来月頭くらいまで忙しそうなので、もしかしたら来週も投稿遅れるかもしれないです。すみません。
たこせんを食べ、島の中心に向かう道をしばらく歩いた俺たちは今、朱い鳥居の前にいた。
「よーし! ここから頂上まで登りますよ〜!」
「えっ 階段...?」
長く聳える階段を見上げ、山田ちゃんが本当に嫌そうに呟く。
ここに来るまでも中々な坂道だったし、もうだいぶ疲れているんだろう。後藤ちゃんなんかマラソンしてしたんかってくらい大量の汗かいてるしな。
「自力で上がって見る景色ほど素敵なものはないと思いません?」
「微塵も思わん」
「想像してごらん...」
「いやそんなのはいい、想像するだけで疲れる...」
「頑張りましょう!」
「嫌だ!」
「後藤さんも!」
「あっ...うっ......」
「伊地知先輩は行けますよね!?」
「私もそんなに乗り気では...」
「海さんのことは信じて良いですよね!?」
なんだその台詞。
「まぁ俺はいいけど」
「やったー!」
どんだけ階段上りたいんだよこの子。さすが生粋の陽キャ、バイタリティが違う。嬉しそうで可愛いなぁ(保護者)
というわけで階段上りである。
まずは朱い鳥居の根元まで、大体二十段程度進む。
この階段はそこそこ長いが、果てが見えないわけじゃない。疲れはするかもしれないが、喜多ちゃんの言う通り、苦労の先に辿り着いた
────そう思っていたのだが。
「も、もう無理ぃ...」
「ゼェ、ゼェ...いや景色とか知らん、どうでもいい.........」
マジかこの子ら。
何の変哲もない階段をたった十数段上った程度で、伊地知ちゃんと山田ちゃんは疲労で道脇にへたり込んでしまった。
後藤ちゃんに至っては上りきれてもいない。途中でナメクジになって這っている。
「喜多ちゃんストーップ。三人脱落したー」
「えー!? まだ上り始めたばかりじゃないですかー!」
後藤ちゃんに手を貸してとりあえず鳥居下まで引っ張り上げながら、キタキタと先に上って行ってしまいそうな喜多ちゃんを呼び止める。
「...あ ェ、エスカー...」
水でも買ってきてやった方が良いかと考えていると、足元から虫の息のような声が流れてきた。
「エ、エエエス、エエスカレーターで行けるみたいですよ...!」
足元でナメクジってた後藤ちゃんが、声のボリュームを上げながら江ノ島エスカーと書かれた看板を指差す。
「おぉ! ぼっちちゃんナイス!」
「でかしたぼっち。エスカーを使おう。文明の利器、使わずして何が霊長か」
さっきまで力無く座り込んでいたとは思えないほど素早い動きでエスカーに向けて歩き出す三人。そのエネルギーを階段上りに充てれば良いのでは? と思わなくもない。
「もーっ! 階段で上りましょうよーっ!」
喜多ちゃんの声も虚しく、三人は止まらない。
先程とは打って変わって目に光を灯すインドア三銃士と見るからに不満げなバイタリティおばけに続き、俺もエスカー乗り場へ向かう。
「え、お金取るの?」
数歩遅れて乗り場に着いたら、山田ちゃんの悲痛な呟きが聞こえてきた。
みんなは何やら販売機を眺めているようで、俺も山田ちゃんの頭の上から販売機を覗き込む。
「えー...シーキャンドルセットが八百円で? エスカー全区域が三六十円。地味にいい値段するな」
「だから階段で行きましょーって!」
八百円くらいなら俺は問題ないが、高校生、しかも駆け出しバンドマンの彼女らにとっては地味に財布に厳しい微妙な値段設定だ。
喜多ちゃんの言う通り、こんなことで金を払うくらいなら階段で上るべきだろう。そもそも無理をしてまで上る必要があるのか、という問題はあるが。
「あっ あの、今お金無くて......ベース、わりといいの持ってるんですけど...一本差し上げますから!」
「コラコラコラコラ」
疲労や暑さで気でも触れたのかと見紛う狂行をしでかした山田ちゃんの首根っこを掴み、受付のお姉さんに軽く謝罪しつつ一旦受付を離れる。
「こんなことで
「いやだって...」
「だってもヘチマもありません」
冗談だとしてもやって良いことと悪いことはある。アーティストなら楽器は命の次に大切に扱え。最優先は命でいいから。
