナンは実力だけなら超越者だという事はわかるが、性格が壊滅的かつ奇行は目立つが、凶行には走らないという謎の安心感がある。アズリエルは奇行に走らなければ親とはまるで似つかない真面目で可愛らしい妹のようなものという認識である。

 

 一方、アリスベアに関しては、彼女自身はそのような事を一切しておらず、行儀の良い冒険者の女性程度にしか見えないにも関わらず、次の瞬間に関わるあらゆる者の首を飛ばしている姿が脳裏に浮かぶような不安と怖さがあった。

 

「んー、タイトルは…………あ――」

 

 そんなアリスベアがルカが読んでいる本の表情を眺め、目を大きくして驚き、何処か懐かしさと愛おしさを内包したような自然な笑みを少しだけ浮かべた事にルカは目を丸くした。

 

 ルカもその本のタイトル――"勇者ハインリヒと魔導師アリストロメリア(グノーシス編纂版)"に目を向け、そこまで関心を引くものなのかと少しだけ首を傾げる。

 

 勇者ハインリヒ――。

 

 フルネームはハインリヒ・ハインは、約500年前に当時の世界を震撼させた暴虐の魔王"黒のアリス"ことアリスフィーズ8世を討ち果たした伝説の勇者その人であり、立派な勇者を目指しているルカの憧れの人物である。

 

 そして、アリストロメリアとは、このグノーシス編纂版のハインリヒの伝記でのみ登場する女魔導師であり、二人が気の置けない関係であり、互いに言葉にしないだけで恋仲のような甘酸っぱい関係性をこれでもかと描写しつつ、少年漫画のような熱い展開や戦闘描写が大半の漫画作品だ。全37巻。

 

 ちなみにグノーシスとは最近になって現れた歴史編纂もしている漫画家のペンネームであり、歴史上のあらゆる出来事や人物を凄まじい速度でわかりやすく漫画化し、まるでその当時にその場に居合わせたかのような描写と躍動感が特徴である。

 

 これまでのハインリヒの伝記には、アリストロメリアという人物は一切出て来なかったため、あまりにロック過ぎる二次創作だと世間には周知されているが、天使の描写が異様に細かく、何故か試練や暇潰しや騙して悪いが等の理由で戦闘を吹っ掛けて来る熾天使カナンのキャラクターが、宿(うち)に居るカナンを名乗る天使モドキにそっくりな点がルカには不可思議だ。

 

 とは言え、そのカナンらしきものが、娯楽作品として都会でも人気で品薄なそれを全巻纏めて持って来たため、勇者を志しているルカは嬉々として読んでいたのである。

 

「読む……?」

 

「…………! ええ、それではお言葉に甘えまして……」

 

 すると直ぐにアリスベアはルカの対面に椅子を持って来て座り、机に山積みになっているそれらの中から1巻目を探すとページを開いた。

 

 ちなみにルカは既に数回読み返しているが、この作品は女神イリアスや天使を悪党として描いており、アリストロメリアの正体は当代の魔王である黒のアリスその人だったというとんでもない設定を採用している。

 

 そして、ハインリヒと結ばれる寸前で女神イリアスは黒のアリスを殺し、それに逆上したハインリヒが復讐鬼と化し、数多の天使達を斬り殺しながら天界へと乗り込み、最終的に女神イリアスの御前で熾天使カナンに処断され、魂は封印、肉体は滅ぼされるという救いの無さ過ぎるバッドエンドになっている点もぶっ飛んでいた。

 

 とは言え、読み物としては斬新で面白いのはルカとしても確かである。

 

「ふぅん……こちらではこのように――うふふ……」

 

 ベアはやや子供っぽい笑みを浮かべつつ伝記のページを捲り、少しずつ噛み締めるように読み進めて行き、何と無くルカにはその姿が無垢な少女のように見えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、私の世界にそれは唐突に現れた。

 

 

 

 最初は世界の中心を貫き穿つような大陸サイズのポッカリと空いた巨大な穴の出現であり、一夜にして現れ、元々そこにあったモノは全て消え去ってしまったのである。

 

