ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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これは超個人的解釈なんですが、喜多ちゃんは誰かに惚れたら近付けなくなるタイプだと思ってるんですよね。近付けなくなるっていうか、話しはするけど目が合わせられないとか、「ちょっと急用が」とか言って露骨な態度を取る系女子だと思ってるんですよ。ということはつまり......?


よろしい、ならば戦争だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《結束バンド》のライブに誘われた。

 前回は不測の事態(誘拐)で観ることができなかった《結束バンド》のライブ。今回は特に問題もなく、STARRYに辿り着く。

 

 問題なくとは言っても、今日はバイトで少し遅れてしまった。STARRYに入れば、既に一バンド目の演奏が始まっている。

 幸い《結束バンド》の出番は次の次。一応間に合ったといえば間に合っただろう。

 

 混み合ってるいる前列に割り入る必要はないだろうと、壁際に立って後方理解者面をキメる。

 

 一バンド目は男のみのバンド。下北らしい“エモ”に全振りのバンドだった。エモはエモでもエモーショナル・ハードコアと呼ばれる音楽ジャンルではなく概念としての“エモ”。下北系もエモも同じくインディーロックを起源に持つが、内容は大きく違う。エモは《Jimmy Eat W〇rld》や《My Chemical R〇mance》なんかが有名でインディーロックというよりはハードコア・パンクをルーツに持ち、メロディアスで感情的な音楽性がうんぬんかんぬん。

 まぁエモじゃないからダメなんてことは全然なく、下北系だってとても素晴らしい音楽だ。今ライブをやっている子達の演奏も悪くない。下北界隈であればそこそこ売れるだろうし、運が巡ってくればメジャーデビューも狙えそうな出来栄えだ。

 

 そうやって一バンド目が終わり、二バンド目も恙無く終わる。

 そして三バンド目。《結束バンド》がステージ上に姿を現した。

 

『皆さーん! 盛り上がってますかー!?』

 

 喜多ちゃんの声がマイクを通ってライブハウス中に響く。

 前から人前で臆するような子じゃなかったが、最近は自信も付いてきたのか、以前よりもハキハキとしたMCを披露している。

 喜多ちゃんが軽くボケて、伊地知ちゃんがそれにツッコむ。一番最初のライブでは酷いものだったが、今では軽く笑いも取れるようになってきた。彼女ら自身がライブを楽しもうとする気持ちが伝わってくるし、その気持ちが伝播している。文化祭のライブから一皮剥けた感があるな。

 あとはまぁ、数人の固定ファンが着いていることも大きいだろう。1号さんと2号さんだっけ。後藤ちゃんがどっかから釣ってきたJD二人組。最近ちょいちょい喋るんだよな。

 

 《結束バンド》の演奏は、まぁ十分成長を感じられるが、そこまで劇的に上手くなったというわけではない。それは当たり前だ。そんな簡単に上手くなるなら世のバンドマンたちは苦労しない。

 だが、雰囲気は変わった。ライブ慣れ、練習通りに本番で弾けるようになってきた自信。それらによって心に余裕が出来て、前よりも確実にライブを楽しめていると思う。

 

 ライブに来る度に技術面でもメンタル面でも成長を感じる。伸び代の塊だ。

 なんて完璧な後方理解者面を披露していると、《結束バンド》の演奏が終わった。

 素晴らしいライブだったと惜しみない拍手を贈る。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 ライブ終わり。

 出演バンドの物販が始まり、気になったバンドのEPを二枚買ってから《結束バンド》の物販に向かう。

 

「おつか」

 

「あなた、ギターヒーローさんですよねッ!」

 

「れ?」

 

 なんだなんだ、突然カミングアウト大会でも始まったか?

