狂おしいほど愛して…… ― 都みゆり in 艦これ ―   作:いちばんだめなあるじ

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強襲せし愛の獣 Ⅴ

「コポコポコポ………コポコポコポ………コポコポ………コポコポコポ……」

 

 ―――

 

「コポコポコポ………コポコポ……コポコポコポ……コポコポ………」

 

 ――

 

「コポコポ………コポコポコポ……コポコポ………コポコポコポ………」

 

 ―

 

「ンッ………ヨッコイショォ………ンフッ………ウフフッ………」

 

 ―――ニガサナイ

 

 

 

 

 

「提督、お休み中失礼します。」

 

「……陸奥か、気にするな。入れ。」

 

 ブルネイ泊地――厳戒態勢を敷き、執務室である司令官室で身体を休めていた提督の元に、秘書艦である陸奥から報告が入る。

 

「先行任務中の大鷹より救援要請よ。南シナ海沖合で新型の深海棲艦からの急襲を受け、撤退するとの報告が入ったわ。」

 

「そうか……。」

 

 先行部隊の任務は、新型の深海棲艦と交戦し敵の情報を持ち帰ること、多少の被害は覚悟の上だった。しかし、自力での撤退すら危ういとなると想定していた被害を上回る結果と言わざるを得ない。

 

「既に救援部隊の選出、招集は完了しているわ。」

 

「わかった。すぐに向かおう。」

 

 現段階において敵の情報ほど重要なものはない。戦力の追加投入は予定外だが、何も得られずに戦力を失うことだけは回避しなければならない。

 

 提督と陸奥はお互いの認識を改めなければならないと、表情険しく頷き合い、足早に司令官室を後にした。

 

 

 

 

 

「大鷹さん達は無事でしょうか……。」

 

 村雨の救出に先立ち撤退を開始した五月雨達は、自力で航行することすらしなくなってしまった愛宕を抱えながら、ゆっくりと泊地へ向かっていた。

 

「今は……無事を祈りましょう。」

 

「ほら、愛宕さんも早く行くよ!」

 

 日振と大東は、少なからず罪悪感を感じていた。自分達があの時すぐに動けていれば、深海棲艦の存在に気付けていれば――その想いから愛宕は必ず救うのだと、こうして彼女の手を引き続けていた。

 

「……ぁ……ぅ……」

 

 日振達の声に小さな呻き声しか返さない愛宕の様子に胸を締め付けられながらも、それでも精一杯の願いを込めて、五月雨は暗闇の向こうに残る大鷹達の無事を祈り続けた。

 

 

 

 

 

「……っ!つぅ〜っ!」

 

 五月雨達に遅れること数海里、みゆりとの激戦の果てに村雨を救出した青葉達は、ぼろぼろになりながらもどこか嬉々とした様子で帰路に着いていた。

 

「青葉さんっ!怪我してるんですから無理しないで下さいっ!」

 

「あははぁ〜、ついついいつもの調子がね?あいたたぁ……」

 

 村雨を庇うため背負った艤装を盾にしてしまった青葉は、雷撃が生み出した衝撃波によって機関部が大破、その余波を受けて背中に大怪我を負っていた。

 

 大鷹は怪我こそ無いものの、艦載機の大半が無茶な運用により航行不能に陥り、戦闘能力を失っている。

 

「ごめんねぇ……」

 

 そして村雨は言うまでもなく、もはや身動きもできないほどの損傷状態で大鷹に背負われるがままになっていた。

 

「いいんですよ。村雨さんのおかげで私達は今こうしていられるんですから。」

 

 申し訳無さそうにしている村雨に、大鷹は笑顔でそう答える。

 

「そうそう、村雨さんは間違いなく一番の功労者ですから!あっ!あとで、取材!いいですか?」

 

「えぇっ……?お手柔らかにぃ……」

 

 満身創痍の面々ではあるがその表情に不安の色はない。みゆりを退け誰一人欠けることなく生還できている――その事実が彼女達の疲れ果てた精神を支え、前を向く力を湧き立たせていた。

 

 先行した五月雨、日振、大東、そして愛宕と合流し、早くこの事を伝えよう――そうすればきっと、またみんなで笑えるから――大鷹はその想いを胸に、暗闇の先に待つ仲間達の元へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

「―――♪♪♪―♪―♪――♪♪♪―♪―♪――」

 

 ―――

 

「♪♪♪―♪―♪――♪――♪―♪―♪―♪――」

 

 ――

 

「♪♪――♪♪♪♪―♪♪――♪♪♪♪―♪――」

 

 ―

 

「…………………ンフッ、ミィツケタァ♪」

 

 ―――ニガサナイ

 

 

 

 

 

「あ………あれ……?」

 

 愛宕の手を引き航行を続けていた日振は、風向きが変わるのを感じ足を止めた。

 

「ん?どうしたんだよー、ひぶ………お?」

 

 反対側で愛宕の手を引いていた大東は特に気にならなかったのか、急に足を止めた日振へ抗議の声をあげようとするが、遅れて何かに気付く。

 

