全て、全て呑み込まれるのではないかという不安があった。ゾンビが街の人口に匹敵する程に膨れ上がり、白銀ノエル達は、決死の踏ん張りで敵勢力に奮闘した。
其の敵の親玉であったと判明した麗羽るしあ、遺体も見つからず、近くにあった船ごと吹き飛んでしまっていたあの大爆発に巻き込まれ、其の魂を永遠のものとしたあの緑髪の少女。彼女を裁く事になった。
そんなnewsが駆け巡った街角のケーキ屋で、のんびり者の吸血鬼・夜空メルとせっかちな鬼・百鬼あやめは、テーブル向かいにケーキを食べながら喋っていた。
夜空メル「もう亡くなったネクロマンサーを裁く、のかぁ。」
百鬼あやめ「余が聞いた話だと、死者蘇生を敢行して、復活させてから裁くらしいぞ。」
夜空メル「世も末だね〜。」
百鬼あやめ「そんな事言うな。また何度もあのゾンビ共が復活するやもしれん。」
メル「そうかな〜。なんか、復活させてたのはるしあって可愛い子ちゃんの眷属だって話だから、未だなんじゃないのかな〜。」
あやめ「其のるしあとやらを裁くんだぞ。」
メル「えっ。そうなの。」
あやめ「そうそう。確か、今、お城で大規模な復活魔術式を作ってるらしいぞ。」
メル「へ〜。それって、反対する人とか居ないのかな〜。」
あやめ「勿論居るぞ。何やら物騒な話らしいが、魔王派閥と白神派閥と星街派閥に分かれているらしい。」
メ「星街!?」
あ「ん。星街。」
メ「あのゾンビ相手に鉄球でパチンコをしながら笑っていたって言う!?」
あ「ん?余が聞いた分だと、同じゾンビの頭だったような…」
ムムム…と記憶を探るあやめ殿。
ここで会話は一旦途切れた。
メ「あ、そうだ!トワっちに連絡しないと。」
その後、急いで電話を掛けた矢先、こんな事を話し始めた。
メ「もしもし。」
常闇トワ「はい。何でしょう。こちら常闇の悪魔、常に平常運転でお願いします。トワです。」
メ「あー、トワっち〜。久し振り〜。」
ト「え?若しかしてメルちゃん?どうしたの急に。」
メ「いや〜そう言えばトワっちにお金貸してたでしょ。アレ早く返して欲しいな〜って、唐突にそう思っただけ。」
ト「え?何か緊急の用事?」
メ「いやいや、今あやめちゃんと一緒にケーキ食べてるだけ。」
ト「あ、それなら、まあ、いつも通り後日って事で…」
メ「え?」
ト「あ…ハイ。今すぐ持って行きます!」
先達としての圧に屈したのか、常闇トワは急いで支度をすると隣街で有名なケーキ屋さんを調べ始めた。
そうすると、机に身を乗り出してあやめ殿が聞いて来た。
あ「何話してたんだ。余にも聞かせてくれ。」
メ「う〜ん、大した事じゃないんだけど、お金返してもらうの。若しかしたらここのケーキ屋さんも値段が高いかもだから。」
あ「確かに、最近、羽振りが悪いからな〜。余も懐が寂しいぞ。そうだ。全額払ってはくれんか。」
メ「え〜。別に良いけど。」
そんなこんなの街角のケーキ屋であった。
〜〜
裁判所前
ル「断固反対なのら!」
ス「そうだー!死者を呼び覚ますのは、二の舞も良い所だぞー!」
魔王「静かにし給え。ここはそういう場所では無いと何度も言った筈でしょう。」
ル「そんな事言っても、万が一、又、アレだけのゾンビが復活したらどうするのら!」
ナイト1「其れは有りません。姫様。当時この国で暴徒と化した死者は、我が国の人口統計では、過去に埋められて来た全ての死者数と一致しております。」
ル「ンなッ…そんな馬鹿でかい魔力、一体何処から…」
ス「…其れはアレじゃないかな。…ルシファーで良いんだよね。あの正体不明の巨神の呼称。」
ル「ルシファー…?」
ス「アキさんが言ってたよ。其の名前が全ての発端だって。確か、るしあって名前を言おうとした時に、風の音と混ざり合って、言ってしまったんじゃなかったっけ。」
ル「其れなら、アキ・ローゼンタールが犯人なのら。今、何してる?lueknight、早速指名手配なのら。」
ナイト1「はっ。畏まりました。」
ス「えっ?」
ル「えっ。じゃねーのら。スバちゃ社長はもっと勉強して欲しいのら。」
魔王「そうは言っても、麗羽るしあが何の罪も無いとは思えないが。」
ル「其れは違うのら!御養父様《おとうさま》!今回のはただの事故、其れも天災絡みのゴタゴタした事情があっただけで、ゾンビは故意に生み出されたもので無いのら!」
魔王「そうとも言うが、あの娘が街中で暴走しなければ助かった筈の命もある。其れに、今回は偶々死傷者数が少なかっただけで、今も死傷狂人病に苦しむ者は数多く居る。何せ致死率100%だ。ここにこうして立っていられるだけ、幸運だと思いなさい。」
ル「其れはルーナとルーナイトが頑張ったからなのら!」
魔王「其れとこれとは話が別だ。今後、ゾンビが生者を喰らい尽くさないとは言えない。」
其の時、時空がねじ曲がった。
そして、ときのそらが現れた。
そら「待って下さい。るしあちゃんには私から何か言っておきますから。復活だけはさせないで下さい。」
魔王「死者とどう語り合うと言うのか。」
そら「るしあちゃんはネクロマンサーでした。其れに、死した人でも魂が生きているなら念話をすることはできます。」
魔王「ほう…ネクロマンサー固有の黄泉の国との会話か。法廷で使えそうだな。」
そら「えっ?」
呆然と、しかし、
魔王「益々復活をさせたくなった。」
そら「そんな、滅相な…」
顔を両手で隠すときのそら。
そんな折、アキロゼはルーナイトとの戦闘の後、素直に投降した。
〜〜
沈黙して居るルーナ姫、大空スバル、魔王ヤゴー、ときのそらの目の前に、アキ・ローゼンタールが連れて来られた。
ア「この機会を待っていた。」
ス「え?」
そう言うとアキロゼはルーナ姫が命じた時のみ使用が可能な木製の手錠を易々と破壊し、魔王に向かって詠唱を始めた。
ア「解き解すは世界。月光よ来れ。破壊よ生み出せ。破断の王よ。御覧労じろ。終末の折に、其の日常に、光あれ!」
「喰らえ。月光破断《ルミネート・オーバー・アクセル》!」
魔王「グオオッ。この私に、この程度の魔術が効く筈も無い…グッ、どういう事だ!?」
ア「これは、兎田建設の社員、ムーナ・ホシノヴァがこの魔術自体の潜在能力を解放させた結果!」
「どうあれ、私を裁くのなら、ここで死んで貰うっ!!」
「ルーナ!剣を!」
ル「lueknight!《倒して》」
ナイト一同「はっ!」
ア「えっ…やっぱりルーナ姫の命令だったの。」
ル「そうなのら。大人しく捕まりやがれ、この真犯人!」
ア「なっ。私はそもそもあの娘を追って–」
ル「言い訳無しなのら!」
こうしてアキ・ローゼンタールは1日に二度捕まる羽目に…っと、すいちゃんがあめみやが運転する車に乗って猛スピードで突っ込んで来た。
す「禁術!Tetrisblock召喚!」
あめみやたいよう「あー、すいせいさん、其の技はちょっと…」
上空に現れたブロックによって、ルーナイトの動きが一瞬止まり、連続で隙間なく入れ込まれるブロックに往生する。
魔王「何奴!」
す「魔王、其の首、討ち取ったりーー!」
「DT砲ギロチン!」
そうすると、いつの間にか組まれていた故意に開けられた空間に凸の字のブロックが二連続で鋭利を通り越した角度で入り込んでくる。
ドカーン
魔王、流石に禁術の前には–––、しかし、其れを禁術に指定したのは、相方のあめみやたいようその人であり、同氏は、これでは駄目だな…そう呟くと、車を急カーブさせ、道を引き返していった。
モクモクと晴れる煙跡に、魔王は依然として立っていた。
魔王「ふ〜、流石にcombo技は少し喰らうな…」
ア「狙い充分。今ので、ルミナスの剣は仕上がった。喰らえ。」
アキロゼはルーナイトからしか取れない特殊な魔力を例の魔術で束ねて剣を作っていた。そして其の剣で大きく踏み込み、其の剣を目にも留まらぬ速さで振るう––––。
しかし、相手はあの魔王、斬撃の間近、半歩引き剣の芯に触れない様に躱して行く。
連続斬り、全て躱され、魔王の腕と共に魔力弾の直撃か。
ア「捕らえた。」
なんとアキロゼは剣を盾の様に使うと、魔王に向かって、日光反射を起こす。
「日の本の神よ、今一度、光を此処に。天照の円光は、全てを包み、焼き払わん!残熱一刀、日月の差を余せ!全て其の恵みの光の王道である!!!天照月光破断《アマテラス・ルーナイト》!!」
光が包まれた。魔王も使用者のアキロゼでさえも、光が包み込んだ。
世界は今一度、夥しい光を許容する事になった。
直撃を受けた魔王は、其の全身に及ぶ刻印を光に侵食され剥がされた。
ア「貰った。其の防御壁さえ無ければ、こっちのものだ。」
だが、
魔王「その台詞は私のものだ。」
長大な魔力槍、其れを精製すると、アキロゼに向かって投擲する。無論其れだけでは無い。
「はっ!分裂。」
なんと、魔力槍がより細長く分裂し始め、鋭利さが闇に溶け込む刹那、アキロゼの肉体の各所を切り裂いて行った。
ア「くっ…」
それだけでは収まらない。
先の攻撃を更に複数の槍で、魔力弾も含み、飽和する闇の攻撃に、アキロゼとその周囲は吹き飛んだ。
ボロボロになり、肝心な所だけ見えないのはアキロゼの受け身の完全さ故か。
すると魔王は巨大な魔力塊を作り出すと、頭上からTetrisblockの様に降らせた––。
ドッドッドッ ダンダンダン ズバーン
魔力は不安定な弾と不均衡なブロックで構成され、其れらが繋がった瞬間に破壊が起こる。
ここにおいて拡散される不安定さは熱であり、肉体など疾うに焼け焦げている筈だった。
しかし、そこに立っていたのはアキロゼでは無く、爆炎に映える銀の髪は、誰が助けに来たかを露わにしていた。
「団長は、人を守る騎士、白銀ノエルです。」
「今、団長は、アキロゼさんの騎士です。」
「其処で体制を立て直している王都の騎士程では無いですが、団長にも騎士がいます。」
「最近起こったアンデット掃討作戦に於いて功績を立てた団長は、騎士団の教習所を開校しました。」
「未だ一年程しか修行していない不束者達ですが、疲弊している王都の騎士が相手ならば、負ける気はありません。」
そう言い終わると、大きく息を吸い込み、
「行くぞ!皆んなー!!」
大きな声で鼓舞した。
〜〜
白銀騎士団とルーナイトの戦争が始まった。
〜
(成る程、エルフの加護か。誰ぞの加護かは噂通りか確かめるとして、我が魔力を受けても傷一つ無いとは、恐れ入る。)
戦いの最中の騎士を見遣る。一人一人の練度は王都のルーナイトが勝るが、数と連携は白銀騎士団の方が上だった。白銀騎士団は、美しく装飾された武装を持つルーナイトの一振り一振りを代わり番こに受けて行く。二、三人掛かりでも一対一を素早く連続して行えるルーナイトに対し、バックステップを同じ様に素早く熟し、受け身を取りつつ仲間とバトンタッチする。其れに手を拱いた瞬間、二、三人同時で攻撃を仕掛ける。
よく訓練された動きだった。これは、団長・白銀ノエルに複数人で組手をする練習の際に、一年間掛けて獲得したものであり、ルーナイト相手でも怯むこと無く押し出せていた。
戦況は今は五分といった所だろうが、ルーナイトにも練度の差はある。対応できる者とできない者に分かれ、できる者の中には複数人纏めて対処できる者も現れると、魔王は踏んでいた。
目論見通り徐々に気圧されて行く団員達。
そして魔王は優しく声を掛けた。
「どうした白銀の騎士諸君、遅れを取るならば、いっそ剣を捨てたらどうだ。今こちらに来るなら、待遇は弾んでやろう。」
アキ「…其処までだ。ヤゴー。」
だが敵は目の前に居なかった。振り返ると金髪の女勇者・アキロゼは、睨み付ける様に魔王・ヤゴーを見ていた。
其の睨みに魔王は問い掛ける。
魔王「何故剣を持つ。」
其の問いに女勇者《アキロゼ》はこう答えた。
アキ「大悪を打ち滅ぼし、白昼堂々の闇を切り裂かんが為だ。」
魔王「そうか。」
「ならば、貴殿とあのネクロマンサーを同じくして、私が裁こう。」
其の発言に勇者は決意した。
アキ「成程。ここでケリを付けるしか無さそうだ。」
しかし魔王は依然として立場を譲らない。
魔王「貴殿の立ち居振る舞いは、私が魔王であり、仮に大悪であろうと、法廷では変わらず在り続けるものだ。」
両者、共に、一歩も引かない対話。
然して魔王が先に動いた。
手に凝集される魔力塊は、巻いた渦を肥大化させると、腕の一振りでノエル団長に襲い掛かった。
(さて、先ずは、加護がどの様にして働くかだな。)
団長は棍棒《メイス》をゴルフのスイングの様に振うと、棍棒《メイス》と激突した魔力塊からスイングに従ってある程度の魔力が掬われ、残った魔力は団長の胸に当たると其の形を霞ませて消えた。
魔王(成程。乳か脂肪か、其のどちらかに加護が宿っていると見るべきだな。今の攻撃が体内にまで影響を与えたとは考えにくい。魔力は浸透し不安定に安定なエネルギーの流れと形を変えるものだ。即ち、脂肪分、SCPナンバーにある様な体脂肪率が一定の存在が異端を発揮するのと同じく、其の胸の厚さに加護が宿った訳か。)
(しかし、先程の魔力塊は胸で受け止めた訳か。大胆と言わざるを得ない。)
「エルフの加護か。立派だ。君の友人に、君はどれだけ感謝しても仕切れないだろうね。」
素直に賞賛する魔王。其れによく思わない所のあるのは、女勇者のアキロゼだった。
アキ「ふんっ。余りにも尊大だな。他人の友好関係にまで、何の許可を持って、感想を述べ手繰るのか。」
魔王「そうだな。君の事は忘れていなかったよ。だが、話には順序というものがある。どれ、先ずは其の加護、離す所からにしようか。」
魔王の不遜な物言いに思わず反応したのはやはりアキ。
アキ「何。どういう事だ。」
しかし魔王はここで幕を引くつもりだ。
魔王「其れではここで去らばだ。」
「又会う機会を楽しみにしているよ。」
「ふーはっはっは〜。」
アキ「待て!」
追ったが、威力の減衰した今の剣では斬撃を飛ばす事もできず、振るったが空振りに終わり、アキは苦し紛れに、チィッと舌打ちを繰り出した。
何の魔術か、中空にて其の体を消す魔王。アキは中空を睨むも、直ぐに危険が無い事を悟ると、振り返る。
するとルーナ姫が戦いを止めていた。
ル「もう戦いはいいのら!退くのら!」
ナイト2「しかし姫様、このままでは奴ら賊軍、一人も取り押える事が出来ませぬ。」
ル「其れはもういい!」
ナイト3「分かりました姫様。撤退します。」
そう言うと、尾を引く様に撤退して行くルーナイト。
そして勝利の喜びを露わにする白銀騎士団に、団長はこう言った。
ノ「浮かれるなぁ!一人も倒せて無い癖に、全く、団長は大見得切ってしまって悲しいぞ。」
〜
一方、ルーナイトもルーナ姫に叱られていた。
ル「お前達はいつもいつもルーナの言葉一つでやり過ぎなのら。もっと自分の身を案じた方がいいのら。」
ナイト一同「はっ!!!」
そうして、二つの騎士団の諸戦は、一人の死人も出さずに幕を下ろした。
〜〜
常闇トワは、隣にいる天使・天音かなたに抱き着かんばかりの近さで必死に何かを訴えかけていた。
トワ「っていう訳でさ〜、お金全部持っていかれちゃったんだよね〜。」
かなたそ「其れで、お困り事は?」
トワ「今日泊まる家も無いの〜。賃貸だったから直ぐに売り払ってさー。もう、最悪!」
かなたそ「其れなら僕ん家に泊まれば良いよ〜。風呂もあるし、一緒に入ろ!ね!」
ト「え?いや、まあ、それなら其れで良いけど…」
か「え?何か言った?」
ト「ああ、うん。何も。」
そうすると、昼間に騎士団が衝突した場所に到着していた。
か「…あれ?こんな所にこんなにも足跡あったかな?」
ト「ん〜、どれどれ。って、これは何やら良い匂いがしますね〜。」
か「え?良い匂い?何処何処〜?」
ト(とまあ、屋台を探しに行ったかなたんは置いといて、こんなにもくっきり争いの跡があるなんて、ジュルリ…トワ、興奮しちゃう〜。早く魔力の痕跡を収拾して…アレ?素手で殴り合ったの?魔力の残滓が彼処の強大な奴しか無い。)
か「トワ〜、また嘘付いたねー、何処にも屋台なんてな…」
どうやら天音かなたもここであった大規模な魔力衝突を感知したらしい。
「トワ、こんなにも巨大な魔力の残滓、拾いきれ無〜い。」
か「えっ?証拠として残して置かないの?その内大空警察が来ちゃうよ。」
ト「え、ああそうだ。早く帰らないとトワ達が犯人にされちゃう。ね〜かなたん〜早く家に連れて行って〜。」
か「え、良いけど…」
(何か態度デカいなぁ…まぁ、いっか。)
天使と悪魔の組み合わせが隣街を歩いて行く。夕日に向かって歩いて行くその背中は、幼いながらも逞しさを兼ね備えた背格好と、大人になっても人に甘えるしか能の無い不恰好をコントラストに表現していた。
〜〜
〜るしあの裁判まで後数ヶ月〜
帰って来た魔王は早速、目下の目標について思案する。
(エルフの加護を突破する為には、指定のエルフを狩らねばならない訳だが、選りに選っても噂通りなら、あの不知火フレアか…困ったものだな。)
(我が事業の一部を継承する不知火建設。確か、あの白銀騎士団の団長も所属して居る凄腕の建設会社だと聞く。)
(…先ずは、鬼に頼む所からだな。)
〜
鬼には住処等無いのだが、この鬼は少々特別であった。
巨人の頭蓋骨と思われる白く巨大な物体が半分程、土に埋まっている。其の内部で火を灯す事も無く、コップ片手に優雅に寛ぐ鬼が一人居た。
すると、黒い染色を施した伝書鳩が一封の手紙を運んで来た。
あやめ殿「お?余に手紙?珍しいなぁ〜。」
「何々。えっと〜確か、この文字はこうだから、あ、反対か。」
クルクルと手紙を回転させる鬼・百鬼あやめ殿。
「成程、余に建設会社を襲えという事か。」
其処に書かれてあったのは、"不知火建設会社との業務提携の際に第三者として百鬼あやめ殿の立会いをお願いしたい"との事であったが、あやめ殿はそんな事は露知らず、折角の手紙も意気込んだのか勢いでぐしゃぐしゃにして其処らに捨ててしまった。
そしてあやめ殿は殊更意気込んだ。
「よーし、余の出番だな!」
「余も刀剣解放とやらを`覚えているからな〜。」
「そうだ!善は急げという!」
更に、急いで身支度を整えると、すぐさま出発した。手紙をゴミ箱に捨てたので、勿論行く当ては無い。
果たして彼女は何処に向かうのか。何処で人間の役に立つと言うのか。鬼の頭領だからと言って、何でもかんでも許される訳ではないだろうに。
〜〜
魔王は嫌な予感がした。このままでは交渉は破綻してしまうという予感が。
そして、其の予感が、先に出した手紙の行方であると何となく感知した。
魔王は直様に手紙に施した魔力刻印を探すと、グチャグチャに壊された感触を受ける。
魔王(まさか…鬼にまで拒絶されるとは、…私も落ちたものだな。これも全ては無垢な一般市民に力を振るったが故か。)
ときのそら、魔王の魔力を受けても大事に至らなかった時を駆ける青女。其の女性に当てた渾身の魔力と其の時の感触を思い出し、焼け焦げた右手を見る。
(あの時、先達が晩節を汚すのを許せなかった私が間違っていたと言うのか…)
魔王は落ち込んだ。流石に鬼にまで馬鹿にされて居ては、やって行けないからだ。
そうして、暫く落ち込んでいると、閃きが魔王の脳内を駆け巡る。
(はっ。そうか。ときのそらと同じ業務を行えば良いのか。)
(そうすれば、業務提携をこれ以上せずとも、過去の信頼回復、時空を超えた大規模案件の入手も可能だ。)
(何故こんな単純な事に今まで気が付かなかったのだろうか。)
魔王は無意識の内にときのそらを畏怖し、敬遠していた。其れは魔王程の実力が有ろうとも、あの少女の"最強の偶像"としての効果が高過ぎるからだ。
すると、魔王城、姫の居る城の隣にひょっこり建造された不沈艦を思わせる外観には似つかわしく無い声が魔王が休む部屋の外から聞こえて来た。
「今回は、魔王さん、現国王に、死者蘇生について、あの巨人について尋ねたいと思いま〜す。」
そんな折、凸撃リポーターAzkiがやって来たのだ。
この前まで巷で噂のアイドルをやっていた彼女は、同じ事務所の赤井はあとのゾンビに対するライブに感銘と同時に敗北感を受け、又、事務所に対して全く違う見解を持つ桐生ココに変化を貰い、インタビューマイク片手に死者蘇生の事を調査する為に方々を駆け巡る凸撃リポーターになっていた。
「失礼しまーす。」
「いきなりで申し訳有りませんが、魔王さんは一年前の出来事について何処まで覚えてらっしゃるでしょうか。」
インタビューマイクを向けられる魔王。
魔王「そうですね。あの時は、ときのそらさんと一緒に巨人の方を止めていました。」
(よっし、掴みはバッチリ、こんな機会が天から降って来るとは、思いもよらなかったぞ。)
Azki「え?魔王さんはときのそらさんと険悪な仲だと聞いていたのですが、違うのでしょうか。」
魔王「ええ、あの娘《こ》とはこれからも事業を展開する予定です。」
Azki「具体的にどの様な事業になる見通しでしょうか。あの巨人と何か関係があるのでしょうか。」
魔王「はい。一年前のあの事件に関しましては、先日、真犯人が自ら自首をしてくれるという形で、一旦事を収めました。」
「ときのそらとは、一年前に魔力的な共同作業を行ったばかりなので、同様の事件を未然に防ぐ為の対処を施して参る所存で御座います。」
Azki「其れは、自らの贖罪の為でしょうか。」
「其れとも今後の魔王事業の社会的な復興の為なのでしょうか。」
魔王「両方です。」
Azki「先程、真犯人が見つかったと仰られましたが、どの様な特徴を持った方でしょうか。異種族でしょうか。其れとも…」
魔王は食い気味にこう答えた。
「女勇者です。あ、正確には女勇者でした。」
二度、ジョブを明らかにさせる魔王。
其れを自宅の居間で見ていたアキロゼは、ちっとこれまた舌打ちをした。
アキ「このままだと、魔王の独壇場ね。こっちも用意しておかないと。」
るしあの事を話すのか話さないのか。其れによって秘匿処刑であるかが分かるとアキロゼはテレビを凝視していた。
Azki「其れでは、インタビューを終了します。ご協力、ありがとうございました〜。」
テレビからはAzkiの健気に楽しげな印象の声がマイク越しに響く。彼女は確か、コンデンサーマイクが好きだったとか。
街角でも、この事を食い気味に見入ってる者達の後ろで、噂のカップル・おかゆところねが喋っていた。
こ「大変な事になって来たね〜。」神妙な面持ちで語る。
お「うん。どうにも僕達の出番は未だ先みたいだね。」
こ「これからどうしようか。あの爆発が何度もあると思うと、正直、疲れる以外無いよね〜。」
お「うん。うん。どうにもあの爆発だけは僕達にもどうにも出来ないし、そうそうあのレベル巨神が現れるとは限らないし、わっからないな〜。」
そんな中、湊あくあが小走りに猫又おかゆに近付いて来た。
湊「何。何が分からないの?おかゆの相談なら何時でも乗ってあげるよ。」
割っている様に会話に参加する湊あくあ。常人なら無視しようものだが、猫又おかゆは真摯に対応する。
お「ああ、この前の爆発の事なんだけど、あくあちゃんには未だ早いかな〜。」
湊「そ、そんな。私だって、え?爆発?いつ?いつ起こったの?」
"爆発"という単語が記憶に無く引っ掛かる湊あくあ。
お「ほらね〜。これだから可愛いだけの駄メイドは。」
そんな事より、と戌神ころねは、向こうに指を差しながら会話を続けた。
こ「そんな駄メイド放っておいて、一緒にハーゲンダッツ食べよ。ほら、彼処に屋台があるよ。」
お「あ、本当だ〜。ハーゲンダッツの屋台なんて珍しいなぁ〜。」
湊「そ、そんな、駄メイドだなんて、おかゆに言われたら嬉しいけど…」
(あんなハーゲンダッツの発音もおかしい女《ひと》に言われるなんて…そうだ!お仕事に戻らなきゃ。確か、おかゆんの匂いがして、其れで、お仕事放っぽり出して来ちゃったんだ〜。このままだと御主人様に怒られる〜。)
〜〜
あ「およ?そう言えば何処行けば良かったんだっけ?」
今更ながらに行く当てが無く迷っている事を自覚するあやめ殿。
しかし、この後の展開を誰も想像だにしていなかった!!
あ「取り敢えず、刀剣解放するか〜。」
は?思わず著者も唾を飲む。
あ「解放!八百万鬼多天《やおよろずきたてん》!!!」
其れは、赤鬼、青鬼、黄鬼の色属性を全て持つ混ぜると黒、闇夜に溶け込む刀身となり、持ち手の光である筈の白亜の体躯と矛盾した宝具。其のコントラストは、屈指の出来だという。
炎、氷、雷を刀剣から生み出し、刀剣の色合いも其れに伴って変化する。
同時解放もでき、この国ではその解放を知らぬ者は居ないとされる程に、圧倒的な使用頻度、戦闘頻度を誇り、属性剣であるが故に相性の有利不利、上手い立ち回りが必要となる。
其れを、何も無いところで、しかも道に迷ったという理由だけで、格好良さとかも加味せず展開する。これが鬼。偶像の鬼。筆者の頭も混乱して来たそんな折、これ又可愛らしい発言が聞こえる。
あ「これでダウジング?とやらをやるか〜。」
これが某エリート()巫女だったら「あ〜あ。」という声だけ虚空の彼方から聞こえる筈だが、ここは鬼の迷子。そう。この鬼はそうは問屋を`降ろさなかった。
あ「おらおら〜。こういう感じだったぞ〜。」
刀剣から斬撃状に発生した大小様々な炎、氷、雷が道端の草木を燃やし、凍らし、焦げ付かせていく。
あ「これぞ、草薙の剣!!」
違うそうじゃ無い。頼むからこれ以上面白可笑しくするのは勘弁だ。
そんな中、火が木に燃え移った。この辺りの村ではよく見る火災だが、この鬼が普段から何をしているのか容易に想像付く。ちゃんと鬼やってるじゃん、そんな突っ込みが聞こえて来るのは幻聴だろうか。
そんな事は置いておいて、この鬼は森林火災に十分な見地が無い様だ。
乾燥しているなら、夏季や冬期の気温の差は関係無く、燃え移るものは燃え移る。
この辺りは最近まで例の天災の嵐の後の晴天が続き、農作物はてんでうまく育たず、ぺこランドの人参も不作続きだと言う。そんな時に森林火災。これは正に鬼の所業である。
〜〜〜
東紀129年
〜ぺこランド〜
魔王の不知火建設との会合の時がやって来た。
ぺこランドの住み良い風が吹く草原に不釣り合いな魔王衣装。スーツにマフラー、どっしりした体格を支え、マスクやサングラスの代わりになる外套を羽織っている偉丈夫、魔王だ。顔を隠すだけならフードでも可だが、其れは社員も余りして居る時が無い失礼な衣装に当たるとの事だ。
魔王(そろそろ会合の時間だが、果たして先方はぺこランドまで正しい時間に来れるだろうか。)
魔王の心配は他所に、不知火フレアは白銀ノエルを連れて会合兼任の温泉旅行に来ていた。勿論、2日や3日早く来る為、遅れる訳は無いのだが、魔王は時間厳守も特に細かい方だった。
後1分で5分前になる辺りに、不知火フレアは現れた。
フ「この度はどうも〜。」
魔王「いえいえこちらこそ。」
早速名刺を交換する。
魔王の衣装と魔力の所為で魔王がいつも畏まっているのは上手く伝わっていない。
だが、名刺には丁寧に、「谷郷元昭」と、シンプルな書体で書かれてあるのである程度の緊張は解れる。
フ「今回はどう言った要件でしょう。」
早速本題を切り出す。フレアもある程度は把握して居る。魔王の司っていた案件の内、このぺこランド近辺の森林の管理についてはエルフであるフレアが一任する事になったのだ。
魔王「このぺこランドにある裏山の一角をゴルフ場にする計画でね。道路の整備からゴルフ場の建設までを請け負って貰いたい。」
案の定、ここの山の森林を伐採する案件だ。
フレアは、昨晩ノエルにこの温泉も暫く入れなくなるかも知れないとは言って置いたので、心は定まっている。
フ「分かりました。早速裏山の方に入りましょうか。ここは何分、一個師団が必要となる戦力が集まって居るものですから、気をつけて下さいね。」
業務とは言え魔王を気遣うのは少々違和感が過ぎる。
魔王「ほう。SSRBか?年中至る所の山林に潜入して居る特殊部隊だろ聞く。確か、其の頭領が最近成人を迎えたが、大層白く美しいと聞く。」
フ「おや。流石、業務が少なくなり、お耳が早くなった様で。」
皮肉交じりに言葉を交わす。
魔王「いやいや、そんなんじゃ無いよ。ただ昔から其の噂はよく聞いていたのでね。」
足が早い。既に二人して山に入る様だ。
フ「其の女性との面識は。」
魔王「隣の国の特殊部隊を未だ年端も行かない其の少女が皆殺しにしたあの伝説の時から、万が一に備えてこの山は私の管轄だったのだが、いかんせんこちらの地理には疎くてね。今日まで其の姿はおろか居場所まで知らない始末なのだ。」
フ「成程。初対面という事ですか。」
魔王「?未だ会っていな–––。まさか、もう既に覗かれているのか。」
魔王が久しぶりに総毛立つ。
フ「はい。ご多分に漏れず、既に彼女のテリトリーです。私の魔力感知なら間に合う距離ですが、宜しいでしょうか。」
魔王「ふむ。この山の形状からして、見積もって、3kmと言った所か。」
3km先からのスナイパーライフルによる監視、其れがこの山の日常だと、魔王は考慮するのだ。
フ「いえ。8kmです。」
魔王「何。」
フ「今はどうやらぺこランドの修復中のぺこダムの頭上に居るようですね。一年前、其の辺りの監視を停戦協定で敷いたと聞いています。かなり豪腕だったとか。」
すると、既に監視の内、いつでも狙えていたという訳か。其処まで思案して逆にこの山は安全安心なのだと思いふけった瞬間、目の端で、森の一箇所に違和感を覚える。一角では無く一箇所。其処に人工の色合いが混ざっているのに気付いた。
魔王(カムフラージュか。)
其方を確認すると山の雰囲気が変わる。否、目が慣れて特徴に気が付く。この森林、定期的に人工の色合いが垣間見える。草叢にカムフラした銃口が鈍い黒でその穴を覗かせているのだ。仲間の居場所を知られて警戒に入ったみたいだ。
(成程。既に囲われていると言う事、この山は特別だと言う事か。)
フ「お分かり頂けたでしょうか。」
魔王「ああ、先程の件だが、今まで通り頼むよ。」
思わぬ返答。修飾の意味から、矛先がフレアにも向かう。
ここで何か下手な事を零せば、SSRBの銃弾に蜂の巣にされるのはフレアの方だろう。
フ「ええ。温泉の開発でしたっけ。」
これは一応ノエルと一緒に騎士団と建設で共同で行う仕事として考えていた案件なのだが、敢えてすっ惚ける様に言う。
すると魔王は完全に事態を把握した。
魔王「…矢張り、君が森林開発に反対して居る代表か。」
フ「いえ。私だけではありません。其れに、エルフのどの領主に聞いても返答は同じでしょうね。」
魔王「そうか。今回の件は、ウチの姫も賛成してくれているのだがね。」
フ「…そうですか。其れならもう、先方が向かって行ってくれています。」
魔王「先方?私を置いてどういう了見だ。」
フ「既に勇者が姫様の元に向かっています。」
「我々エルフは、今回の件を機に魔王の治世に反逆します。」
〜
お城を駆ける美しい金髪が一つ。
ア「ルーナイト!ルーナ姫は何処に!」
ナイト1「既に中庭の花壇に向かわれました。」
ア「ありがとう。この恩はどこかで必ず返すね。」
投げキッスと共に足早に立ち去るアキロゼ。
どうやらルーナ姫に何か用事があるようだ。
アキロゼが中庭まで辿り着くと、其処には何やら嬉しげな笑みを浮かべながら花を見ているルーナ姫が。
ア「ルーナ姫。申し訳ありませんが、私と共に来て下さるでしょうか。場所は言えませんが、ルーナ姫がお喜びになる所です。」
ル「?」
アキロゼは手を差し伸べる。
ル「お前は信用ならねえのら。使いを寄越す。其れで勘弁してくれ。」
ア「其れでは困ります。どうしてもルーナ姫のお力添えが要るのです。」
ル「大方、私と魔王を相反させて、仲違いをさせるつもりなのら。其れで、其の後はどうするつもりなのら?傾国に手を貸しては勇者とて鼻で笑われるのら。同じ協会の仲間にも私《ルーナ》と同じ働きができる者も居るのにいつまでここに居るつもりなのら。」
うっと喉を詰まらせ背筋を整えるアキロゼ。大体当たっているし、未来をよく見てもいる。流石は一国の姫。一筋縄では行かない。だが、一筋だけで攻めが成功した事など一度も無い。アキロゼは慎重に事を切り出した。
ア「では、ルーナイトを少々協会の方に貸して貰えないでしょうか。」
暫し一考。
ル「うーん。其れなら良いのら。」
「誰が良い?」
話は円滑。アキロゼは
ア「えっと…其れでは…
〜
魔王「ふーはっはっはっはー。」
唐突に魔王が森中に響き渡る声で笑い始めた。
魔王「残念だが兎田建設の方には既に通達を出してある。停戦協定に則り、この場では、銃を引いて貰えるだろうか。」
「さもなくば、既に居場所はバレているものと知れ。」
森に沈黙が訪れる。
確かに、兎田建設との停戦協定にはお互いの協力相手には手を出さない事になっているので、魔王に銃口を向けているのもかなりの規約違反という事になる。其れに、今の笑い声で完全に居場所を把握したというのも驚きだ。魔王の潜在能力が測れない内は迂闊に手を出すべきでは無いとの共通認識もあった。
無線機で伝言ゲームを行っている間の静寂が、手足に冷たい。
ジジ..
