ストーリーには直接関係ない事細かな世界観、システム、キャラ背景の説明が大好き人間です。自分で説明パート設けるのは苦手ですが。妙に凝った設定や機構とか紹介されると作品に深く入り込めるし、その世界の循環の仕方が垣間見えるから面白い。
「俺の兄貴は札付きのワルでした。俺も少なからず影響受けて悪ぶった格好してますが、兄貴は筋金入りでして……それが乗じてギンガ団に入ったんです」
シンゴは懐かしむ声色で語る。
「兄貴も蟲ポケモンを好んで使っていましたが、その育成方針はかなり歪んでいた。勝てばいい、そのためなら卑怯な手も辞さないという育て方で、実際それが望んだ結果になるため止まりませんでした。俺もそれを正そうとしたんですが、悔しいことにバトルの腕は兄貴の方が強くって……いつしか俺の元からも離れ、組織のボスが立てた計画に参加したそうです」
「その兄は今どうしてるんだ?」
ラウラが問う。呆れ笑いを浮かべてシンゴが答える。
「国際警察に逮捕されてますよ。けど、その前に計画を阻みに来たせっかちそうなトレーナーとのバトルで負けたのがきっかけで、あのメガヤンマを手離したようで……」
どうやら蟲好きにもろくでもないヤツがいるようだ。いや、負けたくらいで逃がすならその程度か、とラウラは同じ蟲使いとして嘆かわしさを覚える。シンゴは一頻り語り終え、遠くを見詰めるように口を開く。
「本当は知らぬ顔してガラルに来るつもりでした。兄貴が捕まった後に偶然出くわして負けてしまいましたが、兄貴から離れても悪さをしてるなら確保されるのも時間の問題だと。しかし、これが宿命ってんでしょうね……ヤツは、兄貴のメガヤンマはガラルにやって来た。兄貴の不始末は自分が何とかしなきゃって思ったのは、それを知った時です」
彼方を見ていた目線をラウラの方へと戻す。その目には決意が籠っていた。無視するはずだったものにケリを着けようと決めた、責任感を宿した目。
「自分のことにラウラ嬢を巻き込んでしまったのは謝ります。ですが、できればヤツが取り返しつかない事態を起こす前に片付けたい。そのためにも、最後まで力をお貸しいただけませんでしょうか」
言って、頭をぐっと下げるシンゴ。対するラウラ、何を今更と笑みを浮かばせた。ここまで来て、じゃあさよならと言うはずなかろうに。やはり見た目にそぐわない奴だ。
「巻き込んだことは気にするな。俺だって、このまま放っておいて蟲の評価悪くさせる訳にはいかない。ガラルの蟲使いとして、シンオウの蟲使いに最後まで力貸してやるよ」
手を差し出し、改めての協力を示す。シンゴはその手を取り、苦笑しながら握手。そうしてから二人はまず作戦を立て始める。少なからず手の内を知るあのメガヤンマの悪事を止めるため、シンゴは一つの策を提示した――
チャンピオンの仕事を終えたユウリは、独りエンジンシティをぶらついていた。
「うーん、今朝ラウラのこと怒って出てったせいで調子出ないなあ……帰ったらラウラに謝って沢山甘えようっと」
いつもより疲れた声色。ただしその立ち振る舞いはリーグ委員会で言われてる通りチャンピオンらしさを心掛けている。
――そんな『強者』の背中に、樹の上からメガヤンマが狙いを付けていた。
「ギギィ……」
シンゴの兄から歪んだ育成をされたメガヤンマは、ただ純粋に自分の強さを表すために行動している。それが多いに間違ったやり方であっても、彼はそういう方法しか知らない。
さっきは邪魔されて退散したが、また良い獲物を見付けた。樹から飛び立ったメガヤンマが首をグリグリ回すと、次の瞬間には音を置き去りにする勢いでユウリめがけて襲い掛かっていく。
「……!」
直前、迫る気配に振り返るユウリだが一瞬遅い。勝つためなら、ポケモンを出す前のトレーナーも攻撃するよう教えられたメガヤンマが猛然と突っ込んでくる。
無防備同然の少女に牙が剥かれた、その時。
「イワパレス!」
ガァン! と激しくぶつかり合う音を端に聞きながら、ユウリは抱き締められつつ安全圏に。見れば、巨大な岩の壁――いや、イワパレスがメガヤンマの襲撃を受け止めていた。
そのイワパレスには見覚えがある。そして、自分を守ってくれるように抱く少女の匂いと感触も当然知っていた。
「ラウラ……?」
「よう、ユウリ。今朝のことまだ考えてないけど……とにかく間に合って良かった」
安堵した微笑みを見せ、ひとまずユウリを下がらせたラウラ、さっきぶりのメガヤンマを見据える。
「これ以上の悪さするのも見逃せないが、俺の彼女に手を出そうとしたのはやんちゃが過ぎるな。覚悟はできてるか?」
