「ここが私が拠点にしてる箱、新宿FOLTでぇっす!」
人がごった返す新宿を廣井さんに案内され、あたしたちは新宿FOLTというライブハウスに来ていた。
「何かSTARRYとは随分雰囲気違いますね〜...」
普段近寄らない場所だからか、はたまたライブハウスのダークな雰囲気に気圧されているのか、喜多ちゃんのテンションが若干低い。ちょっと怯えてる?
「だいじょーぶ。うちと変わらないよ!」
ここは先輩としてあたし──伊地知虹夏がしっかりしなきゃ。リョウはあてにならないし。
「い、イキってすみません...」
「後藤さん!? 先輩、後藤さんが!」
あー、ぼっちちゃんまた萎んじゃった。栓が緩くなってるのかな。ちゃんと締めとかなきゃ。
動けなくなったぼっちちゃんをを引きずり、先を進む廣井さんに着いて行く。
ちょっと横を見ると、なんだか雰囲気のある人達がこちらを見ているのに気付いた。
この時間はまだお客さんを入れる時間じゃないし、見覚えのないあたしたちを訝しんでるのかな?
「ぼっちちゃーん? あーゆー人達も話せば大体良い人だから。PAさんとかお姉ちゃんとか、それに海さんとかもそうだったでしょ?」
ハーフアップでピアス開けてるイケメンとか雰囲気あるんだよな〜。出会いの場がライブハウスだし。
でも本当、話してみればみんな意外と良い人────
「銀ちゃーん、おはよ〜」
「あぁ?」
長髪後ろ縛りでバチバチピアスの男の人!? しかもなんか睨まれてるし......
「......ふぇ...おっ、お姉ちゃんに会いたい...」
「ついに伊地知先輩まで!!?」
お姉ちゃぁん...!
でもお姉ちゃん今日も仕事だし...か、海さんに電話しなきゃ...! 助けて貰わなきゃ!(錯乱)
Prrrr...
「え、何この子たち。顔合わせて挨拶より前に電話?」
「も、もしもし海さん!」
『はいさーい。突然どしたの。今日FOLTのライブ行ってんでしょ? あ、もしかしてまた姐御がなんかした? だったらそこに銀さんか志麻さんがいるはずだから、その人らに言ったら解決してくれるよ』
「助けてください!」
『...何かあった? もしアレなら俺もそっち行くけど』
「こっ、怖いお兄さんが...!」
『怖いお兄さんん?? ...あー。えっとね、怖いかもだけど、ちょっとそのお兄さんに電話代わってくれる?』
「ふぇ...」
「......え、何? 電話代わるの? 私が? ......えっと、もしもし? ...あっらぁ〜海くんじゃないの〜! 久しぶりねぇ〜! え? ...あ、うん。うん。...はぁい、おっけー。それじゃまたね〜」
男の人が電話を切る。
ていうかあたし、ちょっと取り乱してとんでもない失礼カマしてない? ヤキとか入れられるのかな...助けてお姉ちゃぁん!!
「さて、貴女たち...───」
かっ、海ざぁ゙あ゙ん゙!!!!
「───海くんのお友達でゲストなのね♡ ごめんね〜ちょっと怖かった? 吉田銀次郎三十七歳で〜す! 好きな音楽のジャンルはパンクロックよ〜!」
......ふぇ?
「こちら銀ちゃん! 新宿FOLTの店長だよ〜。見た目怖いけど、中身が乙女のおっさんだから安心して〜」
...え? え?