ぼ「成程。そういう事なら引き続き監視を続けるとして、もう撃たなくて良いか。」
すると隣に居た雪国の魔法使い・雪花ラミィが心配そうに声を掛ける。
ら「ねぇ、このままだと停戦協定から兎田建設の方が裏山に入って来ない?」
ぼ「ああ。其れはそうだね。どうしよっか。」
ら(このままだと、山がゴルフ場になっちゃう。おまるん起こるだろうな…)
ぼ「大丈夫。私がなんとかするから。ラミィは今まで通りにしてて。」
ら「うん…分かった。」
ぼ「そう言えば、あの山火事ってどうなった?最近兎に角乾燥がキツかったけど。」
ら「ああ、うん。ラミィが鎮火をしたよ。後、元凶と思しき刀と鬼が居たから、喧嘩吹っ掛けたの。そしたらね。刀身から炎や氷や雷がランダムに出現して、鬼の方も凄く頑丈で、大変だったの。」
ぼ「ああ、そう。其れでアレだけ火傷してたんだ。気付かなくて御免…」
ら「ううん。良いの。ししろんに気遣って貰えて、ラミィ、嬉しかった。其れにラミィには大福と言う身代わりもあるしね。」
〜
余りにもお手数掛けすぎて物語から出禁になった余「ぶえっくしょいっっっ!!」
〜
風間いろは「其処を退け。」
睨み付ける風光明媚な侍と、其れを遮る豊満な彼女。
ノ「団長にも譲れないものがあるからね。」
其の言葉を聞いて、決心固まるサムライ。
風間いろは「そうで御座るか。其れなら致し方無し。」
抜刀。
雷光と見間違う程の速度に白銀ノエルは反応した。
キイィィィン…
喉元まであと数尺。風間の太刀が団長の棍棒《メイス》に防がれなければ、団長の首は難なく落とされていたであろう。
風間が太刀を流麗な動作で納刀する。
言っても身体操作の中でも最速なのは二太刀目の抜刀。
い「風斬真伝。」
音速を超える抜刀が、団長の胸元に食い込むと思いきや、これ又相手のパルスを読み取れ、事前動作を既に行っていた団長の棍棒《メイス》に弾かれ、風間から団長迄の短い間の風間から見て左手側、木々に一直線に跡が残り、団長の奥にあった木々を一刀両断する。
い「避けるか。我が秘伝、其の真価。」
ノ(何。刀身が伸びた?いや、あの肌触りは風。風の刀。)
「凄いね。団長、ちょっと吃驚しちゃった。」
い(効いてない。)
「これはもう最終奥義を見せるしか無いで御座るな。」
振り返る様に目を閉じ、再度納刀し、シュンと一刀目を瞬時に終える。準備は整った。
いきなりの展開、連続攻撃を防ぎ、思わず聞き返す余裕を持つ団長。
ノ「最終奥義?」
そう、と小さく呟く。
い「風間の柔肌より硬いものは全て割れ罷り通らん。」
い「最終奥義/風斬真伝。武之輪墓。」
瞬間、団長の目に入る物全てが断ち切れた。
しかし団長自身は無傷だった。
い「これでも通らない…もしや風間より肌が柔い…?」
倒れる木々、割れた大地、零れ落ちる団長の防具。
其の中で慎重に恐る恐る風間に近寄る団長。
ノ「御免。」
フルスイング一投!
風間の後の先の太刀、其の刀身を湾曲させ、風間のサラシの辺りに直撃する。
どうにも今ので勝負あったと言わんばかりの姿勢の風間。
「おお、おおお。これは、何というか、キッツいで御座るな。」
サラシを血の赤で染めながら、退散した風間。
これでこの森の平穏は守られた…感傷に耽る団長の頭に一本の木が他と遅れて倒れるも、団長の方が頑丈なのか木の方が逸れていく。
ノ「イテテ…コレで一件落着…。」
〜
魔王( … )
森の奥、遠く山を越えた先の森林を透かすように見る。
そう、魔王が某百鬼の代替として選んだピンチヒッター、流浪の風流・風間いろはの方を見遣る。
フ(!!!)
(今の!魔力、拙い。ノエちゃんは無事!?)
(アレ…木々の魔力が失われて行く…こんなにも多くの木々が同時に…?
(何かあった…急がないと。)
「済みません。谷郷さん。私、急用を思い出しまして、其方の方を優先しても宜しいでしょうか。」
魔王「悪く無い。」
フ(!思ったよりも豪胆。若しや、今の魔断と何か関係があるというの?)
「其れでは。」
魔王「だが、今は自身の身の丈を弁えるべきだ。」
フ「其れでは。」
魔王はそれでも心底から褐色のハーフエルフを心配する。
「忠告はしたぞ…法廷で会おう。」
魔王はエルフの代表全員を魔王の管理下で裁くつもりでいた。何せ正面切って反逆を示されたのだ。
事には順序と言う物があるが、エルフに其れは通用しない。だが、魔王とて事を譲歩する必要も無い。
其れに、前から商売の邪魔になると踏んでいた勢力が、態々、敵になってくれるというのなら、これに負ける魔王では無い。
法廷で負ける要素は無い。
魔王は強かな笑みを外套の下に潜ませながら、最強の対応をする事にした。
〜るしあの裁判まであと三ヶ月〜
黒魔術特殊管理区域にて
塩っ子a「現象監視区域突破。純正志向崩壊。クールダウン無効。影端破断。魂は肉体を拒絶しています!」
塩っ子b「拙い…精神安定を図るしか無いが…この娘の生前の情報は殊欠けている。」
塩っ子c「このままでは、復活どころか不安定になった魂が精神結合の行き場を求めて周りの精神と無差別に混じり合い始めますね。」
?「へ〜。よくやってんじゃん。でも其の方法じゃ駄目かな〜。もっとこう、インテリジェンスに行かないと。」
「あ、久し振り。手伝いに来たよってか、ね〜。なにその反応〜。DMしたでしょ。DM。見てないの〜。」
「も〜。もっと塩対応じゃ〜ん。これはこう。そう。魂に直接干渉しないで周りの環境を整えてあげるの。」
「そうすれば、逃げ出した魂が…っ何この魔力質…まるで死んだ箇所から強制的に魔力を徴収して居るみたいな。」
「あ〜もう黒魔術じゃこっから先は無理〜。直接魔法陣越しに意思を聞くしか無い!はい。コレでいいでしょってか、誰も聞いてな〜い。」
塩っ子b「あの、この魂って…」
シ「何々。何かあった〜?」
塩っ子b「あの、本当に例の天使なんですか…」
〜〜
時は遡る事、魔王と不知火建設の会合の時。
ぺ「取り敢えず!ここの区域にはたくさんのお客さんが来るから迷惑を掛けない事!良いね!其れと5分前行動は基本。時間厳守ぺこよ。特に、キアラ!時間にルーズそうなあんたはバッチリ目付けておくからそのつもりで宜しくぺこよ。」
キ「あ、ハイ。」
突然名指しされたものの特にこれと言って気にはしていない模様。
今は兎田建設の契約して来た内容全てを新入社員に見せる研修会。
中にはねぽらぼと交わした密約も大空建設と提携した業務もある。
ム「ハイ。」
ぺ「はい。ムーナ。」
ム「この前みたいな事件が起きた時は、人命か会社何方を優先すべきですか。」
この前、と言うと一年前の災厄と巨神召喚の事だ。
ぺ「其れは間違いなく人の命ぺこよ。会社はその為にあるものだから…」
思わぬ問い掛けに語尾を消失する兎田建設の社長。
ムーナとキアラは其の返答に目を輝かせていた。
"その為にあるもの"、其の言葉に、キアラは特に深く感銘を受けた。
ボーイスカウトを解散して以降、大人として自分の立ち位置を決められ無かったキアラは、幾つもの街をほっつき歩いていた所、兎田建設の社長の外での働きぶりを見て感動し、今、ここに至る。
キ(私も社長の役に立てる様に頑張らなくちゃ。)
こちら側の言語にも慣れて来た様子で、心中はいつも社長と通じ合って笑い合う事ばかり。其の為か、慣れた言葉遣いをしている。
(そうだ。今度、人参料理のカッティングを教えて貰いましょう。きっと素敵な一時になるわ。)
こうして兎田建設の研修は修了した。
と其の時、キアラは窓の外、ぺこダムの頭上で誰かが動くのを確認した。
キ(What is アレ.)
ぺ「?何処見てるのキアラ!」
キ「あ、ハイ。済みマせン。」
(後で確認して来ようっと。)
謝り混じりに何度かソレを確認するキアラ。
ぺこーらが叱るのを止めると、反省して居る素振りだけ見せて、心はあの遠くに見えた人影?の様な何かに囚われていた。
〜
キ(ここか…)
研修の時に立ち寄らせて貰ったぺこダムの搭乗口、其の向かいにあるエレベーターで、行くなと言われた屋上に向かうキアラ。
ピン ゴゥン
扉が開き、誰ぞかいるのか確認しようとした其の時、
スタタタタタタタタタ゛ン
既に向かれていた銃口、アサルトライフルの口径から、十字に切られた火炎と共に連続的に弾丸が射出される。
キアラは躱す事すら出来ず、全身に被弾し夥しい血を流した。
向こうはスッと笑みを消すと、本当に同じ人間か問い掛けて来た。
ぼ「此処は立ち入り禁止だから撃っても問題無いよね。」
「其れより、其の傷で死なないのは逆に痛いな〜。若しかして幽霊だったりする?」
キ「うぐ…貴方達は一体…」
ぼ「アレ?聞いてない?私達はこの施設を自由に出入り出来る者だけど。」
ぼ「ねぽらぼ。冥土の土産に覚えておいて。」
キ「ね…ぽらぼ。」
ぼ「そう。私達はぐれ者の頭文字を取って付けた名前。どう。案外イケてるでしょ。」
既に殺人か其れと同等の行為を行った筈なのに、ましてや其の対象に対し、旧来の仲かの様に笑顔で話し掛ける。
銃を持つ為に生まれて来た二足歩行の大型のネコ科。そう表現するのが正しいとさえ思える加撃者。
この世が作り、この世の者とは思えない造りになって居る白い肌の猛獣。
其れが、今、何百、何千と殺めて来たであろう笑顔が、流れた血が炎になって再生する所で、止まっている。
キ「私はキアラ。不死鳥。青かった時はそう呼ばれていたわ。」
ら「不死鳥!?」
隣にいるエルフの女性が声を上げる。
其れに笑顔が衝撃を受けたのか、白髪のライオンが目を見開いた。
ぼ「そう…撃っても死なないのね。難儀な人生。私が言えた義理じゃ無いけど。」
ら「ラミィもそう思う。そう言う時って何かに縋らないと生きて行けないよね。」
どうやら今の会話は逆鱗だったらしく、珍しく表情が変わるキアラ。
キ「分かった口を聞く…ごほっごほ。」
バカラララララランと、身体中の傷口がより内側から再生するに伴って弾丸がエレベーター内に散乱し、硝煙の匂いだけが此処で起こった事を物語っていた。
キ「待っていなさい。今直ぐにでも剣を取りに…」
再度、スタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ゛ンと、いつの間にか終えていたリロードで補充した弾丸30発、全て使い切る獅白ぼたん。再びエレベーター内が血の海と化し、倒れ伏すキアラを踏ん付けながら、獅子はエルフの手を取った。
ぼ「行き先は?」
ら「あ、じゃあ、応接間。」
普段通りのコーデで来たイケメンの男性と少しおめかしをしようとして結局服を選びきれずダサい洋服で来てしまったカップルのデート初日に有りそうな声を出す両者。
キアラの死体()の事など気にも留めず、エレベーターで下って行く。
ピン ゴゥン
扉を開けると、肩から鞄を掛けている様な楽さでアサルトライフルを構えている例の青女とエル…血の海と確かに確認は取れたキアラが。
唖然としたぺこーらの横を、これ又ショッピングモールですれ違う様に、特にこれと言って眼中に無い二足歩行のホワイトライオンと、おずおずキョドッてチラッと顔を確認するエルフの魔法使い。
何処でも戦場。隣に最愛の人が居るから今日は楽しい、そんな気分で、軽くキルレートを上げた「ごまんとアルビノ」の獅白ぼたんは、もう出家しようかなと考え少し行動が遅れる雪花ラミィの手を取り、其れがまるで手を取って急がせたかの様に写るもので、ムーナも直にキアラの惨状を見るのだが、この時は誰が犯人か知らず。簡単に取り逃がす。
ぼ「今回は特別製の弾丸を使用しといたから、全弾エレベーターにめり込んでるけど、装飾って事で。」
ら「あ、弁償代は出しておきます。」
ぼ「え〜別にいいじゃ〜ん其れくらい。」
ぼたんは別に金を払う誠意の事など考えてない。デートの最中に俺以外の事は考えるなと言う男性らしさと、他事に構っていて欲しくないという女性の悩みが会い合わさった結果なのだ。
ぺ「ヤバ過ぎるでしょ。これ。」
そう言うしか肩を下ろすぺこーらの前で、キアラの意識が覚醒した。
キ「う…うん。はっ。済みません。勝手に屋上に行ってしまって。」
ぺ「そう言う事じゃ無いぺこだよ。グスン…」
キアラとしては今回の件を起こした切っ掛けについて言ってるのだが、とうのぺこーらはそんな事に重きはなく、自身の過失と捉える節で、取り敢えず生きている事を改めて考える切っ掛けと、泣くのを止めた。
ム「え?血?まさか…」
急に青ざめて直ぐにデートコース真っしぐらなカップルを追い掛けたのは、ムーナ。
キ「あ…」
女の勘があった。其れでいてぺこーらの事を愛していた。
だからこそ、これ以上ぺこーらが哀しむ顔は見たく無かった。
〜
ム「待ちなさい!」
何て事無く、気にする様子も無く振り返るししろん。
ム「これ以上悪さすると、天罰が降るわよ。私が代わりに裁いて上げようか。」
直ぐに素に戻ると、行こ行こと、宗教勧誘を断るかの様に帰路に着く。
ム「待て!」
ムーナが駆け出す。
ぼ「私は耳が近い方でね。あまり騒がれると面倒だから、ちょっと失礼。」
言うと、フラッシュバン。
近くで炸裂すると視覚と聴覚を潰すグレネードの一種。
バンキィィィィィン
ムーナが怯んでるその内に会話を再開する。
ぼ「応接間で何するの?」
ら「ちょっと温泉の資料を探しに…」
ぼ「へぇ。温泉好きなんだ。」
意外だな〜と驚く相方を前に、意外な事を言い出す。
ら「ううん。別に好きじゃ無いけど、温泉に入りながらお酒飲めるのかな〜って。」
「昨日、おつまみの温泉たまごを取りに行ったら、銀髪の女性が褐色のエルフと一緒に温泉で湯にお盆を浮かせながらお酒飲んでたの。其れで気になっちゃって。」
〜
炸裂音。
キアラはムーナを助けに行こうとするも未だ血がそこら中に飛び散っていて、指一本も動かせ無かった。
(くそっ…回復までに時間が掛かる事を見越しての時間稼ぎか…頭の回転が早い。)
自分の事が憐れまれるより、新しく手に入れた社長との出会い、今の雰囲気を失いたく無かった。
キ(このままだと、復活にはあと7分は掛かる。其の間にぺこらさんの心の傷が大きくならない様に祈らないと。)
ぺ「だから、重傷で血がエレベーター中に広がっているけど、意識はあるんだぺこ!如何にかならないぺこか!」
ち「そんな事言われても…申し訳無いけど、其の状態ですと、其方でできる事はありませんわ。意識があるのは僥倖ですが、其れも偶然かと。直ぐに葬儀の準備をした方が…」
ぺ「うるさいぺこ!」
ブツッ
ぺ「キアラ〜死んで欲しく無いぺこだよ〜。」
其の心からの声に、キアラは思案していた一つのやり口を忘れた。
自らの不死鳥としての性質を剣に付与させる技。一時不死は無くなるが、消えない魂の焔が、付与効果の延長線上として剣から大小様々な規格の遠距離斬撃となり、其の剣により加速された不死のスリップエフェクトが圧倒的な火力を生じさせる両刃剣から放たれる諸刃の剣となる。そして大鳥の焔像が大文字に周辺一帯を薙ぎ払う超大技。其れでこの施設の周辺を不可逆に傷付ける事になるが、あの女性に打ち勝てるなら問題は無かった。
キ(社長…あ、声が出せない。さっきのは偶々か。)
ゴホッゴホ
薄れ行く景色、これが続いて、真っ白な靄に視界が包まれた後、其の煙を燃やす様に、肉体も完全に復活する。ただ、精神だけは其の類では無く、これだけの傷害ともなれば、記憶がある以上、長い事響く事になる。其れを知ってか知らずか二度目の銃撃を行ったのなら、尊敬の一つでもするのだが、いかんせん心は兎の社長のものになって居るので敵なのは変わらない。
(早く、ムーナを助けに行かないと…)
剣。不死鳥にとって天敵の鉄、このアモルファス合金で出来た炭素を完全に排した一本。薄く鋭利な印象を受ける両手剣。能力の譲渡をすれば、ぐらの能力暴走や伊那の能力肥大程では無いが、カリオペの能力解放かアメリアの能力喪失程度の魔力は火力として出す事ができる。
復活時の小規模な魔力反駁が、内側で加速され、爆発状のエネルギーが拡散せずに複数の加速を齎し、徐々に事象を一人だけ逆向きに流れていくのだ。其の魔力反駁が焔の性質を最初から帯びていた時、不死鳥は誕生する。そして、唯一の弱点は、魔力反駁の加速器状の現象に鉄を与える事になる。
基本的には剣を持って歩く事は無いが、緊急時にはこれまでも使用して来た。
今回も多分に漏れず、決死の攻勢となるだろう。
そろそろ約束の7分が経過する。
キアラの周りの血溜まりが全て唐突に燃えたかと思いきや、肉体の内に眠る焔の対流・循環・加速により、全て元の主人の肉体へと戻る。
其の神秘的な光景を見て、ぺこーらは不覚ながら感動した。世界の神秘、其の一端を見たのだ。
キ「ぺこら社長…」
ぺ「キアラ!どうして勝手に屋上に行ったぺこよ!」
キ「あ…」
(其の話、ぺこら社長がもう良いって言ってたけど…)
「済みません。」
「でも急いでいるのでそこを退いて貰えますでしょうか。」
ぺ「え?急いでいる?」
新入社員、それもさっきまで死に掛けていた海外の青女のいきなりの提案、何事も無く歩いて行くキアラに一瞬時が止まるぺこーら。
キ「ええ。ムーナを助けに行こうかと。」
ぺ「ハッ。そうだ。ムーナ、ムーナは無事ぺこか!?」
ぺこーらももう一人の新入社員の事を考え、我に帰る。
振り向くと既に姿形の無いムーナに不安感を覚えるぺこーら。
そして、キアラは直ぐに宿舎に戻ると、剣を取って外に出た。
〜
ら「でもししろん、さっきの不死だったけど、だからラミィが凍らせた方が良かったかも。御免。」
ぼ「え?何。いきなり。」
流石に急に謝られると困るのか。あの時ラミィが魔法使って居れば…反省する声に手を煩わせなくて良かったと軽く安堵する。
ぼ「あ〜でも、見た所性質は焔だったから相性悪いかもね。」
次戦闘になったら負けるかも知れない、普段不安な事などこれっぽっちも聞いた事無いラミィには、相方からの言葉が新鮮な恐怖に感じられた。
「まあでも、ラミィと一緒なら私は世界で一番強いよ。」
安心する様に、この前も並み居るゾンビ全部倒したしねと、其の声でラミィはもう上機嫌になってしまった。
ら「はっ。近い。」
「直ぐ近くに魔王の反応がある。」
ぼ「どの位?」
ら「あの山から出た所にある畑。」
ぼ「大体5kmか。会敵は無いな…ちょっくら連絡するね。」
ら「うん。」
ジジ..
ぼ「あー、先客はどう?」
SSRB①「先程森から出まして、畑の前で小一時間立っております。」
ぼ「成る程。そのまま見張って置いて。」
SSRB①「了解。」
キ「其処までよ。」
ぼ「何?復讐?其れともさっきの娘みたいに天に変わってお仕置きでもするつもり?w」
言っている事が可笑しかったのか思わず吹き零す獅白ぼたん。
キ「あの娘は。」
ぼ「あれ?一緒に居たのはそっちでしょ。見失ったのなら、こちらに非は無いと思うけど。」
キ「何をやったのかは分からないけど、あの娘《ムーナ》に危害を加えてぺこら社長が哀しんで見なさい。私が許さないわ。」
ぼ「そう…根底にあるのは一緒って訳。」
「なら遠慮無く…」
「!」
キアラの身体が不死の焔に変わり、巨大な鳥の姿に変わって行く。
次いで若干遅れ気味に銃撃が届く。
乾いた音を響かせながら、十字の火蓋を切る。連射される弾丸が不死鳥の体に着弾するも、焔が衝撃を吸収し躱して行く為、音は鈍く、弾ける音が掠れている。
ぼ「効かないか。」
「遂に銃が通らない相手、現るっと。あ、通るには通るけど、衝撃も傷害も特に無いって感じ。」
「グレネード」
素早くピンを手榴弾から抜くと投げ、木の陰に隠れる。
ぼ「これはどうかな。」
爆発。
しかし火炎の中から現れる焔に目立った変化は無い。
効かない。
全身を焔に変換させたキアラの前に物理ダメージは復活のバイアスでしか無かった。
ぼ「拙いな。そんな形態あったなんて。」
ジジ..
SSRB②「対象、時速5㌔で移動を確認。」
ジジ..
SSRB①「侍と思しき女性を確認。其方に向かって居ます。」
キ「今度はこちらの番ね。」
不死鳥が低空を飛行する。
ししろんは素早くローリングとヒップバックステップで対処、間合いの精査を図るも、再び低空飛行を行う不死鳥の方が速く、間合いを見切るのも早い。
執拗に狙いを変えないキアラ。
ししろんは何度も同じ様に回避するも、間合いを詰められていく。
何度目かの飛行で顔面近くまで迫る焔の鳥。その嘴がぼたんに当たるかと言う間際、不死鳥は頭ごと身体全体を上げ、足でししろんの両腕を掴み銃の間合いの間隙に入ったかと思いきや、何の意図か元の姿に戻るキアラ。
両腕を両腕で掴むキアラに、ししろんが銃を左肘で持ち直しながら離した右手指と交差させるとその勢いを活かした抜重で素早く半歩前進、目潰し。続いて銃から手を離し相手の顔面近くでスクラップ。一瞬生じた隙を使いキアラを組み伏せると、得意のケツを顔面に当てる動作で窒息を狙いながら、腕を肩甲骨で回しアサルトライフルを素早く構え直し、腹部を連射。
気絶しなかったキアラが咄嗟に全身を焔に包ませると、ぼたんは右踵から半歩下がるヒップバックステップで距離を取る。
再び、不死鳥の姿となったキアラ。だが、やはり直ぐに変換を解く。狙いは剣術での打倒。だが其れが頗る難しい相手である事には変わらない。
剣士にとって勝負は一瞬。軍人にとって生死の境界は永続。
相反する得物が精神的に獲物を追い詰めていく。
間合い、図る一瞬。
間合いとは避けるもの。其の動作。
…その出だし、狙いは詰め。
片目を瞑ったキアラは、持っていた両手剣で白い猛獣の肉体まで全力で踏み込み、銃ごと袈裟懸けにしようとするも、先に半歩躱していたぼたんには寸で届かず、更に距離を離される。
間合いがアサルトライフルの其れである事を確認すると、直ぐ様に不死鳥の姿になって攻勢に出る。
森の中に交錯する焔の鳥と白の獅人。
二度、三度と同じ光景が繰り返されるも両者一歩も譲らず。
すると、一瞬キアラの姿が見えなくなった。
キアラは、隠れたかと思いきや、木々の隙間を通って一直線に獅白ぼたんの銃を狙う!
キアラが次に試したのは急降下で銃だけ奪う事で、狙いはあくまで無力化。然し、戦場で武器を失うことは丸裸になる事に等しい。あの獅白ぼたんが其れを許す訳は無い。
銃を肩に担ぐ様に躱すと、空中に1、2発、発砲し、其の衝撃に受け身を取って前屈みに突進を回避。臀部に力を溜め、連続で後方に跳躍し、これまた距離を取る。
ぼ(さてと…勝利条件が特にこれと言って無い闘いになってきたけど、どうするか。)
カサと、其の時、ししろんは振り返った。
ぼ(誰?まさか報告にあった侍?)
其処には、正に、先程まで団長と遭遇して居た風間いろはが居た。
ヨタヨタと然しそれでいて確たる足取り。
い「ここから銃声がしたで御座る。」
銃を構える。
ぼ「何しに来た。」
スッと手を挙げながら、割に合わない事を言う。
い「エッと、貴様、ここで何やってる。ここはゴルフ場にする場所だぞ。」
魔王の手先か…そう考えると、不死鳥の事が少し薄れた。
ぼ「其れを阻止する為に今居んの。分かる?敵。」
其の言葉に、徐々に見えない様に自身の体を前屈みにする風間。
い「成る程、切らねばならない相手は貴様だったか。」
その時、一人、一つの焔の羽ばたきが会話の終わりを告げさせる。
キ「今よ!」
二者を視野に入れながらの闘い。状況が厳しくなって来たか。
ぼ「チッ」
一瞬の気の触れ、其れを見逃さず、すかさず抜刀へ。
い「風斬真伝。」
烈風と呼ぶにも直線的な殺意が森林を駆ける。
うつ伏せになり、陣風を回避する獅白。
飛来する不死鳥が白い獅人を遂に捉えたかと思いきや、伸びて来た風の刀身に行動を阻害される。
しかし、機は一度しか無いのだ。キアラは焔の作用からラグい躬らを生かして、元の身体に戻ると、今度こそ、全力全霊で剣を振るう。
赤銀の鋭利な刃は、獅白ぼたんの内臓付近まで到達する。
ら「ししろん!」
ラミィが叫ぶ。
い「ここは我々holoXが荒稼ぎする為に禿山…犠牲になって貰う。風斬真伝、武之輪墓。」
フ「待てーい。」
「今こそ我が使命を形にせよ。フレア!」
ドンッ
いきなり足元で爆発があるのにも関わらず、上方受け身から抜刀を行う風間の身体能力や。末恐ろしき。
カカカカッと、先の先まで森林が横に割り、切られ、断面からエルフにしか感知できないレベルの微量の魔力が、扇状に300mの半径の規模で、木々から滲み出す。
フ「よくもやったな。」
「これからエルフ全員を敵に回す覚悟はあるか。」
い「無論。我等の企みを邪魔しようとするならば、この愛刀・チャキ丸の錆になると知れ。」
魔王「其処までだ。済まない。いろは君。ここまでの事は内密に頼む。」
ぺ「キアラーー!!」
「何してるぺこか!こんな物騒な森、早く出るぺこよ。」
キ「ぺこら社長!」
魔王「済まない。残念だが、ここから先は、少々時間を取らせて貰う。」
〜〜〜
魔王。
其れは、この社会の大体不全の実権を握る安定に不安定なポジションにして、一つの理想を叶えた男の成れの果て。
勇者とは正反対の合理である。其れは合理にして不合理とは違い、どこまでも合理を推し進める合理の合理による合理の為の合理。
其処には、裏の界隈然り、未知なる潜在能力然り、渋滞している属性然り、身の程を考えない弁え方然り、魔王には確かな社会的な弱点と呼べるものが存在し、其れら全てを魔王は四天王に据えた上で味方にする。
四天王の紹介
四席・・・桐生ココ。
俗にパンプキンドラゴンと呼ばれる破壊と蹂躙の権化。魔王から奪った案件の完全な確保を狙っている時に、魔王から更なる力を与えられた存在。
三席・・・麗羽るしあ。
覚醒したネクロマンサーであり、復活する魂の姿で存在している。裁判で逆転勝訴の可能性を残されている某勇者への切り札である他、堕天使であり時期魔王としての呼び声も高い。
ニ席・・・夜空メル。
吸血鬼で血が苦手。不老不死であるが恋愛脳《スイーツ》。ヤリサーが求める肉体をしており、其方の勧誘は常時お断り。DTボーイを誘惑しては血を吸うのがお決まり。自称天才であり、この一年、三席の不始末に屠って来た男勇者は数知れず。
一席・・・ラプラス・ダークネス。
いつまでも謎の組織holoXの総帥でありメンバーから絶対の信頼を置かれている小娘。合理不合理を語るなら魔王の誇るこの四天王よりよっぽど合理的な思考をするメンバーと共に世界征服を野望と掲げる。其の為、よく隣国に干渉しており、其の実態は謎に包まれている。
〜〜
魔王
(ふむ。holoX直接戦闘担当の風間だけ誘っておいて良かったな。
私も前に見せて貰ったが、確か、二刀目の早過ぎる抜刀は、伴って発生する衝撃波《ソニックブーム》すら両断する長大な真空を生み出し、其れに刀が無差別に風を斬撃として飛ばす事で、真空の内側から、風の刀身が魔力でできる際に、真空を拡張する様に大気を千切り割きながら、其の周りの大気に新たに音速を超える衝撃波が乗るという三段層を作り出し、武道の肉体活性を表す肌のハリと初速から来る速度の伸びが関数調に、躬らの皮膚以上の硬度を全て割り切ると言ったもの。アレの前では装備品は勿論の事、衣服も例外なく叩き斬られる。勿論、敢えて柔らかい布地で全身を覆わない限りは、私も例外では無かった。)
魔王は、その身に纏った風間の皮膚より柔らかい布地で出来た外套を着こなしていた。
(少し強引に動くだけで破れかねない代物だが、衝撃波を柳風の如く波打たせれば、真空も魔力に伴って避けて行くというもの。風の刀身だけが少し怖いが、魔力の乗らない皮膚ならば特に問題は無い。)
風間が森を駆ける。既に何者かに付けられた胸の傷が痛ましいが、其れを微塵も感じさせずに素早く且つ大胆に動く流麗さには、魔王もまあまあ驚かされる。
魔王「まあ、待ち給え風間君。少し休憩と行こうじゃないか。」
風間「休憩…で御座るか。魔王殿直々の頼み事なれば、致し方なく。」
音を鳴らして納刀する風間の胸元は、酷く抉れていた。
「ぐっ、立ち止まると痛いで御座るな。」
魔王「其れでは諸君、私からの発言は、一つだけだ。」
「今、風間君が切った木材全てはこちらで処理する。以上だ。」
一瞬の静寂。そして––
ぼたん除く一同「「「「「「此処まで事を大袈裟にして、其れで済むと思ってるのか!!!」」」」」ぺこ。」
〜〜
ル「気が変わったのら。こちらから出せる騎士には限度がある。新しく連れて良いのは、この二人までなのら。」
急に方針転換したルーナ姫は二人の色物を連れて来た。
其の二人の調子はこうである。
ト「え?トワ達、代替で連れて来られたの?は?あり得ないんですけど。」
か「え?若しかしてこれから重労働させられるみたいな…どうしよう。今日はあの陰気で堅物なミカエルからわざわざお誘いが掛かったから隣の国に迄行かないと行けないのに…」
勿論、驚いているのはこの二人だけでは無い。
ア「え?この二人?如何してですか。ルーナ姫。若しかして私の素性が悪かった…?最近剣振り回して活躍してないからかな。納得行く答えが欲しいな〜。」
すると驚くべき言い訳が姫様の口から語られる。
ル「…最近デュエットしてないからなのら。」
表情どころか目の格好まで変わるアキロゼ。
ア「はえ?若しかして私の民謡、そんなに人気なの?」
ル「そうなのら。ルーナのピアノとアキちゃんの歌がルーナイトの間で大好評で、特に最近聞いてない。休みが足らない等色々文句があったのら。」
か(其れって殆ど休みの話なのでは。)
そ、其れならと、今からでも遅くないから歌劇場に行こうと誘うも…
ル「もう遅いのら。ここ最近の隣国からの干渉が緩くなった今に有給申請がドサドサ送られて来たのら。」
ト「もう帰って良いっすか〜。トワ、ダル〜い。お肌カサカサになっちゃう。」
二人の会話に飽きたのか、其れともルーナ姫の横暴に嫌気が刺したのか。そんな悪魔にアキロゼは身を寄せてこう言う。
ア「お前はもうちょい頑張れや。其の身の振り方見てるとイライラが止まらないんだよこちとら。」
か「待って待って喧嘩は良くないことだよ。天界学園でも良く言われてるから。」
当たり前の考えだが、女勇者《アキロゼ》には効かない。
ア「こちとらこれから魔王相手に喧嘩しに行くんだよ。」
「其れに、文句あるなら道中で聞くから、取り敢えず、着いて、来いよな。」
もうこいつらで良いやってな感じで今日も行き当たりバッタリなアキロゼ。協会からの依頼が無い時はいつもこうなのだ。
〜〜
魔王「その心は。」
フ「森の為!世の為!この世界の行く末を心配して何が悪い!」
ら「ししろんをここまで傷付けさせたのは、お前が兎田建設と同盟関係だからだ!」
キ「私がアレだけ辛い痛みを負ったのは、多分に貴方のせいでもあります。」
風「あれだけ散々邪魔者の足止めして欲しいって言ってたのは、それだけ風間の手を煩わせたのは、これだけ風間の体の心配もしないのは、使い捨てるって事で良いで御座るか!」
ム「ぺこらシャチョウより偉く無い癖にっ!」
ぺ「あんたが来るからコッチは新入社員に急ぎでその事説明して、其れで時間足りなくて肝心な事言えてないんだぺこよ!」
方々の女性から心の底からの言葉を投げ掛けられるアンチハーレム。しかし魔王の調子は変わらない。
魔王「ふむ。致し方無い。この木材の運搬は不知火建設に、加工は兎田建設に任せようと思っていたのだが、どうやら自力で持って行って加工するしか無いようだ。」
自力…その表現に場が硬直する。
ぼ「どう…やって持って行くつもり…」
ら「ししろん!そんな事聞く為に身体を動かさないで!」
魔王「何。一年前の騒動でこちらはそらと共に魔力を合わせた。其の際に、協力した証として貰っておいたものを使えば良い。」
魔王が胸元から大切そうに取り出した紋章を周囲に翳すと、ぐにゃ〜んと、倒れ伏した木々の元に時空の歪みが齎される。不可思議な重力が発生し、主無き木材は簡単に空中に浮いた。
フ「何。其の木達をどうするつもりだ。」
魔王「運んで加工すると言っただろう。何。少し木製の家財が市場に出回るだけの事だ。」
ら「家財に迄小っさく加工するなんて!外道め!自然が泣いてるぞ!そのままにしてやらないかっ!」
魔王「そう言われても、既に死に体。都市部の中で風情を齎してくれるなら、こちらは歓迎するが、如何か。」
ら「そうはさせるかっ!」
ぼ「ラミィ…待って。其奴は危険…」
一人、獅白ぼたんだけが危険性に気が付く。
「アレは、時空の歪み、触れたら最後、アレと関係のあるものの所に跳ばされる。」
魔王「木材の加工はインテリアに於いて最も基本的な部分だ。東紀《インフラ紀元》より時が止まったままの其方の生活様式では想像も出来ない事だろうが、今、産業は、この星から全て掘り出した金属の都市部での再利用にヨる不動産物資の売買を専門とする事業なども増えて行った結果、木材と他素材の融合・接合の技術を高めて行く必要が出てきた。例えばガラスや他のアモルファス材で乾燥した木材を満たして耐震、対火、耐水を可能にするとか、筆記具や家電の一部をコーティングした木材で代用するとかだ。これは我が城の内外装にも使われている技術だ。全て金属よりかは遥かに安価で済む。勿論、石材との競合を兼ねて、紀元前では宮大工と言われていた建築技術も今や一般的な所迄来ている。」
「其の中で、木材や植物材で大半を構成する家財は、当たり前の様に受け入れられている。狩猟採集民族の頃からの建築技術もあるぞ。」
何と、編んだ縄が解れないように整える為に柔らかい土器を利用し、序でに紋様を描いていたあの時代からある矢倉や舟の作り方も今や市場のものだと言うのだ。
ら「其れがどうした!こちらは自然権の行使を容認させて貰うっ!」
自然権…其れは法人が人権格を持つ事があるなら、自然にも同じ様に適用可能な法律があるのではというものだ。日照権は然り、身体(外形)拘束の自由まで適用可能な街もあるという。
魔王「おっと、そう来るか。だが時期尚早だ。そこのダークエルフ共々、法廷で会おう。では、私はこれを運ばなくてはいけない。嘗ての仲間達も事業委託と共に転勤してしまってね。今やこう言う仕事も私の手中だ。」
ら「だからぁ!運ばせないっ!」
魔王「こちらの森林はまだギリギリ兎田建設の管轄の筈だが。」
ら「そう言う事じゃ無いっ!ラミィは大自然の循環を守るっ!」
魔王「何億年後かの石炭の話だろうか。いや其れにしては、腐るだけなのでは…」
ら「腐っても土は肥えますっ!そこから色んな山菜が生まれて来る事もあるんだからっ!」
山菜食。これは母乳がよく出る様になるという噂から妊婦に愛用された事もある歴とした主張なのだが魔王には効かない。
魔王「ふむ…?やはりエルフの言はイマイチ分かりかねるな。脱炭素も重要だが、行き過ぎる謳い文句にはいずれ誰もが興味を示さなくなるぞ。」
雪花ラミィの言葉には一般性が乏しく説得力が欠けると言う魔王。
フ(確かに。最近、エルフからも街に出る若者が増えたけど…まさか、自然と戯れるのがそんなに古臭い考え方なの…?)
