彼女のキスはピリリと魔法の味 ~世界の未来は彼女の唇に託された~   作:月城 友麻

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12. 魔王

「くぅ……。魔王め……」

 

 レヴィアは歯をギリッと鳴らし、こぶしを握る。

 

 その時、バリバリッと音がして無線が着信した。

 

「噂をすればなんとやらじゃ」

 

 レヴィアは大きく息をつくと、タンタンッとテーブルを叩く。

 

「よう、ロリババア! どうだ? 降伏する気になったか? クフフフ」

 

 画面に浮かび上がっているのは小太りの男だった。ダサいTシャツにボサボサの頭、風采(ふうさい)の上がらない男はいやらしい笑みを浮かべている。

 

 英斗はこのだらしない男が魔王ということに困惑した。見た目はまるで引きこもりのニートである。なぜこんな男が十万の魔物を操り、地球に侵攻したりしているのだろうか?

 

 レヴィアは真紅の瞳をギラリと光らせ、

 

「なぜこんなことをするんじゃ!」

 

 と、青筋を立てながら吠えた。

 

「おや? お前らの一族が俺の可愛い魔物ちゃんを攻撃したんだ。報いは受けてもらわんとな」

 

 男は肩をすくめながら答える。

 

 英斗はそれが紗雪の事だとすぐに気づいた。

 

 やはり紗雪のやったことはペナルティ対象とされてしまっているらしい。

 

「あやつはもう何百年も前から日本に帰化していて我々とは縁はない。難癖付けるのはやめろ」

 

 レヴィアは抗弁をするが、魔王はそんなのはどうでもいいといったような風に鼻で笑うと、

 

「まぁいい。強い者が勝ち、勝てば官軍。降伏勧告はしたからな。せいぜいあがいてくれ。はっはっは」

 

 そう言って、一方的に無線を切った。

 

 レヴィアはガン! とこぶしをテーブルに叩きつけ、フーフーと荒い息を漏らす。

 

 窓の外には土煙がもうもうと上がり、無数の黒い点がうごめいているのが見える。状況は相当にヤバいようだった。

 

「魔物の本体が来るぞ! 各班は使える兵力をレポートせい! 龍族の興廃この一戦にあり!」

 

 レヴィアは声をからし、叫ぶ。真紅の瞳はギラリと光を放ち、とても声をかけられるような雰囲気ではない。

 

 英斗は大きくため息をつき、とんでもない事に巻き込まれてしまった運命を呪った。

 

 思えば昨日の放課後まで自分は平凡な高校生だった。あの紗雪の甘いキスが全ての引き金となって今、戦場のど真ん中にいる。しかし、紗雪を恨む気はない。彼女の行為はただひたすらに尊く、純粋な色を纏っていた。ただ、それが強大過ぎただけなのだ。

 

『大いなる力は大いなる責任を伴う』

 

 かつて聞いた言葉が脳裏をかすめ、英斗はため息をつき、宙を仰いだ。

 

「これを渡しておく」

 

 レヴィアが一丁の銃を英斗に渡した。

 

「えっ!? これは……?」

 

「紗雪のシャーペンと同じニードル銃じゃ。引き金を引いている間、針が出続ける。素人でも使えるからお主にぴったりじゃ」

 

「い、いや、しかし……」

 

 そののっぺりとした金属光沢を放つ、近未来的なフォルムを持った銃を英斗は眺め、困惑する。

 

「タニアは任せたぞ!」

 

 そう言うとレヴィアはまた映像に向かい、各部隊に(げき)を飛ばし始めた。

 

 英斗は状況がかなり悪いことを理解し、目をギュッとつぶる。今にも人生の走馬灯が回り始めそうなくらい追い込まれ、心臓の鼓動はかつてないほど高まっていた。

 

 テーブルの下をのぞくとタニアがちょこんと座っていて、英斗を見て小首をかしげる。

 

 英斗はタニアの所に行くと、

 

「ここは危ないかもしれない、どうしようか?」

 

 と、話しかける。幼女にこんなこと聞いたって仕方ないことは分かっているが、英斗もどうしたらいいか分からないのだ。

 

「危なくないよ?」

 

 タニアはキョトンとした顔で答える。

 

「いや、すっごーく怖い魔物がたくさん押し寄せているんだよ」

 

「まもの? メッ! する?」

 

 タニアは首を傾げ、聞いてくる。

 

「メッ……って。どうやって?」

 

「タニアがね、メッ! するの! きゃははは!」

 

 タニアはそう言って笑うと、全身を淡く金色に輝かせ始めた。

 

 は……?

 

 いきなり光り始めた幼女に英斗は唖然とする。

 

 タニアは龍族である。だからもしかしたら龍族なりの攻撃方法があるのかもしれないが、一体何をするのか見当もつかなかった。

 

 英斗は小首をかしげながら、その神々しく光り輝く幼女をぼーっと眺める。

 

 ひょぉぉぉぉ……。

 

 タニアはそう言いながら右手の手のひらを下に向け、そのままゆっくりと下ろし始める。

 

 一体何をやっているのかピンとこない英斗であったが、いつになく真剣なタニアに口をはさむのもはばかられ、ただ静かにその神聖な儀式を見つめていた。

 

 

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