ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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ギリギリセーフ!


なぜか飛んできた学生鞄が激突!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日の放課後。

 

「はぁ〜〜〜」

 

 結構大きめなため息を吐きながら、あたしは下北沢駅の改札を抜けた。

 

 結束バンドが(一応)始動してから早一ヶ月。

 三人でスタジオに入ったり、ぼっちちゃんにもバイトをしてもらって(きた)るライブに備えたノルマ代を稼いだり...と、いろいろ準備をし続けてはいるんだけど。

 

「どこかにボーカリスト、落ちてないかな〜〜〜」

 

 そう。結束バンドにはボーカルがいない。

 インストも良いけど、あたしはボーカルがいるバンドがやりたい。そのために最初はギタボの子を入れてたんだけど、当日に逃げられちゃって。

 

 ぼっちちゃん加入後もSTARRYの掲示板なんかでボーカル募集をかけてるけど、連絡一つこない。

 あーあ。いつになったら本格的に始動できるんだろ、結束バンドは。

 

 駅周辺を少し離れたところで、手をちょっとだけ大きく振る。なんとなく、体を大きく動かしたら憂さ晴らしになる気がしたから。

 手に合わせて歩幅も少しだけ広くなる。学校帰りで手にはカバンもあり、遠心力的なアレで手の振りが少しずつ大きくなってきた。

 

 ここで脱力したのがダメだった。

 カバンの遠心力による肩への作用が案外心地よかったから、もっとだるんだるんにしてみよう、と。そう思ったのが失敗だった。

 

「あっ」

 

 するりと、あたしの手からカバンがすっぽ抜ける。

 ちょうど後ろに振り切ろうとしていたところで、中々強い力でカバンは後方へ飛んで行った。

 そして、

 

「ブッ!?」

 

 後方から、カバンが何かに当たる音と、人の呻きのような声が聞こえてきた。

 

 あ、これやったわ。

 

 慌てて後ろを見てみると案の定、あたしのカバンは、あたしの後ろを歩いていた通行人の顔にクリーンヒットしていた。

 

「ごっ、ごめんなさいっ! だ、だだ大丈夫ですか!?」

 

「っあ゙〜...だいじょぶだいじょぶ」

 

 顔を大きな手で覆うように抑える人の声は、聞いた覚えのある声だった。

 それに、この髪型(黒のハーフアップ)とピアス。いや、下北には似たような人はたくさんいるけど、ここまで要素が揃っているとそうそう間違えはしない。

 

「か、海さん!?」

 

 思わず声を出してしまった。

 さっきからあたしの声が大きいからか、周りの通行人がチラチラとこちらを見てくる。

 

「久しぶり...ってほどでもないか。えっと、とりあえず歩かない? ここ、立ち止まってたら邪魔になっちゃうし」

 

 海さんは顔の痛みよりそちらが気になるのか、苦笑しながらあたしのカバンを拾い上げて歩き出す。

 あたしも別に勧んで通行の邪魔がしたいわけでも、立ち話がしたいわけでもない。

 もう一度だけ「ごめんなさい」と、今度は声のボリュームを落として言ってから、歩き出した海さんの隣を歩く。

 

 歩幅が合わず、少しだけ先を行ってしまう海さんに速足で追いつきながら、海さんの顔を覗き込む。

 うわ、相変わらず綺麗な顔してるな。......じゃなくて。

 

「顔、大丈夫でしたか...?」

 

「ん? うん、全然平気だよ。この前のドアパンチと比べればね」

 

「ヒッ...ご ごめんなさいっ!」

 

 あっはっは、と笑う海さん。

 もしかしてからかわれているんだろうか?

 意地が悪いと思いつつも、実際流血沙汰にまでなっているから何とも言えない。

 相手が相手ならあたし、フツーに慰謝料とか請求されてもおかしくなかったよね、アレ。

 

「ま、ホントに大丈夫だからそんなに気にしないで。それより伊地知ちゃん、ボーカル探してるの?」

 

「え?」

 

 突然の問いに対応できず、一瞬固まる。

 あれ、あたし海さんにボーカル募集してること言ったっけ?

 

「これ、カバンからはみ出てるこのチラシ」

 

 あたしの困惑を察したのか、海さんがあたしのカバンを目線近くまで持ち上げながら言ってくる。

 チャック開いちゃってたんだ。危ない、財布とか落としてないよね?

