ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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そこに16ビートが加わると...?

 

 

 

 

 

 

 

 今日は虹夏たち結束バンドの文化祭ライブがある。あたしはそれを見に行く予定だ。

 一人で高校に入るのは何となく小っ恥ずかしかったため、関口と一緒に行こうと昨夜ロインをしたら『昼頃バイト終わるんで、うちのバ先で待ち合わせでも良いですか』と返信が来た。

 

 あいつも大変だな。まだ学生なのに、社会人と同じくらい働いてやがる。ロックンローラーなのに社畜とか、世の中終わってんな。

 

 

 ってことで関口のバイト先に来た。

 

「ぃらっしゃっせ〜。ご注文お決まりでしたらどぅぞ〜」

 

「お前仕事中思ったよりテキトーな喋り方してんのな。まーいいや。チキンフィレオとアイスコーヒーL、あとスマイル一つ」

 

「ニコッ」

 

 うわまぶしっ。

 当たり前のように笑顔返してくんなちょっとは戸惑えバカ。

 

「店内でご飲食されますか?」

 

「あー...そうしようかな。お前あとどれくらいで上がれるんだよ」

 

「あと二十分くらいですかね。もうちょっと待っててください」

 

「あいよ」

 

 番号札を受け取り、レジから少しだけ離れて待つ。

 普段あんまりこういう店に来ないからちょっとソワソワするな。いつもは虹夏が作ってくれてるから、そもそも外食が少ない。

 

 どこを見て良いのかも分からず、彷徨った視線が関口に向かう。赤毛の男と関口が話しているのが目に入った。

 

「あのキレーなお姉さん、兄貴のコレ(・ ・)っすか?」

 

「言い方キモいな。小指へし折るぞ」

 

「怖っ。仮にも店長に向かってその態度...」

 

 アレが例の店長か?

 いつも関口がブチ切れてるって噂の...確かにチャラついて軽そうなやつだな。あたしもあんまり好きになれそうにないタイプだ。

 

「くだらないこと聞いてる暇があったらさっさと仕事に戻れよ」

 

「くだらなくないですよ。ほら、アミちゃんが気になって気になって仕方なくて仕事に手ぇ付かない状態なんスから」

 

「ちょっ、店長!? 何言ってるンですかそんな別に気になってなんてないですケド!!?!?」

 

「分かった、分かったからフライヤーの網かご振り回すのやめて怖い怖い怖い! あっつ! 油飛んできたんだけど!?」

 

 ...なんか賑やかな職場だな〜。

 アットホームって言えば聞こえはいいけど、さすがに自由すぎないか?

 まぁ客側も嫌な顔してないし問題ないのかもしれないけど。

 

「...で、実際どうなんスか? ホントにカノジョ?」

 

「ちげーよ。あの人下北のライブハウスの店長さんで、この後あの人の妹が組んでるバンドのライブ見に行くんだよ」

 

「ライブデートだ! どんまいアミちゃん、まぁあんな美女が相手じゃ仕方ないっしょ!」

 

「店長マジサイテーマジうるさい! 死ね!」

 

「あっちゃぁああああ!!?!?!?!」

 

 ...なんだこれ。ホントに大丈夫か?

 こんなに騒いだらさすがにクレーム入るんじゃ...

 

「今日も賑やかでいいなぁここ」

「なー。食ってるもんは体に悪ぃけど、関口くんがいる時のスタッフのやりとりは健康に良い。長生きできるわ」

「赤毛店長と関口くんのやりとり、酒飲んで鑑賞したいわー。ここ酒売り出さないかな?」

「さすがに無理っしょ。でも気持ち分かる〜」

 

 マジでか。我が地元ながら狂ってんな下北沢。

 

「番号札二十七番でお待ちのお客様ー」

 

 あ、呼ばれた。

 うわー、アミちゃんすげー睨んでんじゃん。ヤダなー。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「すんません、お待たせしました」

 