 PAさんとは違った方向性の地雷っぽい服装というか、幼可愛い感じというか、悪く言えば痛い格好の女の人が後藤ちゃんに詰め寄っている。

 

 ははーん。とうとうギターヒーローファンに後藤ちゃんの正体がバレたのか。

 まぁぶっちゃけそこまで本気で隠してるってわけじゃ無かったっぽいしな。バレるのも時間の問題だとは思ってたけど、SNSなんかでジワジワ広がるんじゃなくて直接言ってくる人がいるのは予想外だった。

 

「なんの話ですか?」

 

 キョトンと首を傾げる喜多ちゃんが聞く。

 まだ俺の存在には誰も気付いていないらしい。俺の声は地雷女さんに掻き消されたし、今着ているような黒い服はライブハウスじゃ同化しちゃうからな。喜多ちゃんは気配を察知してきそうだけど、今は後藤ちゃんと地雷女さんに注意が引かれているらしい。

 このタイミングで声かけるのもあれだし、しばらくは黙って見とこ。

 

「まさかあんた達知らないの!? ギターヒーローさんはねぇ! 超凄腕高校生ギタリストでッ! それでいて男女問わず学校中の人気者でロインの友達数は千人越え彼氏はバスケ部のエースの超リア充女子なのッ!」

 

「人違いじゃないですか?」

 

「即答!?」

 

 即答ウケるwww

 しかし、こうして列挙するとほんとに凄いな、後藤ちゃんの虚言は。いっそ清々しいし尊敬する。マジでネットタトゥーの域だろ。

 

「────ハッ! 海さんの気配がするッ!」

 

 ““武””に精通した者か???

 すごい勢いでこっちに目を向ける喜多ちゃん。気配くらい察知してきそうだな、とか思ったけど本当に察知されるとは思ってなかった。怖いわ。

 まぁ気付かれた以上、黙っている必要もない。

 

「よっす。ライブお疲れ様。良かったよ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 元気だなぁ。

 

「.........え、もしかしてKai!?」

 

 うん? なんだ、俺のことも知ってるのか?

 人に知ってて貰えるのは嬉しい。自己肯定が上がる。...いや待て、悪い覚えられ方をされてたら凹むな。

 

「確かに俺は海ですけど」

 

「やっぱり! 最強高校生バンド《Capliberte》のギターだ!」

 

 良かった、割と良い覚えられ方だった。

 まぁ俺もう高校生じゃないけど。過去の栄光に縋ってるみたいで嫌だなぁ。まぁ大学生になってからはまともに《Capliberte》の活動してないし仕方ないんだけどさ。

 

「ギターヒーローにも手を出してたって本当だったんですね!?」

 

 違うこれ悪い覚えられ方もしてるやつだ。

 死ぬ気で訂正しなきゃ。誤解だよ誤解。

 

「手は出してないっす。ちょっとした知り合い? 友達? ってだけで」

 

「ま 前に親友って言ってくれたのにランクダウンしてる...」

 

 俺そんなこと言ったっけ?

 ......いや言ったわ。(第2話参照)

 いやだってアレは仕方ないやん。JKメタラーとかアムールヒョウ*1くらい珍しいだろ。あの時は「絶対に逃がしてやらないからな」って思いがあったし、ノリで親友呼びしちゃったんだよな。

 

「すんません訂正します。親友です」

 

「親友...『とっても親しい、友情を越えた関係性』...ってコト?!」

 

「脳内国営ひたち海浜公園か何か?」

 

 どんなトランスレーター使ったらそんな訳し方ができるんだよ。友達だよ友達。親しい友達で親友。日本語分かる?

 

「か、海さん...!」

 

 また妙なことを言いふらされる前に絶対に誤解を解いてやると意気込む俺に、伊地知ちゃんが耳打ちしてくる。

 

「ぼっちちゃんがギターヒーローってまだ皆知らなくて...皆がその事を知ったら気まづい感じになるかもで......!」

 

 ふむ。まだ後藤ちゃん=ギターヒーローだと喜多ちゃんや山田ちゃんには知られたくないと。そんで後藤ちゃんの正体を隠すのを俺に手伝って欲しい。そんな感じかな?

 別に今更その程度で気まづくなるようなことは無いとは思うけど、伊地知ちゃんが心配してるんなら協力しよう。

 

「ちなみにギターヒーローって誰のこと言ってるんですか? ここにはいないですけど」

 

「いやだなー、そこのジャージの子ですよっ」

 

「この子は違いますよ」

 

「え? いやでもさっきギターヒーローとは友達とか知り合いみたいなってKaiさんが言ったら、その子が親友からランクダウンしたとか落ち込んでましたよね?」

 

 ダメだこりゃ。

 

「あの〜、ギターヒーローって...?」

 

 頭を抱える伊地知ちゃんに内心謝っていると、喜多ちゃんがそろそろと手を挙げて聞いてくる。

 

「本当に知らないの!? これ見て!」

 