さて、それじゃあどうするかという話だが。
ここでエスカー代を奢ってやるのは簡単だ。財布から野口を出せば解決する。
が、果たしてそれが正しい行動なのかと言われれば、それは違う気がするのだ。
「郁代ぉ...」
「うっ...!」
涙目上目遣いに屈しかける喜多ちゃんだが、目を逸らし唇を強く噛み締めることでなんとか耐えていた。偉いね。でも何がキミをそんなに突き動かしてるの? 階段上りたがりすぎだろ。ここまで来ると何か呪いの類を疑いたくなるな。
「...仕方ない。山田ちゃん、エスカー代は貸そう」
「神!?」
「ただし、この金はちゃんと返すこと。返すのはいつでもいいから」
バカスカ奢ることは優しさでも大人な行動でもない。
そりゃあ先輩として奢るべき場面もある。だが頻繁に奢ってしまっていては、自分はもちろん、相手の為にもならない。
だから、今回は「奢る」のではなく「貸す」。
次の給料日でも、それが無理ならさらに次の給料日でも構わない。「借りたら返す」、当たり前のことだ。
「いつか必ず返します! いつか!」
よし、いい返事だ。
「お姉ちゃんに言って来月のバイト代から抜いとくからね」
「そんな殺生な!?」
おい山田、お前返す気なかったろ。さっきのいい返事はなんだったんだ。
少し心配になりつつも、山田ちゃん分のチケットを購入する。
追加でもう一枚購入しようと財布に手をかけたところで、不意に肩を掴まれた。
「海さん! 海さんはまだ大丈夫ですよね!」
「え?」
振り向けば、非常に近い位置に喜多ちゃんの顔が迫ってきていた。邪を祓う陽の目を存分に輝かせ、じっとこちらを見つめてくる。吐息がかかる距離は犯罪ですよ。
いい匂いがする。甘酸っぱくて爽やかなフローラル系の香り...これ知り合いのギャルが高校生の時につけてた香水の匂いだ。俺この匂い好きなんだよな。
「私達だけでも上りましょう、この階段を! 自力で!」
なんで? やっぱ呪われてるんじゃないのかこの子? 妖怪階段上らせ、みたいなのに攻撃されてるよ絶対。桜新町のケ〇タくんに相談しなきゃ...!
だがまあ、ここまで階段を上りたがっているんだ。無下にするのは些か可哀想というもの。
幸い俺はまだまだ元気だし、ここの階段程度であれば問題なく上ることができるだろう。
「分かった。付き合うよ、喜多ちゃん」
「ほんとですか!? やったぁ!!」
まっっっっぶし。サングラス欲しいな。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「ん〜! とっても気持ちいいですね〜」
隣を歩く喜多ちゃんが大きく伸びをする。
木々に囲まれた階段には涼やかな風が吹いていた。喜多ちゃんの言う通り、とても心地が良い。マイナスイオンが出ている、と思い込むことでなんだか空気も美味しい気がしてくる。プラシーボ効果は偉大だ。
「あ、見てください! 手洗い場ですよ!」
「手水舎ね」
そこまで珍しいものでもないというのに、喜多ちゃんのこのはしゃぎ様。箸が転んでもおかしい年頃、とはよく言ったものだ。
「これって右手、左手、口の順番でしたっけ?」
「清める順番は左、右、口だね」
右手で柄杓を持ち、水を汲む。
喜多ちゃんも俺に倣ってお清めを始めた。
水が冷たくて気持ちいいな。
「この水が出てるところ、龍の形になってる神社が多いですよね。なんでなんでしょう?」
「龍神が水を司る神さまだって崇められてたから、だったかな確か」
「海さんすごい! なんでも知ってるんですね!」
「なんでもは知らないよ。知ってることだけ」
人生で一度は言いたいセリフ第六位、完遂。
喜多ちゃんに感謝! まぁこのセリフを言うのは人生で三回目くらいだけど。わりと機会あるんだよな。
でもまぁ、俺はバ〇姉ばりに物事を知っているわけじゃない。龍神云々に関しては昔それを
「あ! 神社ですよ! 確か芸能や音楽のご利益があるんですよね。私調べました!」
「らしいね〜。江ノ島神社っていくつか
「え? ...どうなんでしょう? そこまで調べてなかったです」
ならインターネット大先生に聞くか。
江ノ島神社、ご利益......
