ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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じゃあ何すか。ぼっちちゃんは無駄死にだったって事すか。

 

 

 

 

 

 大学生の夏は長い。

 高校の時は憂鬱だった八月三十一日も、大学生にとっては夏休みが三分の二終わった程度。後期が始まっても俺は授業もほとんどないため気楽なものだ。

 まぁバイトはあるんだが(バイト戦士)

 だがそれも、最近はアホ店長も少しは更生し、新しくバイトを雇って順調に育ってきていて、俺の出勤日は週八から週五にまで減った。それでも収入はあんまり変わっていない辺り闇を感じるが、まぁそこは置いといて。

 

 休みが増えた大学生が何をするか。

 そんなの当然、遊ぶに決まっている。

 

 

「ぼっちちゃんがトンビの獲物にされてる!」

 

「鳥類にまで舐められてるの!?」

 

 

 というわけで、俺は今、江ノ島で後藤ちゃんがトンビに襲われている様を腹を抱え笑い転げながら眺めていた。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 

「え? 横浜にいた?」

 

 江ノ島水族館の入口で、俺は電話越しに妙な報告を受けていた。

 

『はい。新幹線に乗ろうとしていたところを保護致しました』

 

 電話の相手は知り合いのお嬢のお付きの黒服さん。昔から何かと助けてくれる、とても優しい人達だ。

 まぁこの人達に拉致られたこともあるんだが、プラマイで言ったら余裕でプラスに傾くので、この人達のことは心から信頼している。

 

「どうやったら新幹線に乗ろうっていう思考になるんだ...」

 

『迷宮入りですね』

 

 そんな黒服さんが、横浜で誰を保護したのか。

 今日俺と一緒に江ノ島水族館に遊びにきていた、迷子検定一級持ちのクラゲホリック先輩だ。

 クラゲが見たいって言うから江ノ島にまで出てきたのだが、水族館を出た後に何故か失踪。慌てて黒服さんに連絡し、今に至る。

 

『本日は我々がこのままご自宅までお送りします』

 

「あ、はい。お願いします」

 

 まぁ、もう「クラゲを見る」っつー目的は果たしたしな。また戻ってきて、次は江ノ島内で遭難するようなことが起きるより全然マシだ。

 

『彼女から伝言です。「ふえぇ...! ごめんね海くん...!」とのことです』

 

「黒服さん声真似上手いっすね」

 

『恐縮です』

 

 電話を切り、「さて」と一度伸びをする。

 明日から九月とはいえ、昼間は普通に暑い。随分と走り回り、汗も大量にかいた。

 どこかでさっぱりしていきたいし、せっかくなら飯も食べて帰りたい。

 

「そういや、江ノ島にも温泉ってあったな」

 

 いつぞやに見た旅行雑誌を思い出す。

 確か富士山が一望できる浴場があったはずだ。

 温泉入ってシラス丼でも食べて帰ろう。

 

 そうと決まれば即行動だ。

 早速江ノ島に...あ、その前にコンビニでパンツ買ってこ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「すみません、もう昼の営業終わったので」

 

 ゆっくりじっくり温泉を堪能し、さて飯だと意気込んでやってきたシラス丼屋にて。

 そんなことってあるかよ...と項垂れ、店を出る。

 

「あっちー...」

 

 一瞬でも店内の冷房に触れた体を、夏の江ノ島の熱が襲う。

 冷房の効いた店内で遅めのランチ! と妄想していたこともあり、余計に暑く感じる。基本的に寒いより暑い方が好きだが、最近は異常気象が過ぎて本当に暑い。茹だってしまいそうだ。

 

 手でパタパタと扇ぐ。無駄な抵抗だな、せっかく温泉に入ったのにまた汗かいちった。

 

「...帰るか」

 

 このまま江ノ島に居座ったって楽しいことがあるわけでもなし。ぶらり観光も良いが、この炎天下を一人で歩き回るのは辛い。せめて複数人で回りたいところだ。

 

 帰宅を決め、弁天橋を渡る。

 

