ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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すいません、寝てました。


キミと集まって星座になりたいンゴねぇ

 

 

 

 

 

 

「ひでぇよぉ〜! なんで逃げるんだよぉ〜!」

 

「お前が酒持ってるからだよ」

 

「いかのおすしって知ってるか姐御。義務教育で習うんだが」

 

「いか二貫!!」

 

 ダメだこいつ。

 

 

 カップ酒片手にこちらへ向かってくる不審者(姐御)から逃げようとした俺と星歌さんだったが、思いの外姐御が大声で喚き散らし始めたため慌てて校舎裏へ拉致。地面に直接正座させ、今に至る。

 

 さすがにこの状態で体育館入るわけにもいかねぇな。せめて水飲ませるか。焼け石に水っぽいけど。

 

「ちょっと水買ってきますね」

 

「すまん、頼む」

 

 一旦姐御の見張りを星歌さんに頼み、自販機に向かう。昨日後藤ちゃんを探してる途中で自販機がある場所は見つけてたからな、星歌さんに行ってもらうより俺が行った方が早い。

 

 

 人にぶつからないよう気をつけながら駆け足で向かい、自販機に到着する。

 ICカードを(かざ)し、水を購入し、さぁ星歌さんと姐御(酒カス)の所に戻るぞと振り返ったところで、見覚えのある顔と鉢合わせた。

 

「あ、海さん」

 

 結束バンドのベーシスト、山田ちゃん。

 あちらも俺に気付いたようで、スススと近付いてきた。

 

「海さん、ハンカチ持ってません?」

 

「え? 持ってるけど」

 

「貸してくれません?」

 

「いいけど...」

 

 何だこの子、出会い頭にハンカチなんて要求してきて。別にいいけどさ。

 

「ありがとうございます。今日ハンカチ忘れて、シャツで拭くか悩んでたんです」

 

 俺のハンカチで丁寧に手を拭く山田ちゃん。この子けっこーいいとこのお嬢さんらしいけど、育ちが良のか悪いのかイマイチ分かんねぇな。

 

「あれ、そういや山田ちゃん一人なの?」

 

「みんなは体育館います。私はちょっとお花摘み。体育館のトイレ、混んでたんで」

 

 なるほどね。

 

「調子はどう? ライブ、上手くいきそ?」

 

「私は完璧に()れます。上手いので」

 

 相変わらずすげー自信だな。強がりっぽいけど、そこまで言えるのなら十分だ。

 

「それに、これは郁代とぼっちの文化祭だから。私がミスとかありえない」

 

「違うよ。これは“結束バンドのライブ”だ。キミも主役だよ」

 

 そこは履き違えちゃいけない。

 確かに今日は喜多ちゃんや後藤ちゃんの学校の文化祭だが、出演するのはあくまで結束バンド。他人事なんかじゃないし、二人だけのライブじゃない。四人の舞台だ。

 

「ま、いい感じに楽しみな。昨日も言ったけど、演者が楽しんでるライブが一番盛り上がるもんだよ」

 

 ハンカチを受け取り、「じゃ」と立ち去る。

 ここで長話したら間に合わない。山田ちゃんもだし、何より姐御の体内アルコール指数を薄める作業が。

 

 さてさてあの酒カスベーシスト、まーた変なことやって星歌さんにシバかれてないだろうな?(「酔い覚ましにはやっぱ追い酒っしょ!」とほざき飲酒を止めなかったため現在シバかれ中)

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「じゃ、また後でね」

 

 そう言い、海さんは駆けて行ってしまった。何か用事があるのかもしれない。

 私も行かなきゃ。虹夏に怒られる。まぁ別に怒られるくらい慣れっこだし、右から左に流しておけばすぐに収まるから構わないけど。

 

「四人のライブ...」

 

 当たり前のことだけど、忘れていたことでもある。

 今日の主役は郁代とぼっち。だけど、私や虹夏だって主役。

 

 正直、文化祭ライブには良い思い出なんてない。昨日の夜、いや今だって、油断したら以前自分の文化祭でやったお通夜ライブがフラッシュバックしてしまう。トラウマだ。

 だからこそ「今日の主役は郁代とぼっち」って考えて、それは確かにその通りだと思ってたし二人にとって良いライブにしたいとは思うけど、もしかしたら心のどこかで逃げの意識があったのかもしれない。「私は主役じゃないし」と。

