ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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なんでも言うことを聞いてくれるセキグチサン

 

 

 

 

 

 

『助けてください関口さん!!』

 

 

 突如かかってきた喜多ちゃんからの電話。

 スピーカー越しのSOSに、俺はバイクを全力で走らせて下北沢まで飛んできた。

 

 指定されたスタジオに駆け込み、スタッフさんへの挨拶もせずに部屋に押し入る。

 

「何があった!」

 

「Fコードが弾゙げま゙ぜー゙ん゙!!」

 

「......は?」

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 スタッフさんに頭を下げてから改めて入ったスタジオで、膝から崩れ落ちている喜多ちゃんを見下ろす。

 

「で?」

 

「私無理です! ギター辞めます!!」

 

 何言ってんだこの子。

 

 隣にオロオロしている後藤ちゃんがいたので、そっちを見てみる。

 俺の目線で聞きたいことを察したのか、余計にオロオロしながら答えてきた。

 

「あ あの、喜多さん、Fコードが上手く鳴らせないらしくて...」

 

「そんで秒で挫折してこうなった、と」

 

「あ は、はい...」

 

 なるほどなぁ。

 気持ちは分からなくもないが、なんて人騒がせな連絡を寄越してくるんだこの子は。

 

「俺はてっきり、喜多ちゃんが悪質な詐欺にでも引っかかったのかと」

 

 もしくはホストか山田ちゃんに貢ぎすぎて親に勘当されたとか、そのレベルの話かと思っていた。

 ホストはまぁ高校生だしありえないにしても、悪い男に捕まってしまったとかは普通にありそうだ。

 

「ほら喜多ちゃん、落ち着いて」

 

「うぅ〜...」

 

 蹲るなんとか喜多ちゃんを椅子に座らせ、一旦落ち着かせる。

 顔面崩壊レベルで落ち込んでいる喜多ちゃんだが、Fコードが弾けないなんて、ギタリストなら誰しもが通る道だ。悲観するようなことじゃない。

 

「後藤ちゃんがギター教えてたんでしょ? どこまで弾ける、っていうか押さえられるようになったの?」

 

「あ えと、CとDとDmとEとEm、GとAとAmはなんとか...」

 

「まじ? 凄いじゃん」

 

 初心者が覚えるべきコードは半分以上網羅してるな。

 

「ほかはF含め、バレーコード*1使うからできないって感じか」

 

「あ はい、そうです」

 

「これ無理ですよ! 人が手を出していい領域を超えてます!」

 

「いや、そんなこと言ったら俺らどうなるの。人間じゃなくなっちゃうけど」

 

「......神さま?」

 

「そんな馬鹿な」

 

 けどまぁ、分からないでもない。

 最初はみんなそんなもんだ。情熱がない奴はここで振るいにかけられる。「Fコードが弾けずにギターを辞める人が多い」っていうのは脅しでも誇張でもなく、本当にあるあるなのだ。

 

「どのへんまでコツとか教えたの?」

 

「あ 親指の位置と、あと脱力くらいは...」

 

「おっけー。んじゃ喜多ちゃん、一回Fコード構えてみよっか」

 

「ぐす...はい......」

 

 泣くほどか。

 相当キてるな、これは。

 

 喜多ちゃんがたどたどしく指を構え、弦の上に置く。

 人差し指(バレーコード)に気を取られるあまりか、ほかの指が上手く押さえられてないな。その人差し指も上手く押さえられないし、アレじゃ六弦以外の音は出ないだろう。

 

「まずは人差し指からだね。指の腹で押さえるんじゃなくて、側面で押さえるようにしてみな? ほかの指は今はいいから、とりあえず人差し指だけで押さえてみて」

 

「はっ、はい...!」

 

 お、立ち直りは早いな。

 良いことだ。口じゃ泣き言を言っていても、ギターが弾けるようになりたいって気持ちはあり続けているんだろう。

 

「人差し指はフレットの近くに置いて」

 

「んっ...やっぱり上手く鳴らないわ。特に三弦が...」

 

「三弦は鳴らなくても大丈夫だよ。六弦と、あと一、二弦が鳴ってればOK」

 

