ぼっち・ざ・へゔぃめたる   作:怜哉

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お酒が悪いんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おつかれさま〜!」

 

『おつかれさまで〜すっ!』

 

 星歌さんの音頭で、グラスのぶつかる甲高い音が高らかに鳴る。

 

 

 ライブ終わり。

 下北沢の居酒屋にて、ライブの打ち上げが開催されていた。

 

 

 

「今日はよく頑張った。私の奢りだから飲め」

 

「わーい! ありがとお姉ちゃん! 私たちお酒飲めないけど!」

 

 高校生を居酒屋に連れてくるのはどうかとも思うが、酒さえ飲まなければ居酒屋は良いコミュニケーションの場所だ。

 ファミレスよりも会話に向いているし、多少騒いでも店の迷惑にならないレベルなら許される。

 

 で、だ。

 

「これ、俺もいちゃって良いんすか?」

 

 入店し乾杯までしておいて今更だが、星歌さんに確認を取る。

 確かにお呼ばれはしたが、これは結束バンドの打ち上げだ。多少関わりがあるとはいえ、俺は部外者。身内ではない。

 ちなみに須田は帰った。同棲してる彼女が飯作って待ってるらしい。幸せ者め。

 

「いいんじゃねーの? 虹夏たちが呼んだんだから」

 

 凍ったジョッキでビールを呷りながら、星歌さんが言う。

 

「それにほら、あいつの処理(・ ・)係も必要だから」

 

 あいつ?

 

 

「うぇーい!! 四時間ぶりの酒だーッ! カーッ! うめー!!」

 

 

 なんだあいつ。

 結束バンドの打ち上げだぞ。なんで居るんだ、ってのはブーメランだが、なんで開始早々暴れてんだ。

 あの人の世話(処理)係? 俺が?

 

「嫌です」

 

「任せたぞ」

 

「嫌です」

 

 嫌です。

 

 まぁ世話係はともかく、飲みに参加して良いのならありがたく参加させていただこう。

 

「あ、すいませーん。生一つ追加でお願いしまーす!」

 

 奥から「はいよー!」という太く元気な声が聞こえてくる。

 個人経営っぽい雰囲気が良いな。下町の居酒屋って感じで好きだ。

 

「相変わらず飲むのはえーな」

 

「九州の血が流れてるんで」

 

 九州の爺様(じさま)婆様(ばさま)、元気かな〜。もう二年くらい会ってないや。今度九州旅行がてら顔出してみるか。

 

「海さんって九州出身なんですか?」

 

 店員さんから新しいビールを受け取り、カラのジョッキを渡しながら、伊地知ちゃんの質問に答える。

 

「生まれも育ちも東京だよ。母親が九州出身なんだ」

 

「へー! 九州のどの辺なんですか?」

 

「大分」

 

「大分! からあげと温泉が有名なところですよね! イソスタで見たことあります! あ、あと高崎山のお猿さん!」

 

 喜多ちゃんの知識ソースはイソスタしかないのではないか疑惑、あると思います。

 最近の若い子はネットじゃなくてSNSで色々調べるらしいじゃん。おじさんにゃ分からないわ。SNSは怖いところってイメージ(実体験)が強くて...

 

「大分つったら麦焼酎っしょ。いいちこに二階堂、あと荒城の月! あ、店員さーん! 麦焼酎ロックで!」

 

 酒のことしか頭にないのか姐御は。脳みそ酒浸しか? 酒浸しか。

 

「あ、私も生追加でお願いします〜」

 

 姐御に便乗するようにPAさんも追加で酒を注文する。他人のことは言えないけどPAさんも速いな。

 

「PAさん、酒強いんですね。エンジェルリングができてる」

 

「人並みですよ〜」

 

 そういう人は強いって相場が決まってる。

 本当に弱いやつはそんなペースで飲めないし、「人並み」なんて言わずちゃんと「弱い」って言う。

 

「エンジェルリングってなんですか? なんか可愛い響き!」

 

「ジョッキに泡の層ができてるでしょ? それをエンジェルリングって言うの。飲むペースが速いとできるんだよ」

 