「あ、えと...どうも...その、し、失礼してすみませんでした...」
待って、別の困惑が込み上げてきた。
「いいのよ〜♡ それよりきくりちゃん、海くんから伝言なんだけど」
「ん〜? なになに〜?」
「あなた、後藤ちゃんって子からお金借りっぱなしらしいわね。今日の売上から引いとくから」
「!?」
「あと海くんにもタクシー代立て替えさせてそのままらしいから、それも引いとくわね」
「そんな殺生な?! 明日からの酒代が! あ痛っ!」
「殴るわよ、このドクズベーシスト」
「叩いてから言うなよぉ!!」
あ、廣井さんか叩かれてるの見たらなんか落ち着いてきた。不思議だなぁ。
なんとか落ち着いたため、改めて店長さんに挨拶をする。
三人もちょっと驚いていたようだけど、それぞれちゃんと挨拶をした。ぼっちちゃん、ちゃんと挨拶できて偉いね。
「おい廣井」
なんで自己紹介の時に自分の好きな音楽ジャンルまで言うんだろうなぁとぼんやり考えていたら、微かに怒気を含んだ声が聞こえてきた。
「お前、またこんな時間に来やがって。遅刻するなっていつも言ってるよな」
「もうリハ終わっちゃったヨ!」
骸骨の刺繍が入ったスカジャンを着ている怖い雰囲気のお姉さんと、浴衣を着崩してちょっと露出の高い金髪のお姉さんが近寄ってくる。
前者は静かに、後者はぷんぷんという擬音が聞こえてきそうな様子で、どちらも廣井さんに不満をぶつけていた。
「えっへ、ごめーん」
「お前はいつも謝罪が軽いんだよ。本当に反省してんのか」
「してるしてるぅ〜」
「こんの...!」
「はいはい、落ち着いて志麻ちゃん。怒るのも分かるし私もちょっと怒ってるけど、ゲストの前よ〜。あんまり怖いとこ見せないの」
フルフル震える拳を握るスカジャンの人を、店長さんが宥める。それにしても廣井さんはろくでもないな。リョウも中々だけどここまでじゃない。良かった、うちのベーシストがリョウで。
「ゲスト? ...あ、もしかして結束バンドの子達ですか?」
「あっ はい! はじめまして、結束バンドの伊地知虹夏ですっ」
慌てて返したけど、どうしてあたし達が結束バンドだって分かったんだろ?
「私、廣井のバンドでドラムやってる志麻です。話は廣井と、あと関口から聞いてます。うちの廣井がご迷惑をお掛けしてるみたいで。これ、つまらないものですが...」
「え、あ、これはどうもご丁寧に...」
言って、志麻さんは包装紙に包まれた箱を渡してくる。菓子折りだ。
礼儀正しい人だなぁ。廣井さんと同じバンド組んでる人とは思えない。やっぱりバンドってこうやってバランス取ってるのかな。
「私とも仲良くして〜〜! イライザって呼んでイーヨ。イギリスに十八歳まで住んでました! 今は日本三年目〜」
ちょっとカタコトなイライザさんが挨拶とともに「これ浅草で買ったの〜」と模擬刀を見せてくる。
「よろしくお願いしますっ! 日本にきてバンドするなんて、邦ロック好きなんですね〜」
「え? ううん、コミマ参加したくて日本来たのー。ホントはアニソンコピーバンドしたいネ! たまにカイと一緒にやってるヨ!」
「「「海さん(kai)と一緒にバンド!?」」」
突然の情報にあたし達の声が重なる。
リョウだけは無反応だったけど...知ってたのかアイツ。
「ウン! カイってすごいよネ〜。シブい声もカワイイ声も出せちゃうし、ギター上手だし!」
「そーなんですよ! ほんとにそう、おっしゃる通り! 海さんってほんとに女の人みたいな声も出るしかと思ったら低くてシビれるイケボも出すし七色の声すぎるっていうか過去の動画見させて頂いたんですけどライブでもよくっていうか毎回やってるSilent Si○enっていうガールズバンドのコピーとか本当に本物にしか聞こえなくてギターもすっごく上手だしアレ弾きながらあんな上手に歌ってるのホントリスペクトっていうか本気で尊敬しててあとあと演奏中すごく楽しそうにしてるのがなんかかわいくてあかわいいって失礼ですかねでもほんっとうにかわいくてでもかっこよさもあるから何度観ても惹き付けられるってゆーか惹き込まれるってゆーかホント沼で何回観ても飽きないしそれに」
「喜多ちゃんストーップ! ブレーキ! ブレーキちゃんと踏んで!」
喜多ちゃんフルスロットルすぎる。アクセルベタ踏み過ぎでしょ。なんか音楽の話振った時のリョウに似てたな今の。
でも気持ちは分かる。海さんの演奏とか歌って、本当に惹き付けられるよね。魅力たっぷり、あれからしか摂取できない栄養がある。
動画であれなんだから、今度のライブを生で観たらどうなっちゃうんだろ。楽しみだな〜。
「アハハ! アナタもカイのこと好きナノ?」
「「あなた“も”......?」」
ちゃんと...ちゃんと説明して貰わなきゃ...あたしたちは今、冷静さを欠こうとしている...