「え? そうなんですか?」

 

 ふむ、そこが理解できてなかったのか。

 言われてみれば、俺も最初はそんな勘違いをしていたかもしれない。

 初心者時代とかもう十四、五年くらい前の話だから、当時の感覚とか結構忘れてるな。

 

「三、四、五弦はほかの指で押さえるだろ? だから、人差し指でしっかり押さえなくてもいいんだよ」

 

「あっ、なるほど! 確かにそうですね!」

 

 元気に納得した喜多ちゃんは、フンスと意気込んでもう一度挑戦する。

 

「えっと...」

 

 ゆっくりと、一弦一弦確かめるように音を鳴らす。六弦はもちろん、さっきはろくに鳴っていなかった一、二弦もそこそこ綺麗に鳴った。

 

「わぁ...! やった、やったわ! 鳴りました!」

 

「おめでとう。じゃあ次はほかの指も添えてやってみようか」

 

「はいっ! なんだか今、何でも出来そうな気分だわ!」

 

 おっ、いいねぇ(フラグ建築的な意味で)

 

「そーれっ!」

 

 ボンビボボ(全く鳴っていないFコードの残骸)

 

「もう嫌ァああ!! ギター辞めます!!」

 

 いいねぇ!(フラグ回収的な意味で)

 

「さ、さっきからこの無限ループで......」

 

 疲れたように後藤ちゃんが呟く。

 この子も苦労したんだろう。ガチの初心者に一から教えるってのは思っているより難しい。

 

 それにしても、これはちょっと問題だな。

 

「喜多ちゃん」

 

「は、はい......」

 

 少し萎縮したような声。怒られると思っているんだろうか?

 

 

 

 ──正解だ。

 

「嫌とか、辞めるとか。そういうのあんまり言うもんじゃないよ。特に後藤ちゃんの前ではね」

 

「え?」

「......えっ?!」

 

 なんで後藤ちゃんの方が驚いてんのさ。

 まぁいいけど。

 

「後藤ちゃん、キミが何個もコード覚えるまで練習に付き合ってくれたんだろ? そこまでしてくれる人に対して『嫌』とか『もう辞める』とか、普通に失礼だ」

 

「うっ...」

 

「それに何より、キミがギターを辞めるってことは、バンドを辞めるって言ってるのと同じなんだよ。そんなことを軽々しく言うのは感心しない」

 

「うぅ......」

 

 喜多ちゃんがしおしおしちゃった。

 けど大事なことだ。ただの友達とは違う。バンドメンバーは仲間だ。少し過大解釈になるかもしれないが、「嫌だから辞める」というマイナス寄りの表現は裏切りにも近い。軽い気持ちで言っていいことじゃない。

 

「...まぁ、喜多ちゃんの気持ちも分かる。何でもそうだけど、上手くできないってのはストレスだしね」

 

 結束バンドのためにも少しキツめな言い方をしたが、厳しいことだけ言っても余計にストレスを与えるだけ。本当に辞めてしまうかもしれない。

 それは俺も望まないところだ。

 

「もう少し頑張ろう。大丈夫、Fコードに躓くのは全員が通る道だから。ね、後藤ちゃん」

 

「あ は、はい。わ、私も最初は上手く弾けなかったし...」

 

「ほんとに...?」

 

 意外か。

 まぁ初心者からしたら、簡単そうに弾く奴らは全員天才に見えるんだろう。あの人たちは簡単に弾いている、自分にはできないことをやっている、と。

 けど、そうじゃない。

 

「俺だってそうさ。最初はFどころか、Cだってまともに鳴らなかった。そういう面でいうと、この短期間でもう何個もコードが弾けるようになった喜多ちゃんはすごいんだよ」

 

 一握りの本当の天才を除いて、誰しもが何度も何度も壁にぶつかる。

 それでもめげずに努力した人間にだけ上手くなる資格がある。それだけの話だ。

 

「だからもうちょっとだけ頑張ろう。大丈夫、必ず弾けるようになるよ。喜多ちゃんが諦めなければね」

 

「は、はいっ! 私、頑張りますっ!」

 