 ......あ、っていうか!

 

「ご、ごめんなさい! カバン、持たせちゃってて...!」

 

「別にいいよ。ほら、女の子の荷物持つのって、かっこつけたがる男の本能だから。紳士ぶりたいの。...あ、俺に持たれるのがキモいって感じだったら謝るけど」

 

「い いえ! キモいとかそういうのは全く!」

 

「そう? じゃあ持たせてもらっちゃおっかな。行先はSTARRYだよね?」

 

「あ、はい...! すいません、ありがとうございます」

 

 ここで食い下がっても逆に失礼かと思い、有難く持ってもらうことにした。

 なんか、ちょっとドキドキしちゃうな。なんでだろ? 同級生の男子に同じことをされても「ちょっとめんどくさいな」って思うくらいなのに。

 

「あ、そういえば海さんはなんで下北に?」

 

 ギターも持っていないし、ライブをしに来たわけじゃないだろう。

 どこかの箱を見に来たのかな?

 

「ちょっとバイトでね〜」

 

「バイト? あ、またPAのお仕事ですか? まさかSTARRYで?」

 

「うんにゃ、音楽は関係ないかな。俺、赤いファストフード店でバイトしてるんだ」

 

「赤いファストフード店...ってあの駅前のですか? え、わざわざ下北まで来て?」

 

「そうなんだよね〜。いや、普段は地元なんだけど、なんか突然左遷されて」

 

 さ、左遷?

 左遷ってあれだよね。言い方は悪いけど、仕事ができない人が遠くに飛ばされる、みたいな...。

 海さんってマトモそうに見えるけど、実はヤバい人だったり...?

 

 ...バンドマンだしありえるな。

 

「聞いてくれよ伊地知ちゃん。うちの店長、酷いんだ」

 

「は、はあ」

 

 今後の付き合い方を考えた方がいいのかな、と思っている隣で、海さんの回想が始まった。

 

 

 

 

 

 ✿ ほわんほわんせきぐち〜 ✿

 

 

 

 

 

「関口くん。キミ、明日から下北沢の店舗に異動ね」

 

「は? 嫌ですけど?」

 

「下北沢店に行くと言いなさい。これは命令です」

 

「何言ってんだこのおっさん」

 

 店長め、ついに壊れたか。

 最近...いや、ずっとだけど。

 大人気アイドルバンドのボーカルが昔この店舗(ウチ)で働いてたっつー理由で勝手に聖地化されていたからか、関東圏内売上トップ10を取り続けるくらいには忙しい日々が続いてたからな。

 

「つーか、今俺が抜けてしんどいのって店長っしょ。シフト管理にバイト面接に新人指導にサビ残。俺がどれだけの仕事をしていると?」

 

「最低賃金で働いてくれてて本当に助かってる」

 

 汚い厨房の床で躊躇いもせずに土下座をする成人男性。

 店長(おっさん)の土下座も見慣れてきたなぁ。嫌な慣れだ。

 

 暇な時は基本ずっとシフトに入り、忙しすぎてぶっ倒れて一時期入院していた店長に代わり店を切り盛りし、休日返上で新人に仕事を教えながら事務仕事をこなし......と、ほかにも大きな声では言えないが労基にバレたらわりとマズいことをたくさんしてきた。

 まぁ大学に入ってからはバンド(Capliberte)もなかったし暇だったからな。家でゴロゴロして怠惰を貪るよりはよっぽど有意義な時間だったろう。

 

 で、だ。

 話は戻るが、本当に俺が異動していいのか。

 

「最近は関口くんのおかげで新人も育ってきてるし、何より来月から社員が増えるからね」

 

 なるほど、それは素晴らしい。

 で、それが俺の異動となんの関係が? 普通に俺が楽をするだけで済みそうな話じゃん。

 

「実はね、ここだけの話なんだけど、下北沢の店長がトんだらしいんだ」

 

「......は?」

 

「前の店長が転職に伴って辞職したんだけど、次の店長として回せる人材が新入社員しかいなくてね。まぁものは試しってことで配属させてみたら、二日目で無断欠勤、四日目で音信不通になったらしくて」

 

 

 ヤベーなそいつ。

 いやこの会社も中々ヤベーけど。

 