ふーん。ここは辺津宮で、ご利益は金運・勝負運・厄除けか。芸能ではないっぽいな。芸能は中津宮。もう一つ上にある神社か。
「芸能関係はもう一つ登ったとこの神社らしいよ」
「そうなんですね! 良かった〜。帰りに結束バンドのみんなでお参りしたいなって思ってたんですけど、全然違う神様のところに行くところでした!」
そりゃ良かった。
ここは違うし、一番上にある奥津宮は交通安全や復縁のご利益らしいし、そんなところでバンドの成功を祈っても神様が困惑するだけだろう。
まぁ金運とか勝負運は必要かもしれないが。
「あ、伊地知先輩からもう頂上着いたって連絡きました! ...あと謎の自撮り写真も」
「自撮り写真?」
喜多ちゃんが見せてきたスマホの画面を覗き込むと、異様なほど笑顔の三人が映っていた。伊地知ちゃんはともかく山田ちゃんと後藤ちゃんがここまで眩しい笑顔をしているのは逆に怖いな。何かの前触れか?
「すっごく楽しそう! 負けていられませんね、私たちも一緒に写真を撮って送りましょう!」
なんで対抗する必要があるんですか?
またもやどこからともなく取り出した自撮り棒を構え、自然発光する喜多ちゃん。なんでそんなに光ってるのにカメラで白とびしないの? え、何その光、スタンドか何か? 名前は『サンスト〇ム』かな。俺のスタンドは『ファイブ・フィンガー・デス・パ〇チ』だ!(?)
「後ろは神社がいいですかね! 海さん、こっちこっち!」
「いや、俺は撮るとは...」
「結束バンドのみんなにしか見せないし伊地知先輩以外に共有しないので!」
そういう問題でもないんだが。
...おいやめろ。そんな目で俺を見るな! クソっ、これだから顔の良い女は...! ズルいぞ! そんなうるうるした目で見られても、俺は敗けないんだからな!
「じゃあ撮りますよ〜! はい、じんじゃ〜!」
なんだよはい神社って(敗北者)
フローラルな香りがはっきり分かるくらいの距離にある喜多ちゃんの横顔を眺めながら、「やっぱり最近ははいチーズとは言わないんだなぁ」なんて考える。
...危なかった。幼馴染(ピンク)やアイドル(ピンク)、母性お化け(ギャル)との特訓がなければあの甘酸っぱい匂いにやられて俺の性が顔を出すところだった。あの人らのバグった距離感に感謝。いや高校の頃はそれで(理性が)死にかけてたから感謝でもねぇな。
「よーし! それじゃあ頂上まであと半分くらい! 頑張って行きましょー!」
ほんとに元気だねキミ。
心做しか写真撮る前より元気になってない? 若いっていいね。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「ビバ、文明の利器」
リョウの言葉に胸中同意しながら、ふと今ここにいない二人のことを考える。
「喜多ちゃんと海さん、大丈夫かな? 特に海さん」
どうしても階段で頂上まで行きたかった喜多ちゃんと、喜多ちゃんに付き合って階段で上ることを選んだ海さん。
喜多ちゃんはともかく、海さんは生粋のバンドマン。体力はあまりないかもしれない。
「大丈夫でしょ。Kaiは普段から結構鍛えてるらしいし」
「それどこ情報?」
「METAL HA〇MER JAPAN」
「何それ」
「HR/HMを扱ってる世界的音楽雑誌の日本版」
「なんでそんなところからそんな情報が...」
「昔インタビューでそんなこと言ってた。メタラーには筋肉が必要だから鍛えてるんだって」
なんで筋肉?
でもやっぱりすごいな、海さんは。断片的にしか知らないけど、物事に対してすごくストイックだと思う。
本当はあたしもついて行きたかったけど、自分の残りHPと相談し、絶対に途中で歩けなくなって迷惑をかけると判断して大人しくエスカーに乗った。
それは正解だったと思うけど...ちょっとだけ、喜多ちゃんが羨ましかったりもする。
「エスカーって上まで一本で行けるわけじゃないのか...」
「あ わりと歩く距離ありますね...」
第一、第二エスカーを越え、第三エスカー乗り場に向かう。
道中二つほど見えたなんだか立派な神社だか神宮だかを完全スルーし、最後のエスカーに乗り込んだ。
リョウじゃないけど、エスカレーターは本当に素晴らしい発明だ。立っているだけで移動できるなんて怠惰の極み、考えた人はきっと天才に違いない。
「着いたー!」
最後のエスカーを登りきり、青空の下に出た。なんだかんだと太陽の光は気持ちが良い。
ちょっと向こうには
「疲れた......けど、いざ上まで来るとなんか開放的になる...」
「な なんかポジティブな気分になってきました...!」
「皆で写真とか撮っちゃう?」
「「撮るぅ〜!」」
スマホを取り出し、インカメ内に全員が写るように目一杯腕を伸ばす。
「ヘイチーズ!!」
「ちぃず!」
おぉ〜! けっこー良いのが撮れたんじゃない!?