 途中海水浴場が見え、良い匂いが漂ってきた。

 これはやきそばか? やべ、腹減ってきた。温泉入ったあとだし何か腹に入れたいな。

 

 匂いに釣られるように、足が自然と海水浴場の方へ向く。

 もう海で泳げるような時期ではないが、海水浴場には人間が多い。そんな客向けに、海の家もまだまだ営業を続けているようだ。

 

 海の家のやきそばって妙に美味いんだよな。法外な値段だけど、払う価値があると思わせてくる。

 

 口は完全にシラス丼だったが、この際やきそばでも良い。というかやきそばのこと考えたら口がやきそばになってきた。我が口ながら浮気性な口だな。

 

 色黒お兄さんやイチャイチャカップルの波を切り抜け、海の家が立ち並ぶ区域に辿り着く。

 もうシーズンも終わりだってのにみんな凄いな。ナンパ野郎もたくさんだ。人に迷惑をかけない程度に楽しんでほしい。

 

「ウェーイ! お姉さんたち何してんのー? 暇ならうちの海の家で食べてきなよ〜〜!」

 

「お安くするよォ!」

 

 ほんと元気だな。

 そんなノリで着いてくる女とかいるのかよ。

 どーせ相手にもされずに────

 

 パァン!!(破裂音)

 

 ......なんだ? 今の音。

 

「ぼっちちゃんが爆発四散した!」

 

「後藤さーん!!」

 

 は?

 

「まずい、一旦逃げよう!」

 

「ダメです! 回り込まれました!」

 

「「ウェウェーイ!!」」

 

 .........地獄か?

 

 

「...あー、すんません」

 

 こんなところで知り合いが被害にあっているところを目撃してしまい、ため息を吐いてから声をかける。

 

「ウェーイ?」

 

 ウェイ語やめろ。分かんないんだよ。

 

「あっ! 海さん!」

 

 俺を視認した伊地知ちゃんが駆け寄ってくる。

 それに続き、喜多ちゃんも駆け足で、山田ちゃんはゆっくりと歩いてこちらに寄ってきた。エサを持って入った犬のふれあい広場みたいだな。

 ところでそのペラペラ風に靡いてるの何? もしかして後藤ちゃん?

 

「ウェイウェーイ! なぁによお兄ちゃーん」

 

 俺はお前のお兄ちゃんじゃないが。

 

「この子ら俺の知り合いなんで。商売邪魔するわけじゃないっすけど、ちょっと失礼しますね。それじゃ。ほら行くよ」

 

「ちょ、ウェーイ!?」

 

 ウェイウェイうるさい。

 ウェイ助達を無視し、マイペースを崩さない山田ちゃんの背中を押しながら場を離れる。

 

 ああいう輩って根は優しかったりもするんだけど、如何せん通常時が鬱陶しい。インドア派にとっちゃ天敵だ。

 

 しばらく歩き、さすがに追っては来ていないことを確認してから立ち止まる。

 

「海さんありがとうございます〜!」

 

 俺が立ち止まったことで皆も歩くことをやめ、伊地知ちゃんがお礼を言ってきた。

 喜多ちゃんは知らないが、伊地知ちゃんや山田ちゃんは下北沢を中心に生活している。ああいう手合いは不慣れなのだろう。特に後藤ちゃんなんか苦手どころの話ではなさそうだ。

 

「いーえ。にしても、江ノ島で会うとか偶然だね」

 

「ほんとですよね! 海さんも遊びに来てたんですか?」

 

「そー。江ノ水と、あとちょっと温泉入ってた」

 

「温泉があるんですか!?」

 

「あるよ〜」

 

 後藤ちゃんらしき物体の修復を始めた喜多ちゃんと山田ちゃんを横目に、伊地知ちゃんの質問に答える。

 

「今日は一人で来たんですか?」

 

「いや? 先輩と来てたんだけど、水族館出た辺りで道に迷ったとかで横浜まで行っちゃったらしいんだよね。温泉は一人で入った」

 

「迷子なって横浜!? 江ノ島から!?」

 

 そういう反応になるよね。

 あの人の迷子スキルはそろそろ日本七不思議の一つくらいになら入れていいと思う。治るどころか最近酷くなってきたし。

 

