ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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止めてくれ喜多、そのあざとさはオレに効く

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼっちちゃん、トイレに行くって言って消えたんだよね? とりあえず女子トイレを虱潰しに探してみる?」

 

「え、全部?」

 

 失踪したという後藤ちゃんを探すことにした俺たち。

 探すとは言ってもこの高校はそこそこ広いし、人も多い。一筋縄ではいかないだろう。女子トイレ捜索ってんなら俺は戦力外だしな。

 

「いえ、後藤さんはそんな人が多く出入りする場所にはいませんよ」

 

 確信を持って喜多ちゃんが言う。

 

「ほう」

 

 ほうて。

 

「じゃあどこを探せば? 教えて、喜多博士!」

 

 喜多博士て。

 

「では、解説していこうと思うわ」

 

 何だこれ。

 

「まず、人がいなくて。ジメジメ〜っとしていて。そしてナメクジがいそうなところを探すんです。こういう石の裏とか」

 

 辛辣すぎるだろ。後藤ちゃん泣くぞ。

 

「とりあえずゴミ箱から探してみましょう!」

 

 おい待て、これ本当に人探しか?

 ......いや、そういやSTARRYでもしょっちゅうゴミ箱に引きこもってるなあの子。案外的確な捜索場所なのかもしれない。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「いませんねー、後藤さん」

 

 学校中のゴミ箱やタンクの中を探したが、後藤ちゃん発見には至らない。

 さっきは思わず納得しちゃったけど、やっぱり普通の場所探すべきじゃない? 人気の少ないトイレとかもあるでしょきっと。

 

「ほかにナメクジがいそうな場所っていうと...」

 

 その基準をまず変えてあげなよ。それ、後藤ちゃんが聞いたら本気で泣くぞ。

 

「...あ、西校舎と北校舎の連絡路! あそこなら一日中陽が当たりませんし、人も滅多に通りません! それにちょうど良い湿度かと!」

 

 ちょうど良い湿度かと! じゃないんだわ。

 キミら本当に仲良し? 実は嫌いとかじゃないよね?

 

「...ま、とりあえず行ってみよっか」

 

 そこがダメならもう手分けして普通に探すぞ。

 

 とはいえ居場所の検討はつかないんだけどな。

 俺の経験上、こういう時に逃げ込むのは屋上だったりするんだけど、この学校の屋上は立ち入り禁止で鍵もしっかりかかっているどころか、屋上に続く階段すら封鎖されているらしい。

 だったら空き教室とか、それこそ人気のないトイレとかにいそうなもんだけどな。

 

 

 現在地から例の「ちょうど良い湿度の連絡路」は近かったらしく、二分も歩けば到着した。

 まあゴミ箱やタンクの中よりはいる確率は高いだろうけど、さすがにこんなナメクジや苔くらいしかいないような場所になんて────

 

「あ、ぼっちちゃんいた」

 

 マジでか。

 

「ハッぅあ゙ぁっ〜...!?」

 

 なんて?

 

「ほんとにナメクジがいそうな所にいた」

 

 いそう、ってより実際にいるな。ほら、そこの柱のとこ。

 疑ってごめん、喜多博士。あんたは正しかったよ。

 

「も〜ぼっちちゃん、クラスの子が心配してたよ? 早く戻ろっ」

 

 この子、マジでメイド服のまま校内逃げ回ってたのか。やっぱいろいろズレてんだよな。

 それにしてもしっかりメイド服だな。けど胸部の露出高くない? 大丈夫かよ文化祭でそこまでして。

 ......うーん、非核三原則(精神統一)

 

「ていうかぼっちちゃんメイド服似合ってるね〜」

 

「あっ う...」

 

「やっぱり後藤さんはこういう甘い服が似合いますよね!」

 

「ね〜〜.........」

 

 ...?

 どうした突然黙りこくって。

 

「...ふむ、ビジュアル売りもありか...? ぼっちならいける。ダイヤの原石。MVは水着で撮ろう」

 

 何言ってんだこの子。

 

「それかガムテープ巻いて海の上で演奏させよう」

 

「えっ、えっ?」

 

 何川貴教だ。

 なまじ再生数が伸びそうなのが嫌だな。結束バンドにはそういう方面で売り出してほしくない。

 

「バカなこと言ってないで早く戻るよ。シフトに穴あけるとか、普通に迷惑だから」

 

「うっ」

 

 俺が管理側だったらブチ切れる。一人来ないだけでどれだけ現場が迷惑すると思ってんだ。

 

「バカとは失礼な。時代に合った売り出し方なのに...広告収入ガッポガポ」

 