もう頂上に着いてるよの連絡ついでに、海さんと喜多ちゃんに写真を送っておこう。送信、っと!
「この絶景をプレゼントするよ。お前だけのもんだぞ♡」
「たっくん大好きぃ♡」
「消去」
なんだあのカップル。環境型殺人罪で訴えてやろうか(虹夏はそんなこと言わない)
リョウとぼっちちゃんの顔からも笑顔が消えた。あーあ、早く海さんたち来ないかなぁ。
ピロン(ロイン通知音)
お、喜多ちゃんからだ。
喜多『私たちもあと10分くらいで着きます〜(ノ˶>ᗜ<˵)ノ』
「喜多ちゃんたち、あと十分くらいで着くって〜」
喜多ちゃんからの報告をリョウとぼっちちゃんにも伝える。
この待ち時間を、カップルに辻斬られたあたしたちのメンタルでどう過ごすか。そんなことを考えていると、またロインの通知音が鳴る。
喜多ちゃん? 今度は画像だ。なんだ、ろ────
《喜多郁代・関口海のツーショット画像》※顔が近い ※とても近い
「事案だこれーーー!!!」(過剰反応)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「お待たせしました〜!」
階段を上りきり、座って待っていた三人を見つけた喜多ちゃんが手を振りながら駆けて行く。
俺はその後ろを歩いてついて行った。これでも少しは急いで上ってきたんだけど、エスカー組をだいぶ待たせちゃったかな。
「き、きききき喜多ちゃん! さっきのアレ何! 写真! ツーショの!」
「一番目の神社で海さんと一緒に撮らせていただきました!」
「所詮、俺は敗北者じゃけぇ......」
「なぜ海さんは遠い目を!?」
笑えよ、歳下未成年の女の子のお願いを断れなかった成人男性をよ...
まぁ美少女は正義であり国宝だから俺に逆らう権利なんてないんだけどな。残当。
「それよりそっちの二人はなんで死んでるの?」
「あー...環境型殺人してくるカップルがいて...」
「環境型殺人?」
なんだか面白そうなことがあったのか。ちょっと見たかったな。俺も殺されるかもしれないけど。
「なんだか分からないけど、大変だったんですね...」
純粋か?
純粋か。
「それじゃあ、展望台に登って気分を晴らしましょう! さぁ、行きますよ〜!」
元気か?
元気か。
死んだ目の二人を引き連れ、展望台に向けて歩き出す。後藤ちゃんはともかく、山田ちゃんはカップルにダメージもらうくらいなら彼氏くらい作ればいいのに。というか彼氏いると思ってたわ。古着趣味は彼氏の影響かと思ってた。違うんだ。意外。
「伊地知ちゃんはダメージ受けてないんだね。流石」
「あたしも殺されましたよ」
「マジか」
そんなそぶり全然ないけどな。
伊地知ちゃんこそ彼氏いてもおかしくないだろ。今はいないとしても、元カレとかいても全く違和感がない。というかいて然るべきなのでは? 関口は訝しんだ。
そうこう考えているうちに、展望台入口に辿り着く。ここでも階段で上りましょうとか言い出した喜多ちゃんを虹夏ちゃんが無理やりエレベーターに押し込み、数秒で上階に着いて扉が開く。
「わ〜! すごい絶景! 目に焼き付けておかないと!」
写真じゃないんだ。喜多ちゃんみたいな現代っ子って「リアルの景色? アプリで加工した方が綺麗ですよ!」とか言うもんだと思ってた。
「あ〜、クーラーさいこ〜」
「極楽ぅ...」
「で ですね〜...」
「あ あの、皆さん...?」
喜多ちゃん以外景色に微塵も興味ないの笑う。喜多ちゃんよりキミらの方がよっぽど現代っ子だな。
今日は晴れているからか、富士山もよく見える。富士山はバカみたいにデカいから福島とかからでも見えるらしいが、こんなにも開放的な風景は中々ないだろう。一応写真撮っとくか。イソスタのストーリーに投稿しよ。念の為明後日くらいに。
「その昔、人間は神と対等になろうと天まで届く高い塔を建てようとし、神の怒りに触れて人間の言語はバラバラにされ、地上は混乱に呑み込まれた」
「そ それから学ばず、また人はこんな高い建物を...」
何言ってんだこの子ら。
バンドマンは知らんけどオタクって神話好きだよな。俺も好き。でもやっぱり何言ってんだこの子ら。
「あの〜...皆さん、景色を...」
「ネットで見たドローン映像の方が綺麗だった」
「な 生だとこんなものなんですね...」
やっぱり現代っ子じゃねぇか。
「喜多ちゃん満足したみたいだし、もう降りよっか」
「え!?」
どこをどう見たら満足したように見えたんだろう? むしろキミらの態度に不満そうだが。
「で ですね。疲れた...」
「ここに来るまでの労力と報酬が釣り合ってない。空調が良かったくらい」
「ぐぬぬ...このインドア人たちめっ!!」
喜多ちゃんがぐぬぬってるぞ、無視して降りるのかキミら。山田ちゃん後藤ちゃんはまだしも伊地知ちゃんまでとか、もしかして結束バンド不仲説ある? 普段あんなに仲良さそうなのに。女の子こわ。
「海さん! 最後、記念に写真撮りましょうよ!」
「え? ...もしかして二人で?」
「二人でです!」
なぜツーショを撮る必要があるんですか?