 

「......うん」

 

 頑張ろう。

 元より手を抜く気なんてサラサラないけど、意識を改めて、精一杯頑張ろう。

 私は失敗なんてしない。ベースが上手いから。けど、『上手に弾くこと』と『最高のライブ』は決してイコールなんかじゃない。

 ただ『上手くやる』んじゃなく、『最高のライブ』になるように。

 ただの『最高のライブ』じゃなく、全員にとって『最高のライブ』になるように。

 

 ...意気込んだら喉乾いたな。さっき海さんに奢ってもらえば良かった。あの人、なんだかんだ言って飲み物とか軽食くらいは奢ってくれるんだよな。虹夏と一緒でチョロい。

 

「あ、そうだ山田ちゃん」

 

 ビクッ、と肩が跳ねる。

 もう行ったと思っていた海さんが戻ってきた。

 なんだろ。チョロいとか思ってたのがバレたのかな。さすがにないか。仮にバレても海さんなら「ふざけんなよ山田ア!」って言うだけで普通に許してくれそう。チョロいし。

 

「言い忘れてたけど、今日須田も来るから。今授業終わって向かってるってロインきたから、結束バンドの出番にはギリ間に合うと思うよ。それだけ伝えとかなきゃと思って。そんじゃ、ライブ頑張ってね」

 

 

 ..................えっ。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 結束バンドの出番が近づき、姐御の顔に無理やり水をぶっ掛けて多少は酔いを醒ましてから体育館に入る。

 

 今は結束バンドの二バンド前の子たちが演奏していた。軽音部の子たちらしい。多少拙い部分は目立つが、みんなしっかり練習してきているのは伝わってくる。何よりみんな楽しそうに演奏しているのが良い。青春だね。

 

 演奏が終わり、転換の間に観客が流れる。目当てのバンドが終わったのか、はたまた時間的にこれ以上いれないのか、結構な大移動だ。この際に前に行き、前から五列目まで進む。この調子なら結束バンドの時には最前列に行けそうだな。

 

「高校の文化祭ライブなんて卒業以来ですけど、やっぱこう、良いですね」

 

 次のバンドを待ちながら、星歌さんに言ってみる。

 

「結束バンドほどじゃないな」

 

「そりゃあの子たちと比べたら技術は劣るっすけど、一生懸命やってて良いじゃないですか。こう、雰囲気的なのが」

 

 星歌さん、シスコンだからなぁ。

 どうしても結束バンド(虹夏ちゃん)優遇スタイルになっちゃうんだよな、この人。

 

「ふん。高校の軽音部なんかでわちゃわちゃやってる奴らなんて目じゃないね。音楽は遊びじゃねーんだぞ」

 

 姐御は姐御で何言ってんだ?

 俺らみたいな音楽ガチ勢とは違って、あの子らは音楽に命かけてないから。多分。世間一般の皆々様においては音楽なんて娯楽の一種だし、それは全然悪じゃないでしょ。

 俺らだって遊びでゲームをするけど、そのゲームに命かけてやってるプロもいる。畑が違うんだよ。

 

「あいつらチャラチャラしやがって、こちとらテメーのおもちゃじゃねーんだそクソが...」

 

 あ違う、これトラウマだ。

 姐御、高校の時はすみっコぐらしやってたらしいからなぁ。その時に軽音部から何かされたのか? 野球部とかサッカー部辺りにも苦手意識持ってそう。

 

 しばらくそっとしておこう。

 そう思い、ステージに目を向ける。ちょうど幕が上がり、次のバンドが始まるところだった。

 

『続いてのバンドは《chaos eden》の皆さんでーす』

 

 かおすえでん。

 随分攻めてんな、メタルバンドか? オラ、ワクワクすっぞ!