「そんなことしなくてもキミらの実力ならいずれたくさんの人の目に留まるよ。変な道に走ろうとせずに地道に努力しな」

 

 まだまだ未熟なところは多いけど、ポテンシャルは高い。ちゃんと活動を続けていけば、運が良けりゃ在学中にメジャーデビューなんてのもありえなくはないだろう。

 というか、音楽の実力以外で注目を集めたところで、その先は知れている。良くて三年くらい注目されてその後はうだつの上がらない鳴かず飛ばずのビジネスバンド、下手すりゃ解散だ。

 急がば回れ。地道でもコツコツ、しっかり努力していこうね。

 

「「「「...えへへ、そうですかねぇ...!」」」」

 

 変なとこで結束力見せてくんな。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「あ、クレープだって〜。美味しそ〜! ねね、ちょっと寄ってってもいーい?」

 

「え? まぁ、少しだけなら...」

 

 後藤ちゃんを教室まで連行している途中、漂う香ばしい匂いに釣られたのか、伊地知ちゃんが別のクラスの出し物に興味を示す。

 

「海さんもいいですか?」

 

 後藤ちゃんの穴を埋めるため頑張っている後藤ちゃんのクラスメイトを思えば寄り道なんかせずに真っ直ぐ向かうべきだが、まぁ喜多ちゃんの言う通り、少しくらいなら良いだろう。

 

「いいよ。ちょっとだけね」

 

「やったー!」

 

 せっかくの文化祭だしな。

 後藤ちゃん捜索でいくらか時間を無駄にもしたし、遊ぶことも大事だ。

 

「えー、どれにしよっかなー。チョコバナナ? うーん、しょっぱい系もいいな〜」

 

「どっちも買って、一口ちょうだい」

 

「もちろんです!」

 

「喜多ちゃん、あんまリョウを甘やかさないでよね。すーぐ調子乗るんだから。一個奢ったらまた別の奢らされるよ」

 

「大丈夫です!」

 

 何も大丈夫じゃないが。やっぱこの子怖いな。将来『推しへの愛の形です!』とか言ってホストに貢いでそう。やだなぁ、ホスト狂いになっちゃった世界線の喜多ちゃん。今のうちに目の届く範囲では矯正しとくか。

 

「喜多ちゃん。前に江ノ島で遊んだ時も言ったけど───」

 

 

「喜多さんと江ノ島で遊んだ...?」

「じゃあやっぱりあの男...」

「ああ、間違いない。例の男だ...」

 

 

 ...なんだ? 何か悪寒が...

 

「? なんですか?」

 

「...あ、いや。そう、あんまり人にバカスカ奢るのは良くないからね。例え推しが相手だったとしても、そこんとこはちゃんと節度を持たなきゃ」

 

「で、でもっ、リョウ先輩がモノを美味しそうに食べてるのってすっごくかわいいんですよ...?」

 

 これはもう手遅れかもしれんね。

 感想が動物とか赤ん坊に対するソレなんよ。

 

「...まぁ買ってあげるのはいいけど、ちゃんと返してもらいなね」

 

「大丈夫、必ず返す」

 

「キミの言葉はもう信用しないよ、このベーシスト」

 

「!?」

 

 当たり前なんだよなぁ(←まだエスカー代を返してもらってない人)

 

「ま、いいや。バンドメンバーに借りるくらいなら俺が出す。せっかくの文化祭だし、今日は奢りでいいよ。あ、みんなもね」

 

「じゃあレアチーズ大福と黒蜜きなことソーセージツナコーンください!」

 

「一つだけ奢るから後は借金ね」

 

「!?」

 

 図々しすぎるだろ。いや、逞しいって言った方がいいのかな。

 

「え〜...じゃああたしもお言葉に甘えちゃおーっと! チョコバナナ一つくださーい!」

 

「あ、それじゃあ私はラズベリーパイで! 後藤さんは?」

 

「あ じゃ、じゃあブルーベリー...」

 

「あいあい。あ、ハムチーズポテトも追加で」

 

「はーい! それではお会計、六千三百円になりまーす!」

 

 おい待て、高くない?

 いやいいけどさ。さすが文化祭というべきか。関税エッグいわ、夢の国並じゃん。その売上どこに行くんだろう...

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 クレープを食べたあと、先々で寄り道を繰り返した。

 

「うぅ...もう無理、食べられない...」

 

「も〜、クレープ三つも食べた上に欲張ってたこ焼きとかりんご飴とかも食べるから」

 

 腹を抱える山田ちゃんの背中を、伊地知ちゃんが軽く擦る。

 山田ちゃんは自業自得だとして、伊地知ちゃんのその介護なに? 吐かせたいの?