「ほら、うちの業界って人の出入りが激しいだろ? 中堅層がほとんどいないんだよ」

 

「はあ」

 

「次の店長も入社二年目に入ったばかりの子でね? このままじゃ前回の二の舞なんじゃないかって本社も危惧してて...」

 

「はあ」

 

「そこで僕が言ったワケさ! 『よろしい、ならばうちの関口を貸しましょう』...ってね!」

 

「意味が分からん」

 

 やっぱりイカれたかこのおっさん。

 俺、腕の良い精神(こころ)のお医者さんを知ってるんだ。今度紹介してやろう。

 

「それにほら、下北沢ってアレだろう? バンドの聖地って言われてるんだろう?」

 

 そりゃそうだけど。

 

「バイト帰りにライブを観て帰る、とかもできるんじゃない? 交通費は会社持ちだし」

 

 そう言われると魅力的に聞こえてくるなぁ。

 

 うーん......

 

「...分かりました。行ってくるっす」

 

「ホントかい!? ありがとう、助かるよ!」

 

 ま、下北でインディーズバンド掘ってみるのも面白そうだし、結束バンドのライブも見れるかもだしな。

 

「良かった〜! これで上手く下北沢店が回ってくれたら僕のボーナスが増えるよ!」

 

 なんだこいつ。

 

「おいおっさん、焼肉奢れよ。西麻布辺りで」

 

「店長のことをおっさん呼びする人には奢りませーん」

 

「うーん、ここのバイト辞めてスタジオミュージシャン一本で食っていこうかな〜」

 

「西麻布でいいのかい? 六本木や赤坂にだって美味しいお店はたくさんあるよ」

 

 なんだこいつ。

 

 

 

 

 

 ❀ ほわんほわんせきぐち〜 ❀

 

 

 

 

 

「とまぁ、こんな(くだり)があって、最近下北店で働くことになったの」

 

「は、はあ...」

 

 別方面でヤバい人だった。

 え、こういうのSYACHIKUっていうんじゃないの...? 海さんって大学生だよね?

 

「あの、そんなに働いて大丈夫なんですか? その、学校とか...」

 

「大学はもうほとんど行ってないからなぁ」

 

 え、もしかして留年覚悟?

 お姉ちゃんもそんな感じで大学中退したし、すごいバンドマンってみんなそんな感じなのかな...?

 

「あ、いや。別にサボってるとかじゃなくてね? もう卒業に必要な単位は取り終わったんだよ。あとは必修とゼミだけ出とけば良くて。今学校行ってんのは週一かな」

 

「あ、そうなんですね」

 

 すっごい。

 真面目な人なんだなぁ、海さん。バンドマンなのに。

 

「サークルとかは入ってないんですか?」

 

「一応軽音サークルに籍だけはあるけど、もう一年近く顔も出てない」

 

 そうなんだ。

 やっぱり海さんレベルになると、大学のサークルじゃ物足りないとかなのかな?

 

「ちょっと生々しい話だけど、男女関係がだらしない人が多くて」

 

「え」

 

 サークルとはいえやっぱりバンドマンか...。

 でもそういうのが嫌で疎遠になるってことは、海さんは一般的な倫理観を持ってるってことだよね。

 

 少しだけホッとしていると、ポケットに入れていたスマホが鳴る。

 海さんが「どうぞ」って言ってくれたので、お辞儀してからスマホを取り出した。

 

「...ぼっちちゃん?」

 

 ぼっちちゃんから連絡が来るなんて珍しい。

 アプリを開き、ぼっちちゃんからの連絡を確認する。

 

 

 後藤『すみません...!』

 後藤『EDMガンガンにかけてエナドリ片手に踊り狂いながらバイトしててください』

 

 

「なんだこれ」

 

 ぼっちちゃんたまに...いや頻繁に理解不能なこと言い出すんだよなぁ。

 

「どしたの?」

 

 あたしの反応が気になったのか、海さんが聞いてくる。

 

「いや、ぼっちちゃんからこんなロインが...」

 

 見せても問題ないと判断し、ぼっちちゃんとのトーク画面を海さんに見せる。

 スマホの小さな画面を見るためか、海さんの顔が近付いてきた。

 えっ。何これいい匂いする。香水?

