ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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Distortion!!のギターソロ入りがス〇イヤー(アメリカのスラッシュメタルバンド)にしか聴こえなくなってきた今日この頃。


文化祭ライブに日和ってる奴いる? いねぇよなぁ!!?(煽り)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九月も半ば、そろそろ後期の履修登録が始まりだした。

 と言っても、必修科目とゼミを取るだけで卒業に必要な単位数は足りる。あとは一つか二つ、興味がある授業があれば取るくらい。最悪落としても何の問題もない。GPA? 奨学金借りてなきゃ低くても問題ないから()

 

 授業よりバイトのシフトを組む方が大事だ。

 後期はライブもやるから、そのために俺のシフトを減らしたい。この前また新しくバイトを雇ったし、早めに育成しなきゃな。

 

 そろそろアホ店長にもシフトの作り方を教えるか。

 そう思っていた時、ロインの通知音が鳴る。

 スマホの画面を覗けば、伊地知ちゃんの名前が。

 なんだろ、また廣井の姐御が伊地知家(スターリー)で暴れてんのかな。

 

 虹夏『お疲れ様です!』

 虹夏『とっても悪いんですが、勉強を教えてくださいませんか?』

 

 なんだ、勉強か。

 高校はそろそろ中間テストがあるのかな?

 

 虹夏『あと、廣井きくりがウチでお風呂借りていくし酒盛りするしで邪魔なので、どうにかしてくれると助かります』

 

 フルネームで草。

 つーかやっぱあの女絡みじゃねぇか! いい加減にしろ!

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「おいっす〜。おい姐御、今結束バンドええ感じやねん。はっきり言って邪魔、害悪。出ろ」

 

「開幕早々暴言の嵐が!!?」

 

 というわけでSTARRY。

 入ると同時に伊地知ちゃんに抱きついている姐御が目に入ったので、とりあえず首根っこを掴んで伊地知ちゃんから引き離す。

 俺の暴言よりあんたの暴行の方が厄介だわ。出ろ(監督)

 

「うにゃー!!」

 

「おい成人女性。その歳でうにゃーとか、恥ずかしくないのか?」

 

「可愛いだろー!?」

 

「イタい」

 

「なにをー! ニャンニャーン!」

 

 なんだこいつ。

 

「喜多ちゃん」

 

「うにゃー♡」

 

「見ろ。そして噛み締めろ。これが『可愛い』だ」

 

「うっ、若さが...怖い......!」

 

 つーか言っといてなんだけど喜多ちゃん、今のでよく伝わったな。察する能力が高すぎる。超能力の域だ。これが““陽キャ””か...

 

「まぁいい。ほれ姐御、酒だ。これやるから隅っこで大人しくしとけ。騒いだらシバく」

 

「お前最近私に冷たくない? でもお酒ありがと〜!」

 

 今んとこあんた結束バンドにとって害悪要素しかないからな。当たり前だ。マジで大人しくしとけ。

 

「おい、あいつに酒を与えるなよ。ここで酒盛りされるのは困るんだ」

 

「申し訳ないっすけど、この辺の外で飲まれて警察のお世話になるよりマシだと思ってます。警察に呼ばれるの、俺か星歌さんなんで」

 

「マジで厄介だなこいつ。消えねぇかな」

 

 ほんとにね。

 さて、姐御は後で説教するとしてだ。

 

「海さん! こんにちは! 来てくれてありがとうございます!」

 

 伊地知ちゃんを皮切りに、結束バンドの面々が挨拶をしてくる。いい子たちだな。

 

「こんにちは。それで? 俺は伊地知ちゃんに勉強教えればいいのかな?」

 

 早速今日の本題に入ろう。

 

「あ、あたしというよりもぼっちちゃんですね」

 

「後藤ちゃんか。よし、それじゃあ何から教えればいい? どの辺が分かんないの?」

 

「あ それが分かんないです...」

 

「なるほどね。じゃあ得意な科目と苦手な科目は?」

 

「えと、得意なのは音楽で、苦手なのはそれ以外...」

 

 おっけー。しっかり勉強が苦手なタイプだ。

 

「じゃあ暗記科目は後回しにして、数学とかからやろっか。教科書とかノートってある?」

 

