「チリさんチリさん」「何や言うてみぃ」 作:フローライト
支部にあげてるのをこっちにもドン
コガネ弁難しくない?
チャンピオンランク。
パルデア地方特有のバトルプロに与えられるランクだ。これの取得には、8つのジムバッジの入手、チャンピオンテストの合格が必須となる。
これを取り仕切るのが、パルデアのポケモンリーグ。
最近、そのチャンピオンランクに至った少年が一人。彼はパルデア地方に外からやってきた者であり、グレープアカデミーの転入生だ。
彼が来て、アカデミーには良い変化に恵まれている。
しかし、リーグの多忙さは変わらない。残酷な事実、仕事の量は減らないし、課外授業もあってさらに増量。
此方にも良い変化が来てくれないものか、そんなことを四天王の一人───チリは考えていた。
「……だー、あかんあかん、今日はもうやめや」
眼鏡を外し、眉間を揉む。
アカデミーが課外授業に入ったこともあり、以前よりテスト受験者が増えた。
記念にと思って来た者。強さだけはある者。単なる浮かれ馬鹿…どんな者であっても、受験者である以上リーグは誠実に対応しなければならない。
かちゃり、とキーボードを押す。
とりあえずの保存手順。
眼鏡をしまい、席を立ち荷物をまとめる。
時刻は夜7時、夕飯は外で済ませよう。
一度伸びをする。長時間の座り仕事のせいで、体は最早楽器だ。バキバキと乾いた音を鳴らす。
スマホを開き、タクシーを手配。
行き先はチャンプルシティ。宝食堂で適当に食べよう。そう考えながら、タクシーに乗り込んだ。
「あ、チリさん」
「おおー、自分久しぶりやな」
彼女は宝食堂で見知った顔と会う。
アカデミーの制服に身を包んだ少年、ハルトは入店したチリに気付いて手を振る。
チリも同じように手を振りかえし、彼の座る席へと足を進めた。
「せっかくやし、相席ええか?」
「大丈夫ですよー」
少年の手元にはメニューが一枚。どうやら、注文はまだらしい。チリはもう一枚あったメニュー表を手に取り、しばしそれを眺める。
宝食堂が取り扱う料理は、カントーやジョウトなど東側のものが多い。出汁を使うものが殆どで、薄味なものも珍しくない。とは言え、濃い味の料理もしっかりとある。
「自分、何頼むん?」
「天そば、ゴーヤチャンプルー、やきおにぎり、筍の煮付
それで食後に最中入りぜんざい…かなぁ」
「よう食うなぁ…にしてもチョイス渋いやっちゃ、苦いの平気なん?」
「ゴーヤチャンプルーのほろにがなゴーヤと、ダシのしみた豆腐と卵のまろやかさの組み合わせが好きなので」
饒舌に語る少年の目はキラキラとしていた。どうやら、年相応に食べることは好きらしい。
空腹を感じていたチリにとって、具体的な食の言葉は食欲のスイッチを押すには十分だった。
「……あかん、食いたなって来たな。チリちゃんもゴーヤチャンプルーにしよかな〜、あとは…からしむすび」
「からしむすび…辛くないですかあれ」
「なんや辛いの苦手なんか! 自分ちゃんと子どもらしい舌しとって安心したわ」
カラカラと笑うチリとは対象的に、ハルトは少し顔をむくれさせる。どうやら、気にはしていたらしい。
むくれた顔のまま、ハルトは口を開く。
「辛いのは苦手じゃないです。
ツンとするのが苦手なだけです」
「ああっと、笑ってもうて堪忍な。ちゃんとかわいいとこあって安心したもんでつい」
「わざと言ってませんかもう」
「あかんナシ! 今のナシ!」
子どもらしい、かわいい。年頃の男であれば、それなりに気にするワードだ。危うく拗ねるところではあったが、慌てて撤回されたせいか、そこまでには至らなかった。
疲労のせいか、失言が多い。そう自覚してから、チリはため息を吐く。不甲斐なさ半分、後悔半分だ。
「…やっぱりリーグって大変なんですか?」
「んぁ、ああ。せやなぁ、この時期はどうにもなぁ。チリちゃんは普段の事務に追加で面接と実技が入るやさかい、忙しくて叶わんわ…。
…もしリーグに興味あるなら慎重に選びぃ、知っとるやろうけどウチのトップええ人やけど容赦ないでホンマ」
「目が濁ってますよチリさん」
どよん、とした赤混じりの瞳。少年はそれを気の毒そうに見る。同時に、言い淀むように口を閉口する。餌を出されたコイキングのようにはくはくと。
何処となく愛嬌を感じるが、何か言いたいことがあるのだろうとチリは察っし、彼女は少年に「どうしたん?」とさり気なく言葉を促す。
「…いや、ちょっと言おうか迷ってて」
「なんや言うてみぃ」
「今のチリさんの顔色フリージオみたいで死にそう」
「いてこますぞ」
「あたっ」
