イ号潜水艦の日常   作:もっちー太郎

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ズイカクの能力については作者の独自設定です。

今回は原作でズイカクと一緒にいる猫がどこから来たんだろうと思って書いた話です。


任務:5日目

―太平洋・ビートン海山洋上―

 

緑色を帯びた船体が海面に浮かび、甲板には猫を抱いた少女が立っている。空は青く、海も穏やか。流れる風には熱気が混じり、402の長い銀髪が首筋についた。

 

「総旗艦。また潜航してきたんですか」

 

 402がそういうと、200mほど離れた海面が突然盛り上がり、直後大爆発を伴いながらヤマトの船体が姿を現す。周囲は雨でも降っているかのようになり、402は猫を濡らさないように自身の周りにクラインフィールドを展開した。

 

「ごめんなさいね。少し考え事してて」

 

 ヤマトは手すりにより、下方から見上げる402に手招きをする。402はクラインフィールドで空中に足場を作りヤマトの甲板まで上ると、抱いていた子猫を足元に降ろす。

 

「久しぶり、402。任務は順調かしら」

 

「ネットワークに上げている通りです。多数の人間と接触し経験は得られているはずです」

 

「ならよかった。そうそう、今日はね、コトノが作ってる野菜が、」

 

「総旗艦。400のことですが」

 菜園の方へ向かおうとするヤマトを呼び止める。今日は彼女の姉のことでここまで来たのだ。

 

「400が見つかったと。先日そうおっしゃっていました」

 

「そうね。見つかったわ。アサヒ!」

 

 ヤマトの呼びかけに、正面の海面下から一隻の船が浮上してくる。全長はイ400型潜水艦よりも数m大きい程度で、2本のマストの間に巨大な黒塗りの煙突が1本立っている。船体側面には計6本のアームが付いており、これは潜水工作艦「アサヒ」である。

 

 主な任務は沈んだ潜水艦のサルベージ。

 

 通常の船が沈んだ潜水艦を引き上げようとすれば、一度ナノマテリアルの構成を解除する必要がある。だがアサヒは、船体に取り付けられたアームで崩すことなくそのまま引き上げることができるのだ。

 

 次に潜水艦の改造。

 

 霧に属する潜水艦の任務はほとんどが諜報及び観測監視だが、場合によっては重武装を施し戦いに参加しなければならないこともある。その時彼女が潜水艦への武装積み込みや重力子機関の調整を行うのだ。

 

 ちなみに彼女はメンタルモデルを持っていない。作業時には膨大な演算が必要となりメンタルモデルの形成ができないので、それなら最初からいらないと形成を拒否したのだ。

 

「2日前にあなたが見つかったのと同じ海域から400の船体が見つかったわ。ちょうど戻ってきていたアサヒに頼んで引き上げてもらったの」

 

 402はアサヒの海面下の部分を見る。うっすらと赤みがかっており、今もアサヒのアームには400の船体が固定されているのだろう。

 

「……待ってください総旗艦。船体が見つかった? あの子の本体は?」

 

 ヤマトは視線を逸らす。

 

「見つかったのは船体だけ。ユニオンコアは見つからなかった。艦橋部分が丸ごと消失しているからもしかしたらと思ったけど、400のコアが完全に消失した信号は届いていない。まだどこかで生きていることは確かよ」

 

 402は表情を変えない。だが考えているのは姉の400のことだ。

 

「……私の姉は揃って自由すぎる」

 

 呟くと、足元の403に注意を向ける。ヤマトも気づいたようで、膝を折ると抱き上げた。

 

「報告にあった子猫ね。いつも一緒にいるの?」

 

「……40、この子の方があの街には詳しいので。ただの同居人です」

 

「そう。1人は寂しいものね」

 

「私にはまだそのプラグインは実装されていません。今後はわかりませんが」

 

「……そうね。今日呼んだのはこのことを伝えたかったから。彼女の船体はどうする? 構成を解いてタイゲイに積んでおいてもいいけど」

 

「そうですね。そうしてください。……総旗艦」

 

「なに?」

 

 402はヤマトの目を見る。

 

 ヤマトは小さくほほ笑んだ。

 

 

 

     ▽     ▽     ▽     ▽

 

 

 

『よぉ402』

 

 ヤマトはその後潜航しどこかへ行ってしまった。海上に残された402はしばらく甲板で日に当たっていたのだが、1時間経った頃に聞きなれた声がしたのだ。

 