 

「それよりほら! お化け屋敷だって! あたし、ちょっと気になってたんだよね〜」

 

 やっぱり吐かせたいの?

 満腹の状態でお化け屋敷に入って絶叫でもあげてみろ。井の中のお菊さんじゃなくて胃の中の残留物が込み上げてくるわ。...俺今ちょっと上手いこと言わなかった?

 

「今絶叫あげたらお菊さんじゃなくて吐瀉物出てくるんじゃね」

 

「お菊さん? って何ですか?」

 

「ほら、アレですよアレ! 『いちまぁい...にまぁい......一枚足りなぁい!』ってやつです」

 

「あ〜〜。いたねぇそんなおばけ。あれ貞子じゃないんだ」

 

 マジで言ってんのかこの子。

 最近はメジャーじゃないのかなぁ、お菊さん。貞子が映画で有名になりすぎたから『女性のおばけ=貞子』って図が出来てるのかな。日本が誇る怪談界の大御所アイドルなのに、お菊さん可哀想。

 

「それよりみんなどう? お化け屋敷、入ってみない?」

 

 それよりって。

 俺の激ウマギャグ(?)が流されたんだが。泣いちゃうぞ。

 

「いや、そろそろ後藤ちゃん送り届けないと───」

 

「いいですね! 私もちょっと気になってたんですよ〜!」

 

「えっ」

 

 入んの? マジで? ホンマに?

 

「教室一個分の長さしかないですし、時間は大丈夫ですよ! 多分!」

 

 伊地知ちゃんが目ぇキラキラさせてやがる。キミ、もしかしてホラー好きか。

 う〜〜ん......

 

「...あ、じゃあ俺、後藤ちゃん送ってくるから。お化け屋敷はキミたちだけで───」

 

「後藤さんも行くわよね!」

 

「え ......あ、はい」

 

 おいこら後藤。

 顔に書いてあんぞ。『このまま寄り道していけばメイド喫茶に戻る時間がどんどん遅れていいかも〜』って。

 

「海さんも行きましょうよ!」

 

「いや、俺はパス」

 

「えっ」

 

 そんな楽しみにとっておいたショートケーキのイチゴを他人に取られたみたいな顔しなくても。

 

「つーか後藤ちゃんもパスだからね。さっさと教室戻るよ」

 

「えっ」

 

 そんな今まで信頼してた親に崖から突き落とされた子ライオンみたいな顔しなくても。

 

「せっかくの文化祭だから楽しみたいのは分かるし遊ばせてやりたいけど、後藤ちゃん、仕事あるから」

 

 さすがに一人抜けた程度で回らなくなるほど繁盛はしていないだろうが、それでも欠員を埋めるために誰かが被害を被っているわけで。

 たかが文化祭とはいえ、大人の、さらにはシフト管理(バイト)までしている俺がそれを見逃すわけにはいかない。

 

「三人は遊んでから来なね。キミらは遊ぶ権利があるから。ほら後藤ちゃん、行くよ」

 

「あっ あっ あぁっ...!」

 

「そんな売りに出される子牛みたいな顔しないの。仕事終わったら遊んでいいし、ご褒美に何か奢ってやるから」

 

 暴れはしないまでも動こうともしない後藤ちゃんを引きずり、俺はメイド喫茶に向けて歩き出す。おい、ドナ〇ナを歌い出すな。

 後ろではちょっと困惑した様子の伊地知ちゃんや喜多ちゃんの様子が見えたが、仕事放棄はいただけない。後藤ちゃんは連れて行くぞ。

 決して、決してお化け屋敷が怖いから理由付けて離れようとしてるとか、そんなんじゃないからね。ほんとだよ。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 無事後藤ちゃんを教室まで送り届け、せっかくなのでメイド喫茶で昼食を摂ることにした。

 

「みんなは遊んでて良かったのに」

 

 メニューを開きながら、俺と同じテーブルに座る三人に目を向ける。

 

「いえ、二人を置いて遊ぶわけにもいかないので」

 

 伊地知ちゃんは真面目だな。

 なんかごめんね。あとでなら付き合うから。

 

「そうですよ! 海さんがいないのに遊ぶってなんかつまらないですし」

 

 喜多ちゃんは...喜多ちゃんは何?