 

『どーもー! 《chaos eden》でーす! お前ら、盛り上がってるかー!? 今日はお前らととびっきりの思い出作ってくんで、よろしくなー!!』

 

 いや違うな。このノリはメタルじゃない。キラキラバンドだ。

《chaos eden》はそのノリに違うことなく、今年流行した『俺ってこんなにクズなんだぜ、振り回しちゃってごめんねテヘペロ』みたいな曲や『彼女にフラれちったわめちゃテンサゲぴえん。いなくなって初めて気付く、キミの大切さ』みたいな曲を披露していく。

 別にそういう曲が嫌いってわけじゃないんだけど、なんていうかこう、しんどくなっちゃうね色々。姐御や星歌さんも悶えてら。でも周りはなんか盛り上がってるんだよなぁ。

 まぁ感性なんて人それぞれだし、俺らが“陰”側でしかも逆張りなだけなんだろうけど。実際流行ってる曲だしな。

 

「これが今流行ってるバンドの曲? 最近の邦ロックはマジでなんなんだ。口を開けば女だ、タバコだ、クズな俺だってよぉ。わざわざバンド聴くような奴らはみんな恋愛もロクにできない惨めな陰キャなんだよ、もっとリスナーに寄り添った歌詞を書け」

 

 過激派すぎて笑う。星歌さんこんな性格だったっけ?

 

「つーかなんでこいつらバンドのライブでペンライト振り回してんだよ...」

 

 着実にダメージ受けてんな星歌さん。

 姐御はもう息してねぇ。キラキラの暴力に耐えきれなかったか。まぁ酒飲まれるよりマシだから良いけど。

 

「ガールズバンドとかのライブだと結構見ますけどね、ペンライト」

 

「そういやお前ら(Capliberte)と同期のガールズバンドのライブ、観客がペンライト振ってたな」

 

「見たことあるんですか?」

 

「まぁな。当時、勢いが凄かったからな。お前らの世代、黄金世代ってまで言われてんだぞ。その頃はあたしもバンドやってたし、チェックはしてた」

 

 そうなのか。

 まぁ俺の周りのガールズバンド、ちゃんと成功してたしなぁ。プロになったり、ワンマンじゃないけど武道館でライブやったりしてたし。

 

「特に、大ガールズバンド時代なんて言われてた時に出てきたお前ら(Capliberte)の衝撃が凄かったな。若い世代で台頭してきてたバンドはほとんどガールズバンドなのに、男だけのバンドで世代最強の功績残したし」

 

 えへへ、それほどでも(大照れ)

 確かに俺らが一番カッコよかったしな。そこは誰にも負けてるとは思ってない。

 

 勝手に自画自賛していると、chaos edenの出番が終わった。またも観客の大移動が始まる。

 

「うぅ...きもぢわるぃ......ぜんぶせいしゅんのせいだぁ...」

 

「酒だろ」

 

 青春コンプレックス抱えすぎだなこの人。

 最前に行きたい俺と星歌さんだが、かと言って姐御を放置するわけにもいかず、なんとか引きずって移動する。放置したら姐御が暴れた時に抑える奴がいなくなるからな。マジで面倒だよこの人。

 

『続いてのバンドは、《結束バンド》の皆さんです』

 

 最前に位置取り、生気を失った姐御の頬を往復ビンタして意識を取り戻させたところで、ちょうどアナウンスが流れる。

 緞帳が上がり、《結束バンド》のみんなの姿が現れた。

 

「「「「喜多ちゃーん!!」」」」

「「「キャー!!!」」」

 

 歓声が上がる。

 叫ばれた声の中には喜多ちゃんの名前が多いが、どこからか「ひとりちゃーん」という声も聞こえてきた。良かったね後藤ちゃん。

 にしてもさっき「お姉ちゃん」って言ってたあの幼女とその母親っぽい人、なんか後藤ちゃんに似てない? 家族?

 

「お、きたきた。おーい! ぼっちぢゃーん見に来たぞぉーう! 頑張れぇー! かっけぇ演奏頼むよーー!! うええええぇいっ!」

 

 うわなんだこいつ。

 後藤ちゃんもさすがに目を逸らしたな。俺でもそうする。正しい行動だ。

 

「え、おい無視すんなよー! おいこら〜! きくりお姉さんだぞー!」

 

 うるせぇなこいつ。

 周りもザワつき始めた。マジ黙れよあんた。

 あ、何お前酒飲んでんだよ! さっき全部取り上げたはずだろ!? どこに隠し持ってやがった!