 

「...何これ」

 

 あたしと全く同じ感想を抱いた海さんがスっと離れて行く。

 少し心惜しく思う。ほんとにいい匂いだった。あとでどこの香水なのか聞いておこう。

 

「あ、あたしエナドリ買ってきます!」

 

 少し外れてしまった思考を戻すように、少しだけ大きく声を出す。

 エナドリってコンビニに売ってるやつだよね。EDMかけながらってことは、リポビ〇ンDとかガチのやつじゃなくて、モン〇ター的なやつ。

 

「え、ホントにやるの? 店長怒るよ? 多分」

 

「い、いや、でも一応ぼっちちゃんのお願いなので...」

 

「ふーん。伊地知ちゃんは優しいね」

 

 優しい、だろうか。

 分からないけど、海さんにそう言ってもらえるのは少し嬉しい。

 

「でも、エナドリ買いに行くんだったら俺はちょっとお供できないかも。もうすぐバイト始まっちゃうから」

 

「え、あっ、ていうかお店(バイト先)真逆...! ご、ごめんなさいっ!」

 

「謝ることないよ。好きで付いてきたんだし。じゃあ悪いけど、ここまでかな」

 

 そう言い、海さんはカバンを差し出してくる。

 謝らなくていいとは言われたが、それではあたしの気が収まらない。もう一度「すいませんでした」と謝罪した後「ありがとうございます」とお礼を言ってからカバンを受け取った。

 

「そっちもこれからバイトなんだよね?」

 

「あっ はい!」

 

「お互いがんばろーね。あ、あとボーカル、見つかると良いね。それじゃ」

 

「は はい! ありがとうございます!」

 

 軽く手を振って今来た道を戻っていく海さんに、もう一度だけお礼を言う。

 

 

 

 同世代の男の子とは違う、余裕のある大人の男の人。

 優しさには下心が見えず、礼儀正しくて、真面目で。

 最初は合わなかった歩幅も、気が付けばあたしに合わせてくれていた。

 

 本当に、素敵な人だと思う。

 

 

「虹夏」

 

「ひゃいっ!?」

 

 突然声を掛けられて、思わず大きな声が出てしまった。

 

「? なにやってんの」

 

 声の主を見てみると、気だるそうにこちらを見ている親友(リョウ)の姿が。

 放課後、「新譜が私を待っている」とか目を輝かせて先に帰ったと思ったら、もう戻ってきたらしい。

 

 一旦咳払いをし、リョウに向き直る。

 

「な、なんでもない! それよりリョウ、今からエナドリ買いに行くよ!」

 

「え なんで」

 

「なんかぼっちちゃんから『EDM流してエナドリ片手にバイトしといて』って連絡がきて」

 

「は?」

 

「いーから! ほら行くよ!」

 

 嫌そうなリョウの手を引っ張り、コンビニに走る。

 抑えきれない気持ちを隠すように、誤魔化すように。

 

 

 

 最近、いろいろなことが起きすぎた。

 リョウと念願のバンドを組んで、少し想像とは違かったけどギターも加入して、STARRYでの初ライブをして。『夢』への第一歩を踏み出した。

 そして、あたしの『()()()()()である海さんとの出会い。

 

 

 正直、興奮した。胸が熱くなった。

 

 

 目指すべき指標がそこにいる。

 憧れの存在があたしを、あたしのバンドを見てくれている。建前とはいえ、応援までしてくれている。

 これで熱くなるなという方が無理というものだ。

 

 

 頑張ろう。

 海さんに出会うまでもなくそうするつもりではあったけれど、より一層頑張ろう。

 いや、頑張れる(・ ・ ・ ・)

 

 

 あたしの『夢』に向けて、歩くべき道が見えた。

 そんな気がするから。

 

 

 

 

 

 

 





Q.海くんはなんで虹夏ちゃんの真後ろにいたのに声をかけていなかったの?
A.驚かそうとして忍び寄っていたからです。


皆さん、ぼざろ12話はご覧になりましたか?
私はまだです。アマプラ勢なので。早く見たいなぁ。
アルバムは聴きました。アジ〇ンのカバーもクソ良かったですね。マジで震えました。


次回は年明け。
元旦に出せれば良いのですが、普通に忙しいので恐らく8日投稿になると思います。
それでは皆さん、良いお年を。
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