 そう言い、......えっと、名前なんだ? 分からないが痛い女の人が自分のスマホを操作してギターヒーローの動画を出し、それを喜多ちゃんに見せる。

 

「まぁひとりちゃんね」

 

「ぼっち」

 

「ちょっと! もっと良い反応してよ!」

 

 横から覗いた山田ちゃんも即答する。

 そりゃ分かりやすいよな。いつものジャージで使ってるギターも同じってなれば気付かない方が難しい。

 

「あたし一人盛り上がって何か痛いヤツみたいじゃん! あたしが痛いのは格好だけ!」

 

 自覚あったのか。

 いやまぁ、可愛いと思うよ? 地下アイドルみたいで。

 

「まぁ、ぼっちがギター上手いことはなんとなく分かってたけど、言わないなら別にどうでもいいかって」

 

 山田ちゃんの他人への無関心さが良い意味で出たな。

 

「こんなにすごい人とは思わなかったけど、私も何かあるんだろうなって薄々思ってたので別に...って感じですかね」

 

 隠されてた! 悲しい!

 ってならないあたり、みんな優しいなぁ。いや、後藤ちゃんのことを理解してるだけか? 自分のことはそんなに喋りたくない(機会があれば全然喋りたそうだけど)っていうのが分かってるんだろうな。

 

「なによ! もっと驚いてよ! 漫画だったらまだまだ引き延ばしていい展開なのにっ!」

 

「いや驚いてますよ、この虚言の数々には」

 

 喜多ちゃんの 冷たい目が 炸裂!

 一撃必殺!

 後藤ちゃんは 倒れた!

 

 嘘はダメだよねって身をもって知れて良かったね()

 んで山田ちゃんは「動画のお金の管理は私めにお任せください」じゃねーんだよ。横領止めろ。

 

 にしても、伊地知ちゃんが心配したような危機が訪れることが無くて良かった。まぁ台風の日のライブ然り、文化祭然り、後藤ちゃんも片鱗は見せてたからな。虚言以外はすんなり受け入れられたんだろう。

 

「と、ところでギターヒーローさん! さっきのライブではどうしてあんな酷い演奏を!?」

 

 思ったようなリアクションが返ってこないと判断した痛い女の人は、標的を後藤ちゃんに戻す。

 つか酷い演奏て。いやまぁ、ギターヒーローとは程遠い演奏だけどさ。

 

「あ わっ、私人見知りで...だからバンドと上手く合わせられなくて...ど、動画は家で一人で弾いてるから......」

 

「あー......いいんですよぉ☆ 天才にだって欠点はあるものですっ!」

 

「ぼっちちゃんにはとことん甘いな...」

 

 まぁギターヒーローのファンっぽいし、推しに甘いのは仕方ないよな。ファンの語源って狂信者(Fanatist)だし。

 

「え〜! ひとりちゃんってこんなに凄い子だったの? 再生数すごっ、HITOKINじゃん」

 

「海くんはこれ知ってたんだ?」

 

 HITOKINて。

 ファン一号さん、二号さんもギターヒーローの動画を見たらしく、シンプルに驚いている様子だ。痛い人はさっきこういう反応を期待してたんだろうな。ほら、なんかドヤ顔してるぞあの痛い人。

 

「まぁ、ちょっと前に気付いたよ。ジャージとか使ってるギターが同じだし、決め手は演奏のクセかな」

 

「クセとか分かるんだ? さっすがギタリスト〜」

 

 音楽自体にそこまで強い興味があるわけではない一号さん、二号さんは、当たり前のように《Capliberte》なんて知らない。俺の事も、ちょっと前に売れたインディーズバンドのギタリスト、という認識だ。まぁ合ってるけどな。メジャーデビューとかしてないし、日本じゃまだまだ知名度も低い。

 

「今度うちの編集長にかけあって業界の人に紹介してもらえるよう言っときます! 良い人がいるって!」

 

 編集長? なんだ、この痛い人はライターかなんかだったのか。

 ってことは何かしらの取材でここに来た。ギターヒーローに気付いて来たか、別の目的で来たらたまたまギターヒーローに会ったか。どっちかは知らないが、これは《結束バンド》にとって良い機会なんじゃないか?

