マルルクちゃんの料理道   作:紫仙

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ハモロゲ

アルコールで歪んだボクの視界に、

掘りの深い特徴的な眉毛と髭の

大柄な探屈家の顔が見えます。

 

「デャホーデ!」

 

もう一度同じ言葉を掛けてきます。

言葉の内容は分かりませんがボクに

挨拶しているように思えました。

黒笛を下げていますが異国の方なんでしょうか?

 

「で……ぁほ~で?」

 

呂律の回らない舌でボクも復唱してみせます。

 

「オイ、大丈夫か?」

 

「先輩、どうしたんすかその娘?」

 

オーバーオール風の作業着に胸の空いた上着の、

グルンと巻いた奈落髪の女の人が、

ボクの顔を覗き込んでいます。

 

「知らん、事情は知らんが行き倒れだ」

 

「大丈夫?キミみたいな可愛い娘が、

そんなとこで倒れてるとおっかない探屈家に、

路地裏に連れ込まれてそのまま……」

 

奈落髪の女の人は面白半分に、

屈強な探屈家にどこか誘うように流し目を送っています。

 

「お前は黙ってろ」

 

「いやぁん、先輩のイケズ~」

 

「ん、口元が酒臭いな。泥酔してるのか?」

 

屈強な探屈家の方がボクの口元を確かめ、

頭を捻りボクの痴態を言い当てて見せます。

 

「おしとやかに見えてこの歳で飲酒なんて、

意外とこの娘ってばワルワルっすね~。

なんか、うちの先輩みたい♪」

 

「だから、黙ってろ!」

 

「へいへい」

 

女性の探屈家は不貞腐れたように肩をすくめてみせ、

屈強そうな探屈家の方は何やら

リュックの中をガサゴソと探っています。

 

「まったく、ろくにメシを入れずに飲むからそうなる」

 

「突っ込むところはそっちすかwww先輩」

 

リュックの中から、

弁当箱のような容器が出され、

おいしそうな香りがボクの鼻腔をなでつけます。

 

「よし、口を開けろ……ゆっくり、慈しんで食え」

 

言われた通り口を開けると、

淡白ですがしっかりとした存在感が、

ボクのお腹を満たしてゆきます。

体に溜まった吐き気とムカつきが、

不思議と少しばかり収まりました。

 

「この味はもしかして」

 

生まれて初めて味わうはずの味。

でも直感で、ボクはこれを求めていると分かりました。

 

「これはハモロゲ丼だ。

さっき店を出る時弁当用に幾つか買っておいた」

 

「あの……ボク、マルルクって言います。

ちょっとモノは相談なのですが」

 

お二人はクラヴァリ、テパステと名乗ってくれました。

お二人におおよその事情を話すと、

クラヴァリさんは感銘を受けたように

唸り声を上げていました。

 

「なるほどな、

酒酔いにはハモロゲの出汁が身に染みる。

もしかしたらその隠し味とやらは、

ハモロゲのことなのかもしれん」

 

「あの……ハ、ハモロゲってどんな食材ですか?」

 

「ハモロゲは文字通り(ハモ)の一種でな、

オース近くの深海でたまに取れる。

鮮魚として取り扱っているのもオースでは滑落亭だけだ。

この素晴らしいハモロゲ丼を作り出したのも

黒笛トーカと聞いている。

まったく白笛を含めても、

奴ほど料理の上手い探屈家はいなかった。

だからこそ先達への尊敬も込めて、

俺は地上にいる時は慈しんで食べている」

 

「もう先輩ってば、

好きな食べ物になると饒舌になるんすから」

 

ようやく隠し味の正体を掴めました。

お二人にはなんとお礼を言ってよいか分かりません。

 

「お、教えて頂きありがとうございます。

滑落亭の人にその食材、

売っていただけるようボク交渉してみます」

 

「あ~そりゃ、残念だったねキミ。

仕入れた分はもう在庫がないって、

ついさっき店の人が言ってたから……」

 

テパステさんが気の毒そうに呟いてみせます。

希望が見えてきたところで、

ボクの心はまたしても奈落の底に叩き落されました。

 

「そんな、ここまで来て……」

 

「あ~あ、可哀そうに……もう、

先輩がハモロゲ丼バカスカ頼みまくるせいですよ~」

 

「デフォー、俺のせいなのか……」

 

不愛想で硬い表情のクラヴァリさんが、

少しバツが悪そうに頭をかいています。

ライザさんの命日までもう時間がありません。

監視基地(シーカーキャンプ)まで戻る時間を考えると、

明日の仕入れまで待っている余裕は、

今のボクにはないのでした。

裸吊り亀甲縛りバージョンはもはや不可避のようです。

それでも諦めが悪いボクは、

食い下がるようにお二人に口を開きます。

 

「あの、ハモロゲは海でしか取れないんでしょうか?」

 

「俺はアビスで釣りをしたこともあるが、

探屈中の水場でお目にかかったことはないな」

 

「う~ん、確かそうすね。

いや、先輩。あそこならあるいは……」

 

テパステさんの意味深な口調に、

クラヴァリさんは少し躊躇ったような表情の後、

観念したように深々とため息を吐きだしました。

 

「罪滅ぼしになるかどうかわからんが、

あの場所ならお前のお目当ても見つかるかもしれん」

 

ボクは縋るような気持ちで短く頷き、

その先を聞きました。

 

「それは……ホントですか⁉」

 

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