魔王が変わらず木材への干渉を止めないのを見て、ラミィは遂に堪忍袋の尾が切れた。
ら「お前っ。覚悟しろっ!」
ラミィは裾から氷輪のアクセサリーを取り出すと、魔力を籠め、魔王含め、魔王の周囲を凍らせた。
「一生其処で凍ってろ!」
だが、氷は瞬時に薄くなり、あっと言う間に砕けた。
魔王「これは手荒いな。全く。最近の若者は皆こうなのか。大空警察が居れば直ぐにでも拘留される様な事件だぞ。」
「おっと、其れより、其処の女性を保護しなければならない様だな。」
言うと、魔王は獅白ぼたんに近付く。
ぼ「何…」
危険を感じ取ったのか、軽く上半身だけ起きる。
「私に何をする気…?」
魔王「何。ちょっと我が配下の医院迄来て貰うだけだ。」
魔王は例の紋所、蒼く暗く歪んでしまった紋様がまるで泣き顔の様になって居る其れを獅白ぼたんの胸に当てた。
すると、一瞬の光の後、ししろんはその場から跡形も無く消えた。
獅白ぼたんが消えた。
ししろんが連れ去られた。
雪花ラミィは仲間を想う余り、特大に迄ブーストした魔力を自らの衣服とぬいぐるみに注ぎ込むと、地下水から氷柱を作り出し土石流並みの威力で魔王に突き刺すと、上空の水蒸気を冷やし、倒れた木材の水分を使い、暗雲、避雷針に氷柱の魔王、絶対零度に近い温度にて、降る雷が超電導。此処にししろんが居れば取り出したマグナムで粉々に迄して居た筈の分子運動の急激な停止を全身に齎す。
ら「はぁっ、はぁっ…」
全身の魔力を使い、目の前も真っ暗な雪花ラミィの眼は奇妙な光景を捉えた。温度が上昇し、雷が熱に変換される所迄は何となく分かる。だけど、魔王が其処で何やら怪しげな魔力に囲われて未だ精悍としている。
ら「嘘…」
其れは、急速冷凍の後に急冷熱射が起こるというルシファーの魔力を中和した際に魔王も手に入れていた結果だった。そして、そうでなければ、戦闘態勢ではない魔王を倒していたのは、この雪の国のエルフだった。
魔王「これで三人目だ。私が明確に敵対する心持ちになったのは。」
魔王は、まるで先程とは別人の声色で、その雪国のプリンセスを睨み付ける。
「此処で始末しておくのも吝かでは無い。」
尋常ならざる闇の魔力が魔王、ひいては森を覆う。
ら「あ…ごめん。ししろん…」
(私、もう二度と一緒に笑い合えないかも…)
だが、先に脚にガタが来たのは魔王の方だった。
魔王(くっ…やはり、一瞬とは言え、このレベルの冷凍を喰らうと身体が芯から凍えるな。氷柱のダメージもそのままだ。拙い。)
魔王は魔力を止めると風間に合図を送った。
「さて、折角乾燥させてくれたのだ。直ぐにでも運ぶとしよう。」
「風間君、仕事はもういい。今日は早めに帰って、ゆっくり休むと良い。」
魔王はラミィを無視して、そのまま無雑作に木材を浮かして運んで帰って行った。
〜〜
ト「えー、一緒について来いって言われたけど、戦う必要は無いよね〜。トワ、足疲れてきちゃったんだけど。」
ア「ああ、その辺で野垂れ死たかったらいつでも言っておいで、斬ってあげるから。」
か「まあまあお二人とも、其処までにして、今日はもう宿屋を探しましょう。ほら、今白銀ノエルさんは隣の街のそのまた隣の山に居るって言うし。」
ア「未だお昼だよ。このまま、街を越えちゃうからね。」
〜〜
ラプラス・ダークネス「吾輩、そろそろ、この国を乗っ取る事にした。」
唐突に、然して確固たる目を持って、第一席は名も無きアジトにて宣言した。
ルイ「おおっ。やっと本腰を上げて下さいますか。」
ラプラス「うむ。手始めに裁判でこの国の土葬風習を変えようと思う。」
この鷹の羽みたいな髪型をしている女性は手を揉む。
ルイ「して、ご用件は何にございましょう。」
其れに少々胸を張る総帥。
ラプ「先ずは、裁判を買収する所からだな。確か、麗羽るしあだっけ?ネクロマンサーの。あの娘の裁判をする事になって居るのは、誰?」
畏る女性。
ルイ「はい。確か、初回はスバ友から二人、裁判長は友人Aです。次回、上告があれば、わためぇいとから四人、裁判長は友人Aです。更に上告すると最高裁ですね。ルーナイトから五人、メル友から一人、裁判長は友人Aです。」
裁判長が変わらないが、初回から順に多数決、裁判長を除く多数決、全員同意見で裁判は終了する。何にせよ、裁判沙汰は少ないこの国の宗教観念にかなり弱い所である。
ラ「メル友から一人…?行けるかもしれないな。メルメルに連絡を取る。まあ、吾輩、どうせ一席だし、魔王以外には敬語使わないんだよね〜。」
一席以外魔王から直接聞いた事のないラプラスは、そう言うと徐ろに電話を掛け始める。
ラ「もしもし。こちら、ラプラス…ダークネス。あ、こちら、谷郷元昭の案件を代替として取り扱わせ貰ってます芹沢紫乃と言う者ですが…」
思ったよりご丁寧な芹沢さん。
メ「あ、ラプちゃん〜。久し振り〜。今日は何の用〜?」
いつもこうなのか、かなり気軽に話し掛けて来る夜空メル。
ラ「あ、お久し振りです。今回は、麗羽るしあの裁判についてなんですけど、上告が一回あった場合には、御宅の仲間《メンバー》を弁護士に選んで欲しいんですよ。その弁護士にですね、此方から土葬について大規模な裁判を起こすので、その際にも此方の弁護をして下さらないかと思う所存で御座います。」
するとお気楽な声が通話先から聞こえて来る。
メ「え〜、ラプちゃん、土葬に文句言うの〜?メル、ああ言うの好きだけどな〜。」
一瞬駄目なのではないかと思い確認する総帥。
ラ「あ、済みません。当方の主張、通ってますか。」
メ「あ、全然オッケーだよ〜。」
プツッ
ルイ「あ、どうでした。」
ラ「今日も吾輩は仕事したぞ。」
そんなこんなで今日も世界征服への道を順調に歩めたラプラス総帥は、部下に囲まれ、威厳を出す竜の角が今日は一段と軽そうだった。
〜〜
魔王配下、第五席、風間いろは。
第一席の下で直接戦闘を担当し、アジトを飽和するゾンビ群体を全て単独で切り刻んだ実績を持つ。
あと僅かの経験で風神の加護を獲得する他、雷神の加護を持つ筈のライバルも居ない為、日々の修行の為のやる気を求めて様々な任務に手を出している。
そんな風間はこの方、休んだ事が無い生真面目に勤労な女性だった。
い(休む…?剣を置いて慎ましやかに夜を越せという事で御座るか。)
(すると、今日は特に危険な存在も来ないと予想してらっしゃる?)
(取り敢えず、久し振りに団子屋でもやるで御座るか。梅と桜の方は未だあったから、後は紅白餅を1:2で仕入れて、野草を擦って煎じないと駄目で御座るな。帰る道程にあるかな…)
しかし、事は未だ収束していない。
フ「待ちな。若しかしてこの森から安心安全に帰れると思ってる?」
すると其処に、白銀の団長も草木の陰から現れる。
ノ「フレア!こんな所に居たんだね。あ、若しかして未だ仕事の最中?団長どうすれば良いかな…」
い「むっ…お前は、ついさっき会った謎の騎士。」
それに関しては其方も同じでしょうと。
ノ「其れはこっちの台詞だ。謎過ぎる侍。」
ムムムっと睨み合う両者の背後にSSRBが付く。
背中に固い感触。
スッと手を挙げる両者。
SSRB②「本当は此処でさっさと撃ち殺したいのだがな、我等が頭目が何処に行ったのか知る由があるのはお前と魔王だけだ侍。此方に来て色々と吐いてもらうぞ。」
い「背後に何の備えがないとでも?」
両者の一瞬の緊張が、その間に何か動作がある筈だったと告げている。
「ただ、今はやめておくで御座る。魔王殿は休めと言われた。そうだ。其処の傭兵、拙者の三色団…」
SSRB②「それ以上喋れば撃つ。」
緊張が解れたのか今度こそ殺気を伴う発言。
い(拙者、知らないんだけどな〜。あのどっかに跳ばす奴。)
しかし、風間には特に効いていない様子である。
SSRB②「拘束する。大人しくしておけ。」
い(でも、其れとこれとは話が別で御座る。)
抜刀術の体捌きで、挙手勢から勢い良く匍匐する位置まで体を沈める。
一瞬標的が銃口から離れ、その標的は沈めた分の三倍は跳躍した。
風間は背後に移ると、そのまま特に何もせず、先程の冗談を本気にした。
い「拙者の三色団子いらない?今なら銭はまけておくで御座るよ。」
さっと体を沈め抜刀の構えに。その頭上を横に通り抜けて行く弾丸、仲間は複数人。振るなと言われた風間いろは。直様に10m間隔の包囲網を敷くSSRB。
そして声を発する不知火フレア。
「おうおう、其処までにしとき。私の友人に手を出したら、お前達の頭目の居場所は教えてやらないよ。」
状況を飲み込み、ほぼ裸の白銀ノエルから離れるSSRB①。
フ「魔王の性格から察するに、多分、ししろんは、隣街近郊の病院に跳ばされた筈。少なくとも周囲15キロには居ないよ。其れだけ分かれば良いでしょ?」
SSRB①「…確認をする迄暫し待ってはくれないか。」
フ「其れはできない相談だね。あ、相談ならいつでも受けるけど、取り敢えず今は武装解除をして欲しい。追うならヤゴーだけにしておいて。」
サングラスに長髪のSSRB①は、包囲網を二つに分け、茶髪の②に頭目を確認する様に指示を出した。
「其れが本当の事ならば、恩に着なくていけないのは、不知火フレア殿、汝と魔王もだ。」
敵対する理由を持つ者が居なくなった状況下で、魔王の包囲だけ続行する判断を下す。
一部始終を眺めていた兎田建設は、後にこう語ったと言う。
ぺ「あー、アレはもう若しかしたら、停戦破棄かと思いましたぺこね。マリンはもう一年も行方不明で、向こうの面子は戦闘向きの男性ばかりが声が大きい状況でしたから。」
ム「私がもっとしっかりしていれば、ぺこらさんに血を流させる事は無かったのに…グスン。」
そう言うとムーナは己の無力さに泣き始めてしまった。
ぺ「大丈夫ぺこ。ちょっとかまいたちで傷付いちゃっただけぺこ。」
ぺこーらの慰めに関わらず泣き連ねるムーナは、どうやら風間の刀に魔力が宿る事に気が付いているみたいだ。
Q:どうして、停戦協定を知りながら戦闘をしたのですか。
キ「此処で仕留めなくてはいけない相手だと思ったからです。」
:仲間が後から傷付く結果になったら、例えば報復の連鎖ですが、どの様に振舞っていましたか。
キ「私の能力で守っていました。」
〜〜〜
〜るしあの裁判まで後、2ヶ月半〜
ア「其れで、私のパーティに入りたいって?」
軽く疑いながら信用に足るかを試す勇者。
ら「はい。結局、私達ではししろんには近付けませんでした。面会謝絶が強制的に措置されていたんです。だから、ししろんを取り戻す為、ししろんの復讐は、詰まる所、魔王を倒す事。」
闇落ちに近い執着心で、勇者パーティ入りをしたいと言う雪国の王女様。
ア「採用!此れだけの逸材、逃す手は無いからね。」
「さてと、役職、役職は話を聞く限り、魔法使いで良い?」
「じゃあ、即日採用って事で、ちょっくら全員で闘いに行きますか。」
流石に今日は歓迎会とかで済むだろうとか思ってた悪魔はげ、と大きな声を漏らす。
ト「え?今から?トワ、用事思い出した〜。」
その場から爆速で退勤しようとする悪魔の肩を掴むと、女勇者《アキロゼ》はこう言った。
「大丈夫大丈夫。ちょっとその辺のスライム倒すだけだから。」
ト「あー、其れ位ならチョチョイノチョイですよ〜トワに任して下さいまし〜。」
そうして街外れの草原にやって来た一向は、其処で超巨大なスライムと遭遇した。
其処には全長20mは越すであろう水色の塊が。
ア「久し振りに出会ったね。」
「アレは、前から協会に依頼されていた相手なんだけど、私一人では倒し切れない程自己回復力が高い魔物でね、まあ、詠唱使えばワンチャンあるんだけど、取って置きは後にしたくってさ。だからどうしても今回は新たなパーティメンバーに来て欲しくて。」
そう言うとラミィの背中を押して行く。
「さあさあ、お得意の冷凍魔法で片付けちゃって。」
しかしどうにも乗り気で無いパーティ。
ら「あ、あの〜この規模はちょっと…」
ト「トワも無理無理無理。他の人が闘って其の光景眺めてるだけで良いんだから。」
か「これを一撃は七大天使級ですよ。協会って若しかして仕事雑なのかな!?」
ア「何?復讐したいんでしょ?この位は倒さないと先ず魔王には傷一つ付けられないよ〜。」
「まあ、私に降りて来る依頼だし、誰も出来なくって当然か。」
そう言うと、諦めて帰ろうとするアキロゼ。しかし、ラミィは目の前に現れたデカブツに想いを投影して居るのか、諦めてはいない。
ら「やります。ラミィが倒す。」
「何度もこれを見せるのはアレだけど…」
そう言うと、ラミィは絶対零度の一撃を超巨大スライムに見舞った。
〜
凍り付きバラバラになったソレからは、大量のハイポーション(粉末)が獲れた。アキ曰く、ポーションは乾燥しないから凍らせる以外に粉末状する術はなく、粉末になると水に溶け易く、薄まった其れに火を入れると立ち所に噛み応えのあるバゲットと化すと言う。ハイポーションなら、輪切りにすると食べ易い長くて硬いパンになるそうな。
要するに当面の食糧は手に入れたからこれで安心して旅ができるらしいんだけど、トワはこれって食糧取れたからトワ達付いて行くしか無くなったんだよねとか何とか。其れは余りにも人生他人任せ過ぎないかと言ったら、自分で自由に決めてます〜って言われたけど、其れって勝手って意味じゃん。其れこそ自由を破棄して居るよ。
〜
魔王「む…第八席がやられたか。」
「あのグランド=スライム・"オーバーチャージ"を屠るとは、一体何処の勇者パーティだ。」
(直ぐに次点の者を上げ、席を補充しなければならんな。そうすると繰り上げでいくか。総数が減ろうが、空きができるよりマシだ。)
(すると…次の八席は、角が発現した常闇の娘にでもなるか。どれ、いつ頃再度発現・発達するかは不明だが、第三席も補充出来た事だ。そろそろ地の力を見せてやろうじゃ無いか。)
〜
此処は桐生組の事務所。此処で会員会議が開かれていた。
桐生組❶「何やら、ウチで囲ってたあの超巨大スライムが一瞬で粉々になったそうで。」
桐生ココ「何ィ!?あのまるまる肥え
桐生組の重鎮、鬼の平蔵と呼ばれた漢は、しどろもどろ答えながら、此処も危険になって来たなぁ…何て平和ボケを治めている。
桐生組「如何やら女勇者《アキロゼ》のパーティらしくて…」
桐生ココ「女が突っ込んで来たか。こうなったらお前等の出番は無いぞ。私に任しときな。」
「其れで、どんな魔法だ。」
桐生組❷「其れは私が答えます。」
そう手を挙げたのは、東にその人ありと言われた一流のヤクザ、龍条だった。
「如何やら奴等は、全員女性らしく、其の中でも最近入って来た冷凍魔法を使うエルフが命を削ってまで倒したそうです。」
「ただ、その後、三日間ほど休んでいるとか。」
如何やら、強大な魔法を使役する代わりに動けなくなるらしい。
しかし、それにしても、噂に予々聞いていたあの湿地帯の門番がまさか一撃とは…冷凍魔法なら、スライムの治癒を遅める事もできる。行動制限等のデバフにもなり得る。其れにも関わらず、一撃。冷凍魔法で其の類の技が有るとは聞いた事も無い。
コ「成程。暫く情報を漁ってみるか。どうせ此処にもカチコミを掛けて来るだろうしな。」
「お前等は、湿地帯に人の出入りが無いか見張って置いてくれ。彼処はウチの管轄だからな。」
時間との勝負だな…そう言うと、桐生ココは、会議を閉め、知人に連絡を掛けた。
コ「あー、もしもし、わためぇ?其方の羊の方はどう?」
わ「え〜、久し振りに掛けてくれたと思ったら又羊の話〜!?」
コ「あー、迷惑なら別に良いんだけど。」
わ「わー、話す話す。話すから、頼むから切らないで〜。」
コ「其れで、どうや、其方は。」
わ「え?羊の話だよね。ええと、毛が思ったより獲れる…かな。」
コ「そうじゃなくて、出るでしょ、毛に紋様みたいな奴。」
わ「ああ、其れ。其れなら、お城みたいな場所と…」
コ「ふむふむ。お城みたいな場所と…」
わ「ドラゴンと後は黄金の剣。あ、黄金っていうのは毛のツヤが黄金みがある様に見えて、其れで–」
コ「ああ、其処まで分かるんなら良い。ありがとな。マイフレンド。」
ブツっ
わ「え?」
そんだけ…?と虚空に消えて行く声が、空気に厳しい。わためぇは携帯を睨むと、そのまま気を抜いてしまった。
其れは電話越しの相方と逆の反応だった。城、ドラゴン、黄金剣…ファンタジックな展開になって来たと、一人、気を引き締めて居た。
〜〜
ア「ああいや、カチコミにはいかない。面倒だからね。」
そう言うと安堵する表情が一つ、二つ。
ト「良かった〜。」
か「ココと殴り合う位なら死んだ方がマシだからな〜。」
そう言った瞬間、アキロゼの目が光る。
ア「何。知り合い?ちょっと、教えてくれる?」
肩を組み顔を近付けるアキロゼに対し、身長差もあるのかそのまま歩いて行こうとするだけで軽くすり抜ける。
おっとっと、という感じで姿勢を正して、並走するアキ。
ア「何。何。どんな感じなの〜。若しかして、付き合ってたりとかした〜?」
か「え?いや、別にそんな関係じゃないんですけど。ただ幼少の頃、一緒に公園で遊んでただけと言うか…」
天音かなたは回想に入る。
そう、其れは昔、公園で出会った時の事。
〜
天音かなたは白と黒の五角形と六角形で出来たボールで一人で遊んでいた。
天使、天からの使いなのだから、独りは当たり前だ。
戦争に行ったり、調停に行ったり、そう言う先達の背中を見て育った。
だからそんな日も楽しい一人だけの修行の場だった。
其処に、思い掛け無い出逢いが訪れる。
後に桐生組の会長となる桐生ココ、この時は女子にしては身長が高い、そんな印象しか無かった。
ココは、公園で一人でいる僕を見ると、直ぐに近付いて来て、一緒に遊ぼうと言った。
コ「サッカーって知ってるか。サッカー。このボールを蹴る。そんでゴールに入れて点を取り合う。」
ココは僕にサッカーを教えてくれた。今まではこのボールは思いっきり押し潰して破裂させるだけの鍛錬器具だと思っていた。其れを伝えると、かなり微妙な顔が帰って来たのを思い出す。
僕とココは一緒にサッカーをして遊んだ。次の日もその次の日も。
そんな時、もう一人仲間が加わった。羊の羊飼い、わためぇだ。
わためぇは僕と一緒のチームで、ココは一人で良いと言って、遊んだ。
そして、又、悪魔のトワも来た。
ト「入れて入れて〜。トワ、サッカーできる〜。」
トワはサッカーを知っているだけだった。だけど、ココと同じチームで漸く公平に試合が出来た。
そして最後に、城の中で噂を聞いて飛び出して来たらしく、ルーナも仲間に加わった。ルーナは直ぐ連れ戻されちゃったけど、僕達にとっては楽しい思い出だった。
いつの間にか皆んな大人の階段を登っていて、自然解散したけど、今でも目を瞑れば思い出す。
〜
ア「へ〜。そんな出会いがあったんだ。羨ましいな〜。」
「私ってば、こう廃村寸前の村で産まれてさ、最後の後継者だなんて呼ばれて育ったんだよね。一族、いや私達、ローゼンタール家、ローゼンタール族、絶滅寸前の民族、其の最後の一人。」
「だから子供の頃からずっと一人で育ったんだよね〜。遊ぶ暇なんて無くってさ。もうずっと民族伝承の勉強ばっかり。」
へ〜と、今まで話半分だったトワまで食い気味で聞いている。
そんなパーティの半分を置いておいて、アキは会話を続けた。
ア「どう?ラミィちゃん。子供の頃は。」
調子良く話を振られたラミィは、仲間達と一緒に育った事を語り始めた。
隣国で産まれた四人は、当時、国の施策であった軍拡に巻き込まれた高官家族の産まれで、父親も母親も毎日夜遅くまで仕事に行っていて帰って来ない日が続いていた家庭だったらしい。
ら「其れで、退屈だから近くの森や砂丘に行ったら、皆んな居てさ。いつの間にか仲良くなっちゃってて、一緒に遊びながら、過ごしてた。其れでね、ある時、ししろんが言ってくれたの。私達は大人になっても誰も独りにしない。ずっと一緒だよって。」
「其れでね、ある時、近くの街を護る為に偉い格好のした人達がやって来てね。そいつ等が働きもせずに、護れた筈の人達を見捨てて、その街の人達をあんまりにも悪く言うものだから、ラミィ達、反抗したの。其れで虐められちゃって、震えて立てなくなったねねとおまるんに吐いても吐いても無理矢理お酒を飲まして、身体壊れちゃうってラミィが泣いて叫んでも止めなくて、其れでししろんがその場にあった銃を取って酔っ払う大人達を皆殺しにしたの。そして血塗れでやって来たししろんが、私は決して他人を裏切ったりしないって言ってくれた。」
「其れ以降、私達はずっと一緒に育った。その後に、軍が用意してくれた学童保育や高等教育まで受けられる中学校、大学迄、ずっと一緒だった。偶に二人組になっちゃう時もあったけど…魔王にししろんを奪われる迄、ずっとずっと一緒に居るものだと思っていた。」
ししろんを帰して貰う迄、魔王は決して許さない…そう呟くラミィ。
私も…
私達はどんな時でも味方で居よう。
全員で指切りをした。
〜〜
ラミィ、覚えててくれてるかなぁ…
やる事も無い病院のベッドの上で、一人、仲間を裏切る結果になってしまった獅白ぼたんは、歯噛みしながら、全治三ヶ月の傷を治していた。傷の治りは早い方では無いので、医師の見立てより時間が掛かるのではと不安になっている"ごまんとアルビノ"は、着くなり没収され、面会謝絶の原因となった真っ二つの愛銃の事を考えて居た。
そんな折、兎田建設の社長はやって来た。
ぺ「どうも魔王の許可があると直ぐに通れるみたいぺこね。」
ぼ「何しに来たんですか。いきなり。」
ぺ「兎建《ウチ》に入りなさい。そうすれば直ぐに仲間に会えるぺこよ。勿論嘘じゃ無いぺこ。ほら、ここに魔王のサインがあるでしょう。この採用通知さえ有れば、隣国の軍部の病院にも行けるぺこ。」
「この採用通知が欲しければ、もう一枚の用紙に身辺情報を記入した上で、もう一度魔王と一緒にここに来る機会があるぺこだから、その時迄に健康診断書を作成して置いて欲しいぺこ。そうすれば直ぐにでも出られるぺこよ。あ、勿論無理はしないで、書ける時に書いて欲しいぺこよ。」
言うだけ言って、それじゃまたね、と帰って行く兎田ぺこーら。
ぼたんは病院のベッドの上で、その様子をじっと眺めていた。
〜〜
遠く、遠く眺めていた。傍に居ても、少し離れる事になっても。
〜〜
特殊部隊の人「よお、嬢ちゃん達、ちょっと話を聞かしてくれないか。」
唐突に私達の元へ現れた男性は、恰幅から軍服が似合う特別な人だと分かった。
特殊部隊の人「この前、お偉さ…ちょっと偉そうな人達が来てたのを知ってるかい?」
ししろん「知ってる。私が殺した。」
無機質な声で、俯こうとする顔を押し上げて答えた。そう言うと、少し曇りを経た顔をして、そのまま続けた。
特「そうかい。丁度その人達を誰が殺ったか探してたんだけどな。丁度良い。嬢ちゃん、銃は握れるかい?」
ししろん「分からない。」
特「そうなのか…こんな可愛らしい女の子が、まさかな。」
連れ「おいおい冗談だろ?銃の握り方も知らない女の子があの数殺ったってのか。休みってのは、嘘なのかい。」
ししろんは、強そうな二人の男の人からの質問に頷く様に答えていた。
すると、また明日来るからと言って二人の男性は帰って行った。
その後、ししろんに聞いても、あの時の事を根掘り葉掘り聞かれたとしか言わなかったから、私達はきっと優しい人達が許してくれたんだと思った。
でも、翌朝、ししろんは一台の車に連れ去られてしまった。
その後は知らない。
そう、例え優しい人達も同じ様に殺してしまう事になったとか。そう訊いた。
優しい人、優しい人ね。
私を連行して、辱めでもすれば良かったのに、着いた先が駐屯地で、私に銃の打ち方を教えてくれたのは、後から思うと、どうぞ殺してと言っていた様なものだった。
ただ、私の腕前を見てみたかっただけと、的に絵を描いた跡を見て、直ぐに銃を取り上げようとして来たけど、私は無関心に殺した。その時から組手は何となく分かる様になっていた。関節の外は武器になり、内側は入れば入るほど奥が深い構造だったのを本能的に悟っていたから、自信満々に教えてくれたあの人は、今思うと一番柔がうまかったのだろうと。一人目は曇った顔をしていた。その曇りがどれ程長く続けば私達は報われるのかと。二人目は銃声があったからスモークを焚いて飛び込んで来たけど、私は長距離を狙う様な姿勢で頭を撃ち抜いた。二人目は笑っていた。その笑顔がどれだけ私達から奪われたというのか。声からして、全部で五人居た。返事のしないトランシーバーを二台拾うと、私は捕まらないと言い残して切った。その後、一台はグレネードと一緒に投げたけど、その人の目線は逸れなかったから、直ぐに向こう側に移るとさっきまで私が居た場所が蜂の巣になって、二台目に声を当てながら姿を見せると、一瞬動きが止まって、でも向こうの方が早かったから、だから笑顔をしてみた。すると三人目は私の銃と一緒に死んで行った。良い顔をしていた。その良さを私は一生理解できないだろうと思った。四人目と五人目は、スモークを先に焚いて、死んだ人に隠れて先に銃を撃てたけど、躱されて、程よくトランシーバーに唸り声をあげると、少し困惑した静寂があって、グレネードを投げても、前転をしながら投げ返されて、其れが途中で爆発したので、流石に戸惑った私は咄嗟に撃ちながらスモークを焚いて逃げた。暗い山の中に入って、足跡を消して、虎の様に潜伏していたけど、間も無く背後を取られた。静かに泣いた。もう皆んなに会えなくなるかって、でもその人は小柄な私に気付いていたんじゃなくて、その場に隠れようとしていた。私が近くにいるのを知っていたから、安全な場所から狙撃しようとしていた。私にナイフで内腿の動脈を切られて、又抜けを許したその人は、死を悟る様に何も構えず、そのまま私に撃たれた。四人目は若干青ざめた顔をして私に向かって来た。木に隠れたり水平にパルクールをしたり、其れで、五人目になった人が私を撃った。背中は撃たれても大丈夫だったのか、血だらけで、そのまま放って置いても死ぬだろうと思える程顔面蒼白だったけど、私は隠れて、同士撃ちを狙って、血痕より早いとした直感が偶々当たって、避けた弾丸を背徳に撃ち合いで勝てた。銃の反動が上に行くから、銃を狙って、五人目も其れで弾いた。青々とした空が広がったのはその後、撃たれた腿を引きずって、もう少しで空になる弾倉を取り出して直ぐにリロードできる様に握り締めて、そのまま、安全だから、危ない物は持って行かないからと、何処かの川に流した。
その後、何食わぬ顔で帰った私達は、一連の殺害が恐怖に映った上層部によって揉み消された事を知らず、警戒しながら育った。
父と母は殺された。
そして、私は大人になり、仲間を守れる様になっていた。
あの青白い顔を思い出す。
私達に関われば、隣国の出入国管理の省庁に目を付けられる。
其れでできた党内の諮問機関に折角の企業の動向がバレる。
何れ、徴兵された兵士の的にされる。
規律を敷き、法律に乗っ取り、領土をシレッと旧き線に戻そうとする。
其れでも。
其れでも良いのかと思うと、勝手だけれど、少し良い笑顔ができた。
ああ、神様、どうか、あの娘達にとびっきりの笑顔を。私も直ぐに。
〜〜
か「ニッコニコだね。トワ。」
ト「そりゃそうよ。このハイポーションさえあれば、怪我しても直ぐに快復するんでしょ。そりゃ、嬉しくない訳無いって。」
コ「でも其れも噂によると中毒症状を齎すから使い過ぎは禁物だって話だべ。」
一同「!!?」
味方みたいに現れた敵の体躯を見るなり剣を構えるアキ。
ア「現れたな。四天王の一人、パンプキンドラゴン、桐生ココ!」
すると敵対行動を取られたのにも関わらず、少し恥ずかしそうにするだけの桐生組会長。
コ「あー、いや、今日は別段、戦いに来た訳でも無いんだけど…」
正直、桐生組組長なのか桐生会会長なのか、そこの所がハッキリしない曖昧な肩書きだけれども、特にこの街の住人は気にしている様子は無かった。
か「其れじゃあ、久し振りに遊ぼ。」
呑気な様子はこの天使(女)も同じ。
ト「え〜、折角だしバトっとこうよ〜。」
どうにも関わらず、闘いたい一心のトワ様。
ア「其れなら、其方の意見を聞きたいな。」
あくまで交渉。落ち着いて来た女勇者《アキロゼ》。
コ「ん〜。どうせ闘うなら、お城って相場は決まってるし、今日は、その事で。」
「それと、ちょっと尋ねたいことがあるんですよね〜。」
「この前、超大型のスライムを倒したのは、そこの青髪の女性、お前で良いんだな。」
ラ「はい。そうですけど…」
コ「アイツ、ウチが魔王から譲り受けた案件だったんだよね。それでさ、責任取って貰おうと思って。」
責任という単語に一早く反応するアキロゼ。
ア「どういう事?アレは一年前から、協会の管轄だった。あなたの組と何か関係がある訳?」
実は桐生組の幹部の一人が、小銭稼ぎと、どうせ倒せんからという理由で協会にあのスライムを売ってしまっていたのだ。
コ「何?其れは本当か。そんなら今日の所はこの辺で…」
そう言うと直ぐにパーティから離脱する桐生。
か「え〜、ココ、又一緒にサッカーやって遊ぼうよ〜。」
あくまで旧来の仲だとする天使ちゃん。
ト「今日は無理なの〜?」
コ「お前ら、次会う時は敵同士だ。そこん所、覚悟して置けよな。」
そう言うと、遅れて探しにやって来た組の者と合流し、一緒に帰って行った。
〜〜
いつまでも。いつまでも。お忘れなき様に。
〜るしあの裁判まで後二ヶ月〜
メ「ね〜。本当に裁くのかな〜。今噂のネクロマンサー。」
ト「ああ、あの時の…確かるしあって言ったっけ。」
メ「へ〜、るしあちゃんって言うんだ〜。」
ワザとっぽい口調で喋る。これもお仕事だから仕方ない。
「どうもキナ臭いんだよね〜。魔王には何か隠し事があるみたいな。」
ト「へ〜そうなんだ〜。」
しめしめと魔王の弱点にありつけるのでは無いかと思考する常闇トワ。
魔王の思案は9割型、女勇者《アキロゼ》のパーティの事だろうが、その事は露知らず。
ト「ねえねえ、其れってどんな隠し事?知りたいんだけど…」
その直球なアホみたいな質問に電話越しで表情を固まらせる夜空メル。
其れがわかっていれば苦労しないと言いたいところだが、分かった上で電話を掛けている今この状況に、効果抜群の悪魔っぷりを見せ付けられ、吸血鬼としても揺らがず動じずの心構えになる。
メ「そ、そうだね〜。多分、この前のスライムの話だと思うよ〜。」
基本的にそう言う話題には興味無さげな女性の仕事上関わらざるを得ない話題。これを切り出す事は察しの良い者なら直ぐに手の者だと分かる事。
ト「ん?その事どこで知ったの?」
鋭い。急所に当たり、既に黄色信号が常態化する。
ただ、常闇トワは其処まで察しが良い生き物では無かった。あくまでプライベートの詮索に等しい質問の一つとして投げ掛けたのだ。
メ「あ、あ〜。結構有名だよ。昨日の夕刊にも載ってた。」
ト「?」
嘘を隠すのは下手な吸血姫《きゅうけつき》が声を裏返した事を知る常闇トワでは無い。質問の論理としては合っているだけならば深く追求はしないのが、悪魔の欠点であり、悪魔を悪魔たらしめる要素。即ち、時に悪魔よりも悪魔している天使の剛腕的な論理、物理が無ければただの戯言となる。
其れが不思議な電話だったのを常闇トワは知らない。分かってはいるが人前に役立たせる事は考えない。
「?」
自分がどうしたいかと、これからどうすべきかの二つに待遇を以って疑問符を付ける。
トワが無意識に夜空メルと友好関係を築きたいが故に、もっと質問がしたい気持ちと、金銭的にあまり好きでは無いアキに付いて行かなければならない事、悪魔の考えとして逆に、メルの方に行こうとしない、次いでにこれ以上電話するのが面倒になって来たから、早々に切り上げたい気持ちで一杯にもなり、其れらの一見直線的に繋がっている様に思える事への揺れ戻し、そして、葛藤、ジレンマによる自然的な自制により、内部構造に矛盾が生じた結果、質問したい内容を考えるキャパシティが矛盾の解決に尽力し、一時的に悪魔としての存在意義に疑問が生じ掛け、其れを排出する意向で付いた疑問符でもある。
