彼女のキスはピリリと魔法の味 ~世界の未来は彼女の唇に託された~   作:月城 友麻

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8. 壮大なノズルスカート

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

 瑠璃色に揺らめく空間の裂け目、ゲートに当たり前のように入っていこうとするレヴィアに英斗は聞いた。

 

 スティックを返す代わりにゲート内を案内してもらい、龍族についての情報を一通りもらうことにはしたものの、実際に入るとなるとやはり不安を感じる。

 

「嫌なら来るな。お主が来たがったんじゃぞ?」

 

 レヴィアはジロっと英斗をにらむと、突き放すようにそう言ってゲートの中へと消えていった。

 

 英斗は深呼吸を何度か繰り返すと、意を決して瑠璃色の面妖な輝きの中へと飛び込んで行く。

 

 ゲートの向こうがどうなっているのかは、謎に包まれたままだった。今まで多くの探索隊が突入していったが、いまだに誰も戻ってきていないのだ。砂漠のような地平線が広がっている映像だけは残っているが、その向こうに何があるのかは全く分かっていない。魔物が普段は何をやっているのか、どこにどうやって生息しているのか、興味は尽きないが人類は砂漠しか見たことが無かったのだ。

 

 ゲートを超えるとそこはやはり砂漠だった。草が一本も生えない不毛の大地が延々と広がり、灼熱の太陽がじりじりと肌を焼く。

 

「こんなところに住んでるんですか?」

 

 陽炎がゆらゆらと立ち上る中、英斗はゴツゴツとした岩と砂の世界に眉をひそめ、レヴィアに聞く。

 

「ここはダミーの空間じゃ、ここにはなんも無い。こっち来い」

 

 そう言ってしばらく歩き、庭石のような風情な形をした岩のところまで来ると、その表面に指を()わせた。

 

 まるでスマホのロックを解除する時のように、キュッキュッキュと図形を描くように指を動かすレヴィア。すると、ボンと爆発音がして紫色の怪しい光を放つゲートが開いた。

 

 へっ!?

 

 まさかゲートの世界の中に新たなゲートが開くとは。

 

 英斗は驚いて口をポカンと開けたまま怪しく揺らめく紫の煌めきを見つめる。

 

「さぁ、こっちじゃ」

 

 レヴィアはそう言ってゲートをくぐっていく。

 

 英斗も急いで後に続いた。

 

 なるほど、探索隊はただ何もない砂漠を延々と探し回り、どこかでわなに落とされてしまったのだろう。こんな仕掛けなのだから砂漠をいくら探しても本当のことは分からない。

 

 英斗は初めてゲート内の真実に触れた人類となったのだった。

 

 

        ◇

 

 

 ゲートの向こうには草原が広がり、その先には草木の生い茂る山があった。それはオーストラリアのエアーズロックのようにポッコリと草原の上にそびえる独特な形を見せている。

 

 レヴィアはけもの道みたいな細い道をスタスタと山に向かって歩きながら、

 

「あー、もう、草刈りをせんとな。この季節はあっという間に生い茂って困るわ」

 

 と、文句を言いながらビシッと道に覆いかぶさってくる葉を叩いた。

 

「あの山が拠点なんですか?」

 

 英斗が聞くと、

 

「はっはっは。山に見えるか。そうかそうか」

 

 と、レヴィアは楽しそうに返した。

 

「えっ!? 山じゃ……ないんですか?」

 

 英斗はそう言って目を凝らした。

 

 すると、草木の間になにやら窓のような物が見えないこともない。また、アンテナみたいな長い構造物が生えているし、右側の崖の方の岩は不思議な形をしている。確かに高さ数百メートルはあろうかという立派な山に見えるが、いろいろと奇妙だった。

 

 と、ここで初めて気づいた。崖の岩は、百メートルはあろうかという巨大なパラボラ状の構造物が崩壊してできた形にも見える。あちこちに草木が茂っていて詳細までは見えないものの、そう考えた方が自然な形をしていた。

 

 となると、この山全体が何かの人工的な構造体に違いない。しかし何だろうか?

 

 英斗は首を傾げながらレヴィアの後を歩いていく。すると、アパートサイズの巨石がゴロゴロと転がっている脇をすり抜けていく。巨石には木が生い茂り、立派な根がアンコールワットのように巨石の周りにまとわりついていた。

 

 何気なく巨石を見ていると、文字が書いてあることに気が付いた。なんと人工物だったのだ。そして、中には割れて中が見えているものもあった。タンクみたいに見えたが、中をのぞいてみると耐圧の隔壁がびっしりと張り巡らされており、ただのタンクではなさそうだった。強烈な内圧に耐えるタンクだろう。それはテレビで見たNASAのロケットの部品をほうふつとさせる。

 

 え……?

 

 英斗は慌てて崖のパラボラを見る。それはロケットエンジンについている炎を噴き出すノズルスカートに見えなくもない。

 

 ここでようやく英斗は気が付いた。あれがロケットエンジンだとすると、この山は宇宙船ではないだろうか?

 

 英斗は思わず立ち止まり、その壮大な巨大構造物を見回して、思わずその威容に身体がぶるっと震えるのを感じた。

 

 百メートルのロケットエンジンを抱いた巨大な宇宙船。一瞬バカなとは思ったが、そう思ってもう一度小山を見渡せばそれはもう宇宙船にしか見えなかった。全長数キロ、太さが数百メートルの宇宙船が横たわり、もう長い月日を経て草木が茂ってしまったと考える以外なかった。

 

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