「あ はい」

 

「私も教えてほしいです!」

 

「ん、いーよ。後藤ちゃんと一緒にやろっか」

 

「はい!」

 

 最近は勉強とかしてないけど、高一の範囲くらいなら余裕だ。数ⅠAだろ? 任せろ。

 

「えー...まずは二次関数か。中学でもやってるはずだけど、その範囲は大丈夫そう?」

 

「あ ちょっと自信ないです...」

 

「おっけー。それじゃ基礎からやろっか」

 

「ご、ごめんなさい...ご迷惑おかけして...」

 

「いいよいいよ、高校生の勉強教えるくらい全然苦じゃないし」

 

 勉強しようって気があるんなら問題ない。する気もないやつに教えるのは苦痛だけどな。

 

「そんじゃあそもそも関数ってなんぞやってとこからだけど、『何か物が入ってきたら中で計算をして、違う形にして外に出す装置』って感じかな」

 

「え...え...?」

 

 喜多ちゃんは問題なさそうだけど、後藤ちゃんは怪しいな。

 うーん。図で表してみるか。

 シャーペンとルーズリーフを借りて、サラサラとギターとエフェクター、アンプの絵を描いてみる。

 

「後藤ちゃんが得意な音楽で例えてみよっか。機材で言うと、関数はエフェクターと同じって考えていいよ。例えばさ、(ひず)み系のエフェクターを通したら音って歪むでしょ? それはなんでか分かる?」

 

「あ えと、歪みエフェクターの中で音の波を大きくして音を潰すから、です」

 

「そうだね。関数もそれと似てて、例えば『y=2x+1』っていう関数は『xっていう数字が入ってきたら、その数字を二倍して一を足してから外に出す』ってこと。ここでいう外はyね。これってさ、『音っていう波が入ってきたら、その波を大きくしてからアンプに流す』っていうエフェクターの仕組みとなんか似てない?」

 

「た 確かに、言われてみれば...」

 

「????」

 

 あ、やべ。元々関数分かってたっぽい喜多ちゃんが混乱し始めた。エフェクターで例えたのがまずかったか?

 

「見てよお姉ちゃん。アレが正しい大学生の姿だよ」

 

「...いや、アレは上位層だろ」

 

「説明、分かりやすかったですね〜。今の、私でも理解できましたもん。私も暇な時、関口くんに教えてもらっちゃおっかな〜」

 

「お姉ちゃんも教えてもらいなよ」

 

「ロックンローラーに勉強は必要ないんだよ」

 

 必要あるが。

 いやまぁ、必須かと言われればそうでもないんだろうけど、勉強ができると将来の幅が広がるから無駄じゃないと思う。

 

「べんきょーなんてできなくていーんだよ! つーかガッコーのテストとかカンニングすりゃいい話だし! なんなら教師脅して解答盗めよ」

 

「大人しくしてなきゃシバくつったよな?」

 

 俺は男女平等にSEKKYOできる男。姐御相手なら多少の実力行使も辞さない覚悟だ。

 

「なんだよぅ関口ぃ、目が怖いぞぉ〜? ...え、待って。なんで拳握ってんの? なんで振り上げんの? ねぇ。ねぇってば!」

 

 見せてやるよ、これが俺のスタンド『ファイブフィンガー・デ〇パンチ』だ!(物理)(拳骨)

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「よし、とりあえず今日はこのくらいかな」

 

「はいっ、ありがとうございました!」

 

「あ ありがとうございました...」

 

 二時間ほど数学を教えたが、このあと彼女らはバイトがあるらしい。ひとまずはここまでだ。

 

「いや〜。すみません、あたしたちまで教えてもらっちゃって。ありがとうございます。ほら、リョウもお礼言って」

 

「ありがとうございました」

 

 途中から参戦してきた伊地知ちゃんと山田ちゃんには英語を教えていた。

 並行して違う科目を教えるのは少し大変だったが、まぁ英語はそこそこ得意だからな。なんとかなった。

 それに伊地知ちゃんはだいぶ勉強ができるし、喜多ちゃんも基礎はそこそこ理解しているからあまり苦労はなかった。山田ちゃんは地頭がいいから教えたことはどんどん理解していく。