これが、偶然にも功を奏し、夜空メルとの関係は終わらずに済んだ。其れ程、女性関係は見た目以上に難しいものである。
女性達が、ただ、お互い、可愛い〜なんて言えてる天国が何処にあるのか。
筆者は実際の人物や団体との関係の都合上、この作品からは其れらを除外した。
筆(そう言って置くだけに留めよう。)
戦慄。一瞬、夜空メルが魔王の手先であり、自分はその為にダシに使われる寸前だったのでは無いかという紙一重の二重疑問、最悪の思案が浮かぶ。しかし、其の事に関わる意味なんて無い…そう考えるが故に、この悪魔は一生、真相に届かないのである。
考え過ぎは禁物だ。常に違う事について考えている位が一番健全なのである。
〜
一方、天使()はサッカーに夢中だった。また会った時の為にと、昔を思い出し、其の時と同じ遊び方でアキロゼと1オン1をしている。ただ、下半身には得手が無いのか、簡単にボールを取られて行く。
其のアキと言ったら、ツインテールを謎の装置に取られたまま浮いてツインテールして居るという訪れる事の無い近未来感を醸し出し、同僚のロボ子と同様、破滅した世界の印象を受ける女性だった。闘う時はいつでも剣で武装し、特に其れ以外の装備は無い軽装も軽装なムキロゼだが、サッカーの時に手を抜く馬鹿では無かった。
又、破滅的な心情を独り抱えてしまった雪国のハーフエルフ・ラミィは、そっと野原の上、正座で其の光景を見ていた。
そんな折、流星群が起こった。星々の間に煌めいて、美しい線状の涙が延々と降り続けた。
〜〜
女勇者《アキロゼ》は、元国王に当時も又魔王だったヤゴーを倒す様に名を受けた時のことを思い出す。
当時、王になるまでの純情にオタク気質な女の子っぽさは鳴りを潜め、国王フブキングは、仲間内の盛り上がりに至るプロセス、つまり司会総合が得意で好きな物好き大名になっていた。ある時は子供の寝坊が学校に遅刻するかどうかの場面で結果の良し悪しに関わらずクラッカーを持たせた官僚を学校に送り込み、又ある時は新しく仕事の無い成人者達を集めて隣国がやってる施策などを其の範疇で試させたりもした。
近隣の国で其の事を知らぬ者は居らず、アキがいた国の首長も又、ミームクイーンことフブキングに大層な興味を抱き、そして其の裏にある真なる実力にこれ又大層な信頼を置いていた。そして、民族文化復興の為に尽力していたアキは、其の首長のフブキングとの会談の際に、どうにか連れて来られた。
フブキングはとても優しい方で、アキの顔を見て素性を聞くなりとても笑顔になり、民族復興は未だとして復旧の為にと、姫であるルーナ嬢とのデュエットを企画したり、民族衣装が新ブランドの開発に手伝うとして街の工場にある程度のリテラシーを流行させたりした。
首長「王はこういう事に目が無いご様子だな。私も政治だけでなく経済に直接的な関与をしてみたいものだよ。羨ましくさえある。」
流行を操り、美しく、時に可愛くさえもある王。民衆からの信頼はバチコリ反映され、国は大いに繁栄する事、記憶に古く無い。
其の国王が、秋のスポーツ大会にアキを出場させた。結果は準優勝。惜しくも隣国から来たミカエルにぶっちぎられたが、ルーナイトや風間の所の隊士、これの悉くを捩じ伏せた。其の活躍を見てか、魔王を直接倒しに行かないかと王に誘われ、王のお忍びパーティに入り掛けた所、大火雷大神《おほいかづちのおおかみ》としても祀られる大臣・大神ミオにこっ酷く怒られてしまったが、魔王退治に行く案件だけは既に、同じ頃所属させられた不世出者・平和の神道が八百万討伐協会の方に行っていたので、なし崩し的に一人になり、別件を色々と抱える美人で凄腕の有名人になって行った。
だが、ある時、大陸にとって非情な敵役が出現し、魔王ヤゴーのみがこれに有効な対応を取った結果、国王は引退をし、当時も世界征服を行おうとしていたラプラス・ダークネスの働き掛けにより、魔王に後進を譲る事となる。そして、其の災厄にと建てた白神神社に移り住む事となったらしい。
アキは、魔王を倒す事にはなるが、周囲の納得を得られる方法を知らない。このままでは民族の復興どころか、自身と関係するもの全ての破滅という最悪の事態になり兼ねない。
其の為、アキは四天王攻略の末に、魔王討伐後のアフターを何とかして貰おうと、他力本願にもなっていた。
今回、四天王最弱と目されるパンプキンドラゴン・桐生ココを倒しに行くが、其の為の理由が先ず無い。
半月程、桐生組の悪い噂をこうとしたが出て来ず、税関代わりのシノギをメインにして居るという所までは来たが、いかんせん、情報が少な過ぎる。ここで手を拱いて居ては、そうこうして居る内に裁判で私が証人となり、諸共裁かれる可能性も近く無いし、何より、あの
又、ゾンビランドと化したこの国を救う為、敵の敵は味方となっていたあの時に其の実力は否が応でも目に入っている。
血液を硬化させ凶悪な形に変質させて人を襲っていた兎の怪物。ゾンビが複数体融合すると出て来た国への怨念が受肉した文字通りの怪物。其れらを一心不乱に炎ブレスで無力化し、ゾンビ化の抗体を山の様に生み出す功績を作り、その後出現した自身と同じだけの質量を持つ相手に複数取り囲まれても凌げる忍耐力を持っている。
そして、其の桐生ココに対して、最も有効な術を持っている人物は今、パーティに居ない。
それに、あくまで実力で倒しに行くなら、道路が何本もある狭い場所ではなく、荒野か城の庭みたいな場所を選ぶのが妥当だ。
今も含めて、いつ襲われても戦える様に広い場所をなるべく選んで、移動・野宿しているが、やはりと言うか、待つだけでは空振りに終わりそうだ。
どうしても倒す必要がある訳では無い。
いっその事、このまま魔王に直接ぶつかりに行くのも吝かでは無いなと、そう思った矢先、閃いた。
〜〜〜
竜が炎を吐く。
ハーフエルフが其れを打ち消す。
女勇者《アキロゼ》が光に輝く謳い文句を扱い、天使と悪魔が竜を引き止め、誘致する間、剣は黄金に光る礫となり、城の窓から跳び、輝きを放ちながら、其の頭に流星を喰らわした。
〜〜
其の次の日、アキロゼ達は準備した。
ハイポーションを売りに行くのだ。
そして、こう吹聴する。「山の様にデカいスライムから取れたよ。」と。
そして案の定、桐生組の方から関わって来た。
曰く、ウチで囲ってた奴の死体を売られちゃ面子に関わるとか。
狙った通りの展開に思わずニヤつく。
ア「其れなら、あのスライムを倒せた奴を用意してよ。話は其れからよ。」
桐生組「おおん?其れならそうや。会長とどうしても闘いたいみたいやから見せ付けたるわ。ワイらのボスがどれだけ強いかをな!」
そうして、桐生組の会長の元へと案内されたが、体良く断り、前傷付けた城で待っていると言伝を与えた。
そして城に移り二、三日が経過した頃、敵としてやって来た桐生ココは、まさにパンプキンドラゴンだった。
破壊。大地がひび割れ、空気が木霊する。
炎。
全ての生き物が瞬時に理解するであろう。霊長にのみ、其の戦いを任せられた答えが其の口から放たれるものであると。
炎のブレスは大地を熱し、空気を温め、人の姿をして居る者達に襲い掛かる。
其の前に、雪氷のエルフが居た。炎を迎え入れ炎を睨む其の背中、其の拳には、雪花のアクセサリー。燃え扱く火球が、其の拳を縁と掲げ、仲間達への想いとして、内なる魔導を起こさせた。
氷。雪。
喰らわんとする火球に、喰らい付く冷気のひび割れた冷層に、其の衝突は許された。
音も無く消え失せる火球と氷結。
背を丸め、首を伸ばし、赤火に染まった両の眼が、凍て付くハーフエルフに襲い掛からんとする意思を示した。
白い影が疾走する。竜の顎門を見つめて、竜の脚へと移る。
常闇に溶け込む姿で、竜に報せる。此方に獲物が居ますよと。
女勇者《アキロゼ》は、謳い文句を口に起こした。
光の奔流 白の翼 黒の噂 星々は煌めき 流れ星を謳う
節の効いた天使は大きく竜の脚を掴むと、そのまま骨を折ろうとした。
その圧迫に耐えかねたのかパンプキンドラゴンは身を仰け反って小柄な天使を手爪で払おうとする。
悪魔が城の窓から声を出し、竜は其方に振り向き、女勇者《アキロゼ》はそこに向かう。
竜は天使を引きずりながら、城の窓に迫り来る。
黄金の剣は今ここに
階段を一足跳びで駆け抜けた女勇者《アキロゼ》は、窓から外にその勢いのまま跳び出ると、竜の鼻を越えて角と角の間、頭蓋に、一筋の黄金に煌めく流星を叩き込んだ。
〜〜〜
後世に語り継がれることになる詩の断片がある。
〜に落ちた流星は炎を吐く竜の拳骨と、暴れる竜は比翼と、血を吐く息に、宵闇の黄金に染まる城、熱に溶け、落ちたる其れは、凍える冗談、女雄で天使か、発すれば噂、〆に切れるは、竜を挟みし大地の形。
詩と言っても過去の動きを現今の皮肉に混ぜ、近い将来の比喩としても使う。見方が何であれ通用する抜き出された部分は、ファンタジー其の物が現実社会に顕れる訳に、竜という主体を用いて答えている。
〜※〜
人生を失敗した一人の養うに恵まれた社会不適合者は何か不都合な真実を自らの主張として他者に危害を与える。
其れが元に捕まり、主張も支離滅裂になる不適合者は自分だけを判断基準にする様になる。
自身の積み上げて来たものを全て主張に落とし込むと、其の主張はあまりに生々しく自分から機会を奪う。
最初から有ったものをより深く理解し不理解の高まりを見せる公の機関と関わる事になる。
自身の気力が知恵を嘘へとし、ただその場から何かを変えたい一心で自らの精神だけが変わって行く。
今までの事と今まさにの状況から来る状態が続いて、頭も冷えて落ち着き、其の者から不適合な部分だけが別離する。
本音を言おうが何を言おうが、自身が作って来た雰囲気は、一変して其の物の体力を奪う。
仮に、正道に於いて一般化される現象が反転していようが、其れだけは其の者の力となる。
少しでも元のやる気に戻そうと、過去を参照して、現今に値させて、将来の夢がどうなろうとも、世間の秩序は変わらない。
時間だけが迫り、最後の忍耐が続かなくなってしまう。
そうして、社会に反する者は土に還る事も無く、ただ自らが、良い加減に、ジレンマの中に在り続ける。
何処かしら自分は変なのだと思って生きて来た者達だけが、ストレス代謝《ファンタジー》による行動原理に於いて成功するのだとも描かれる。
〜の部分から、直ぐに食いっぱぐれになるかも知れない世界に、裕福な者が不条理な助けとして、公的に振る舞う事となり、抗議を起こす市民一丸という存在と比肩し、不義理に理不尽な価値を齎す場が、人々の情熱に其の能力を失い、権力を失えば、今まで通りが通用せず、可愛らしい女性でも居ない限り、其の素性はすぐに広まり、最後の希望を持たざるを得ず、其れらの団体組織が市井に詰まるという事でもある。
其処にある物に於いて変わらないが故に強大な支えとなれるのは大地以外に有り得ず、其れが降りたるのは、大地が天空と共にあり、支えが当たり前である大地は主格を霊長に譲るが故、霊長を引いて見せ、星から隠す「地上」と云う訳以外に〜は有り得ない。
結局の所、語り継がれる世の中の物語は世の中を構成する一つに変わって行く訳だが、〜は「地上」であり、歴史は変わらない。
経験を超越した事態には、必ず歴史が噛むというのなら、歴史の動きという期待すれば必ず裏切る未だ来ない今を待つ逆張りの象徴は、過ぎ去った今にあった人物像を霞ませる。
〜※〜
頭蓋を砕かれ、意識が人の其れと混濁する桐生ココ、もといパンプキンドラゴン。かぼちゃなのだから、其の弱点である頭は砕かれ易く出来ている。
竜は流れ星に光る勇者を睨み、腹の底からの炎で燃やし尽くそうと、大口を開けた。溢れる血を口に含み溜め、翼を広げ、飛びはば立ちながら、はためく翼で大きな風を起こし、火球に有りっ丈の血を混ぜて爆発させた。
黄金の剣に照らされた城の城壁が見る間に溶け、其の中の一室で縮こまっていた悪魔を露出させ、女勇者《アキロゼ》を爆風で飛ばす。
其の威力を軽減させようと、エルフは氷雪の窓を作り、四方八方から覗かせる。冷気を窓の後ろに溜めた。いきなり出現した自分自身の姿、何処を見渡しても写る異様に耐え切れず、ドラゴンは動きを鈍くさせた。其処を狙い、冷気を拡散させ、ドラゴンの足止めを敢行する。
天使はそのまま竜を引っ張ると、竜の股関節を少し脱臼させた。
コ(?!)
ズレる体幹、崩れる重心。そして、更に。
悪魔が逃げようとしている事に、見つかった恥ずかしさに、竜に負荷を掛ける。
ト「トワに触れたら永遠に呪ってやるから!この悪魔!」
コ(悪魔はそっちやろい…って、溜息をワザと出させて、行動に隙を作ったつもりか!)
追撃の隙に大きく咆哮をするだけの砕けたかぼちゃの竜。
其れが悪魔の所業。
流れ星に願いを叶える詠唱の速度で呼吸をする。
アキロゼの握る黄金の剣は、熱され柔くなり凍え割れた大地に、大きな音を立てると地割れを与え、竜は其処に嵌り抜け出せなくなった。
精一杯の咆哮が合図となり、三者から総攻撃を食らうパンプキンドラゴン。
ア「其の頭、貰う!」
砕かれ易いが凍ると固まり、思ったよりも分厚い頭部は女勇者《アキロゼ》が狙う。
ら「いっそ凍るのがお似合いだわ。」
魔法使いのエルフはもう一方の脚に狙いを澄まし、先程竜のブレスを相殺した氷結の倍はあろうかという冷気を直接注入。
か「そんな姿して居ると、翼の骨、折っちゃうからね!」
天使が不安定になった背中をよじ登る。崖よりも掴み易い背中の突起物をするすると又、豪快に登って行くと、翼を摑み、暴れる勢いを活かしてバキリと根本から叩き折る。
大きくバランスを崩しながらの竜の最後の息吹は常闇の娘のスレスレを通り、安心した悪魔の顔を吃驚させるも、竜は其の勢いで大地に組み伏せられ、頭を取られてしまった。
コ(まさか負けるとは…)
竜の喉元の内部でゆっくりと体勢を立て直す桐生ココ。そしてさっき迄顔面があった空間に一石の火花が生じる。
ぼ「チッ。仕留められなかったか。」
城の東側、石材で出来た物見櫓の窓から月光に照らされ、白い腕と狙撃銃が露出する。
ジジ..
「こっちの仕事は完了した。」
ぺ「ギリギリで外せって言ったのに、当てようとした位置ぺこね!」
ぼ「〜♪」
ぺ「まあ良いぺこ。辿り着いた。」
さっき迄自分であったドラゴンの肉壁を突きで破る一撃。
そして、飛んだ肉片が近くまで来ていた兎の社長に降り掛かる。
コ「?」
目の前に新たに現れた女性を見て、暫く動きを止めるココ。
か「ココ!生きてたんだね!いきなり竜が現れて、食べられちゃったかもって思ったよ。」
自分が余程活躍したと思ってないのか、あくまでいつも通りに振る舞う女天使。
ぺ「丁度良いぺこ。其処に隠れてる悪魔共々、全員、ウサ建に来るぺこ。」
後ろに隠れていたのに急に指名され、飛び出す常闇トワ。
ト「え?何。引き抜き?トワ、幾らでも寝返る〜。」
コ(状況的に私もだよな…)
ア「其れは出来ない相談だ。私は魔王を倒すからね。」
ら「私も魔王からししろんを…あっ。でも此処まで来たからには…」
ぺ「しし?ぼたんちゃんならもう既に兎田建設《ウチ》に…」
その時、陰から姿を現したのは白銀ノエルだった。
ノ「あ〜、其れは言わない方が良いかも〜。」
ノ「来ましたよ。貴方の為の騎士でもある白銀騎士団団長、白銀ノエルです。」
「貴方達を魔王の配下にさせない為、一緒に魔王を倒す為、私を仲間に引き入れて下さい。」
コ「魔王の配下ってのは、若しかして私の事?このドラゴン化の前段階の力を貰ったんだけど…」
そう言うと、先程倒したドラゴンの姿形そっくりのオーラを纏う桐生ココ。
ノ「あっ。其処の遺体は団長が運びます。」
か「あ〜、そうだね。アレは地割れに挟まってるから先ずは其れを取らないと。」
コ「って、聞けや!」
激怒するなり弾け飛ぶオーラ。
其処に話しかけるアキロゼ。
ア「そうだね。どう?一緒に飲まない?」
一瞬の間。
コ「いや、だから、人の話を…」
ノ「よいしょっ!」
さっき迄取れずにそのまま倒されたドラゴンの遺体が地割れから簡単にすっぽ抜ける。
唖然とする桐生組会長に、女勇者《アキロゼ》は容赦なく踏み込んだ。
ア「どう?一緒に飲まない?」
肩に手を掛け、如何にもな顔で催促した。
〜
酒盛りである。
コ「あ〜。仕事終わりにはコレに限るな〜!」
一気飲み。
ア「ぷっへ。コレよこの泡。く〜生き返る〜。」
泡のヒゲ。
ノ
ごっきゅごきゅごきゅ
「プヘ〜い。」
「えー、団長、運んだだけなのにこんなに貰っちゃって良いんですか〜。」
大量のおつまみと牛丼。
ら「これはししろんの分、これもししろんの分。」
ぐびっと我慢してた一升瓶を一息で行く。
一同は、ドラゴンの遺体をお城に程近い地下にある換金所に持って行くと、どうにも剥ぎ取りを行った方が良かったらしく、取り扱いに困るからと言って門前払いを喰らうも、其処で部位ごとに分け、余った肉と骨を割れた大地に戻すと、換金所から、こう言われ、事此処に至る。
換金所のおっちゃん「希少な部位が取れたんだよ。だからお代は弾むよ〜。」
そんな訳で酒盛りである。
兎田建設進入会の幕を掲げ、ぺこーらは既にベロンベロンのベチョベチョになって居た。
コ「いや〜兄ちゃんの剣撃は最高に効いたね〜。此処が正念場なんだって感じで。」
ア「いやいや、ココの炎ブレスも相当激しかったよ〜。腰に効くって言うか〜。」
互いに互いの攻撃を褒め称えている両長。
その様子とラミィを覗きに来た某ホワイトライオンが一人、ラミィの視線を感じ、直ぐに窓から離れる。
ら「アレ?今、ししろんが見えた様な…」
マ「気の所為だって、気の所為。あ〜ここの酒は美味いな〜。」
そしてそして、爆発オチに巻き込まれて最低な幕を閉じた船長が透明になって帰って来た。
ら「お〜。イケるね〜。ラミィも負けてないぞ〜。」
ぼ(私も混ぜて欲しい…)
その近くで、四天王の一人、魔王配下第二席と、もう一人、第三席が酒場を訪れていた。
メ「ね〜もうさ〜。ずっと同じ話題ばっかじゃ〜ん。るしあるしあ煩いんだよ〜。」
「お前もどう思うか〜?」
どうせ日光に当たったら不老不死が解けるだけあって、飲み屋には事欠かない夜空メル。酔って来て本音が出て来たのか、既に机に手を置いて顔が近い。
第七席「は、はい。とても同じ気持ちでございます。」
そう言うと、メルは機嫌を直して、笑顔でニッコリ。
第七席(あ、その笑顔なんだよな〜この人の最大の武器は〜。)
分かってないのは、やはり世間の方なのかと、いつも通りの思案に入る竜騎兵《ドラグノフ》の男。
今日も今日とてこの街は平和だった事になる。
そんな夜更け、復活した魂が、覚醒したネクロマンスにより受肉し直した永遠の0が、そっと酒場を訪れていた。
漸く新天地なのです。ってアレ?面子ほぼ変わんないじゃん…
〜〜
酒場に、夜しか駄目な吸血鬼(第二席)とその従者の竜騎兵隊隊長(第七席)、裁判寸前前代未聞の爆発復活劇を遂げた覚醒ネクロマンサー(第三席)、敗北した四天王最弱(第四席)、倒した勇者パーティと建設会社社長が居るとの噂が入った。
る「ごめんなのです。」
魔力を静かに込める墓場から呼び出されるのは何もゾンビだけでは無い。アンデットならば軽い死者蘇生で其れを行うだろうが、今は酒場、既に蘇生される物の相場は決まっている。
酒。その中身、そして、過去へと移り変わる一瞬の光景は、食虫植物としての泡葡萄の側面を映し出していた。
突如、腹に違和感が走る。もう消化した所ではない。未だ飲んでいるという快楽を覚える量、其処が、腹の中で引っ掛かる。棘、棘のある葡萄、泡葡萄。
水分ばかり取れる地域では胞子の絡んだ泡を出すだけだが、栄養のある所では水分を抑える為に葡萄を付ける。この葡萄が発酵に程良く、丁度良い酒が取れるとして、重宝されたりしたが、棘がある為、収穫には金網の軍手を使用する必要があるとの事。
其れが、腹の中で復活する。
棘のある蔓、ツタは胃から食道に逆流し、気管支、剰え、肺にまで到達し、泡を垂れ流す。そして、その胞子は肺胞に覆い被さり、呼吸困難にさせる。
暴れるような嗚咽感。生まれてこの方、飲む時に其の様な危険な敗北を感じた事のない女性陣が一様に痙攣に巻き込まれる。
勇者とて其の肺活量は大したものだ。其れが、詰まる。喉に詰まらせた訳では無く、ただ嗚咽感が詰まる。
あー、あー、あー。ゾンビも斯くやの嗚咽なりし悲鳴が今日この時、其れを酒場の物とは思わせない。
酒場は気付かぬ内に死者の場へと変貌した。
だが、事はそう早々身支度を整えない。
植物は肺胞を乗っ取ると、全身に寄生し、水分と栄養を奪い土の代わりに肉を吸い取りながら、徐々に肥大化して行く。
兎田建設新入社員会と書かれた弾幕が破ける程の大口、そう、知られてはいないが泡葡萄は大きく纏まると吸い取り過ぎた栄養の代わりに其の器官の一部を食虫植物使用に変え、肉食へと変貌する。そしてまた知られていない情報から、この食虫は、食人も行えるという事。大きくワニの様に開いた口からは、若干だがセルロースで出来たカマキリのカマの様な歯が見られる。其の見た目は某ゴ○ラの敵怪獣ビオ○ンテを彷彿とさせ、今まさに、酒場の一角を崩し、木造家屋を足場に成長しながら、隣の酒場へと
其の隣では、眠ってしまった夜空メルに代わって、竜騎兵隊長が気配を察知する。森林浴の匂い、其れが植物の出す苦害臭だと、濃密に漂う其れが、気配を携える。
植物の大きさは既に隣の家屋を呑むほどに成長し、死体を更にネクロマンスする事で無限に成長していた。竜騎兵隊長は、口から少量の炎を放ち、ツタの成長、引いては植物の狙いと成長の方向を誘導し、第二席を抱えると、安全な場所まで出、自分よりも巨大な炎を吐ける竜を複数体、竜騎兵隊に報せが及ぶ数呼ぶ。
竜はやって来ると立ち所に炎を口から吐き、植物怪獣を燃やして行くも、既に個々のネクロマンスの覚醒段階に入り、死体が大量の魔力に呑まれながら、植物までもが其の吸収した魔力を喰らい、魔獣へと変貌。ネクロマンスを手に入れ、燃えた箇所も細胞レベルで死したものとして再生する。
竜は燃え盛りながら再生で火を帳消しにして行く大怪獣から離れ、第七席も竜騎前提の騎乗槍を取りに戻る。酒場の酒を飲み干し、受精を自動的に行える泡で出来た大きく核と言える内なる器官で、植物のネクロマンスをも生成。既に要らなくなった麗羽るしあに向かう大量のツタが向かい、一個の栄養として魔力タンクにもするか。しかし、骨より硬いわけでは無く、護ろうとして闇の霧に立ち昇るアンデットに絡んでしまう。栄養の無い骨から、栄養のある骨髄への移動を狙う頭は無い。
ギシギッギギシギと軋む音は壊れ呑まれた木製の酒場の残骸に木霊し、復活する度に起こる生への葛藤、其の死者に死の情欲を齎す。
そしてネクロマンスは最終段階に入り、パンプキンドラゴンを呼び起こし、其れの更に内側に寄生し栄養とする事で、植物怪獣は、竜の姿から、神話伝承の破滅的な似姿へと変わった。
既に竜も何頭か食われ、遂にはポンプ式に火をも吐ける其れは、とてもでは無いが、賓にどうにか出来る存在では無かった。
魔王「何。この私に出動要請だと。」
協会も、一応敵である筈の魔王に頼み込み、訴えを退けるのは朝日が昇る頃になりそうな不動の意思を感じる。
其の姿勢に満足げに微笑むと、魔王は直様支度をし、大魔獣の討伐に向かった。
竜騎兵隊は隊長を残して壊滅。隊長も既に自慢の槍を奪われたとの見方が入っている。
闇の魔力が宵に昏く、強き思いを込めている。魔力は潤沢。先ず以って倒す算段は浮かばないが、一撃なれば別。
魔王専用の翼の広いブラックドラゴンに乗り込み、魔王の生涯最初で最後の全力が幕を上げる–––––。
魔王「…む。」
––起きる。裁判の手続きにおいて部外者が関係する場合に法律的に突破しなければならない手続きの長過ぎる説明書とサインの最中に報告まで入って来て、頭が痛くなる前に寝てしまった様だ。
しかし、其れにしても、よく出来た(?)夢だったと、我ながら感心する。
魔王「麗羽るしあか…」
まるでこれから会いに行くかの様に其の名前を口にする。
魔王が魔法陣越しに念話が可能になったと聞き、直様に向かうも、其の魔法陣を立体に、怨念だけでは無く霊的な質感をも再生出来ないだろうかとして、結果、覚醒したネクロマンスが、全身が魔力で出来た全く新たな霊長を生み出してしまった。
其の女性は、魔王と中和魔力で出来た紋所を見るなり、降伏した。魔王は其の潔さに第三席の座を与える。
そして、第三席として、魔王とは違い、裁判に必要な書類全てに記入を終えた後、自由行動が可能となった彼女は、徐ろに酒場へと繰り出していた。
そんな折。
る「ハックショイ!」
もう寝たラミィを除く一同
「?」
る(あ、此処に居るのがバレるのです。)
ピューと吹く回る小走りが酒場を駆けて行く。
メ「ん?アレはるしあちゃん…追い掛けてみるか。大将〜、こっちお勘定〜。あ、魔王でツケといて。昼間に払うから。」
「よっし、直接情報収集だな。」
そう言って、魔王からの案件を死なない女スパイとしてソツ無くこなして幾星霜、其の吸血鬼は、既に机に突っ伏した竜騎兵隊隊長、いつもこうやって昼間迄起きないのでメルに都合良く扱われている一人の健気な賢者を置いて、夜の街に繰り出す事となった。
そして、メルが無事情報を入手できるのは日光を浴びるか浴びないかの瀬戸際なのであった。
其の報告を受け取った魔王が鎮座するは大空建設の応接間。
魔王(第二席と第三席が揃って離脱した。成程。今は未だ其れほどの脅威にはなり得ないという事か。)
合理の化身にして、破壊の象徴でもある魔王。其れが肝心の敵勢力の把握を怠った瞬間であった。
〜〜
コ「ん〜もう寝ちまったか〜。ってうん?」
机の上に紙があった。其処には、お先に失礼、この事は魔王には内緒で、と書かれてあり、少しだが魔力での酔い覚め術式も付与してあった。
コ「ん〜そろそろ朝放送の時間だな。いつも通り、さっさとテレビ局をジャックして…と其れは一年前の事だった。酔うと昔の事思い出すのは何でかな〜。」
今はもう正式に流れているのだからこそ、気張る必要が有るだろうに、そのまま昔の事を思い出して、眠ってしまった桐生ココの背中に、そっと毛布を掛ける姿が一人、そしてもう一人二人増えて行く。
わ「あ、ココ、こんな所に居たんだ〜。」
ト「しっ。今は静かにして、寝てるでしょ。」
か(お休み、ココ。)
そうして、又、明日がやって来る。
〜
「えー、今入ったニュースです。今日の朝桐生会は急遽、中止となりました。」
街角のテレビを見ている噂のカップル。
こ「え〜中止〜?何か裏がありそう〜。」
鋭い嗅覚。流石は巨犬の力を宿すだけはある。
お「ねえねえころさん、今度一緒に例の湿地帯に行ってみない?」
そんな戌神に対して、猫又は妖怪。話の九割は彼女が気分で変える。
こ「えz。おかゆんの頼みなら、しょうがないなぁ〜。」
お「そうと決まったらおにぎり作らないとね。おにぎりゃ〜にも手伝って貰うぞ。」
犬の方を見て、元気にはしゃぐ猫。
其の犬は、顎に手を当てて思い付いた様子。
こ「…まさか、桐生組解散の危機!?」
お「え〜、あの団体はそんなヤワじゃないよ〜。」
こ「其れもそっか。」
珍しく、猫が威勢で競り勝つ。今日は雨が降りそうだ。
〜
そうこうしている内に、三人パーティになった女勇者《アキロゼ》一向。同僚のロボ子を迎えに、協会への帰路を急ぐ所、申し訳ない。話の途中だが、ワイバーンだ。どうやらボスであるパンプキンドラゴンを倒した事で、湿地帯からやって来てしまったらしい。
ア「おや?丁度いい眠気覚しが…」
ノ「およ?これって著作権侵害に当たるのでは?」
ら「ウエーい。緑の。お前らも飲まんかーい。」
剣と棍棒《メイス》と一升瓶。理不尽な暴力がワイバーンの群れを襲う。果たして、竜種の明日や如何に、と言いたい所だが、ロボ子を迎えた後は、パーティも半分が入れ替わり、リーダーは体力自慢。否が応でも当たる四天王を全員さっさと倒しに行きたいらしく、次なる目標を何処に居るかも分からない敵が誰かも分からない魔王配下第三席へと据える為、そんな事気にしていられないな。
協会から情報を聞き出した後は、道すがらジョブを決めながら、即断で攻め入るみたいだしね。
〜麗羽るしあの裁判まで後50日〜
私、湊あくあ。
ニックネームはあくたん。
最近サボってばっかりでメイドの仕事をクビになっちゃったドジでダメな紫メイド…って、もうメイドじゃないんだ。
あてぃし、しっかりしないといけないのに、なのに、最近近所でよく絡むイケメン猫の妖
そうだ!起業しよう。そうすればおかゆにも認めて貰えて、自堕落に過ごしても社長だから許される。夢の様な環境!
其れに、最近流行りの賃貸物件の取り壊しも加味して置かないと住む場所無くなっちゃう。
あ、そうだ。建設会社を立ち上げれば良いんだ。
何て簡単、若しかしたら、このまま、世界一の建設会社になっちゃって、おかゆと新婚旅行!?やっばい〜そうとなれば直ぐにでも取り掛からなくちゃ。
私、湊あくあは、本日を以って、建設会社"AKUKIN"を創設致します。
会社は株式会社で良いや。取り敢えず出資して貰わないと…
そうだ!おかゆん!おかゆんにお金出して貰おう!こうなったら
〜〜
朝日。
陽が昇る!如何しよう老けちゃうっっ!
あ、どうも夜空メルでっす〜。
如何にも最近、調子が出ないな〜。
私って、こんなにもナイーブだっけ。
ああ、誰か、メル助けて…仕事ばっかりで嫌になっちゃう。嫌でも、仕事やってる時は元気だから良いんだけど?さて、美肌対策は付いたし、今日もネットで調べ物調べ物。えーと、あ、コレ仕事に関わりある奴だ。
ときのそら。
勝手気ままな興味を仕事へと譲渡する事で日々を強く生きて行ける様になる事もある。
この女性もそういう類の存外デリケートな女性だった。
そして、女性は出逢う。ときのそらと呼ばれる女性に。其の真相と奇妙な現象に。
え。何々。時空を歪めて飛び越えて来た?最強の偶像?魔王と一緒に終末に共同作業をした…知ってる。何故結婚しないか疑問に思ってる。私だったら二人の仲をもっと近付けてあげるのに。
え?実は存在しない?新しい川の場所が彼女の育まれた土地?…大局将棋の人側の王将?何それ、意味分かんな〜い。
取り敢えずメル友メル友。
メ[久し振り〜。いきなりだけど、ときのそらって娘、知ってる〜?]
メル友[知ってる]
[可愛い娘だよね]
メ(メルの方が可愛いと思うんですけど〜。)
[何処に住んでるとか分かる〜?]
メル友[近く]
メ[普段どんな事してるのかな〜。]
メル友[一年前の終末の時]
[あの時]
[爆発に巻き込まれてしまう女性二人を助けに]
[以来、強引に変えられてた川の流れを眺めてる。]
[毎日現れるよ。]
メ[何時頃出て来たりする?]
メル友[爆発のあった時間帯]
[夕方から、最近だと日が暮れる迄居る]
[最近珍しい雨の日とかは一日中居る。]
〜〜
あ「あ、おかゆん!いきなりだけど、私、会社を立ち上げる事になったの。」
お「へ〜。残念だけど今からころさんと一緒に、この前まで大っきなスライムが居た湿地帯に行く事になっててね〜。其の話はまた後でね〜。」
あ「あ、じゃああてぃしも付いて行く!其れなら良い?」
お「あー、其れはころさんが良いって言ったらだな〜。」
「お、噂をすれば何とやら。お〜い。ころさ〜ん。」
おかゆ、ぴょんぴょんと飛び跳ねて嬉しそう。
でも、おかゆは、私だけだって言ったから。
どう考えても騙されて此処まで来た駄メイド。誰にでも言う文句では無いにしろ、かなり厄介なのは致し方無い。
流石は人を脅かすだけで治安を保つという妖怪の在るべき姿か。
こ「おかゆ〜。ん?何其の横の女。」
お「あ〜、ころさん、久し振り〜。何か、あくあちゃんがついて来たいんだって〜。」
こ「駄目。おかゆとの楽しい時間の邪魔になる。」
お「駄目だって。ほい。お帰んな。」
え?え?もう?