「ズイカクか」

 

 遠方から巨大な影が402のいるほうへと向かってくる。90ノットという速さで来たため、402の近くに停船した際大きな波が402の船体に覆いかぶさってしまった。

 

「ズイカク、お前。もう少しゆっくりと、」

 

「いやー、総旗艦の命令だったからな。急いできたんだ。許してくれ」

 

 ズイカクは402の船体に飛び移ると、「すまん」と謝りつつも、顔は笑っている。402は息を吐きつつ礼を言った。

 

「来てくれて助かる。今日1日自由をもらったんだ。この海域で姉を探したい」

 

「つまり手伝えばいいんだな? いいだろう」

 

 ズイカクの虹彩にノイズが走る。同時に船体のバイナルパターンが発光し、重力子機関が始動した。

 

「出力30%で維持。500㎞範囲の海域を制御下に。402とのデータリンク開始。私はここから観測してるからお前は潜って探してくるといいよ」

 

「すまない。感謝する」

 

 402は機関を始動すると、太平洋の海中に消えていった。

 

 

 

     ▽     ▽     ▽     ▽

 

 

 

 400が沈んでいると推測される海域は最大で水深7000mにもなる。

 

 単純に海底だけを探しても意味はなく、地形や潮流を考慮して探す必要がある。特にユニオンコアは非常に軽いため、潮の流れに乗って思わぬ場所まで流されている場合があるのだ。

 

 照明の落とされたブリッジ内。中には402の姿しかなく、403は海上のズイカクに預けてきている。

 

 霧の艦艇である402の潜水深度に限界はなく、10000m以上潜っても船体が圧壊することはない。しかし耐圧計算に演算を割く必要があり、その分スキャン性能は低下してしまう。

 

 そこで重要になってくるのがいかにコアの演算を軽減しつつ深く潜り探索を行うかということで、ヤマトがズイカクを呼んだ理由もそこにあった。

 

 ズイカクを始めとする海域強襲制圧艦は、超戦艦すら凌ぐ機関出力をもち、搭載しているAGPを解放することで海域内の敵を一気に排除・制圧できる。

 

 同海域内にいる複数の霧の艦艇とデータリンクし、送られてくる情報を総合的に分析し海域内を三次元的に観測することもでき、自身も強力なセンサーを搭載していたり有り余る演算能力で他の艦艇を補助することもできるのだ。

 

『海中探査レベルA+・情報深度A+』

 

 402は船体から観測機器を出すと、海中の観測を開始する。ズイカクとデータリンクし演算補助も受けているのでスペック以上の探査レベルを発揮できている。

 

「……400。どこだ」

 

 402にいつかの記憶が蘇る。 

 

 401との戦闘で艦橋部に浸食魚雷を受けた400。

 浸食から爆発までがあまりに早すぎたため、コアのみでの脱出が精一杯だったはずだ。ヤマトによれば400のコアのコードはまだ領収していないため、脱出してからは余分な演算をしないよう機能を停止していると思われる。

 

 コアを停止してしまえば向こうから救難信号を出すことは不可能であり、こちらが探し出さなくてはならないのだ。手がかりは撃沈地点と周辺の環境データ。それを総合的に解析し、コアの現在地の最有力候補となったのがこの海域なのである。

 

『しかしズイカク。よく手が空いていたな。お前はナガトの命でオホーツク海に展開していたはずだが』

 

 海中をスキャンしつつ概念伝達を使用しズイカクと会話をする。

 

『展開完了からずっと放置されてきたんだ。ショウカクと話したり釣りをしているだけではいい加減飽きてきたところだった。総旗艦から命令が来て正直ほっとしている』

 

 甲板に座布団を敷いて座るズイカクの隣にはもう1枚の座布団があり、上には403が寝転んでいる。海の上ということで日あたりは良好で、昼寝にはちょうどいいらしい。

 

 その後も402は400のコアの捜索、ズイカクは自身の甲板で402の補助をしつつ時間は過ぎていった。

 

 捜索開始からはおよそ4時間が過ぎ、時刻は正午前。ズイカクは昼食の準備をしようと立ち上がり、同時に402へと通信を入れる。

 

『お昼にするが、お前はどうする?』

 

『私はいい。捜索を続行する』

 

『そうか。ならこいつの分もつくってやるか』

 