 仕事が終わり、星歌さんの待つテーブルまで行く。

 アイスコーヒーを啜っていた星歌さんが、スマホから顔を上げてこちらを見た。

 

「おう、お疲れさん。行くか」

 

 アイスコーヒーを飲み終えたらしく、ズゾゾゾとドリンクの断末魔が響く。

 俺はハンバーガーやストローの包み紙が乗っているトレイを持ち、ゴミ捨て場兼トレイ置き場に向かった。

 

「悪い、ありがとな」

 

「いいっすよ。俺、ここのスタッフなんで」

 

「でも今は仕事外だろ」

 

「女性に優しくするのが紳士のモットーなんで」

 

「バンドマンは紳士になれねぇよ」

 

「俺、ロックンローラーなんで」

 

 ロックンローラーこそが紳士まである(嘘)

 ゴミを捨て、懲りずに冷やかしてくる店長もダストシュートし、残ったバイトの子達に「何かあったらすぐ連絡してね」と言い残して店を出る。

 

「...お前社員なの?」

 

「違いますよ、バイトです。ただちょっと俺がいない時に何かあったら誰も対応できないってだけで」

 

「それは店長の仕事なんだよ」

 

「うちの店長、まだそこまで仕事できないんで。今育成中です」

 

「それはエリアマネージャーの仕事なんだよ」

 

 まぁバイトの域を出た仕事をしてる自覚はある。でもそうしないと店が回らないんだから仕方ないじゃん。俺だってホントはもうちょっと楽したいわ。

 

「そういや、今日姐御も来るんですよね? 待たなくていいんすか?」

 

「さっき起きたから直接高校向かうってよ」

 

 寝坊か。さては昨日も夜中まで飲んでたな? 万年金欠のくせして暴飲しやがって。

 

 

 

 その後、姐御への愚痴や音楽(ハードロック)の話をしつつ歩き、しばらくして秀華高校に到着した。

 昨日も見たアーチを潜り、学内に入る。

 

「結束バンドの出番って何時からだ?」

 

「確か一時半からですね」

 

「今何時だ?」

 

「十二時半前っす」

 

「まだ時間あるな。関口は昼飯まだだろ? なんか食べるか。奢ってやる」

 

「マジすか。あざっす」

 

「何食べたい?」

 

「そうだなぁ...あ、あそこのたこ焼き食べたいです」

 

「ん」

 

 やったぜ。

 最近は奢ってばっかだったし、久しぶりに奢られるのはテンション上がる。

 

「あ、海さん?」

 

 買ってくるからここで待ってろと言われ大人しく列に並ぶ星歌さんの後ろ姿をぼんやり眺めていたところ、ふと名前を呼ばれた。

 

「ん? あー、キミ、えっと...細美ちゃん」

 

「はい。昨日ぶりです」

 

 声のした方を見てみると、制服姿の細美ちゃんがいた。昨日はメイド服だったし、髪型も昨日はストレートで今日はポニーテールにしてるから一瞬誰か分からなかったが、俺をハメやがったその声は覚えている。

 

「今日もいらしてたんですか? ...あ、もしかしてうちの執事喫茶のお手伝いに...」

 

「違うわい」

 

 どうして俺が執事喫茶まで手伝うと思ってんの? 昨日のだって嫌々仕方なく手伝っただけなのに。

 

「今日はほら、後藤ちゃんと喜多ちゃんが組んでるバンドがライブやるでしょ? それ見にきたの」

 

「...え、後藤さんってホントにバンドやってるんですか?」

 

 全然信じられてなくて草。

 ギター担いで登校してるとか聞いてたけど、ファッションバンドマンだと思われてたってこと? かわいそ。

 

「後藤ちゃん、ギターめちゃくちゃ上手いよ。細美ちゃんも暇なら聴いていけば? 喜多ちゃんとか、昨日一緒に働いた他校の二人もいるし」

 