あ「あ、一応言っておくけど、あてぃし、起業する事になったから、よ、宜しくお願いしますっ!」
お「お、分かった分かった〜。そんじゃあね〜。」
日が昇り始めた。よくよく曇った公園前のバス停での出来事。
〜〜
大空スバルは魔王に関わってしまった。
具体的に言うと、大空建設に更に案件を依頼する代わりに、ルーナ姫に其の仕事をやらせてみないかというもの。
スバルとしては、ルーナ姫にはもっと市井に関わるべきだし、一年前の騒動から、アレだけ立派にこれだけ大きな街を守れるのだから、放っておいても何とか一人でやっていけるだろうと思っている。
だからこそ、魔王には内容次第では差し支えるとだけ言って置いた。
ス「さてと、そろそろ、先方がやって来る時間ッスね。」
魔王はあくまで姫の独立を望んでいて、其の方向性が自身と敵対する事になろうとも、其れを第一に考え、自身の魔王性を遺憾無く発揮しようというものだ。
ルーナ姫に託された案件は一つ。
隣国が殆ど持たない海軍力の強化として、船の造産、整備に携わって欲しいとの事。
マリン船長との貿易が出来た兎田建設には、持って来られた多種多様、カラフルな香辛料があった。
そして、自分では腐らせてしまう貿易案件にそのままシフトする事ができる増産体制もあった。
あくまで自分の頭でマルチに考えて行きなさいというスタンス。
元国王が聞いたら、「良いじゃん。好きな事だけさせてれば〜〜。」と少し怒りながら提言して来るだろうか。
あの国王のお陰で、現国王は未だ決まり切らず、独裁社会の制度に切り込める者が一人も居ない状況が続いている。そして、三権分立に於けるピラミッドの頭が丸くなって来ている。
この国では分業の程は紀元に取っ払われている。
分業における作業能率の高水準化が、人口の爆発を安定させ、旧社会主義国の我儘でほんの少し社会が回らなくなっただけで食料と産出料の枯渇を招く超高代謝社会を作り、仕事と娯楽の両面で必要な動産リテラシーが重なる事で生活に必要な経費が高水準化し生活に余裕が無くなり、其の結果、様々な分業環境にて共通の思考としての政治・経済への不安が業務を熟す上でのジレンマーとなり、人々から多くを考える事を奪った結果、幸福度の低水準化をも招き、資本主義が社会主義と同様の結末をゆるりと迎えた結果、平均的に分業すらも回らなくなり、これに危機を感じた当時のIrys国王が、一時期のみ社会主義に切り替え、其の終了を見越して、職人を除いて分業環境《ブラック》を完全に取っ払ったのだ。
今、この国では、営業・事務・会計・開発・窓口・管理が外部にも同様の総合資料に目を通し、中間管理が横に連携しながら、最高責任者の指示に意見し合い、合議が敷かれるのが主流であり、一人のサラリーマンが複数の役割を熟す。
そして、分業は社会奴隷の賜物として当時の労働環境を存分に残している隣国と、マルチな仕事のみが残されたこの国が奇遇にも隣り合っている。
其の隣国から、大空建設に業務提携が舞い降りた。内容はこれから。
隣国の官僚「いきなりですが、この建設会社、引いては大空警察と軍事提携を結びたい。」
ス「えっと、建設会社の方は、もしかしなくてもスバリゲオンっスか。警察の方は…」
隣国の官僚「ええ。警察の方はですね。此方の民兵から我々…いえ失敬。特殊部隊に上がる際に、其方の特務警察を挟むキャリアを共に考えて貰いたいというものです。」
ス「其れは考えて置きますけど…(何か臭う…)」
「もし、条件とかって有りますかね。」
官「ええ。話が早い。此方から指名する人材を其方で勧誘か引き抜きをして置いて欲しいのです。」
「其の人物の資料は用意しましたので、これに目を通して頂ければ。」
「では、私は次の業務先に参ります。良い返事を期待していますよ。」
そう言うと、五分前行動ならぬ五分間行動で、隣国の官僚は去って行った。
一つ、獅白ぼたんと書かれた女性の資料を置いて。
ス(この娘、この前兎田建設にスカウトされていた––。)
大空スバルは其の資料を手に取ると、表紙の目次を見た。出生、学生時代、今の立場。前二つは後で見るとして、現時点でどうあるか、どの様に捉えられているのかを見たかった。
123年、東セルカ湾にて武装勢力「アモーレ」を駆逐。
同年、東セルカ湾近隣の住民と結託。セルカ市長に蜂起。
126年、SSRB創設。自身の名前の頭文字を付けた愛嬌として近隣の国全てに知られる。
同年夏、リンカ砂丘にて、【隣国】と砂丘下の水資源を巡って対立。
同年冬、【隣国】の特殊部隊と衝突。
127年、【隣国】に勝利。
128年、兎田建設事務所襲撃。同社と停戦協定にもつれ込む。
〜〜
果たしてときのそらは其処に居た。
夜空メルは、物陰に隠れる様にじっと見ていた。
其の背中はまるで当時の焦燥を写す様に、上下に腹式呼吸していた。
夜空メルはまた明日来ようと、その場を離れた。
次の日、また夕日が消えた時に夜空メルはときのそらを見た。
メ(噂どおりね。どうにも毎日、何の為に此処に立っているのか、気になる…)
そして又次の日、又次の日も同じ事を繰り返した。
そして、遂に、某ネクロマンサーの裁判が一ヶ月半を切ろうとした其の夜、日光を避け、確りと吸血鬼としての部分を覆い隠す重たい服装で、魔王の配下らしき出で立ちで、其の女性に声を掛けた。
メ「今晩は。こんな所で何してるの。」
と「あ、済みません。邪魔になったでしょうか。」
いきなり訳もなく謝るときのそらに対してメルは聞く様な姿勢で言葉を放った。
メ「どうして貴方は、毎日、此処に来るの?」
と「!」
いきなりの質問に不意を突かれるときのそら。彼女は徐に口を開いて、こう答えた。
と「私が悪いんです。私が、あの娘達を助けなかったから…」
「其の前にも、間に合わなかったから…」
メ「それで、終末になったと。」
と「…」
メ(全部自分の責任だと思ってる…)
「ヤゴーと一緒にあの時立ち上がったでしょ。其れ以来、私達は貴方の事を尊敬している。」
「私は、どうせ死なないからと言って、あの時、何もしなかった…其れ以来、夢に魘される。」
「貴方は違いますよね。あの時、勇敢にも立ち上がった者達の一人。いつもこんな所で、自分を責めている筈は無いっ!」
と「ごめんなさい。私、実はずっと考え事をして居て、本当はどうして此処に来るのかも分かってないの。」
メ(考え事…?るしあちゃんの事じゃなくて…?)
と「私、もうそろそろ死ぬんです。あの時、爆発に一人向かって行って、あの眩しくなった瞬間、自分が本当は何をしたかったかも忘れて、助けられず、其れで、医師からは無傷だから安心して欲しいと言われたけど、魔王がもう保たないって。」
メ(え?其れって、どういう…)
と「だから、私、死ぬ前に思い出したいんです。本当にあの時迄思っていた事を。私が何者だったのかを。」
思い出したい。そう彼女は言った。
自分が何者であるか、自分がどうあるべきか。
些細な事では見落とす事の無い自分という大きな塊を彼女は見失ったのだと。
灯台下暗しと言えど、自分の事が最初から分かっている者などそうは居ないのだと言っても、彼女には確固たる自分自身があったとも。
メ(メル、こう言う話、わっかんない〜。)
元より自分自身の事より他人の事が気になる性分だけに、夜空メルはこの女性を気になった。ただ、見るからに何かしら胸に秘めたる想いが単調であるだけに、深く詮索をするつもりは無かった。
メルも自分で悩んだ時期があった。仕事しかしない自分、休みを適切に取れず、日々仕事の為の自分になって行くのが嫌で、長く休んだ事もあった。彼女は其れを夏休みとか冬休みとか言って戯けるけども、彼女はあくまで其れが自分に空いた楽しかった時間の残り香なのだと割り切った。
自分の強さを信じられない自分の弱さが、自分を、自身の強さをいつまでも甘やかせる。厳しく振る舞う事は殆ど無く、自分にも厳しくできない。
そんなこんなでも、仕事で先ず過ちを犯さないが為に、休息でも自分の事を分かっていると、合理的に配慮が出来ていると、魔王配下に於いて、ケチを付けられた事は一度も無かった。
別段、肉弾戦が得意なわけでは無い。
其れは目の前の女性も同じくして、似て非なる二人の全く格好の違う距離感が擦れる。その間は、最も遠いと表現しても悪くは無いだろうか。今、最強の偶像と合理的な怠け者は、目と目が会う距離で、お互いの空気を探している。
…時間だけが過ぎる。
先に口を開いたのはときのそらの方だった。
「あの…こんな私で良かったら、悩み、聞きますよ。」
其の言葉にハッとなる自分が、この質問に答えればとしていた。
「悩みなんてある訳無いじゃ無い。」
でも漏れて来たのは本音だった。
「私、吸血鬼なんだ。この格好も其れをモチーフにしたもの。どう、目の前の女性がどれだけ歪な世界を生きて来たか。分かる?」
噛む動作を両手を少し丸めてみせて表現する。
少し吃驚した顔をして、こちらを覗くときのそら。
「ううん。分からないよ。でも、凄く楽しくなさそうなのは分かる。」
メルは逆に吃驚した。自分はそこまで他人に見破られ易い状態なのかと。
「…あ、そう。確かに最近、勇者の相手してばっかりだから、疲れてるのかも。」
嘘では無かった。
ただ、何と無く分かって来た。だから、ここで会話を区切りたかったから、近況だけにした。
…自分は、心の友を探していたのだ。自分がどれだけ愚痴を言っても聞いて貰える友を。
そして、ときのそらは其の真逆だった。どれだけがんじがらめでも平然としていられる自分を取り戻したかった。
あの日、彼女は何を感じたのか。何を見て忘失を起こしたのか、其れが全ての鍵になる。
と「そうなんですか。お家でゆっくり休んで下さいね。」
仕事相手でも無いのに敬語で休息に指示を出す姿が、如何に彼女が警戒心を忘れたか表していた。
メ「あ、ありがとう。うん。ねえ、ちょっと、聞いて良い?」
「あの、初対面の人に言うようで嫌なんだけど、そらちゃんは、友達、居る?」
言って、しまったと思った。初めて会う人の名前を知っている訳無いのに。
と「え…?(どうして私の名前を…)…(話して良いのかな。この人に…)居ます。私には友人Aが居るんです。今、彼女は私と同い年ながら、街の裁判所で裁判長をして居て、今度、…其の…るしふぁあって知ってます?その人の裁判があるんです。彼の娘は何もして無い。ただ、私が助けられなかっただけ。」
不安を押し殺しながら、自身の盾を探して、話題を逸らす。そう言うと、少し俯き加減に、少女は、自責の念が自分が見失った自分の事を探り打てている気がして、とても言い淀んでしまった。
メ(ここでも彼女の話か…どう足掻いても抜け出せない一つ、迷路にでもなってるのかも知れない。)
「そうなんだ。あ、私、そろそろ帰らなくちゃ行けないんだ。」
考え事をしたくなったのだ。自分から切り出しておいてなんだが、今日は負けって事にして置こう。
メ「それじゃあ。」
バサと翻すマントが大層嬉しそうに波を立てながら、夜空メルは吸血鬼として初めて、夜間に入る前に、帰宅をした。
其の背中を見守る様に、ときのそらは、ただ夜空を見つめていた。
〜※〜
宙の本質
其は、四方に石を。
閉ざされる世界。
複た、多くを費やし、多くを呑む。
非ざる塊
其は、四角に素を集める事。
生じる邪魔。
其が継ぎ端となる事も無ければ。
星の連なり
其は、直線状に並べたる王の道。
輝ける地上。
只、隣接す陰陽を喰らい尽くす確固たれば。
凸凹の道筋
其は、僅か変えたる世相。
費やさざるを得ない変貌。
尚、破壊し直せん最も太き囲いなれば。
天体ハ形質。
其は、万に永うる象徴。
いずれ塗りつぶされる常にて。
何、爆ぜて脆く崩れ去るものとしても。
虚■の法則
其は、□士の動きにして。
成立は見送られる。
果たして、其処に、効きは有りて。
〜※〜
アキ一向は団長が経営する居酒屋に寄っていた。
ア「次の四天王は誰だろう。」
ふと考えつく事が無くなった事項から話し始める。
ノ「ん〜心当たりは無いですね〜。」
最優先事項では無いのか、初めて話す様子。しかしここで思わぬ裏切りが。
ロ「あ、其れなら多分、麗羽って娘だよ〜。」
ちょっと表情が固まるアキロゼとノエル。
ア「へ?(そんな馬鹿な…あのレベルの敵が四天王第3位?有り得ない。)」
「はっ。そうか、ルシファーとしての存在とるしあとは別物。そして、ルシファーが覚醒した分だけ、あの少女も成長する…そう考えれば…あの魔力量を操れるだけで、いや、其れにしても強いのでは。」
何やらブツクサと考え事に耽る。
ら「え?その女性って、もう時期裁判になるって聞いたんですけど。」
確信を突いたのは、ラミィ。
ロ「えー、そうなのー。僕、ここの所魔王軍の偵察にしか行ってないから分かんな〜い。」
ア「確かに裁判になる。そうか、魔王はこの裁判に介入するんだ。その隙を狙えば…」
ロ「でも其れって、魔王とその娘の二人同時に相手しない〜?」
ア「うっ。言われてみれば…」
ノ「大丈夫ですよ。あの娘、其処まで強そうな感じしないし、団長が前助けに来た時は魔王の方から逃げて行きましたしね。」
「団長が付いていれば、絶対に勝てます。」
ら「頼りになる…!そうすればししろんも直ぐに開放できる筈。」
「間違いない。ラミィ達、勝てますよ。あの魔王に!」
ア「いや、勝てるのはそうなんだけど…2対4か。もっと安全に倒せる方法は無いかな…」
絶対の自負を持って、あくまで相対的に楽かどうかを思案するリーダー。
ロ「う〜ん。そうだな〜。裁判になると魔王が来るんだよね。きっと弁護士も検察も魔王の息が掛かった人になると思うけど〜。そうなると多勢に無勢のまま、攻略できず終いに終わりそうだな〜。僕も次の仕事が待ってるしな〜。」
どうやらこの高性能ロボの脳内、これと言って違和感しか無い取り合わせだが、其の肝心の中身は、計算不能を叩き出している模様。
ア「次の仕事?其れって私にできない?」
ロボ子にパーティを抜け出されるのは困る。
ロ「あー、其れは無理。だって、隣国の
ア「?」
何やら聞き慣れ無い言葉に、戸惑う一向。
ら「お通…」
ノ「其れって、何の隠語ですか。」
ロ「ああ、お通じって言うのはね、暗殺の事だよ。スッキリするかしないか踏ん張りどころって意味〜。」
ああ、つまり汚れ仕事か、と納得し質問を繰り出す同僚。
ア「誰が狙われてるの?其処まで分かる?」
ロ「う〜ん。僕に入って来た任務は、其れが成功するしないに関わらず、対象に会いに行けって言う奴で…手練れだから名前は伏せて置けって言われてるけど…アキちゃんになら言っても良いかな〜。」
ア「其れで未だ時間が掛かるって事ね。其れで、誰なの。どんな名前?」
ロ「獅白ぼたんって娘。」
其の名前は此処では禁句だった。
ら「えっ…嘘……」
ア「あー、確かにラミィちゃんの親友だったよね。拙いなー。どうしよっか。」
ロ「はー。言うんじゃなかったよ…」
少しブルーになるロボ子を置いておいて、ラミィはすっくと立ち上がり決意表明する。
ら「今直ぐ、ししろん救出に向かわなきゃ。病院は確か、彼方の方角!」
今からでも向かおうとするラミィの肩に手をやり、押し込める。
ア「待った待った。私が悪かったごめん。」
ノ「ん?病院なら良くない?」
ら「駄目!ししろんは今深い傷を負ってるの。ラミィが守らなくちゃ誰が守るの!」
ノ「いや、そうじゃなくて、ガードも硬いし、狙撃される事も無いですよね。安心安全な場所って意味で…」
其れを聞いて少し安心した様子のラミィだったが…
ら「大丈夫なの…?でも、ししろんは…」
ノ「大丈夫だから。ラミィ。私達に信じて付いて来て。」
仲間の事を極力思い出さ無いようにして居たエルフだけに、機嫌を損ねてしまったようだ。
ら「…もうっ。今日は晩酌する。プンプン」
「大将〜。焼酎10杯!」
ここが居酒屋なのを良いことに大量に酒を注文する。
其処で、リーダーに運命の御愛好。
ア「…閃いた。ルシファーの裁判を止めよう。そうすれば、停滞が続いて、世間の声が反映されやすくなる。そして、結果はどうあれ、弱まる魔王とルシファーは疎遠になる。そうすれば、各個撃破はできる…。」
そして、自棄酒するエルフの勢いを無視して、アキロゼは其の夜、ずっと勝機について見出していた。
〜〜
此処はぺこランド裏山の洞窟。
天界学園、ひいては天界に続く奇妙な浮いた岩があるとされる場所。
守護騎士・ノエルと協会の同僚のロボ子を迎え入れた女勇者《アキロゼ》一向《パーティ》は、この闇と岩しか無い場所に、松明を持って訪れて居た。
ノ「本当にこの場所にあるんですか?」
ア「うん……其の筈。」
探しているのは浮いた岩。それに持って来たロボ専の磁石を翳すと、天界への扉が開くという。
一年間其れに類する情報を探していたアキロゼは、飲みの際に何故か居た灰燼に帰した幽霊船の船長にこの洞窟を教えて貰ったのだ。
ロ「あー、あったよ〜。多分これじゃな〜い。」
ロボ子が指し示した所には、大きな浮いた岩と、其処に、火や光を翳さないと見えない炭で描かれた絵があった。其の絵には浮いた岩の上に家と木々が描かれており、まるでおとぎ話に出て来る天空世界其の物の様だった。
ア「よし、それじゃあ、磁石、翳すね。」
浮いた岩の地面から離れた部分に磁石を翳すと、岩はスッと下降し、アキロゼが磁石をゆっくりと手元に戻すと、岩は其のまま接地。そして、壁に向かって動く。壁際に差し掛かると、壁が岩を避ける様に凹み、岩が壁のあった位置に来ると浮き、そして、元の高さの二倍の位置で止まる。壁は其処から一段更に凹むと、奥の方から、壁が凹み岩が動いた際に出る音が洞窟内に響き渡り、洞窟がぽっかりと空き、光が差し込むと同時に、其処に、無数の岩で出来た階段が姿を現した。
そして、其の階段の先には、一つの大きな浮いた岩と其の上に建物があるのが見える。
どうやら、この扉と言うのは、時空を歪める特異点を扱う神秘的な構造をしているのでは無く、酸素濃度に慣れる様にと、セルフサービスをかましてくれている代物だった様だ。
すると、アキロゼが袖捲りをして気合を入れている。
ア「よっしゃ、一丁競争と行きますか。」
ロ「おー。賛成〜。僕の高出力ブースト見せてやるぞ〜。」
既に参加者が二人決まった天界への階《きざはし》を巡る競走。
白銀ノエルと雪花ラミィは長い其の階を見上げて、少しやる気が無くなって来ている。
ノ「あ、私はゆっくり行きますので。」
ら「ラミィも、SSRBにこの事報告しなきゃいけないから、後から行くね。」
…という事で、協会所属の二人、軽く目を見合って、ヨーイ、ドン!
先ず先頭に躍り出たのは、アキロゼ選手。早い早い。スルスルと岩を登り、岩から岩へと華麗にジャンプ。手足をまるで4足歩行の様に使って、既に空中階段の三分の一を登り切った所。他の選手に付け入る隙がありません。
おーっと、ここで後続のロボ子選手、背中からロケットブーストを取り出し、今、点火!ブーストから出る煙がノエルとラミィに当たる当たる。そして瞬く間にアキロゼ選手との距離を詰めて行く〜。速い!アキロゼ選手を追い抜き、其のまま中間地点、水の溜まった岩まで、そして、ここで何と燃料切れ。一旦、燃料の水素と酸素を齎す水分補給《ピットイン》を行う様です。
水分補給《ピットイン》に少々時間が掛かっております。
ここで、再スタート。アキロゼ選手は既に最後の関門、洞窟に偽装する際に最も大きな岩は最も外側にその空中での要所に苦戦中、ロボ子選手もロケットブーストに掛かっております。
アキロゼ選手、ツインテールの反重力装置が強力な磁力線に暴走し、大きく道から離脱し始めてしまった!?このままでは地上まで落下死しますよ!!?
拙い!ツインテールが離れた!しかし、ロボ子選手が寸での所で間に合う!抱き抱えられた女勇者。最後の関門を突破し、今、ゴール!
何と尊い光景でしょうか。
共に雌雄を決し合わんとした両選手に拍手を。
この高さで自由自在に飛べるのは天使と言えども限られて来る程であります。
ここで噂をすれば影とやら、大天使ミカエルが。
ア「アレ?」
ロ「ねぇ、僕達、隣国に程近い山からここまで来たから、きっと領界に入っちゃたんじゃない?」
ア「ああ、其れで。どうも。アキ・ローゼンタールです。」
大天使ミカエル「こんにちは。ミカエルです。今日はどうして此方までお越しになさったんですか。」
ア「ああ、えっと。」
ゆっくりお姫様抱っこから降ろされるアキ。
ア「私達、裁判を止めたいんです。干渉ができるのは、天界だけと聞きいたので、其れでどうしても、此処に来なければと。」
大天使ミカエル「ああ。そうですか。其れならここでの無駄話も何ですので、どうぞ寺院の方へ。」
アキは着いて行く事にしたが、ロボ子は他二人を待つ様だ。
ロ「行って来なよ〜。僕は二人を待つからさ。」
そして、この浮遊地唯一の建物、案内されるなり入った天界寺院の内部、天使の名前が刻まれた表札みたいな金属が壁や柱に嵌め込まれ、天使と悪魔の闘争が描かれた絵画が天井を飾る巨大な石造りの建物、其処でミカエルはアキロゼを問い質した。
「本当に、裁判を止める気ですか。」
ア「ええ。私が彼女を起こしました。そして、其の私が彼女との一件は全て事故だったと断言できます。これで、裁判は不毛だと言えますか。」
ミ「無理でしょうね。その件に関しては、こちらで察知した範囲ですが、あの時既に引き金は誰の口からでも良かった。彼女の源氏名、るしふぁあに付いて言及するだけで、あの魔力量は彼女を蝕んで行ったでしょう。其れに、仮に出来たとしても、裁判内で証言をするだけに留まります。無為な期待は止しておいた方が賢明です。」
ア「貴方達が介入してもですか。」
ミ「そうですね。」
「我々としても、あのルシファーは天使、ひいては、私としては、今天界で論争が巻き起こっている長としての器では無いとする。」
「災厄の一つに自身もまたそれ以上であらんとする意志には、何も救えるものでは無い。」
「ただ、我々が万が一にも味方だったとしましょう。そして、裁判に介入し、第四の法廷を設ける事は出来る。そして、るしふぁあ、其方の名前で麗しい羽のるしあ、この女性を罪と罰の二律背反から助け出すとしても、既に裁判において彼女の暴走は世間一般に知れ渡っている事になる。裁判で助けても世間から裁かれ、行く宛も無い。其れならばいっそ、裁判で裁かれた方が良いでしょう。」
すると天界寺院のFAXがギコギコと紙を吐き出し始めた。
おや、とミカエルは其れを取りに行った。
アキロゼは、仲間達が何処に居るのか気になり、一旦寺院の外に出てしまった。
[ヤッホー。ミカエル?この前は約束守れなくて御免ね〜。でもこの内容とは関係無い事だから気にしないでね。–これは携帯メールから送信されています。]
[ 天界請求(仮)
地上者名:谷郷元昭
請求先:天界法廷
仲介者:天音かなた
送信先:天界寺院
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拝啓、其方の季節はお変わりない事と存じております。
この度は、地上に於いて定まりました第一法廷にて開かれます、終末の是非について、天界の第四法廷から、第一法廷以降、第二法廷、第三法廷について、直接弁護して頂く事についての契約が完了した旨の通達ともなっております。
就きましては、後日、天界法廷の皆様方へ金一封の贈賄を一時法律上有効のものとする事になりますので、何卒ご容赦下さい。 ]
〜〜
森にできた天界への岩の階段を眺めながら、不知火フレアは、魔王の事を気にしていた。
あの時の殺気は、私個人に向けての物だった。其れも自己防衛から来る哀しい殺気が丹田から溢れていた。
SSRBとの協力、その前提としての魔王の全身に及ぶ刻印の喪失が無ければ、私は疾うに闇の魔力に侵され、冒されて居ただろう。
しかし、其れにしても理由が無い。私を倒して得られる事と言っても、案件は業務へと移行した以上、私以外の者が続投する。その事を承知で無い訳が無い。
思考。当該エルフについて客観視、所属する団体、推論における抽象、そして感知してしまう仲間の姿。
フ(…不知火建設…仲間…ノエちゃん、私、未だ死にたく無いよ。)
思わず本音が漏れる。
(!!)
そして気付いた。ノエルにいつの間にか加護が宿っている事に。
(ここまで遠くから長い事感知を鋭敏にした経験はこの一年には無かったけど、確かに一年前から、ノエちゃんには不思議なキラキラ感が宿っていたというか、これは…私の加護《ちから》?)
(これなら、炎属性の宿る体以外からの魔力や膂力をかなり軽減する事になる。ノエちゃんこの前、魔王と闘ったって言ってたし、きっと魔王はこれを止める為に、私を狙うんじゃ…)
魔王の殺気、その出所にかなり有力な説を持った所で、事態は変わらない。
(如何しよう…魔王が接近して来たのは、様子見が一番大きかったのかも知れない。詰まる所、本格的な襲撃・戦争はこれから…今、不知火建設でパーティを組んだとしても三人迄。とてもじゃ無いけど、
あの風間が来たらと思うだけで、既に戦意を失いつつある不知火建設社長。だが、一筋の希望をとあるスイコパスに見出す。
裁判を始める前に出来た三陣営、その一角、星街派閥の事を。
不知火建設は既に某エリート巫女と星街すいせいを抱えている。
そして、魔王軍の襲撃があるとしても、その口実が要る。
こちらから何かしらボロを出さなければとそこまで考えた所で、そう言えば、一ヶ月程前の新聞に、「占い師、魔王を襲う」という題で星街の事が載っていたと、希望と絶望が入り混じった感情を腰に落としながら身を伸ばし天を仰ぐ。
フ(忘れてた。私が星街派閥なんだ。)
次星街が出社して来た時が命日かと思うフレアであった。
〜〜
天からの声((だが、やはり、ここでもすいせいさんがキーマンなんだな〜コレが〜。))
〜〜
其の星街はと言うと、何と今日出社しに来ているでは無いか。
す「うーん。今日も急ぎ仕事をしたけれど、そろそろ昼食休憩か〜。」
テーブルワークをして居た星街は、かなり離れた所にいるフレアと同じタイミングで腰を伸ばした。
す「さてと、今日はどの店に行こうかな〜。」
レストラン、レストラン♪と、上機嫌に身支度を整える星街。
す「お昼休憩行ってきま〜す。」
彗星の如く会社を後にするすいせい
さて、魔王軍が動くのはここから。同じく昼食休憩を取って、定時までに何をするでしょうか。
〜
さて果たして、星街すいせいが向かった場所は、レストランでは無く景気の良くない屋台だった。
会社から出て、街路樹で補正された道路を通って、公園の様な敷地を抜けると、少し広い通りに屋台がある。背景になる少し高い集合住宅3棟が社員寮だが、其の木造りの風情に見劣りしない体格のおじさんが一人で切り盛りして居るみたいだ。
す「済みません。ミニケバブ一つ下さい。」
元気で透き通る声。店主の動きが活発になる。
暫く待つ事、そこに魔王配下の女性達がやって来た。
赤と白を縞模様に併せ水色を一部足し合わせた派手な衣装で同じ色合いのツインテールの女性、少し小さく愛らしく栗毛色の髪をした何処にでもいそうな平凡な女性、大人びた雰囲気にポニーテールが秘書感を醸し出す薄紫髪の長身の女性。
女性達は、星街を見ると、屋台の方へ近寄って来た。
魔王軍「済みません。こちら、ケバブ二つとスムージー一つ。」
店主「あいよー。」
女性達は如何にも一緒に働いて居そうな雰囲気と距離感だ。
さて、分業禁止と国が命令を出したと言っても、同じ業務を繰り返し続けるだけなのを禁止しているだけだ。
具体的に出された法令には、内職にも当て嵌まる様にと、同じ姿勢若しくは態度で同様の業務を、場合によるが、1〜3時間以上持続して行う事を禁止するだけと、この様に留まっている。
学生の頃は、研究に時間を取りたい教授が学生の論文に研究して貰いたいテーマを個別に分けて与える事が、一種の自由に反するのでは無いかと国で問題にもなったから、其の場合には一時間以上は無闇に時間を取らせない様にとし、社会では一時間以上の没頭や動作の成熟は個人の自由の範囲だとして2〜3時間が健康やストレスに配慮した上での限度となって居る。
これにより、新入社員の研修は短くなり複数の部門に渡り、適齢期の平社員も居なくなりマルチな人材が微妙に増え、窓際社員は別部署で有能な新人に後輩呼ばわりされたり雑用を任される様になった。
午前中は営業、午後からは事務、と言った感じで適度に効率を落とし、充実を与えるきっかけになった。
職人の皆様方は、覚えも仕事を熟すのも早いエルフやドワーフと言った種に置き換わって百年余りが過ぎて居る。
中には見つからなければ良いと言う風潮で今でも三時間以上飛び込み営業させられたりする事もあるが、会社内の人の入れ替えは割と目立ち、お固く膂力だけある会社は潰れ、若い意見を参考にする活発な社会サイクルが報連相を公的機関に行う回数も増やした為、すぐにバレる様になっている。
又、必然的に友好関係が増え広がり、子供を必要としなくなる幸福が増えた為、人口の抑制にも効果があったりする。
又、この目立つ目立たないを活かして、桐生組の其の頭の竜の寿命から至る今日までの成果があったりもする。
「ミニケバブお待ち。」
「どうも。」
三人組に少し意識を取られながら、星街すいせいは屋台から離れる。
魔王軍O「アレって、星街…すいせいだよね。私達が考慮しなければいけない相手。」
M「ああ、そうね。不知火建設に最近入ったばかりの新入社員だって聞くけど、思ったより堂々として居たわ。」
R「ここからでも見える位姿勢が良い…まるでお人形さんの様。」
O「確か、調べではかなり報連相を怠るとか何とか。」
R「うーん。上手くいけば、利用できるかも知れない。」
M「私ちょっと、会社に忍び込んでみます。」
スムージーを仲間に任せて敷地にある業務看板に行きレターを貼り付けるM。
星街は直ぐに午後からの仕事である新規案件の受注か話合いをすべく、不知火建設本社から北に2キロの大空警察署前に行った。
建設、建設会社と言っても、土地の保護から土地家屋の測量、不動産誘致・契約、保険、改築・解体事業も一括して行っている為、マルチに熟さなければならない業務は多岐に渡り、一つ一つの建物に一生涯付き添うつもりで仕事が行われている。
星街も今回、自身の初めてでありこれから長い事携わる案件と言う事で、かなり張り切っているのだが、其の相手が先程の三人組だと分かると受け入れる側としても無視をした分だけ表情が固まるという感じだった。
紹介に預かり、オリー、ムメイ、レイネと言うらしい。
ここは大空警察署前、とてもここでは犯行に預かれない。そう思いまして、星街は、不知火建設が繋げた警察署から警察署までのロープウェイに安心して乗り、青空をバックに少し物憂げに映える星街は其の時、微塵も自信が凶悪な計画の上に立っているとは思わなかったのである。
先のレターには、見付かって居ない事を良い事に、取り敢えず大人としての文であるが中身はらしく書かれてあった。其処には社長宛と書かれており、そして…
[星街すいせいと其の業務はこちらで預かった。もし返す要件があれば、一人で魔王城まで監査に来るのが賢明だと思われる次第。]
何と、脅迫に思える文章に仕上がっていた。
そんな星街は、やっば〜い。仕事置きっ放しで来ちゃった〜、とどうにも引き返せる訳でもないタイミングで遣り残した業務に気付く。恐らく、後任のエリート巫女が保存位はしてくれるだろうが、そんな事は兎も角として、業務に支障が来すのは拙いぞ。そう言えば、として、慌てて鞄の中を探るも、其の肝心の資料を印刷するのを怠ったのか、其処には紙切れ一つも無い。
す「やばっ。」
大事なパンフレット位は作っとけよ星街。
自分に言い聞かせて足りない頭を下げる事もせず、取り敢えずは野となれ山となれと、今日は下見だから肝心の契約が無事なら良いやと、この方、仕事を先送りどころか地獄送りにするつもりである。
そんな事は露知らず、敢えて星街抜きで笑みを交わす三人組。其の笑みにはまるで成功だと書かれてあった。
本来、この移動時に簡素に事情を説明してしまうのだが、そんな事は無かった。
そして、ロープウェイは魔王城か下見の白浜に行くかの乗り換え地点に差し掛かり、ここで社長から手紙の巻かれた大きめの矢が届く。
[星街へ。次、午前中に資料一つでも作れなかったらクビだからね。]
[魔王直属の配下へ。星街は助けに行く。業務に於いても、人質としても。首洗って待ってろ。]
す「あ、コレ、貴方達宛だね。」
星街はにっこりと三人組に手紙を渡す。
渡された女性達は、手紙を見ると、これに何の驚きも隠さなかったのかと、顔の笑みを消し、星街の笑顔を見て凍り付く。
ここからどう、行き先は魔王城ですと言えば良いのか迷う三人組。
仕方が無いので、既に白浜行きのゴンドラに乗り掛っている星街には、説明したい件が誤って届いたとだけ伝える。何故かニコニコになる星街を置いておいて、三人組は臨時で魔王に雇われたから、頼むからこの前みたいな派手な事は止めて欲しい、大人しく着いて来て欲しいと懇願した。
其の余りにも悲壮なお願いに、星街は、私が居てやらないと駄目なんだと張り切り直した。
そして一向は、フレアを待つ訳でも無く、そのまま魔王城にやって来た。
魔王「待たせてしまって申し訳が無かった。急な用事でな、あの白浜は封鎖する事になった。其の封鎖に巻き込まれてはいけないからね、此方に来て貰ったと言う訳だ。」
惚と、目を少し恐怖に慣れさせて、星街は魔王を見つめる。
魔王「さて、此方で説明して貰おうか。あの白浜に関する案件なのだろう。」
自分が資料を微塵と忘れて来た事すら忘れて、食い気味に魔王を見ている。
天照((駄目だ。すいせいさん。何の魔力耐性も無い君が其れ以上魔王を凝視してはいけない。))
す「凝視…?」
其の言葉から、自分が何に取り纏まって来たかを思い出したすいせい。
次第に魔力的束縛から離れ、行動が自由になる。
す「ここでTetrisやって良いの…?」
天照((違う。そうじゃ無い。すいせいさん、貴方がここへ来た目的を思い出すんだ。))
す「私はここに、仕事に来た。」
「そうだ。私は、説明しなきゃ。」
「あの、この前の爆発に巻き込まれた人達が白浜に船を停めていた事があって、其れで、其の人達のお墓を作ろうと思うんです。其の為に、墓は敷地を取るので、何れ風化して消える様にと、海岸に人工の珊瑚で出来た集団埋葬地を作れないかって、其れが出来れば海の生態系も取り戻せると…。」
魔王「ほう。(手短に説明出来ていて良いな。)
成程。(敵で無ければ共に仕事をして居ただろう。)
(まだこんなに青いのに、達者な女性だ。)良い案だが、其の必要は無い。」
「既に、彼女等の生殺与奪の権は此方が握っている。」
す「え?私、こんな人と交渉する為に、此処まで来たの?」
天照((大丈夫だ。すいせいさん、此処から先は俺がやる。))
虚空から様々な形状をしたブロックが出現する。頭上からのプレッシャーを魔王に掛ける。
魔王「其れは既にお見通しだ。」
ブロック《ミノ》を地上に落とされ、横に隙間無く積まれ、壁を作るかと思いきや、空いた穴を敢えて作り、其処に、狙ったタイミングで敵が来た瞬間、追加ブロック《ミノ》による重量の飽和を以って、其れは魔力を炸裂させる。
