ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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今後、毎週日曜17~20時に投稿(できるよう努力は)します!


この速弾きはDNAに素早く届く

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんお姉ちゃん! ステージのアンプ、使ってもいい!?」

 

 

 廣井のアホが交番に保護されているとかで何故か呼び出され、平謝りした後に二発ゲンコツをくれてやってSTARRYに帰ってきたら、虹夏がすごい勢いで聞いてきた。

 

「なんだいきなり。練習なら他所のスタジオに行け。スタジオ代浮かせようとするな」

 

「違うよ! すっごい人がギター弾いてくれるって言ってるの!」

 

「すごい人?」

 

 てっきりバンド練習をやらせろと言ってきているのかと思ったが、そうではないらしい。

 虹夏は興奮しているようで、説明がほとんどない。埒が明かないので、一旦STARRYの中に入る。

 

「あ、店長。お邪魔しましてます」

 

 中には、昨日臨時のPAとして働いてくれた男の子がいた。

 見た目はがっつりサブカルなくせに、いやに礼儀が正しく、わざわざ立ってお辞儀までしてくる。

 

「あ、関口弟。バイクの鍵を取りに来たのか? ほれ」

 

 ポケットに入れていたバイクの鍵を渡す。

 昨日は打ち上げが終わった後も廣井のアホと飲み歩いていたらしいが、アホと違ってピンピンしてるな。酒強いのか? 姉貴譲りだな。あいつも酒は強い。酒癖は悪いが。

 

「あ、ありがとうございます。お手数お掛けしました」

 

「いや、別に。忘れ物を預かってただけで手数ってほどじゃ」

 

 顔が良くて礼儀もなってる年下男、マジで心臓に悪い。

 しかも酔ったら人との距離感がバグるタイプらしく、昨日もわりとグイグイこられたしな。流れるようにLINEを交換してしまった。

 

 遊び慣れてるんだろうなと思う。これだけ顔が良くて、話も突出してるわけじゃないが、普通に面白い。

 

 って、異性にドギマギするとかあたしのキャラじゃないな。

 そもそもこんなアラサーの、しかもそろそろ三十路になる年増になんか興味もないだろう。あっちはピチピチの大学生だ。

 それに相手は友人の弟。何かあるわけがない。

 

 コホン、と咳払いを一つ。

 思考を入れ替える。

 

「あー...ところで虹夏。すごい人ってのは?」

 

 見渡す限り、目新しい奴はピンクジャージの子のみ。あの子が「すごい人」なのだろうか?

 

「この人! 関口海さん! なんと聞いて驚け、この人実は、あの《Capliberte》のギタリストKaiさんだったのだ!」

 

「......は?」

 

 一瞬、理解ができずに呆けてしまう。

 ゆっくりと関口弟の方を見ると、「あはは、恥ずかしっすね」とはにかんでいた。

 

《Capliberte》ってアレか? 最強の高校生バンドとか騒がれて、日本だけじゃなく海外でも結構人気があって、『日本HR/HMの最終兵器』ってまで言われたあの《Capliberte》か?

 

 ...え、マジな話?

 

「.........あ、アンプ使いたいんだっけ。どーぞどーぞ」

 

 あたしは思考を放棄した。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 お姉ちゃんからの許しも得て、Kaiさん───海さんがステージに上がる。

 

「店長、ギターとエフェクター貸してくれてありがとうございます」

 

「あ、いえ」

 

 昔お姉ちゃんが使っていたギターをエフェクターを引っ張り出し、海さんに貸した。

 お姉ちゃん、なんか遠い目してるなー。Capliberteのファンって言ってたもんね。そんな人に自分のギターを弾いてもらうから緊張してるのかもしれない。

 

 ギターをエフェクターとアンプに繋ぎ、まずはクリーンで音を出す。

 少し音がズレていたのか、二弦と四弦のペグを弄ってチューニングを合わせた後、次はエフェクターを弄り始めた。

 初めて触るエフェクターもあるだろうに、ほとんど迷いなくつまみを弄り回している。

 

「......やっぱ上手いな」

 

 お姉ちゃんの呟きに「え?」と思わず返してしまう。

 

「いや、まだ演奏始めてないじゃん」

 

「音作りの話だよ。全体的にバランス良く作ってるし、Kaiは特にTONEの扱いが上手いんだ」

 

「TONE? 音量調整ってこと?」

 

「いや、違う。なんていうか...中音域? 抜け感を出す、みたいな。改めて言語化すんの結構ムズいな」

 

 抜け感? ファッションの話?

