彼女のキスはピリリと魔法の味 ~世界の未来は彼女の唇に託された~   作:月城 友麻

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18. 邪悪の総本山

 やがて草原のかなたにいくつもの黒煙が上がっているのが見えてきた。

 

 その向こうには漆黒の円柱がそびえ立っている。それは大草原の中にポツンとたたずむタワマンのような風情だった。

 

「おぉ、頑張っとるな」

 

 レヴィアは満足そうに言いながらさらに高度を上げていく。

 

「あれは何なの?」

 

 英斗が聞くと、

 

「あの黒い円柱が魔王城。攻撃しとるのは黄龍隊。言わば陽動作戦じゃな。奴らが魔王軍の注意を引きつけている間にワシらは魔王城に忍び込むって寸法じゃ」

 

「忍び込む!? この大きさで?」

 

「フフン、ステルスのバリアを張ればレーダーには映らん。上空から一気に行くぞ!」

 

 そう言うとレヴィアはバサッバサッと力強く羽ばたいて、さらに高度を上げていった。

 

 英斗はタニアをギュッと抱きしめ、じっと魔王城を眺める。倒すべき魔王はあそこにいるのだ。英斗は早鐘を打つ胸をギュッと押さえた。

 

 近づいていくと魔王城の様子が徐々に分かってくる。漆黒の円柱であるが、表面には現代アートのような不気味な禍々(まがまが)しい模様が浮き彫りにされており、上の方には目のような意匠があしらわれている。まさに邪悪の総本山とも言うべき姿に英斗はブルっと震え、背筋に冷たいものが流れた。

 

 あの中に小太りの中年男が居て多くの人の命を奪っている。何のためにそんなことをやっているのか分からないが、今ここで奴の暴挙を止めるしかない。

 

 

         ◇

 

 

 やがて魔王城の上空に差し掛かるとレヴィアは、

 

「総員戦闘準備!」

 

 と、叫んだ。

 

「いよいよだね」

 

 英斗は紗雪に声をかける。

 

 紗雪はひどく緊張した面持ちでキュッと口を結び、不安そうに英斗を見つめていた。その瞳にはさっきまでの力強さはなく、どうしたらいいのか分からなくなった迷子の子犬のような困惑が浮かんでしまっている。

 

 やはりまだ十五歳なのだ。圧倒的に場数が足りないのだろう。こんな調子では戦う前に負けてしまう。

 

 英斗は焦った。なんとかして青い顔した紗雪に力を与えなくてはならない。しかし、どうやって……?

 

 一計を案じると、英斗は口を開いた。

 

「紗雪、覚えてるか? 迷子になった時のこと」

 

 ニッコリとした穏やかな表情を作り、精いっぱい楽しげな声で聞いた。

 

 まだ小学校入学前、二人が家族に連れられて少し離れた神社のお祭りへ行った時のこと。英斗はいろいろな縁日に興奮し、紗雪の手を引っ張りながらちょこちょこと先行しているうちに、親とはぐれてしまったのだ。慌てて必死に親を探す二人だったが、それこそ何万人もいる中で見つけるのは不可能に思えた。

 

 泣きじゃくる紗雪をギュッとハグした英斗は、自分も泣きたい気持ちをグッと我慢して、『このまま見つからなかったら僕が紗雪の面倒を見るから』と、誓う。それは幼児らしい可愛い誓いだったが、お互いが特別な存在へと一歩近づいた忘れられない誓いとなった。

 

 英斗はその出来事を持ち出して、元気を取り戻すきっかけを探そうとする。

 

「迷子……? お祭りの……時のこと?」

 

 けげんそうな顔を見せる紗雪。

 

「あの時、二人でみんなとはぐれちゃって大変だったじゃないか」

 

「私がいっぱい泣いちゃったから……」

 

 紗雪はうつむき、申し訳なさそうに言った。

 

「いやいや、泣くのは仕方ないよ。でも、はぐれたところに戻ったら見つけられたろ?」

 

「うん……」

 

「不安で、耐えられなくなったら原点に戻ればいい。そして僕がいる」

 

 英斗はちょっと強引だったかなとも思ったが、力いっぱい笑顔を作った。

 

「ははっ。『僕がいる』って何よ」

 

「あ、いや、ホント役立たないんだけど、気持ちでは力になりたいんだ」

 

 紗雪は目をつぶり、何かを考える。

 

 英斗は美しくカールする長いまつげを見つめ、この不器用な応援が届いてほしいと願った。

 

「ありがと……。そう、原点に戻らないと。魔王を倒して世界を明るくする。それが私の原点……」

 

 紗雪はギュッとこぶしを握り、目には光が戻ってきた。

 

「やり遂げよう」

 

「うん。……。で、これが終わったら話したいことがあるの」

 

 紗雪は上目づかいでちょっと照れながら言った。

 

「わかった。……。実は、僕も話したいことがあるんだ」

 

「え? ……、何? 今すぐ言って!」

 

 紗雪は焦ったように前のめりで言う。紗雪もなんとなく気付いているのだ。

 

「あ、いや、だから終わってからだって」

 

「なんでよ! 気になるじゃない」

 

「いや、だから、それは……」

 

 そこでレヴィアの重低音が響いた。

 

「何をジャレあっとる! 突入じゃ、しっかりつかまっとけ!」

 

 急に翼をすぼめ、真っ逆さまに魔王城へと降りていくレヴィア。

 

「ぬおぉぉぉ!」「ひぃぃぃ!」「きゃははは!」

 

 いきなり無重力になって必死にしがみつく一行。見ると豆粒のようだった魔王城はみるみる大きくなっていく。

 

 覚悟はしてたものの無重力でお尻が浮いてしまう状態は、本能的に耐えがたい恐怖を呼び起こす。

 

 くぅぅぅ……。

 

 英斗はタニアをギュッと抱きしめて、ただ時を待った。

 

 しかし、タニアは嬉しそうに手をバタバタさせながらフリーフォールを楽しんでいる。

 

 なぜこの子は恐くないのだろうかと、英斗は半ば呆れながら早く到着を祈った。

 

 直後、レヴィアは大きな翼をブワッと広げ、ブレーキをかけていく。

 

 今度は逆に激しいGがかかり、英斗は鱗に押し付けられる。

 

 バサバサバサッとレヴィアは全力ではばたき、ズンっと急に衝撃が伝わってきたと同時に、

 

「降りろ!」

 

 と、叫んだ。

 

 ワタワタとあわてて降りる英斗。

 

 こうして一行はついに魔王城にやってきたのだ。

 

 

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