 唐突かつ不気味なそれに私を含めて皆困惑しつつも首を傾げるばかりであったが、それを皮切りに世界各地で同じような穴――タルタロスと呼ばれるそれが幾つも発生し、更にそこから人間も魔物も天使をも侵食する魔物のような何か――アポトーシスが溢れ出した事で世界は大混乱に陥った。

 

 それらふたつにより私の世界は面白い程の勢いで抉り取られ、塗り潰され、たったの数年で世界はさながら黒い絵具をぶち撒けたキャンパスのように半分程度になってしまう。

 

 無論、私は人々と共に世界の崩壊を止めるために奔走した。奇しくも世界は共通の危機により、歴史上類を見ないほど全ての国々と種族が団結するに至り、私たちは最大限支援しつつ独自に解明を進める。

 

 それにより原因は究明でき、この不可解な現象が何故起こるのか。そもそもタルタロスとアポトーシスが何なのかは大方見当が付いた。

 

 しかし、それと同時にこの世界が消滅する事は自然な事であり、それを止めることは不可能という確証を得てしまったのだ。

 

 何てことはない。どうやら世界というモノは、元々はひとつであったが、とてつもなく下らない幾つかの独善的な要因により、数えるのも億劫な程数多の平行世界が分岐し、そのひとつが私の世界だったというだけ。

 

 この世界は本来存在し得ない正史から外れた数多ある平行世界のひとつ。カオスにより消滅が確定し、剪定されるべき有象無象。存在した意味が無かったもの。

 

 そして、正史から最大の差異は私自身が存在する事に他ならないということだ。他の平行世界に比べると400年程度崩壊が早かったのもそのせいであろう。

 

 どうやら私は生まれながらに詰んでいたらしい。私の人生の意味は最初から無かったのだろう。両親が人並みの幸せを謳歌したせいで世界が潰えるとは何と面白い。

 

 それから最初のタルタロスの出現から30年余り、最早、生き残りと呼べる程度に残った者達もひとり、またひとりとアポトーシスに変わる。

 

 それを斬り捨てるのは私の役目だった。

 

 そして、つい昨日、世界最後の生き残りが私の手で消えた。これで私はたったひとりとなる。今更そんなものに意味はない。既に私の世界は潰えたのだ。

 

 母ならば終わってしまったパーティーの後片付けを眺めているような感覚は何とも物悲しい等と言うだろうか? そう思えればさぞ幸せだっただろう。私にはつくづく覇道が向いていない。

 

 しかし、滅びを前にして不可解な事はまだある。何故か私の細胞あるいは遺伝子はまるでアポトーシスに侵食されていない。私だけがされなかった。この世界で最も特異だった点は私だというのに。

 

 まだ、生きろということだろうか? 足掻けというのだろうか? 弔う墓標もすぐに混沌に呑まれ、滅んだという事実すら今に消える。この世界に生きた者たち全ての生きた証は無に帰す。

 

 既に私が抗う理由は何処にもなくなった。だからこれは私の遺書。これを(したた)めたのは自分自身に後悔と懺悔を刻むためのもの。

 

 数えるのも面倒なほど潰してきたXX型アポトーシスに身を委ねれば今度こそ死ねるだろう。あんな如何にも母が好きそうなお人形に殺されるのは癪だが、見た目に愛嬌だけはそこそこある。後は愛想さえ振り撒いてくれれば言う事なしだ。

 

 さて、この辺りで女々しい言い訳は終わりにしよう。

 

 ああ……でももしまた同じような世界に生まれる事が出来たのなら……また、母と父に会い――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばばーん! やあ、僕は白兎! 魔王アリスを導きに来たんだけれ――ぎゃー!?」

 

 

 

 島一つ分程度だけ残った地表に残る墓地の前で遺書を認めながら佇んでいた私は背後から投げ掛けられた声の方を向く。

 

 既にほぼ終わり、この切り取られたような空間だけになっている私の世界では、私以外に口を聞ける者は既に残っていない。

 

 幻聴かとも考えたが、若干XX型アポトーシスと似たものを感じたので反射的に斬り捨ててしまった。

 

 背後で無惨にも真っ二つになった白っぽい遊び人モドキが転がっており、アポトーシスにしても余りに呆気ない幕引きだろう。

 

「誰が遊び人だって!? ぼ――」

 

 どうやらまた斬り裂いたらしい。

 

 頭から真っ二つになった2体目の残骸が転がっている事が証拠だろう。ファスナーまみれの白マントにウサミミの付きの亜人か魔獣風の何か……いや、見れば1体目の残骸が既に消滅しているため、こういう類いのXX型アポトーシスなのだろうか?