 あたしが首を傾げていると、後ろからヌッと現れたぼっちちゃんが追加説明を入れてくれた。

 

「...あっ 音の明るさ調整っていうか...音をどれだけこもらせるか、みたいな感じ......」

 

「そうそう、そんな感じ! ...ところでお前誰だ?」

 

「あっ えと その ぼ、ぼぼぼぼっちです...」

 

「なんだその悲しい自己紹介。...あー、そういや、今日は虹夏がバンドの会議をやるとか言ってたな。もしかして昨日のマンゴー仮面か?」

 

「! はいっ マンゴー仮面ですっ!」

 

「えっ」

 

「ぼっちちゃん! せめてアイデンティティは持って!」

 

 あだ名で呼んでもらうのがそんなに嬉しいのかな。でも何個もあると分かんなくなっちゃうし、ぼっちちゃん固定でいこう。

 っていうかお姉ちゃん、海さんと同じこと言ってる。感性が似てるのかな?

 

 そんなことを考えていると、ステージから演奏が聞こえてくる。

 ピロピロ、っていうと少しちゃっちく聞こえてしまうが、ものすごい速弾きだ。

 

「こ、これは!」

 

 お姉ちゃんが戦きだした。

 ちょっとネタに乗ってみよう。

 

「知ってるの、お姉ちゃん!?」

 

「うむ」

 

 うむて。

 

「かのゴッドメタル、ジュー〇ス・プリーストの『Pai〇killer』のギターソロだ!」

 

「...あ メタルゴッドで、そう言われてるのはボーカルです...」

 

 ぼっちちゃんから訂正が入る。

 入れるだけ入れて、気配を完全に消して闇に紛れるぼっちちゃん。暗殺者か何かかな?

 

「...だそうだけど、お姉ちゃん」

 

「.........うむ!」

 

 いやうむじゃなくて。

 

『調整終わりました〜。弾けま〜す』

 

 マイク越しに海さんの声が響く。

 あたし達は喋るのを止め、じっとステージ上の海さんを見つめた。

 

『そーだなー。そんじゃとりあえず...』

 

 少し考えた後、海さんはギターを弾き始めた。

 ブリッジミュートで入り、コードを鳴らし、さらにメロディも弾き始める。

 

「すっごー......」

 

 上手い。

 武道館ライブなんてものを経験している人に抱く感想としては少し失礼かもしれないけれど、本当に上手い。

 あたしもSTARRYでいろんなバンドを見てきたけど、次元が違う。

 

 

 暫く聴いて、演奏が終わった。

 あたしを始め、みんな言葉が出ない。ぼっちちゃんに至ってはなんか泣いてた。

 

『どう、山田ちゃん。即興にしてはそこそこ上手くアレンジできたと思うんだけど』

 

「...え?」

 

『今の。山田ちゃんがテクノ歌謡好きって言ってたから、榊原〇恵のR〇BOTのアレンジやってみたんだけど...あれ、分からないくらいめちゃくちゃな演奏だったかな』

 

「......あっ。ああ、えと、はい。すごくすごかったです!」

 

『そう? うーん、サウジアラビアのヒットチャートの方が良かったかな。ごめんね、そっちは俺あんまり触ってなくて...』

 

「い、いえ、大丈夫です。はい、大丈夫...です...」

 

 山田め、やっぱりさっきのは嘘だったな。あわあわしてる。

 

『ちょっとシラけちゃった? 次は知ってそうな曲弾くよ。伊地知ちゃんはメロコアとかパンクが好きなんだよね? 10-FE〇Tとか知ってる?』

 

「あ、はい! 知ってます!」

 

 あたしはリョウと違って嘘ついてないからね。10-FE〇Tは知ってるし好きだ。

 

『おっけ。じゃあ...うーん、「そ〇向こうへ」とかは?』

 

「だっ 大好きです!」

 

 10-F〇ETの有名曲。

 どこか人間臭さのある、心に響く応援ソング。

 高校受験の時にだいぶ聴いていた、ある種思い出の曲だ。

 