 うん、いい返事だ。

 やっぱりムチの後にはアメを与えるに限るな。人にもよるだろうが、適度にアメを与えた方がやる気が出る。

 厳しいだけじゃ人は育たない。いつだかに読んだ啓発本にそう書いてあった。

 

 

 とは言っても、アメとムチだけでモチベを保ち続けることができるほど人間は単純じゃない。

 大事なのは成功体験。これがあるとないとでは天と地ほどの差がある。これは持論だ。

 

「喜多ちゃんってどんな音楽が好きなの? 普段どんなの聴く?」

 

「え? えっと...B○BのDyn○miteとか?」

 

 うーん、JK。

 バンドじゃないしな。まぁいいけど。

 

「Dyn○miteだと...多分コード四つでいけるかな? あれ、いや。あの曲って途中で転調するっけ?」

 

 不安になっちゃった。普段ちゃんと聴いてないからな。覚えてねぇや。

 スマホを取り出し、YouTubeで検索して聴いてみる。

 

 イントロを聴く。うん、確かずっとこれの繰り返しだったはずだ。四つでいけるな。

 少しスキップして、Cメロ入り。......うーん、がっつり転調してんな。バレーコード入ってくるけど、まぁ練習になっていいかもしれない。

 

「じゃあ喜多ちゃん、ちょっと曲練習してみよっか。ただコードの練習するより、そっちの方が楽しいと思うんだよね。どう?」

 

「え、やりたいです!」

 

「後藤ちゃんもいい? コーチ役として『横槍とかんなもん許せるわけねぇだろ!』って感じなら...」

 

「い、いいいいいいえ! だっ 大丈夫です!」

 

 過剰反応面白いな。

 まぁともかくコーチからの許可も降りたし、ちょっとやってみるか。

 

 一旦受付に行き、ギターとシールド、あとアコシュミ*2を借りてくる。

 

「そんじゃあ始めるよー」

 

 ギターをセッティングし、ゆっくりと弾き始める。

 まずはAm、次にDm、G、Cと続けていく。

 もっとちゃんと弾き語ろうとしたらスラム奏法*3だったりアルペジオ*4だったりを織り交ぜる必要があるが、そこまでする必要はないだろう。

 

 

 とりあえず一番だけ弾き語って見せ、喜多ちゃんの反応を見る。

 

「す、すごーい! すごいです!」

 

 好評なようだ。良かった良かった。

 

「気付いたかもしれないけど、今のって喜多ちゃんが今弾けるコードだけで成立してるんだよね。だから今の喜多ちゃんでも弾けるよ」

 

「確かに! やれそうな気がします!」

 

 フラグか?

 まだ早い。慌てるな。

 

「とりあえずはギターだけに集中して、ゆっくり弾いていこう」

 

「はいっ!」

 

 そう言い、喜多ちゃんはコードを一つずつ確認しながら弾いていく。

 

 まだまだ拙いし、ミュートが上手くいっておらず余計な音に塗れているが、それでもこの短期間でここまで出来るようになったことは素直にすごいと思う。根が真面目で努力家なんだろう。

 完成度はともかく、一曲軽く流す程度には弾けるようになりそうだ。そうすれば「一曲は弾けるようになった」っていう成功体験から練習のモチベ向上にも繋がるはず。努力できるってのは才能だよ。

 

 

 ...と、そんなことを考えていたら、後ろからビビるくらい綺麗な音が聴こえてきた。

 

「え?」

 

 ガタッ、と座っていた椅子の音が鳴る勢いで振り向く。

 

「...え? あ えっ えっ!? あっ あの...なにか......?」

 

 すごい勢いで振り向いてしまったからだろうか。

 音を奏でた本人、後藤ちゃんが異様なほど動転している。いや、この子の場合これは“異常”じゃなくて“通常”か。

 まぁそんなのは今はどうでもよくて。

 

「...今の、もっかい弾いてくれる?」

 

「えっ いや、あのっ あっ、えっ...」

 

 まだ落ち着かないのか、目に見えて狼狽える後藤ちゃん。あ、顔面崩壊してきた。

 

