「大変よ! 次のバンドがトラブルで出られないって! その次のバンドもまだ会場に来てないわ!」
「文化祭の目玉だぞ! 代わりは...代わりはいないのか!?」
「自分が弾きましょうか?」
「あ、あなたは...!?」
「須田です」
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
『ってことがあった』
『お前はプロとしての自覚を持て』
『関口には言われたくない』
『なんだァ? テメェ...』
言われるがままにステージに上がり、後藤ちゃんの付き添いで保健室に行ったらしい喜多ちゃんが置いていったギターを受け取り、大勢の観客の注目が集まるステージ上で、山田ちゃんのベースを持った須田とのやりとりをマイクで体育館全体にお届けする。
どうしてこうなった。説明されても訳がわからなかったよ。
『てなわけで三十分くらい繋ぐことになったわけだけど...どうする? ドラムいねぇや』
『どうもこうもねぇよ、なんなんだよマジで』
『まぁテキトーにやるかー』
話聞けや。
『曲どうすっかなー。何か曲のリクエストとかある人、いますー?』
観客に向かって問いかける須田。
バカヤロウ、突然出てきた見知らぬ大人に高校生が臆さないとでも思ったか? 普通怖いし意味が分からないし理解が追いつかないんだよ。
「じゃあ《Y〇ASOBI》のアイ○ルで」
細美いたんかワレェ!!!
「ア〇ドルってあれでしょ? ゲッ〇ー! のやつ」
「そう、それ」
「違うよ、ト○コのOPだよ」
「それでもある」
どっちも違うが。
てか今の後藤ちゃんのクラスメイトたちだろ。生徒会役員ちゃんと...もう一人は名前知らないな。けど顔は覚えてるぞ。
『アイ〇ルね、おっけー。んじゃ関口、やるぞ』
『ふざけろ』
ドラムもいなけりゃア〇ドルって打ち込みも相当多いだろ。せめてちびっ子革命児か熊の中の常識人(DJ)呼んでこい。
『あっるぇ〜? 関口さん、弾けないのぉ〜?』
『んだテメェ巻き舌やめろ腹立つ! いいよやってやんよ!!!』
『お前、マジでいくつになってもチョロの助だなぁ』
うるせぇ、覚悟しやがれ!(?)
『んじゃテキトーに合わせるかー。カウントいる?』
『須田が入れば俺も入るわ』
『おけ』
だいぶ無理ゲーだがやるしかない。
歌は...うーん、歌詞覚えてねぇや。ギターでメロディ弾けばいいだろ。
ほぼ即興セッション、やってやんよ────!
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「ってことがあったんだよ」
文化祭も終わり、結束バンドの打ち上げの場にて。
お酒を飲んでいる海さんが「あははー、大変だったよー」と軽い調子でおかしなことを言っている。
ひとりちゃんがダイブ(落下)したあと、そんなことがあったんだ...
ちょっと見たかったなぁ。私はひとりちゃんの看病で見れなかったし。いや、ひとりちゃんのせいってわけじゃないけど。
「そういや驚いたんだけど、今の高校生でも
「え!? どこの誰にですか!」
詳しく説明してください!
今、私は冷静さを欠こうとしています!
「軽音部の男の子。その子のお兄ちゃんが
そ、そうなんだ。
いや、男子でも安心できない。だって海さんは海ちゃんにもなれるんだもん。“そっち”の説も捨てきれない。
「アンコールも凄かったよな。トリでもないのによ。結局五曲やってたな、お前ら」
ごきょく。
「可愛くてご○んの弾き語りも良かったです!」
あ、それはこの前海さんのイソスタライブで観た。生でも観たかったなぁ。
「ジ〇リの即興メタルアレンジは
そっきょーめたるあれんじ。
「ジ〇リと、っていうかアニソンとメタルの親和性ってすげー高いんだよ」
「ん、ジ〇リはそもそも世界観がメタル」
「山田ちゃん分かってるぅ!」
海さん、テンション高いなぁ。お酒飲んでるからかしら?