 別に俺は必要ないだろ。なんなら今日俺必要ないからな。

 

「お金がないから海さんいないと何もできない。郁代に借りたのがバレたら怒られるし」

 

 おい山田。

 そこまでやる義理もないんだろうけど、やっぱり山田ちゃんも矯正していかなきゃいけないかな。こう、身近な大人としての責任感みたいなものが生まれつつある。

 

「一年二組、メイド喫茶へようこそ〜!」

「おかえりなさいませご主人様!」

 

 ふと、元気な声が聞こえてくる。

 恥ずかしさを感じさせない、フレッシュな声だ。

 

「後藤さんのクラス、気合い入ってますね〜」

 

「ね〜。みんなかわい〜」

 

 喜多ちゃんや伊地知ちゃんの言う通り、高校の文化祭にしては随分ちゃんとした催しだ。

 メイド服もドンキなんかに売ってる薄っぺらい生地のやつじゃなく、そこそこしっかりしたものを使っている。アレ高いだろうな。

 

「後藤さんも堂々と立って接客頑張ってますね」

 

「うちでのバイトの経験が活きたのかな?」

 

 教室の前で看板を持っている後藤ちゃんに目を向ける。

 へー。心底嫌がってたからどうなることかと思ってたけど、案外ちゃんとしてるじゃん。

 

 にしてもあまりにも直立不動すぎる気がするけど...

 

「いや違う! 立ったまま気絶してるだけだ!」

 

 クソワロタ。

 やることなすことギャグすぎるだろ。ある意味ハードロックだな、あの子の生き様。

 

「...? あ、まずい。世紀末的風貌の輩が...!」

 

 世紀末的風貌の輩???

 伊地知ちゃんの視線を追ってみると、高いモヒカンを携え、トゲ肩パットの付いた袖なしの革ジャンを身にまとい、サングラスのワンポイントまで取り揃えた『世紀末的風貌の輩』の姿が二体ほど目に入る。

 なんだあれ、どっかのクラスの出し物か? 演劇部とかかな。いや、にしては歳食ってるか。

 

「おぅおぅお嬢ちゃん、看板持ちしてるくらいなら俺らと遊ばなーい?」

 

「退屈はさせないぜぇ〜?」

 

 なんだあいつら()

 某H.Gにでも影響を受けた芸人候補生かとも思ったが、セリフが痛々しいほどのナンパ野郎だ。ここまでコテコテだと恐怖も笑いも超えて無の境地に至っちまうな。

 

「たっ 助けに行かないと...!」

 

 言いつつ俺を見るな。

 いやまぁ助けはするけどさ。嫌だなぁ、あんなのに関わるの。ああいうのは遠巻きに見てるから面白いのであって、関わると面倒なんだ。つーか警備員は何やってんだよ。

 けどまぁ助けないわけにもいかないか。

 仕方ない、と席を立ったところで、世紀末的風貌の輩共の震えた声が教室にまで響いてくる。

 

「なっ、なんだこいつ! 俺たちのガン飛ばしにビクともしねぇ!?」

 

「それどころか変顔をする余裕まで!? や、やべぇ、ただモンじゃねぇぞ!!」

 

 は?

 

「「す、すいませんでした〜!!」」

 

 そうはならんやろ(なっとるやろがい!)

 

「ぼっちちゃんめちゃくちゃ役に立ってる!?」

 

「後藤さんすごいですねっ!」

 

 すごいかなぁ?

 まぁどっちにしろ俺の出番は無くなったので、大人しく席に着く。

 オムライス食べようかな。メイド喫茶って言ったらオムライスだろ。まだちゃんとメニュー見てないけど、オムライスあるかな?

 

「すみませーん! 注文お願いしまーす!」

 

 え、待ってよ。俺まだ決めてないんだけど。

 

「ぼっちちゃん指名で!」

 

「んはっ!?」

 

 あ、なるほど。後藤ちゃんに接客してもらいたいだけか。

 じゃあもうちょいゆっくりメニュー見よ。

 えーっと......あれ? おい、オムライスしかないんだが? このメニュー狂ってるよ。オムライス食べたかったからいいんだけどさ。

 

「えーっとねぇ...このふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス、ってなに?」

 

 お、いいじゃん。メイド喫茶っぽいネーミングだな。

 

「あ ただのオムライスですね」

 

 これもあるあるだな。前に秋葉原のメイド喫茶に行った時も妙に彩られた料理名の普通のオムライスが出てきたし。

 

「じゃあこの、ユニコーンのゆめかわキラ☆キラオムライスは?」

 

「それもただのオムライスですね」

 

 ......ん?

 

「え。じゃ、じゃあこっちの、もうむりまぢむり...ヤミ↑かわオムライスは?」

 

「オムライスですね...」

 

 いい加減にしろ真面目にやれ!!!

 

「あ 衣装揃えるだけで予算ほぼ使い切ったみたいで...」

 

 やけに良い生地使ってるなと思ったらそういうことかよ。お客舐めてんのか。...いや、客はメイドを見に来てるだけで飯は二の次か。だったら的確な資金の使い道なのかな?