 後藤ちゃんは...まあ、真面目で教え甲斐があったな。

 

「じゃ、私勉強しに帰る。教えてもらったとこ復習したいし、家の机が一番集中できる」

 

 おお。山田ちゃん、いい心がけだな。

 早足で帰る山田ちゃんに手を振る。根は真面目な子なんだなぁ。

 

 さて、俺はこの後どうしようか。

 バイトはないけど、何かあったら連絡が来て出勤しなきゃだしな。下北にはいときたいし...そうだな、ライブ見ていくか。

 

「星歌さん、俺ライブ見ていきます」

 

「お、だったら手伝ってくれよ。ドリ場だけでいいからさ。山田が帰って(バックレて)人手がちょっと足りないんだ」

 

 何やってんだあいつ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「すいませーん、スクリュードライバーとジンバックくださーい」

 

「あい〜。ドリンクチケット拝見しまーす」

 

 というわけで労働。

 ちゃんと時給も出るらしいので、しっかり労働である。なんで俺働いてんだ? 金が貰えるからか(真理)

 

「おまちどー」

 

「ありがとうございまーす!」

 

 キャッキャとドリ場を離れていく女性客を見送る。楽しそうだ、俺もあっち側がいいなぁ。

 

「...さっきから女の人ばっかりじゃありません? 海さんのところにくるお客さん」

 

「たまたまでしょ」

 

 そういう喜多ちゃんの方には男の客が(たか)ってるな。お前らたまに鼻息荒いやついるけど普通に犯罪だから手は出すなよ。鑑賞するだけにしとけ。

 

「それてしても海さん、すごいですね」

 

「? 何が?」

 

 もしかしてまともに接客ができてるってことを褒められてる?

 俺なんだと思われてるの。こちとら接客業アルバイトのバイトリーダーよ?

 

「いえ、さっきからお酒、迷わず作ってるなーって思って。私、覚えるのにちょっと苦労したんですよー」

 

 あーね。

 確かに高校生じゃ酒の種類なんて知らないし、カクテルなんかもっと知らないだろう。逆に知ってたら色々疑っちゃうわ。

 

「基本的なやつはね。俺もよく飲むし」

 

「海さんお酒強いですもんね。家でも飲んでるとか?」

 

「家じゃあんまりかな。居酒屋が多いけど、こういうカクテルはバーとかでたまに」

 

「バー! 大人〜!」

 

 そうだろうそうだろう。ほぼカッコつけで通ってるからな、バー。幼馴染連中や高校から交流がある音楽友達とたまに行ってる。兎狂いとかギャルとか、あと風紀委員、etc。

 

「バーとか憧れちゃいます!」

 

「喜多ちゃんも大人になったら一緒にお酒飲み行こうね」

 

「ぜひ!!!!」

 

 うるさ。声デカ。

 客が何人かこっち振り向いたぞ。すんません、なんでもないです〜。気にせず前向いといてください。

 

「あたしも行くぞぉ〜!!」

 

「姐御は黙ってろマジで。口輪付けるぞ」

 

「女の子に口輪付けるとか、お前変態かよ!」

 

「うるせぇ口はこの口か? あ?」

 

「ご、ごめんなさい...」

 

 ずいぶん荒い扱いだが、姐御にはマジでこのくらいでちょうど良いんじゃないかと思ってきた。

 

「お、客がこっち来てるな。おい姐御どけ、ちょっとあっち行ってろ」

 

「うわーん!! しまいにゃ泣くぞこのヤロー!!」

 

 他人の家に入り浸って勝手に風呂入ったり酒盛り始めたりする系の妖怪がなんか言ってらぁ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「そういや喜多ちゃん。なんかあったの?」

 

「え?」

 

 客がこなくなったので、喜多ちゃんとの雑談タイムに入る。

 今ドリ場にいるのは俺と喜多ちゃん、あと隅っこに縛られている姐御が一匹。客にダル絡みして営業妨害じみた真似をしてたからファイブフィンガーって縛っておいた。酔っ払いめ、少しは頭冷やせ。

 

「えっと、なんでですか?」

 

「いや、その首掛けボード。勉強みる前から気になってたんだけどさ、何? その『私は罪人です。』って」

 

「え? ......あっ!」

 

 一瞬キョトンとあざとく小首を傾げたあと、慌てたようにボードを首から外す。

 忘れてたのか? そんな存在感のあるものを? もう才能だろ。

 

「い、いえ、えっと......ちょっと大罪を犯しまして...」

 

 ちょっと大罪を犯しまして???