景色撮れよ。絶景だぞ。
「いやさっきも撮った......あっはい、分かりました...」(敗北者)
「やったー!!」
何が嬉しいんだこの子は。俺は心臓バクバクだが。JKとのプライベートツーショとか弱み握られてるのと一緒だからなこれ。
「あー!! 景色キレイだなー! なんだかあたしも写真撮りたくなってきちゃったカモー!?」
なんだなんだ、突然大声を出すな。周りの人に迷惑だろ。
閉まりかけだったエレベーターの扉をこじ開け、伊地知ちゃんが戻ってきた。つーかなんでそんなにパワフルなんだよ。ドラマーの鑑か。
「じゃあ三人で撮りましょ!」
「えっ」
「あっ、えっと...い、いいねー!」
「え?」
なんだこの子らのテンション。俺の同意は一切無しか。強引すぎるだろ、おい俺を挟んで立つなくっつくな。伊地知ちゃんの大声であっちにいる三人家族からスゲー見られてんだよ。
い、いや、違うんですよ。俺は何も悪くないんですよ。この子らがグイグイくるだけで。だからそんな「うわー...人目ってものを知らないの?」「教育に悪いから見ちゃいけませんよ」みたいな目でこっちを見ないでください親御さん!!
嫌だ違うんだ! 俺は人目もはばからない不愉快野郎(しかも男一女二)じゃないんだ!
「はい、富士山!」
「ふじさーん!」
人の気も知らなければ人目も知らないJK二人に挟まれた俺は、もう写真どころの騒ぎではない。
後に喜多ちゃんから送られてした写真には、夏だというのに青白くなった俺の顔がはっきりと収められた。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「あー! アイス食べてる! いいなー、あたしも食べよ!」
展望台を降りると、山田ちゃんと後藤ちゃんがベンチでアイスを食べながら待っていた。
ペロペロして食べてるのかわいいな(不審者)
「リョウ先輩、さっき塩ソフト食べてませんでした?」
「アイスは無限に食べられる」
「たくさん食べる先輩も素敵!」
もうなんでもいいんだろうか。
まぁ推しは何してても尊いもんな。俺も推しのアイドル(元子役)に本気で怒られた時でさえ「やだ...俺の推し、怒ってても美しい...」とか思ってたし。
けど山田ちゃんはエスカー代すらなかったはずだが。
「あ あの、アイス代、返してくださいね...」
「来月には必ず」
また借金したのかこのベーシスト。やっぱりベーシストだな。姐御みたいにならなきゃいいんだけど。
俺もソフトクリームを食べたくなったので、伊地知ちゃんや喜多ちゃんと一緒にアイス屋に並ぶ。いろいろ味あるけど、今日はシンプルにバニラソフトにしよ。
おっちゃんからソフトクリームを受け取り、山田ちゃんたちのもとに戻る。
ペロペロ舐めて食べる伊地知ちゃんと何枚も写真を撮る喜多ちゃんにまたもや挟まれつつ、ソフトクリームにかぶりつく。男がペロペロしたところで需要なんてない。
うーん、バニラソフトうま。
「後は何します?」
「もう結構遊んだけどねー」
「そうですか? まだもう一つくらいイベントが足りてない気が...」
神社に参詣でいいんじゃないの。喜多ちゃん、行きたがってたでしょ。
そう思ったが、口には出さない。今回のメインはこの子たち。俺が口を出すことでもないだろうと思ったからだ。意見を求められれば言うが、特に何も聞かれないなら黙っておこう。
正直疲れたから帰りたいな、なんて思ってないよ。ホントだよ(朝から水族館に行って人探しに走り回って江ノ島登頂して入浴までしている人)
ピューーーヒュルルル...ピューーーイヒュルルル...