「そもそも《IMA〇INARY FLYING MA〇HINE》っていうジブリのメタルカバープロジェクトがある」
「詳しいねぇ山田ちゃん」
「常識です」
「じょ、常識...最近は詳しくなったと思ってたけど、やっぱり私、まだまだなのかしら...」
「そんなわけないでしょ。安心しなよ喜多ちゃん、ふつー知らないから。ね、ぼっちちゃん」
「あ 《IMA〇INARY FLYING MA〇HINE》は、エットレ・リ〇ッティっていうイタリアのミュージシャンが始めたプロジェクトで、彼は《DISARM〇NIA MUNDI》っていうメロデスバンドのリーダーっていうか、ボーカル以外のパート全部やってるすごい人で、ボーカルもクリーンはエッ〇レが担当してるので実質彼だけのバンドなんですけど、あ エッ〇レ自身ジ〇リファンで特に『千と千〇の神隠し』がお気に入りって言ってて、あ でも私は『もの〇け姫』が好きで、メタルカヴァーも《Mon〇noke Hime》が好きですけど、あ でも《Country R〇ad》も良くって」
「おーけー分かった、ぼっちちゃんも『そっち側』なんだね」
「ぶ、ブレイクダウンからのギターソロは正義なのに......」
そういう話じゃないと思うんだけど。ひとりちゃんってやっぱりどこかズレてるのよね。
けどそういうのが分からないと、ひとりちゃんのこともリョウ先輩のことも、海さんのことも理解できないのかもしれない。
私、頑張るから!
「伊地知ちゃんと喜多ちゃんも『こっち側』に来なよ〜。こっちの水は甘いよ〜!」
「はい! 行きます!」
「か、海さんが言うなら......」
「やめろメタルバカ。虹夏たちをそっちの泥水に引き摺り込もうとするな」
海さんとリョウ先輩がいるなら泥沼でも喜んで!
「にゃはは。まーメタル云々はまた別の機会にするとしてぇ」
「別の機会とかねーよ、メタル押し付けんな」
にゃははって可愛い。
海さん、酔っ払うと可愛くなるし距離感もおかしくなるから心臓に悪いんだよね。いいんだけど。むしろドンと来いだけど。
「ぜーいんサイケ聴けよぉ! サイケはいいぞぉ〜!?」
「黙れヤク中」
「目が冷たい!? あたしやくちゅーじゃないしー!」
廣井さんは早くお酒やめた方がいいと思う。
私思うのよね、こういう大人になっちゃいけないって。そういう意味じゃ良い反面教師なのかしら?
「でも実際、サイケもいいよな〜。姐御ってどこから影響受けてんの?」
「え〜? まじめなはなし? んーっとねぇ...《マー〇ルシープ》とかぁ、《
まーぶ〇しーぷ。は〇はち。ど〇こ。
「あー、《八八》から影響受けてんのは分かるわ。リスペクト高い曲も結構あるよね。てか案外ちゃんと王道なとこ通ってきてんだ?」
「まーねー。関口はサイケきくの?」
「俺? そうだなー...《八八》とか《ド〇コ》も聴くよ。あと《ジミ〇ン》ね。ほかは有名どころしか抑えてないけど、《ドア〇ズ》とか《グレイ〇フル・デッド》。あとは《ハ〇カー・ドゥ》も好き。ハードコアチックで」
「はー。やっぱお前洋楽派なの?」
「んなこたないけど...確かに洋楽メインでは聴いてるな。ほら、HR/HMとか掘ってるとどうしてもね」
ぜ、全然話についていけないわ......
修行しなきゃ...!
「姐御はサイケ以外じゃ何聴くん?」
「ぷろぐれ!」
プログレ! これは知ってるわ! 音楽ジャンルよね、プログレッシブロック! 海さんの音楽講座で出たとこだ!
「きょーせきぐちたちがやってたのもぷろぐれだよねー。よあ〇びとかぎゃくばりはってぜーんぜんきいてなかったけどさぁ、あれはいいじゃーん!」
《YOAS〇BI》のアイ〇ルってプログレだったの!?
この前海さんに「これがプログレだよ」って聴かせてもらった、あの、なんだっけ? キングクリームみたいな名前のバンド。あれとは全然違くない?
「ねーねーひとりちゃん、プログレって、なんかこう、不穏な感じの静かな曲のことじゃないの? ほら、キングクリームみたいな名前のバンドとかそうじゃない。あれってプログレッシブロックよね? アイ〇ルとは全然違くない?」
「あ え、き、キングクリー...? ......あ、《キング・クリ〇ゾン》のことですか...?」
「そうそれ!」
キングクリ〇ゾン! なんだかかっこいい名前だわ! キングクリまでは合ってたのよね。惜しい。
「《キング・クリ〇ゾン》の話してる!」
「うわ、オタクが食いついた」
音楽の話に目をキラキラさせるリョウ先輩素敵!