 

「危うく後藤さんを殺してしまうところで...」

 

 危うく後藤さんを殺してしまうところで??????

 なぁに言ってんだこの子。

 

「今度、私たちの学校で文化祭があるんです」

 

「あー、もうそんな時期だね。俺らもそろそろ学祭あるわ」

 

 俺が所属してるゼミやサークルも出し物するって言ってたわ。ゼミは何やるか知らないけど、サークルはライブやるんだっけ。誘われたら出ようかな。

 

「海さんの大学の学祭! ぜひ行きたいです!」

 

「いやいいけど...その話は一旦置いといて、文化祭と後藤ちゃん殺しの何が関係あるの?」

 

「あっ、そうでした...えと、文化祭でステージの出し物があるんですけど、後藤さんがそれの出演申込書を書いてて、私がそれを提出しちゃったんです」

 

 ......?

 え、今の何か問題でもあった? 普通の流れだったけど。

 

「後藤さん、文化祭ライブに出るのが嫌らしくて...」

 

「え、自分で申込書書いたのに?」

 

「はい...」

 

 それは喜多ちゃん悪くないんじゃ?

 

「書いたはいいけど、大勢の前で演奏するのは緊張しちゃうらしくて」

 

「あー」

 

 なるほどね。勢いで書いたはいいけど怖気付いちゃったパターンか。まぁ後藤ちゃんみたいなタイプにはあるあるだな。

 

「喜多ちゃんは出たいんだ? 文化祭ライブ」

 

「はい! 絶対楽しいと思うんです!」

 

 すごいな。人前で演奏することを一切恐れていない。喜多ちゃんが持ってる武器の一つだ。

 いや、もしかしたら知らないだけなのか? 喜多ちゃんが経験したライブは一度だけ。しかも台風なんかの影響で、ほとんど客が入らなかった。

 

 文化祭ライブってなると、STARRY満員時よりも遥かに大勢の前で演奏することになる。

 客が多かろうが少なかろうが精一杯演奏することに変わりはないが、やっぱり人数が多いとそれなりに緊張もするもんだ。

 しかも、文化祭での相手はどこの誰とも知れない他人ではなく、普段から顔を合わせる学友たち。緊張の度合いは跳ね上がる。

 

「...まぁ、無理して出ることもないだろうけど、楽しいは楽しいだろうね」

 

「ですよね!」

 

 ライブは楽しい。それは後藤ちゃんも感じているだろう。バンドマンならそう感じる人間の方が大多数だ。

 ライブはやりたいけど、緊張するから、恥をかきたくないから出ない。そういう選択は、後々ひどく後悔することになる。高校の文化祭ともなれば、人生でたった三回しか体験できないイベントだ。ここでやり残したら今後一生やり直すことなどできはしない。

 

 やらない後悔よりやった後悔。

 俺はあまり好きな言葉じゃないが、こと文化祭ライブのような今後の人生では絶対に経験できず、かつ高校生活という三年間を過ぎれば過去の笑い話にできるイベントに関しては、その言葉通りだとは思うわけで。

 

 客もこないし、ドリ場(ここ)は喜多ちゃんに任せて、受付で死んでいるであろう後藤ちゃんのいる外に向かう。

 

 

 

「お疲れ様」

 

「あ 関口さん。お、お疲れ様です」

 

 案の定死んだ目で座っていた後藤ちゃんに声をかける。

 

「さっき聞いたんだけど、文化祭ライブに出るか悩んでるんだって?」

 

 中ではそろそろ三バンド目が演奏を始める頃。今更ライブハウスにくるやつはほとんどいない。

 受付も暇そうだ。多少のおしゃべりは許されるだろう。

 

「え...あ はい......」

 

「やっぱ、大勢の前で演奏するのが怖いから?」

 

「あ えと......は、はい......」

 