 さっき聴こえてきた音。キレのあるカッティングと、スムーズなスライド。

 俺の勘違いでなければ、恐らくDyn○miteのサビ部分のアレンジだ。

 

 たかがカッティング、たかがスライド。しかも短い演奏。

 それだけだが、その中にとんでもない技術が詰められていた。

 一切余分の無い音。聴き心地の良い音域。

 演奏も音作りも、プロと比べて遜色ない。

 

 十秒にも満たない僅かな時間だったため、その全てを推し量ることはできない。

 だが、末席とはいえ武道館や海外ライブを経験した一人のギタリスト、しかもスタジオミュージシャンとしてプロの世界を少しは知っている俺が今の演奏を評価した時、手放しで「すごい」といえるレベルのものだった。

 

 

 上手いだろうとは思っていた。

 だがここまでとは聞いてない。

 

「後藤ちゃん。今の演奏、もう一回やってくれない?」

 

 再度リクエストする。

 もう一度聴きたい。もしかすると、彼女は俺より上手いギタリストなのかもしれない。それを確認するために。

 

「ふぁ あの、えっと......!」

 

 ベジョンビチョンベベロン

 

「.........」

 

「.........」

 

 

 意を決したように弾き出した後藤ちゃんのギターから聴こえてきた音は、喜多ちゃんよりも酷い音だった。

 弦をきちんと押さえられておらず、鳴ってはいけない弦が震えている。

 

 

 

 ...勘違いだったんだろうか?

 さっきのはたまたま、奇跡レベルの良い演奏ができただけ?

 

 いや、そんなはずがない。さっきのは偶然できるような演奏じゃなかった。

 仮に偶然の産物だったとしても、土台がしっかりしていなくてはあの演奏はできない。少なくともプロとして活動できるレベルはあるんじゃ────

 

 

「今の! 聴いてましたか()()()! コードチェンジ、ちょっとスムーズにできるようになりました!」

 

「...え、あ、ごめん聴いてなかった。もう一回やってもらっていい?」

 

「えー!? もー! 次はちゃんと聴いててくださいね!」

 

 喜多ちゃんに呼び戻され、思考が途切れる。

 

 後藤ちゃんが実はバケモノなんじゃないかという疑い。それは拭えないが、焦らなくても、結束バンドを見続けていればそのうち分かることだろう。結束バンドを応援する楽しみが一つ増えてしまったな。

 

 今は喜多ちゃんのレッスンに集中しよう。

 そう思い、ナメクジになったしまった後藤ちゃんに背を向け、喜多ちゃんに向き直る。

 

 それにしても後藤ちゃんのギター、なんか最近どっかで見たことある気がするんだよなぁ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

『助けてください海さん!!』

 

 もう七月も末。夏の暑さが本格的になり始めた頃。

 バイト終わりにディス○ユニオンでレコードを物色をしている時、伊地知ちゃんからそんなロインが届いた。

 

 多少の既視感があるものの、こんな連絡を受けては駆け付けないわけにもいかない。

 

 とりあえず落ち着いて会計を済まし、現在地を聞き、近場にいるらしかったので少しだけ早足で向かう。

 まぁどうせ、また些細なことだろう。高校生つってもまだまだ子供。絶賛思春期真っ只中だ。ちょっとしたことで感情が大きく揺れ動く、色々と過敏な年頃なのだろう。

 

 

 指定された場所に到着し、すぐに伊地知ちゃんを発見する。

 山田ちゃんや喜多ちゃんもいるようだ。後藤ちゃんだけいないな。ハブってんのか? イジメだとしたらお兄さんちょっと怒るぞ。

 

「おーい、伊地知ちゃーん。どしたの、何があった?」

 

「か、海さん!! うぅ...ふぇええ!!! お姉ちゃんに『一生仲間内で楽しく放課後やってろよ』って言われてぇ!!」

 

「...は?」

 

 結構大事(おおごと)じゃねーか。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 とりあえずその辺で買ったタピオカを与えて伊地知ちゃんを落ち着かせる。

 タピオカは偉大だ。女子に限らず大抵の若者は好きだし、困った時はタピオカを奢っておけば間違いないらしい。幼馴染みのパン狂いがそう言ってた。

 

 かく言う俺も最近タピオカにハマった。一応最近の若者らしく流行には乗っかっておこうと思い手を出したら、これがまた美味いのなんのって。

 

「タピオカって久しぶりに飲みました! 流行りが終わってからは全然飲んでなかったな〜。逆にアリかもしれませんねっ!」パシャッ(自撮り)

 

「えっ」

 

 何それ。俺の認識じゃまだ絶賛大流行中なんだけど。え、時代に乗り遅れた男...ってコト?!