『じゃあやるね。せっかくマイクもあるし、次は歌ありでやろうかな』

 

 言って、海さんは演奏を始める。

 ワウペダル...って言うんだっけ。それを使ったイントロから、ロック調の歪みが鳴り響く。

 

 すごい。ベースもドラムも、たった一本のギターで表現している。

 さっきのはあんまり知らない曲だったから「すごいなー、上手いなー」程度で終わっていたが、知っている曲をされると余計に彼の凄さが分かる。

 それに、歌もすごい。Aメロで優しい声で歌っていたと思ったら、Bメロで低く支えるような声に、そしてサビで感情が爆発したような叙情的なシャウトを放つ。

 

 引き込まれる。歌に、ギターに、彼の作る世界に飲み込まれる。

 

 人間、本当にすごいものと対面した時は言葉なんか出てこないっていうけど、確かにそうだ。

 言葉が出ない。ただただ心が揺さぶられる。

 

 

 気が付けばあたしは、最前から身を乗り出して右手を掲げていた。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 やっぱりKaiさんはすごい。

 

 フラフラと最前にまで行き、フェスさながらに手を上げて盛り上がる虹夏ちゃんを見ながら、私はそう思った。

 

 この人のライブを観てみたい。

 きっとすごくかっこいいんだろう。すごく感動するんだろう。音楽のこと以外考えられなくなるくらい、心を掴まれるんだろう。

 

 ...でも、やっぱり怖い。

 初めて演奏を生で聴いて分かった。この人はすごい。演奏も歌も上手くて、何より“カリスマ”がある。人を惹き付ける力がある。

 そういう人がいるバンドのライブには、きっと大勢の人が集まるんだろう。それは想像もできないくらいに、怖い。

 

 Kaiさんの演奏を聴いてなお、臆病な私は尻込みしてしまう。

 

『10-FE〇T終わり〜。伊地知ちゃんすごい盛り上がってたね。ありがと、そういうのマジ嬉しいよ』

 

 少し汗をかいたKaiさんが、柔和な笑顔で虹夏ちゃんにお礼を言う。

 あれすごい。楽器に頼らない素のイケメンがあんなことしたら変なファンが付くんじゃないだろうか。

 私はイケメンが怖いから特に何も...というかキラキラ成分に殴られて死んじゃうまであるけど。

 

『そんじゃあ次、後藤ちゃんの好きなやつね。Last Days ○f Humanityがいい? それともCARCA○S?』

 

「あっ いえっ そのっ......」

 

 なんでゴアグラインド縛り...あっ、さっき私が言ったからか。

 

『あ、ゴアグラインドは昔聴いてたやつって話だったっけ。最近はどんな曲聴くの?』

 

「その いやっ あの......」

 

 どうしよう、急に出てこない。

 最近私は何を聴いてたっけ? 流行りの曲は聴いてたけど、別に好きとかじゃなく、弾いてみた動画のネタとして聴いてただけだし...そもそも音楽に好き嫌いとかあんまりないんだよね......

 

「...あ えと 青春コンプレックスを刺激しないものならなんでも好きです......」

 

 絞り出した答えも、『どんな音楽が好きなのか』に対する答えとしては不適切なものだった。

 だけどそれ以上の回答なんて出てこないし、そもそもギターを始めたのだって『陰キャでもチヤホヤされるから』だし、最近聴いてる音楽も大衆受けするものを聴いてて、特別“芯”があって聴いているものじゃない。

 

『青春コンプレックス? あー...GRe〇eeNとかba〇knumberとか...最近で言うとミ〇スみたいな感じのやつ?』

 

 言われたバンドの曲を思い浮かべる。

 .........うっ 吐き気が。

 

 曲は良いしキャッチーだし、バンドや楽曲自体に罪は一切無い。

 けど、そういうのは本当にダメだ。自分の人生と比較して、控えめに言っても死にたくなる。

 

『おーけー、理解した。アングラで暗めの曲弾くから、そんな嫌そうな顔しないで』

 

「あっ 別に暗い音楽が好きなわけじゃ...」

 

 言ってから後悔する。

 これはあれだ。「晩ご飯何がいい?」って聞かれて「なんでもいいよ」って答えるのに、いざ「じゃあ和食にしようか」って言われてから「和食は気分じゃないなー」って言い出す、主張しないクセに自分の意志はしっかりある系めんどくさい奴と同じだ...!