「へ〜! 海さん物知りですね!」

 

 褒められて悪い気はしないが、酒カス知識なので褒められるようなものじゃない。喜多ちゃんの純粋な目が痛い。

 あとビールジョッキの写真を撮ってSNSに上げようとするのは止めようね。喜多ちゃんが飲んだみたいに捉えられて炎上するかもしれないから。

 

「関口はいろんなこと知ってるもんな〜! 猫の警戒心解くコツとか、血行良くするマッサージとか、服や髪についたタバコの臭い取る方法とか」

 

「酒カスを粛清する方法も調べとくよ。つーか離れろ、酒臭い」

 

「お酒の場で酒臭いのは仕方ないだろー!?」

 

 いや、そんな近付かれたらフツーにいろいろ見えるから。角度的に。てめぇトイレの鏡で自分の服装見直してこい。下着くらい着けろマジで。

 

「...ていうか、その人誰ですか?」

 

 今更感ハンパないな。

 ていうか声ひっく。喜多ちゃんそんな低音も出せるんだ。音域広いのは武器だぞ。でもなんで今低音出した?

 

「ん〜? 誰よりもベースを愛する天才ベーシスト廣井きくりでぇ〜す。ベースは昨日飲み屋に忘れました〜。どこの飲み屋かもわかんな〜い」

 

「一瞬で矛盾したんですけど...あと海さんとはどういう知り合いの方なんですか?」

 

「え? いや、ただの飲み友だけど......おい関口ぃ、お前またかよ〜」

 

「何がだよ。つーかそれよりあんたベース無くしたとかマジで言ってんの?」

 

「おいおいキレんなよ小僧。私クラスになるとな、よく行く居酒屋の店長から連絡くるんだわ。だからそのうち戻ってきまーす!」

 

 ふざけてんのかこいつ。

 いやふざけてるのか。

 

「自分の楽器を雑に扱う奴、まじ嫌い」

 

「だァから怒んなって関口ぃ。お、電話。噂をすれば〜。もしもし〜? うん私〜。あ、私のスーパーウルトラ酒呑童子EXそっちにあんの? ごめーん、明日取りいく〜! うん、うん。じゃねー。...ほら!」

 

 ほら! じゃねぇんだわ。

 楽器ってのはただの商売道具じゃねーんだぞ。どこかに忘れてくるだけならまだしも、どこに置いてきたかも覚えてないとか、バンドマンとしてありえねーだろ。もっと丁重に扱え。

 

「そんな怖い顔すんなって! ほら〜、ぼっちちゃんたちが怖がって...ってあれ、ぼっちちゃんなんか燃え尽きてない?」

 

「え? あーあー。ぼっちちゃーん、灰にならないでー」

 

 伊地知ちゃんの後藤ちゃんへの対応クソ軽くて笑う。

 ...うん、そうだな。ここで悪い雰囲気出して良いことなんて一つもない。姐御に腹が立つことなんていつものことだし、気にしない気にしない。

 

「ほれ後藤ちゃん。料理、食べたいの頼みな」

 

「はっ。あ はっ、はい」

 

 一旦姐御を視界から消し去り、メニュー表を後藤ちゃんに渡す。良かった、灰から復活したな。不死鳥みたい。

 

「ぼっちちゃん何にする〜? あたしはねー、からあげ食べたいかな〜」

 

 いいじゃんからあげ。大分のソウルフードだ。爺様の家に行ったら絶対出てくる。自分らは胃もたれするとか言ってあんまり食べれないのに、俺や姉ちゃんのためにわざわざ作ってくれるのだ。優しい祖父母を持った。孝行しなきゃな。

 

「私、この『アボカドとクリームチーズのピンチョス』にしようかな」

 

 なんて?

 

「あ、あと『ラズベリーのコンフィチュール』とクラッカーも!」

 

 だからなんて?