「私もカイのこと好きだヨ〜。アニメの話もできるし、マブダチ!」
マブ...“ダチ”...?
ふーん。
「関口のやつ、またやったのか...いや別にアイツが悪いってわけじゃないのは知ってるけど」
志麻さんがため息をついて呆れている。
海さん、何かしたのかな? 悪いことするような人には思えないんだけど。
「そういえば今日は関口は来ないんですか? ちょっと前、あいつも来るって聞いてたんですけど」
「あ、今日は急にシフト入ったとかで来れないみたいです。その分のチケットを譲っていただいて」
「そうなんですね。あいつも大変だな」
志麻さんの質問に答える。
譲ってもらったのはぼっちちゃんで、あたしとリョウ、喜多ちゃんの分はわざわざ新しく買ってくれたっぽいけど。
ほんと、海さんには頭が上がらないや。
「それじゃ私ら準備してくるから。ごゆっくり〜」
そう言い、廣井さんたちは控え室に消えていく。
そういえば廣井さんのバンドのリハ終わったって言ってたけど、ぶっつけ本番で音とか大丈夫なのかな? PAさん大変そー(←関口がSTARRYでPAをした時にギタリストを探しに行ってリハにいなかった人)
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SICK HACKのライブは、なんていうか『すごかった』。
私は音楽のことは全然詳しくないけれど、アレがすごいライブだってことは肌で感じることが出来た。
あのライブの後だと、私の演奏が酷いってことも、余計に痛感する。
「ふっ 不安な気持ちはあるけど、それ以上にギターソロを貰えて嬉しいっていうか...きっ 喜多さんが出演表を出してくれなかったら今頃後悔してたかもしれないし...だっ だから、その、感謝してます」
初めて会った時と比べて、少しずつ変わっていっている後藤さん。
本当は怖くて仕方がないだろうに、それでも前を向いている。それは、後藤さんにとってとっても大きな進歩で、成長だと思う。
───......じゃあ、私は?
私は何か変われただろうか?
そう考えたとき、返ってくる答えは『NO』。
私は何も変わっていない。演奏が下手で、後藤さんやリョウ先輩、伊地知先輩みたいな輝きがない。
文化祭ライブの出演表を提出したのは、文化祭ライブが楽しそうっていうのもあるけど、一番は、皆に後藤さんは本当はすごい子なんだっていうのを知ってもらいたいから。
その隣に立っている私が平凡なままなんて、そんなのはいけない。後藤さんを支えられるくらい、大きな存在にならなきゃいけないんだ。
「というワケで、海さんお願いします! 私にギターを教えてください!」
「どういうワケかは分からんが分かった」
私頑張るからね、後藤さん!
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「というワケで、海さんお願いします! 私にギターを教えてください!」
「どういうワケかは分からんが分かった」
結束バンドを新宿FOLTに送り出した翌日。
喜多ちゃんから連絡があり、下北沢のとあるスタジオに足を運んだ俺は、突然そう懇願された。
どういうワケなのかは一切不明だが、教えてくれと頼んでくるのならば教えよう。時間はあるし、拒否する理由もない。
「で、結局文化祭のライブには出ることになったの?」
「あ、はいっ! 昨日のライブを観て後藤さんも決心ついたみたいで」
そうなんだ。
後押しになったならチケットを渡した甲斐もあるってもんだ。
後藤ちゃんに足りないのは経験だ。文化祭は良い経験になるだろう。
技術は申し分ない。
あとは場数を踏んで、緊張していてもきちんと実力が発揮できるようにする。これが後藤ちゃんの課題。
緊張で本来の実力が出せないっていうのはあるあるだけど、後藤ちゃんの場合落差がデカすぎるからな。
そんで、ある程度人前に慣れている喜多ちゃんに足りないのは技術だ。
「それじゃあ始めようか。この前のライブでやった曲やるの?」
「いえ、新曲です」
「なら、一回その曲を聴かせてもらってもいいかな」
新曲か。
本当はライブで聴きたかったけど、この際仕方がない。
喜多ちゃんがスマホをイジり、音源を流す。
...うん、良い曲だ。
今まで通りロック調だが、これまでよりも明るい感じがあるな。
あと相変わらずベースもよく動く。作曲は山田ちゃんだったよな、確か。ここまでするならもうベースソロ入れればいいのに。
「歌詞はもうあるの?」
「あ はい!」
言って、喜多ちゃんはまたスマホをイジり、文字が書かれた画面を見せてくる。
ふーん...明るい路線に行くのかと思ったけど、歌詞の内容は相変わらず後藤節か。それでもそこはかとなく明るくて、ちょっと前向きな印象があるな。
「曲名は『忘れてやらない』です」
前向きってより攻撃的か?
