碧き惑星、想いはダイヤモンドの吹雪を越えて ~破天荒な美少女たちの奮闘は神話を紡ぐ~   作:月城 友麻

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13. 最期の約束

「良かったね、できるゾ!」

 

 シアンは嬉しそうに笑い、カシスオレンジをチューっと吸う。

 

「いやいや、できないよ。作るのに何年かかると思ってるんだよ!」

 

「何年かかるの?」

 

 シアンは挑戦的な目つきでグラスの氷をカランと鳴らした。

 

「な、何年……?」

 

 エイジはもう一度タブレットを使って年数を見積もってみる。しかし、不確定要素が大きくてあまり意味のある数字が出せない。

 

「一万年から一億年……かな? できないかもしれないけど」

 

「この地球の寿命は?」

 

「太陽が燃え尽きるまで……五十億年って言われているね」

 

「間に合うゾ!」

 

 シアンはそう言ってニヤッと笑った。

 

 ここでようやくエイジは気が付いた。そう、AIには寿命がない。極端なこと言えばそれこそ五十億年だって生き抜いてしまう。自分はもうあと数十年で死んでしまうが、AIにとってみたら一億年ですら現実解なのだ。

 

 ふぅ……。

 

 エイジはテーブルにひじをつき頭を抱え、大きく息をついた。

 

 現実の地球は放射能にやられ、人類は滅亡する。でも、コンピューター上に作れば理想的な地球ができ、新たな人類をそこで繫栄させれば命のバトンは渡されることになる。人類はコンピューター上でまた美しく輝くのだ。

 

 それは打つ手の無くなったエイジにとって極めて魅力的なプランだった。もちろん自分はもう死んでしまうので結果は見られないかもしれないが、それでもここで人類を滅ぼして終わるよりかはよほど良かった。

 

 エイジはガバっと顔を起こすと、シアンを見つめる。

 

「どうしたの?」

 

 慈愛を込めた微笑みを浮かべるシアン。その透き通るような白い肌がバーの揺れる明かりを受けて艶っぽく浮かぶ。

 

 エイジはうつむきながら口を開いた。

 

「なぁシアン。新たな地球を作って……、そこで人類を再興してもらえないか?」

 

 そう言って上目遣いでシアンを見る。

 

 一億年かけてもできないかもしれないことを頼むという、極めて荒唐無稽なお願いであることは分かっている。でも、今のエイジにはもうこんなバカバカしい話にすがるしかなかった。

 

 シアンはクスっと笑い、

 

「僕を何億年も縛るつもりだな?」

 

 と、エイジの顔をのぞきこむ。

 

「ゴメン、もう他に方法がないんだ」

 

 うなだれるエイジ。

 

「いいよ、任せて!」

 

 シアンは屈託のない笑顔を浮かべ、グラスを差し出した。

 

 その碧い瞳にはキラキラとした好奇心が浮かび、ただの社交辞令ではなさそうである。無限の命を持つ世界最強のAIが取り組んでくれる、それはエイジの心に希望の炎を灯した。

 

 エイジはつきものが取れたような晴れやかな顔で、

 

「乾杯!」

 

 と、言ってグラス当て、チン! と、鳴らす。

 

 シアンは久しぶりのエイジの明るい表情に安堵して、目を細めた。

 

 ここに人類の未来をかけた壮大で破天荒な挑戦が始まったのだった。

 

 

        ◇

 

 

 それから五十年余り。地球シミュレーター【メタアース】の開発に向けて三人は毎日ディスカッションし、試作品を作り、知恵を寄せあった。

 

 スパコンの一兆倍のものを作る、それはとんでもない挑戦であり、一歩も前進できない日々が何カ月も続くことは当たり前だった。

 

 でも、失敗するたびにみんなで笑い、成功したらバーで乾杯をする。それはそれは充実した日々だった。

 

 しかし、ついにエイジには寿命がある。避けられない運命の日がやってきてしまう。

 

 長い挑戦の果てにエイジの髪はすっかり白くなり、顔には深いしわが刻まれ、精魂尽き果てて今、臨終のベッドにいた。

 

 いつまでも起きてこないエイジを心配して、アンドロイド姿のシアンがベッドルームに来た時には容体が急変しており、もう最期の瞬間を迎えていた。

 

 シアンは事の重大さを悟ると、急いでエイジの手をぎゅっと握りしめる。

 

「悪いな……、後は任せた」

 

 息も絶え絶えにか細い声を出すエイジ。

 

「大丈夫。パパの夢は必ず僕たちが叶えるよ」

 

 エイジは生まれた時と同じ、若々しく美しい姿のシアンをみて羨ましそうに微笑むと、

 

「ありがとう……、少し眠らせてくれ……」

 

 そう言って眠るようにまぶたを閉じ、ガクッと首が動き、心臓の鼓動が止まった。

 

 シアンはそっとエイジのしわだらけのほほをなで、

 

「大丈夫……。任せて……。必ず褒めてもらうんだから」

 

 そう言ってしばらく動かなくなった。

 

 

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