「ギィィィッ!!」
またしても邪魔しに来た
「受け止めろ!」
流石に舗装され人もいる街中で回避は悪手と考え、ラウラは防御を指示。受ける姿勢を取ったイワパレスに空気の刃が直撃し、岩石の殻を破砕する。
攻撃を受け切るも、岩のヤドは動かない。仕留めたか? ――そうメガヤンマが思考した瞬間、弾丸のように赤い光が岩石の殻が崩れて舞った土埃から飛び出してきた。殻を破ったイワパレスだ。
「がんせきほう!」
ラウラの声にイワパレスが応える。巨大な岩塊を作り出し、メガヤンマめがけ射出。咄嗟にメガヤンマはエアスラッシュを放ち、相殺を狙う。
衝突音が響き、空中にて砂煙が爆ぜた。幸い直撃を免れたものの、襲う側から攻撃される側になったメガヤンマは怒りのボルテージが上がっている様子。
「ここじゃ戦いにくい。俺を仕留めたいならついて来いよ」
イワパレスを戻したラウラが、町の外へと走り出す。それを見て、メガヤンマは正直に追いかける。もう標的はラウラに変わっていた。脇目もふらず、ラウラの背を追う。
残されたユウリ。状況こそ分からずとも恋人の勇ましい姿を邪魔することなく見送り、無事を祈るのだった。
「……頑張って、ラウラ」
町外れの林。メガヤンマの猛攻を掻い潜りつつそこに辿り着いたラウラは、テッカニンを繰り出して臨戦の構えを取る。
「あんまりお前の元主人は褒めたくないが、使い方はどうあれ悪くない強さだな。良く鍛えられてる。事情がなければゲットしたいくらいだ」
「ギィッ……!」
「けど、お前を捕らえて過去に片を付けたい奴がいるからな。ここで終わりにしてやる――やるぞ、テッカニン!」
言葉は解さないが、メガヤンマはラウラがここで自分を捕らえようとしてるのを察した。けれど察しながらも、それを嘲る態度を表す。
向かってきたテッカニンを余裕で躱す。ここまで『かそく』で上がったスピードは、たった今出てきたテッカニンを凌いでいた。戦ってきた経験から、勝つ自信しかない。いざとなれば、翅音で鈍らせざまに倒せばいいのだ。
だから気付けなかった。もう既に、自分が絡め取られてしまっているのを。
「……ギ?」
不意に動きにくくなる肢体。翅も重くなる。不思議に思ったメガヤンマが自らを見やると、
「ギイイイッ!?」
「ようやく気付いたか。卑怯なんて言うなよ? ムツキとユウリの分だと思え」
「――自分一人だとこの仕掛けはできませんでしたからね。引き付け感謝します、ラウラ嬢」
樹の上からシンゴが下りてくる。その腕には、得意気に糸を吹くケムッソもいた。
メガヤンマはそこで止まって初めて気付く。この辺りの樹木一帯に、無数の糸がすだれ状に架けられているのを。
ここに誘い込んだのはこの罠のため。何故気付けなかったのか。
「俺に怒りの目を向けて、周りが見えなくなった。それに加えて『かそく』した中での細い糸は見えにくかっただろ? 蜘蛛の糸じゃないが、まんまと網に掛かったトンボになった訳だ」
「名付けて『蟲糸束縛陣』。兄貴のポケモンだったお前を捕らえるために編み出した技だ。ここで日の目を見れたぜ……ケムッソ」
腕の相棒に指示、とどめの糸がもう満足に飛べないメガヤンマに降り注ぐ。粘着質な糸に雁字搦めにされ、メガヤンマはさせるものかと必死に暴れるも、
「ぷぴぃ……」
最後には力尽きて、間の抜けた声を漏らし沈黙。かくしてシンオウより飛来した凶悪なメガヤンマの大捕物は、蟲の女王とシンオウの蟲使いにより、ここに終結したのであった――
長くなったので区切り。次回ヤマなしエピローグです。
●メガヤンマ
とくせい:かそく
わざ:エアスラッシュ
むしのさざめき
とんぼがえり
げんしのちから
もちもの:なし
備考:すなおな性格。打たれ強い。ギンガ団員だったシンゴ兄のエースポケモンだったが、子供のトレーナーに負けたことで逃がされた。翅音で相手の動きを鈍らせたり、がんせきほうをエアスラッシュで相殺したり実力は確かな反面、自分の思い通り事が運ばないと逆上する精神面の脆さがある。間違った育成で勝つためなら卑怯な手も使うが、それは性格通りの素直さ故の無知によるもの。更生の余地はあり。
・蟲糸束縛陣
シンゴのケムッソの粘糸を用いた結界。空を飛ぶ相手に有効であり、その空間内で飛び回れば飛び回るほど動きを封じられてしまう。まだ兄の許にいたメガヤンマ対策としてシンゴが編み出した技だが、設置に時間が掛かる難点があるため今回まで日の目を見なかった模様。
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