「先輩方や海さんもメイド服着てみませんか!?」
意味が分からん。喜多神様ご乱心か?
いや、伊地知ちゃんや山田ちゃんへの提案なら分かった。けどなんで俺も? そこがいっちょん分からん。
「いーの!? 着る着る〜! 海さんも着ますよねっ!」
着ねーよ。当たり前のように俺がメイド服を着るって判断すんな。
俺男ぞ? アイ・アム・マン。オーケー? ドゥーユーアンダスタン?
「絶対に似合いますよ! ね、喜多ちゃん」
「はい!」
軋ーんだそーのこーころ! Wow Wowそれアーンダスタン!(思考停止)
「落ち着けキミら」
俺が落ち着け(思考復活)
「普通に考えてクラスの出し物に部外者が参加するってだけでも有り得ないでしょ。まして女装成人男性が出てくるとか、下手したらガチ通報モノだが?」
その通報はさすがに残当すぎて言い訳のしようがない。確実にお縄だ。明日のネットニュースになるぞ、『メタルバンドCapliberteのギタリストKaiこと関口海(20)容疑者が秀華高校文化祭に潜入し女装か』とかなんとかって記事で。見出しが完全にネタだが逮捕はネタにならん。
ロックンローラーなら前科持ちくらいがちょうど良いよね! じゃないんだわ。普通に嫌だからね前科持ちのレッテル。
「なるほど、分かりました」
喜多ちゃんが分かってくれたらしい。
でもこの子は絶対に何も分かってない。俺は詳しいんだ。
「では、海さんが男性だとバレないよう、化粧とかで盛ればいいんですね?」
「ちげーよ」
やっぱり分かってねぇじゃねーか!
名案です! みたいなキメ顔で何言ってんだキミ。
「やっちゃえ喜多ちゃん!」
「はいっ!」
「聞けよちげーよやめろよ」
終いにゃ怒るぞ。
女装なんてしたくないの俺は。しかもOBでもなんでもない高校の文化祭でとか黒歴史以上のナニカになっちゃうから勘弁しろマジで。
「あの〜...」
なぜか本気で俺を女装させようとしてくる喜多伊地知と戦っていると、後藤ちゃんのクラスメイト(メイド)の一人がおずおずと声を掛けてきた。
「ごめんちょっと待ってね、この子たち説得してから話聞くから」
つーかこの子よく俺に話しかけられたな。
自分で言うのもなんだけど、長髪ピアスの見知らぬ年上男とか普通に近寄り難いだろ。
「あ、いや、その件なんですけど...」
「?」
「あの、実はうち、明日から執事喫茶やる予定で...」
へぇ、そうなんだ。
二日で違うコンセプトの出し物するとか、高校生にしては結構金かけてんね。だからメニューにオムライスしかない事態になってんのか。納得。
で、それがどうしたの?
「女装がダメなら、執事服を着る、というのはいかがでしょうか...?」
いや、「いかがでしょうか...?」じゃないが?
女装は嫌だけど執事ならいいよってそういう問題でもないと思うんだけど。ここの最大の論点は『衣装を借りるだけとはいえ、学校側の許可もなしに部外者が文化祭の出し物に参加する』って点なんだけども。
「それいい! 細美さん、それとってもいい案だわ!」
「うんうん! 海さんも執事服なら女装じゃないし問題ないですよね!」
「問題しかないが」
後藤ちゃんのクラスメイト、細美ちゃんっていうのか。細美ちゃんも何ぶっ込んできてんの。止めなよ、学校に怒られるよ。最悪出店禁止とかも有り得るって理解してる?
