彼女のキスはピリリと魔法の味 ~世界の未来は彼女の唇に託された~   作:月城 友麻

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60. 限りなくにぎやかな未来

 それから三年、タニアが過去へと旅立つ時がやってきた――――。

 

 自宅のリビングで出発準備をしているタニアを眺め、心配で仕方ない英斗は泣きそうになりながら、

 

「タニア! 肉球手袋は持ったか? おやつは?」

 

 と、声をかける。

 

「大丈夫だよ、パパ。きゃははは!」

 

 ボーダーのシャツを着た可愛いプニプニの幼女は、楽しそうにくるりと回る。

 

 なぜこんないたいけな幼女を送り出さねばならないのか、因果の歪みの理不尽さに英斗はうなだれる。

 

「ごめんなぁ、制約でタニアじゃないと行けないんだ……」

 

 紗雪はそんな英斗を見て、

 

「大丈夫よ、あなた。タニアは立派に活躍してたじゃない」

 

 と、英斗の肩をポンポンと叩く。

 

 タニアはトコトコっと英斗の前まで来ると、

 

「じゃあ、行ってきますのチュー!」

 

 と、言って唇を突き出し、英斗に両手を伸ばす。

 

「お、おう。魔物は強いぞ。気をつけろよ」

 

 そう言いながら英斗はタニアを抱き上げる。

 

 タニアは目をつぶると嬉しそうに英斗の唇にぶちゅっとキスをした。

 

 神々しく光り輝き始めるタニア。

 

 きゃははは!

 

 プニプニのほっぺで楽しそうに笑った直後、英斗の腕の中でブゥン……という音を残してタニアは消えていった。

 

「あぁ……、タニア……」

 

 ガクッとひざから崩れ落ちる英斗。

 

「大丈夫だって……」

 

 紗雪はそう言ってそっと英斗にハグをする。

 

 巨大な手で十万匹の魔物を潰し、魔王城で一つ目ゴリラの群れを倒していったタニア。英斗はその情景を思い出しながら、手を組んでひたすらに無事を祈った。

 

「なんで……、うちの娘が戦うことになっちゃったのかしら……?」

 

 紗雪が不満げに言う。

 

 世界には無数に人間がいる。何もわざわざ未来から娘が助けに行く必然性などなかったのだ。

 

 英斗はピクッと反応し、目を宙に泳がせながら、

 

「な、なんでだろうね……」

 

 と、ごまかす。

 

 しかし、紗雪にはそんなごまかしは通用しない。

 

「あなたのせいなの!? どういうこと?」

 

 紗雪はギロッと英斗をにらむ。

 

「え? あ、そ、それは……。昔のラノベに父娘で一緒に戦うのがあって『そういうのもいいなぁ』って思っただけなんだよ」

 

 紗雪は唖然とし、宙を仰いだ。

 

 紗雪が戦う羽目になったのも、タニアが戦う羽目になったのも全部英斗の妄想のせいだったのだ。

 

「こんなになるなんて思わなかったんだよぉ」

 

 必死に弁明する英斗。

 

 紗雪はジト目で英斗をにらむと、

 

「あなたの妄想は危険だわ。これからはラノベ禁止ね!」

 

 と言ってプイっと向こうを向いてしまった。

 

「えっ! き、禁止ぃ!?」

 

 大好きな趣味を禁止され、呆然とする英斗。

 

 異世界で、宇宙で、ヒーローやヒロインが活躍するファンタジーは、英斗の魂をどこまでも無限にはばたかせてくれていたのだ。それが禁止になってしまう……。

 

 はぁ~と、英斗はため息をついて、この世界の理不尽さを憂えた。

 

 その時だった、

 

 ガチャ!

 

 いきなりリビングのドアが開いた。

 

「ただいまー!」

 

 そう言いながら、黒のボディスーツに身を包んだ美少女が現れる。それは紗雪にも似た、黒髪を長く伸ばした女の子だった。

 

「あれ? タ、タニア……? は、早かったな……」

 

 段取りと違う帰還を果たしたタニアに、英斗は固まってしまう。

 

 タニアはそんな英斗に迫ると、ニコッと笑いながら美しい目をきらっと輝かせ、

 

「じゃあ、ただいまのチュー!」

 

 と、目をつぶって唇を近づける。母親似の美しく整った顔、長くカールしたまつ毛。もう女としての魅力がのぞいているタニアに、英斗は心臓が高鳴ってしまう。

 

「ダメ、ダメー!」

 

 紗雪が焦って介入してくる。大きくなった娘と英斗がキスするのは許しがたかったのだ。

 

 タニアはクスッと笑うと、

 

「じゃあ、ママとチュー!」

 

 と言って、紗雪に抱き着くと、唇を吸った。

 

 予想外の展開に紗雪は対応が遅れ、手をバタつかせる。

 

 ん、んん-ーーー!

 

 紗雪はタニアに舌まで入れられてしまい、目を白黒とさせた。

 

「ダ、ダメよ!」

 

 両手でタニアを突き放す紗雪。

 

 直後、二人は神々しい黄金色に輝きだした。

 

「え?」「は?」

 

 紗雪は英斗と顔を見合わせ、唖然とする。

 

「新たな扉を開いちゃったみたいね。くふふふ」

 

 タニアはペロリと唇をなめながら、嬉しそうに笑った。

 

「もう! この子は!」

 

 紗雪はタニアを捕まえようと飛びかかり、タニアはまるで鬼ごっこみたいに鋭い身のこなしで逃げ回る。

 

 きゃははは!

 

「待ちなさい!」

 

 タニアは壁を蹴り、天井を蹴り、リビングを縦横無尽に逃げ回る。なんというおてんば娘だろうか。

 

 娘に負けじと追いかける紗雪。

 

 黄金の輝きを振りまき、すさまじい運動性能を見せる二人を見ながら、英斗は、

 

「俺ってもう要らないのでは……?」

 

 と、アイデンティティの喪失の危機に震える。

 

「おっとアブナイ!」

 

 紗雪の手をギリギリで避けたタニアだったが、よろけた隙にひざが英斗に直撃。ゴスッ! と鈍い音を立てて英斗が吹っ飛び、ごろごろと転がった。

 

「あっ! いけない! パパー!」「あぁっ! あなた!」

 

 パワーアップしたタニアの洗礼を受けた英斗は、ぐったりとして意識が飛びかける。

 

 慌てて英斗を抱き起こす紗雪。

 

「あなた……、大丈夫?」

 

 目を回しながら英斗は、

 

「キ、キスは相手の了解を取ってからな……」

 

 そう言って、ガクッと紗雪のふくよかな胸にもたれた。

 

 

 こうして三人の限りなくにぎやかな暮らしが始まった。

 

 タニアの起こす楽しい騒動の数々はまたの機会に……。

 

 

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