 若い子こえー。知らない単語連発だわ。

 

 えーっと? ピンチョス...ピンチョス...(検索中)...お、出てきた。えー、『小さく切ったパンに少量の食べ物がのせられた軽食のこと』。サンドイッチ縮小版パン半減みたいな食べ物か。よし、覚えた。

 

 そんでコンフィチュールは...(検索中)...なになに? 『果実に糖分を加えて煮た保存食』? ってジャムじゃねーか。大人しくジャムって言えやかぶれてんじゃねーぞ*1

 

「わっ! 私は『マチュピチュ遺跡のミシシッピ川グランドキャニオンサンディエゴ盛り合わせ』で!」

 

 なんて?????

 独創性が過ぎるだろそのネーミング。何も想像出来ねぇ。ピンチョスやらコンフィチュールやらを置いてる居酒屋は一味違ぇなぁ。

 

「そんなのどこにも見当たらないけど...」

 

「あっ すみません言い間違えましたポテトフライで......」

 

 やっぱり後藤ちゃんは一味違ぇなぁ。

 

「私は酒盗」

 

「キミいくつぅ〜?」

 

 山田ちゃん、居酒屋っぽい飯を言ってみただけで実は食べたことないか好きってわけじゃないかのどっちかだろ。さすがにそろそろ分かるぞ。

 まぁ酒盗は俺も好きだし最悪山田ちゃんが食べられなくても問題はないが。

 

「関口は何にする?」

 

「んー...じゃあとりあえず枝豆とエイヒレで。あ、あと焼き餃子と松前漬けも。それと俺も麦焼酎ロックお願いします」

 

 麦焼酎には松前漬けが合うんだこれが。

 まぁ麦焼酎は何でも合うんだけどな。

 

「海さん、たくさん食べるんですね。細いから少食なのかと思ってました」

 

 伊地知ちゃんが驚いたように言う。

 今頼んだのを俺一人で食べると思ってんの? いや食えないこともないけどさ。

 

「居酒屋の料理ってみんなでシェアするもんなんだよ。だからみんなもちゃんと食べてね。育ち盛りなんだし」

 

 よくよく考えれば、彼女らはまだ高校生。居酒屋で飯を食う経験なんてほとんどなかっただろう。

 ファミレスみたいに「自分が食べたいものを頼んで一人で食べきる」みたいなのを想像していたんだろうな。可愛い。

 

「関口って案外食べるんだよ〜? 着痩せするだけで筋肉も結構ついてんだから」

 

「なんで海さんの肉体構造を知ってるんですか?」

 

「えっ、なにその声怖い...先輩の遺伝子感じる......」

 

 つーか肉体構造て。

 

「ちょっと汚い話なんだけど、姐御にゲロぶちまけられたことがあってさ。その時服脱いだから見たことあるんだよ」

 

「あ、そうなんですね!」

 

 声のギャップやば。さっきのとオクターブ二つくらい違くない? 女の子怖ぇー。

 

「海さんの上裸は私も知ってる。筋肉結構ついてた。男の人って感じ」

 

「「リョウ(先輩)!?」」

 

 山田ちゃんはなんで知ってんの? 怖いんだけど。さすがにJKに上裸は見せた覚えないから通報しようとすんの止めてくださいねPAさん。

 

「それならあたしも見たことあるぞ。こいつ、ライブ中に服破かれたことあるからな」

 

 あーーーね。

 そういやあったねそんなことも。テンションぶち上がった須田に破かれたから曲終わってから背負い投げしてやったわ。

 

「え、ライブ中に服を破られるんですか? それが...ロック...?」

 

 喜多ちゃんのロックへの偏見がさらに傾いた気がする。

 もっと急斜面にしてやろ(悪い大人)

 

「ロックはね、ほかにもライブ中に火を吹いたり血を吐いたり筋トレしたりチョココロネを投げたりするよ」

 

「??????(宇宙猫)」

 

「か、海さん! 喜多ちゃんに嘘教えないで───」

 

「残念ながら全部実際にあったことなんだよなぁ。ね、山田ちゃん」

 

「はい。MAKOTOさんが投げたチョココロネ、メルカリで転売されてました」

 

「通報してやる」

 