「あ、学校側の許可とかなら多分大丈夫です。うち、生徒会役員の子がいるんですけど、今生徒会長に確認取ってもらったら『大丈夫』って返信来たらしくて」
ゆるゆるかよ。
てか何? この学校の生徒会、教師陣よりも強い権力持ってんの? 何それ怖い。
「いやでも、サイズとかね?」
「それも大丈夫です。身長178cmくらいですよね? そのサイズもあります」
なんでパッと見で身長ジャストで当ててくるんだよ、怖いわ。
「えっと...あほら、俺こんな見た目だし、外部の大人とかに見られたら学校の評判落ちちゃうかも」
「大丈夫です。海さん? はかっこいいし、うちピアスも髪型も比較的自由な校風なので。うちのクラスにもピアス開けてる子いますし」
マジでか。
いやまぁ接客業のバイトをしてるし無理のある反論かとは思ってたが、そういう返しは予想外だった。校風自由すぎたろ。
「その点で言うと、なんなら女装も全然アリです。髪長いですし、結えば女の子に見間違えるくらいかと。あ、サイズもありますよ。うち、身長高い子もいるのでその子用のが」
マジでか!?
うっそマジで? そこから
「いや、えっと、その、あれだ、えーっと...」
ダメだ否定材料が思い付かない。
いや俺が嫌ってだけで十分な材料なんだが、そういうの通じそうにないしな。
「観念してくださいフッフッフ...」
「メイド海さんフッフッフ...」
なんだなんだなんなんだ!?
別に俺の女装姿とか需要ねぇから!
アッ───────!(女の子相手なのでほぼ無抵抗)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「わーっ! 海さん、すごく綺麗です! 完全に“女の子”ですね!」
「ほんとに! スラッとしてて、なんだかモデルみたいですよ海さん!」
何一つとして嬉しくない褒め言葉が投げかけられる。
完全に女の子ってなんだ。こちとら成人男性だぞ。
唯一の救いとしては、与えられたメイド服がロングスカートだったことだろうか。元々穿いていたズボンの裾を捲り、スカートの下に着ることが出来ている。
これで後藤ちゃんが着てるみたいな膝上ミニスカートだったら目も当てられなかったな。不幸中の幸いってとこか。
「...あ、伊地知ちゃんもメイド服着たんだ」
大学生になってまで自分が女装させられているという現実に打ちのめされて気付いてなかったけど、伊地知ちゃんもちゃんとメイド服着てるな。
「あたしも借りちゃいました! えと、どうですか...?」
「俺より断然似合ってるよ。可愛いね」
だから俺はもう脱いでいいかな? いいよね?
「あ、言い忘れてたんですけど今からちょうどシフト交代の時間で、海さんが使っていた更衣室も女子専用になるので注意してくださいね」
細美ィ!!!
ちくしょう、詐欺かよ。
「ってゆーか海さん、お肌綺麗すぎません? スキンケアとか何やってるんですか?」
「スクラブ洗顔料使ってるよ」
「それだけですか!? すごー、羨ましい...」
女の子はスキンケアも大変だよな。化粧してるから肌へのダメージ大きいし。
もう女装は諦めよう。着てきた服は更衣室の中だし、さすがに生徒が着替えてる更衣室に入るってのは本気でマズい。教室の端ですみっコ〇らししとこ。
「あれ、そういや山田ちゃんは?」
メイド伊地知ちゃんはいるが、同じく着替えているはずの山田ちゃんが見当たらない。
まさか逃げたか? 俺が大人しく着たのに?
「リョウなら一回メイド服着て出てきたんですけど、今更衣室行ってます」
マジかよ。俺も着替えたいんだが。
山田ちゃんに俺の服持ってきてもらおうかな。トイレとかなら着替えられるでしょ。
「おまたせ」
スマホを取り出そうとしたところで、山田ちゃんの声が聞こえてきた。
ちょっと遅かったか。いやまだ間に合う。今から山田ちゃんにもう一回更衣室に行ってもらって────
「キャーっ!! リョウ先輩の執事服すっごく似合ってます! 神!」
「は?」
は?
執事服?
振り返れば、そこには確かに執事服姿の山田ちゃんの姿が。クラスの所々から悲鳴のような声があがる。
というか待って。待ってくれ。............は?