今回はいつにも増しての破壊力。
一段、段差を付け、分かり易く動きを阻害した上でのロクヨン絞首。
だが、其処に魔王の姿は無く、既に一歩引いている。
天照((残念だが、其処から先は通しませんよ。))
真骨頂は此処から、引いた魔王等関係無く積み上げた物を一壁に炸裂させ、一片も余さず魔力変換する。
変換された強大な魔力は城の床であろうが地を温め、突如として魔王を天井に吹き飛ばす一撃となって、アッパーに白い壁を築き上げた。
天照((さあ、すいせいさん、今の内に逃げるんだ。))
天井に無造作に突き刺さった魔王と逃げ帰る地上の星。
其の広間は天球の様に輝き、闇夜の様にツキを示した。
〜
星街は帰る途中、例の乗り換え地点で向こうから鬼の形相でやって来る姉とフレアに迎え入れられた。
姉は星街を見ると泣きそうな顔に変わり、フレアは逆に怒ってしまった。
姉街「すいちゃん。怖かったでしょう。今日はもうゆっくり休んで良いから、早く帰ろう。」
フ「全く、何でこう事前準備とかして行かないんだ。そんなだから、変な場所に誘導させられるんだぞ。」
星街は一人魔王城行きのゴンドラに乗ろうとしているフレアに声を掛けた。
「一人で?」
フ「そう。一人で来いって言われてるからね。すいちゃんは無事だけど、一度ヤゴーに言って置かないといけない事がある。社長は忙しいんだ。」
星街「じゃあ、この事、皆さんに伝えておきますね。」
フ「ああ。そうしてくれ。」
そうして、フレアはゴンドラに乗った。
〜〜
流れ星が一条、天球に弧を描いた。
その直後、白銀ノエルから、彼女の全身を護っていた加護が唐突に消えて無くなった事で、不知火フレアの危険を察知した。
ノ「フレア?」
何も無い空閑に向けて最愛の人の名を呼ぶ。
其れは別れ際の慟哭であり、何事も無い日常の愛撫では無かった。
〜〜
特にこれと言って用は無かったアキロゼ一行は天界から離れると、リーダーの指示により、悪魔の住まう地獄について調べていた。
そんな最中の事だった。
「今誰かの名前を呼んでいたけれど、何かあった?」
アキロゼはリーダーとしてメンバーの心中を気に掛けた。
ノ「あ、何か胸騒ぎと脱力がして、フレアに何かあったかなと…」
心配になったのだ。女性の勘というやつかも知れない。
「フレア…何事も無いと良いけど…」
俯く彼女はどうしてもさっきまでの活気が取り戻せない。
「寒い…寒いよ。フレア。」
打って変わり、両腕で身を寄せながら、涙をも流すノエル。
アキロゼは心配になって、背中を摩って励ました。
「大丈夫。大丈夫。きっとお天道様が会わしてくれるよ。」
そして笑顔で雪花の方を見る。
「ねぇ、ラミィ。ラミィもきっと獅白に会えるよ。」
ら「え?そ、そうだね。」
其の純朴な笑みと瞳に思わず笑顔になる雪花ラミィ。
ア「ロボ子も私と会えたしね。」
ロ「うーん、そうだね〜。旅は道連れって言うし、いつか又出会える日が来るよ〜。」
そう言う意味では無いのだが、そう言う事にして置こう。
そして、そう言う訳で、明朗さを取り戻したノエルは泣くのを止めながら口を開いた。
ノ「うん。フレアもこんな事で泣く女の事は気にしないと思うし、団長、強くなる。」
涙を流し、一際強くなった白銀ノエルには、新たなエルフの加護が復活していた。
其れは、一時的に失われた加護を自力で口寄せする事によって生まれる永続魔法。常時、仲間のエルフが受けたダメージの属性を打ち消す効果のある属性を通常攻撃に纏わせる効果を、口寄せした本人が持つ。
ノエルはいつの間にか、一人前の騎士どころか、魔王を打ち倒せる者達の筆頭に成っていた。
これにはアキロゼも満足したのか、どうだい私が育てたんだぞと、地産地消のドヤ顔。
闇夜が草木の垂れ頭に雨を落とし始める夕暮れ、加護は燦々と草木を超え、考える葦達を照らし出している。
日が完全に落ちたからなのか、雪花にも見える様になっている。
お、と顔を上げるラミィの目には、独り輝く守護騎士の聖人っぷりが映し出され、其の奥に動き出した虎の姿を捉えた。
「あっ、駄目!」
身を乗り出し、急いで手にあるアクセサリーを掲げようとするも、虎は白銀騎士団長の喉元を狙いに、薄暗い草原に紛れて近付いてしまう。
すぐ近く、虎が飛び掛かる寸前の距離、ノエルは棍棒《メイス》で横薙ぎに茂みを打った斬る。重く堅い感触を腕が捉え、次いで大口を開けて迫る虎の顎にメイスを横口に差し込んだ。
ガギッと、一瞬棍棒《メイス》を噛んだ音がパーティ全員に伝わり、集中力を高めさせると、全員が一斉に攻撃する前に、ノエルが虎の背後に飛び掛かり、首を絞める。
逃げようと上半身を擡げた虎を逆方向に引っ張り、腰から俯いた虎の首根っこを掴み、正方向に投げ、虎を一回転させてそのままマウントを取りに行くノエル。
虎の全身を抑え付け、虎が口を開けた瞬間に叱り付ける様に座り直す様な姿勢で棍棒《メイス》で頭部を強撃する。ゴチン☆と音を立てて、虎は一瞬だけ目を瞑るも、そのまま嫌そうな態度を追加し威嚇をする。しかし、ノエルは猛牛の如く止まらず、虎に二、三発追加で喰らわせると、堪らず虎は頭から血を流し、絶命した。
近くの草叢から音がした。
ハッとラミィが草叢を直視する。
突如、絶命した筈の虎が魔力を纏って起き上がり、そのままノエルの喉笛に牙を突き立てた。
アキロゼが長剣を振り下ろし、一つに繋がっていた首を骨と骨の間、軟骨の部分で二つに分けると、再び絶命する。
ラミィがアクセサリーを構える。
?「まだなのです。」
草叢に影。虎よりも暗色に溶け易い格好で潜む一人のネクロマンサー。魔力を再び投じた瞬間、ラミィが氷柱をクナイ状に仕立て上げ、草叢に飛ばす。しかし、其れらは彼女を守ろうと召喚されたアンデットに弾かれ砕かれ、虎の顎だけが復活してノエルの喉を食い潰した。
ガッと声ともならぬ音を吐いて、草原に倒れ伏す白銀騎士団長。
影は何の因果か、其れをほくそ笑むと、ラミィの大氷結を何かを召喚して躱した。そして、月明かりが綺麗に整った小顔を照らす。
「お久しゅう御座います。皆様。今宵は一人、されど大事な御仲間の御心を頂戴しました。ネクロマンサーの麗羽です。」
其処には、一年前の大爆発で行方不明になっていたあのるしあの姿が。
る「其れでは、お後の方は私が宜しくさせて貰います。行け、ファンデット!」
草原、いや何もないところからパーティを囲う様に特別な魔装を施したアンデットが多数出現。
死角を無くす様に辺りを見回すパーティメンバー。そして震える首を擡げながら、白銀ノエルが起き上がる。
カッと目に光を戻すと、虎の頭部を引き離し、盛大に復活する。
どうやら胸に蓄えたハイポーションが頸部の即時再生を促したみたいだ。
る「くそッ。巨乳が。何でもありかよ。」
悪態を吐き、ノエルを睨み付けるルシファーこと麗羽るしあ。
ノ「あっ。君はあの時の…」
ア「下がって!アレに巻き込まれたら、危ない!」
するとロボ子の手が伸びて来る。
ロ「アレはもう覚醒している。この前の蘇生の比では無い。」
其の言葉を聞いて納得したのか。肉体を手に入れている彼女は流暢に言の葉を流す。
る「そう言う訳なのです。魔王の配下を承りました第三席、四天王の一人なのです。」
ア「噂は本当だったのか。」
「でも、ここで出て来てくれて有り難いな。もう二人目か。」
少し乱暴に光を宿す瞳が麗しい。
其の殺る気のある瞳を見て即座に魔力を込める。
る「ファンデット。やれ。」
鋭利な魔装をした赤い瞳のアンデット、否、ファンデットがパーティに襲い掛かる。
アキロゼは軽いステップと鋭い踏み込みで、鎌を避け、骨を両断しようとする…も、魔術防壁で強化された骨格用のプロテクターが其れを止める。
ア「拙い。」
(私達をここで完全に倒すつもりは無い。避けようと思えば避けられるし、何より、あの娘、帰る気だ。お家なのかお城なのか分からないけれども、兎も角ここは足止めで十分と考えている。そういう相手のやり辛い事ったら無い。直線的に戦わない相手なら、ストレートの差で鼻っ柱を折ってやれば良いけど、できないと時間だけが過ぎて行く。其の間に更に対策でも立てられたら拙い。)
他の面々もかなり苦戦している模様だ。完全に一行《パーティ》の大振りな動きを見切った上で魔装を施している。
る「では、お先に預かります。」
お辞儀をしながら、スカートの丈が半分になる所を両の手で少し上げて見せる。
其のポージングは思った以上に焦りを生み出すのか、アキから声が上がる。
「待て!逃げる気か!」
る「そう言われましても、こちらは未だ様子見でしか無いのです。未だ不慣れなものでして。」
ア「何…仕掛けて置いて放置とは邪道だぞ!直接闘え。ネクロマンサー!」
る「ああもう。煩いな。ネクロマンサーが直接闘うってどう言う状況?」
其処で会話を区切り、静寂という名の静粛を間に送るしあ。
そしてアキが口を開き掛けた時、るしあが先に言い遣った。
「其れでは、今度こそ、さようなら。次会う時は、気を付けて来て下さいね。」
「るしあは一度死んだのです。」
言い終わるや否や、パーティは多数の骨《ファンデット》に組まされた。
〜〜
さてと、一体全体不知火フレアに何があったのか。其れを見せなければならない。
魔王城のゴンドラ降り場に到着したフレアは、魔王に直ぐに会いに行った。
降り場には数段の階段を越えて大部屋への入り口がある。
其の入り口は闇で閉ざされており、とても人が生活している様に思えない。
まあ、主人の魔王としては外部に比較的近い所として節電をしているだけなのだが。
そして其処の夜が掛かった応接間でフレアは珍妙な光景を目にする。
フ「天井に…突き刺さってやがる。」
其処には一体いつから窒息しているのか分からない魔王の霰も無い姿が。
正味、交通事故に遭ったレベルの衝撃を受けた筈の魔王の五体は満足だったのにも関わらず、城の特防木壁の壊れ様と其処に上半身を呑まれぶら下がっている姿には、誰しも写真を撮ってしまうだろう光景に仕上がっている。
フ「まさか、死んでいる?」
其のお通夜にある空気を醸し出すと、其の視線の所為なのか、魔王の身体が揺れ動き、未だ生きている事を表わす。
ボコッと、鈍い音を立てて、頭部を骨折している魔王は、力も無く幽体の様な姿勢で降下。着地は膝から崩れ落ちるかの受け身を取る。ドスンとして、年甲斐も無く腰を打つも、直ぐに起き上がり、顔面を軽く押さえると、フレアに向かい合う。
魔王「ご足労だった。」
労いの言葉。ただ、フレアからピリピリした苛立ちを感じると一言挟んだ。
「そして、どの様にこちらに来るおつもりになられたのかな。」
フ「コレ。」
ピラと、例のレターを魔王に見せる。
すると殊勝な面持ち(見えないけど)で謝る魔王。
魔王「うむ。済まない。手違いで人を巻き込んでしまった様だ。こちらからは、如何にかして星街と不知火を連れて来て欲しいとだけ頼んだのだが、やはり、手間が掛かっても直電をするべきだったか。」
フ「ああそう。随分とやり口が臭くなったもんだねって言いに来たんだけど、其れも必要なさそうだね。」
反省の色が濃い魔王を見てやるせ無くなって来るフレア。
「其れで、直に会いに来いって、何が用なの。もしそうなら、良い加減、新しい事業に手を出すの止めたら?あんたのそういう所さ、少し乙女心にクるんだよね。」
本題と核心を切り出すダークエルフ。そして、魔王は…
「ああ、少し手荒くなるが、君と新進気鋭の騎士団長との魔力パスを切ろうと思ってな。」
フレアは隠し持っていた弓矢を回しながら取り出し、魔王に向かって番えると、こう言い放った。
「前言撤回。今のあんたには、微塵も譲歩しない。其れか、ここで死ぬか。」
魔王は其の態度には動揺を見せる事はなく、あくまで慣れた口。
「残念だ。この前の君のやり口だよ。」
フ(フレア!下か。)
気付いた時には既にお寿司という奴か。フレアの居る真下に魔法陣。天井の空いた穴から拘束具の形をした魔力塊がフレアに向けて飛来する。
魔法陣がフレアの精神と魂に介入する。
フ「ぐああああああああっ」
叫びながらも、魔王に忠告をする。
「こんな事始めて、いつからマジモンの悪になったの。この馬鹿!」
魔王「済まない。こちらも命が掛かっているんだ。分かってくれ。」
「あんた、何れ…s」
うわあああああああと絶叫が巨大な応接間に広まり、フレアは倒れた。
魔王「何れ、か。魔王を張ってからの私はいつもこうだな…。」
悲しい背中が倒れ伏した細身の女性を見遣る。
世界はそうして変わってしまうのだろうと、いつもの事だが、やはり世界は皮肉でできている。
〜〜
エルフ、膨大な魔力を生まれつき備え、大自然と共に過ごす事で其の完全なる制御を齎せる種族。其の加護とは、認めた相手を同じく自然の一員として、強大な大地のうねりの中で、代を重ねる毎に自発的に宿されて行く能力を先借りにするというもの。
魔王はこれをノエルにではなく、フレアを使って引き剥がさんとして、多大な魔力を投入した。
勿論、この加護を消す為に、魔力パスを切るのだが、其れは自然そのものを破壊する労力に等しい。
其れを一つの魔法陣で行うにはショート寸前の魔力供給を行う必要があり、魔王はフレア以上の疲労困憊、そして頭部の損傷を加味すると既に満身創痍だった。
魔法陣は最後の段階で完全にショートし、其の魂への干渉を可能とする精神術式は消え掛かっている。
其の跡に倒れ伏し、大切なパートナーとの縁が切れたダークエルフ。
心中では、どの様な邪悪な思想が、加護ができる程の相手との縁を断ち切らせたのか。
恐らくは、そう、パートナーに殺される夢を見させられ、其の直後にずっとこうしてやりたかった等と一言残された…そんな辺りの精神介入だったのだろう。
其のフレアに対して、戻り来た加護の魔力が一飛びで魂の傷痕に入れ込んで来る。
加護の中からノエルの生霊が飛び出し、フレアに口付けをした。
遠く離れた地からこの様な事を行うのは口寄せと言われる。瞬時に相手の霊体を引き抜き、自らに付与する事が可能となる。
其の口寄せ伝いにフレアの精神は、ノエルに干渉されようとしていた。しかし、直接心臓のニューロンに愛憎が揉まれた妄念が発現し、魔力で繋がりが切れた以上、フレアは其処まで届かず、代わりに生前へと干渉する死後発動する筈の魔法が、妄念によって捻れ、ノエルの守護騎士としての性格にエルフの加護という特守が融合された特性が生まれただけに留まった。
魔力は魂を触媒として、肉体か精神のどちらか又は両方を干渉させる事で発生する。
この程で、他者の魔力は嘗ての肉体であり精神だったものの霊的な干渉でしか無いと言える。
自然に眠る魔力は、何かしらのうねりの中で巨大な魂と呼べるものに触れ、先ず肉体美と精神器に分解された結果、其々が其の巨大なあったものと奔流を作り上げ、今も尚、身体の代謝、精神の充足と同じ様に、対流・循環してある。
さて、ここで、フレアは大自然の魔力を使って、ノエルに自然発生的な能力を先取りしたが、この時空を照らす試みが、生前干渉という形で現在進行に加護を定着させて行っているならば、精神が不安定になったフレアからして、あのノエルはどの様に映るだろうか。
答えは、相変わらずである。
少し違いがあるならば、自分を守ってくれる守護騎士から、何れ又自分を守ってくれる筈と、この様に変遷してしまっている。
しかし、魔王からして失敗に終わった今回の干渉、魔王は分かった上で、フレアをゴンドラに乗せ、乗り換え地点までには起きる様に術式を工夫しながら、病院と協力者に連絡を取った。
協力者というのは、今回使用した魔法陣を作るに当たって参考にしたるしあの魂と通信ができる様にした何某である。
るしあはまだ、世間的には霊魂のままとされており、自力で前八席を蘇生《ネクロマンス》して、其の復活分の肉体を手に入れた事は、まだ広まっていない。
其の第三席が起こした様子見とは自分の実力の事であるただの腕試しである其れは、女勇者《アキロゼ》を呆気なく追い詰めていた。
〜〜
鋭利な骨と緑の魔が目の前一杯に広がる。
魔装の鎌とプロテクター、骨の継ぎ間が全部見える様な格好で威嚇したかと思いきや、そういや骨に本能は宿るのだろうかと疑問に思うが早いか、青女達を押し倒そうと急に迫るファンデットに急所の露呈は無く。
何とも良く出来た包囲網だ。
パーティメンバーの間には召喚されず、壁を作る様に輪になり、背中合わせで戦おうとした結果、骨だけである軽さと隙間を活かした飽和突進が、其の際に集中から浮いた魔装の挿れ込みと、諸共貫く関節の魔力ギアで、いとも易く防御を押し退けて、血を見る結果を作る。
女性の身長を超える男性骨格の守りは精神的な面が大きく、本能的に硬直する一瞬に、女性を大きく抱擁する様に、上から目線の頭蓋骨がいつでも攻撃できる様に、魔装に繋がった魔力で連動して襲う。
其の魔装も、クワガタや蜂の顎、カマキリの鎌、竜の翼骨格を分解し先端に垂れ下がる様な刀剣を持つ攻撃的な格好をしてあるのだが、特にこう言った体と骨が組み合う闘いにおいて、分かりやすい追撃となる。
ア(そうか。魔装に連動した魔力を逆に活かせば良いのか。って、拙い。)
手足を使って肋骨との間を作るも、逆に無抵抗になった急所の柔肌に攻撃が振り下ろされる。
寸手の所で身体を捻って交わすも、急所の周辺にぱっくり割れた切り傷が出来る。
血を流し、上手く骨と魔装で固定された現代アートみたいな肢体。
当然、ファンデットも静止するが、徐々に魔装を引きずり出す其の力で、鋸の様に、防具を付けていないアキロゼとラミィの肉を削って行く。
ア(クソッ。こいつら、骨格の比率まで計算されているのか。…っ。痛っいな〜もう。折角新しい服買ったばかりだってのに。)
(ラミィの氷結だと巻き込みが厳しいし、ロボ子の駆動だとよくて全体の魔力と互角の出力。ノエルと私は急所が守られている敵とは、こうやって組み合うか、そう、魔術でも無ければ話にならない!)
第二撃。
更に手足がリカバリーに入るのが遅れる状態。大きく空いた腹を鋭利な武装が反射的な運動で貫通して行く––。
内臓から出血し、全員、程度の差、反応迄の時間に差はあれど吐血する。
更に第三撃。多量の血を流し、大きく体力を減らした一行に待ち受けている止め。
頭部を狙う最悪の一撃。
ギアの駆動音が容赦無く耳に届く。
一撃。
彼女等を待ち受けていた死の定め。
逃れ得る術は、大元の魔力を止める事。
ネクロマンサーが場から離れた今なら、其の総量は大した事が無い。
ギアが突っ張る様な音を立て、骨が軋みを上げながら疾駆する其の間際、魔力を吸収する術を持ち合わせた協会所属の二人が、ラミィの氷結効果のあるアクセサリーを介して、其の魔力をノエルに付与する。
魔力を受けて大きく反動で身を起こすノエルはそのまま骨と魔装を吹き飛ばし、巨大化した棍棒で骨の囲いを薙ぎ壊した。
ア「はぁっはぁっ…ゲホッガホッ。」
全員、ハイ・ポーションを普段の主食にしていた分だけ贅肉と余計な血が付いており、かなりのダメージだったのにも関わらず、死は免れたみたいだ。
草原に流れる夥しい血。明暗の違う其れ等が混ざり合い、流れが溜まりへと変わる。
ドクドクと血を流しながらも強靭な二足で起立して居るノエル。
ロボなだけに流すのは血だけで良かったとするロボ子。
氷結で傷を止め、体力をギリギリに保つラミィ。
そして、死に体のリーダー・アキロゼ。
既に第三席の残り香も無い。
そして追手も居ない。
故に、この戦い、辛勝だった。
…戦いに来たが嵌められて十二分に力を出せずに抵抗だけしていた四天王のドラゴンとは違った。
殺しに来たネクロマンサー程、この世で相手してはいけない存在はそう居らず、あくまで迎え討つ前提の攻略では、手薄になる自身が狙われた。そして、当然ながら第三席は無傷。攻撃こそ最大の防御とはよく言ったものだ。
〜〜
〜〜〜
とある折。
件の裁判に干渉をしないのをモットーにする白上派閥筆頭・白上フブキは今日も元気にゲームとアニメを楽しんでいた。
「いや〜。この攻略は伊達には行かないっぽいですね〜。」
「なんかこう、キャラの組み合わせからしんどいからやり直すべきですかね〜。」
「もうちょっとこう、戦闘力が欲しかったというか、逃げ回るだけだと某鬼作品と同じでホラー要素マシマシじゃないと楽しめないかな〜。」
でもまあまあだな〜と、身体を伸ばしながらゲーム機を掲げるフブキング。
このゲーム、一年前の死者蘇生をへて、隣国で蘇生実験が続けられた結果、この国にも波及し昏睡状態になるまで魔力を抜き取られた人達を抜き取った魔力で操る目的で始まった魔術式《プログラム》が元になっていて、今も尚、其の操られた人達が迅雷の如く出現するという曰く付きの品であった。
だがこのフブキング、曰く付きだからこそ、中古の限定版を遊んでみたくなる気持ちも未だありふれていた若い頃を思い出せる歳月しか過ごして居ないのであった。
〜※〜
フブキングが楽しんでいるゲームは、オープンワールドでキャラを操作しながらゾンビやらドラゴンを迎え撃ち、規定の素材を集め終わったり道具の使用を行うと裏のプログラムが自動的に一つのレシピを生成すると言った物で、オープンワールドなのにワールドが複数ある仕様を残した少し風変わりな物だった。
従来の操作に比べて、かなりキャラクターの技の種類が多く、選べるキャラも魔法少女から軍人、シェフまで幅広いラインナップで、オンラインでの通信協力が可能になる他、最後には自分が育てて来たキャラで他プレイヤーと格ゲーもできるお値打ち品だった。
シナリオはそこそこの出来である。
ある時、割と有名なアイドルが、抗争に敗北し潰れ掛けている女ヤクザと共同の事務所で生活する羽目になり、其の最中、とある病院の地下で人体実験が行われているという噂が広まり、ヤクザはシマとメンツの為、アイドルはユーチューバーの様に、其処に潜入して行く。其処ではゾンビが発生しており、これを何とか倒す・逃げ延びるの両方の選択をして、攻略を進める。病院には謎の組織のロゴが使われており、其のロゴが事務所とスポンサー契約をして居た事から、其の組織に迫れる様になる。また、二人の共同生活に聞き及んだ報道が、ゾンビ病院の動画の高再生から熱を帯び、これに正しく問答すると、新たな組織の下へと行ける様になり、ソンビを打ち倒せる魔法少女の要素を得られる。
病院には後から駆け付けた軍人がおり、アイドルは軍人と、ヤクザは彼氏と出来上がってしまい、其々別々の新キャラと行動を共にする事になる。
すると、病院からウィルスを打ち破る抗体が取れるドラゴンが出現。これを打ち倒す事はできず、飛び去って行くドラゴンを追う事になる。
追う中で、ドラゴンはゾンビの居る場所を狙って飛んでいる事、謎の組織は最初からアイドルとヤクザの肉体が目的で、アイドルが魔法少女になって居る場合、これと直接闘うストーリーに転じる。
バイオハザードは更に過酷になり、手持ちの武装では闘えなくなって来て、分かれた二陣営が共に手を取り合いながら、別々の組織の支援によって戦いが続く。
そして、最後に組織同士の板挟みによって、二人は駆け落ちするか闘う事になる。
〜※〜
そんな風に楽しまれる白上神社、災厄を封じる目的で作られた彼女のマイホームに、未知なる足音が進んでいるのに、フブキングは気付いて居ないのである。
開けっぴろげられた御殿を見るからに、其の伊達に大きな狐耳は飾りなのかと言いたくなる無警戒ぶりが露わになる。侵入者も此処に神秘の極致があるとは気付かない。
ゆっくりと半歩ずつ、然りとて分かりやすく、着実に白上の居る御殿へと足を進ませ…ズバリと、瞬間的に対象の姿が消え失せ、御殿の丁度外に血痕が残された。
そして、主人なき神社に、ドタバタと、侵入音だけが聞こえ響く。
山の方からは、剣戟と思しき金属音と居場所を瞬時に伝える火花だけが朝早くの冷たい暗闇に溶け込んでいた。
白「私の攻撃をフライパンとナプキンだけでガードし続けるとは、お主、できるな。」
?「其方こそ、今直ぐにでもゲームに戻りたそうな手着きでよく此処まで俊敏に動ける。積み上げたものが宿る足腰だけは格別という事か。」
Azki「はい。という訳で、遂にこのコーナーが帰って来ました。我々、かぼちゃあずきの名に懸けまして、このゲームを動かしておりますソフトは皆様の置かれましたバイオハザードの元凶の一つであると断言できます。これを放って置くと、自然由来のマナが魔術式に浸透しまして、周囲のウィルスが自発的にターミナルを迎え、人々の内にあるRNAとDNAの結び付きを剥離。其のDNA保持者が自身のRNA代謝に突き動かされ、ゾンビが発生してしまうのです。我々はこの悪しきゲームソフトを一つ残らず破壊するのを目的と、此処まで来ました。其れでは、我等が桐生ココ。最後の破壊をお願いします。」
白「ちょっっっと、待っった〜〜〜。」
「折角買った中古ゲームの攻略が分からんで終わるのは末代までの恥じゃあ〜〜。」
シェフとの戦闘を放っぽり出して、御殿に即帰宅する白上。
「其れに、此処では荒事は禁止!今から私はこのゲームに没頭するから、其れなら別に良いでしょ。」
コ「そんな事言われてもな〜。このゲームは、私達の戦闘行動に悪影響を与えかねないし、何よりも其れで人質になってるのが許せんのや。」
そう言うのは昨日、勇者パーティに敗北した桐生組会長。
しかし其れは其れで白上はしっかり正座でゲーム機を握っている。
白「じゃあさっさとクリアするから、って、あ、拙…この娘闘えなかったの忘れてた〜。」
Azki「あ。そのままで行っちゃったんだ。」
コ「ほ〜ん。道理でコッチでもAzkiが魔法使えなくなってた訳だ。そんで、いつからやってんの?元王様。」
ビクッと全身を奮い立たせるキツネの神霊。
コ「…其の分だと一年前からやってんね。このゲーム。」
Azki「あ、そこ、インタビューはちゃんと受けないと。変な事言っても、大丈夫。メディアは駄目でもネットには好印象なんだから。」
白「え?ここ?こんな前半部分にあったの?」
渋々、自分が鬱陶しいからという理由で応じなかった報道への受け答えを勉強になる元国王。
ピローンと奇怪な音を立てて今まで入らなかった分岐へと進むフブキは、少々背が小さい。
白「なんじゃこいつら!報道の裏に入り込んで好き放題情報統制していたな!悪《ワル》め!」
ゲーム中に邪魔されると、唐突に現実の入り込んだ推論を繰り出す様になるのは、万国共通だろうか。
Azki「あー、言われてみれば、悪い奴らだったかも…」
少し、自分と隠している秘密に自信が無くなるAzki。
コ「ああ、そこそこ、其処から、文脈通りオーディションは受けずに社長室迄忍び込むんだよ。」
すると、画面の内部では悪しき呪いを身に付けたゾンビを掃討する為、魔法少女に派手で着実な変身をする少女の姿に似せて、ゲームの内から魔力が迸り、Azkiが同様の服装チェンジをして行く。
キャピーン キャルーン スチャーン
本来なら、ゲーム画面に釘付けになって、遠い場所に居るAzkiの変身には気付かない訳だが、今回は特別。えっ?えっ、と画面と現実を交互に見る白上は、国王の面影も無く、いつものフブキだった。
Azki「β版の恩恵も頂いたこの私なら、今迄の禍根、今に絶って見せましょう!」
白「β版!?」
「これ、中古の限定版だって…」
Azki「ああ、其れ、ただの詐欺ですね。正しくは限定品です。何処で情報が食い違ったのかは分かりませんが、ほら、ここに、ラベル貼ってありますよ。私達がゲーム会社ごと木っ端微塵にしてしまった際、巷に流出したんです。」
少し、吃驚気分に胸が熱くなる白上のフブキング。
白「…っと、そう言えば、ココちゃんドラゴンだったけど、ストーリーとは食い違うのかな〜。あの時もドラゴンだったし…」
コ「あー、其れは私が最後に其処に居るドラゴンと融合しちゃうんすよ。其れで…」
白「あー!ちょっと待って、ストップストップ!ネタバレ駄目絶対!」
コ「て言うか、其れってフブキさんの我儘ですよね。私達にも人権ってのがあるんだから…」
白「いや、だって、若しかしたら、攻略し切らないと駄目なのかなって思って。て言うか、仮にも不法侵入なんだから、其方だって自重する必要はあるでしょ。」
Azki「其れは、確かに急いでいたので、迷惑をお掛けしましたけど、大丈夫ですよ。ここの神主さんにはお願いがあって入って来てますから。」
白「え?じゃあ、あの襲って来たのは私が育てて来ていたから何だよね…アレ?白上が悪者…?」
コ「あー、大丈夫、大丈夫ですよ。其れにさっきの話、ウチの奴らに総出で私を使えって言って置きましたんで。コピー版で。其れより、Azkiの仕様はそのβ版じゃないと駄目だったみたいなんですよ。」
白「え?其れ壊して良いの?」
コ「本人が望んでるので、しゃあないんじゃ無いですか。今でもアイドルに戻りたいって言ってますし。」
Azki「あー、其れ、言わない約束!私は報道やってて、其れで毎日胸が空くの!其れでアイドルだなんて言ってしまっただけなんです。」
どうやら、事はそう単純では無いらしい。
白「あ、っていう事はあの事務所、若しかしてこの国にある?今度遊びに行こうかな〜。」
コ「あー、カチコミっすか。良いですよ。其れなら受けて立ちましょう。」
「ちょっと、今、良いっすか。」
そう言うと、Azkiに耳打ちをした。
「私が連れて行くから、今の内に破壊しとけ。其れで全てが終わるんだろ?」
言い終わるなり、少し悩む白上を連れる。
Azki「ああ、うん。分かった。」
しかし、白上は考え無しでは無い。
白「…其れじゃあ、念の為、壊されない様に、小さいフブラ《この子》置いておくね。」
鞘から刀剣が光ると、刃文が一つ揺らいで小さくなり、光から白色の猫型二足歩行の奇妙な生き物が出現した。
Azki「えっ?」
思わずその小さな怪生物を見つめるも、キシャーと威嚇してこちらの破壊欲求を削いで来る。
Azki(拙いな…このままだと壊せないかも。)
〜
表に出た二人は神社の外に出る。
神社の中に居た頃から分かっていたけど、あのゲーム機は破壊させると二度と真相が解明できなくなる代物だ。
…嘗て流行った時代の雰囲気全てを詰め込み、戦闘を主体とする環境同士の雌雄を決するという壮大なテーマにあった物語、其の主役たる大怪獣の名前、ゴジラ。フブラ、其の名前の片割れを借りて顕現した真白き守護獣神。性能は勿論の事、内側にて起こる一、二族の元素の水酸化爆発をテルミット反応の亜種型で起こせる器官を持つ事が名前の由来となって居る。
其れを一体、護衛に置いて来た。
鳥居から出て其の手前。
桐生ココは、白上フブキを睨め付けた。
自分達の行動制限の事でも、相手の実力の如何でも無い。
遊んでばかりの白いなんて事のなさそうなキツネの神霊、其処に幾らかの威厳と格式はあるのだが、其処からは元国王としての上に立つ者の流儀から掛け離れている生活にも感じられる。
其れを見定めようと言うのだ。
自分達の経験して来た人生が通用するしないに関わらず、この狐女を明らかにしない訳では、丁度良い機会を無駄にしてしまう。其れでは自分らしく無いとして、流れに乗ったまま、受けて立つ格好になった。
コ「いつでもカチコんで来て良いですよ。私の額から血を流せれば、其れでこっちの代紋は割れたも同然っスから。」
白「へぇ…先手くれるんだ。案外根が優しいのかもね。良い目してるよ。」
言うて、白上もスッと細める目が間合いを測れる。
その眼差し、電気を点ける様に、ダイヤに光ると、愛刀を差し抜き、手足を回しながら縦に峰打。
幹竹割に衝撃が走るも、桐生ココは仁王立ち、其の額、傷は無く、全身から迸るオーラが峰から額を護っている。
白「!」
額に視線を合わした時、既に頭部、体は沈み、ドラゴンのオーラを纏った強靭なマッハ突きが白上の腹部にめり込む。
受け身を取りながら納刀・減速し、体勢を立て直すと、4足歩行近い格好で居合斬りを敢行。狐が走って飛び乗る様に頭部が徐々に大きく見えるだけで肢体と間合いを測らせない武の位。
桐生は右足を一歩引き、肩に刀剣を当てる様に躱す。今度は峰打では無いのか、肩の服一枚華麗に舞う。
白「成程。其のオーラは中々面白いね。汎用性が高い。ミオとどっちが強いかな。」
近接で間合いを測る両者。重要なのは近さでは無く遠さ。刀剣が斜めに振れて、切れるかどうか、其の際の間隙の多数さを図る五次元思考、六次元的な移動法。摺り足、靴で摺るには慣れよりも足の形が綺麗かどうかで決まる。ここで、桐生よりも白上の方がずっと華奢で透き通った手足をして居るのは、下半身の間合いの深さが証左。
いつの間にか稽古の様な型取りをして居る白上の上半身は動作無く。
その太刀の腕に気付いた時には体を尾っぽを軸に斜めに回転し躱し、続く尾の追撃、手足に絡みさせすれば、取ったも同然の腰の上下運動が待っている。
しかし、躱される際の腰肩に来る衝撃を流す深い位置取りに、肩甲骨と背中の微細な筋肉で、即座に直線距離の返す刀、斜線に突き込む刀剣、空気を払い、体幹が末端に移る敵方の肉体、ガラ空きの胴体、鞘に重ねて隠し据え、手足を伸ばす様に全背を使って鼻息に横薙ぎ。
打突の瞬間を回転で体重の乗った肘でズラし、オーラでガードするココ。ドラゴンの肉体を凝縮した様な密度に、刀剣は掴める頃合いも。
凛と納刀の仕草に、そのまま片手で突き刺す動作、逃げる胴体のあった空間に滑り込ませる右半身、特に肘と膝を連動させ、膝のクッション、肘の流れ、納刀にて、間合いは明白。
居合一閃、先程まで白上のあった空間にマッハの衝撃波と正拳。オーラどころか肉体をも綺麗に通り抜けた刀剣は、いつにも増して迷彩に地面に溶け込んでいる。
コ(切られた…?刃が通った感触は上半身を通り抜けたけど、遅れて来る痛みが皆無。コレは…)
白「おっと、どうやら分けた様だね。引きは足りなかったけど。」
随分と上から目線のドヤ顔を隠しきれていないフブキング。頬が一段とプニプニして来た振り返る頭。
圧倒的な実力差を意に介して、素直に口上を述べる。
コ「こっちの押せ押せは業界共通の代物ですけど、全く違うのですね。刀剣と拳では。」
案の定の感想に決め台詞。
白「まあね、得物の扱いは柔と相場が決まってますから。」
存外な程に決まった決闘は、終わるには早く、又、御殿での葛藤も始まって止む無しの事。
〜
Azki「ああ、もう。そこ退いて。その機材に触らしてっ。」
フブラはキシャーと唸るばかり、とてもじゃ無いけど、ここで得体の知れないこの生物を爆るのは、気が引ける。
何度目かの空気格闘の後、ゲームから徐々に魔術が漏れ始めるのを確認し、急いで魔導具《ステッキ》で破壊しようと試みるも、豪炎を吐かれた。
白「ああ、もうフブラ。分霊だからと言っておいたは過ぎません。めっ。」
シューんと耳ごと体を倒し、反省中のフブラ《わるいこ》。
白「さてと、続き続き。ん?待てよ。このゲーム、今の環境も含めるともっと面白くなるのでは?あっ。マトリョーシカして…ゲーム内でのゲームの進行度をどの程度にすれば大小ループは適切な魔法陣を描くのか。」
Azki「あの…他人の話聞いてます?そのゲームが元凶だって…」
白「そんな事言うより、魔法陣でも勉強して魔導学校の教師にでもなった方が無難だと思うがねぇ。」
Azki(其れはそうだけどっ!!)