 食えや。

 ...いやそれもおかしいか。普通食えないよな、ロクに喋ったこともないやつが投げてきたパンとか。

 せめてチョココロネのぬいぐるみにしようって言ってんのに「いや、本物を使うことがチョココロネへの最低限の礼儀だ」とか意味わかんねーこと言ってたなぁ、須田のやつ。礼儀の前に食べ物への冒涜だろ。服破りはともかく、チョココロネの件に関しては俺はまだ許してないからな。

 

「...私って、ロックのことまだぜーんぜん理解してないみたい」

 

「大丈夫だから! あの人達が特殊なだけだから!」

 

「俺の知り合いのバンド、ライブ中に空飛んだり寸劇したりしてるよ。あ、あと三刀流とかいってスティック三本持ったりとか、スカイダイビングしながら演奏したりとかもあったなぁ」

 

「海さんの周りが特殊すぎる!」

 

 安心しなよ、一年もすれば慣れるから(?)

 

「けど海さんのバンドって世界的に活躍してるバンドなんですよね...? やっぱり有名になるにはそのくらいやんなきゃいけないのかなって...」

 

「いやいやいやいや! 有名のベクトル違うから! うちはコミックバンドじゃないんだよ!?」

 

 Capliberte(うち)だってコミックバンドじゃないんだが。

 そもそも世界的に活躍もしてないしな。たまたま機会があって海外ライブができたってだけで、活躍はできていない。

 

「それにほら、Capliberteは野生のプロ集団だから! 上手いから有名になったんだよ!」

 

 うーん、それはちょっと違うかなぁ。

 

「有名になるとか売れるとか、そんなの所詮は運だよ。めちゃくちゃ才能があるのに発掘されなくて無名のまま終わる怪物たちもいる」

 

 無名だけど俺よりギターが上手い《隠れた怪物》は、日本だけで見ても何人もいるだろう。

 

「そりゃ演奏に自信はあるけど、それだけじゃ有名にはなれなかった。運が良かったんだよ。芸能事務所に拉致られてアイドルバンドと共演したり、金持ちお嬢に拉致られて海外のお偉い方と知り合いになったりね」

 

 まぁ俺らの場合、そこまで売れようっていう気がなかったんだが。

 自分らが楽しいようにやってたらたまたま掬い上げてもらった。それだけだ。

 

「拉致...?」

 

「...深く考えない方がいい気がしてきた」

 

 それが正解だよ伊地知ちゃん。

 世の中、考えない方が良いこともたくさんある。

 

「おぎゃあぁぁああああやっぱりニートぉおあああああ!??!??!?!」

 

「ミ゚ッ!?」

 

「あー、ぼっちちゃんまたいつもの発作が...」

 

 ありえんほどビビった。変な声出た。この歳になってあんな声出るとか普通に恥ずいんだけど。おい山田笑うな。

 つーか急にどったの。発作って何かの奇病なの? 溶ける性質があるのは知ってたけど奇声上げるのは初めて見た。

 

「紙ヤスリちょーだい」

 

「毎回この作業大変ですねー」

 

 慣れてやがる。

 お前らの方がよっぽどコミックバンドだよ。

 

「やば、ミスった」

 

「大丈夫ですよ! ここをこうして...ほら!」

 

「ア アリガトウゴザイマス」

 

 ヘルシェイク後藤。

 

「ごめんなさい後藤さん。やっぱりもうちょっと修正していい?」

 

「アッハイ」

 

 ヘルシェイク後藤面白かったのに。

 

「そういえば郁代」

 

「!??!?」

 

 ? 郁代って誰だ。

 

「今日のライブ、ギター始めて四ヶ月でよく頑張った」

 

「え〜? イクヨって誰?」

 

「へっ、へへ...だ、誰でしょうねェ、そんなしわしわネーム...だっ、誰のことかな? 郁代ちゃーん、出ておいでー...」

 

「喜多ちゃんだ!!」

 

 へー。喜多ちゃん、下の名前いくよって言うんだ。知らなかった。

 