 

「てめー○ねや...!」

 

「ちょ、先輩ギブギブ...! 腕ってそっちには曲がらないからッ...!」

 

 星歌さんの卍固めがキマる。

 素早い上に綺麗だな、芸術点をあげたい。才能あるよ星歌さん、プロレスの。

 

「おい関口手伝え、こいつ外に放り出すぞ」

 

 そのまま締め落とせばいいんじゃないかな。

 まぁそれは冗談として。

 

「いや、縄で縛ってここに置いとく方がいいっすよ。外で暴れられても面倒ですし」

 

「マジでクソだなコイツ。...てか関口、お前今どっから荒縄出した?」

 

「こうなることは予想できてたんで、予め用意してました。緊急用のバールもありますよ」

 

「それで何する気だったんだよ怖ぇよ」

 

 姐御が来るって分かった時点で縄は用意してた。いざって時の対御剣(某アイドル事務所プロデューサー)用に家には常備してあったからな、荒縄。

 緊急用のバールとはもう五年の付き合いだ。こっちは不審者用。人気アイドルと繋がりがあると何かと物騒なんだよな。

 

 抵抗する姐御を縛り上げながら、ふと視線を感じてステージを見る。

 後藤ちゃんとばっちり目が合った。

 今は動揺しているが、さっきまでは覚悟の決まった、真っ直ぐな目をしていた。あれだけ嫌がっていた文化祭ライブの本番ステージに立ってあれだけの目をしているのは、少なからず成長が伺える。

 

 ───やっぱりすごいなぁ、若い子は。こんな短期間でここまで精神が成長するんだから。

 

「見に来たよ。かっこいい演奏、期待してる。頑張ってね」

 

 期待。

 そんなものはプレッシャーにしかならないし、ちょっと前までの後藤ちゃんだったら臆してしまってもおかしくない言葉だ。

 けど、今の後藤ちゃんは違う。俺の...俺たちの期待に応えられるだけの度量がある。証拠に、俺の言葉を受けてもたじろぐことなく、その目にはより一層の強い意志が篭っているように見えた。

 

『うぅ〜...』

 

 え何。今の唸り声、喜多ちゃん?

 なんでそんなのマイク通してお届けしちゃうんだよ。

 

『えー...こほん。私たち結束バンドは、普段は学外で活動しているバンドです』

 

 あ、MC始まった。

 気を取り直して感が強い咳払いだったけど...全部姐御のせいだな。間違いない。ほんと演奏中はふざけた真似すんなよマジで。

 

『今日は私達にとっても皆にとってもいい思い出になるようなライブにします! それでもし興味がでたらライブハウスにも観に来てくださーい!』

 

 やっぱり喜多ちゃんは肝が据わっている。

 これだけの観客を前に気負った様子や、まして緊張してガチガチだなんてこともなく。人を魅力する明るい笑顔でハキハキと喋っている。あれはすごい才能だ。フロントマンとして天性のものを感じるな。

 

『それでは聴いてください! 一曲目、「忘れてやらない」!』

 

 ライブが始まる。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 伊地知ちゃんのフォーカウントから後藤ちゃんが入り、山田ちゃんと喜多ちゃんも続けて入ってくる。

 

 ベースは音がブリブリで、さながらスリーピースバンドのような存在感がある。それでも他を邪魔するような煩わしい音ではなく、しっかりと地盤を固める良い音だ。音作りはしっかりしている。エフェクターってよりアンプでの音作りだ。さすがだな。

 

 伊地知ちゃんも輪郭がはっきりしたドラムで、さすが先輩リズム隊といったところか。後輩二人をしっかり支える演奏だ。

 

 後藤ちゃんはやっぱりギターヒーローのような演奏はできていないが、それでも最初の頃と比べれば随分と安定してきた。

 今日はダンボール戦士でもないし、少し不安そうな表情こそしているものの、そこらの軽音部よりは弾けている。高校生って括りで見れば十分すぎるほどだ。

 