 薄暗いこの場所でも分かるくらい、後藤ちゃんは顔を青くしている。想像するだけで〜というやつか。

 

「......あのさ、俺の初ライブって文化祭だったんだ」

 

「...え?」

 

 当時を思い出す。

 それ以前から音楽の授業だったり、代理だったがスタジオミュージシャンの真似事だったりでは複数人の前で弾いたこともあったが、ちゃんとした『ライブ』という形での演奏は高一の文化祭が初めてだった。

 

「あの頃は俺と須田しかいなくて、Capliberteとしての初ライブってわけじゃなかったけどね」

 

 ドラムの打ち込みを作って、初めて他人と一緒に『バンド』をした。

 

「本番直前まですっげー怖くてさ。須田なんて一生手ぇ震えてるわアンプのボリューム上げ忘れるわ、しまいにゃ逃げようとしてたんだぜ?」

 

「に、逃げ......」

 

「俺も手の震え止まらないし、頭ん中真っ白になるくらい緊張して、しかも()った曲がブ〇ンキー。知ってる? BLAN〇EY JET CITY」

 

「あ はい...ガレージバンドの、ですよね...?」

 

「そ。後藤ちゃんみたいな音楽をちゃんとやってる子なら高校生でも知ってるやつはいるんだけど、一般人は知らないじゃん? そんな曲やったからさ、一部以外まーじで盛り上がらないの」

 

 あの時の空気感、エグかったなー。選曲ミスったと思ったもん。無難にクリ〇プとかやっときゃいいのに、当時の俺ら尖りすぎだろ。

 まぁ結果的にそのライブは五十嵐がドラマーとして加入するきっかけになったから正解ではあったんだけどな。

 

「お通夜とまではいかないけど、一部男共とノリが良すぎる奴ら以外微動だにしないんだ。ちょっとしんどかったな、あの時は」

 

「や、やっぱり、文化祭ライブは青春ロックで盛り上げないと罰せられるんだ...!」

 

 んなこたねぇよ。俺罰せられてないもん。

 それにブ〇ンキーは青春ロックだろ! 昭和の青春だとしても、れっきとした青春ロックだろ!!

 ...こほん、思考がそれた。

 

「けど、そのしんどさなんて目じゃないくらい楽しかったよ、文化祭ライブ」

 

「......え?」

 

 後藤ちゃんが顔を上げる。

 彼女の顔を見れば、困惑の色が見て取れた。

 

「後藤ちゃんってさ、《ギターヒーロー》って名前でYouT〇beやってるでしょ」

 

「ぇ? ...え!?!!?!?」

 

 そんなに驚くことか?

 最初気付かなかった俺もどうかと思うレベルで一緒じゃん。ジャージとかギターとか。女子高生でレスポールカスタムなんか使ってるやつそうそういないよ。決め手は演奏中のクセだったけど。

 

「俺、《ギターヒーロー》の動画ほとんど全部見てるんだけどさ」

 

「!!?!?!?!?!!?!?」

 

 おい落ち着け、せめて人型は保て。俺じゃ修復できないんだから。

 

「いつだかの動画の説明欄に『文化祭ライブでやった曲です! めっちゃ楽しかったー!』とか書いてたじゃん? ......聞いてる?」

 

「あばばばばば」

 

 ダメだ、聞いちゃいねぇ。

 目の前で手を振ってみたり、胸ポケに差してたボールペンで突っついたりしてみる。

 お、変形が止まった。

 

「大丈夫? 生きてる?」

 

「ぅぇ...あ は、はい......」

 

 ぅぇて。

 

「話戻すけど、後藤ちゃんもあんな嘘書くくらいには文化祭ライブに憧れはあるんでしょ? だったら出た方がいいんじゃないかと思うな。恥をかいたとしても、それで人生が終わるわけじゃない。むしろ恥かくってのはプラスだよ」

 

 そんなわけあるかよ、みたいな顔してるね。

 まぁそう思うのも無理はない。『恥をかくことはマイナスでしかない』と、俺も昔はそう思ってた。

 