ぴん、とチリの指がハルトの額で弾かれた。
ちなみに、チリの顔色は本当に蒼白かった。
しばらく話してる中、二人が頼んだ料理が来た。箸をそれぞれ手に取り、二人揃って手を合わせて礼をする。
湯気立つ品々は、食欲を刺激する香りを放つ。互いに腹の虫を鳴らしたが、指摘する間もなく、二人は揃って料理を口に運んだ。
しばらく、無音の食事が続く。
皿と皿がぶつかる音。箸がガラスに擦れる音。時折漏れる息の音は、満足げなくもの。
そんな調子で食事が進む中、はたと気付いたようにチリは独り言をこぼした。
「…人と夕飯食うのは、久しぶりやな」
忙しいとポケモン達と食べる時間もない。夜も深ければ、彼らもボールの中やベッドの上で穏やかに眠る。
必然、一人で食事を済ませる機会も多くなる。
こうして誰かと向かい合って食事を取るなんて久しぶりだ…他地方の四天王もこれほど多忙なのだろうか、恐らく湯気のせいで滲んだ視界のままに彼女は思考する。
「…ちゃんとご飯食べてます?」
ハルトがそう尋ねる。あどけない顔立ちは、怪訝に歪んでいた。自分はオカンか、と内心で突っ込みつつチリは返す。
「時間帯はさておき、3食きっちり摂っとるで」
「…うーん」
煮え切らない返事のまま、食事が進む。
しかし何やら考え込むハルトを見て、気を使わせてしまっただろうかとチリは思う。
そうこうしてるうちに、運ばれた皿が空になった。それでも少年の顔は悩んだままだったが、ともかく二人は会計を済ませる。
そして店から出た時、チリのスマロトムが震え出す。画面に映るメッセージには「申請が来ています」とだけ書かれていた。
「自分これ…」
「ん、僕の連絡先とアカウントです…一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいですし! ちゃんとした時間に食べないと体を壊すって習いましたし…迷惑じゃなかったら、誘ったりとか…したりされたり…」
遠慮がちな声色。迷惑でないかどうか。それを伺うようなぎこちなさ。可愛げのあるそれに、一切の邪な気持ちは感じられない。
一人より二人。体を壊さないかどうか。
飾り気のない優しさと、拙い知識から出された行動。なんとも微笑ましいが、同時に弱ったなと。
多忙で弱り目、疲れ切った時にこれはダメだ。顔を手のひらで隠しながら、長く息を吐く。
「…子どもは夜ちゃんと寝ないと大きくなれへんで?」
「あ、それはやだ」
チリは膝をかすかに折り、幼い目を見る。
急なことに驚いたのか、少年は固まる。
───打算とか、ホントにないんやろなぁ。
「…顔近くないです?」
「なんや照れとんの?」
「べっつにぃ…」
───ま、リーグ関係者ってことで…。
細い指が液晶を走り、申請を受諾する。
少年のバッグからも電子音が鳴った。
同時に、彼の顔は晴れやかなものに。
「ありがたくもらっとくわ、おおきに」
しかし、チリは苦く笑った。
不甲斐ないと思ったのだ。自分よりも年下の男の子にこうも気を使われてしまうとは、と。
彼女は小さく口の中で「気ぃつけんとなぁ」と呟く。今日の夕餉で心が休まったのも事実だったからだ。
「どうしました?」
「ん?……ああ、なんでもあらへんよ」
不思議そうな様子の少年に笑いかけながら、彼女はスマホの画面を見つめていた。
新たにリストへ登録された『ハルト』の文字を指でかすかに撫でてから、彼女はスマホをしまう。
「自分、これからどないするんや?」
「今日はもう寮に帰ろうかと。明日もやりたいことは沢山あるので!」
「ほぉん、そらええことやな……ほんなら途中まで送ってくわ。夜も遅いし」
「え、大丈夫ですよ! 僕女の子じゃないんですから!」
「幾らチャンピオンでもこんな暗い中一人で帰らせたらトレーナー以前に大人失格やっちゅうねん。まぁタクシーでひとっ飛びやし、別にええやろ」
「うぇ、は、はい……」
「よし決まりや。ほな行こか」
ハルトは気恥ずかしさと申し訳なさで縮こまっていたが、チリは構わず歩き出す。
その背中はどこか楽しげにも見えた。
「あ、ちょっと思ったんですけど」
「なんや?」
「もしかしたらチリさんって〝これ終わったら食べよう〟を何回も繰り返したりとかしてますか?」
「おっかしいな自分エスパータイプなん?」
ハルト…デフォルトネーム主人公。セルクルジムの写真とかで食べるの好きそうだなぁって思った。というか甘いのが好きなのかも?学生らしいね。
チリ…あらゆる者を夢勢にはたきおとす、割と主人公のことを買ってるよね私そういう(年上が年下に「やるやん」してるの)だいすき