「プログレってなんだろうって話をしてて」
「もー、やめなよ喜多ちゃん。オタクにそんな餌あげちゃ...」
「プログレは六十年後半にイギリスで生まれた音楽ジャンルで進歩的・革新的なロックを意味するものなんだけど代表的なバンドがさっきいってた《キング・クリ〇ゾン》でそのほかにも《ピンク・フロ〇ド》や《イ〇ス》ってバンドが先駆者としてある。サイケデリックロックを源流に持ってて変拍子とか転調なんかを多用した複雑な楽曲が特徴的でクラシックやジャズと融合させた技巧的な音楽なんだけどシンセサイザとかメロトロンみたいな当時最先端だった楽器も積極的に使ってる。基本的に大作主義っていうか長尺傾向にあってコンセプトアルバムっていうアルバム全体を一つの作品ってみなす概念を作ったのがプログレ。大作とか長尺ってのは違うけど、《YOAS〇BI》のア〇ドルは結構構成が複雑。転調も多いし電子音も盛りだくさん。この辺はボカロが流行りだした頃からDTMみたいなので日本でも細々人気だったんだけどアイ〇ルはアニメの話題性も含めて突然爆発した感じ。でもアイ〇ルはただのプログレってよりプログレッシブテクノポップって───」
「ほーら、こうやって早口オタクが爆誕する。目がキターンってしてるよ」
「リョウ先輩のお話、すごく参考になります!」
「えー...」
活き活きしてる先輩素敵!
「あっひゃっひゃっひゃ! リョウちゃん、やっぱ狂ってんねー!」
「狂ってないとバンドなんてやってない定期」
「関口、お前それ自分も狂ってるって言ってるようなもんだけど、それでいいのかよ」
「俺は狂ってますよ? 狂ってからが一人前って思ってます」
「ってこたぁわたしもいっちにんまえー!!」
「テメーはダメだ」
「なんでだよぉ!!」
賑やかな空気だ。
こういうの、私好きだな。
「うーっす。盛り上がってんなー」
暴れる廣井さんを店長さんがプロレス技っぽいので締め付けている途中、須田さんがお店に入ってきた。
「おっす須田。彼女、どうだった?」
須田さんは彼女さんと同棲しているらしく、打ち上げに行くなら許可が必要だって言って少し席を外していた。
いいなー、恋人と同棲。憧れちゃうわ。
「あんま羽目外しすぎないよーに、って釘刺された」
「彼女持ちも大変だなー」
「あと、関口が酔っ払って女に手を出さないようしっかり見張っとけって」
「なんで俺、お前の彼女に女絡みの心配されてんの?」
「いろいろあったからだろ」
いろいろあった!?
「詳しく...説明してください......今、私は冷静さを欠こうとしています...」
「私もです!」
伊地知先輩に続いて声をあげる。
いろいろって何!? 私、気になります!!
「...何お前、高校生にも手ぇ出してんの?」
「出してねーよ。まだ子供じゃん、さすがに手は出さねーわ」
「ほーん? ま、刺されんなよ」
「安心しろよ、不審者対策はバッチリだ。俺の《メタル・オブ・ナナナ》(バールのようなもの)は最強なんだ!」
「そういう話じゃねーし殺傷事件も勘弁しろ。俺、まだホワイトな状態でCapliberteの活動続けたいぞ」
子供...子供......
そっかぁ。私たち、子供扱いされてるのかぁ......
それはともかく高校生に“も”って何!? やっぱり海さんもバンドマンだってこと!?
詳しく説明してもらう事項が増えたわね...!
「須田さん! 詳しい説明を! 詳しく!」
「えっ、あ、うん。興奮してんな...えっと、喜多ちゃんだっけ。ギタボの」
「はい! 喜多です!」
「どうしてそこまで......」
海さんは黙っててください!