「? この音何ですか?」
どこからか響いてくる笛のような音に、後藤ちゃんが辺りを見回す。
「トンビだよ。江ノ島にはたくさんいるんだね」
「トンビって人の食べ物狙ってくるんですよね? 後藤さん、気を付けなきゃダメよ」
名指しで草。
ビュン!
あ、後藤ちゃんのアイスがトンビに奪われた。
「あー、言ったそばから...」
「後藤さん、私のアイス食べる?」
喜多ちゃんは優しいな。
可哀想だし、後藤ちゃんの分を新しく買ってくるか。
立ち上がったところで、トンビの声がいやに近いことに気が付いた。
上を向くと、複数羽のトンビが低い位置を旋回しており、内数羽は急降下してきているのが目に入る。
「おい、これヤバ───」
現在進行形で向かってきているトンビの速度は、俺がみんなに喚起するより遥かに速い。
がめつい鳥め、俺たち全員のアイスを奪う気か。
そう思ったが、どうやら奴らの狙いは別のようで。
「うわぁ!? ぼっちちゃんがトンビの獲物にされてる!」
「鳥類にまで舐められてるの!?」
鳥類にまでて。
コイツヨワソウダゾ! ナンカムカツクナ! ヤッチマエ!
聞こえるはずのないトンビたちの声が聞こえる。
その時点でダメだった。
「わはははははは!!!!」
喜多ちゃんの発言に加え、トンビたちの幻聴。
可哀想だが、面白くて仕方がない。
ダメだ、笑いすぎて涙出てきた。
「か、海さん!?」
「笑ってないでぼっちちゃんを助けてくださいよー!」
後藤ちゃんは助けたいが猛禽類は怖いのか、喜多ちゃんと伊地知ちゃんが俺に視線を向ける。
ちょっと待ってね、三秒で落ち着くから。
「ひーっ、ひーっ...!」
未だ込み上げる笑いを堪えつつ、後藤ちゃんに群がっているトンビたちにギリギリ当たらない程度に蹴りを放る。本当に当てたら動物愛護がどうとかっていう組織に目を付けられそうだからな。
複数羽の猛禽類と素手で戦って勝てる気は全くしないが、追い払うだけなら可能だ。
狙いを俺に変えることもなく、トンビたちは大空へと逃げて行った。
「後藤さん大丈夫!?」
「む、むりです......」
あれだけ盛大に笑っておいてなんだが、怪我とか大丈夫か?
「後藤ちゃん、怪我とか───ブフッ」
心配になり後藤ちゃんの方を振り向いた俺は、またも耐えきれず吹き出してしまった。
いやだって、無理だろうこんなの。
なんでキミ、そんな綺麗にヤムチャってるの? ギャグなの? 才能なの?
思わず写真撮っちゃった。これならJKの写真でもネタとして処理されるだろう。安心だ。連写しよ。
「もうひとイベントあった」
「こんなの求めてないですよ!」
ダメだ、笑いのツボが浅くなってる。山田ちゃんたちのセリフも面白い。さすがだぜ結束バンド、しっかりコミックバンドしてやがる。
「げほげほっ...あー、笑った。後藤ちゃん満身創痍だし、今日は大人しく帰ろっか。やり残したことがあればまた遊びに来ればいいよ」
「うぅ...そうですね...。あ、でも帰りにお参りだけ行きたいです!」
「いいねー。江ノ島って芸能の神様祀ってるんでしょ? 結束バンドの成功を祈ってから帰ろっ!」
無理ぃ...になった後藤ちゃんを背負い、上ってきた階段を下る。
この状況はツーショより遥かに事案くさいが、さすがに腰が抜けたという女の子を放ってはおけないだろう。自分の尊厳より女の子の安全だ。
...それにしてもやっぱりこの子......いやこれ以上はいけない。冗談じゃなく犯罪になる。
頭の中でSlaughter T〇 Prevailのクッサイ(褒め言葉)ブレイクダウンを思い出し、平常心を取り戻す。6〇6のブレイクダウンとかものすごい。デスボが唸ってると思ってたら突然普通の声が聴こえてくるんだけど、それが完全に『オ〇ンポッ』にしか聴こえないんだ。初めて聴いた時は三回くらい巻き戻した。
ふぅ、落ち着いてきたな。やっぱり落ち着きたい時は素数よりブレイクダウンだ。あと性癖に刺さるメロディアスなギターリフも良く効く。有名どころだけど昔のIn Fl〇mesとかチルボドとか、その辺がやっぱり好きかな。
「ブレイクダウンを構え、リフでお前を
「!?」
ん? 後藤ちゃん、突然どうした?(無意識の発言)
「あ あの、私、だっ、大丈夫です、もっ、降ります、すぐ降りますごめんなさい」
?