恨み言に似たスメルがする。やっぱり後藤節だな。好きだよホントに。世の中への恨み辛みを吐露する辺り、ちょっとメタルに通ずるところがあって。
いやまぁ、最近の音楽は元を辿ればクラシックかメタルに行き着くから、全ての曲はメタルだつっても過言じゃないんだけどな(過言だし過激派)
まぁちょっと危惧してしまうのは、これを喜多ちゃんが歌うってところか。
後藤ちゃんの感性は、喜多ちゃんには理解し難い部分が多いだろう。歌詞にどうやって感情を乗せるか。そこが難しいところだ。
良くも悪くも、歌にはボーカルの感情が乗る。ただ歌詞をなぞっているだけでは、聴き手には何も伝わらない。落胆も感動もなく、ただただ右から左に吹き抜けるだけ。
ギターを弾くことに集中すると余計に歌がおざなりになってしまうものだ。
感情を込める云々の前に、やっぱりまずはギターの練度を上げることからかもしれないな。歌に集中できる土台作りだ。
「じゃあ一回弾いてみよっか。とりあえず今の完成度を見てから、改善した方がいい所を言っていくよ。あ、歌はいいよ。とりあえずギターだけ」
「は はいっ!」
喜多ちゃんは努力家だ。
歌は元から自信があるみたいだし、ギターも短期間でメキメキ上達してきている。はっきり言って伸び代しかない。伸び代ですねェ!(本田)
今も新曲を弾いてもらっているが、とてもギター歴三ヶ月やそこらとは思えない。俺がそのレベルになるのに何ヶ月かかったと思ってやがる。
「──...っと。終わりです。えーっと...ど、どうですか...?」
演奏が終わり、不安げに、おずおずと聞いてくる。
「喜多ちゃん、また上達したね。前のライブの時より格段に上手くなってるよ」
「ホントですか!」
不安げな表情から一変、パァっと笑顔の花を咲かせる。
実際、本当に上手くなった。ギター歴三ヶ月の演奏としては上等すぎるほどだ。
だが、喜多ちゃんが求めているのはそこじゃない。
「何個か気になった点はあるよ。全体的に言うと、ミュートの部分かな。余計な音が鳴りすぎてる。それじゃあ音が汚く聴こえちゃう。鳴らさない弦はちゃんとミュートすべきだね」
「えっと...」
「例えば、Aのパワーコード。六弦の五フレットと、五、四弦の七フレットを押さえてるやつだね。これを鳴らしてる時、喜多ちゃんはたまに一弦や二弦の音も鳴っちゃってるんだよ。それだと汚くなっちゃうから、人差し指で六弦を押さえつつ、ほかの弦に軽く触れておいてミュートするんだ」
「な、なるほど...」
「曲の入り、Eの音を鳴らしてる時は、一、二、三弦を鳴らしてるよね。その時は逆に五弦や六弦が余計に鳴っちゃってるから、この時はストロークする時にピックや指が五、六弦に当たらないようにする。それか左手、ピックを持ってる方の手で弦に触れてミュートするって手もあるよ。まぁどっちもちょっと難しいけどね」
初心者から中級者にランクアップする条件というか、境目はいくつかある。そのうちの一つが、このミュートだろう。
余計な弦は鳴らさない。必要な音だけを、必要な強さで鳴らす。言うは易し、これが案外難しい。
逆に言うなら、喜多ちゃんはもうそのレベルにまで到達しているということだ。本当に喜多ちゃんの成長速度には驚かされる。
「難しいけど、出来るようになったら見違えるほど音が綺麗になる。まずは一個一個、ゆっくりやってみよう」
「はいっ!」
元気が良くてよろしい。
あとはブリッジミュートとかコードチェンジとかリズムとかストロークのやり方とか音作りとかその他諸々指摘点あるけど、頑張っていこうね!