 

「…………確かにどうせなら愛想のあるXX型アポトーシスに殺されたいと願いましたが、あなたは……なんとなく生理的に嫌ですわ」

 

「ちょ……!? 色々ひどッ!? いや、そうじゃなくて僕は君に用があって――」

 

「あらあら? そうでしたのね」

 

 とりあえず、また近くのソレを斬った。

 

 今度はそのままフライパンで炒められる程度に細切れにしたが、直ぐに別の場所に再出現する気配を認識する。

 

 

(わたくし)は特にありませんわ」

 

 

 そして、再び私は愛刀の"月下美人"を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「止めろって言ってんだろー!?」

 

 暫く白っぽい兎らしきものと追いかけっこをしていたが、あちらの方が痺れを切らしたのか、そんな叫び声を上げる。

 

「もう少し抵抗してくださいまし。こちらもあまり楽しくありませんわ」

 

「何回も無垢で幼気な僕をズバズバ斬りやがって!?」

 

「17回ですわよ? 最後のパーティーの相手があなたみたいのだなんて興醒めですわね」

 

「ヤバいこのアリス……。他の時空連続体でも類を見ないレベルで全然、人の話聞かない……」

 

 相手が最上級アポトーシスならば躊躇する理由も加減する理由も特にない。会話は出来るが、それが相手を欺くために貼り付けただけのテクスチャでないと誰が証明出来ようものだろうか?

 

 故に不穏な気配を纏い、一度殺しても立ち上がったならばそれはアポトーシスである。

 

「なんでイカれてるぐらい強情なところは母親譲りなの……」

 

「あら? 母をお知りですの? それは失礼致しましたわ」

 

「ええ……」

 

 私は刀を納めた。

 

 母の話題を出されてはとりあえず話を聞く他ない。そう思って見れば、目の前の兎らしきものは母が気に入りそうな造形と態度なため、確かに知り合いだとしても可笑しくはないだろう。

 

 まあ、平行世界に母が知り合いを持っていたかと問われれば恐らくそんなことはないが、斬るのは話を聞いてからでもいい。

 

「えっと……話していいのかな?」

 

「うふふっ……どうぞ、可愛らしい兎さん」

 

「うわっ、笑顔とかそっくり」

 

 半分は母の遺伝子で出来ているし、私は母親似なのだからそれは当然であろう。それよりも世界と私が終わるという場で会うのが白兎とは何とも面白い話だ。

 

「君を迎えに来たんだ。()()のアリスの可能性の中でもトップクラスに個体性能が高い君を」

 

「ふぅん……」

 

 どうやら先に本題から入ったらしい。

 

 私は気が長い方なのでそう焦らなくても大丈夫なのだが、月下美人の鯉口を鳴らしている事が気になるようだ。

 

「この平行世界――F23893はもう間もなく滅ぶ。それは知っているね?」

 

「ええ、皆そうならないように沢山頑張りましたからね。まあ、弾けるシャボン玉をそうならないように止めておくだなんて無意味な事でしたが」

 

「それでアリス、君だけが残った。それはきっと必然さ」

 

「よく言いますわ……。世界ごと数多の世界は不要だったと言いますのに」

 

「おー、おー、随分ひねくれちゃて……。兎に角、そろそろここに来る奴が君を導く。僕はそれを知らせに来ただけさ」

 

「いきなりなんですの……?」

 

「どうするかは君次第だよ。おっと、時間だっ! そろそろまた別のアリスを導かなきゃね! バイビ――」

 

 その直後、白兎は彼女の視界の外から放たれた光――明らかに並の天使では起こせないほど濃厚で煌々とした聖光による爆撃によって跡形もなく爆散する。

 