 

「じゃあ俺、ふわぴゅあとろける魔法のオムライスで」

 

「あ、私もそれで!」

「それじゃああたしも〜」

「何頼んでも一緒ならどれでもいい」

 

「あ はい。承知しました」

 

 浅いお辞儀をしたあと、普段の後藤ちゃんからは想像もできない敏捷さを見せて裏に戻って行った。

 あんなことをしてもどうせまたすぐにホールに出てこなきゃいけないと思うんだけど、分かってんのかな。

 

「後藤さん、成長しましたね〜」

 

「だね〜。ちゃんと人型保って接客できるようになったもんね」

 

 まさか『人型を保ったまま接客できてて偉い』とかいう褒め言葉が存在するとは思わなんだ。

 マジで後藤ちゃんってなんなの? 妖怪の類?

 

「そういえば海さん!」

 

「あ はい。なんですか」

 

 人間を超越してしまった存在の後藤ちゃんに小さくない恐怖心が芽生え始めたところで、隣から喜多ちゃんの元気な声が殴ってくる。

 

「海さんの大学の文化祭っていつ頃なんでしょうか! 早めに聞いておかないと予定埋まっちゃうかもしれないので!」

 

「え、喜多ちゃん、海さんの大学の文化祭行くの!? え〜いいなぁ〜、あたしも行っていいですか?」

 

「いや、まぁ別にいいけど」

 

「やったー!!」

 

 なんで俺に許可を求めてくるんだ?

 大学の学祭なんて誰でも入れるよ。クラゲ先輩や風紀委員さんが通ってる慶鵬の学祭とか去年も一昨年も行ったもん。勝手に入ったけど何も言われなかった。

 

「海さんは何か出し物とかするんですか?」

 

「ゼミで焼きそば売るとか言ってたな。まぁ俺は戦力外だから、テキトーにブラついて宣伝やらされるだろうけど」

 

「戦力外?」

 

「俺、料理はからきしだから。頼むからお前は作ってくれるなって推しの先輩に止められた」

 

「へー。なんか意外な弱点ですね。海さん、何でもそつ無くこなしそうなのに」

 

 そう見せてるだけで、実際弱点だらけの人間だよ、俺は。

 昔よりはマシになったけど、料理もまだまだ他人様に食べさせられる出来じゃない。一人暮らしとかになったら外食ばっかりになりそうだなぁ。あーあ、誰か飯作ってくれないかな。時給出すから。

 

「そういや喜多ちゃんはここにいて大丈夫なの? 自分のクラスとか」

 

「大丈夫です! 暇なので!」

 

「え、喜多ちゃんのクラスは出し物とかは──」

 

「大丈夫です! 暇なので!」

 

 なんか怖いな。これ以上突っ込むのは止めておこう。

 今までろくに役に立ってこなかった俺の危機察知能力がビンビンに警告してくるのでとりあえず話題を変えようと模索する。

 うーん...音楽の話くらいしか思い付かないな...

 

「あ、そういや喜多ちゃん、この前薦めたメタル聴いてくれたんだって?」

 

「はいっ! あーちえ〇みー? っていうのと、べびーめ〇るを聴きました!」

 

「いいねぇ」

 

 いいねぇ!

 

「なんかボワボワピロピロ鳴ってて楽しかったです!」

 

 ぼわぼわぴろぴろ。

 まぁそうか。今までロックにすらあんまり触れてこなかったっていう喜多ちゃんが突然「あそこのリフが気持ちよくて震えました。慟哭です」とか言い出したら怖いしな。最初はそんな感想(もん)だ。

 

「もっと聴こうと思います! この前教えていただいたバンド以外でオススメってありますか?」

 

「たくさんあるけど多いから、プレイリスト作って送るよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 伊地知ちゃんに送るやつと同じでいいだろ。

 うんうん、良きかな良きかな。新しいメタラーの誕生に巡り会えるかもしれない。

 

「音楽って本当にいろいろな種類があるんですね。まだジャンルとかは分からないですけど、もっと詳しくなりたいです!」

 

 お、いいね。

 やっぱバンドマンたる者、色んな音楽に触れて置くべきだよ。

 

「...正直、色んな音楽を聴きたいなら、前にも薦めたけどCapliberte軽音部を聴くのがオススメ。メタル以外にも色んなジャンルやってるし」

 

 山田ちゃんが口を挟む。

 まぁ、そうっちゃそうか。

 ハードロックやメタルに傾倒はしてるが、俺らはジャンルに囚われず幅広くやってるからな。

 けどやっぱり色んなバンド、色んな音楽を聴くのは教育に良いから、一つのバンドに拘らず色々聴いた方が良いとは思うけど。

 

「確かに! オーチューブに上がってる映像は全部観させていただいたんですけど、ポップな感じの曲もありましたもんね」

 

 全部観たの?