「いや、こいつ酔ったら抱き癖が出るんだよ。んで、抱き癖出るまで飲んだら記憶もほとんど残らないからほんとタチが悪くて」
「海さんお酒足りてます? 注文しますか?」
「え? いや、まだグラス半分残ってるし大丈夫だけど...」
「それに甘えたがりにもなるんだよな。普段は真面目に大人ぶってるくせにさ」
「すいませーん! このお店で一番強いお酒お願いしまーす!」
「喜多ちゃんやめて」
「へい、よろこんで!」
「店員さんも乗らないで!! 普通の! 普通のハイボールお願いします!」
「へい! 赤字覚悟の超濃いめハイボール! よろこんで!」
「言ってませんが!!?」
抱き癖甘えんぼ海さんすごく見たい! 絶対かわいい! 抱きつかれたいし甘えられたい!(邪念)
「あー、確かに。こいつ、量飲んだらそうなるな。あたしもやられたことある」
「「店長さん(お姉ちゃん)!?」」
「えー、わたしはやられたことないんだけどー?」
「関口もさすがにクズ相手には理性が働いたんじゃね?」
「先輩ひど!! わたしだってりっぱなれでぃーなんですけど!?」
「姐御が...レディ......?」
「なんで首かしげるんだよ関口てめぇ!!!」
「毎日きちんと風呂に入ってから出直してきてください」
「さいきんははいってるんだぞぅ!! せんぱいんちで!!」
「お前マジでそろそろ出禁にすんぞ。つーか光熱費払えクソニート」
「ニートじゃないんですけど!? せんぱいツンはげしすぎー! 妹ちゃんはわたしがいて楽しいよねぇー?」
「は?」
「せ、先輩や関口に負けず劣らずの目をするようになってきたね......酔いさめちゃった......」
今、店長さんとの血の繋がりを感じたわ。
先輩もいつかああいうサバサバした感じになっちゃうのかしら。
いや、でも海さんは店長さんには甘えんぼになったのよね...? ってことはもしかしてサバサバ系がタイプ...? うーん、私もなれるかしら? 難しそうね。
「まぁ姐御がクズなのは今に始まったことじゃないし、置いとくとして」
「おい、泣くぞ。大声で。成人女性が。いいのか?」
「須田も来たし、改めて乾杯しとくか」
「クッソカンパーイ!!!!!」
廣井さん......
それでいいのかしら......?
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「そんじゃあ《結束バンド》ライブ成功を祝して!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
海さんの音頭で、改めてグラスを鳴らす。
カンカンと高らかに鳴る音が、あたしたちのライブの成功をお祝いしてくれていた。
成功...だよね...? うん、最後にいろいろあったけど、結果的には盛り上がったし成功だ!
「いやぁ、それにしても凄かったなぁ、今日のライブ」
お酒を
「そういえば海さん、喜多ちゃんの練習見てくれてたんですよね? ありがとうございます!」
「どういたしまして〜。ってなんで伊地知ちゃんがお礼言うの? まいっか!」
海さん、酔ってるな〜。
でもまだ抱き癖も甘え癖も出てないな。もっと飲ませるか(闇虹夏)
「お前、喜多ちゃんの練習見てたの?」
「おー、頼まれてなー。若い子はいいぞー、成長が目に見えるくらいグングン育つ」
「スケベめ」
「スケベじゃねーよ」
言い方がスケベなんだよ、どこがだよバカ、と言い合う海さんと須田さん。バンド仲間同士、仲が良さそうで見ててほっこりする。
それにしても、喜多ちゃん羨ましー。あたしも海さんに練習見て欲しいけど、ドラムだしなー。ドラムのことでも海さんは色々教えてくれるだろうけど、やっぱりパートが違う人に教えてくださいってのも違う気がする。あーあ、あたしもギター、始めちゃおっかな。
「あ、成長っていや後藤ちゃんだよ。前のライブの時より断然上手くなってたし、何よりあのボトルネック。あれマジですごかった」
「あ、そう、ですか...? ふへへ......」
ボトルネック...あー、あの酒瓶で弾いてたあれ!