「元々喜多ちゃんに呼ばれてたので見に行く予定でした」

 

 喜多ちゃんがバンドやってるのは信じてたのか。

 喜多ちゃんがすごいのか、後藤ちゃんがダメなのか。両方だなこりゃ。

 

「海さんって、喜多ちゃんとどういう関係なんですか? あ、あと後藤さんとも」

 

 後藤ちゃん、クラスメイトなのについで扱いなの本当に可哀想。めちゃくちゃごめんだけど笑っちゃいそうになる。そこまでいくとマジで才能だよ才能。

 

「どうって...うーん、バンドの先輩?」

 

「あ、海さんもバンドを組んでるんですか?」

 

「そー。もう結成六年目になるかな。喜多ちゃんたちのバンド、結束バンドっていうんだけど、結束バンドが拠点にしてるライブハウスでちょっと仕事したことあって、その繋がりでたまに先輩として面倒見てるって関係だよ」

 

 まぁ最近は友達みたいな交流が増えてるけどな。

 

「...喜多ちゃんの彼氏とかでは」

 

「ははっ、さすがに違うよ。俺もう二十超えてるし、高校生に手は出さないって」

 

「そうなんですか? でも世のロリコンは言うそうですよ。『YESロリータ、NOタッチ』と」

 

「NOタッチって言ってるじゃん。つーかそもそもロリコンじゃないからね、俺」

 

 俺歳上好きだから。

 下は低くても十九、大学生以上がストライクゾーンだ。それ以下は子供だろ。さすがに道徳心が働いちゃうわ。

 

「そうですか。安心しました」

 

「何が? 俺がロリコンじゃなかったってことが?」

 

「それもですが、学校が海さんの血で染まらなくて良かったなって」

 

「俺は一体何をされちゃうところだったんだよ」

 

 ...はっ。まさか細美ちゃん、喜多ちゃん狙いなのか? “細喜多”ってコト...!? それならまぁ、百合の間に挟まった男ってことで処刑されても文句は言えないな。

 

「喜多ちゃん、男子に人気ありますから。前からちょくちょく話題になってたんですよ、海さんのこと」

 

「は?」

 

 なんで?

 この学校の奴らとは昨日が初対面だろ、話題にあがるわけなくない?

 

「ほら、海さんって喜多ちゃんのイソスタにたまに載ってるじゃないですか」

 

「え、」

 

 そんな馬鹿な。

 喜多ちゃんのイソスタは毎度チェックしてるけど、俺が写ってる写真は一枚もなかったはずだ。

 

「ほら、例えばこれです。江ノ島に行ったっていう投稿。伊地知さん? が持ってるスマホに反射して、海さんが写ってるんですよ」

 

「......うわ、マジじゃん」

 

「それとか、こっちのス○バの新作って上げてるほう。これも容器に反射して写ってるんですよね。ほらここです」

 

 ほんとだ。アスペクト比バグってる俺が写ってる。

 いや気付かねぇよそんなの。よく気付いたな高校生。さすがZ世代、すげーわ。

 ...って感心してる場合じゃないな。

 

「こういうので『もしかしてあの喜多ちゃんに彼氏が...!?』って一部で噂になっちゃって。男子の中には呪詛に手を出そうとしてる人も...」

 

 軽率に呪詛に手を出そうとするな。危ないんだぞアレ(経験済)

 なるほどな、昨日から感じてた視線はそれか。

 

「お待たせさん、たこ焼きだぞ。...どうした?」

 

 周りをキョロキョロしていると、星歌さんがたこ焼きを二パック持って帰ってきた。

 

「...いえ、ちょっと暗殺を警戒してて」

 

「お前の世界観どうなってんだよ」

 

 見ず知らずの男子高校生に呪詛の矛先を向けられる世界観...ですかねェ...(うんざり)

 

「細美ちゃん。安心してほしいし皆にも伝えといてほしいんだけど、俺、マジで高校生に手ぇ出す気とかないから」

 