 そして、攻撃が飛来して来た方向を見れば、明らかに熾天使クラスの聖素を纏う片手足のない天使が片手を上げており、その指先から発砲後の白煙のように聖光が漂っていた。

 

「うわっ……またまた、F00001から外れたというか、ハズレですねぇ。ここはもう行き止まりですか。皆さん撤収、撤収ー。また分岐からやり直しですよ全く……」

 

「あの……カナン様……? 今、白兎を視界に入れた瞬間爆殺しませんでしたか……?」

 

「ツクヨミさん、気のせいですよ」

 

 更にそれとよく似た小さな天使、死体に近い天使、機械のような魔物が2体おり、その不思議で奇異な組み合わせに目を丸くしつつも少し月下美人を握る手を強める。

 

 小さな天使以外、全員相当な実力者に思えるが、特に熾天使クラスの天使は別格だ。両親やXX型アポトーシスを含めて私が見て来た存在の中で間違いなく最も強大な力を持っている。

 

 どうやら死のうとしていたのに私は、まだ戦いたい未練があるらしい。つくづく母親譲りの快楽主義な性格には参ってしまう。

 

 しかし、それ以上に看過できない事により、私はその天使へと斬り掛かった。

 

「ご挨拶だな……!」

 

「術式――」

 

「止まりなさい、私の客人ですよ?」

 

 即座に機械の魔物の2体が反応し、死体に近い天使も剣に手を掛けていたが、天使がそれらを制した事で、難無く私の月下美人が振り下ろされる。

 

「………………!」

 

「ほう……。黒のアリスの茶番(擬態)という訳では無いのですね」

 

 闇を纏う袈裟斬り――シャドウブレイクをその天使は片腕を振るって容易く受け止め、私の技を見てかそう呟く。

 

 これは厄介な相手だ。熾天使クラスの時点で一筋縄では行かない事は分かり切っていたが、明らかに加減している。数%も力を出しては居ないだろう。

 

 死力を尽くしてもどこまで届くかどうか――そう考えると自然と口角が上がるのを感じた。いけない、悪い癖だ。

 

「閃殺――」

 

 間髪入れずに闇を纏わせたまま刃を返した一閃――微塵滅閃を放つが、腕をそのまま剣に見立てて天使の剣技を放つ事で相殺される。

 

 やはり熾天使と私では地力の差は覆しようもないが、攻撃の手を緩めて後手に回る事は得策ではないため、桜花幻舞を使い、闇を斬撃として放ちつつ流れるように斬り掛かる。

 

「まあ、それなりには――」

 

「瞬閃・斜十字」

 

 天使の腕が舞うように振るわれると桜花幻舞を瞬時に相殺し始めた事で、実際に見たことはないが、最高位の天使のみが使えるという剣技の九重の羅刹による斬撃だと当たりを付け、発生の途中に腕目掛けて剣撃を差し込む。

 

 しかし、それを天使は二枚の翼を肉盾にし、瞬閃・斜十字を受け止めた。身代わりの翼は血と聖素を撒き散らしながらバラバラに裁断されるが、天使の剣技はそのまま放たれる。

 

「う……」

 

「はーん……訂正しましょう。それなり以上ですか」

 

 仕方なく天使の剣技を相殺し、逸らし、迎え撃ち、避け、受け止めたが、対処しきれなかった最後の一閃が私の肩口を浅く切り裂き、熱と共に血が流れる感触を覚える。

 

「…………ん? んんん……?」

 

 至近距離から退いた私を眺める天使は、首を傾げてこちらを見るばかりで何もして来ない。流石は最高位の天使、絶対強者らしい生物を下に見る傲慢さだろう。

 

 だからこそ格上は付け入る隙がある。

 

「アナタまさか――」

 

「こうですわね――九重の羅刹」

 

「は?」

 

 一度見ればそれだけで十分。技量は私の方が上だ。

 

 対処が遅れた天使も私ごと相殺する為に恐らくは、魔天回帰を放つ予備動作によって片手の掌が輝きを帯び、収束する聖光は見るからに直撃すれば私を消して余りある威力だろう。

 