「ホントだよ! ぼっちちゃん、あんなことできたんだ! あれボトルネックっていうんだね。練習してたの?」
「あ いや、昔お父さ...ち、父に教えてもらったことがあって...」
「へー。後藤ちゃんのお父さん、ギターやってんだ?」
「あ いえ、昔バンドやってたらしくて。私が使ってるギターも、父から借りてるやつで...」
「そうなんだ。まー確かに、最近の子はレスポールなんて使わないし、ましてギブ〇ンのカスタムってなるとめちゃくちゃ人口少ないんじゃない? お父さんの持ち物ってんなら納得だわ」
うんうん、と頷く海さん。
「ボトルネック、ホントにすごかったなー。関口もアレできる?」
「まぁやれって言われれば出来るだろうけど」
出来るんだ。やっぱりすごいなぁ。
「でも弦切れてチューニングも直せなくて焦ってる時にアドリブで出来るかって聞かれると分かんない、ってか多分無理」
「お前でも無理か。やっぱ後藤ちゃんすごいな」
うちのリードギター、世界のCapliberte超え...!? ぼっちちゃんすごい!
「海さんはもしライブ中に弦が切れたらどんな対応するんですか?」
質問する。
ぼっちちゃんみたいに土壇場でのボトルネック奏法ができないって言ってる海さんだけど、長くバンドをやってたら弦が切れる経験だってあるはずだ。どんなフォローをするのか、純粋に気になる。
「そうだなー...まぁ無事な弦使ってその場でソロ作ったことはあるね。あとはうちのキーボーディストがめちゃ優秀だから、そいつがシンセで代わりにソロ弾いてくれたりするんだよ。その間にギターを交換して、ってこともあったかな」
...え、何それすごくない?
正直ボトルネックとどっちがすごいかって聞かれても分からないけど、どっちもすごいことだっていうのは分かる。
「シンセって電子ピアノのことですよね? ギターソロってピアノで弾けるんですか?」
「シンセって音が変えられるんだよ。ギターチックな音も出せるから、やれないことはないって感じ。まぁ普通に難しいしあの時は練習してたわけじゃないから、シンプルにうちのキーボーディストが化け物だっただけだけど」
ほえぇ。
やっぱりみんな上手いんだなぁ、Capliberte。
海さんも十分化け物クラスなのに、その海さんが「化け物」って言うくらいだし。
「フォローって話だと喜多ちゃんもすごかったよ。まだギター初めて数ヶ月なのにあそこまで弾けるようになったどころか、土壇場でギターソロ考えて、しかもそれをぶっつけ本番でやる度胸。ほんとにすげーよ」
「えへへ、もっと褒めてください!」
「俺の生徒は伸び代しかねぇ!! よーしよしよしよし!」
「キャー♡」
あ! 頭撫でられてる!
ずるい!!
「へー。このバール、意外と持ちやすいんだなぁ」
「OK、俺が悪かった」
いつの間にか盗ったらしいバールのようなもので素振りを始める須田さんに、一気に顔から血の気が引いた海さんが「落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない」とか言ってる。
「俺はリズム隊の方もすごかったと思うぞ」
次は無いぞ、とバールを置いた須田さんが言う。
え、リズム隊...ってあたしとリョウ?
「あー、あれなぁ。感動したわ俺。良い判断だったし、信頼関係っての? ちゃんと仲間を信じてるってのが伝わってきてさ」
「なー。関口なんてそれ見て号泣してやがったんだぜ? 『だっでぇ゙.....! 感動じでぇ゙.....! あの子゙だぢずごぐでぇ゙...!』とか言ってな。ウケる」
「うっせバカんなこと言わなくていーんだよアホ」
照れた!?
海さんが照れた!!