何かを怖がるかのように身じろぐ後藤ちゃんを降ろすが、本当に何があったんだ。突然「男と密着している」ってことを意識でもしたのかな? 正しい倫理観だ。でも辛い時はちゃんと頼るんだよ。
「帰りもエスカレーターが良かった。疲れた。海さん、ぼっち降ろしたなら私をおぶって」
嫌だが。
「もー、わがまま言わないの。下りは楽じゃん」
「でも、階段って下りの方が疲れるっていいますよね」
「そうなの? 全然楽だけど」
「下りは筋肉にかかる負担が大きいんだよ。今は疲れなくても、明日とか、若けりゃ今夜にでも筋肉痛になる人もいるよ」
「そうなんですね! ぼっちちゃん、帰ったらちゃんとストレッチしなきゃダメだよ」
「あ はい」
名指しで草。
「あとは入浴かな。ちゃんと湯船に浸かったあと、シャワーで三十度くらいのぬるま湯を浴びるといいよ。交感神経が刺激されて血行が良くなるから」
「へー。海さんってほんとなんでも知ってますよね」
「なんでもは知らないよ。知ってることだけ」
四回目達成。
「バ〇姉?」
お、山田ちゃんは物〇シリーズ知ってるのか。
「あと俺、温泉ソムリエだから。ある程度の知識はね」
「温泉ソムリエ!?」
「すごーい! 温泉を飲むんですか?」
温泉ソムリエって言うとみんな喜多ちゃんみたいなこと聞いてくるんだよな。まぁソムリエって言ったらワインのイメージが強いだろうし、気持ちは分かるけど。
「飲んだりはしないかな。温泉分析表が読めて、温泉に含まれてる成分で効能が分かるとか、正しい入浴法とかを知ってるってだけだよ。そういう民間資格があるの」
「へ〜。とっても渋いですね!」
「それ褒めてる?」
「はい! とっても!」
えぇ〜? ほんとでござるかぁ〜?
まぁ信じておこう。変に別の意味があるんじゃないかと勘繰る必要はない。素直に喜んでおこう。
そうこうしているうちに、中津宮にまで下りてきた。
まだまだ陽は高いが、さっき通った時よりも影が伸びている。冬ならもう太陽が沈もうかという時間だ。
「あ、十円玉しかない。五百円玉はあるけど...うーん」
さすがに五百円を投げ入れるのは気が引けるのか、賽銭箱を前にした虹夏ちゃんがうんうん唸る。
「五円玉くらいあげるよ。俺神社とか好きで、こういう時のために五円玉貯めてるんだ」
言って、財布から五枚の五円玉を出す。
参詣時のため、ってのもあるけど、なんとなく五円玉を持ってると良いことがありそうな気がするんだよな。一種の願掛けみたいなもんだ。
「海さん、温泉だけじゃなくて神社も好きなんですね。なんだかおじいちゃんみたい」
「今のは絶対悪口でしょ」
「そんな! 違いますよ!」
嘘だゾ、絶対悪口だゾ。
訝しんで喜多ちゃんを見つめると、何故か喜多ちゃんの顔がだんだん赤くなってきた。なんでだよ。
まぁいいかと視線を外し、みんなに五円玉を配る。
「ほら、お参りするよ」
言って、ガラガラと鈴を鳴らす。
俺が五円玉を投げると、みんなも続いて賽銭箱に五円玉を投げ込んだ。
「あれ? 神社って二礼二拍手一礼でしたっけ?」
「確かそのはずだよ〜。ですよね、海さん!」
なぜ俺に確認してくるのか。
まぁこの場じゃ俺が一番年上だし、そういうもんか。
「合ってるよ」
「でも最近、それは間違いだっていう説も聞く」
「そう言ってる人もいるね。合掌が正しい作法だ〜って。正直俺はどっちが正しいとかは分かんないけど、結局は気持ちなんじゃないかな。神様を敬う気持ちをもって、真剣にお参りすればそれでいいんだよ」
マナーなんてもんなそんなもんだろう。
マナーがあってもこちらを敬う気がないやつと、マナーはなってないけど一生懸命でこちらを敬っていることが伝わってくるやつ。どっちに好感を覚えるか、ってことだ。
彼女らから感心したような「おぉ〜」という声が上がり、なんだか恥ずかしくなって、逃げるように二礼二拍手をする。
うちはひい爺様の代からコレなんだ。今更変える気はない。
さて、何を祈るかと考えた時、ふと浮かんだことは音楽とは全く関係のないもの。
────神様。どうか就職活動が上手くいきますように。
意識高い系や真面目なやつらはこの夏、インターンなんかに行きまくっているらしい。俺はまだ何もしてない。何になりたいかも決めていない。