 しかし、先に私の月下美人から放たれたものと、遅れて素手から放たれたそれではどちらが先手を取れるのかは明白で、最初の一太刀で掌を横に一閃し、更に四度の斬撃で腕を刻み、二度の斬撃で肘を撫で斬った。

 

 それだけやってようやく熾天使の腕は鋼のような音と共に大きく弾かれ、体勢をやや崩したところに残りの二撃を全力で胸に叩き込み、彼女の上衣を斬り裂くと共にその皮膚を浅く斬り裂いて傷が交わった場所から幾らか出血させる。

 

「うふふっ――」

 

 その直後、弾かれながらも熾天使の掌から魔天回帰が放たれ、逸らし切れなかったそれを受け流して斬り払った事で、私の月下美人は手元から弾き飛ぶ。

 

 剣士としてはこの時点で終わりだが、熾天使が隙を晒すのはここしか無い。ならば僅かに私の世界に残った精霊たちの最後の残滓を右腕に集め、闇を練り上げながら突き出した。

 

エレメント・スピカ(死んでくれる?)

 

「――――――」

 

 四属性の力に闇を加えた私の腕は、熾天使の胸に付けた傷口の交差点を貫通し、その体内で魔力爆発を起こす。

 

 ポッカリと熾天使の胸に風穴が空き、遅れて聖素と血が止め処なく溢れ出した。寸分の狂いもなく天使の霊核を穿った事だろう。

 

「お母さん!?」

 

「アズリエル、大丈夫です」

 

 熾天使の取り巻きに守られるような位置に居た熾天使に似た少女を、背中に輪が一体になっている獣の魔物が前足でそっと包むように抱き寄せている姿が見える。

 

 その様子に親子の絆を見た私は少しだけ羨ましく思い――直後に全く生命力を損ねた様子のない熾天使の腕に首を掴まれて私は持ち上げられた。

 

「ぐっ……」

 

「きひひひひ……!! おめでとうございます。いやぁ……お強い。聖魔大戦の頃の私なら殺せていたかも知れませんよ? 慢心はするものではありませんねぇ……」

 

 とても愉しげな様子でカラカラと熾天使は笑う。その姿になんとなく母と話が合いそうな者だとぼんやりと考える。

 

 よく見れば熾天使の胸から零れ落ちる血は、地面に落ちる頃には水色の粘性を帯びた液体へと変わっており、気付けばその翼も同じ水色を帯びた半透明の液状翼へと変化していた。

 

 スライム――。

 

 どうやらこの熾天使は、正気とは思えない事に自らの身体に忌むべき筈の魔物の力を取り込んでいるらしい。発想はXX型アポトーシスの連中と大差ないだろう。

 

「"粘魔の翼"……。()()六祖の禍撫(禍撫さん)の力です。多少意識が曖昧になるのは玉に瑕ですが、半ば不死身の身体となるのですよ」

 

 スライムの翼から侵食されるかのように熾天使の身体は水色の半透明に変わって行き、私が開けた穴は何事もなかったかのように塞がる。そして、額の部分に宝石のように赤々と輝くスライム核が形成された。

 

 アレで倒せなければ今の私には方法がない。大人しく殺されるしか無い。まあ、目の前のコレが本物かどうかは既に私の知るところではないが、最期にしてはマシな結果だと考える。

 

「うふ……うふふっ……」

 

 ああ、でも叶うなら……もうひと目だけ――母様と父様に会いたかったなぁ……。

 

 

 

「――ではその願いを叶えましょう。その代わり、アナタはこれから私の指示に従うように。異論は認めません。負けた下等生物にそのような権利などないのです」

 

 

 

 私を地面に下ろした熾天使はそんな事を言って来た。

 

「天使はやろうと思えば、直接相手の想いを受信して脳内に言葉を投げ掛ける事ぐらい出来ます。まあ、会話程度ですが。あっ、ゼリー食べます?」

 

 翼の一部をもぎ取ってこちらに寄越してくる。スライムの身体を食べると乗っ取られるので勿論食べない。

 

 私が強要を否定すると、全ての翼から淡い聖光が放たれ、直ぐにスライムと化していた姿は熾天使の元の容姿へと戻る。

 

「失敬な……。味は保証しますよ。禍撫さんが」

 