 まぁイソスタでブイブイ言わせてる喜多ちゃんが言うんだから、きっとタピオカは時代遅れなんだろう。

 俺、タピオカが全国的に流行ってるってこの前知ったばっかりなんだけどなぁ。本当に悲しくなってくる。

 

「タピオカってもうオワコンなんだ。知らなかった」

 

「あはは! オワコンも久しぶりに聞きました!」

 

「えっ、オワコンってもう死()なの...?」

 

「死()? まぁ流行は終わってるし、そういう言い方もできる...のかな?」

 

 絶対違う字の『しご』を想像してるだろ喜多ちゃん。

 てかマジで? うっそ、オワコンがオワコンで死語が死語なの? 時代の流れこわ...「俺もまだまだ若者だし〜」とか言ってごめんなさい...

 

「で、星歌さんが何だって?」

 

 時代に置いていかれているという事実に落胆するのもほどほどに、事の詳細を伊地知ちゃんに聞く。

 タピオカ美味しい。流行ってるとか流行ってないとか関係ないよな。美味けりゃ正義だ。

 

「......来月、《STARRY》でライブがあるんです。それに出させてってお姉ちゃんに言ったら、お姉ちゃん、『ライブに出す気はない。一生仲間内で楽しくやっとけ』って...」

 

 ふーむ。案外厳しめのお姉ちゃんだったか?

 見た目も怖いしな。俺は好きだけど。

 

 意外な星歌さんの言葉に若干驚いていると、喜多ちゃんが補足を入れてくる。

 

「あの、店長さん、五月みたいな演奏じゃ出せないって言ってて...私たち、自分で言うのもなんですが、それなりに上手くなったつもりなんですけど...」

 

 ふーむ? ちょっと待て、流れ変わったぞ。

 

「えっと、ちょっと確認なんだけどさ。その来月あるライブって、ライブハウス(STARRY)側主催のブッキングライブなのかな?」

 

「ぶっきん......?」

 

 こてんと首を傾げる喜多ちゃん。

 相変わらずあざといなこの子は。

 

「ブッキングライブ。ブッカーがバンド集めてやるライブのこと」

 

「ちょっと規模感が違いすぎるけど、まぁロッ○ンとかサマ○ニみたいなフェスみたいなもんだと思ってもらえればいいよ」

 

「なるほど! ありがとうございますっ!」

 

 お礼が言えてえらい(肯定マン)

 さて、それで例の来月のライブとやらはSTARRY主催なのかどうか、って話だが。

 

「来月のはSTARRYがブッキングしたライブです」

 

 山田ちゃんの解答を聞き、さらにもう一つ質問をしてみる。

 

「じゃあ、STARRYから出演依頼されたのを撤回された感じ?」

 

「......いえ。こっちからお姉ちゃんにお願いしました」

 

「じゃあオーディション合格してたのに、ってパターンかな?」

 

「............何もしてないです...」

 

 ???????

 

「えーっと...ごめんね、最後にもう一個だけ確認なんだけど。伊地知ちゃんが不満なのって、ライブに出られないから? それとも、星歌さんに暴言吐かれたから?」

 

「どっちもです!!!」

 

 う〜〜〜〜ん。なるほどねぇ。

 怒りのままにタピオカを力一杯吸い上げる伊地知ちゃんに、心配そうにしている喜多ちゃん。

 色々と理解している様子の山田ちゃんは何も言わない。言ってやればいいのに。

 

 俺が言う、かぁ。

 

「...えっとね、伊地知ちゃん」

 

「? はい、なんですか?」

 