「あー! ずっと隠してたのにぃ! この名前嫌なんですよ! それにダジャレみたいでしょう!? きた〜、行くよ〜! ってあははあほかーい!」

 

 喜多ちゃんが壊れた。

 顔面も崩壊してきたな。後藤ちゃんのアレ、伝染するんだ。やっぱり奇病の類なのかな。俺も気を付けよ、アルコール消毒しなきゃ(飲酒)

 

「私の名前は喜多喜多です......」

 

「ぷぷっ、何か弱ってるの新鮮で面白い」

 

「お前性格悪ぃな...」

 

 そんなに落ち込むほどか? いいじゃん来た行くよ。自己紹介の時のネタになる。

 

「いくよ、ってどんな字書くの? 育てるに世代の代?」

 

「え、...有るにおおざとへんの郁と、代は世代の代です、けど...」

 

「へー。やっぱり良い名前じゃん。喜多ちゃんに合ってるよ」

 

 名は体を表すっていうけど、その通りなんじゃないか?

 

「こんなしわしわネームのどこが良いってゆーんですか!? わーん!!」

 

 え、なんか泣かれたんだが。

 やめろやめろ、男は女の子の涙に逆らえない悲しい生き物なの。ほら涙拭きな? ハンカチあげるから。

 

「えっとね。郁って漢字の意味ってさ、文化が盛んとか、かぐわしいみたいな意味なんだよ」

 

「そ、そうなんですか...?」

 

「そうなんです」

 

 馥郁(ふくいく)とか、近代文庫を読んでるとたまに出てくるよな。太宰とか。

 

「盛んな感じとか、すごく喜多ちゃんっぽいじゃん。確かに今どきな名前じゃないかもだけど、良い名前だと思うよ。俺は好きだな」

 

「─────」

 

 ...あれ? 喜多ちゃん、なんか固まっちゃったな。要らないフォローだったか?

 まぁ俺の感想言っただけだし、ウザがられてた時はそん時か。...いややっぱ嫌だな、JKに煙たがられるの。

 

「うわぁ...」

「これは中々...」

「関口お前ほんと、そーゆーとこだかんな?」

 

 なんだなんだ。それはどういう感想だ大人組。

 ダメだ、俺の勘が「今すぐ話題をそらせ」と言っている。何か話題...違う話題...あっ。

 

「そうだ。さっき山田ちゃんも言ってたけど、今日の喜多ちゃん凄かったよ。ほんと、ギター始めて四ヶ月とは思えないくらい」

 

「────はっ!?」

 

 お、帰ってきた。

 おかえり。

 

「俺がギター始めて四ヶ月の頃より何倍も上手い。たくさん努力してたもんね。努力できるっていうのはすごい才能だし、これからどんどん上手くなるよ」

 

 心からの言葉を向ける。

 本当に、喜多ちゃんは成長が早い。ギターの才能っていう面もあるのかもしれないが、何より努力したからだろう。頑張れる奴は強い。

 

「あとこれ、喜多ちゃんにエフェクターあげるよ。俺が昔使ってた(ひず)みと、リバーブとディレイ。最近はマルチ使うことが多くてあんまりライブでは使ってなかったんだけど、武道館ライブした時に使ってたやつだよ。壊れたりはしてないし、質は保証する。喜多ちゃんにプレゼント。この数ヶ月、よく頑張ったね。お疲れ様」

 

 

 

「────アヒュゥ」

 

 

「郁代が溶けた」

 

 やっぱり後藤ちゃんのアレ伝染するんじゃねーか!! やべぇ、もっとアルコール消毒しないと俺も感染しちまう!!