 

「えー、デビューできるかもってこと!? すごーい!」

 

「一気に《結束バンド》が遠い存在に思えてきちゃった! ね、海くん」

 

「え? あ、うん。そだね」

 

 このライターさんがどこまでの腕を持っているのか、編集長がどれだけ顔が広いのか。そこにも寄るが、運が良ければそのままメジャーデビューも可能だろう。

 もしメジャーデビューしたなら、そのお祝いに俺らのライブのオープニングアクトを依頼してみても良いかもな。

 だが、そうも上手くは回らないのが世の常のいうもので。

 

「...えっと、《結束バンド》? なんの話?」

 

 一号さんたちに持て囃されニヤけが止まらなかった《結束バンド》に、首を傾げたライターさんが言い放つ。

 

「あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけよ? 《結束バンド》はまぁ高校生にしてはけっこーレベル高いと思うけどぉ、でもよくいる下北バンドって感じだし。っていうか、“ガチ”じゃないよね?」

 

 ......ズバズバ言うなぁ、このライター。

 《結束バンド》の面々どころか、一号さんや二号さんも凍り付く。それだけライターさんの言葉は予想外のものだったんだろう。

 

 俺はというと、まぁそこまでの衝撃はない。

 ガチじゃないって部分は否定するが、それ以外は妥当な判断だ。

 ギターヒーローはプロで通用する。《結束バンド》は高校生にしてはレベルが高いが、よく見る下北バンド。

 ここは否定できない。

 喜多ちゃんの脅威の成長や、最初のライブを見ていたからこその伸び代、可能性。

 そんなもの、初めてライブを見に来た人間には伝わらない。

 

 それにこのライターさんが言っているのはビジネスの話。売れる売れない、金になる金にならないという観点での話だ。

 個人的にはそんな話は嫌いだが、音楽で飯を食うのは何も演者たちだけでは無い。メジャーデビューするのなら事務所やレコード会社など、多くの大人達が関わって、そこそこデカい金が動く。

 メジャーデビューするってことは、ビジネスに組み込まれるということ。デビューさせたバンドを売って、関係者に飯を食わせる。それが『デビューさせる側』の義務だ。

 

 本気で夢を追っている子達には言いたくない現実。

「良いバンドが売れる」のではなく、「売れたバンドが良い」という大人(ビジネス)の世界。

 

 よくある下北バンドの《結束バンド》が売れるかどうか。

 それをライターさんの目で判断した時、その答えはNOだった。それだけの話だ。

 そこに思うところはあれど、否定はできない。売れる売れないの判断なんざ所詮は個人の考え。他者が口を挟んでどうこうなることではないし、そんなことをしている暇があればほかで《結束バンド》を評価してくれるところを見つける方が早い。

 

「ギターヒーローさんはもうプロとして通用するので、こんなバンドよりもっとちゃんとした、良いバンドに入った方がいいですよ!」

 

 .........あ?

 

「いやぁ! ゴミ記事取材のつもりがまさかの大当たりですっ! 今度単独記事書かせてくださいっ!」

 

 本気か、このライター?

 もし本気で言ってるなら話は変わってくる。

 

「あ あのっ、私は...」

 

「ギターヒーローさん。こんなところでうだうだやってると、貴女の才能、腐っちゃ────」

 

「「おい」」

 

 我慢できずに発した声に、別の声が被る。星歌さんの声だ。

 「どっちがいきますか」という目を星歌さんに向ければ、「やれ」という指令の目が返ってきた。なら遠慮なく。

 

「さっきから黙って聞いてりゃ、なんだお前」

 

 自然と声が低くなる。

 普段の俺は意識して少し高めの声を出している。そっちの方が他人を怖がらせず、壁を作りにくいからだ。

 しかし今の声は、他人を怖がらせ、壁を作る低音の声。

 聞き慣れない声に後藤ちゃんたちの顔も強ばってしまった。ビビらせたかと少し反省するが、今はそれより気にすることがある。

 

「え? あの、えっと......」

 

「ビジネスで語るな、とは言わねぇよ。それで飯を食ってる大人が大勢いるのも知ってる。けど、ビジネスなんてつまらねぇもんで子供の夢を否定すんな」

 

 ギターヒーローを高く評価するのは良い。

 《結束バンド》の力不足を指摘するのも構わない。

 だが、《結束バンド》そのものを否定するのは大人の...いや、部外者のやることじゃねぇだろ。

 