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
時間は過ぎ、秀華高校文化祭一日目当日。
「いや〜、すごい盛り上がりですね〜。いいな〜、うちの高校とは全然違う」
彩られたアーチを潜り抜け、そこかしこから若々しい声が行き来する。
若いっていいね。俺にはもうあんなキャピキャピする元気ないよ。
「伊地知ちゃんたちの高校は進学校だったよね。あんまり文化祭とか盛り上がらない系?」
物珍しげに辺りを見回す伊地知ちゃんに問いかける。
今日は伊地知ちゃん、そして山田ちゃんと共にこの秀華高校文化祭に来ていた。
須田も誘っていたんだが、ゼミの教授に呼び出されたとかで今朝ドタキャンされた。あの野郎俺を一人にしやがって。今度飯奢らせてやる。
結束バンドのライブは二日目だというので今日来るつもりは無かったんだが、伊地知ちゃんに誘われてノコノコ着いてきてしまった。
「そうですね〜。良くも悪くもみんな真面目で...」
そうなんだ。
高校の文化祭とか体育祭なんてみんなでバカやってナンボみたいなとこあるのにな。
まぁ校風なら仕方ない。うちのお嬢みたいな革命児が現れたらまた別だが。
「ちなみに伊地知ちゃんたちの高校は文化祭いつ?」
「あたしたちのとこは先週でした。クラスでステンドグラス作って展示したんですけど...まぁ、当日はやることなくて暇でしたね」
「合唱コンクールもした。予選敗退」
合唱コンクールに予選とかあるのか。
「リョウ、あの時口パクだったでしょ」
「私が歌ったらあまりの美声に優勝しちゃうから。本戦に出ちゃったらその練習があるし、バンドの練習時間減るの嫌だった」
「キミの自信、ほんとにすごいな」
高校生の合唱コンクールでたった一人の歌声が完成度を左右することもないだろうに。
まぁ自信があることは良いことだけどな。慢心にだけは気を付けて、って感じ。
その後も学校での様子やサイケ(音楽ジャンル)の話、メタルの話なんかをしつつ校内を歩く。
目的地は後藤ちゃんの属するクラス。喜多ちゃんは特に出し物係はしていないということなので、とりあえずみんなで後藤ちゃんの勇姿を見に行くことにした。
「ブレイクダウンは心を綺麗にしてくれる素晴らしいムーヴだけど、やっぱりメロデスには邪道だと思うんだ」
「でもスカーシ○メトリーのブレイクダウンとか、良くないですか?」
「否定はしない。あれは良いモダン化の例だよね。メロデスの魅力はギターリフだけど、あの“落ち方”はとっても気持ちがいい」
「落ち方で言うと、Scars of Bre○thって知ってますか? アレも気持ちいいですよ」
「分っかるー! 初めて聴いた時笑っちゃったわ。てか山田ちゃんよくそんなバンド知ってるね? デビューめちゃくちゃ最近のバンドじゃん」
「えっへん」
「二人が何の話をしてるのか一切分からないし、なんで他校の文化祭に来てまでメタルの話をしてるのかも分からない...」
「あれ、虹夏知らないの? メタルはそのうち癌にも効く万能薬になるんだよ」
「いや意味分かんないし」
「山田ちゃんの言う通りだよ。メタルを聴けば世界が平和に。人類皆メタル」
「もう怖いんだけどこの人達!」
怖くないよ。
アーチ・エ○ミーとか聴きやすいし初心者にもオススメ。まずはその辺から少しずつ沼に入ろうね()
「そういえば、最近郁代もメタル聴き始めたって」
「えっ、喜多ちゃんが!? あの陽キャオブ陽キャの喜多ちゃんが!!?」
メタルは陰キャが聴くもの、みたいな言い方やめろ。事実だから余計傷付く。
「好きなバンドを教えてくださいって言われたからとりあえずメタル勧めといたんだけど、喜多ちゃん聴いてくれてるんだ。今度感想とか聞きたいな」
「あっ、あたしにも海さんオススメのバンド教えてください! 聴いてくるので!!」
なになにどしたどした。