 そこそこ数あったと思うんだけど。軽音部(コピバン)系だけでも百くらいはあるんじゃない?

 

「海さん個人のチャンネルの動画も観させていただきました! アイドルや女性のお友達とコラボされてるのとか」

 

「あ、それあたしも観ました。海さん、あたしたちとは写真撮るのさえ避けがちなのに、あの人たちとは普通に動画まで撮ってるんですね?」

 

 おいおいおい、突然冷気を放ってくるなよ。おじさん寒いの苦手なんだわ。

 

「アレは同世代との絡みだからセーフでしょ。いやアイドルはアウトかも知れないけど、成人男性が未成年(JK)と絡むよりはマシだって。世間体的なアレが」

 

 当時は俺も高校生だったし何ともなかった...ことは無かったな。普通に殺害予告とか来たわ。知り合いの権力者に解決してもらったけど、アレは怖かった。

 それに別の意味で怖かったこともある。あの人ら距離感バグってるからマジで理性保つのも大変だった、ってことだ。まぁそのお陰で今があるんだが、それは置いといて。

 とにかく、高校生同士だったから法律的な意味では何も問題は無かったんだ。

 

 けど今は違う。

 俺は成人してしまい、未成年との一定以上の関係性を築くことは法で裁かれる可能性も出てきた年頃だ。

 付き合うだの男女の仲だのが無いにせよ、臭いを発しないよう気をつけるに越したことはない。

 それに何が怖いって、この世には“冤罪”とかいう概念が存在することなんだよな。俺がやってようがやっていまいが、周りが「あいつやってますよ」と言えば逃げられなくなる可能性があるのだ。怖いったらありゃしない。

 だったらそもそも煙が立たないように出来るだけ心掛けようっていう俺の考えは自然なはずだ。

 

 まぁ最近は結束バンドと結構関わり持っちゃってるし、若干手遅れ感もあるけどな。

 

「むぅ〜、そんな気にしなくても良いと思うんですけどね〜。先輩方もそう思いません?」

 

「そうだよね〜。あんまり気にしすぎても良くないと思います!」

 

「どっちでもいい。写真なんか撮ろうが撮らまいが別に変わらん」

 

 それはキミらが殺害予告を受けたことがないから言えるんだよ。いやまぁただの高校生と遊んだりした程度じゃ殺害予告とかはこないだろうけど。

 

「面倒な憶測が飛び交って被害を被るのは俺だけじゃないんだよ。結束バンドだって何を言われるか知れたもんじゃない」

 

 ある事ない事SNSにでも書き込まれてみろ。

 ただでさえバンドマンは異性関係がだらしないっていう風評被害があるんだ。結束バンドが今後売れようとする中で障害になる可能性だって0じゃない。

 

「え、あたしたちのために......?」

 

「私たちを気遣ってくださってたんですか!? ありがとうございます!」

 

 良いってことよ。

 だから今後もSNSに俺の写真上げるのとか控えてね。誘われれば遊ぶし頼まれれば練習も教えてあげるから。

 

「でもでも、だったら余計に遊んでることとか公表した方が良くないですか?」

 

「...え、なんで?」

 

 喜多ちゃんの言葉に疑問で返す。

 なんで? 理由が分かんない。

 

「私たちが遊んでることなんて、すぐ誰かにバレますよ。海さん有名人ですし」

 

 まぁ界隈である程度有名なのは否定しないけど。

 

「大SNS時代をナメちゃダメです。今のご時世、プライバシーなんて皆無。街を歩いてるだけで写真を撮られてアップされちゃうんですから。海さんのことを知ってる人がもし私たちと海さんが遊んでるところを撮って、それをネットにバラ撒いたら、私たちは『遊んでいることを隠している』って言われちゃいますよ」

 

「あー......」

 

 確かに。その考えはなかったな。

 バレる前提の話だが、確かに隠している方がダメージはデカそうだ。芸能人の交際だって自分から公表するより週刊誌とかでスッパ抜かれた方が反感を抱く人間は多いものだ。

 

 勝手に写真を撮られて云々の経験も過去には複数ある。ほんと、俺らはフリー素材とちゃうねんぞってレベルで俺の知らない俺の写真がネットには転がってるんだよな。

 

「......確かになぁ。喜多ちゃんの言う通りかもしれないね」

 

「ですよね! それじゃあ今後海さんとの写真もSNS解禁ということで!」

 

「必要最低限ね。無闇矢鱈とアップするのは厳禁で」

 

「分かりました!」

 

 ホンマか?