「い、いやでもっ、《結束バンド》とギターヒーローさんの実力を比べたら...」

 

「上手いやつが正義か? 下手なやつは悪か? 違うだろ」

 

 その程度の尺度しか持ってねぇならライターなんて辞めちまえ。

 そう口にしかけて、すんでで止める。

 それは言い過ぎだし、何よりライターの経験もない、それこそ“部外者”である俺が言うことじゃない。

 

「この子らはこの子らの意思で《結束バンド》を組んでんだ。後藤ちゃん...ギターヒーローが別の環境を望んでるなら話は別だけど、あんたは少しでも後藤ちゃんの意思を聞いたか?」

 

「で、でもっ、ギターヒーローさんは凄い人で、もっと世の中に知ってもらった方が...!」

 

「だ、そうだけど。後藤ちゃん的にはどう? 《結束バンド》抜けて、レベルが高いらしい奴らと一緒にやりたい?」

 

 少しだけ声を高くし、後藤ちゃんに聞く。

 これで「はいやりたいです」と返ってきたらもうどうしようもないが、きっとそんなことはないだろう。

 後藤ちゃんにとって《結束バンド》がどんな存在なのか、結成当初から観てきた俺には分かる。

 

「あ あのっ、わっ、たしは......やめたくない、です。《結束バンド》」

 

 一度言葉を切ってから、ぽつりぽつりと後藤ちゃんは想いを紡ぐ。

 

「わ、私、ずっと一人で...その、人と関わるのとか苦手で...で でもっ、最近はちょっと話せるようになってきて、全部虹夏ちゃんやリョウさん、喜多ちゃんのおかげで...私なんかでも、えっと、皆の《結束バンド》を、大切な《結束バンド》を、ギタリストとして最高のバンドにしたくって、その、なんていうか......私は《結束バンド》がいい...ここ以外は、嫌、です」

 

 拙いながら、気持ちを言葉にしようと精一杯声を絞り出す後藤ちゃん。

 とっ散らかった言葉だが、それ故に偽りのない本心なのだと分かる。

 

「ありがとね、後藤ちゃん。キミは立派な《結束バンド》のギタリストだよ」

 

 こんな少女の想いを聞いて、まだ自分勝手な大人のビジネスに巻き込むのか。

 そんな意味を込めて、もう一度ライターを見る。

 

「───.........な、なによ...」

 

 俯いたライターの口から震えた声が漏れる。

 

「こんなの、あたしが悪いみたいじゃない...! あたしはただ、ギターヒーローさんの今後を思って...!」

 

 怒っている、というわけでもないだろう。かといって罪の意識を感じているというほど重々しいものでもない。

 困惑。意味合いとしてはそれが一番合うだろうか。

 自分は間違ってない。自分は正しいことをしたはずだ。なのになんで自分が責められているのか。分からない。

 そんな思いが聞こえてきそうな声。

 

「あんたが悪いって責めてるわけでもねぇよ。あんたはあんたで自分の仕事をしただけだろうし」

 

 仕事として、自分が正しいと信じたことを。

 彼女の中では「ギターヒーローのために」と口にした言葉の数々だったのだろう。

 ただ、あまりにも周りが見えていない。他者の気持ちを汲んでいない。ギターヒーローのためというのはあながち嘘でもないのだろう。しかし、それ以上に自分の意志を押し付けた。後藤ちゃん(当人)の願いを見ようとしなかった。

 

「けど、人間を数字やレベルだけで見るな」

 

 相手は人間だ。商売道具じゃない。

 感情があり、思考もする。それを忘れちゃいけない。

 ましてや相手(ギターヒーロー)はまだ子供。社会的には弱い立場の人間だ。守られこそすれ、大人の事情(金儲け)で振り回して良いわけがない。

 

「今日は帰れよ。これ以上は子供に聞かせるもんでもない。まだ話し足りねぇってんならまた今度、外で聞いてやる」

 

「っ、」

 

 キッ、とこちらを睨んだライターさんは、結局何も言わずにそのまま振り返ってSTARRYから出ていく。

 別にあのライターも悪い人じゃないんだろう。俺も少し言い過ぎたかもしれない。だけど、今回のはさすがに行き過ぎだ。

 ふぅと一息ついてから、声音を戻す。

 

「ごめんね、騒がしくして」

 