「了解です。録音しときました」

 

「キミもキミで怖いな」

 

 いつのまに録音したんだよ。全然気付かなかったわ。Z世代怖ぇ〜。

 

「ちなみにそちらの女性が彼女さんですか?」

 

「かの...っ!?」

 

 おいやめろ、挨拶より先に失礼ぶちかますんじゃあない。

 まぁ高校生なんて恋愛に興味深々だしな。気になるんだろう。

 

「こちら伊地知星歌さん。昨日いた伊地知ちゃんのお姉さんで、さっき言った結束バンドの拠点ライブハウスの店長さん。一緒にライブ見に来たの。残念ながら彼女じゃないよ」

 

「そうなんですか。えと、初めまして。妹さんのバンドメンバーと友達の細美です」

 

「あ、はい...初めまして...」

 

「それじゃあ私はこれで。今から推しが執事服着るので」

 

「青春じゃーん」

 

「海さんも気が向いたら執事服着に来てくださいね。需要あるし、売上伸びるので」

 

「行かねーよ。じゃあね」

 

 昨日出会ったばっかの大学生を使おうとか、マジで商魂逞しいな。経営者向いてんじゃない?

 知らんけど。

 

「...なんだったんだ今の」

 

 細美ちゃんを見送っていると、呆然とした様子で星歌さんが呟いた。

 

「後藤ちゃんのクラスメイトですよ。昨日あの子のクラスがやってるメイド喫茶に行ったんですけど、その時知り合って」

 

「相変わらず手が早いな」

 

「妙なこと言わないでください。さっきも言いましたけど、俺高校生相手にどうこうする趣味ないですよ」

 

「普通は文化祭に顔出した程度でそこの生徒と仲良くなんてならないんだよ」

 

 そうかなぁ?

 そうかも。

 

「まぁいろいろありましたからね」

 

「なんだよ、いろいろって」

 

「いろいろです」

 

 メイド服着て一緒に働きました、とか言えるわけないんだよなぁ。

 

「...ま、いいや。ほら、たこ焼き」

 

「ありがとうございまーす!」

 

 奢り飯だー!

 

「あ、せんぱーい、せきぐちぃー! おっはよー」

 

 たこ焼きを食べようと爪楊枝を持ったところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 そちらを見れば、案の定廣井の姐御の姿が。寝起きって聞いてたけどなんでかもう酔ってるっぽいな。

 

「みてみて今日ふんぱつしてカップ酒かったのー!」

 

 なんだあいつ。

 

「星歌さん、あっちで食べましょうよ」

 

「そうだな。不審者来たしな」

 

「ちょ、待ってよ二人ともー! どこ行くのさー!?」

 

 黙れ不審者。

 警備員さんコイツです。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 あたしたちの出番が、ちゃくちゃくと近付いてきている。

 

「前のバンド盛り上がってますね〜。この曲、今年ヒットしましたし」

 

「バンドのライブでペンライト振り回すとか...」

 

 舞台袖で前のバンドを見ている喜多ちゃんとリョウが、それぞれ感想をこぼした。

 どちらの言うこともその通りで、確かに盛り上がってはいるが、バンドのライブで鮮やかな色の波がうねっている様子はずいぶん珍妙な光景だ。

 けどまぁ、楽しみ方は人それぞれ。別にルールがあるわけでもなし、特に気にかけることでも、まして咎めるようなことでもない。

 

「あー! 緊張してきたぁ〜...」

 

「喜多ちゃーん、深呼吸! ぼっちちゃんは大丈夫?」

 

「はいっ!」

 

 おお。珍しく気合いの入った、覇気のある良い返事だ。まっすぐステージを見据え、逃げ腰の様子もない。

 半年前までは完熟マンゴー仮面だったのに、今ではこんな強い顔が出来るようになったんだね。

 

ドッドッドッドッ

 

 ...ん?