「リョウ先輩こっち! こっち立ってください!」
「? どこ」
「海さんの隣です! あ、海さんはそこの椅子に座っていただいて!」
スッ…(脳死着席)
「ヤバいです、激ヤバ! ビジュが神!」(連写)
「すごっ、これ優勝じゃない?」(クラスメイト・生形)
「入場料取れるレベル」(クラスメイト・高橋)
「さすがに良い仕事すぎる。生徒会長に了承取ってくれてありがとね高田さん」(細美)
「あとで生徒会長も見に来るって!」(生徒会役員・高田)(連写)
「あたしとの扱いの差がすごいけど確かにこれはすごい。目が離せない」(連写)
なにこれ。
「リョウ先輩、海さんに近寄ってもらってもいいですか? ちょっとこう、覆い被さるみたいな感じで! あ、あと手とか海さんの頬に触れてみたりとか!」
「撮影料三千円。オプション代各千円」
「安いっ! 払います!」
「毎度あり」
あ? なんだよ山田ちゃんそんな至近距離で...え、なんでキミそんな従順なの? 金の力か(真理)
「む。抵抗しないでください。お金が」
「うるせぇ金の亡者め」
俺は金のためにプライド捨てたりしないの(JKのお願いを断れきれなくてプライドを捨て女装してる人)
「海さんちょっと嫌がってない...?」(クラスメイト・生形)
「そうだね...でもそれが良くない?」(クラスメイト・高橋)
「ちょっと無理やりっていうか、強引な感じイイよね...」(細美)
「ありがてぇ...ありがてぇ...!」(生徒会役員・高田)
おいなんだこの子ら、目が怖いんだが。
「リョウ先輩が俺様系クールドSイケメン執事で海さんが標的にされて嫌々言ってるけどその内執事の強引な攻めにだんだんと心を開いていくメイドさん...でも
「真理の扉云々は多分違うけど言いたいことは分かるよ喜多ちゃん。これはすごい、なんかすごくすごい。性転換ってやつだね、分かるとも」
何言ってんだこの子ら。湿度上がったんだが。
つーか業が深すぎないか?
「...喜多さんと遊んでる男の大学生って話だったけど、なんだ女か」
「男だったろさっきまで。騙されんな」
「いやでもアレは女子...いや女性だろ。俺、正直あのメイドさんなら...アリだな」
「まてまてまてまて。まだそっちに行くな、俺はお前と友達のままでいたい」
「こっちの水は甘依存、って名言があってだな」
「知らねぇよ劇薬だろ。中毒になる前に戻ってこい」
「残念でしたー、もう依存済なので中毒ですぅー。素晴らしい提案をしよう。お前も中毒者にならないか?」(猗〇座)
「やかましい。お前とはもう友達じゃねぇ」
「おい、お前それ本気で言ってんのか?」
「いや本気で言ってたら何年も友達やってねぇだろ」
「「.........エヘヘヘッ」」
全部聞こえてっからな厨房の男子共。仲が良くていいね。
おいほら、
「あの〜...よければうちの店、手伝ってくれませんか?」
「は?」
「ヒッ」
あ、ごめん。
脅かしたつもりはなかったんだけど、まぁこんな奴(メイド服着用成人男性)が低音で「は?」とか言ってきたら怖いよね。ごめんね。
「大丈夫よ生形さん。海さんは見た目ちょっと怖いかもだけどすっごく優しい人だし、滅多に怒らないし、素敵な人だから!」
おおぅ...本人目の前で言うねぇ喜多ちゃん。いやまぁ悪口じゃないし普通に褒められてるから全然良いんだけどさ、なんかこうむず痒くなっちゃう。
...いやそうじゃない。喜多ちゃんのフォローに嬉しくなってる場合じゃなくて、生形ちゃんっていうの? キミ今なんつった?
「いいよ〜! 接客業のバイトもしてるし、任せて! 頑張りましょうね、海さん! あとリョウも!」
「「え」」
なんで?