「えと、大学の先輩ですか?」

 

「いや、高校の時の先輩。大学は別々になったけど、交流はまだあってね」

 

「そうなんですか! 仲が良いんですね〜」

 

「そうだね。良くしてもらってるよ」

 

 面倒を見ることも多い気がするけどな。

 

 それにしても、改めて思えば高校の時に関わりのあったバンド関連の知り合いとは未だに全員と連絡を取り合ってるな。

 大学が一緒なのは一部だけでほとんどが別の道に進んだんだが...ほんと、良い人達に巡り会えた。

 

「伊地知ちゃん達も遊びに来たの?」

 

「はい! ぼっちちゃんの夏の思い出作りに」

 

「へー。後藤ちゃんの」

 

 徐々に原型に戻りつつある「後藤ちゃんだったもの」を見る。

 何がどうなったらあんな姿になってしまうのか。もう十分思い出だろ。良くは無いかもだし夏も関係ないけど。

 

「あの! ところで!」

 

 うおっ。何何喜多ちゃん、突然そんな大声出してどしたの。

 

「あ、後藤ちゃんの修復終わったんだ。お疲れ様」

 

「はい、ありがとうございます! ...ではなくてですね!」

 

 元気だなぁ。

 

「その先輩は女性の方なんでしょうか!」

 

「そうだけど」

 

「ヒュッ」

 

 え、何? 怖いんだけど。

 

「そ、その方と海さんは、その、お、お付き合いなど...?」

 

「いや? 普通に先輩後輩の友達」

 

 あっちもよく遊んだり迎えに来たりしてくれる後輩、くらいの認識だろ。魅力的な人だし、俺なんかよりよっぽど良い男を捕まえられるはずだ。

 

 けどやっぱり、男女が二人で遊んでるとそういう風に見られるんだなぁ。なんだか遊びにくくなっちゃう。

 まぁ気にせず遊ぶけど。他人の目を気にして友達との付き合い方を変えるとかダサいし、何より俺が楽しいから遊ぶのはやめたくない。

 

「そういえば聞いたことなかったですけど...海さんって、彼女とかいるんですか...?」

 

 喜多ちゃんに続き、伊地知ちゃんも恋愛関連の質問をしてくる。

 そんなに気になるかな? いやまぁ年頃だし、女子高生って恋バナが大好物だもんな。

 

「今はいないねぇ」

 

「それ、今まで一人もいなかったって言ってるようなものでは」

 

「まぁ好きなように捉えてよ」

 

 俺の恋愛話なんて面白くも何ともないだろ。

 どっちかって言うと高校生の青春恋愛話の方が需要がある。キュンキュンしたい。

 

「そういう伊地知ちゃん達はいないの? 彼氏。みん......みんないてもおかしくないと思うけど」

 

「今、ぼっちを見て言葉に詰まった」

 

「ツマッテナイヨ」

 

 後藤ちゃんの場合彼氏より前に友達がいるかが心配になってくる、とか思ってないよ。だからそんなショック受けたような顔しないで。

 まぁネットでは友達も彼氏もいるみたいなこと言ってるけどな、この子。

 ギターヒーローのサムネや動画説明欄なんかを見てた限り、てっきり陽側の人間だと思っていたんだが、実物を見ると虚言具合が見えてきていっそ可哀想になってくる。強く生きてほしい。

 最近の子の間ではジャージが流行ってるんだー、とか思ってたけど違ったみたいだ。

 

「あたしはいません!」

 

「私もです!」

 

 キミら元気だなぁ。なんで?

 そんなハキハキ返事するような内容じゃないでしょ、質問も返答も。

 

「......私も、今はいません」

 

 山田ちゃんって面白いよな。なんていうか、香ばしい匂いがする。色々拗らせてるんだろうなぁ。

 

「あっ 私も......」

 

 知ってた(知ってた)

 

「意外だね。みんな可愛いのに」

 

「えっ、ほんとですか!?」

 

 ? 驚くことか?