 

「このバンド、バスドラだけ異常にうるさいな」

 

 違うこれ緊張限界突破心音だ!?

 心臓が胸突き破って出てきそうだけど大丈夫!?

 

「後藤さん! 深呼吸、深呼吸よ!」

 

「ヒッヒッ、フー ヒッヒッ、フー」

 

 心臓出産!?

 

「結束バンドさーん、間もなくですー」

 

「あ、はーい!」

 

 係の子から声がかかる。

 ライブ自体は順調に進んでてちょっと巻きで進んでるみたいだけど、だからってダラダラしていたら周りに迷惑をかけてしまう。前のバンドが終わったらすぐに出られるようスタンバらなきゃ。

 けど、その前に一つ。

 

「出番前にさ、円陣組まない? 手を合わせて、おーっ! てやるやつとか!」

 

「いいですね! やりましょう!」

 

 結束バンドなんだもん、結束していかなきゃ。リョウもぼっちちゃんも嫌な顔しないで。

 

「じゃあみんな、左手ね! ほらほら、いいからリョウも」

 

「えぇ、暑苦しい...」

 

 言いつつも強く抵抗はしない辺り、やっぱりリョウはリョウだな。

 

「後藤さんも早くっ」

 

「あ はいっ」

 

 喜多ちゃんとぼっちちゃんも手を合わせてくれる。

 

「それじゃあ頑張ろう! そんで楽しもっ! せーっの!」

 

『おー!!』

 

 皆の左手。お揃いの結束バンドが結ばれた手が、一斉に上がる。

 初ライブの時はバラバラだった手と声。それがこうして揃っていることが、すごく嬉しい。

 私のバンドが、私たちだけのバンドがここにある。最高の仲間と一緒に()れる。こんなに素晴らしいことはない。こんなに楽しいことは他にない。

 

 よーし! 今日はとことん、楽しんじゃおー!

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 六弦から順に、ゆっくりと弦を(はじ)いていく。

 レギュラーチューニングの聴き慣れた音。冗談抜きで、親の声より聴いた音。今更聞き違えるわけもない、私の音。

 

「(...なんかちょっと変...?)」

 

 だからこそ、些細な違和感であっても、真夏の湿気のようにまとわりついてきて気持ち悪い。

 

 弦の調子がおかしい。チューニングがやけにズレる。

 念の為昨日の夜に弦を換えたんだけど、そのせいかな?*1

 一応慣らしてはおいたんだけど...まぁ今更ギターの調整なんて出来ないし、替えもないし。三曲くらいなら大丈夫だろう。大丈夫...だよね...?

 

「ぼっちちゃーん、音大丈夫そー?」

 

「うぇっ!?」

 

 や、やっぱりマズかったかな...!?

 

「? PAさんが使う音*2くださいだってさー」

 

 あ、そっちか。

 

「あ は、はいっ」

 

 少し不安だけど、今更どうにかできるものでもない。帰ったらちゃんと点検するとして、今はこれで乗り切ろう。大丈夫。曲の合間(MC)の時にチューニングを直せば、大丈夫。

 

「ギターさんおっけーでーす。それじゃあ全体で何かありますかー? 返し*3が欲しいとかー」

 

「あたしは大丈夫だけど、みんなは?」

 

「問題ない」

 

「大丈夫です!」

 

「あ 大丈夫です」

 

「大丈夫ですー! ありがとーございまーす!」

 

 虹夏ちゃんがそう返す。

 するとすぐに、体育館全体に響くマイクからアナウンスが流れた。

 

 

『続いてのバンドは、結束バンドの皆さんです』

 

 

 アナウンスと同時に、目の前の幕がゆっくりと上がっていく。とっても怖い。人目に晒されるのは処刑と同じだ。

 

 けど、下を向いてはいられない。これは私が出ると言ったライブだ。逃げていいわけがない。

 海さんが言っていた。ライブは楽しいものなのだと。

 お姉さんが体現していた。ライブはかっこいいものなのだと。

 