いやダメだろ。規則がどうとかは...まぁ例の生徒会役員ちゃんがどうにかしてきそうだけど、「JKメイドを見に来たら成人してる男が女装して接客してました」とか普通にクレーム案件だぞ。
「いや俺は...ほら、俺男だから」
「問題ないんじゃないですか? 海さんすっごく可愛いので! ちょっと嫉妬するくらい」
そういう伊地知ちゃんの方が断然可愛いから安心して俺を解放してくれ。嫌だこれ以上メイド服で人前に出たくない。
...と、断れれば良いんだろうが。
伊地知ちゃん初め、なんか周りの目がキラキラしてるんだよなぁ。断ったらこの目が曇るのかと思うと何だか悪い気がしてくる。
...仕方ない。
メイド服は着てしまったし、クラスの子や今
「...はぁ。分かった分かった、働くよ」
「やったー!! あ、あれお願いします! ミックスボイス? 女の子の声出すやつ! 甘い系でお願いします!」
注文が多すぎる。
つーか喜多ちゃんはなんで俺がミックスボイス出せること...あぁ、そういやこの子、俺の動画全部見たんだっけか。
あ、新規客来た。
うーん...仕方ない。どうせやるなら全力だ。
スゥー......
「お帰りなさいませご主人様ぁ♡」(猫なでゆるふわボイス)(完璧な柔らかい笑顔)
「「「キャァアーーー!!!!」」」(フロア女子)
「「「「うぉおおおおおお!!!!!!!」」」」(厨房男子)
「ぷくく...」
うるっさ。
つーか最後嗤ったの誰だ!?
山田ァ!!
「あ、後藤さん休憩入っていいよ〜」
「えっ あ、はい......」
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「いやぁ、とっても良いもの見ちゃいましたー」
文化祭一日目ももうすぐ終わろうかという時間。
メイド地獄からようやく解放された俺は、同じくメイドをやりきった伊地知ちゃんと喜多ちゃん、執事として世紀末的風貌の輩どもを従えた山田ちゃん、途中から完全に見失っていた後藤ちゃんらと共に、西日の射す廊下を歩いていた。
「...一応聞くけどさ。そのとっても良いものって...」
「もちろん海さんのメイド姿です!」
元気だねぇ伊地知ちゃん。
でも何にも良くないからね。俺のメンタルが弱けりゃ余裕で自害モノだぞ、今日のイベント。
「写真もたくさん撮りましたね〜」
そう。そうなのだ。
あのクラスにチェキ制度とか無かったよな? 一体いつからそんなものが存在して───
「ふふ...野口がひとーり...ふたーり...さんにーん...」
「山田ァ!!!」
お前主催の違法イベントかアレ!
「ほらこれ、見てください! すっごく良く撮れてません? こっちも!」
クリスマスプレゼントを貰った子供みたいにキラキラした目で、喜多ちゃんが数枚の写真を見せてくる。
俺と山田ちゃんのツーショット、俺と伊地知ちゃんのツーショット、俺と喜多ちゃんのツーショット、その他接客中の俺や、いつのまにか霊圧が消えていた後藤ちゃんのメイド服写真、山田ちゃんが世紀末に土下座させて頭踏んでる写真、山田ちゃんと喜多ちゃんのツーショット、なんか隠し撮りしたみたいなローアングルからの俺の写真など、色々ある。
うんうん、青春だね。でも最後のローアングルはあとで渡せ、処分する。それと撮ったやつも教えろ、処分する。
というか喜多ちゃん、なんか妙に肌がツヤツヤしてない? 何、光合成でもしてる?
「ね、ねぇ喜多ちゃん。その海さんのチェキ、あとで何枚かくれない...?」
「たくさんあるのでいいですよ! あ、リョウ先輩のオフショットと交換とかでもいいですか?」
「おっけー」
闇取引やめろ。
「全部聞かせてもらった。人の写真を勝手に拡散するとはけしからん」
お、言ったれ山田ちゃん!