「んー……?波が……高くなってきてる?天候が荒れてくるのでしょうか?」

 

 合わせて足を止めた五月雨は周囲の様子を伺うものの、特に目立った変化は感じられない。ほんの少し、普段なら気にしない程度に波の抵抗が強まったくらいである。

 

 空を見上げてもぽつりぽつりとうっすら雲が点在する程度、悪天候と呼ぶには程遠い晴天が続いている。

 

「あっ……ごめんなさい。ちょっと神経質になってるのかも、しれませんね。」

 

「うぅん、あんな事があったあとだからしょうがないよぉ。」

 

 気を取り直し、再び愛宕の手を引こうとしたところで、日振と大東はその異変に気付いた。

 

「………ぅ……うぅ………うう……」

 

 愛宕の様子がおかしい――正常ではないという意味ではずっとそうなのだが、ここへ来て更におかしくなったと言うべきなのだろう。

 

「……くぅぅ……くるぅぅ………くるぅぅぅ!くるぅ、くるのぉぉぉ!!」

 

 手を引いてもびくともしなくなった愛宕は、次第にがくがくと震えだし、果てには声を上げて叫び始めた。

 

 茫然自失としていた瞳には深い恐怖の色が宿り、滝のように脂汗を流し始めた愛宕の様子に、誰も声を掛けることもできず、ただ見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「海流が……乱れてる……?」

 

 一方、大鷹達の元にも異変が訪れていた。

 

「急に波が速くなりましたねぇ。これなら思ったより早く帰れるかも?」

 

 大鷹達の進行方向と同じ、北西から南東へ向かうように波が立っており、青葉の言う通りこと移動においては有り難いとも言える。

 

 楽観的すぎではないかとも思うが、周囲の様子におかしなところは見当たらず、探信儀にも特に反応はない。

 

「………スゥ……スゥ………」

 

 さすがに力尽きたのか、先程から寝息を立て始めた村雨をしっかりと背負い直し、大鷹は海流に身を任せることにした。

 

「そう……ですね。今は運が味方したと、そう思うべきかもしれませんね。」

 

「ですです。なんてったって青葉達には村雨さんという勝利の女神がついているんですからねぇ!」

 

「ふふっ……確かに、そうかもしれませんね。」

 

 戯けてみせる青葉の様子に、思わず大鷹も微笑み返し、自分が悲観的になりすぎているのかもしれないと思い直した。

 

 ふと空を見上げると、月の位置も大きく傾き、長い夜も終わりへと向かっているのだと、そんな感傷に浸らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「♪―♪―♪♪―♪♪♪――♪―♪―♪♪♪――」

 

 ―――

 

「♪―♪―♪♪―♪♪♪――♪―♪―♪♪♪――」

 

 ――

 

「♪―♪―♪♪―♪♪♪――♪♪♪♪―♪♪―♪――」

 

 ―

 

「ンフッ♪ウフフッ♪……マッテテネェ、イマアイニイクカラァ♪」

 

 ―――ニガシハ、シナイ

 

 

 

 

 

 ブルネイ泊地、作戦司令室――提督と陸奥が部屋に入ると、既に準備を終えた艦娘達が整然と並び待機していた。

 

「……ほう。人選は陸奥、君が?」

 

「えぇ、そうよ。今回は予定になかったもの、こうするのが最善でしょう?」

 

 提督は整列する面々を確認し、その人選の意図を読み取るが、陸奥が行ったという人選はなかなかどうして一筋縄ではいかない面子のようだ。

 

「お話のところ失礼します。状況を考えれば急ぎ出撃した方がよろしいのでは?」

 

 急造の救援部隊、その旗艦を陸奥から任されたのは矢矧だった。規律正しい彼女が口を挟むのは珍しいことではあったが、彼女の言う通り時間を無駄にする余裕はない。

 

「そうね。提督、詳しい話は後で私から、でいいかしら?」

 

「ふむ……そうだな。今は時間が惜しい。急な任務だが、よろしく頼む。」

 

「それじゃあ、大鷹から届いた信号を纏めておいた資料を渡しておくわね。私は矢矧達を見送りに出るわ。」

 

「ん……?そうか、わかった。目を通しておこう。」

 

 陸奥の言葉を皮切りに、救援部隊の面々も動き出す。

 

 急造の部隊とは思えない息の揃った彼女達の挙動に疑問を感じつつも、提督は手元に残った資料に目を落とした。

 

「……ふむ………やはり………ん?これはっ!?」

 

 既に彼以外誰もいなくなった作戦司令室には、提督の上げた驚きの声がこだましていた。

 

 

 

 

 

「なんでっ?これは何が起きてるのぉっ!?」

 

「あああっ……くるっ!くるのっ!」

 

 五月雨達は混乱の中で叫び出していた。

 

「愛宕さんっ!駄目です!手を離してはっ!」

 

「うおおおぃ、日振ぃ!みんなぁ!」

 