若い女の去り気ない葛藤も見て見ぬふりか。白上。
白「白上で良ければ論文の手伝いするよ。この不可思議なゲームについて、攻略して欲しい所があったら、言ってみて。」
Azki「〜〜///……そうじゃなくて……」
白「そっちの身の上話は聞いたからさ、折角なら、一緒に遊ぼうよ。」
〜
Azki「ああもう。何でこう年行った人は自分の意見だけで進めるんですかね。ちょっとは他人の話聞いてくれても良いのにっ。」
そう言うあずきは今は境内。後で又取りに来ますからと言って、白上の老害(?)な態度に腹を立てている。
コ「まー、其れは言い終わらないと意味が無いからってだけじゃ無いか?将棋の読みと一緒で。」
Azki「ああ、あの素人が勝手読みする奴…ああ、私の事か。」
そう言うと氣がしょげたのか、境内の只中で一人蹲る。
Azki「…学校の先生か〜。子守は苦手ってわけじゃ無いけど…」
コ「良いんじゃ無いか。子供を立派に夢持てる様に育てる職業。若しくはあのしゃべり方なら、大学の教授って線もある。まあ、何にせよ、万年、一番社会を分かっていない職種ランキング一位だけど。」
ははははと境内で盛大に笑う万年社会を裏から支えているこのドラゴンは分かっていない。白上の意見は、あくまで頭を柔らかくする為の誘い文句でしか無い事に。
そう老いとは、思ったよりも早くやって来るものなのだ。
Azki「…闘ってどうでした。私と二人なら勝てそうですか。」
ややっと首を横に振ってお手上げポーズの桐生。其の空の手には、何か掴めたものがある訳では無いと表現していた。
コ「無理だな。あの調子だと今度はハンデ無しになりそうだし、何よりも私達を強化してくれそうじゃ無いか。今までとは違う。あそこまで良い人、良い神を裏切ってちゃ罰が当たるってなもんだ。」
Azki「其れもそっか〜。気分転換に戦闘でもしたかったんだけど、そんなに強いのか〜。」
未だ我が目で見たもの以外は信じられない年頃のあずき。ぶっちゃけ、魔王よりも強いんだな〜コレが。
コ「さてと、そろそろ行くぞ。先ずは全部引っくるめて、謝る所からだな。」
決断の時間だと、静止しかけていた雰囲気を引っ張る会長ドラゴン。ゆっくりと御殿に入っていく。
Azkiは其の背中を見て、強くなろうと決めた。
〜
Azkiが行くと、其処にはココの姿は無く、キシャーと鳴くフブラが数頭、御殿の前で威嚇している。其の後ろには、「気が変わった。攻略は自分でする。」と書かれた段幕が落ちている。
そして、中を覗くと、複数のフブラに噛み付かれながら正座で何か頭を垂れている桐生組会長の姿があった。
そば耳を立てて、話を聞くに、修行を付けて欲しいとか、何か困り事があったら助けに行きますとか、完全に内弟子の気分になってるけど、本題はそうじゃ無いみたいだ。
「ヤゴーについてどう思いますか。」
白「う〜ん。悪い奴じゃ無いと思うけど、ちょっと急ぎ過ぎなのがな〜。何か悩み事一つでも持ってれば話し易いんだけど。」
桐生ココは成程と言って、感謝の頭を下げて、面会を終えた様子だ。
私はどうしようか。
ここは様子を見ていても仕方が無いから、ココと同じ様にしてみるべき。
→もうちょっと様子を見て置いたほうが良いかな。
そうだ。ココからしてもわざわざ今聞く必要がある質問とは思えない。其れに、今はボトボトと廊下に落ちてるけど、あのフブラをどうにかしないと、入れないよね。
存外、たくさん集まると可愛いものだと、フブラを眺めていたら、日が沈んでしまった。
ココはと言うと、神社の外の何処かで待機している
そんな折。新たなバイオハザードの予兆を嗅ぎ取った私は、自分の女の勘を信じるべく、山に登った。
〜
山は舗装されていて、迷う事もなく、頂上まで辿り着けたけど、肝心の兆候はもう一山越えた所からしか見えないみたいで、日が沈む日照線が見える街を見て、少しだけ勇気が湧いた。
後で帰ってからココに聞いて見たけど、もう一山越えた所には草原しか無いと言われて、其処で嘗て起こった埋葬の事例を調べて見たけど、青上草原には1500年前に其処にあった街の出来事の復刻版ゲームしかヒットせず、電波も悪い所だから、何か胸糞が悪くなるだけで、収穫はゼロだった。
そして、明日朝から調べに行こうと、開拓者達と連絡を取り合った所、どうやら、あの草原で回復薬も効果が薄い事になる位、ネクロマンサーが暴れたらしいと病院勤務の仲間が話してくれた。
〜〜〜
開拓者達から聞いた唯一残された街の最も近くにある病院へ向かう。
病院と聞いた時、自分の経験を思い出した。魔法少女になる前のただ逃げていただけの時期、自分は裏社会の肥えになるのだと言う恐怖と、共に手を取り合い築き上げることの出来た友情が霞んだ巨大な生物との出逢い。疑っていた組織が味方だった時の煮え切らない自分。
どこまで言っても追われるだけならば、立ち上がるだけで良い。
そう言われた時の安心感から、私は確かに変わってしまったけれど、変わらなかった想いが嘗ての心情を思い出せと揺さぶって来る。
アイドルを目指していた純粋に努力できる場を探していたあの頃。自分の全力を世に解き放ちたいとしていたあの頃、始まりの決断の瞬間の勇気。
私はいつまでもここに居るんだと誓った直後の出会いから、自分の居場所を探して止まない今に至る迄、多くのものに出会って来た。
正直な話、調べたばかりの青上の生贄と言い、経験した病院の地下と言い、憧れが変遷した死者蘇生と言い、この国には甚だ、土に還るコツが抜けていると、自分はいつ大地に還るのだろうかと思わざるを得ない。
…今回行く病院には其の類の噂が無い為、健全で、又、最後まで看取ってくれる魔王配下第六席、癒月ちょこが居るとか。きっと素敵な人で、あの赤井はあとやウチの桐生ココとは別ベクトルで強い人物だと思う。
ココは、神社には不要なものだとフブラちゃん達に追い出されて居たけど、あのゲームがある限りは離れられる問題でも無い事を私より分かっている。だから、彼女は四天王の重責も降りたし〜、魔王に見つからない所で、次の仲間の為に強くなってみますわとか、巫山戯通す時は大概一人だけども、心掛けが何時だって他人名義だ。きっとまだ、道半ばに居る自覚があるんだろうって、こんな事いつまで考えてるんだろう。
病院に入って、取り敢えず、居るのか居ないのかだけ聞いておかないと。
Azki「あの…ここに昨日四名ほど担ぎ込まれたって聞いたんですけど…」
等と聞いている自分の其の後ろに殺気混じりの気配と指で作ったであろう銃の物真似でホールドの要求。
誰だろうと覗いて見ると、其の白くて勇敢な体格は自動ドアに向かい病院の外に出て行った。
Azki「あ、済みません。若しかしたら、人違いかも知れません。」
急いでそう言って、一緒に外に出る。
暫くお互い何も言い出せない・言い出さないまま、駐車場の林に近い面、其の如何にも湾曲させゴツく改造された装甲車の前迄来た。
其処で白髪の女性は、私にだけは確信できる対怪物用の装備のある装甲車にもたれ掛かると、話し始めた。
ぼ「昨日、ウチの大切な幼馴染が居る冒険パーティがリーダーを始めとして、全員病院送りになったんだよね。まあ、大方、回復薬とか言う麻薬酒類ばっかり摂ってたから平時から大局観が鈍ったんだろうけど、傷口見るに結構、遣る瀬無くなってね。
それで、あんたは其の事聞きに来たんでしょ。
暇だから教えてあげる。」
随分と親切そうに思えるけど、これには経験がある。
敵対した時の味方の人にも、居た。あの言葉を投げ掛けてくれたスポンサーの課長。裏での殺しの経験が多いから、スイッチが入る様に、対象と認めて居ない者には、それの類の情けとは逆の感情で接して釣り合いを取る。
其の雰囲気に似たり寄ったりの態度を見遣る。
Azki「私、バイオハザード経験者なんです。だから、今回の件に、裏でネクロマンサーが居ると聞いて、それで、取り敢えず情報収集をして居るんです。」
言おうか迷った事をしれっと口に出して続ける。自分の事より、他人が生きていれば良いそんな風に思えるのは、周りに屍しか居ない状況を乗り越えて来たから。
其の事は分かるのか、強そうな女性も声を出す。
ぼ「私も、この前経験した。一夜にして終わっちゃったけど、案外良いお祭りって事以外記憶に無いな。今迄、ああ言う暴徒は何度も噂だけ耳にしていただけあって、参戦したのは、一年前のだけだけれども。其方は?」
Azki「私は今回で何度目になるか分からない。」
話も特に続かない相手だった。話題を少し切り替える。
「…ねえ、其の装甲車、巨大な生物に対抗する為の武装、入ってるでしょ。例えば、レールガンとか。」
生物研究所にあったカタログに載っていた名称をジャブで入れて置く。そうすれば話もシャドーボクシングだ。こちらの得意な形。
しかし、女性は其の見えるからに経験則を信じたのか、アッサリとジャブを避けてくれる。意外な程に、自分は闘い慣れていないと思える程に。
ぼ「中、見る?あるのはガトリング二装と、大量の手榴弾だけだけども。」
扉を開け、中を案内してくれるみたいだ。喜んで拝見させて頂く。
すると、どうも、軽自動車みたいに薄型の構造をしており、どう考えても攻撃に特化した固定して使う動く箱、ガトリングは上から覗く形になっていて、其の着脱の速度も考慮されているのか。
試しに扉の部分から装甲を両面触ってみるが、訝しげな顔で見られた。
…顔を見合うも、逸らされ、装甲を触っていると、確かな感触があった。
Azki(アレ?コレ、ゴム製?こんなに柔らかかったら直ぐに曲がる様な…)
随分と険しい顔だったのか、思わず訊き返された。
ぼ「気になる?」
Azki「え?ああいや、こんなに柔らかいと使い勝手が限られてくるなって。」
ぼ「そうだね。この装甲車は遠隔操作できて、無人で運用できる。簡単なラジコンだけでも操作できるし、潰されたり、対装甲車攻撃を想定して、潰れ曲がりやすく、弾道を上に変えて攻撃を無力化する事もできる。直し易いし、寂れた空港にある旅客機素材とかの再利用の面でも、一家に一台は欲しい逸品だよ。」
外部の者にも、随分と詳しく説明するものだと思ったら、エンジンを掛け始めた。
ぼ「じゃ、ちょっとドライブと行こうか。本当は一緒に行く相手では無かったんだけど。」
ああ、そう言う事。じゃあお言葉に甘えまして、と乗り掛けて、勢い、慣性が起き、降りられない事を悟ると、そのまま駐車場を乗り越えて、林の中にダイブした。
〜
ら「あの…獅白ぼたんさんって言う人、今、この病院に居ます?」
巡回に来る看護婦の中に雪民が居たので聞いてみる事にした。
雪民「ああ、そうですね。昨日の夜、眠るラミィさんの面会に来てましたよ。」
ら「え?本当ですか。」
雪民「ええ、本当ですよ。とっても綺麗な方で、ラミィさんの項垂れる手指を取った時は、思わずロマンスの神様にお願い事しましたもん。この貴重な夜が永く続きます様にって。」
思わず赤面するラミィ。気づかなかった故の失礼さもあるが、何よりも自分達の愛しの時間が公共に恵まれた事に、まだ未熟な愛の恥ずかしさを覚える。
ら「はっ。そう言えば、私と一緒に居た他の人は無事ですか。」
雪民「あー、そうですね。同じ来ていたアキ・ローゼンタールさん…は、集中治療室に運ばれましたよ。先程、元気に食事と見舞い品を頬張っていましたよ。」
見舞い品…長く眠っていたのだろうか。
ラミィがししろんに其れを行おうとした時は、かなり後になってからだった。
送っても、隣国の月刊・最新式プラモデル○月号とかで、パーツも一部、毎月集めると携帯式の銃が作れる仕様になっていたりする奴だったけど。
雪民「ああそうだ。ラミィさんの分はこちらでしたね。」
ら「え。」
動けないラミィに代わりと、作業する看護婦、其方を見る。
すると、陰影が胴の辺りから二つに分かれている事に気付く。
「アレ…?」
果物のバスケットを持って来た看護婦のウェストに見馴れない手指。
少し土の付いている爪。
赤黒い血色の毛細血管が肌を昏く。
ら「あ…誰からの差し入れですか。」
雪民「え?誰って、もう。冗談言わないで下さいよ。ラミィさんが自分で持って来たんじゃないですか。」
ら「え…?」
雪民「忘れたんですか。あの時は焦ったなぁ〜。傷口が開きますよって注意したじゃないですか。あっそうだ。傷口、確認しますね。あっ。包帯は先生が巻いたのかな。昨晩は付けて無かったから。あ、まだまだ安静にしておかないと駄目ですよ。ここでは、回復薬、ご禁制ですからね。」
ら「ラミィがもう一人…?」
その時!ポルカが大きな音を立てて病室に入り込んで来た!
ぽ「おっス〜。見舞いに来てやったよ〜。」
雪民「済みませんが、病室では大きな音は立てないで下さい。」
ぽ「えっ。あっ。済みません。今度から気を付けます。」
その病院にもジャングルにも似つかないド派手な格好の裏にこそっと隠れてねねも来ていた。
ねねは何も言わず、そのままソソクサとトイレに行ってしまった。
直後。
同じく大きな音を立てて、ねねがやって来た。
ね「おっス〜。見舞いに来たぞ〜。」
雪民「…大きな音を立てないで下さい。良いですか。」
ポルカと同じ様な挨拶に同じ注意を受けるねねはさっき行った逆方向からやって来た。
ね「は〜い。どうも済みません。」
ら「あっ。ししろんは。」
ね「え?来てないの?あ、そう言えばさっき車でどっか行っちゃった。」
ぽ「そんな事より、暇だろ〜?ほれ見てみろ。ポルカ様の必殺手足ジャグリング!」
雪民「…病院では静かにして下さい。」
得意の大道芸がキャンセルされ、バツが悪そうに看護婦を見つめるポルカ。
ら「あはは。その顔サイコ〜。いっっt…」
恐怖心を払拭するべく笑ったからか、腹に鈍痛が走る。
すると、出入り口の向こうトイレの扉がソッと空いて、ねねの笑った顔が見える。
二つのねねの顔を視界にとらえながら、意識はよく知った方を…あの笑顔は?
いつの間にか消えているねねのもう一つの顔。
ラミィがよく知った方は、ラミィの代わりに怒ってくれる本来何も無いところでは笑う事の無いねねちだった。
ね「何か見えるー?」
ぽ「アレ?トイレのドアが何か開いてるぞ。スライド式なのに。」
ら「あ。そうだ。フルーツ食べる?」
〜
ぼ「ぶえっxくしょい」
〜
お前、其れ、代わりに酒寄越せとかいう奴だろ〜と茶化してくるも、しっかり純米大吟醸を用意してあるポルカ。
ラミィは上機嫌になり、すっかり他の人達の事を忘れたのだった。
〜
ア「え?私、持って来てないよ。」
ノ「え?自分で持って来た…?」
ロ「ああ、そういや取りに行ったかも〜。」
〜〜〜〜〜
1500年前。
青上地方には未だ集落がありました。
木々に感謝を捧げる事もなく、木造の普通の家屋が一軒一軒並んで立ち並び、村を取り仕切る水流は滞る事なく、人々は、山々から湧き出る清流に心洗われていたのです。
其れは小さな世界だったのです。
子供達が100人に満たない小さな街。
大人達は、子供達を守る為に、森林を伐採し、木々を加工し、雨風を凌げる家屋を手に入れていました。其れで学校も作りました。山に近く、溢れ出る透明な水の様に、清く正しく流れて行ける様にと。校訓。そんな徐々に発展を目指す
ところが、雨風は人々を苦しめました。森林を犠牲にして出来た家屋は、子供達を守りましたが、お山の方はそうでは無かったのです。
山は崩れました。
当たり前の様に、そして皮肉にも、大人達は森林だけでなく子供達をも贄に捧げたのです。
存続の主たる種を続けないのは、山に見捨てられたからなのでしょうか。
皆殺しでした。まるで悪霊が山の様に成って取り憑かれているかの様に。
…そう、其れは、ほんの僅かな分岐点。
睡り育ち、眠り育つ霊魂の封印。
きっと、彼女等は習った事も思えなかったのでしょう。
考えるに、村は呪いに満ち溢れ、報復の対象であった大人達が天寿を迎える迄、其れは続いたのでしょう。
そして、その地方には魔力が運ばれました。
呪いを帳消しにする一人の女性の霊魂を永らえさせて。いつまでも。
その女性はどこにでも居る平凡な少女でした。
ただ唯一、忍ぶのを愛せる日本人女性であるのを除いて。
その少女は、最後まで自分を看取り続けたと言います。いつまでも。
努力に生きる未来もあっただろうと。
そして、世界からも世間からも見放された女性は、その霊魂を次世代に託しました。
彼女の霊魂は埋められた女性達を解放させました。
やがて、村は取り壊され、資源や廃品として利用されました。
未練が無くなった女性達は、永遠の魂に着いて行くのです。お忘れ無き様に。
そして、次の世代がやって来た時、死、焔、黄金、物語と怪物だけが、時の空を飛び越えたのです。今日この時、一つの終わりに出会えた事に。
〜〜〜
さて、彼女達を運んで来たのは誰なのでしょうか。
獅白ぼたんは装甲車を飛ばしていた。
扱いは小難しく、しかしてシンプルが一番に、嘗てレールが敷かれていたであろう木々の無い場所を、草木の茂りを騒がしくしながら、青上草原に向かっていた。
ハンドルを握る手と目線は変わらず、口を動かす。
ぼ「そう言えば、ネクロマンサーが関わってるって聞いたけど、どこ情報?」
隣の座席、安全配慮の為に二人用になって居る狭いが広い車内であずきは答えた。
「えっと、私が聞いたのは知人でしたね。普段は人気の無い草原からネクロマンサーが出て来てから、怪しいと思ったらしく、行って、現場の流血を見て、確信したと。」
ぼ「ふうん。じゃあ、疑うのも野暮ってもんだな。」
そう呟くと、アクセルを全開で回す。道が開けて来た様だ。
あずきも双眼鏡と思しき器具で外を見る。どうやら装甲車についた数少ないオプションパーツだろう。すると、水色と照りが視界に入って来る。
Azki「あの…この先、湖なんですけど。」
ぼ「ああ、こいつはオープンで水陸両用だからね、問題は特に無いかな。」
そのまま猛スピードでdゴウゴウと湖に衝突しつつ、モーターに切り替える。
席で感じるタイヤの振動が止まり、横に移動して行く衝撃が伝わる。
水域に入り、不安定に浮いていた車体がタイヤの浮き輪で上手くバランスを取れる。
そのままボーッと湖を渡る途中で、湖畔、対岸に懐かしい様な何処かで見た様な少女の面影を見る。水面には何も写っていない。
ニコリとその少女がどこに付いているか分からない視窓を見てい…私の視線を見ている…?
…と、消えた。消える間際、何かノイズの様な感じで思念が入って来たが、何を思っても害は無い。
その場をじっくりと観察するも、車輌の起こす白浪が、次の場だと思念を掻き、起こす。
草原だ。
昨日、流血沙汰があったとされる青上地方の何も残されなかった跡地。
其処で、得体の知れない物が浮上する。
骨。見るからに骨。骨格。そして其の関節からまるで何か取り付けたかの様に緑色の魔素が漂っている。
このままだと…運転手を見るが早いか、外から衝撃と一瞬遅れての破砕音が届く。
一瞬、視界に入った衝突時に換装されたのが、後ろを見ると粉々になった骨と、其の魔装もひん曲がっている。
ぼ「ん?何か轢いた?」
見てたでしょ、と言いたげな雰囲気が車内に満ちる。
正直、今の敵性対象は、単騎で相手にするなら魔導具《ステッキ》だけで充分だ。あの魔素さえ魔装に換装しなければ、ただの壊し易い物置に早変わりだからだ。魔素の中和は十二支に対応されている。緑は巳の幻想的な対応。コレを打ち消すには、亥の神秘的な対応であるウリ坊の縞茶を与えれば良い。今回は敵性体にそもそも相性が良かったのか、成体猪以上の衝突力で解決したが、ああ言った物が複数出現して、隙を狙われたとしたら厄介だ。
考えるに、これは、相手の罠であり術中なのだろう。
(若しや…)
其の次の瞬間、考えは当たる。
視界の先に、小さく華奢で緑を基調とした女性が、車線に入っている。
–轢かれる。そう思った矢先、目の前に突如として淡い水色で透明な塊が出現し、装甲車を受け止め、呑み込んだ。シートベルトが慣性を身体に与える。投げ出される様な手足に衝撃を殺してくれる胴体とベルト。強烈な印象だ。
(…やっぱり、ここは彼女の領域《テリトリー》、若しくは、これからそうしようとしているか。)
低速で斜面を登る様な不安定さで斜めに傾く車輌。
ぼ「拙いぞ。脱出出来るか…?」
エンジンをフルスロットルで回しても何かネチャッとする音がビシャビシャと荒れ狂うだけ。完全に
る「一丁上がりなのです。」
「…なーんだ。戦いなんて簡単なものだね。マリンはそんな事に命掛けて、最後まで私の事を…」
俯く彼女に目の赤さはもう無い。
代わりにネクロマンスされた遺兵に同様の色合いが移っている。
Azki「一応、この魔導具《ステッキ》でここからは出られるけどって、何かモニュモニュされてない?食べられてる?!急いで…」
魔導具《ステッキ》から魔力が迸り、装甲車を薄く覆う様に、魔力がスライムの滑らかさを加速させ、吐き出させる事に成功させる。
ぼ「おっ。ラッキー。」
Azki(なっ…コイツ。)
どうやら同乗者は、助けられた事を感じず、感謝も無く、幸運で済ませようと言うのだ。
其の態度に腹が立って、直ぐに扉を開け…あ、開かない様にロック掛けたな。この…魔法で何とかなるもんでも無いし、ここは同乗者の意見を尊重と、少しいじらしいけど、まあ良いや。
Azki「如何するの。」
ぼ「ん?」
もうやってるみたいな顔で何かボタンを押して、ウィーンと動く車内上部、今までのスポーツカー気質の狭さが変わり、代わりにサーフボードを置いておくみたいに天井にガトリングが搭載される。そして、箱の中から、ボタン付きの操縦桿と天井から双眼鏡が。
ぼ「おっし、じゃあ、サクッと決めちゃいますか。」
言い終わるや否や操縦桿のボタンを押すぼたん。
ズガガガガガガガガガガガガガと、秒間何十発の弾丸が車輌の上部から射出されるのが振動と衝撃で分かる。
効いてない。
ぼ「チッ。デカ過ぎる。ミサイルでもあれば話になるのに。」
何で用意してないんだと、不備と平時の自分に苛立ちを覚えるのだろうか。
先もそうだが、この女性には、自分の努力次第以外の人事を尽くす事はするが、肝心な所、怠け者なのだろう。
見た感じライオンが似合ってる。…メスライオンだから狩りを熟すのかと、独り納得した。
る「ちょっと眩しいのです。」
銃弾の衝突が衝撃の拡散と泡を残していったスライムの後ろ、挟んで見える装甲車の光る部分を睨め付けるしあ。
(これだと、オークの肋骨を向こうにネクロマンスしても壊されちゃうな…)
ネクロマンサーと睨み合いになる近代兵器。
いや、ここは、近代兵器の攻勢を受け止めるボディを持った元八席の其の冠位を見せてくれたネクロマンサーが流石と言うべきか。
事実、あずきの援助が無ければ、ぼたんは死を覚悟していたのは紛れも無い事実であり、整合的に席官を決める魔王としては、第三席が第八席の強さを自身の物にした体が、新たなる魔王としての立ち位置を示しているとして、実力差は歴然である。
しかし、やはりと言うか、無理にでもと言うか、ときのそらは駆け付けて来た。
時空を跳躍して来るなり言った一言。
「喧嘩はダメだよ。皆んな。」
これが喧嘩に見えるのは古今東西見渡しても、老若男女で唯一、最強の偶像、本来傷を負う事の無い存在のみだろう。
る(………)
Azki「あっ。さっき湖畔に居たあの娘。危ない!早くドア、開けて。」
同乗者に催促するも、開けられたのは窓と思える部分だけ。其れでもと、魔法少女に換装しながら、其の小さな抜け穴から外に出る。
ときのそらの声が通る。
「喧嘩しないで。」
「今直ぐ、お互い、攻撃を止めて仲良くして。」
間髪入れずるしあから独り言の様な愚痴が漏れる。
「そんなもんに乗ると思うか。」
まるでお前が憎い、お前さえ居なければという睨み具合に、ファンデットのみならずオーバーチャージすら眼の色を赤く染め上げた。
言うて、女勇者《アキロゼ》一行を貫いたファンデットを四方に密接に召喚し、頭から叩かせる。
しかし、特にこれと言ったエネルギーは発生していないにも関わらず、ファンデットの攻撃が寸前で止まる。
るしあの目が一瞬だけ赤く染まり光る。遅れて、ネクロマンスされた超常の存在全てが、ときのそらに向けて目から光線を放った。
光線は、彼女に触れると、レーザーポインターを重ねただけの現象に変わるも、るしあは其れを何度も繰り返す。
明確に敵と捉える試み。るしあは内なる葛藤を超えて、この女性に八つ当たりをしている。
オーバーチャージの光線が一層太くなり、ファンデットを爆発四散させる。
其の自暴自棄な選択に、自分は四天王なんだと、冷静に戦力を、壊さない様に集めねばと、初心を思い出し、攻勢を止めるしあ。
ときのそらは、自身に映る光が輪郭に沿って動く事を悟ると、掌に集め、天に放った。
る「畜生ッ…」
悪態は吐くも、睨み方は相変わらず一点凝視。そうまで憎いとするのか。
しかし、これでは、背後から近付く魔法少女には気付かないというもの。
あずきの一撃。
Azki「幻想連面環状怒雷《ホロ・スパークル》!!!!」
幾層にも重なり光を捻じ曲げる魔力は色彩と共に語られるものだ。其れが、小豆色に暗く、虹色を介して白光に生まれ変わる。十二支全てにも存在するアルビノを対応とする圧倒的な火力。
胸板に乳輪も付いていない小娘の肉体では、たとえ堕ちたる天使だろうと、純白の奔流に潰れて消えるが定め。
しかし、るしあにはもう一人だけ、どうしても外せない女が居た。宝鐘マリン。其の彼女の透明な霊体が、るしあを庇い、奔流は、其れをプリズムにして、マリン色の目に悪い照り具合を拡散させながら、るしあに肉体的、物理的な等加速度直線運動を与えるだけに留まったのである。
吹き飛ばされるしあ。草原の端の端まで辿り着き、擦り傷と骨折で全身を小刻みに震わせ、悶えるしあ。
る「う。うう…」
彼女は未だ大人と言える覚悟も無い。あるのは幻想に委ねられた星々の輝きだけ。其れでは、勝負は始めから決まっていた様なものだった。
今まで経験した事の無い全身からの痛み、そして其れを覆う憎しみにも近い恥ずかしさの余りの復讐の意志。
溢れ出る黒く緑に淀んだ魔力から魔素が迸る。
足の骨にもヒビが入ってる。立てない。
腰から肩に掛けて登る様な熱さが全身を支配する。
横に倒れてるから、寝返りを打つにも、始動が自分の中心から入らないと回らない。倒れる体を膝のクッションと肘の流れで回る様に受け身を取るならば、どれほどの衝撃の中でも重力がある分だけ容易いが、地面に体重を引き留められてる今の姿では、全身に渡る骨のひび割れが、脱力を止むなしと、起き上がる気力だけが腹から唸って出て行く。
魔力だけ、滝を逆様にして立ち昇る。
憎しみや復讐心、帰らずの想いが黒きを燃え上がらせ、其の縁の下の力持ち、自身の緑の魔力が、潰れたオーロラの様である。
遠くから見ても同じなのか、るしあが眼を、飛ばされて来た方に向けると、いつの間にか外に出て来ていた銃を構える獅子と目が合う。
銃、光。
炎が見える。空気を切り裂く唸りを伴って鉛の弾丸がるしあの頭部を狙う。今回は見るからにスナイパーライフル。この距離ならば、当たれば厚い額の骨と言えども貫通するだろう。
るしあの手前1メートル、ファンデットでは無いただの骨格が、地面に移った魔力、転移の魔素から起き上がる。
見覚えのある体躯。何処に行くにも行き先を知らせてくれなかったあの人。久し振りに帰って来た時には、マリンの影に溶け混んでいたあの面。
る(パパ…)
狙撃弾は其の骨格の頭部を破壊・貫通し、るしあから逸れて行く。
其れを見て、獅子が動くのが見えた。
再びスコープを覗くまでの間、草原に幾体かのファンデットを召喚して、間に合わせようとする。
だが遅い。例え魔装の施されていない即席タイプでも、獅白は、其れ等が召喚されると知ると、脚を正座に折り畳もうとし膝を揃え爪先立ちで後ろに跳躍、長銃を持ったまま、ピョンピョンと猫の動きを前後・先後逆向きにしたかの様に動き、狙撃の時間を取り、着地後即ファイア!今回は油断無く素早く薬莢を取り出しリロード。間髪入れず連続で撃ち込む。
目の前の骨格が動き、るしあから弾丸を反らせようとするも、頭部と腰部分を大きく損傷し、立っているのに、二発までが限界だった。
とは言え、其の骨を動かし、慣性を吸収する骨格筋が一切無いただの骨格が魔力を自発的に生成させ、亜空間とは言え、るしあの側にずっと居た事は、ネクロマンサーの愛故なのだと。
壊れ行く骨格は涙を流すかの様に眼窟の下をヒビ割らせ、こんな父親でゴメンなと言ってる様に、其の背中は崩れ落ちた。
チャンスと見た獅白の視界を魔導具《ステッキ》が覆う。
直ぐに魔導具《ステッキ》の伸びて来た方を不思議そうに振り向く獅白ぼたんに、あずきはこう言った。
「ああ見えて、アレはもう死に掛けです。放って置いても野たれ死ぬだけでしょう。」
其の言葉に疑問を一点でも感じたのか、素早くスコープを覗き返し、あずきを問い質す。
「へえ、根拠は?緑の骨格、来るけど。」
Azki「仲間は居ない、復讐心はある。魔力は底無し、でも、体力には限界がある。相手するだけ無駄でしょう。」
魔導具《ステッキ》に例の魔力を込めながら、Azkiは淡々として居る。
ぼ「殺せば良い。」
即断即決が命だと言わんばかりの聞かん坊。
Azki「どうせ蘇る性質《タチ》でしょ。見れば分かります。」
一言で黙らせるには効果が無いと理性に問いかけるしか無い。
ぼ「成程。私より其の手の経験は積んでるって訳だ。」
相方を安心し、仕方無いと言うみたくスコープから顔を上げて周囲を確認する姿とギラつく眼はまさに百獣の王だった。
其の獣王に襲い掛かるファンデットに魔装が施されるも、あずきが軽く払った魔導具《ステッキ》からスラッシュ状の魔力が虹の連層を縞茶に織り上げ、津波の様にファンデットを薙ぎ払っていく。
る(…囲って一気に…)
其の戦術を看破したか、獅白の眼が光り、次やるなら問答無用で撃つと眼が語った。
思わず生唾を飲み込むるしあ。
今相手にして居るのは、容赦の欠片も無い百戦錬磨の兵《つわもの》。
昨夜の使命とやらに託けた冒険大名の一行とは違う。
明らかに洗練された動き、卓越した戦略眼。
動きに戸惑う様な狭い間隔でもなければ、大振りに隙を露呈させる感覚でも無い。
る(拙い…)
回復するにもあのスライムを必要としている。
そしてネクロマンスはあくまで蘇生であって回復では無い。
既にある代謝の強化という一般的な魔術、攻撃は上手くできても防御はそこそこに出来ないものとは違い、代謝自体のバランスを保ち直し同時に召喚を行える事に定評のあるネクロマンスでは、攻撃法が死者の能力値に依拠する。
あのレベルの魔法なら防御は何とか出来るが、隙間を狙撃されでもしたら終わる。
勝機が無いと分かると、るしあの魔力は急激に弱くなった。
終わりと見て、獅白がポケットから出したリモコンで装甲車を取り寄せる。
リモコンに向かって自動運転するやや乱暴なものだが、安全や交通ルールには配慮されている。
装甲車を近くに寄せると、そのまま、何事も無いか確認して乗り込む。
そして、即席のコンビは、そのまま、昨夜の一件について最高の参考資料が居るにも関わらず、例の場所を探しに行った。
るしあは、大地と呼吸しながら、車の音を聞いていた。
小さくなる音。
消え去った音と、鼓動と独りっきりになるしあ。
る(つまらない。つまらない。面白く無い。)
すると、音が再び大きくなって来るのが分かる。
る(あ、若しや、アレでるしあを踏み付けようと…)
丹田に力を込めながら無音無呼吸になり覚悟するしあ。
しかし、音は、るしあの耳元で止まる。
其処から二人は出て来て、其処に先程の女性が加わって、そしてあの女性が、どうも二人に何かを催促して居るみたいだ。
る(二人して何を言おうと…まさか、動けないからと言って馬鹿にするんだろうかな。両方とも胸しっかりあるし…)
勝手な妄想でトリガーを引き起こしそうになるしあ。
「ヌグルル…」
一時的に赤い瞳が戻る。
しかし、其処に待っていたのは予想外の一言であった。
ぼ&Azki「「ゴメンね。」」
る(…は?)