 努めて柔らかくした声で謝罪する。

 さっきは「これ以上」なんて言ったが、そもそも子供に聞かせる話じゃなかった。気分を害しただろう。大人同士の言い合いに怖い思いもしただろう。そう思っての謝罪。

 

「大丈夫です。むしろありがとうございました」

 

 伊地知ちゃんが皆を代表したようにお礼を言ってくる。

 だが、お礼を言われるようなことじゃない。

 

「《結束バンド》はいいバンドだ。それは俺が保証する」

 

 だからライターの言ったことなんて気にするな。

 そういう意味を込めて言うが、それも無理な話だろう。だいぶストレートに「《結束バンド》は売れない」って言われたからな。言葉にしないまでも、それぞれ顔に書いてある。

 ただのアンチならいくらでも慰めの言葉は出てくるが、今日のは「一観客からの素直な意見」。むしろしっかり受け止めて進む問題でもある。

 俺の言葉なんて気休めだ。跳ね除けるには、彼女ら自身の行動でライターの言葉を否定するしかない。

 

「───ってゆーか、海くんカッコよかったね」

 

 かける言葉が見つからないというより、何も言わない方が良い。そう判断し沈黙が流れる中、ファン二号さんがそう言う。

 

「思った! 言いたいこと言ってくれてスッキリしたし!」

 

 一号さんも便乗し、何故か俺への注目が集まる。

 待って、今そういう話じゃないから。《結束バンド》にとってわりと重要な転換期だから。

 

「前から思ってたけど、海くんって大人だよね。同じ大学生とは思えないっていうか」

 

「ね〜」

 

 だからさぁ...!

 高評価してくれるのは嬉しいんだけど今じゃないじゃん。

 ...いや、もしかして暗い雰囲気を緩めようとして言ってるのか?

 

「関口、よく言った。あたしあいつ苦手だったんだよ。なんか言動がキモくて」

 

 星歌さんも重々しい雰囲気を拭いたいのか、一号さん二号さんに続いて言ってくる。

 にしてもそれはシンプルな悪口じゃん。ウケる。

 確かに同性には忌避されそうな感じだったなぁ。男にはああいうのが刺さる奴も結構いそうだけど。

 

「でもああいう格好が好きな男の人もいますよね? ね、海くん?」

 

 なんで俺に聞くんだ二号さん。

 俺がこの場で唯一の男だからですね、Q.E.D

 

「まぁいるんじゃない? 知らんけど」

 

 必殺「知らんけど」を発動する。

 この魔法の言葉で大抵のことはなんとかなるって大阪出身の奴が言ってた。

 

「海くんもああいうのが好みだったり?」

 

「海さんはカッコイイ系が好きって言ってました!」

 

 一号さんからの追い質問に、なぜか伊地知ちゃんが答える。なんでだよ。合ってるけど。

 

「海さんカッコイイ系が好きなんですか!? 具体的には!」

 

 具体的には????

 

「いやぁ...正直ファッションとかあんまり分かってないんだよね」

 

 マニッシュとかノームコアとか訳わかんねぇよ。何がどれだ。

 

「リョウ先輩みたいな感じですか?」

 

「あー、確かに山田ちゃんの服装、いつもカッコイイよね」

 

「ぶい」

 

 古着着こなしてるの素直にすげぇと思うわ。俺絶対無理だもん。自分で選んだらダサくなる。

 

「山田ちゃんみたいなクールな感じ? そういうのも良いと思うし、なんだろね。ギャルみたいな強い格好とかかな」

 

「あー、男ってギャル好きだよね」

 

 ギャルはみんな好きだろ。

 いや本物のガチギャルは怖いけどさ。俺の周りには優しいギャルが多いから。

 ああいう人達のファッション、結構好きなんだよね。

 

「ギャルみたいな...フリルとかは論外ってことですか?」

 

「いや、別に論外とは思わないけど。それぞれ自分が好きな格好するのが一番だよ」

 

 世間の流行や人の好みに合わせるのが悪いとは言わないし、むしろそういう人の方が大多数だろう。

 けど、無理をしてまで周りに合わせる必要はないと俺は思う。ほぼ全裸だとか十八禁になりそうな過激なプリントが入ったものだとか、そういう常識的にマズい服装を除けば、好きな服装で着飾るのが一番だ。それをバカにするやつなんざ放っとけ。自分の好きな服を着て何が悪い。