『薄味で、へんなものは食べさせるなよ』

 

『分かっている』

 

 ズイカクは甲板に存在する「ズイカクの森」に分け入ると、適当に地面を歩いていた鳥を捕獲する。ちなみにこの森には熊も生息しており、ズイカクとも仲良しである。

 

「今日は親子丼だ」

 

 金属音と鶏の悲鳴が海上に響き渡った。

 

 

 

     ▽     ▽     ▽     ▽

 

 

 

 その日、400のコアは見つからなかった。

 

 午後にはズイカクが出力を50%にまで上げて海中を徹底的にスキャンしたが、それでも見つからなかった。402も水深6500mまで潜航し捜索。コアのスペックをフル活用して探したが、見つけることはできなかった。

 

「まあそう簡単にはみつからんさ」

 

 402は海中から引き揚げ今はズイカクの甲板に座っている。既に日は傾き出しており、じき夜が来るだろう。もう帰らなければ横須賀につくころには日付が変わってしまうのだ。

 

「総旗艦の許可が出たのは今日1日だけだ。明日からは横須賀に戻らなくてはならない」

 

 402はズイカクの正面に座るが、出されたお茶と菓子には手を出さない。その余裕がないのかもしれなかった。

 

「402。私とお前がここまで探しても見つからなかったんだ。400のコアはもうこの海域にはないだろう。400の撃沈地点には北太平洋海流が流れているから、うまく流されれば一度ハワイ手前まで流されたあと北赤道海流で再び列島に近づいてくる。そうすれば黒潮に乗ってひょっこり帰ってくるかもしれないぞ」

 

「楽観論すぎる」

 

「それでもさ。一応その辺には第二巡航艦隊が展開してるから私からも言っといてやるよ。だから今日のところはこれくらいにしてお前は横須賀に戻れ。な?」

 

「……そうだな。これも命令だ。私は帰るよ」

 

「よし。じゃあそこまで艦隊組んで送って行ってやろう」

 

 ズイカクが立ち上がると、402も立ち上がる。403も目覚めたようで、トコトコと402の近くに寄ってきた。

 

「そいつ、名前は403っていうんだが、お前に預けてやる」

 

 402は403を抱き上げ、ズイカクに差し出す。403は暴れるでもなく「ニャー」と鳴くと、じっとズイカクの顔を見た。

 

「そいつにはいろいろ秘密を見られてしまったからな。今さら野に放つわけにはいかない。でもお前も北の海で待ちぼうけを食らうのも退屈だろう。403なら暇つぶしの相手くらいにはなる」

 

 403を受け取り、胸に抱くズイカクだが、本当にいいのかと403と402の顔を交互に見て困った表情をする。

 

「でもその、こいつはお前の家族みたいなもんじゃないのか。いいのか?」

 

「いいんだ。そいつは家族なんかじゃない。そいつは――」

 

 402はズイカクと403から顔を背け、その場で背を向ける。傾いた夕日が照らし、まるで燃えているようである。

 

「――そいつは、403は、私の妹だから」

 

「いや、妹も家族じゃないか」

 

「台無しだわ!」

 

 

 

     ▽     ▽     ▽     ▽

 

 

 

 402にあらたなプラグインが実装されたところで、本日は解散となった。

 

 403は最近「退屈」を実装しそうになっているというズイカクに預け、1人での帰還となる。

 

 ズイカクに預けた本当の理由は別にあるのだが、402自身深く考えないようにしていた。

 

 そうして横須賀に着いたのは日付が変わる直前で、いつもの場所に船体を止めると、夜の街を小さな歩幅で歩く。

 

 もうすぐ零時を迎えるということで街に人影はなく、402はまっすぐに自宅へと向かった

 

 

 

     ▽     ▽     ▽     ▽

 

 

 

『402より総旗艦。戦術ネットワークに16時間分の獲得経験をアップロードしました』

 

『了解、確認したわ』

 

『400は見つかりませんでした』

 

『……そうね。でもまだどこかにいるはずだわ。待ちましょう』

 

『はい』




誤字脱字の指摘・感想等なんでもどうぞ。

ズイカクの武装ってどうなってるんでしょうね。クレーンや機銃は確認できますけど。
あとブラストディフレクターのようなものも設置されてますが、制空ユニットでも積んでいるんでしょうか。

更新はしばらく間が開く予定です。
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