 底に溜まったタピオカを吸い上げていた伊地知ちゃんに声をかける。

 

「ライブハウス主催のライブってね? 普通、オーディションとか受けるもんなんだよ」

 

「え? はい、それは知ってますけど...」

 

 知ってるんかい。

 だったら星歌さんが言いたかったことも理解できそうなもんだが。まぁ星歌さんの言い方が悪かったのかなぁ。

 

「多分ね? 星歌さんはこう言いたかったんだよ。『ライブに出たきゃオーディションを受けて、出演できるだけの実力を示せ』って」

 

「え?」

 

 

 

「──ぁ、うッ、ばぁ、ぜはぁ...あ あの......!」

 

 伊地知ちゃんの呆けた声が漏れたところで、何やら死にかけのような声が聞こえてきた。

 声のする方を見てみると、顔が真っ青に染まりきっている後藤ちゃんの姿が。

 いや、あれ青ってレベルじゃないな。紫も入ってる。吐く前の人の顔色だ。

 

「ぼ、ぼっちちゃん!? どうしたの!?」

 

「ぁ あの...はァ、はっ、ゲホッ、さっ、ゲホッ、さっき、はっ、はぁ...ゼェ...てっ、てんちょ、ケホッ、店長さんが...ゲホッ!」

 

「まずは息しよ!? ね!?」

 

 限界すぎるだろ。

 何がどうなったらそうなるんだ。シャトルラン二百回くらい走ったんか?

 とりあえず水分与えとくか。

 

「ほれ後藤ちゃん。水」

 

「あ ありが、と...ござ、い、ます......」

 

 近くの自販機で水を購入し、後藤ちゃんに渡す。

 交通ICで買えるのホント便利だよな。時間がかからない。

 

 こくこくと水を飲み、大きく深呼吸をする後藤ちゃん。まだ顔色は悪いが、さっきよりはマシになってきた。

 

「ぼっちちゃん大丈夫? 落ち着いた?」

 

「あ はい...お目汚しを......」

 

 お目汚して。

 安心しなよ、世の中には他人様にゲロぶっかけてもヘラヘラしてるヤベー人間もいるんだから。

 

「で? そんなに慌ててどしたの」

 

 普通に喋れるようになった後藤ちゃんに、事の経緯を聞く。

 あれだけ慌てて(?)来たんだ、何か重大な事でもあったんだろう。

 

「あ あの、店長さんがさっき言ってました。『一週間後にオーディションをやるから、そこで演奏を見て決める』って...」

 

 やっぱりな。

 言い方は悪いが、そもそも五月(最初)のライブにあのレベルの演奏で出して貰えていたんだ。星歌さんは身内贔屓しがちな人なんだろう。

 そんな人が何の理由もナシに妹を突き放すわけがない。

 来週やるっていうオーディションだって、よっぽど酷い演奏をしない限りは合格にするつもりなんじゃないだろうか?

 

「それって...! 海さんの言った通りですね、伊地知先輩!」

 

「うん! まったくもー、だったらあんな言い方しなくたっていいのにさー。お姉ちゃんのいじわる」

 

 まぁ、姉ってのはそういうもんだ。仕方ない。

 俺も姉ちゃん愛情を感じるのは半年に一回くらいで、普段は本当に粗暴で上位者として振る舞うからな。ま、実際上位者なわけだし、先達者としてそれなりの威厳なりなんなりを示す必要があるのかもしれないが。

 

「良かったね。ライブ、出れそうで」

 

「はいっ! あとは頑張るだけですね! 良かったぁ〜!」

 

「うん...! うん...!」

 

 喜多ちゃんも後藤ちゃんも嬉しそうだ。

 伊地知ちゃんは微妙な顔してるけど、どうしたんだろ。

 

「この二人が一番不安だな、って顔してる」

 

「ドキッ!」

 

 山田ちゃんから指摘を受け、伊地知ちゃんの肩が跳ね上がった。

 つーか何? その擬音を口に出す行為。喜多ちゃんといい、最近の若い子の間で流行ってんの?