......いやキミが言うな山田。
「一枚サイン付きを五千円で売ろう」
「安いっ! 買います! あ、今お金ないので給料日後で良いですか?」
「うむ」
うむじゃねぇし給料日後でもダメだわ。てか破産しかけてんじゃん喜多ちゃん。大人になったら結構簡単に金借りれるからな。そっちでマジで破産しそうで怖い。
「だから、バンド内でそういうのやめろ。チェキ売りたいなら物販でね」
「? でもさっき、そういう道はやめろって」
「健全な写真なら大丈夫だよ。それにバンド活動は綺麗事だけじゃやってけないしね。財源は必要だ」
バンド活動には金がかかる。高校生の時だけの期間限定お遊びバンドならいざ知らず、本気で活動しようってなればバンド活動にかかる金は相当だ。
機材代にライブのノルマ未達成分、合わせ練習するためのスタジオ代や交通費。衣装代も多少は嵩んでくるし、今後MVなんかを撮るってなってどこかに委託するならその費用もある。伊地知ちゃんはCDを作りたいとも言ってるし、そっちの費用もかかるだろう。
とにかく本当に金がかかるのだ、バンド活動ってものは。売れれば良いが、売れるまでが地獄そのもの。
だからバンドマンはみんな金欠だしすぐヒモになるんだろうなぁ、せきぐち。
「海さんから許可でた。ぼっち、今度水着写真撮ろう」
「えっ あっ いや...」
「健全な写真だけだつってんだろ」
こいつ、目が金の形になってやがる。き○丸かよ。ベタな真似しやがって。......いや普通目を金の形にはできねぇな。なんだこいつ(恐怖心)
「物販か〜。そろそろちゃんとしたグッズ考えないとなのかな〜」
「そうですね〜。私たちの物販、百均で買ってきた結束バンドに色塗っただけのやつしかありませんもんね」
「Tシャツも売る予定だけど、その二つだけってなんか寂しいよね。Capliberteはどんなグッズ売ってたんですか? Tシャツとタオルは持ってるんですけど」
持ってるのか。
お買い上げありがとうございます。
「そうだなぁ。Tシャツとタオルと────」
「半袖Tシャツが全五種、ロンTが四種、パーカー一種、タオル二種、トートバック二種、ラバーバンド五種、キーホルダー五種ですよねっ!」
「──......え? あ、はい。そうです。......???」
なんで喜多ちゃん、俺らのグッズ全部暗記してんの? 怖いんだけど何?
「き、喜多ちゃん詳しいねぇ〜...」
伊地知ちゃんもちょっと引き気味だぞ。
「実は私、この前半袖Tシャツ二枚とパーカーとタオル、KaiのラバーバンドとKaiのキーホルダー買ったんですよ〜! お陰で今月金欠です、えへへ」
破産理由俺のバンドだった?!
えへへじゃないが。何照れてんだお前、反省しろ。高校生のうちからそんな金遣いが荒いと大人になって苦労するぞ。
「グッズコンプしたいしCDも全部買いたいんですけど、お金が足りなくて...くっ」
くっでもないんだよ落ち着け。
「ちなみにCapliberteはオフィシャルサイトでは売ってないグッズもたくさんある。ライブ限定販売とか、非公式公式グッズとか」
「非公式公式グッズ...ですか?」
嫌な名前出てきたな。
俺まだそれ公式とは認めてねぇから。てか山田ちゃんよく知ってるね。
「Kaiがよく絡んでるアイドル事務所がCapliberteのグッズ出してる。別にその事務所にCapliberteが所属してるわけじゃないけど、一応事務所が公式に出してるグッズだし、Capliberteも黙認してるから『非公式公式グッズ』」
御剣とかいう無駄に仕事ができるプロデューサーが俺らのグッズ出しやがったんだよな。
普通に違法だと思うんだが、Capliberteの他のメンバーは「別にいいんじゃね? ライブでも何回かお世話になってるし」というスタンスで黙認してしまったのだ。
まぁ利益のいくらかは
「非公式公式グッズはまだ大丈夫として...ライブ限定販売のものは高額転売されてますね。万...手が出ないわ。早くバンドで売れてお金作らないと!」
売れたい動機が不純すぎる。いや基本不純なもんだろうけどさ、売れたい動機なんて。
つーか誰だ、俺らのグッズ転売してんの。黒服さんに頼んで特定してもらおっかな。
「あー...ライブ限定販売のやつなら今度のライブで過去のやつも全部物販出すから、転売品に手ぇ出すくらいならそっち買いなよ」
「ホントですか! 買います! シフト増やさなきゃ!」
「あたしもシフト増やそっかなぁ」
「気持ちはすごい有難いけど、仕事にかまけてバンド活動が疎かにならないようにね」
「「はーい!」」
うん、良い返事だ。返事だけで終わってくれるなよ。
「ところでこれ、どこ向かってんの? 昇降口、こっちじゃないでしょ」
「そういえば。喜多ちゃんに着いて行ってるだけで、どこ向かってるとかは...喜多ちゃん、どこ行くの?」
何も考えず歩いてたのか。
いやまぁ俺もそうだから他人のこと言えないけど。日本人って感じがするな。
「あ、ちょっと寄っておきたいところがあって。体育館なんですけど」
体育館? シューズかジャージでも忘れてきたのかな。
結束バンドはこのあと練習らしいが、別に時間まで余裕がないというわけでもないらしく、大人しく喜多ちゃんについて行く。
目的地の体育館には二分もしないうちに辿り着いた。
「おぉ〜、綺麗な体育館だねぇ〜」
伊地知ちゃんの声が漏れる。
確かに綺麗だな。大事に使ってるんだろうか。あ、でも天井にはバレーボールが引っかかってるな。アレ、大抵の体育館にあるけどマジで何なんだろうなぁ。
「本番前に、ライブする場所をみんなで見ておきたかったんです」
ふーん?