 まずい、Kaiさんにめんどくさがられたかな...?

 

『そうなの? うーん、それじゃあ...そうだなぁ......あ、ナン〇ガとかは? あれは別に青春ソングって感じじゃないし、いわゆる“陽”側に好かれてるような大衆受けするバンドでもないし...あ、後藤ちゃんは知ってる? ナン〇ガ』

 

「あっ はい、知ってます...タバコ四本同時吸いと発砲にはシビれました...」

 

『結構好きだねぇ』

 

「ちょっと待って!? タバコはまだしも発砲って何!? そしてそれにシビれるぼっちちゃんも何なの!?」

 

 虹夏ちゃんが騒いでる。

 やっぱり分からないかぁ、向〇さんの良さは。あの理解不能(ミステリアス)な感じがいいのに。でも仕方ないかなぁ普通の人には分からないよねあの良さは(クソ痛オタク)

 

「虹夏。それがロックだよ」

 

「嘘だッ!!」

 

 あ、リョウさんは分かるんだぁ。ふーん(クソ痛オタクムーヴ継続中)

 

『まぁあれがロックかはさておき、異質な分、コアなファンが多いよね。後藤ちゃんも苦手じゃなさそうだし、ナン〇ガ弾こうかな』

 

 そう言って、Kaiさんはギターを掻き鳴らし始める。

 

 演奏の上手さは今更だ。武道館に海外ワンマンまで成功させたバンドのギタリストなんだから、上手くないわけがない。

 

 それ以上に私が驚いて、感動しているのは、Kaiさんの知識の広さだ。

 

 ギターヒーローとしてそこそこ人気があり、ネット上では実力も認められている私だが、突然「あの人が好きなジャンルの曲弾くか」とか言って弾き出すことはできないし、即興アレンジもあそこまで完成度の高いものはできない。できたとしても、普段からよく聴いている音楽に限る。

 

 さっきからKaiさんが選んでいる曲のジャンルには一貫性がない。テクノ歌謡なんて異質すぎる。

 それにも関わらず、Kaiさんは事も無げに高いクオリティで弾いてみせた。しかも、ベースやドラムまで表現するという荒業で。

 ギターだけでなく全体をしっかり聴き込んでいなければそんな芸当はできない。Kaiさんはすごく色々なジャンルの曲を聴き、学んでいるんだろう。

 いやまぁ、しっかり聴き込んでいてもそうそうできるものじゃないけど。

 

 卓越した技術と、幅広い音楽の知識。

 そして、圧倒的な存在感。

 Kaiさん一人でここまでのカリスマがあるのなら、Capliberteというバンドは一体どれだけのパワーを持ったバンドなのだろう。

 

 ドキドキが止まらない。ワクワクが溢れ出す。私が憧れた舞台の、頂点に限りなく近い場所。そこにいるCapliberteというバンドのライブを見てみたい。

 

 

 ......でも怖いなぁ。

 武道館を満席にするくらいには人が集まるんだよね...渋谷とか新宿の駅でさえすぐに帰りたくなるのに、そんな大人数のモッシュなんかに巻き込まれたら吐き散らすこと間違いなし。私の心の脆弱さを舐めるなって話ですよ。

 

 あーあ、Capliberteのライブ、見たかったなぁ(諦め)

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 演奏を終え、頬を伝った汗をシャツの袖で拭った俺は、改めて客席を見た。

 

『ナン〇ーガールで「透明〇女」でした〜。いやぁ、なんだかんだナン〇ガって初めて弾いたけど、結構楽しいね』

 

 教養として聴いてはいたけど、カプリでナン〇ガやろうって話はしたことなかったなぁ。今度やってみるのもアリか。

 

「すごかった...!」

 

 おろ、後藤ちゃんより山田ちゃんの方が食い付き良いな。拍手までしてくれてる。ナン〇ガ好きなんだろうか。

 肝心の後藤ちゃんは......え、なんでそんな全てを諦めたような顔してんの?