そろそろ俺も何か始めなきゃいけないんだろうな。とりあえず自己分析と、幼馴染連中辺りに他己分析でもしてもらうか。
「──よし」
最後に一礼し、一歩下がる。
見ればみんなまだお願いごとの最中らしく、真剣に手を合わせていた。
言われてみれば、二拍手と同時に合掌をしてるんだな。合掌が正しいっていうどこぞの学者先生の主張も、全くの見当はずれというわけではないのかもしれない。ま、知らんけど。
にしても、後藤ちゃんは特に真剣だな。よほど音楽で成功したいと見える。結束バンドで成り上がってほしいな。ポテンシャルはあるんだ、あとはどれだけ運が味方につくか。そして、本人たちがどれだけ努力できるか。
こればっかりは本人たち次第。所詮部外者でしかない俺が出てどうこうなる話ではない。
まぁ、そうだな。すでに別のことを一度祈願してしまったが、欲張りにもう一つ、神様にお願いしておこう。
──これからも結束バンドのみんなが、結束バンドのまま、音楽を好きでい続けられますように、と。
「ぼっちちゃん、すごく真剣にお願いしてたね」
帰り道。
ヒグラシの声が聞こえてくる中、伊地知ちゃんが言い出した。
「長かった」
「あ えっと...」
みんなから目を向けられ緊張でもしたのか、後藤ちゃんは言いどもる。
まぁ単純に自分の願い事を言いたくないってのもあるのかもな。
そんな後藤ちゃんに助け舟を出すかのように、喜多ちゃんが口を開く。
「皆さんはどんなお願いごとをしたんですか?」
「え? あたしはね〜。真面目にお礼とお願いしちゃった。神様、ライブ成功させてくれてありがとう、これからもよろしくお願いします、って」
ちゃんとお礼言えてえらい。
「私は巨万の富」
「ここに祀られてるの芸能の神様ですよ!?」
「バンドで成功して作曲者の私に印税がガッポガッポ。作詞者にも入るから、ぼっち、頑張ろうね」
「あ はい」
なんだかんだで山田ちゃんも結束バンドで成功したいっていう想いはあるんだな。
「私は結束バンドでもっとライブがしたいっていうのと、ギターが上手くなりますようにってお願いしました!」
喜多ちゃんはこのままいけば上手くなるよ。努力家だもん。
「海さんはどんなお願いごとしたんですか?」
「就職活動が上手くいきますように」
「だから芸能の神様が祀られてるんですよ!?」
商売繁盛と美のご利益もあるらしいけどね。
就職活動、商売繁盛にかからないかな。かからないか。
「ま、就活は神様の力とか借りずに自力でどうにかするよ」
「でも海さんってもうバンドで成功してますよね? 企業に入るんですか? あ、もしかして音楽関係の会社とか?」
「音楽関係はないかなー。音楽は趣味がいい。仕事は...なんだろ。決めてないけど、無難にITとか?」
音楽で食っていくっていう道もあるにはあるんだろうけど、俺、好きなことはあんまり仕事にしたくないんだよね。趣味でたまにライブとかできればそれでいい。
就職するなら副業OKの企業がいいなぁ。有難いことに
「IT! カッコイイですね!」
喜多ちゃんはほんとにもうなんでもいいんじゃないだろうか。全肯定すぎる。精神安定剤になりそう。
「ぎ◎△$ャ♪×あ¥●&%#ア゙?!」
精神崩壊剤!?
「あー、ぼっちちゃんまた...就職の話したから」
「そこまでか!?」
これは面白い超えて怖いんだよな。酒入ってる時なら笑えるんだけど。
「高校のうちに絶対売れる...売れて音楽で食べて行くんだ...ところてん営業は嫌...ところてん営業は......」
なんかぶつぶつ呟いてらぁ。こわ。
「売れて武道館、ドームにも出て...ふふふ収益がっぽり人気者ふふふ...いえーい二階席まで見えてるよー...ふふ、ふふふふ」
今度は笑いだしやがった。情緒どうなってんの?
でもアレだな。素で狂ってるってこっち界隈ではプラス要素だから。狂ってないと音楽なんてやってられないまである。そういう意味で言うと伸び代ですよ(?)
「よ、よーし! 明日からも練習頑張ろうねぼっちちゃん!」
「あ はっ、はい!」
元気がよくて怖い。
帰りの電車、虹夏ちゃんが海くんの肩に寄りかかって眠ったことは言うまでもあるまいな?