 残るのは掌に乗った拳台の水色のゼリーだけで、今までの光景がまるで嘘のようであろう。

 

 そのゼリーも熾天使が握り潰した事で霧散し、水色の欠片は空に溶けるように魔素と聖素へと別れて行った。

 

「では早速ひとつ教えなさい。何故私に、私だけに斬り掛かって来たのですか?」

 

 あまり単純ながら私の嗅覚と勘で行動しただけの理由、その答えを告げると、熾天使は合点がいったという様子を見せる。

 

「なるほど……やはり私は……。まあ、いいでしょう。及第点です。アナタにはいつでも私を殺して良い権利を差し上げます。当然、抵抗は致しますが」

 

「あら……? いいんですの?」

 

「ええ、暇潰しには丁度いい。アナタにとっても、悪い話ではないと思いますが?」

 

 常人からすれば意味の分からない約束。しかし、それが新たな縁となった。

 

「では行きましょうか。ふふふ、イリアス様に良いお土産が出来ました。精々、足掻きなさい――」

 

 私にはまだ……生きる理由がある。

 

「――"人間"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、あの……アリスベアさん……?」

 

 ――どうやら少し懐かしい夢を見ていました。

 

 いつの間にか漫画を読みながら眠っていたらしい私は、微睡みから目を覚まし、目の前で居心地が悪そうに佇むルカの幼馴染み――ソニアを眺め、加虐思考が唆られるのを肌に感じました。

 

 苦手な人、あるいは恐れている人に向ける反応をされるというのは、やはり心地の良いものがありますわね。

 

 とりあえず、悪戯を込めてソニアを抱き締めると、彼女は目を白黒させて面白い反応をしてくれます。

 

「へあっ……!?」

 

「……ああ、この匂いやっぱり……」

 

 素体にダメージを受けるあるいは第一種断界接触を起こしても自動防衛機構すら発動しない。テクスチャも貼り付けられたまま変化もなし。

 

 擬態型あるいは監視型と推定されるが、現在の状況で起動していないのならば第二種断界接触まではトリガーになり得ません。ならば私がソニアを殺せば第三種断界接触に当たるでしょう。

 

 つまり、彼女を穏便に始末するのならばこの世界の者の手で行えば、断界接触には当たりませんわ。

 

 けれど大丈夫、彼女はまだ大丈夫ですから。

 

「ソニアさん」

 

「えっ……?」

 

「いざという時は、アナタを私が介錯してあげますから……安心してくださいね?」

 

「ひと欠片も安心できない!? どうしてぇ!?」

 

「ふふふっ……あははははは……!」

 

「こっ、怖い……!? ルカたすけてー!?」

 

 私はアリスベア――アリスベア・ハイン。

 

 かつて黒のアリスだったが、人間として生きる事を選んだ女を母に持ち、そんな女と共に歩む事に決め、堕落した勇者ハインリヒを父に持つ――。

 

 

 

 ――しがない"勇者"。

 

 

 

 私は世界を護るのです。

 

 

 だって私は……勇者なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 







アリスベア・ハイン
 かわいい、かわいい、アリスのクマちゃん。カナン曰く並行世界ガチャレジェンドレアの女。黒のアリスとハインリヒの実娘であり、母親譲りの容姿と悪辣で刹那的かつ快楽主義的な性格を持ち、父親の勇者としての素質と善性を持つ人間である。
 肉体的には人間ではあるが、タバサ王家よりも更に魔物の血を色濃く継いでいるため、常人よりも遥かに長命であったが、それでも世界の守護者という名の勇者であった。ルカの先輩。
 カナンに同行しているのは、全ての鍵となっているF00001に行く以上に、一目見て直感的に世界の異物であると感じ取ったカナンが自覚している或いは無自覚な本性を表した場合、刺し違えて少しでも世界の脅威を削るためである。
 それはそれとして、また両親に会いたいというは事は本心であり、可愛いものとパーティーも好き。もちろん、イベントを経て倒せばちゃんとルカさんの仲間になり、おねだり(エッチ)も可能。

※ちなみに強化イベントを経ると人間と魔物を切り替えられるようになる。


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