 

「あ おっ、おまたせしました、あの、ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス、です」

 

 笑顔の裏に何か隠していそうな喜多ちゃんを訝しんでいると、後藤ちゃんがオムライスを配膳しに来てくれた。

 両手に一個ずつ、一度で運べる量は二皿までらしい。二皿置いたあと、もう一度戻ってから残りの二皿を持ってくる。

 転げそうで怖いなぁ、と思っていたがそんな心配は杞憂に終わり、綺麗な状態のオムライス達が俺たちのテーブルに並んだ。

 

「あ じゃ、じゃあこれで......」

 

「待ってよぼっちちゃん! これ! この『美味しくなる呪文』ってやつお願いしまーす!」

 

「え、あ いやそれは...」

 

「お客様は神様」

「メイドさん、お願いしますよ〜」

 

 害悪客ムーヴやめろ。

 でも後藤ちゃんのする『美味しくなる呪文』に興味があるから黙っとこ。

 三人してニヨニヨと眺めていると、心底嫌そうに後藤ちゃんが手でハートを作る。

 

「あ えと...ふっ、ふわふわぴゅあぴゅあ、みらくるきゅん...お オムライスさん、美味しくなれぇ.........へっ」

 

 最後の何? トドメ?

 

 何かしらのパワーがオムライスに注がれたので、とりあえず一口食べてみる。

 

「いただきまーす......うーん...」

 

「...ぱさついてる」

 

「あ 冷凍食品なので...」

 

 うっそ、最近の冷食はもっと美味しいよ。昨日食べたもん(オムライス好き)

 まぁ文句を言っても始まらないし、せっかく後藤ちゃんが呪文をかけてくれたのだからと、二口目にいこうとしたその時。

 

「ちょっと後藤さん! もっと愛情込めて唱えないとダメよ!」

 

 喜多監督の指導が入る。

 キミはどの立場? 何、メイド喫茶の美味しくなる呪文に一家言でもあるの?

 

「見ててね、こんな感じで!」

 

 実演に入るのか。

 マジでどの立場からの物言いなんだろうと眺めていると、喜多ちゃんがモーションに入り、指ハートなるものを作る。

 するとどうだ、何故か周りが虹色謎空間に包まれ、世界がより一層の輝きを見せつけてくる。

 なんだこれ、プリ〇ュアの変身シーンか?

 

「ふわふわ〜、ぴゅあぴゅあ〜♡ みらくるぅ...きゅんっ☆ オムライスさん、美味しくなぁ〜れっ♡ キターン!」

 

 最後の何。やっぱりトドメさしにきてんの?

 

 今確実に手ハートから何かが発射されたな。錯覚か?

 流れるように愛と幸せをばら撒き凝縮させる完璧な動き、圧倒的な表現力、強い気持ち。喜多ちゃん、もしかして『美味しくなる呪文』伝道師の方だったりする?

 心做しなオムライスに艶が出てきたように感じるな。とりあえず一口食べてみるか。

 

「そんじゃ改めて、いただきまーす......ん!? こっ、これは!?」

 

「ケチャップの程よい酸味とソースの甘さが溶け合い温かな家庭を感じさせる味に変わった!?」

 

「美味い! シェフを呼べ!」

 

 やばいめちゃくちゃ美味い。もしかしなくても喜多ちゃんってば魔法使いだな?

 そう思い、喜多ちゃんに視線を向ける。

 

「えへへ〜、ぶい」

 

 なんだただの天使か(許容量突破)

 

「ねぇ喜多ちゃん、もし良かったらうちらのクラス手伝ってくれないかな?」

 

 魔法使い喜多マックスハートエンジェルのいっそ暴力的なまでの火力を目の当たりにした後藤ちゃんのクラスメイトが言い寄っている。

 

「暇だしいいわよ〜」

 

 暇だしってなんなんだよホントに。キミ陽キャだし、クラスの出し物が無かったとしても友達と予定とかあるんじゃないの?