 そういう点では『可愛くてご○ん』とか割と正しいこと歌ってんだよな。

 

「でもフリルとかって男ウケ悪いよね。大学にフリルとかレースとか大好きで毎日着て来てる子いるけど、男の子からの評判ひっどいもん」

 

 そうなのか。

 

「まぁ、他人の俺が言うことでもないけどさ。自分の好きな服着てそれをバカにするような奴は放っときゃいいんだよ。どうせつまんねぇ奴ばっかりだろ」

 

「うわ辛辣ー。でも同意ー。女の子が好きでもない男のタメにオシャレしてると思うなって話」

 

 世の中、そういう「勘違い男」は案外多いものだ。女性はテメェらのための着せ替え人形じゃないんだって覚えとけ。

 

「むむむ......」

 

 んで喜多ちゃんはなんで唸ってんの?

 

「リョウ先輩、今度一緒に古着屋さん巡りませんか?」

 

「え、いいけど」

 

 なんか流れるようにデートの約束取り付けてんなこの子。推しと二人きりで古着屋巡りとか、控えめに言っても最高じゃんね。でもなんで突然? キミ、古着とかあんまり着ないでしょ。

 

「ちなみにギャルって言ってもいろいろじゃん? どんなギャルが好きなの?」

 

 一号さんが聞いてくる。

 まだその話するのか。シラフで、しかもJKがいる前でこんな話はしたくないんだが。

 というか服装の話なんじゃなかったの? いや、確かにギャルは好きだけど。

 

「どんなギャルって言われても......優しいギャル?」

 

「そんなのオタクの幻想みたいな架空の生物じゃん」

 

 なんだと!!

 

「ギャルって怖いんだよ? まず相手の値踏みをするの。軽くジャブみたいな振りをしてきて、面白い返答が出来なかったらオモチャにされるか無視される。それがギャルだよ」

 

 なんだと!!!

 ...いや、確かにギャルは怖いな。

 

「いやでも存在するから。先輩にいるもん、優しいギャル」

 

「それギャルじゃなくて陽キャじゃない?」

 

 なんだと!!!!

 ......そうかも。

 いやでもあの(ベーシスト)はギャルだろ。

 

「まぁ正確な分類は分かんないけど、明るい人って意味でギャルが好きって言ってる節は確かにある」

 

「でしょ?」

 

「いやでも言語化できないけどやっぱりギャルっていう概念が.........あー、いや。これ以上はやめとこ」

 

「まー今話すことじゃないか。今度飲みに行った時また話そ」

 

「私も同行したい〜」

 

「いいよ〜! 行こ行こっ」

 

 俺、一、二号さんと飲みに行くのか...。

 いやまぁいいけどさ。二人とも酒癖悪くなさそうだし。

 

「お二人とも海さん飲みに行くんですか!?」

 

「喜多ちゃんも来る? お酒は飲ませてあげられないけど」

 

「全然大丈夫です! 行きます!!」

 

「じゃあせっかくだし《結束バンド》のみんなも行こうよ!」

 

 なんでだよ。未成年だぞ。

 

「じゃあ飲みじゃなくてよくね? 普通に飯とかで。この前のライブ行けなかったし、お詫びに焼肉でも奢るよ」

 

「やったー!! ひとりちゃんも来るわよね!」

 

「え あ はい」

 

「リョウもいい?」

 

「人のお金で食べる焼肉ほど美味しいものはない」

 

 相変わらずいい根性してんな山田ちゃん。間違いないけど。焼肉じゃなくても、人の金で食う飯は世界一美味いってそれ一番言われてるから。

 

「えへへ〜。いやぁ、ゴチになります」

 

「なりまぁす」

 

「アンタらは自分で払えよ」

 

「なんでさ!?」

 

 なんでも何も、アンタらに奢る理由がないからな。デートじゃあるまいし。

 無いとは思うが、もしデートをするってなったらその時は奢ってやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

*1
絶滅危惧種。保護されている個体、野生の個体を合わせても世界に60匹程度しかいないらしい。




ぽいずん♡やみちゃんも悪い人じゃないんです。本当なんです。ちょっと色々アレなだけで。
ここからぽいずんと海くんが和解できる日は来るのだろうか...(どうせ来る)
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