 

『俺の演奏はお気に召さなかったかな』

 

「......あっ いえっ...! その...Capliberteのライブ...すごく良かった...です...ありがとうございました...」

 

「ライブはまだ先だよぼっちちゃん!」

 

 やっぱおもしれーわこの子www

 けどそうか。少しチヤホヤされて調子に乗るところだったけど、女子高生一人の心も掴めないか。俺の演奏もまだまだだな。精進しよ。

 

『ライブの詳細もまだだからチケットとかはまだ準備してないんだけど、どうする? 来てくれるなら四枚くらい用意するけど』

 

「行きます!!! ね、リョウ、ぼっちちゃん!」

 

 伊地知ちゃんは元気だなぁ。そんなキラキラした目で見られたらお兄さん照れちゃうよ。

 

「うん、行く。Capliberteのライブを見れるとか、激アツ」

 

「あっ わわ私はそのぅ......」

 

「全員行きます!!」

 

「ひぅ!?」

 

 後藤ちゃんの意見ガン無視で草。やっぱイジメられてんの? 強く生きてね。

 

「...あれ? 四枚も用意してくれるんですか?」

 

『ん? ああ、店長も来るかなって。迷惑なら大丈夫っすけど』

 

「!? ...行きますッ!」

 

 なぜ敬語。

 けどまぁ良かった。カッコつけて「チケット用意してやんぜ」とか言ったのに「いらねーよバカ」とか言われたら泣いちゃってた。

 

『それじゃあ詳細決まったら連絡するっす。俺も本番までにもうちょっと上手くなりたいと思ってるんで、楽しみにしててください』

 

「お前まだ上手くなる気なのか!?」

 

「それ以上ってどこレベル!? ロー〇ング・ストーン誌が選ぶギタリスト100選とかですか!?」

 

 元気な姉妹だなぁ。

 てか伊地知ちゃん、ロー〇ング・ストーン誌知ってるんだ。

 

『あはは。さすがに世界のギタリストたちとは比べ物にならないよ。俺もまだまだだからね、努力しなきゃ』

 

 

「...おい聞いたか? あいつ、あのレベルで、しかも高校時代に頂点に立っておいてあんなこと言ってるぞ」(ヒソヒソ)

 

「...あれでまだまだだったら何が十分なんだろうね」(ヒソヒソ)

 

 

 店長と伊地知ちゃんがヒソヒソと何かを話し始めた。声が小さくて何を話しているのか聴き取れない。

 なんだなんだ、正々堂々真正面で陰口か? 泣いちゃうぞこの野郎。

 

 

 アンプのツマミを全て0にし、電源を切ってからシールドを抜く。

 シールドをいつもより丁寧に巻き、ギターとエフェクターも仕舞い、マイクも片付ける。

 

「そんじゃ、俺はこの辺で失礼します。ありがとうございました」

 

 長居しても迷惑だろうと思い、さっさと退散することにした。関口はクールに去るぜ。

 

「あっ、あのっ!」

 

 被ってもいないくせに帽子のつばを触るような仕草をしていたら、伊地知ちゃんに呼び止められてしまった。

 

「連絡先とか教えてもらえませんかっ! あたしたちのライブ、見に来て欲しくて!」

 

 ほえ?

 まさかJKから連絡先を聞かれる時がくるとは。

 まぁJKから見た大学生つったら「大人の男」だし、そこそこ魅力的に見える────なんてことはない。

 

 伊地知ちゃんの目的は「俺との連絡先交換」ではなく「ライブに来てもらうこと」。要はノルマ達成のための広報活動の一環に近いんだろう。

 勘違いするな。早とちりは死に直結する(未成年)

 

「いいよ。LINEでいい?」

 

「は、はい!」

 

 昨日時点では別に結束バンドを特別贔屓にするつもりはなかったけど、こっちのライブには呼んでるんだ。返礼として結束バンドのライブにも顔を出すべきだろう。

 発展途上のバンドの成長が見れるってのも楽しそうだしな。

 

 伊地知ちゃんにLINEのQRコードを読み取ってもらい、連絡先を交換する。

 

「じゃ、俺帰るよ。バンド活動、頑張ってね」

 

「はい!」

 

 笑顔を咲かせる伊地知ちゃんに軽く手を振り、今度こそ俺はクールに去った。

 

 

 

 

 

 

 




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モチベになります。承認欲求モンスターなので。
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