(何故。何故謝る。るしあが、先に仕掛けて、悪いのに…)
其処まで考えて自らの憐れさで泣けて来たるしあ。
復活して、誰も居なくなった世界で、何もやることが無くて、思い出す限りの報復を行おうとしていたるしあ。
それも馬鹿らしいなって、今更ながら考えを改めた時、そらが声を掛けた。
「はい。るしあちゃん、君も謝るの。」
る(何でるしあの名前を知って…)
涙で滲む視界一杯にそらの姿が、そしてザザザと、彼女が見知らぬ紺一色の服装に切り替わ…らない其の光景と背景にある火元が上がった暗い夜空の様な泣いてるみたいな空が、一瞬だったが、彼女の記憶に焼き付いた。
涙が頬を伝う。
其の真剣な眼差しに、るしあは根負けして、反省の念を込めて謝罪をした。
「ごめん…なのです。」
〜
二人は先に帰った。立ち寄る場所があるからと言って、そらとるしあを草原に残した。
二人が乗った装甲車の行った方向を見つめるそらちゃん。
そして、そらが倒れ伏するしあを抱きかかえて、病院までひとっ飛びに向かう前。
「生きてて良かったね!」
満面の笑みで、嘘偽り無く、一点の曇りもない言葉で。るしあの事をずっと心配していたと、そう伝えた。
る「…それは違うのです。私は、其処のスライムのお陰で受肉が行えただけなのです。」
るしあは指で、重過ぎて未だ動くことすら出来ない巨大なスライムを指した。
するとそらは、えっと声を出す。
そしてまた哀しそうな顔を…ザザ
(また?何故るしあにそんな記憶が…)
そして、そらは、結局、間に合わなかったんだねと呟く。
其の言葉にるしあは腹を立てた。
(間に合う訳があるか。だってるしあは、マリンと心中したんだもん。)
(其れに、貴方は最後まで私達を助けてくれなかった…)
微かな希望として残っていた時も有ったのだと思い出す。
それを思い出す事も、目の前が、居る空間が唐突に病院に切り替わってしまう事で、其の作業を脳裏に移す。
る(アレ?さっきまで草原に居たのに。)
(ここ、マリンと一緒に来た事がある。)
(あの時は、マリンが肩を怪我して、其れで…)
(マリン…寂しいな。やっぱり死んだままが良かったよ。)
そらはるしあをお姫様抱っこして、病院の窓口に伝える。
病院側も慣れた事なのか、直ぐに対応してくれる。
る(凄い…)
傷心と払拭と妥協で、こんな事にも賛辞を覚えるしあ。
るしあは直ぐに診察室に案内され、包帯でグルグル巻きにされてしまう。
癒月ちょこ「この方は何処で怪我を?」
隣に付き添っているそらに問い掛ける。
そら「昨日と同じ草原です。」
「あらそう。物騒になったわね。」
「其れじゃあ、るしあさん、暫くは病室をあてがいますので、其処で療養となります。」
る(だから何でるしあの名前知ってるんだ。)
いっそ聞いてみる事にした。
「あの…どうしてるしあの名前を…?」
癒月ちょこ「あら、そう言えばそうね。一年前の新聞の事、どれだけ覚えているかしら。あの時は珍しいから覚えておいたけど。」
急に時間感覚を覚えるしあ。
る「え…一年前…新聞…?」
癒月ちょこ「ええ。私が知り得る限り、其れ以外に貴方の事は…裁判?だったかしら。そんな事も聞いたわね…。」
る「裁判…?何故、るしあが…」
混乱するしあ。
ちょこ先生はぐっと顔を近付けてそらに聞こえない様に耳元で囁く。
癒月ちょこ「そんな事より、貴方、私より上の席って本当?」
る「上の席…?」
もんもんと、上の階にある席に座るしあを妄想すると、ああ、自分が上の階級なのかと、相槌を打つ。
る「そ、其れはそうなのです。何たって、るしあはつよつよネクロマンサーなのですから。」
マリンと出会う前から、
癒月ちょこ「そ、そう。」
(本当にこの娘が?ヤゴーの考える事は分からないわね。)
そんなこんなで昨夜ぶっ殺そうとした女勇者《アキロゼ》一行と同じ病院に入院する事になったるしあ。
運命や如何に。
〜〜
診察室にて、後顧の憂も一時的に無くなって調子に乗ったパーティメンバーは、食事の質を上げる様に要求していた。
ちょ「じゃあ、これからはそうね。玄米の冷や飯と大豆加工食品調味料理を差し上げるわ。ぺこランドから仕入れた牛蒡やユリ根、タンポポの茎、土筆や食用のクローバーも添えてあげるわね。」
ア「ほえ?」
ナニソレと言わんばかりの顔には覇気という覇気が完全に賞味、いや消費期限を迎えていた。
ちょ「退院祝いには枝豆とビールをあげるわ。其れまでは味気ないけど、毎朝に卵、毎日バナナは出すつもりだから案外保つわよ。」
聴き終わるなりラミィが手を挙げて訴えを起こした。
ら「はい。先生。其れって、差別なのでは無いでしょうか。」
ちょ「大豆加工食品調味料類は塩分が高めなのが多いわ。毎日の栄養は完全栄養食のバナナと卵と、そして塩分だけで賄えるけど、貴方達には体力を付けてもらいますので、丁度良いかと。肉食はこれから禁止です。」
肉食は、これから、禁止。其のインパクトある説教を喰らって、白銀ノエルは眩暈を起こし掛けた。
ア「ほえ?」
やっぱり話が頭に入ってない御様子のリーダーを見て、爪を噛むラミィ。
牛丼…牛丼…虚ろな声が届くエルフの敏感な耳と其れを無視してはいられないラミィ。
ロ「あの。食用のオイルって貰えますか。」
ちょ「オイル?オリーブやゴマの事…?」
いきなりロボットの事情をぶつけられ、戸惑うちょこ先。
ロ「ああいや、近くのガソリンスタンドで売ってませんか。こう、ミドリムシから抽出したディーゼル燃料とか…」
ちょ「ああ、バイオディーゼル燃料の事ね。其れなら病院のスタンドにありますわ。」
ロ「じゃあ、僕、其処で機械の調整するね。御飯は飽きて来ちゃったから。」
ちょ「貴方は軽症ですけど、許可無く室外に出られては困りますので、其の話はまた後で。」
ロ「そ、そんな事言われても、僕の機械は代謝の一部。昨日から何も手入れして無いんだよ〜。」
ちょ「そう言われましても…う〜ん。早めに義手足関連の法案が可決しなければ、病院も動けませんので、ヤゴーの動向について、詳しくは知らないのですが、何れ出来る様にはなりますよ。」
ロ「何れって、何時?今直ぐなの?」
ちょ「さあ、分かりませんわ。」
ほえほえな中、理性だけはしっかり女勇者《アキロゼ》である。
ア「ヤゴー?魔王と同じ臭いがする…」
唐突に押し黙るちょこ先生。
ちょ「…」
ノエルは牛丼を否定された代わりに、其の音に何かを見出したみたいだ。
ノ「ヤゴー、何か可愛い響き。」
ちょ「嘘。」
ちょこ先生はびっくりしながら声を漏らす。
ら(えっと、ヤゴーって言うのは、誰の事。大昔に廃れたとされる政治家の復活か何かなの…)
考えるラミィ。
ロ「ヤゴー?ヤギの一種?」
論外。
ちょ「うっそ〜〜〜〜〜!!ヤゴーとは、魔王の名前ですわ。其れも知らずに魔王を倒しに行ったと言うの?」
ちょこ先生も大きな声でついうっかり患者達の傷に響かせてしまう。
「斯く言う私も魔王の配下ですわよ。」
しれっと暴露するも雰囲気はスルー。
「もう。良いわ。」
「そろそろ、診療は終わりです。」
ちょこ先生はそう言うと、一行に部屋に帰って貰う様にした。
〜
るしあは包帯で誰かも分からない姿だった。顔は半分以上隠れ、固定具で歩くのすらままならないサイズ感になってしまっている。
正直、歩けない訳では無い。松葉杖も車椅子もあれば、其の良いところ取りをした魔力で操作する滑車式の移動装置もあり、るしあは其れを貸してもらう事にした。
診療から帰って来る時、包帯でグルグル巻きの小柄、と言ってもこの前出会った第三席に比べると一回りか二回りは大きい人が機械に乗ってるのに出会った。
向こうはこちらをちらと見ると自然と無視をして歩いて行ったが、あそこまでの怪我だ。自分達が可愛く思えてくる事をしたんじゃ無いかと思えて来る為、少し心配になった。
東紀に入り100年余り、人口も落ち着き、事件や事故もそう頻繁には起こっていない。
其の為、彼女の様な重傷者は見るからに痛そうだ。珍しさの上を行く。とてもでは無いが、自分達にできる事は無いか探ってみた。
ら「えーと、其れなら、其処のホールにトランプがあったので、其れで良いんじゃ無いですか。」
珍しく冷静…って顔で見ていたらいつもそうですけどって感じの顔と睨み合いになりそうに、回避回避〜。
ノ「えー。団長、其の娘に毛嫌いされちゃったし、あんまり関わりたく無いな〜。」
じゃあ、ノエルは休んでて、私はもう元気だからって、次。
ロ「んー?あの娘、敵じゃ無い?」
相変わらず何を言ってるのか分からない時がある。
其れで、ノエルとロボ子抜きで新たにトランプパーティ ー!
彼女の退院を祈りましてとそんな気分。え?コッチでもやるから早く寄越せ?もう、リーダー使いが荒いんだから、二人共。へ?ラミィ、あんたも。…
そして、トランプを取る時に、また赤黒い爪痕が残されたプラスチックケースを見たが錯覚だった。
幻術対策でもして置かないとな…
この前の集団戦も、小手が防がれ、胴が深く無ければ当たりもしないけど、面がガラ開きだったのを振り返ってて気付いたし、囲まれる前に陣形でも組んでおくべきだったと、課題だけは山積みだけど、彼女と遊んで笑い合う位なら、神様は許してくれるだろう。
(…だろうか、とは言わず反語を見切り発車で切り捨てて行くスタイル。まさに女勇者《アキロゼ》だった。)
ア「ねー、トランプしよーよ。」
いきなり例の金髪の女性が手を上げ(挙げ)ながら走って来るもんで、吃驚して少しセグウェイを止めていたら、こんな事を言われた。
有り得ない。どうして敵同士、謝って済まされる問題でも無いのに。
はっそうか。こんな形《ナリ》だから、気付かないんんだ。
自分がやった事に達成感はあった。でも其れが、こうも馬鹿にされるかと思わざるを得ない。
一人で考えたくなる。この病院でどう過ごすか。あのパーティを見て、どう気を紛らわすか。
どんな顔して遊べば良いんだよと。
拒絶する方向に意思が固まる。どうせ遊びでしょ…そう言い掛けた時、マリンの幽霊を見た気がした。
る「あ、あの。るsyは…」
噛んだ。包帯のせいだ。
まさか自分の名前も碌に言えないとは、思いも寄らなかった為、唐突に恥ずかしさと其れを見せる事にした格下の敵への怒りが頬を赤らめる。
ア「ル?ルーシャ?良い名前だね。あ、熱出てる。どうしよう。」
いきなり手を額に当てられた。
もう動ける程軽い傷でも無いだろうに、あの後、確かにリーダーの意識は魔力と共に途切れたとガラクタのファンデット達に聞いた。
るしあより酷い傷で、るしあを労わるなっ!
物凄い剣幕に、思わず身を引いて、お腹が痛くなった。
其の剣幕は本人も知る所なのか、思わずアセアセとしている。
其の様子がどうにも本当に悪い人では無いのではと、包帯の白さがアキロゼの感性を鈍らせる。
るしあは、バレたらどの程度ネクロマンスして、被害はと、病院では、何が蘇生できるのか、あの先生とはどう対応するか、折角治して貰っているのだから言葉に甘えて、乱暴事は控えた方が良いと、そう思って、全身から溢れ出そうになる魔力を拳に込めて、取り敢えずは、現状維持を目指す結論に落ち着いた。
ただ、るしあの持っていた滑車式の移動装置は一点に集中して来る魔力に耐え切れず、音を立てて故障してしまった。
る(あっ拙い。)
幸い、松葉杖としての応用も利く。
るしあは上手いことひび割れていない骨を使って、後ろに振り返ると、直ぐに、近くの看護婦を呼ぶボタンを押して、少し立ち止まる。
そしてまた、後ろを振り返り、キョトンとするアキロゼに、嘗て剣を向けられた時の事が重なって見えて、あの時、そう言えば、何を言っていたのだろうと、思い出せずに睨んで居た。
看護婦がやって来て、事情を説明した。
る「これ、いきなり壊れちゃって。」
アキは疑問に思った。
機械が壊れるほどの魔力は、同僚で今は同じパーティに居るロボ子に聞いた事があるが、そんな事は無い、壊せるのは噂に聞く魔王だけと。
ならこの娘は魔王討伐に向けて切り札になるかも知れない、そうアキロゼは思考した。
看護婦は事情を聞いているのか、二人の仲を邪魔しない様に少し行動が焦り気味だ。
其れもそうか。
片や病院側の最高権限に近い第六席を上回る第三席。曲がりなりにも四天王の一角。
片や其の三席に殺され掛けるも、劇的を超える速度で傷を治した魔王攻略パーティのリーダー。
事情を聞けば聞くほど、事態に混乱を覚えるに違い無い。
るしあは新しいセグウェイを持って来るらしい看護婦に待たされていた。
少し、突っ立っているのが辛くなる。
すると、アキロゼが、手を差し伸べてくれる。
るしあは手を取ろうともしないが、足がガクリと揺れて、思わず前に身が出る。手も出てしまった。
アキは其の手を取ると、直ぐ近くのホールにるしあを連れて行って、一緒に座っとこうと笑顔をるしあにくれた。
アキは先に座るとトランプを両手で持って、るしあを待つ。
るしあは、座れるならと、座っておく事にした。
さて、アキは会話もできる雰囲気では無く暇なので、トランプの説明書を読む事にした。
其れを見て、何か阻害されている気がするしあ。
る「ねえ、其のトランプ、やらないの?」
面子を保とうとするプライドが、矛盾を生じさせる。
アキは少し間を伺う様にるしあを見て、痛々しさに目を背けてしまうも。
「何で遊ぼっか。」
ア「先ずは、カードがちゃんとあるかどうか確かめる為に、七並べしよっか。」
少し楽しみが打ち明け、元気に、されど、どうにも自分から切り出さないと進まないと思い、トランプを二つに分ける。
ア「あ、七並べってこれで良かったっけ。私、余りやった事無くて。」
こう言う時、トランプは便利だ。別のゲームがやりたくても、この段階なら元の山に戻すか、そのままゲームを絞れば良いのだから。二つに分けたまま配ってからでも良い。
実際、揃っていても七並べは出来る。
焦っているアキを睨みながら、るしあは二つに分けた山札の一つを取り、7のカードを出して行く。
其れを見てアキも同じ様にする。
そうして、少しの想い出作りが始まった。
まるで世界は世間の逆を行く様に。
彼女達は、同じだが違う釜を囲った。
七並べの次は、ポーカーをやった。
ポーカーの次は大富豪をやった。
其の次は、大富豪のローカルルールを役としてUNOゲームをやった。
其のゲームはこうだ。
①手札は七枚。
②カードを山札から枚数だけ引く。
③何方か一方のカードが揃うか山札が無くなるまで、山札からカードを一枚引いては川にカードを置いておく。山札が無くなったら次に移り、川を山札にする。
④何方かの合図で手札を揃え、大富豪のローカルルールにある一枚一枚の効果をして、同じマークのカードか同数のカード、特殊条件カードのみを場に出せる。複数枚出しても良い。五枚以上で階段有り。出せない時は山札から一枚引く。山札が枯渇したら場をシャッフルして裏返して山札にする。手札が一枚になったらトランプと言う。
⑤先に手札が無くなった方が勝ち。
⓪
1:マークを変えられる。
2:ドロー2;順番が次の人にカードを2枚引かせる。
3:スペ3;ジョーカー相手に順番を飛ばして出せる♠️の3。
4:死;次に出すカードの効果が無くなる。
5:スキップ;順番を一つ飛ばす。
6:3枚揃えると負けになる。(悪魔の数字)
7:質渡し;出した数が一枚につきカードを順番が次の人に一枚渡せる。3枚揃えると勝つ。(ラッキーセブン)
8:矢切;場を切って自分の番にする。
9:救急車;2枚ごとに川から一枚拾える。
10:銃捨て;一枚につき一枚カードを川に捨てられる。
J:イレブンバック;順番を入れ替える。
Q:12の約数の上にマークを無視して置ける。
K:素数とJの上にマークを無視して置ける。
ジョーカー:いつでも出せる。最後に持っていると負け。
このゲームを矢鱈気に入った二人は夜になるまでゲームを続ける事にした。
二人とも気付いたら楽しくなっていた。
アキロゼは包帯の少女が笑っているのを見て、るしあはアキロゼの後ろにだけ見知った顔が笑いながら次から次へと現れるのを見て、こう言うのも有りかな〜って。
のほほんとカードゲームに興じている様に見えるが、否。
このゲームを行う意図は暇潰しだけで無く相手の性格を見る所にある。
例えば、7のカードと一緒に何を揃えるかで、大きく分けて二通りに分類される。
対多数で早く上がりたい派は10以上のカードを好んで選ぶ。
一対一で上がらせたくない派は5以下のカードを選ぶ。
何方も三枚以上の思考は無く、アキは前者、るしあは後者だった。
ア(まーたスキップされた。頻度高い様な気がするけど。)
る(そうやって直ぐ一枚しか置けない文字カード選んで、ポーカーじゃ無いんだから。ほら、ドローしろ。)
ポーカー的にやるのは上手い証拠なのだが、其れは"永遠の0"では分かるまい。
この競技のプロは6のカードの位置を覚えていて、如何に6〜9のフルハウスで事を終えるかを狙う為、前半戦が重要になるのだが、思ったより複雑なので、正直、普通のUNOしてて良い様な気がする。
アットホームな感じで逃げるに逃げれない、逃がさない逃げないの闘いで、気付いたら夕飯が運ばれて来る時間になった。
夕飯が来る前に鼻歌をするしあ。
其の楽しさに、腹が減ってゲームをやる気は無くなり、病室に戻るアキロゼ。
ゲームの最中に新しい滑車式の移動装置を持って来て貰ったるしあは遅れて夕食に。
今夜のメニューは魚と聞いて、久し振りにと思って一瞬だけウキウキしたが、食べている最中で味気が無くなっていく様になるしあ。
(何で呼び声に応じたんだっけ。そうだ。魔王が新しい地位を約束するとか言ってた。望みを叶えてやろうとか、この応じるだけの姿形で裁かれたら堪らないとして、飛び出てきたんだった。)
死の意義を食事に取られるしあ。
一行はと言うと、不味い様な食事の最中、彼女の事を話して、包帯の仮面を取って喋れる様になったらスカウトして、パーティをデカくしようとか話してるのが聞こえて来る。
ガハハとか、病院で豪胆な笑い声が聞こえる日が来てしまった。
其れは其れで喜ばしい事なのに、哀しみだけが迫り上がって来るしあ。
一度死んでいるからだろうか。
其れとも、一度も死んでいないからだろうか。
死人に口なし、死者は何の責任も取らない。
口は災いの元。
災いは何も、昔からあった訳では無い。霊長が口伝を身に付けて以降、生物には物質の側面を持たされた。物質的側面は循環せず、世界の代謝は動かなくなって来る。社会は人を物質と見る。責任を押し付け合って。
沈黙は金。雄弁は銀。
金は引く手に好手あり。去り際に最も高い価値が表れる。死とは、最も本位にすべき事である。
まあ、死んだら死んだで、次に生き返った時には、死にたがる癖が付くが故に、ネクロマンスは召喚から攻撃の間に以心伝心で事を行える。
回復薬もそうだ。回復したらしたで、次に回復する時を楽しみにしてしまう。
生も死も一つだけでは成り立たない。
だからこそ、中毒から脱却するのは容易では無い。
人の字が何故片方が片方を支えるのかというと、生が死よりも長く、生は死に支えて貰っているからである。生は死の中毒の最中であるとも言い換えられる。
動植物でも同じかと言うと大概同じだが、殊其れだけかと言うとそうでは無いのだ。
中毒症状の代わりに生と死の中間、物質として永らえる事が人間社会で可能になった。
其の動植物に依存している以上、魔が付こうが付くまいが、否定できるものには限度がある。
特に、物質的・社会的な側面は魔が差す程に否定されて出来上がったものだ。
其の最たるものとして、
ラプラス・ダークネス(((そして、我輩はそんな旧来の支配とは違う野望を抱いた。)))
そして、星の表面を覆う循環に傷が出来るほど奪い過ぎたなら、社会における良心の呵責を捨てよと、民草は生も死も区別の付かない霊魂を捧げ、その霊魂が転生前提の霊魂に導かれ、魔の溜まるこの世界は出来上がった。
そうなのである。
魔とは、否定の冠。
王に付けば王で無く、力に付けば力を失くす。
最も忌避すべきものであり、そして其れは、最も軽んじるべきものである。
ここに於いて、物語は成立する。
魔は其処において、他を排する為に用いられる。
其れを無くすのに、其れ以外は無いを無くす事により、無さ其の物を変える為に。
この世界では、生まれ変わる際に、来世の魔力が、前世の力を失った分だけ得られる仕様になった。
二度目の同じ形質だから、魔に取り憑かれ、そして、あの生贄の無かった世界も同様に存在し、地上は、ときのそらから上書きされて行った。
彼女達が失ったものは何だったのか。彼女達が取り戻そうとしているものは一体何なのか。
賑やかな病室が出来上がって居た。
其の病室の外から、同じ顔が、暗闇に浮いて、こちらを覗き込んでいる。
団欒に似た笑顔の囲いに、軋轢の如き笑顔の連なりがあれば、其の明るさは同様に世間の昏さである。
消灯になり、自然と笑い声もフッとロウソクに息を吹きかけたかの様に消える。窓の外の隣人達も消え、静かな夜がまた訪れる。
暗い視界は天井を捉える事無く、何度口にしたか分からない気になる人の気になる部分を挙げ諂って行く話。
大抵は、フレアのこの仕草が良い、ししろんのこう言う所が頼りになるの二強だが、今日はロボ子さんのここが抜けているで話題と一盛り上がり出来てしまった。
ロ「あー、やっぱり、僕も言うんじゃ無かったよ。」
話題から2、3跳躍して、あの時の一言が頭に巡ったのか、ロボ子さんが獅白の話にした。
ら「ししろんは大丈夫かなぁ…」
ラミィが呟く。
其の一言を切っ掛けに、全員が心配事に囚われる。
ノ「フレア…必ず会いに行くからね。」
正直な所ではあるが、勇者パーティはブルーでレッドでブラックだ。ホワイトでは無い。
ノエルのこの感想も、勇者パーティへの愚痴7:3入院が退屈の割合だ。
其の一言を最後に、其の夜は物静かになった。
朝になり、明るさに目が慣れるほんの少しの間、アキロゼは、四人のベッドが作る通路の交差点に、影の無い気配の無い白装束の人の姿が現れているのに気付く。
茶色い泥に塗れた金の髪が、赤黒く赤茶けた土を垢と残す爪と指が、曇り空の白い光に鈍く照らされて、白いシーツ、白い包布で出来上がった病室に、肩と髪を垂らして立っている。
不思議だ。
そこに怪は立っている筈なのに、背景となる病室をくっきり捉えている。
もう既に他の面子は居ないみたいだ。
まるで違う病室みたいだ。
影はなく、光だけが色を拒絶している。
人の脳裏に宿る色の無い光景其の物の様に。
そして、雰囲気が、霊魂が違う。
目を閉じ、魔力を生成する感覚の手前で止める。
目を閉じたつもり。
目を開ける。
すると其処は一瞬、病室では無く、
木製の校舎、土で塗れた背景。冷たい感触。暗くなる刹那。
其れは、墓場への冒険譚に思えた。
存外、死ぬ時は綺麗な感情だけが残るものだ。
ノイズの様に入って来るパルス波の超弦に。
少女は口角を吊り上げ、誰もいない病室で、視界が其の笑顔で満たされ。
気付いたら、元の病室でパーティ全員が、不思議そうに、心配もあるか、揃って自分の顔を覗いて居る。
窓から差し込む日光で全員が起きてしまった様だ。
朝食までの間に、少し時間がある。
彼女は、少し冗談めいた感情で、どう表現すればいいか分からない面持ちで、其の待ちの間、雰囲気の中、白く浮いていた。
其の彼女の足の裏に、土さえ付いていなければ、ずっと。
ら「アレ?足の裏、汚れているよ。
ア「え?」
〜
「魔王席次」という年に2回しか販売されない特別に太い雑誌があったので手を取ってみた。
最近の大雑把な活躍、目的と目標、潜在的な戦闘能力と、大きく分けると三つの見所が各人に書かれており、以下に軽く纏めてみたが、素直な感想、魔王という存在から感じていた暗黒的な破滅的な印象より、黒いスーツをした人達が纏めた様なしっかりとした見る人に優しく一冊で満足できるボリュームの雑誌だった。
〜※〜
第一席:ラプラス・ダークネス
新しい世界、物質だけで無く責任も流転し、万物の価値が一定になるまで均される主義を目指す宇宙人。最も完遂できそうな超長期目標の為、魔王から信頼は厚い。魔王を裏からそう位置付けさせた代表。魔王とほぼ対等にして魔王より自由。
不世出・役満の席次。
第二席:夜空メル
友情・努力・勝利の三拍子が似合う王道←天然ヴァンパイア。其の属性の縺れ様は天才の一言であり、周りに嫌われること無く、社会における責任を、自身の不死身性という物質の極致を持って、軽く背負える存在。引っ張るというより周りが離れられない側面が、席次において最も重要な社会の其の存在に対する依存度を少し高めている。
合理で測れない席次。
第三席:麗羽るしあ
底無しの魔力。強引に社会を作り替えられる可能性を持つ覚醒ネクロマンサー。他と比べて、より輩を必要としない。屍の利用が極端に攻勢的である為、戦争を行うという浅い歴史を体現しているとも言える。より守勢的な群体行動に期待を込められている。
継続に準拠する席次。
第四席:桐生ココ
隣国絡みのパイプと旧態依然とした組織運用の強みをヤクザとする。自身の倒されにくさという席官としての安定に繋がる部分を戦闘力として保持していられる。魔王と直接の関係は無い勢力に多く加担している。器がデカい。
第五席:風間いろは
第一席の下、直接戦闘を担当する金髪の侍。何でも切れる戦闘力の高さと志(強い奴とだけ闘いたい)により最右翼とされる。下手すると魔王よりも強いかも知れないって言うだけの存在。技名がカッコいい。
第六席:癒月ちょこ
街からちょっと海岸に沿った護り易く攻め難い病院に居座る悪魔。誑かすのは、患者の外に出たい気持ち、魔王に近付く小蝿と、かなり権力的に悪く無い魔性の女。あくまで科学的に悪魔とされる正体である。取り敢えずヌード担当。
第七席:竜騎兵隊隊長
割愛
第八席:✖️
第三席にネクロマンスされた傀儡。社会的損失が見られる。未定。
第九席:鷹嶺ルイ
第一席の下で経済面の支援をする女幹部。動物の能力が得られるオーラの使い手。鷹の能力を得られ、空中での業務遂行が可能な他、移動に掛かる費用が浮く経済的な側面も好印象。かなり敏腕にマルチな社会適合者。
第十席:逆叉クロエ
第一席の下で働く掃除屋。第四、九席に続き、オーラという現象の性質上、配下において其の優位性は高いものと推察されるが、最も社会不適合な存在とも言える程に極端な能力行使が悪印象。魔王位しか採用しないであろう性格。
〜※〜
其の雑誌には、最後まで読むと魔王軍にアクセスできる様な連絡先が書いてある。裏表紙の一ページ前では通販とかが普通な訳だが、どうにも求人広告の様相も呈している為、魔王軍の合理性が伺える。ここまでする必要がある以上は、一席のインタビュー部分で取り上げられていた隣国の攻勢が昔から変わらないという所だろう。
この雑誌、この病院には二冊あり、一冊は私、アキ・ローゼンタールが、もう一冊は丸テーブルで向かいにいる包帯でグルグル巻きの娘が見ている。
この一冊は、先程パーティメンバーが表紙を見るや否や早く次は私と軽く騒動になっていた為、直ぐに持って行くが、彼女はどうも同じ所を何度も見返している。
る「裁判…」
呟く声には覇気が無い。
あのゲームで見せたどうしても離さないという意志、強くあれかしと育てられて来た私には分かるどうしようも無い大空の様な感情、其の夜天の強さと美しさを感じるいつもの少女では無かった。
裁判。
分かる。悲しいのは何よりも、一度死んだ者を裁く為に生き返らせる行為に他ならない。
一年前の死者蘇生から、ネクロマンスに関する法《おきて》が出来始めている以上、この様な裁判が起こされる事自体が世間の逆流であると、誰が主導しているのか、其処だけは分かる。魔王だ。
彼奴は、自身の配下をダシにして、新しい法を施行できる唯一の立場である国王を目指しているに違い無い。
倒すべき存在。確固たる信念が積み上がっていく感覚。
私は女勇者《アキロゼ》なのだと、この手に握る雑誌に載っている者全てと闘うべき
雑誌を持って行くと、丸めた其れを見て怪訝な顔をしたラミィと直ぐに手を出して来たノエルが其々、隠れて回復薬を一升瓶で飲んだと思える跡が転がっている。
どっから出したのやらと、酒瓶を片付けていると、ツインテール、途中でUFOみたいな器具で浮いたまま繋がっている其の機材が、方向を急に一升瓶に向け、魔法陣を生じさせ、吸い込んで行く。
「ほえ?」
ら「あ、ヤバい。バレる。」
するとラミィが焦って、謝り出した。
「済みません。勝手に二つあるポーチの片方を使ってしまって。でも、皆んなで話し合って、早く退院するにはこれしか無いと。」
正直、よく分からない。いつの間にこんな仕掛けが付いていたのか。
そう言えば、私が起きるときには既に飯《ハイ・ポーション》が用意されてあったっけ。若しや。
ア「もしかして、私のツインテール、勝手に使ってた?」
ら「あ、ハイ。便利だったのでいつも使ってました。」
しかし、回復薬をこっそり使うとは、私に黙っていた分は置いておいて、良くやった。これで直ぐに退屈な入院を終えられるというもの。まあ、私はもう明日には退院できるみたいだけど。
自分には与り知らぬ事でも聞かなければ分からない事も多い。
「それで、私に黙って使ったのは、コレだけ?」
ノ「え、ええと。実は牛丼があるんじゃ無いかと思って其のポーチの中に入った事が有るんですよね。」
は?そんな馬鹿な。
「其の時はロボ子さんに助けて貰ったんですけど、実は、其の時に、見てしまったんですよね。アキさんの下着。」
そう言えば昔、下着が消えている事件があったのだと思い出す。そうか、昔から、って、えええええええええ!?そんな機能があると知っていれば、拾った物全部入れてやったのに。嘘だろう。ツインテール。お前もなのか。
アキはそう思うと筆記用具として院内で携帯が許された用具入れから、柄を取り出す。
「召喚。」
そう短く言葉を交わすと、亜空間から承認用、実行用の魔法陣が出現し、剣が出現する。
コイツと同じ効果なのかと、よく見ても無かった魔法陣を、脳内で重ね合わせて結論に至る。
暫し目を瞑ったまま考えていたが、正直、自分が協会から貰った武装がこの柄とポーチ二つだけだったのは、其れで取り敢えずは不足するようになるものは無いだろうという結論なのだろう。
まあ、今の今までポーチだとは思わず、この柄から剣がいきなり出て来るもんだから誤ってツインテールを持って行かれてしまい、其の髪留めとして使用していた訳だが、どうも私らしい話だ。
其の少し肩を落とせる見落としにロボ子は心配してくれた。
「大丈夫だよ〜。僕だってこの義手足の使い方、全部分かってる訳じゃ無いから〜。」
其れは其れで心配なのだが、拍子抜けした以上は、黙って聞いておくしかない。どうにも、彼女は、毎月協会にメンテナンスに行く際に、バージョンアップを施して貰ってるらしい。其の機能が一ヶ月の間使わずにしまっておく事も珍しくないらしく、其れでよく分かっていないと言ったのだ。
「もうそろそろメンテの日付だね〜。」
ア「…私達ってパーティ結成してからどの位経ったっけ。」
ノ「もうちょいで2週間デスかね。思ったよりも休んでる気がするな〜。」
ア「そう、其れだけしか経ってないのに、もう院内で入退院の話してるのか。ごめんね。私が不甲斐ないばかりに。」
アキは悔しさで溢れる涙を止められなかった。
泣くリーダーに向けて、同じ思いなのか、奮起する様にメンバーは鼓舞する。
ノ「アキさんばかり悪い訳じゃ無いですよ。この前のは、向こうの布陣が完璧だった。コッチがバラバラの連携のまま、数で押されちゃいましたもん。まだまだこれからですよ。」
ロ「そうだよ〜。今回、前の反省を活かして、パーティの陣形を考えて置こうよ。大丈夫。僕達、強いから。」
そう言えばそうだ。戦闘時の役割分担をやろうと考えてたら、雑誌を手に取ってしまったのだ。
ら「うーん、何だか後の方、席次が低い方が厄介そうですね〜。守る自分も無いから単身で闘いそう。」
ア「そうだね。じゃあ、これ見ながら、一緒に戦い方をある程度決めて置こう。」
そうして、病室の入り口付近で話を聞いていた娘には気付かずに、話し始めてしまった一行。
この病院内、其のネクロマンサーは何時でも彼女達含め、全員を狙えた。草原での飽和攻撃、これを簡略化するだけで、召喚から攻撃までのタイムラグを最小限に抑えた上で、召喚即時攻撃、遠隔円陣同時ビーム攻撃、上空召喚、これは病院ではあまり出来ないか、他に、接触召喚によるトラップや件の連隊召喚を虎視眈々と、然して、あくまで手段として考えていた。
だが、正直、ゲームが楽しかった。彼女には戦略性や読みなど微塵もあるとは思えないゲームだったが、其れでも、傷付いた自分と、共に笑っていられるだけで、心に日が差した。
ずっと燻っていた人との関係を持ちたいという衝動に応えてくれた二人目の記念すべき存在に、彼女は其の続きを見たいと思った。
けれど、余りに執拗にこの陣形なら勝てると豪語する一行に、目に物見せてあげる気が十全に
なって来た。
背後から近付く悪魔に気付かず。
ちょ「其処で何をしているのかしら。ちょっと、今お時間頂けるかしら。診察したいのだけれど。」
そう言うとちょこ先生は病室に一緒に戻り、手短に状態を見て、包帯を変えてくれた。
〜裁判まで後五週間〜
〜〜〜
冥界には赤と緑のとある死が強調されて居た。
赤の幽霊の方が緑の魂を囲った。
赤の幽霊「るしあ〜。ちょっと位良いじゃ〜ん。」
緑の魂の方も満更でも無く、ふわふわと同じ場所に漂っている。
緑の魂「…駄目だよマリン。もうちょっと、もうちょっとだけ近くに居て…」
ぎゅっと強く、其れで居て、幽霊であり薄く紅が赤へと変わって行く様に、しっとりと抱き締められる。
マリンの幽霊「ずっと一緒だよ。」
るしあの魂「うん…」
時は長く、淡く溶けて消える様に永く流れて行った。
〜〜〜