 そして喜多ちゃん。この曲のイントロではバッキング(喜多ちゃんパート)がない。そこで手拍子で観客をノせるパフォーマンスを見せ、笑顔のままギターに手をかける。

 最初のコードはほとんど無駄な音を鳴らすことなく、粒の揃った綺麗な音が出ていた。無駄な力が入っておらず、リラックスして弾けている証拠だ。

 そしてずいぶんと苦戦していたチョーキング*1も、今では問題なく鳴らせていた。

 歌パートに入っても演奏が崩れることはなく、ほぼ安定して弾けている。それどころか、しっかりと観客()を見ることもできているし、ウインクなんてパフォーマンスをする余裕も見せている。

 

 ほんの数週間前まで力任せにストローク*2し、マイクと自分のギターしか見ていなかった初心者とは思えない成長ぶりだ。

 ここ最近は頻繁に練習を見てきたからか、驚くようなことはない。

 だが、ただただ感心する。練習を見たと言っても、たかだか二週間程度の話。そんな短期間でここまで成長するなんて、喜多ちゃんは本当に努力家だと思う。

 

 本当に、よくここまで成長して......

 

「へぇ。結構ちゃんと......うわ、何泣いてんだよお前」

 

「いやぢょ゙っと、親の気゙持ぢが分がっで...」

 

「何言ってんだお前」

 

 人にギターを教えることは今まで何回かあったし、その成長ぶりに感動してしまう時もあったが、涙が出てきたのは初めてだ。これが““歳””ってことなのかなぁ。

 

 というか、歌詞もなかなかクる内容だ。

 分からないが、これが後藤ちゃんの本音がブチ込まれた歌詞なのだとしたら。

 文化祭ライブに出たいけど出たくない、大勢の前で恥をかくのが嫌だ。そう踏み留まっていた彼女が、一歩を踏み出してこのライブに臨んでいる。今もステージ上で精一杯未来へと進んでいる。だからこそいつもの後藤節のように見えて、どこか前向きな、けれどやっぱり反逆が見え隠れした歌詞なのか。そう思うと涙が止まらない。喜多ちゃんの練習見てる時に何回も聴いてるはずなんだけどな。

 つーかダメだ、最近マジで涙脆い。年下の子の頑張ってる姿とかその成長とか、ほんと泣いちゃう。

 

 

『ありがとうございました! 一曲目、「忘れてやらない」でした!』

 

 ズビズビやってるうちに一曲目が終わり、MCに入った。

 ポケットティッシュを取り出して鼻をかみつつ、MCに耳を傾ける。

 

『それじゃあ二曲目に入る前に、《結束バンド》のリーダー、ドラムの伊地知虹夏先輩です!』

 

『皆さん、はじめましてー! 盛り上がってますかー!?』

 

 伊地知ちゃんに応えるように観客が沸く。

 良かった、ちゃんと盛り上がってるみたいだ。オリジナル曲でここまで盛り上がるのもすごいな。後藤ちゃんもホッとしているように見える。

 

 ...でも、ちょっと気になるところもある。

 

「わりと頑張ってんな」

 

「ですねー......でもぼっちちゃん...」

 

「ん?」

 

 縛られた姐御が珍しく真剣な顔をしている。

 姐御も気づいたのかな。酔っ払ってるように見えて、聴くとこはちゃんと聴いてるのか。

 

『えーっと、うちのベースの山田りょう曰く、結束バンドはMCがつまらないそうで...どの口が!? って思うんですけど、面白いMCができるようになるまでライブ告知だけにしときますねー!』

 

 ネタも無事ウケたようで、あまり大きくはないが笑いも起こった。良かったね、MCでスベると次の演奏にも影響するから。

 

『って、まだ次のライブは無いんですけど、もし気になるーって人がいたら、ボーカルの喜多ちゃんと───』

 

「「せーのっ、喜多ちゃーん!!」」

 

 喜多ちゃん、やっぱ人気高いな。男女問わず人気者だ。

 

『ギターのぼっ...あっと、後藤ひとりちゃんに、今度声かけてくださーい!』

 

 拍手が起こり、後藤ちゃんの名を呼ぶ声もする。

 上手い具合に纏まったMCだ。俺より上手いな(ガチ)

 

『それでは聴いてください! 二曲目で、「星座になれたら」!』

 