 

「じゃあ二人のパートはオケ流しとくから、アテフリの練習だけよろしく」

 

「「はいっ!」」

 

 後藤ちゃん、聞いたことないくらいハキハキ返事してて草。

 

「ダーメ! エアバンドじゃないんだよ!」

 

「一週間しかないんだから、今回は頑張らなくても...」

 

「下手っぴでも頑張れば熱意は伝わるって!」

 

「「下手っぴ......」」

 

「あっ! い、いや...えと、ごめん...!」

 

 面白ぇなぁ、この子たち。

 いやでも、伊地知ちゃんはいい事言ったぞ。

 

「実際、バンドに一番大切なのは熱量だよ。泥臭くても頑張る姿がかっこいい、ってそれ一番言われてるんだから。古事記にだってそう書いてある」

 

「古事記にも!? 本当ですか!」

 

「嘘だよ」

 

「えぇ!?」

 

 ほんとに書いてあるわけないじゃん。ネタだよ。喜多ちゃんは可愛いなぁ(クズ)

 

「でも、スカしてるやつより全力出してるやつの方がかっこいいと思わない? バンドだってそうだよ」

 

 上手かろうが下手かろうが、精一杯全力で取り組んでいるやつはかっこいい。そういうやつが評価される時代になってほしいね。

 

「それに、喜多ちゃんはすごく上手くなったよ。たまに練習見てるけど、ギター始めて三ヶ月の初心者とは思えないくらい」

 

「ホントですか! ありがとうございますっ!」

 

 たった今真顔で大嘘ついた奴にそんな満面の笑み向けてお礼言える? この子すげーわ。

 いや、上手くなったのはほんとだけど。

 

「『喜多ちゃん“は”』......」

 

 あ、やべ。後藤ちゃんがしぼんじゃった。

 

「後藤ちゃんは最初っから上手いの分かってたから。あとは経験積んで実力出すだけだよ」

 

 結束バンドを追っかける楽しみのうちの一つだしな、後藤ちゃんのギターは。

 いやまぁ、全員の成長が楽しみではあるんだけど。

 

「とにかく。全力でやって、全力でぶつかる。必ずしも結果が返ってくるわけじゃないけど、頑張ることに意味があると俺は思うよ」

 

 だから頑張れ。

 もう頑張っている彼女らには失礼な物言いかもしれないが、それでも「頑張れ」と言う。

 努力に終わりはない。限界はあるが、終わりはないのだ。

 

「みんなならきっと大丈夫さ。ライブ、楽しみにしてるからね。絶対合格しなよ」

 

「「はいっ!!」」

 

 うんうん、伊地知ちゃんと喜多ちゃんは元気がよろしい。

 見習えよ山田ちゃんに後藤ちゃん。若者は元気が一番だ。おじさん、若い子が元気にやってるのを見るとこっちも元気になってくるんだよ。

 

 

 さて、それじゃあ若者に元気を貰ったところで、俺も帰ってギター弾こうかな。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 一週間後。

 

『助けてください海さん!! ぼっちちゃんとリョウの分のチケットノルマが達成できません!』

 

 そのくらい自分らでなんとかしろ!!!(二枚買った)

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
セーハとも。1本の指で同じフレットの複数の弦を同時に押さえる奏法のこと。

*2
アコースティックシミュレーターの略。エレキギターでアコースティックギターのような音を出すことができるエフェクター

*3
ギターのボディを叩いて打楽器のように音を出す奏法

*4
コードを分割して単音ずつ弾く奏法




Q.オリ主くんの星歌さんの呼び方が「店長さん」から「星歌さん」になっているのはなぜ?
A.「店長」は身の回りにたくさんいるし「伊地知さん」だと虹夏ちゃんと呼び方が被ってややこしいからです。


『次回、Capliberteベーシスト現る。』




質の良いぼざろ二次創作が増えてきた中、こんな狂ったように音楽や機材の話しかしない作品を読んでくださりありがとうございます。感想とか高評価とか、すごく嬉しいです。モチベになります。
正直読者のほとんどを置いてけぼりにしている自覚はあるのですが、今後も私の性癖(音楽)をぶちかましていこうと思います。
決して良質な作品というわけではありせんが、今後ともよろしくお願いします。
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