 

「伊地知ちゃんと喜多ちゃんは可愛いし、山田ちゃんと後藤ちゃんはどっちかっていうとイケメン系だよね。とにかく顔が良い」

 

 伊地知ちゃんと喜多ちゃんに至っては性格(対人スキル)も良いときた。二人ともたまに距離感バグってるし、クラスの男子達は大変だろうなぁ。

 

「「「えへへ......」」」

 

「ぽっ///」

 

 なんだこの空気。キミらそんな顔面してるんだから「可愛い」とか「顔が良い」なんて言われ慣れてるだろ。後藤ちゃんは言ってくれる友達がいるか分からないけど。

 あと山田ちゃんは照れ方がわざとらしい。照れてないだろキミ。

 

 

 ...はて、何の話をしていたんだったか。

 江ノ島に何しに来たのかとか、そんな感じだったっけ?

 

「今日は夏の思い出作りに来たんでしょ? 海水浴場の方はパリピ多いし、本島の方に行った方がいいんじゃない?」

 

 海はクラゲが出てきてて危ないしな。

 

「そうします! あっ、海さんも一緒にどうですか?」

 

「俺?」

 

 ガールズバンドの中に男一人ってのはなぁ。慣れてはいるけど、相手がJKってなると絵面が悪い。

 いやまぁ四人は制服を着ているわけでもないし、JKの中に成人男性が一人、と察する奴はいないだろう。多分。特殊な訓練を積んだスカウター持ちとかなら話は別だけど。

 

 ...ま、いっか。

 

「みんなが良ければ俺もご一緒させてもらっちゃおっかな」

 

「やったー! みんなも良いよね?」

 

「はい! 嬉しいですっ!」

 

 元気だなぁ。

 社交辞令やら気遣いみたいなものなんだろうが、それでも喜んでいる素振りを見せてくれるのは嬉しいものだ。

 

「あ 私も大丈夫です...」

 

 元気がないなぁ。

 もしかして嫌か? まぁ後藤ちゃんはダウナーだからこれが平常運転か。

 

「ナンパ避けになる」

 

 山田ちゃんは素直だな。

 

「リョウも嬉しいくせに」

 

 そうなの? 素直じゃないな。

 

 ま、そうと決まれば俺も楽しませてもらおう。

 江ノ島周辺はツーリングなんかでよく来るけど、本島の方はあんまり行ったことがない。行ったとしても入口の飯屋辺りで止まっている。

 

「江ノ島って猫がたくさんいるらしいじゃん」

 

 本島に向けて再び歩き始めつつ、話題を投げてみる。

 喜多ちゃんがいるこの状況なら話題に困ることはないのだろうが、最近の流行りとか化粧品とかの話をされたらもう着いていけない。その前に俺も参加出来る話題を振っておかなければ。

 

「らしいですねー。海さんは猫派ですか?」

 

「んー。猫も好きだけどどっちかっていうと犬派かな」

 

「そうなんですね! ぼっちちゃんは犬派かな? 犬飼ってるもんね」

 

「そうなんだ。何飼ってるの?」

 

「あ 柴犬です。名前はジミヘン」

 

「ジミヘン」

 

 センス良いけど悪いな。俺は好き。

 

「後藤ちゃん、ジミヘン辺りも好きなんだ」

 

「あ お父さんが好きで...」

 

 なーるほど。

 確かにお父さん世代だよな、ジミヘンって。

 

「音楽の趣味って親とか家族の影響デカいよね」

 

「あ そうですね」

 

「分かりますー。あたしもお姉ちゃんの影響大きいかも」

 

 あるあるだよな。

 

「私は友達の影響が大きいかもですね〜。親はあんまり音楽聴いてないっぽくて」

 

「そうなんだ。ちなみに喜多ちゃんはどんな音楽が好きなの? この前B〇Sって言ってたけど、バンドでさ」

 

「うーん...楽しいが溢れてる曲、ですかね? バンド単位じゃなくて、曲単位で聴いてます。チックトックで流行ってる曲とか」

 

 ほえぇ。最近の子はそういうもんなのか。

 好きなバンド、じゃなくて、好きな曲。バンドには興味ありません、ってのがプンプン臭うな。

 まぁそういうのも全然アリだ。音楽の楽しみ方なんて人それぞれ。自分が楽しめれば何でも良い。

 

「チックトックだと何が流行ってるの? 瑛〇の香〇とか?」

 

 紅白にも出てたよな。ちょっと前にYouTube配信してた時リクエストされて弾いたこともある。

 あれ、案外アコギが気持ち良いんだよな。

 

「香〇なつかし〜! 流行りましたね!」

 

 過去の話なのか...