 喜多ちゃんと山田ちゃんがドラム(伊地知ちゃん)の方へ体を向ける。それに一瞬遅れ、後藤ちゃんも伊地知ちゃんの方へと体を向けた。

 やばい泣きそう。前より確実に結束してきてるんだねキミたち。おじさん嬉しいよほんとに。

 

 みんなでしっかり目を合わせた後、伊地知ちゃんがカウントを始める。

 スリーカウントでドラムのシンバルが入り、両ギターとベースも入ってくる。

 おい山田なんだそのスラップおしゃれだな。つーかJKが考えるベースラインじゃないだろこれ。マジでキミ、なんでベースソロやらないの? やれよ(圧)

 

 喜多ちゃんも「こんなの無理ですよ! 人が手を出すには早すぎますって!」と泣いていたカッティング*3を綺麗に鳴せている。二番Aメロのカッティングだけは最後まで安定しなかったが、あれはもう仕方ない。初心者がギタボできるレベルを超えている。あれは意地悪だよ山田ちゃん。

 

 ドラムはいつものハイテンポなものではなく、ミディアムテンポの十六ビート。いわゆるファンクビートというやつだ。伊地知ちゃんってこういう叩き方も出来るんだなぁ、と感心する。

 

 んで後藤ちゃんだけど...大丈夫か?

 演奏自体は問題ない。Bメロのペンタもちゃんと弾けているが...

 

「チューニング狂ってんな、あれ」

 

「あ? 須田? お前なんだよ急に。どっから湧いた」

 

 突然耳元に届いた聞き慣れた声。見れば、いつの間にか須田がいた。

 

「酒クセーやつが最前にいるって聞いて、お前ら前にいるんだって思ったからスルスルっと来た」

 

 草。

 

 とか言ってる間に、『プツン』という微かな音が聞こえてきた。

 ステージ、後藤ちゃんのギターを見ると、一弦が切れてしまっている。

 

「ヤバくね? 流れ的にそろそろソロくるだろ。二弦のチューニングもズレっズレだし、ギタボの子も初心者なんだろ? フォローなんてできないぞ」

 

 確かに、喜多ちゃんが上手くなったとはいえまだソロをカバーできるレベルじゃない。

 せめて弦が切れてなければやりようもあっただろうが、このままじゃソロ無しになってしまう。

 それはそれで良いんだが、やっぱり物足りなさは残るだろう。

 それに、後藤ちゃんのメンタルも心配だ。せっかく勇気を出してライブに臨んだのに「自分のせいでライブが台無しに」なんて思ってトラウマを抱えてしまうのは、今後のバンド活動にも影響が出てしまう可能性がある。

 

 そんなのはあんまりだ。後藤ちゃんの勇気を裏切る結果は見たくない。

 今から弦を変える? ダメだ。俺は今替えの弦を持ってないし、そもそもあの感じはギター側に故障がある。ペグ辺りが壊れているんだろう。仮に替えられたとしても、ソロには間に合わない。

 ギターそのものを変える? これもダメだ。事情を話せば次のバンドの子が貸してくれる可用性もあるが、やはり時間が足りない。

 ピッチシフター*4を噛ませる? これもダメ。後藤ちゃんの足元にあるエフェクターボードの中にピッチシフターは見当たらないし、PA側でどうにかできたところで後藤ちゃんに伝える手段もないし、伝えられたとしてもその頃にはギターソロなんて終わっている。

 

 どうする? どうすれば良い? どうすれば後藤ちゃんを助けられる?

 必死に考えても、出てくる答えは「不可能」の三文字だけ。手遅れだ、どうしようもない。

 それでもどうにかならないかと、無駄だと分かりきっている思考を巡らせる。が、やはり解決策など思い浮かばず、ついに空白のギターソロを迎え────

 

 

「───ッ!」

 

 

 

 ────ギターソロが聴こえた。

 後藤ちゃんがギターからじゃない。喜多ちゃんの方から。

 

 本来の『星座になれたら』のソロとは違う、オクターブで織り成される簡単なソロ。

 だが簡単とは言っても、ギター歴半年もない人間が即興で考えたアレンジとしては上等過ぎるし、何より直前に考えついて即実行に移せる胆力は計り知れない。

 

 