「マックス千人ってとこか」
「さすがにそんなには来ないでしょうけど......でも、たくさん来てくれるといいわね」
「あ ...う、うん...!」
...うーん、もしかして俺は今、ものすごく“良”いものを見たんじゃないか?
返事だけとは言え、後藤ちゃんが一人語り以外で敬語じゃないところは初めて見た。
喜多ちゃんと後藤ちゃんの友情が深まっているのかもしれない。おじさんそういうの好きだよ。青春だねぇ。
「たくさん来るよ! 喜多ちゃんパワーもあるしっ」
「あ は、はい!」
...?
なんだろ、喜多ちゃん......
「...もしかして喜多ちゃん、だいぶ緊張してる?」
「うえぇ!?」
何その声。さてはべらぼうに緊張してんな?
「そうなの? めずらしー。喜多ちゃんって緊張とかしないんだと思ってた」
「しますよぉ! 私をなんだと思ってるんですか!」
「陽キャ」
間違いない。
「今から緊張したってムダに疲れるだけ」
「うぅ...あんまり緊張しちゃダメだって分かってはいるんですけど...」
「そんなことないよ。緊張したっていいじゃん、減るもんじゃなし」
「...え?」
陽キャな喜多ちゃんでも緊張はするだろう。むしろしない方がおかしい。というより、してなかったらマズい。
「山田ちゃんの言うことももっともで、確かに緊張しすぎても疲れるだけ。パフォーマンスも落ちるしね」
「そ、そうですよね...」
「けど、緊張するのは悪いことじゃないよ。緊張ってのは、
「「「「え!!?」」」」
声でっか。体育館の掃除やら装飾やらしてる子らみんなこっち見てんじゃん。ま、いっか。
「そんなに驚く? 余裕でするよ、緊張。俺以外のメンバーもね」
「い、いや...ライブ映像とかからじゃそんな雰囲気全然ないですし、海さんレベルになると緊張なんてしないものだとばかり...」
「まぁ表に出さないようにはしてるし、ライブは楽しいしね。でもやっぱり、いつになっても緊張するよ」
うちのキーボードはあんま緊張しないけどな。まぁあいつは別格だ。レベルが違う。
山田ちゃんと違って強がったり見栄を張ってたりって訳じゃなく、本当に自信しかない奴だ。まぁ実際実力はあるし、それを鼻にかけた嫌な奴って訳でもないから俺は嫌いじゃないけど。
「緊張は悪いことじゃない。それだけ真剣だってことだしね。その緊張をどう乗り越えるか......いや、そうだね。乗り越えるのは難しくても、緊張以上にライブを楽しめるか。それが大事だと俺は思うな」
気楽にとは言わない。緊張してる相手にそんなことを言っても効果があるとは思えないからな。
だが、やっぱり音楽は楽しんでなんぼだ。
「明日のライブ、楽しみにしてるよ」
「「「「は、はいっ!!」」」」
気持ちのいい返事を聞き、俺は微笑んで見せる。
元気が良くて結構。たださっきからめちゃくちゃ注目されてるから、そこだけ気を付けようね。
最近の海くん、どんどん“素”が出てきてるな...