 

「最近はそうですねー。『可愛く〇ごめん』とか『酔〇どれ知らず』とかよく聴くかな?」

 

 ......知らねぇなぁ。

 

「伊地知ちゃんは知ってる?」

 

「知ってますよ〜。学校で友達が動画撮ってました」

 

「まじ? え、後藤ちゃんは?」

 

「あ 聴いたことくらいは...」

 

 マジでか。

 俺がちょっと逆バリ気味ってのもあるけど、現役バンドマンとして最近の流行りを知らないのは問題だな。検索検索ぅ(情報収集)

 ところで後藤ちゃんはなんで溶け始めちゃったの? 暑いの?(『可愛く〇ごめん』)

 

「なぜ私には聞かないのか。これが分からない」

 

「キミは逆バリ張ってるし知らないでしょ」

 

「むぅ。とても心外」

 

「じゃあ聞くけど、知ってた?」

 

「もちろん知ってますよ。アレだよね虹夏、最近話題のエモバンド」

 

「ハ〇ワとボカロだけど」

 

 知ったかは良くないねぇ。

 でも面白いから許そう。そういう年頃なんだよね(生暖かい目)

 にしてもハ〇ワか。昔からわりと流行ってたけど、今でも根強い人気があるんだなぁ。

 

 どれ。ちょっとYouTubeでMVでも見て────

 

「ファ!?」

 

「!? な、何!? どうしたんですか!?」

 

「『ファ』って驚く人、ネット民以外で初めて見た」

 

 うるさいぞ山田。

 つーかおい、それどころじゃねぇよ。

 

「CV.早見〇織...!?」

 

 なんだこれ。なんだこれってばよおいこら!

 ゑ? 最近のハ〇ワってボカロじゃねぇの? 早見〇織が歌ってんの? マジでかお気に入りプレイリストに入れちゃお(オタク)

 

「はやみ...? 有名な人ですか?」

 

「「ファ!?」」

 

 山田ちゃんと被っちゃった。

 つーかキミも「ファ」って驚くんじゃねぇか。このズブズブのネット民め。

 あと喜多ちゃん早見〇織知らないとかマジで言ってる? バンドマンのくせにアニメとか見ないのかな。

 

「えっと、ちなみに伊地知ちゃんと後藤ちゃんは...」

 

「あ、知ってますよ。声優の人ですよね?」

 

「あ 一応知ってます」

 

 良かった。俺の知ってるバンドマンだ。バンドマンってみんなアニメオタクだからな(ド偏見)

 

「声優? アニメのですか? へー、知らなかった。あの曲、声優さんが歌ってるんですね〜」

 

「早見〇織さん以外が歌ってるのもあるけどね〜。本家はどっちなんだろ。っていうか、海さんって早見〇織さん好きなんですか?」

 

「もうね、大好き」(大告白)

 

 声がめちゃくちゃ良いよな。好き過ぎる。アニメとかでもだけど、曲も良いんだ。アルバム全部持ってる。ミニアルバム含めて五枚。

 

「へぇ〜。こんな曲も歌ってたとか知らなかったわ。帰ったら弾き語りしよ」

 

 ハ〇ワの弾き語りって意外と楽しいんだよな。

 前に遊びでまん丸お山のピンク髪先輩と『東京サマー〇ッション』やった時とかすげー楽しかった。

 クソプロデューサーに盗撮された上にSNSに投げられて色々とあったのは嫌な思い出だが。

 

「ホントですか!? すごいっ、絶対見ます!」

 

「え」

 