 幕が私の目線より高くなった。一気に視界が開け、薄暗い体育館が一望できる。

 視線の先では、大勢の人が待ち構えていた。

 待ってましたとばかりに上がった声を聞けば、別に私を見ているわけではないってことが分かる。みんな喜多ちゃんを見に来てて、虹夏ちゃんやリョウさんに黄色い声を上げて。

 悲しいけれど、予想通りの展開だ。誰も私を見てなんか────

 

「おねーちゃーん!! 頑張れー!」

 

 たくさんの声に紛れて、ふとそんな声が聞こえてきた。

 見れば、お父さんとお母さん、ふたりの姿がある。

 

「ひとりちゃーん!」

「応援してるよー!」

 

 また別のところから、私を呼ぶ声がした。

 薄暗くてしっかりは見えないけれど、あれはきっと、ライブにも来てくれていた私のファンたち。

 

 その近くには同じクラスの人たちもいて、ばっちり目が合った。喜多ちゃんだけじゃない、私のことも見に来てくれたんだ。

 

「おーい! ぼっちぢゃーん見に来たぞぉーう! 頑張れぇー! かっけぇ演奏頼むよーー!! うええええぇいっ!」

 

「え、なにあの人...」

「やばい人入ってきてんじゃん...

 

 ...............。

 

「え、おい無視すんなよー! おいこら〜! きくりお姉さんだぞー!」

 

 呼ぶんじゃなかった...

 

「てめー○ねや...!」

 

「ちょ、先輩ギブギブ...! 腕ってそっちには曲がらないからッ...!」

 

 あ、店長さんも来てくれたんだ。

 それに───

 

「おい関口手伝え、こいつ外に放り出すぞ」

 

「いや、縄で縛ってここに置いとく方がいいっすよ。外で暴れられても面倒ですし」

 

 関口さんも、来てくれている。

 それも最前。しっかり顔が見える距離に。

 

「マジでクソだなコイツ。...てか関口、お前今どっから荒縄出した?」

 

「こうなることは予想できてたんで、予め用意してました。緊急用のバールもありますよ」

 

「それで何する気だったんだよ怖ぇよ」

 

 なぜか慣れた手付きでお姉さんを縛りながら、関口さんがこちらを見る。

 

「見に来たよ。かっこいい演奏、期待してる。頑張ってね」

 

 決して大きくはないけれど、掻き消されることなく、しっかり私の耳に届く優しい声。

 なんでだろう。お姉さんと言ってることは同じなのに、どうしてこうも受ける印象が違うんだろうか。不思議だな。

 

『うぅ〜...』

 

 え、何、なんで喜多ちゃんそんな複雑そうな顔してるの...?

 

『えー...こほん。私たち結束バンドは、普段は学外で活動しているバンドです』

 

 あ、MC始まった。

 念の為チューニングを確認...またズレてる。どうしたんだろ、昨日まではなんともなかったのに。演奏中も隙を見てチューニング直さなきゃ。

 

『今日は私達にとっても皆にとってもいい思い出になるようなライブにします! それでもし興味がでたらライブハウスにも観に来てくださーい!』

 

 始まる。ライブが始まる。

 頑張ろう。楽しもう。

 まだ人前じゃ全然実力通りの演奏はできないけど、今できる精一杯を。

 

『それでは聴いてください! 一曲目────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
弦交換の直後はチューニングがズレやすい

*2
ライブ前には全体の音のバランスを整えるため、エフェクターを噛ませた状態の音など、ライブ中に鳴らす音をとる必要がある。普通はリハーサルの時に終わらせる工程だが、文化祭くらいなら多分本番直前にやると思う。知らんけど

*3
外(観客)側ではなく、内(演者)側に聞こえるように鳴らすスピーカーからの楽器やボーカルの音




「バンドマン」と「ロックンローラー」は全くの別物です(当社調べ)
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