かわいー!(手遅れ)
「あー...なんの話だっけ? レスポールの話だったっけか。レスポールはいいぞぉ。ハム*1は正義だ」
なんか過激なこと言ってる。
照れ隠しかなぁ。かわいー!!(やっぱり手遅れ)
「そういえば、海さんってギターレスポールですよね。サブもレスポールなんですか?」
「基本はレスポールだねー。エド○ーズのが本妻で、ギブ○ンのレスポールカスタムも持ってるよ。後藤ちゃんと同じやつ。俺のはワインレッドだけど」
へー。ギターはあんまり詳しくないけど、レスポールはハードロックってイメージがあるし、やっぱりそっち系が好きだからレスポールなのかな。
「私のもレスポールですよね? ヘッドのところにギブ○ンって書いてあるし、もしかして私もおそろいですか?」
「んにゃ、喜多ちゃんのは違うね。喜多ちゃんのはレスポールジュニア。しかも喜多ちゃんのはダブルカッタウェイでめちゃくちゃ珍しいタイプだね。《KANA-BO○N》のギタボの人とおそろだよ」
「正確に言うと限定モデルだからすごくレア」
「そうなんだよ。山田ちゃんが喜多ちゃんに貸してるんでしょ? よく持ってたね」
「えっへん」
いばるないばるな。
どーせ高いんでしょ? レアっていうし。ろくに弾きもしないのにそんなの買うから万年金欠なんだよリョウは。
「リョウ先輩の持ち物で、すっごくレアで、さらに海さんが弾いたプレミア付き...!? 一生大切にします!」
「いや、自分の買いなよ」
海さんの言う通り。絶対自分のギター持ってた方がいいよ。
......海さんお触れプレミアかぁ。今度あたしも海さんにスティック握ってもらおっかな。いやでもスティックって消耗品だし...タム買うか。買って海さんに叩いてもらおう。
「ってかこれは後藤ちゃんもだけど、余裕あったらサブのギターも持ってた方がいいよ。今後バンド活動を続けていくならね」
「ギターは何本あってもいい」
金欠の言葉はともかく、海さんが言うならそうなんだろう。でも高校生にとって楽器ってすごく高価だからなぁ。ただでさえバンド活動でお金ないのにギターをもう一本、っていうのは厳しいかもしれない。特に喜多ちゃんはなんか海さんの推し活してるらしいし。あたしもお金たまったら海さんグッズ買おー。
「そういう関口はギター何本持ってんだよ?」
「今は八本スね。近々もう一本買うか悩んでます」
八本!? すごー...お金持ちだぁ...。
「レスポール二本と七弦、八弦、ストラト、テレキャス、あとアコギが二本っす。今悩んでるのは九弦すね」
きゅうげん。
「九弦なんていつ使うんだよ...」
「まぁ、新曲とか。次の曲に取り入れるか悩んでるんですよ。あとは遊びですかね。多弦って楽しいじゃないですか」
新曲!
Capliberteの新曲! ライブでやるのかなぁ。楽しみだなぁ。
「俺より須田の方がたくさん持ってるよな。今十二本だっけ?」
「いや、一昨日新しいの買った。八弦ベース」
「マジでか。いいねぇ。やっぱ俺も九弦買おっかな、新曲はめたクソ重くいこうぜ」
「ドゥームメタルやりたい」
「いいねぇ!!」
どぅーむめたる...は分かんないけど、きっとすごい曲になるんだろうなぁ。
「ま、新曲の話は今度カプリのグループで話すとして、サブギターの話だったな。サブがあれば今回みたいなトラブルがあっても対処できるし、持ってて損はないよ」
「確かに! サブギター買います!」
「...いや、喜多ちゃんはまず自分の本妻ギターを買わなきゃ」
喜多ちゃん、絶対脳死で答えてるでしょ。海さんも呆れてるよ。
あ、海さんのお酒、もう残り少ないな。
「海さん、お酒注文しますか?」
「え? あ、うん。ありがと。ハイボールでお願い」
「はーい。すみませーん! ハイボール濃いめでお願いしまーす!」
「ちょ、」
「ハイボール超濃いめ、喜んで!」
「まっ、あのお兄さん悪ノリ良すぎ...! 普通の! 普通のハイボールで!」
「あー、わたし焼酎ダブルで!」
「俺も飲も。緑ハイ一つおねしゃーす!」
「はい! 焼酎水割りと緑ハイ一つ、喜んで!」
「店員さーん、焼酎ダブルだよ〜!」
「吐くだろお前」
「店員さん!?」
今のは店員さんが正しい。接客態度はアレだけど仕方ない。廣井さん相手だし。
ほんとに真っ当な人間になってくれないかな。昼間からお酒飲んで酔っ払って他人の家でシャワー浴びてまた飲んで...反面教師にも程がある。
「ハイボール超濃いめ、緑ハイ、焼酎水割り水ダブル、お待たせしました!」
「「ホントに持ってきやがった...」」
片やアルコールが強くて、片やアルコールが弱くて、二人してゲンナリしている。
「関口お前、JKに手ぇ出しそうになったらお前のバールでお前を殴るからな」
「出さねぇしこれは俺悪くないだろ」
「法的にお前が悪くなる」
「マジでか...」
海さん可哀想(犯人)
でも法律かぁ。あと二年だね(大人虹夏)
「...ま、ホントにヤバそうだったら止めてくれ」
「おう、任せろ」
そう言い、海さんはお酒を呷る。
なんだかんだ言って、海さんはもうこれで七杯目だ。まだちょっと顔が赤くなって少しテンションが高いだけ。よくは分からないけど、お姉ちゃん曰く海さんはけっこーお酒に強いらしい。そもそも胃の許容量的にもすごい。酔う酔わない以前に、水でも七杯飲んだらお腹タプタプになると思うんだけど。
「お酒ってそんなに美味しいのかな」
ふと、純粋な疑問が漏れる。
当たり前だけどあたしはお酒を飲んだことがない。だから、わざわざ意識が朦朧とするようなアルコールを摂取する理由もよく分からない。お酒絡みの事件とかもたくさんあるっぽいし、廣井さんみたいな人もいるのに、なんで大人はみんなあんなにお酒を飲みたがるんだろう? やっぱり美味しいから?
