彼女のキスはピリリと魔法の味 ~世界の未来は彼女の唇に託された~   作:月城 友麻

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28. 究極のオカルト

「ねぇ……、どうしたらいいの?」

 

 毛布の隙間から泣きはらした紗雪の瞳がのぞく。そこにはクールビューティの冷徹な美しさはみじんもなく、ただの迷える子犬だった。

 

 英斗はそっと優しく紗雪の髪をなで、涙にぬれるほほに手のひらを当てる。

 

 紗雪は目をつぶり、英斗の手に自分の手を重ねて大きく息をつく。

 

 そのなまめかしく動く、赤いぷっくりとした唇に英斗は目が釘付けになった。

 

 何度もキスを交わした愛しい唇……。

 

 英斗は吸い寄せられるように近づいていく。

 

 紗雪は少し驚いた様子を見せたが、うるんだ瞳で英斗をジッと見つめ、次の瞬間貪るように英斗の唇に吸いついた。

 

 熱いキス。二人は全てを忘れお互いを求めあう。激しく舌をかわし、唇を吸い、また舌を重ねあった。

 

 苛烈な現実から逃げるように熱く抱きしめあい、ただ、お互いを貪るように全てを吸いつくしていく。

 

 やがて、英斗は胸に当たっている二つのふくらみに自然と手が伸びていく。まだ発達途中の小ぶりなふくらみではあったが、張りがあってそれでいて柔らかく吸い付くように英斗の手のひらになじんだ。

 

 いきなりのアクションに紗雪は舌の動きがピタッと止まる。

 

 しかし、英斗の手はもう止まらない。

 

 そして、ゆっくりとまた紗雪の舌が動き始め、熱い吐息が漏れた。

 

 その時だった。

 

 バシュー!

 

 と、自動ドアが開き、二人は慌てて飛びのくように離れる。

 

「おいこら、そこまでにしとけ。病室じゃぞ!」「きゃははは!」

 

 レヴィアはいつもの黒とグレーの近未来的なジャケットの姿で呆れたように言い、タニアは嬉しそうに笑った。

 

 紗雪は真っ赤になって毛布をかぶり、英斗はバツが悪そうにうつむく。

 

「まぁ、気持ちは分からんでもない。じゃが、そんなことしてる暇はない。魔王討伐の続きをやるぞ!」

 

「討伐って……、今さら討伐したってどうしようもないじゃないですか」

 

 英斗は力なく首を振る。

 

 レヴィアは静かにじっとうなだれる英斗を見た。

 

 しばらく何かを考えた末にレヴィアは、うんうんとうなずくと、

 

「地球を……、死んだ人を元に戻せるとしたら?」

 

 と、とんでもない事を言い出した。

 

 は?

 

 英斗は眉をひそめ、レヴィアを見た。

 

 レヴィアは、じっと英斗を見つめている。

 

「何言ってんですか、死んだ人が生き返る訳ないじゃないですか!」

 

 英斗は荒唐無稽なことを言い出したレヴィアに(いきどお)りを覚え、にらむ。

 

 しかし、レヴィアは動じない。その真紅の瞳は澄み渡り、とても嘘や冗談を言っている雰囲気ではなかった。

 

 英斗はどういうことかレヴィアの真意をはかりかね、首をかしげる。

 

 レヴィアはクスッと笑うと、言った。

 

「生き返りはありえないと思っとるのか?」

 

「どんなに医療が発達しても死んだ人は生き返りません。常識ですよ」

 

 ハッハッハッハ!

 

 レヴィアは楽しそうに笑った。

 

「な、何がおかしいんですか!」

 

 レヴィアはベッドの下からカゴを取り出すと、それを英斗に見せた。

 

 それはズタズタになったシャツで、赤黒くテカっている。

 

「これは……、何ですか……?」

 

 そう言いながら持ち上げて英斗はハッとした。

 

 それは英斗の着ていたシャツだった。そして、赤黒いのは血の固まったもの。ズタズタになりぐあい、出血量からいって着ていた人は即死に違いない。と言うことは……。英斗は背筋にゾッと冷たいものが流れるのを感じた。

 

「お主は一度死んだんじゃ」

 

「……。マジですか……? それでは蘇生の技術がここにはあるって……事ですか?」

 

 英斗は震える手で、自分の血が真っ黒になって染みついたシャツをまじまじと眺め、呆然とする。

 

「違うんじゃ。ここでは人は死なんのじゃ」

 

 レヴィアはそう言ってウンザリしたように肩をすくめた。

 

 英斗は驚いた。人が死なないとはどういうことだろうか? 全く想像もつかない非科学的な話に頭が付いていかない。

 

「死なないってどういうことですか? そんなこと……、あるんですか?」

 

「ここは流刑地といったろ? ここの食べ物を一度でも口にしたものは、ここでは人は年も取らないし死んでも生き返ってしまうんじゃ。死なずに無限の時を反省し続けろって事じゃろうな」

 

「ま、まさか……」

 

 英斗は青くなる。そんなバカげたことが現実にあるとはとても思えなかったが、それでもこのシャツを見れば自分が一度死んだこと自体は認めざるを得ない。あの核爆発の膨大なエネルギーの火砕流に飲みこまれて、生き残れる方がオカシイのだ。

 

 今生きている自分自身の身体が不老不死を証明してしまっている。そんなオカルトめいた事実が英斗の心を言いようなく不安にさせた。

 

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