「よっぽどのことをしなけりゃ、晒した恥は風化するもんだ。それに炎上商法ってわけじゃないけどさ、恥をかけば、それ相応の注目を浴びるわけで。世の中そんなに悪い人間だらけじゃないからね。それを機に友達...とまではいかなくても、会えば挨拶するくらいの仲になれることだってある。弱みを見せた方が人は寄ってくるもんだよ」

 

 高校の頃、いや今もだが、お嬢に拉致られて世界各国を巡った俺は学んだ。

 

 海外は未知で溢れている。文化や宗教、積み上げてきた歴史そのものが違うし、そもそも言語が違う。

 そんな環境で、指の数じゃ足りないくらいの恥を晒してきた。

 それでも、恥をかいて悪かったことはほとんどない。もちろん恥ずかしかったが、その恥が原因で仲良くなった人は大勢いる。どこぞの大統領もいたなぁ。

 

「恥をかくのは悪いことばっかりじゃない。失敗も成功も等しく経験だ。糧にすればいい」

 

 まぁ、高校生にその考え方は難しいかもしれないけどな。俺は環境に恵まれた。目が覚めたら海外でしたとか当時は胃が痛くなる思いだったが、今にして思えば、あの経験が俺を大きくしてくれた。

 

「ま、最後に決めるのは後藤ちゃんだ。なんだかんだ言ったけど、逃げるのだって悪いことじゃない。立派な『決断』だ。悩んで進んだ道にこそ価値はある」

 

 俺が与えられるのは、その『決断』を下すための材料。

 

「これ、あげるよ」

 

 財布から一枚の紙切れを取り出し、後藤ちゃんに渡す。お札じゃないよ。

 

「あ あの、これは...?」

 

 お札じゃないよ(大事なことなので)

 

「明日ある新宿FOLTのライブのチケット。SICK HACK、姐御のバンドも出るやつだよ」

 

「お お姉さんのバンド...」

 

 親交のあるメタルバンドの子らに貰ったものだが、明日はバ先のアホ店長が突然有給取るとか言い出して出勤しなきゃいけなくなったからな。まぁ店長にも有給を取る権利はあるし、文句はないんだけどな。もっと早く言って欲しかったところではある。報告されたの一昨日だぞ。

 

「あとで伊地知ちゃんたちにも渡しとくから、みんなで行ってきたら?」

 

 姐御のバンドはコアなファンしかいないが結構盛り上がるし、俺推しのメタルバンドや、その他にも良いバンドが多い。ライブの楽しさをオーディエンス側から感じる良い機会になるはずだ。

 あとで伊地知ちゃんたちの分三枚も買っとかなきゃな。三人の分はネットでいいだろ。

 

「あ ありがとうございます。あ お金...」

 

「大丈夫だよ。明日急用入って行けなくなっちゃったからチケット無駄にするとこだったし、あげるって」

 

 これで文化祭ライブ参加有無の判断材料になるなら安いもんだ。後藤ちゃんの、ひいては結束バンドの糧になることを信じた投資といったところか。

 

 後藤ちゃんにとって、良い結果に転ぶことを期待しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✿ ❀ 番外編 後藤家家族会議 ❀ ✿

 

 八月三十一日、夜。

 

 

 

 

 俺は後藤家に厄介になっている柴犬。名前は“ジミヘン”。

 

 ニンゲンの子供たちは今日が夏休みというやつの最終日らしく、後藤家長女のひとりによる毎年恒例『精神統一』が行われていたのだが、今年は何やら父の様子が落ち着かない。

 

「ひとりちゃーん、今ちょっといーい?」

 

「ちょっと待って。まだ心がザワついている...」

 

 母の問いかけに、神妙な顔付きで座禅を組んでいるひとりは「待て」と返した。

 毎年毎年、よくもまぁ飽きないものだ。いくら統一したところでどうせ明日の朝にはまたザワついて荒れ散らすというのに。

 

 

 しばらくして、ひとりの儀式は終了した。

 心を無にしたらしいひとりは、いつにも増して無表情。明日には崩壊している未来が視えるが、まぁいい。毎年のことだ。

 

「どうしたの? お母さん」

 

「あら、終わったの? いえ、そんなに大したことじゃないんだけどね〜?」

 

「大したことだよ大事件だよっ!!」

 