 叫び出した愛宕に気を取られ、呆然と洋上を漂っていた五月雨達は謎の海流に飲まれようとしていた。

 

 始めは返す波が少々強くなっているかという程度の違和感しかなかったが、徐々にその波は強さを増していき、その場に留まることすらできないほどの海流を生み出すに至る。

 

 錯乱する愛宕に意識を向けていた五月雨達が海流に流され始めていることに気付いた頃には、舵も言うことを聞かず身動きもままならない状況に陥っていた。

 

 

 

 

 

 時を同じくして大鷹達にも危機が訪れる。

 

「あわわわわ!これはまずいかもぉ!?」

 

 速まる海流は留まるところを知らず、今や激流と呼べるほどの速度となったそれは、明らかに自然現象の域を超えていた。

 

「うぅっ……大鷹さん、ごめんなさいぃ……」

 

 大鷹に背負われる村雨はどうすることもできず、ただただ振り落とされないようしがみつくしかなかった。

 

「一体何がどうなってるのぉ!?」

 

 少しでも勢いを殺そうとする大鷹と違い、怪我と疲労から耐えることより流れに任せる選択をした青葉は、どこまでも加速していく海流に乗り、泊地のある方向へと流されていく。

 

「青葉さんっ!」

 

 大鷹の呼び掛けも虚しく、青葉の姿は遠く離れていく――追うべきか、堪えるべきか――大鷹は判断を強いられる。

 

「……行きましょう、大鷹さん。」

 

「村雨さん?……っ!そうですね、行きましょう!」

 

 肩越しに見た村雨の瞳には強い意志が宿っていた――何ができるわけでも無い、それでも見捨てることはできないと、大鷹に語りかけていた。

 

「村雨さんっ!しっかり掴まっててくださいね!」

 

 大鷹は海流に身を任せ、背負った村雨を取り落とさないように気をつけながらも、先へ行ってしまった青葉の後を追いかける。

 

 

 

 

 

「ん〜?もしかして、あそこにいるのって……?」

 

 とめどなく流され続けた青葉の視界に入ってきたのは、自分達より先に撤退していたはずの姿。

 

 大鷹と距離が離れてしまった青葉と同じく、散り散りになって此方へと向かってくる五月雨達はどこか動きが様子がおかしい――後ろ向きに走っているかのように、ちぐはぐな動きで此方へと近付いてきていた。

 

「まさか……そんなぁ……」

 

 そして青葉は気付いてしまった、自分達の身に降り掛かった異常事態の正体に――そして戦慄した、その異常事態の元凶に心当たりがあるということに。

 

 

 

 

 

 ゼッタイ―――ニガサナイ―――

 

 

 

 

 

「じゃあ皆、後のことは頼んだわよ。」

 

 ブルネイ泊地港湾部――陸奥より救援部隊に選出された艦娘達は、今まさに出撃しようとしていた。

 

「ふふっ、こんなに早く出番がくるとはね。」

 

「ねぇねぇ、まだいかないの〜?早くいきたぁ〜い!」

 

 旗艦を任された矢矧は自信たっぷりといった様子、そして今すぐにでも出撃したいとばかりにはしゃぐ島風の表情にも、緊張や不安の色は見られない。

 

「瑞鳳も、出撃準備できてますっ!」

 

「皆さん、待ってくださ〜い。」

 

 艦載機の最終点検を終えた瑞鳳、わたわたと艤装の確認を続ける羽黒、皆が皆先ほど司令室で見せた精悍な表情から一転し、意気揚々と出撃準備を熟していく。

 

「……もぉ、貴方達、少しは緊張したらどうなの?」

 

 そんな彼女達の様子に、秘書艦として気を引き締めていた陸奥の表情も思わず緩んでしまう。陸奥の口から出た一言に、上官としてではなく、一人の艦娘としての彼女が垣間見えた。

 

「相変わらず心配性ですね、陸奥は。」

 

「どちらかというと呆れているわ。うふふっ。」

 

 軽口を交わす二人の瞳の奥には決して楽観や油断などといったものは無い。そこに在るのは、強い信念と信頼、そして経験に裏打ちされた確固たる自信。

 

「羽黒っ、準備はいいかしらっ?」

 

「はいっ!お待たせしましたっ!」

 

 羽黒が準備完了を告げた瞬間、その場にいる全員の表情が引き締まる。

 

 何の号令もなく、単なる確認の言葉が交わされただけだというのに、一人の例外もなくこの先に待つ戦いへと意識の切り替えを果たしていた。

 

「これより先行部隊の救援に向かう!総員、配置につきなさい!」

 

 号令を受け歩み出す彼女達の頼もしい後姿に、陸奥は満足気に一つ頷くと、その背中に向けて最後の檄を飛ばすのだった。

 

「いいこと?暁の水平線に勝利を刻むのよ!」

 

 

 

 見上げた先には夜の帳に包まれた果てなき海、未だ太陽は姿を隠し、剣の月だけが煌々と輝いていた。

 

 

 

 ――To be continued

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