 まだネットに上げるとは一言も言ってないんだけど。一人で勝手に......分かった。YouTubeかイソスタに上げるなり配信やるなりするから、そんなキラキラした目で俺を見ないで。溶ける。

 

「あ、そうだ! 海さんってイソスタやってます? やってますよね! 交換しませんか?」

 

「え、あ、うん」

 

「チックトックとかはやってないんですか?」

 

「あ、いや、一応アプリは入れてるけど──」

 

「じゃあそっちも交換しましょ! はいこれ! 私のQRコードです!」

 

 勢いがすげぇ。

 つーかテックトックって交換するもんなの? Twitterじゃない辺り陽のケを感じるけど。

 

「ありがとうございますっ! ...あれ、海さんはチックトック、何も投稿してないんですか?」

 

「う、うん。いや、別に撮りたいものとかないし、見る専ってゆーか」

 

「そうなんですか? あ、じゃあ普段どんなの見てるんですか?」

 

「え? えーっと...犬の動画、とか?」

 

「分かります〜! とっても可愛いですよね! 私もたまに見るんですけど、この前見た風にあおられるポメラニアンの動画がすっごく可愛くて〜」

 

「あー、うん。分かる分かる。可愛いよね」

 

 キレーなお姉さんの動画を見てます、とは言えんやろ。さすがに。

 てか今後喜多ちゃんに俺のアカウント見られることがあるってこと? ......ちょっとフォロー欄見直さなきゃ...!

 

 

 あたしも〜! とスマホを差し出してきた伊地知ちゃんともイソスタを交換していると、ようやく橋を渡り切って江ノ島本島へと辿り着いた。

 

 

「よ〜し! それじゃあシラス丼食べに行こ〜!」

 

「昼営業もう終わってたよ」

 

 

 この前のライブみたいに下を向いている伊地知ちゃんを最後尾に、神社に続く坂を登る。

 

「あ、たこせん」

 

 このまま神社まで行くのかと思っていたら、山田ちゃんがふらふらと離れていった。

 やきそばほどのインパクトはないものの、注意すれば程よい香ばしさが鼻腔を擽る。

 

「おいしそう! へー、たことエビを一トンの力でプレスするんだ〜」

 

 中々バイオレンスだな。

 けど確かに美味そうだ。

 

「たこせん食べよっか。みんなも食べる?」

 

「食べます!」

 

「おっけー」

 

 幸い、列に並んでいるのは二組のみ。

 前に来た時はアホみたいな行列が出来ていて諦めた記憶があるが、これなら問題なさそうだ。

 

「たこせん五つ」

 

「あいよ」

 

 おっちゃんに金を渡し、出来たてらしきたこせんを受け取る。

 結構デカイな。そこそこ腹の足しになりそうだ。

 

「あ、お金渡します!」

 

「いーよ。これくらい奢るって」

 

「え? いやでも...」

 

「郁代。こういうのは遠慮しちゃダメ。相手に失礼」

 

 確かにそうだけど、山田ちゃんはもう少し遠慮ってものを覚えようね。誰よりも早く奪っていったな。

 

「じゃあ、ありがとうございますっ。うわー、おっきくて可愛い! イソスタ映えしますね!」

 

「あ ありがとうございます」

 

 大きくて可愛いか? ほぼたこの二次元焼きだが。なんかグロテスクをテーマにした現代アートみたいだぞ。女の子は何でもかんでも「可愛い」って言うよな。分からん。

 

「ほら伊地知ちゃんも。たこせん食べて元気だしな」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「そんなにシラス丼食べたかったの? 俺も食べたいし、また今度食べにこようね」

 

「! はい! 必ず!」

 

 急に力強いな。

 でも元気になってよかった。

 

「いいな〜! 私もご一緒したいです!」

 

「ならまたみんなで来ようか。あ、そうだ。須田も引きずって来ようか?」

 

「MAKOTO!」

 

 山田ちゃんも嬉しそうだ。やっぱベーシストとして尊敬や憧れみたいなところがあるんだろうか。それとももしかして異性として?