 父の声が荒い。普段は大人しくふたりの言いなりになっている父にしては珍しい。

 ひとりが何か悪いことをした、というわけでもないだろう。ひとりはアレでとても良いニンゲンだし、何より母の態度を見れば一目瞭然。父にのみ被害が出る何かがあったか。

 

「ど、どうしたの、お父さん...」

 

「どうしたもこうしたもないよ! 僕は見てしまったんだ、ひとりが男と一緒に写っている写真をね!」

 

「ぅえっ!? ど、どうしてそれを...? 押し入れの奥の方に貼ってたのに...」

 

「ジミヘンが咥えてきたのよ〜」

 

 すまない、俺がやった。

 悪いことだったのか? だが許せ。そして俺は悪くない。俺は愛玩動物(イヌ)だ。

 

「あの男は誰だ! も、もしかして、この前夜中にうちまでひとりを送ってきたバイクの男なのか...!?」

 

「え、あ、うん。そうだけど...」

 

ああ゙Aァあァあああ゙ArrRrrrr!!

 

「ピッ!? お、お父さん、そんな大きい声出るんだ......」

 

「あなた、ご近所迷惑よ。何時だと思ってるの、まったく」

 

「何言ってるんだママ! これが声を出さずにいられるか! だって付き合っちゃいけない男三Bって『バイク乗り』『バイク乗り』『バイク乗り』のことなんだよ!?」

 

「少し黙りましょうね〜」

 

「アッ、ま゚っ、ギ ギブ...!!」

 

「!? !!?」

 

 キレーなアナコンダバイスがキマってるな。さすが母。後藤家ヒエラルキー頂点(ジミヘン調べ)

 三Bは美容師、バーテンダー、バンドマンだろ。イヌの俺でも知ってるぜ。父はアホだなぁ。やっぱり父は後藤家ヒエラルキー最下層だな(ジミヘン調べ)

 

「ごめんね〜ひとりちゃん。パパったらあの写真を見てから『ひとりに彼氏が〜! イマジナリーじゃない彼氏がぁ〜!』ってうるさくって。ひとりちゃんもお年頃だもん。彼氏くらいできるわよね〜?」

 

「...? ...。...!? カッ かかかかかかか彼氏!? ちっ、ちちちち違うよ!? 違うから!!」

 

「ワン!(落ち着け小娘)」

 

「あら、そうなの? じゃあお友達?」

 

「と 友達っていうのはちょっと烏滸がましいというか...成り行きで知り合えた憧れの人、みたいな......」

 

「まぁ! ひとりちゃんの片想いなのね! ファイトよ〜! 押しが大事よ、押しが!」

 

「そっ それも違うから!」

 

 どうでもいいが静かにしろ。ふたりの嬢ちゃんが起きてきちまうぞ。

 

「関口さんはそういうのじゃなくて...いや確かにすごく魅力があるというかカッコイイ人だけど、恋愛とかじゃなくて、ホントに憧れてるだけで...! というか関口さんからしたら私なんて眼中にないだろうしそもそも私があのKaiと知り合いってだけで大それてるのにカッ、カカ、彼氏...とかありえないっていうか......とっ、とにかくっ、そういうのじゃないから!」

 

「あらそーお? ですってよパパ〜? 良かったわね〜」

 

「甘いよッ! 男はみんな狼なんだ!」

 

 ニンゲンのオスはイヌの親戚だったのか。

 

「ひとり! 今度その男をうちに呼びなさい! 父さんが見定めてやる! 化けの皮を剥がしてみせるッ!」

 

「えっ。......お、お母さん...」

 

「ひとりの憧れの人とは一度話してみたいわね〜」

 

「えっっ」

 

「ワンワン! (歓迎してやるぜ、ニンゲンのオス)」

 

 よーするにひとりの(つが)い候補が来るってことだろう? 父じゃ役不足だ。俺がしっかり嗅ぎ定めてやんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




集合写真(結束バンド+関口海)を見て「ひとりに男が!」ってなる豊かな想像力(笑)を持っている辺り、ぼっちとの血の繋がりを感じる。仮に彼氏だとしても他3人の誰かの彼氏かもしれないのに。

それにしても『ジミヘン(cv小岩井ことり)』がパワーワードすぎて......
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