 喜多ちゃんが生み出した八小節分の猶予。

 それで冷静になったのか、或いはとち狂ったのか。

 姐御が飲み散らかしていたワンカップの瓶を急いで拾い、それで弾き始める。

 

 

「...は、ははっ! すげぇなオイ!」

 

 思わず漏れた声。

 だが言わずにはいられない。八小節の猶予を生み出した喜多ちゃんを、それに応えて土壇場で足掻いてみせた後藤ちゃんを、そして後輩を信じてもう一回し演奏したリズム隊二人を、称賛せずにはいられない。

 

「この土壇場でボトルネック奏法とか、普通やるかぁ?」

 

「あれならチューニング狂ってても関係ないもんね」

 

「生で初めて見たわ、ボトルネック奏法」

 

 周りからは「なにやってんだあのギター」「分からねーけどすげー!」といった声も聞こえてくる。音楽をやったことがない人間でも、あれ(ボトルネック奏法)は見た目のインパクトも強く『あれはすごい技術だ』ということが伝わるんだろう。今度俺もライブでやってみようかな。練習しとこ。

 

「へへー、私がお酒飲んでたらたまには良いことあるっしょー?」

 

 黙れ妖怪、今回は例外中の例外だ。

 けど今日だけは褒めとくか。あとでウコン奢ってやるよ。明日からは人のライブで酔い潰れるのは許さねーからな。

 

 ギターソロも無事終わり、Cメロに入る。

 ここも本来は二弦、一弦を使うパートだが、ここは残っている他の弦でカバーしていた。最大の山場(ギターソロ)を乗り越えたからか、後藤ちゃんも柔軟に対応できている。

 

 その後は他の弦が切れたり、ギターがへし折れたり、ギターが燃えたり、機材トラブルで音が出なくなったり、なんてこともなく曲が終わる。

 

『えー、ホントはもう一曲やる予定だったんですけど、機材トラブルで今日はここまででーす! えっと、これだけは言わせてください! 今日は本当にありがとー!! この日のライブを皆が将来自慢できるくらいのバンドになりまーす!』

 

 

 歓声が上がる。始まりよりも数倍大きな歓声だ。

 いろいろあったが、結果的に良い結末に至って良かった。本当に良かった。

 

「うわ、何泣いてんだよ関口」

 

「だっでぇ゙...」

 

「こいつさっきから泣いてんだよ。お前何? 結束バンドの親?」

 

 だっでぇ゙...!(保護者面)

 

 歓声の中には後藤ちゃんを褒める声も少なくない。「ご......なんとかさん」ってなんだよお前ら。後藤くらい一回で覚えろ、結構ポピュラーな苗字だぞ。

 

『ほら後藤さん! 一言くらい何か言わなきゃ!』

 

『えっ、あっ うっ』

 

 出た、後藤ビートボックス。才能ある気がする。一発芸にちゃんと習得してみたら? そしたら『ビートボックスの後藤』で覚えてもらえるかもよ。絶対黒歴史だけど。

 

 馬鹿なことを考えていたら、後藤ちゃんがギターを下ろした。そしてフラフラと歩き出し、

 

「「「えっ」」」

 

 ────そのままステージから落下する。

 

「うわっやば! 落ちてくるぞ!」

 

「避けろ!」

 

 避けるなよ。

 恐らくダイブのつもりで飛んだんだろうが、誰一人として受け止めてくれる人はおらず。そのまま床に叩き落ち、ビターン!! と大きな音が鳴り響く。

 

 ...。.........。...............。

 

「「ぎゃはははははは!!!!!」」

 

 静まり返っていた体育館に、俺と姉御の笑い声が木霊する。

 無理、これは無理! クソおもろいんだが!?

 これはさすがにぼっちちゃん。俺も今度からぼっちちゃんって呼ぼうかな。いややっぱ可哀想だからやめとこ。

 

「ぷくく...ぼっち、お前は伝説のロックスターだ...! ぷふふ...」

 

「お前ら少しは心配しろ!!」

 

「ホントだよ!」

 

「ご、後藤さん!? 大丈夫!?」

 

 うひゃひゃひゃひゃひゃ!

 ごめんだけど無理これマジ無理腹筋ちぎれる!