「なんだ虹夏、酒が飲みたいのか? 虹夏にはまだ早い。せめて大学入ってからにしろよ」
「分かってるよー」
さすがに未成年でお酒飲んじゃいけないってことくらい知ってますぅー。
「おさけはおいしーよ妹ちゃん! おさけはすばらしい! イヤなこと全部わすれられるし! ビバ、幸せのスパイラル!」
「廣井さんを見てると、やっぱりお酒って薬物なんだなって思います」
あたしは絶対こうはならないぞ。
「まー姐御のアホはほっとくとして、お酒は美味しいよ。あと気持ち良くなれるし。姐御じゃないけど、確かに嫌なことも忘れられる。ま、ただのその場しのぎってゆーか、何も解決してないから次の日に頭抱えるハメにはなるんだけどね」
そうなんだ。
海さんが言うならそうなんだろうな。
「《結束バンド》が大人になったら一緒にお酒飲もーね」
「! は、はい! ぜひ!」
海さんとお酒飲めるの楽しそう!
それに《結束バンド》でお酒かぁ。うん、すごく楽しみだ。
「あ、そーだ。俺、今年梅酒漬け始めたんだよね。大体三年くらい寝かせよーと思ってるから、喜多ちゃんや後藤ちゃんが高校卒業した辺りがちょーど飲み頃だと思うんだ。みんなが卒業したら大人記念でそれみんなで飲もーよ」
「「「えっ」」」
あたしと喜多ちゃん、ぼっちちゃんの声が被る。
え、何それ。激エモ案件じゃない? そんなことしちゃっていいんですか!?
「お前、半年くらいで飲めるとか言ってなかったっけ?」
「まー飲めるって姉ちゃんは言ってたけど、どーせなら《結束バンド》の祝い酒にした方がいいだろ。エモくて」
そっかぁ。海さんは三年後もあたしたちに付き合ってくれるつもりなんだぁ。へへ、嬉しいな。
「それじゃあぼっちちゃんと喜多ちゃんが卒業するまでお酒は我慢だね、リョウ」
「えー」
不満そうにするな!
「はー...関口さぁ、お前ほんと、そういうとこだぞ」
「は? 何が?」
「色々だよ。そりゃ他人の彼女に女関係の心配もされるってもんだ」
「だから何が?」
「だから色々だよ。それよりタバコ行こうぜ。喫煙所、店の外にあったはずだから」
「ん」
「あたしも行こうかな」
「あれ、星歌さんって吸うんですか?」
「おう。言ってなかったか?」
「初耳っす。でもいいっすね、美人がタバコ吸ってるのめちゃくちゃ“
「びっ...!? お、おい須田、こいつ酔ってるぞ」
「そのくらいならわりと平常運転なんで大丈夫っす」
「マジでか...」
やっぱり海さん歳上が好きなんだ! いや大人の女ってこと? お姉ちゃん、外じゃしっかりしてる風出してるからな。あたしも早く大人になりたい!
こうして喜多ちゃんと虹夏ちゃんの「海さんに子供扱いされない大人の女になろう」プロジェクトが始動したのでした、まる
Q.三年後ってぼっちちゃんや喜多ちゃんはおろか虹夏ちゃんや山田もまだ未s
A.大学生なので。
Q.いやでも未s
A.大学生なので。
※お酒は20歳になってからです。
以下蛇足。
山田「須田さん...あのMAKOTOが私のベースを弾いて.....へへへ」