 

 もし恋愛感情があるってんなら、須田はオススメしない。山田ちゃんには可哀想だけど、きっと失恋するだろう。

 須田ってあれでも彼女一筋だからな。俺らの中じゃ一番最初に結婚するんじゃないかと話題だ。

 

 にしてもたこせん美味いな。こりゃ確かに行列もできるわ。次来た時も食べよ。

 

「ねぇねぇ、写真撮ろー!」

 

 たこせんを食べたからか、伊地知ちゃんの調子も戻ってきた。

 当たり前のように自撮り棒を取り出した喜多ちゃんに皆が集まるので、スッと一歩下がる。

 

「あれ? 海さん、もっと寄ってくださーい」

 

 俺が写っていないことに気が付いたのか、喜多ちゃんが言ってくる。

 

「俺はいいよ。キミたちだけで撮りな」

 

「え〜!? なんでですか〜! 一緒に撮りましょうよ〜!」

 

「だって喜多ちゃん、その写真SNSに乗せるでしょ」

 

「え? はいっ、楽しいことはみんなにお裾分けしたいので!」

 

 SNS投稿の目的が「自己顕示欲」じゃなくて「幸福の提供」なのか。すごいな、“上位者”すぎるだろ。聖人か?

 

「JKの中に成人した男が入り込んでるとか、通報されるかもしれないからさ」

 

「いや、さすがにそんなことは...」

 

「実例があるんだよね」

 

「えぇ......」

 

 ドン引かれちゃった。分かる、俺も通報された時は引いた。

 けどネットってのは本当に怖いところで、事実無根な事を言われて通報されちまうんだ。

 なんだよ、「この男、アイドルに飽き足らず今度は未成年に手を出しやがった!」とか「犯罪はダメですよ」とか好き勝手言いやがって。さすがに高校生には手ぇ出さねぇよ。

 

 通報された時に一緒に写真撮ったのだって、高校生の頃から交流があるちびっこDJだぞ。音楽仲間だ、写真の一枚や二枚一緒に撮って何が悪い。

 

「じゃ、じゃあイソスタには上げませんから! だから一緒に撮りましょ!」

 

 なぜか必死に説いてくる喜多ちゃんに、俺も少し考える。

 こんなに言われて頑固に断り続けるのも失礼だし、写真が世に出ないなら...まぁいいか?

 

「そんなに言うなら、一枚だけ」

 

「やった〜!」

 

「絶対SNSには上げないでよ? 友達に写真あげたりとかもね」

 

「はいっ! 後で自分が見返すだけにします!」

 

 喜多ちゃんを信じ、しぶしぶ一歩前に詰めてカメラの端に写る位置に移動する。

 何がそんなに嬉しいのか、喜多ちゃんは眩しいくらいの笑顔を浮かべていた。伊地知ちゃんや山田ちゃんも嬉しそうだ。

 

「いきますよ〜!」

 

 そう言い、喜多ちゃんがシャッターを切る。

 最近の子は「はいチーズ」とか言わないんだな。

 

「いい写真が撮れたわ! 見て後藤さん!」

 

「あ はい」

 

 後藤ちゃんも心做しかいつもより顔色が良く見える。楽しいのだろうか。素敵な夏の思い出になればいいね。

 

「ふふふ。Kaiとの写真...プレミア...売れば高く...!」

 

「喜多ちゃん。山田ちゃんにはその写真あげないでね。絶対だよ」

 

「そんな殺生な!」

 

 殺生て。

 世に出回ったら俺が殺生される可能性があるつったろ。売る気満々のやつに渡せるかっての。

 

「あ 今日はありがとうございました。お疲れ様でした......」

 

「なんでもうクライマックス!?」

 

 後藤ちゃん泣いてんの? なんで?

 

「こうして、私の夏は終わった...!」

 

「違うよ後藤ちゃん。俺たちの(戦い)はこれからだ!」

 

 ☆ご愛読、ありがとうございました!!

 後藤ひとりの次回作にご期待ください!!

 

 

 

「最終回!? これからでしょう!?」

 

 

 

 

 

 




to be continued...
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