 さすがすぎるだろ、マジで尊敬するわ後藤ちゃん。最後に全てを持っていきやがった。さっきまでの感動も忘れて笑いが込み上げる込み上げる。いやある意味感動はしてるけど。

 

「最低だなお前」

 

「須田だって今のは面白かったろ」

 

「面白いより心配が勝つわ」

 

「本音は?」

 

「クッソ面白かった」

 

 お前のそういうとこマジで好きだよ。

 

「はー、笑った。後藤ちゃん大丈夫ー? 生きてる?」

 

「.........」

 

 返事がない、ただの屍のようだ。

 もしかして脳でも揺れたか? だとしたら笑い事じゃないな。

 

「おぶっていくのは危ないかな......すんませーん! 担架とかってありますかー!?」

 

「あ、はーい! 今持っていきますー!」

 

 大声で呼びかければ、どこからかそんな返事が帰ってきた。高校生にしては早い対応だな。教師でもいるのか? だとしたら姐御を隠さなきゃいけないんだけど。

 

「すいません星歌さん、後藤ちゃんのことお願いしても良いですか?」

 

「は? いやまぁいいけど...お前は?」

 

「俺は姐御を隠してきます」

 

「私!? 隠されんの!?」

 

「は? なんで?」

 

「もしかしたら教員が来るかもしれないんで。酒気帯びどころか酒持って校内に入ってきてる姐御を見られたくないじゃないですか。ほかの場所なら見捨てれば良いだけですけど、今回はほら、後藤ちゃんの件と関係があると思われると面倒だし」

 

「あー、なるほど」

 

「納得するなよぉ! 二人して私のことなんだと思ってんだ!」

 

「ゴミ」「酒カス」「面倒なやつ」「狂人」「うちでシャワー浴びていくな」「たかり」

 

「あァァァんまりだァァアァ!!!!」

 

 うるさいぞ廣ディシ。

 社不って言わなかっただけ感謝しろ。

 

「やーめーろー!!!!」

 

 暴れる姐御を引き摺り、体育館を移動する。

 暴れんなよ...暴れんなよ...

 外に出て、近くの水道にまで行き、半ば無理やり水を飲ませる。

 

「や、ばべっ、ばべぼ(やめろ)っ...!」

 

 やりすぎた。さすがに溺れるなこれ。ごめんね。でも校内で酒気帯びてるあんたが悪いんだぞ。

 

「水飲んで少しでも酒抜け。そんで学校出るまでは酒を出すなよ。飲むなんてもっての外だからな」

 

「高校とかいう闇の闘技場で飲まずにいられるか!!」

 

 高校は闇の闘技場じゃねーよ。

 でもまぁ、姐御は高校に良い思い出がないらしいし、トラウマの巣窟でシラフでいるのがキツいってのは分かった。けど酒は飲むな頼むから。俺だってタバコ吸うの我慢してるんだぞ(ヤニカス)

 

「打ち上げなら飲んでいいから、マジでこれ以上校内で飲むなよ」

 

「奢り!!?」

 

 ヒモかあんたは。

 

「...まぁいいよ。奢ってやるから、マジ頼むぞ」

 

「わかった!! わーい!!」

 

 無邪気か?

 いや邪な感情しかないな、この人には。

 

「おーい、関口ー」

 

 酒が絡まなくてもこんなに聞き分けがよければなぁと、ある種親のような感情を抱きながら姐御に水を飲ませていたら、体育館から須田が出てきた。

 なんだろ、後藤ちゃん関係の報告かな?

 

「色々あって俺とお前で今から演奏することになったから。三十秒で支度しな」

 

 

 ☆一体何があったんだってばよ─────

 

 

 

 

*1
弦を持ち上げて(または引き下げて)音程を上げる奏法のこと

*2
ピックを持ってギターの弦を弾く動作のこと

*3
コードストローク中に意図的に弦の振動を止めて音を切る奏法

*4
音程を変えることができるエフェクター。バチくそパワープレイだが、このエフェクターでオクターブを上げれば三弦でも高い音を出せる




色んな方が言ってますが、喜多ちゃんのフォローソロ終わり、山田と虹夏ちゃんが目を合わせて頷きあってるのが隠れエモエモポイントです。
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