さっきまでメタルのことディスってたろキミ(ディスってはいない)
「うーん...メタル初心者でも聴きやすいってなるとアーチ・エ○ミーとかア○ランスとか...あ、ベ○メタも聴きやすいよ」
「分かりました! 他には! 初心者とか気にせず、海さんが好きなバンドをぜひ!」
何この圧。ここ他校の校舎内だけど?(棚上げ)
幸い周りも騒がしいから特に注目されてるってわけじゃないけど、近くにいた何人かはこっちを見ている。あんまり目立ちたくないんだけどなぁ。
「そうだなぁ...今言ったのも好きだし、好きなバンドってんなら山ほどあるけど、うーん...メタルを聴く上で抑えておきたいのはブラ○ク・サバス、アイ○ン・メイデン、ドリ○ム・シアター、ス○イヤー、エクソ○ス、ジュ○ダス・プリースト辺りかなぁ。さっき話してたメロデスだと、チ○ボドとかAt The Ga○es、Dark Tr○nquillity、初期から中期辺りのIN FLA○ES、それとさっきも言ったア○チ・エネミー。あと俺がよく聴くのはシンフォニックメタルなんだけど、そっちだとNigh○wish、Powerw○lf、Twilight f○rce、ウィズ○ン・テンプテーション、Epi○a辺り。パワーメタル、スラッシュメタル、ブラックメタルもいいんだけど......あー、覚えきれないよね?」
「?????」
一気に言い過ぎたな。伊地知ちゃんがぽかんとしてる。
「ほんとに興味があるんだったらあとでプレイリスト作って送るけど。伊地知ちゃんサブスクやってるよね?」
「やってます! ぜひお願いします! 全部聴きます!」
ほんとにどうしたのキミ。
伊地知ちゃんの豹変っぷりにたじろいでいると、ふとどこからか視線を感じた。今まで何度か感じたことのある、怒気や殺気といった負の感情が見え隠れするタイプの視線だ。
まぁそんな視線は慣れっこ(現役人気アイドルとも交流がある人)だし、無視だ無視。今のところ俺は悪いこととかしてないし、気にしたところでキリがない。
それはそうと、そろそろ後藤ちゃんのクラスに着く頃じゃないだろうか。
後藤ちゃんのクラスはメイド喫茶と執事喫茶をやるらしい。一日目の今日がメイド喫茶で、二日目の明日が執事喫茶なんだそうだ。
俺も高二の時に文化祭でメイド&執事喫茶やったなぁ。一日目が執事で、二日目はなぜかメイドになった。今考えても俺がメイドをやった意味が分からん。地味に高評価だったし、なんだったんだアレは。
「ぼっちちゃんのクラスのメイド喫茶、楽しみだったんだよね〜。やっほー! ぼっちちゃん、いる〜?」
「ぼっちもてなせ」
名指しで入ってくる客とか嫌だな。
メイド服は嫌いじゃないが、高校生のメイド服を楽しみにしてくるほど歳下好きじゃない。ほんとだよ。後藤ちゃんの核弾頭がメイド服程度で隠れるわけがないよなとか思ってなんてない。ほんとだもん。
「あ 皆さん...」
でももし公序良俗に反するような格好だったら俺は大人としてどうしたら良いのか。注意するべきか? いやいや他人でしかない俺が何を注意するのか。ねっとりムッツリさん判定食らうわ。
そんな事を考えてちょっとドキドキしていたのだが、俺たちを出迎えたのはメイド後藤ちゃんではなく、制服喜多ちゃんだった。
「あれ、喜多ちゃん? ぼっちちゃんとは別のクラスって言ってたよね? あ、もしかして喜多ちゃんもメイド服のぼっちちゃん見に来たの?」
「どこ、メイド服ぼっちちゃん」
「それが......」
なんだ? 何かトラブルか?
後藤ちゃんがメイド服っつー羞恥に耐え切れず校内逃げ回ってるとか? はは、さすがにそれはないか。メイド服着て校内逃げ回る方が恥ずかしいわ。...いや、メイド服を着る前に逃げ出した説はあるな。
「えぇー!? ぼっちちゃんがメイド服を着たままどこかに消えた!?」
マジでか。
to be continued...