 

 ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス(旨味バフ積み)をその小さい口にかき込み、あれよあれよという間に裏へ行ってしまう喜多ちゃん。

 そんな喜多ちゃんを横目で眺めつつ、俺はゆっくり味わってオムライスを食べる。うーん、まろやか。

 

「むむむ、悔しい。あたしが作ったオムライスより美味しいなこれ...」

 

 伊地知ちゃん料理するんだ。

 そういやお母さんがいなくて、お父さんもあんまり家にいないとか言ってたな。伊地知家の料理担当は星歌さんじゃなくて伊地知ちゃんなのか。

 

「料理できる人ってマジですごいよね。尊敬する。俺、上手く作れるのスクランブルエッグとカレーくらいだもん」

 

 スクランブルエッグはたまに卵の殻が入ってたりするけど、カレーは何をしてもだいたい美味しくなるからな。一人暮らし始めたら外食か冷食かカレーしか食べない生活になりそう。

 

「そんなに難しくないですよ。今はネットにレシピ落ちてるし。...な、なんなら今度、料理教えましょうか...? その、あたしの家で」

 

 できる奴はみんなそう言うんだ。

 そんなの、俺が音楽初心者に「ギターなんてそんなに難しくない、誰でも弾けるよ」って言ってるのと同じだからな。

 

「うーん...遠慮しとこっかな。前に人に教えて貰ったことあるんだけど、ヤベェもん作りすぎてその人気絶させちゃったし」

 

「そんなに!?」

 

 そのレベルなんだよ。もう料理とか諦めたわ。

 最近は冷食の味も上がってきてるし、料理が出来なくても死にゃしないって。多分。

 

「え、海さんって今一人暮らしでしたっけ...?」

 

「いや? 実家だよ。さすがに社会人になったら一人暮らししようと思ってるけど」

 

 さすがに社会人になったら実家に残り続けるわけにもいかないだろう。あの姉ちゃんでさえ社会人になったら出ていったのだから、俺が残っては笑われてしまう。

 

「あの、一人暮らし始めて料理で困ったら連絡してくださいね...? あたし全然作りに行くので」

 

「ほんと? じゃあ私も頼もうかな」

 

「リョウは実家で良いもの食べてるでしょ」

 

 山田ちゃん()は開業医なんだっけ? じゃあ山田ちゃんも医者になるのかな。......いや無理だな。テキトー過ぎてヤブ医者呼ばわりされる未来が見える。

 

「はは。ま、ありがとね。本当に困ったら連絡させてもらうよ」

 

「はいっ! ぜひ遠慮なく! なんなら困ってなくても呼んでいただいて!」

 

 それはなんでだ?

 

 にしても、俺が社会人になる頃には伊地知ちゃんや山田ちゃんは高校卒業か。進学校って言ってたし、多分大学に進学するんだろう。

 そうなると、未成年とはいえ立派な女性。子供扱い出来なくなる。彼女らの扱いを変える必要も出てくるんだろうか?

 さすがに今のまま(・ ・ ・ ・)ってわけにもいかないだろうしなぁ。

 

 ...ま、そんなのはその時になって考えればいいか。

 それに二年後なんて、みんな気持ちが変わっていてもおかしくない。

 二年後にはみんな、俺のことなんてスッパリ忘れてバンド活動に打ち込んでるかもしれないしな。

 

 未来の判断は未来の俺に任せよう。

 そつ結論付け、オムライスをちょうど食べ終えた時だった。

 

 

「じゃーん! メイド喜多、ただ今参上しました! えへへ〜、どうですか?」

 

 裏へと消えていった喜多ちゃんが舞い戻ってきた。

 登場と同時に一度ターンしてヒラヒラのメイド服を強調した後、左脚の膝を曲げて内股気味に脚を上げ、右手を軽い敬礼のように頭に当て、さらにウインクまでして見せる超高等技術。本当に一般高校生か? あざと過ぎるだろ、実は地下アイドルやってましたとかあってもおかしくないレベル。

 

「おー! 喜多ちゃん似合ってるぅ! 完全に着こなしてるね」

 

 伊地知ちゃんが褒める。

 後ろでは後藤ちゃんのクラスメイトの女子達がキャーキャー言っており、厨房からは男子達の湿り気粘り気のある視線もあった。

 おい男子共、そういう視線って女の子マジで敏感だから気を付けろよ。

 まぁそれはそうと。

 

「うん、似合ってるね。可愛いと思うよ」

 

「ホントですか!? やったー! ありがとうございます!」

 

 うんうん、素直に喜んでいて何よりだ。

 うちの赤メッシュ幼馴染さんは俺が「可愛い」なんて褒めようもんなら『は? 何、からかってんの? キモいんだけど』くらいのツンで返してくるからなぁ。あいつとの付き合いは長いから本音では喜んでるって分かるし別にいいんだけど、やっぱり素直に喜んでくれると褒め甲斐がある。

 

 

「あ、そうだ! 先輩方や海さんもメイド服着てみませんか!?」

 

 

 なんですって?(迫真)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




海「冷静に考えたら、そもそも結束バンドと遊んでるのは『隠している』んじゃなくて『公表する理由がない』だけじゃ...?」

関口は訝しんだ。
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