 

「すみませーん! 麦ダブルをロックでお願いします!」(飲酒加速)

 

「おっ! いいねぇいいねぇ! てんちょー! 私にも同じのー!」(妖怪へべれけ)

 

「はいよー!!」(店長)

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「うわ、何このグラスの量」

 

 どこかに行っていた伊地知ちゃんと後藤ちゃんが戻ってきて、卓に広がった空きグラスを見て軽く引いている。

 

「関口と廣井が飲み散らしたんだ」

 

「飲み散らしてんのは姐御だけっすよ」

 

「廣井よりお前の方が多く飲んでるんだが?」

 

「俺は優雅にアルコール消毒してるだけ」

 

「飲酒は消毒じゃねーよ」

 

「...確かに。度数足りないっすね。エタノールって度数七十%くらいでしたっけ?」

 

「そういう話じゃない」

 

「スピリタス飲むしかないのかなぁ」

 

「飲酒消毒っつー概念を捨てろ! なんだお前こえーよ!」

 

 冗談なんだけど。

 さすがにスピリタスは飲めないよ。口喉胃袋全部焼けると思う。

 

「あ、すいませーん。メガハイボール一つ〜」

 

「お前まだ飲むのか...」

 

「あ、ちゃんと金は出すんで」

 

「いやそういう問題じゃ...いや、いい」

 

 ?

 

「すごいですね〜。お酒強いのもですけど、そんなにたくさんの水分を飲めるの。お腹タプタプになりません?」

 

「ん〜? 触ってみる〜?」

 

「えっ!?」

 

「おいやめろ腹を見せようとするな。喜多ちゃんも近寄るな、それは事案になりそうだ」

 

 え〜。暑いし。

 腹触らせるくらいだいじょーぶだって。多分。

 

「こいつ、絶対酔ってるのになんで顔色一つ変わらないんだ?」

 

「相当強いか突然死ぬかのどっちかですね〜」

 

 俺は死なないよ。音楽が好きだから。

 

「あひゃひゃひゃひゃ! 関口が三人いるぅ〜! 何増えてんだよお前ぇ〜!! ぎゃはははは!!」

 

 なんだあいつ。

 

「あ、すいませんお冷ください」

 

「お、関口が冷静になった」

 

「自分より酔っ払ってる人を見ると冷静になりますよね〜」

 

 ごめんなさい(正気)

 

「じ、地獄だ......」

 

 伊地知ちゃんがドン引きしてる。

 危ない、もう少しで俺もドン引き対象になるところだった(ちょっと手遅れ)

 

 店員さんから受け取った水を一気に飲み干す。

 伊地知ちゃんたちがいなかったら調子乗ってもっと飲んでたな。んで楽しくなって姐御と一緒に暴れてたかもしれない。未成年に感謝。...うーん、まだちょっと酔ってるか?

 

「あ、そーだ。キミらに言おうと思ってたことあったんだ」

 

 もう一杯水を注文し、勿体ないので飲みかけだったメガハイも飲みながら、結束バンドに目を向ける。

 

「さっき喜多ちゃんにはちょっと言ったけど、今日はライブお疲れ様。本当に良かったよ」

 

「あはは〜。まぁ、最初ボロボロでしたけど〜...」

 

「そうだね〜。みんなすっげー緊張して堅くなってたもんね」

 

「「うっ」」

 

 演奏と、あと挨拶MCでも思い出してるんだろうか。伊地知ちゃんと喜多ちゃんの身が竦む。

 

「けどまぁ、二曲目から持ち直したし。あそこからの演奏は本当に惹かれたよ。やっぱり後藤ちゃん、ギター技術エグいね」

 

「あ ありがとうございます...えへへ......」

 

「俺より上手いんじゃない?」

 

「えっ? いっ、いいいいいいいえ!? そっ、そんっな、そんなわけ...!?」

 

 否定する後藤ちゃんだが、実際かなり上手い。

 ミスがほとんどないってのもそうだけど、何より表現の奥深さが高校生としては頭一つ抜けている。

 まぁ、今日の演奏だけを見たらまだ「高校生の中では上」レベルだが...あの演奏を見てようやく分かった。

 

 この子、後藤ちゃんはあの《ギターヒーロー》その人だ。

 

 普通にプロで通用するレベルだが未だ発掘されきっていない《隠れた怪物》のうちの一人。

 最近全然動画アップしないなと思っていたら、こういうことだったのか。

 

「一曲目はみんな緊張してて、ずっと下を向いてた。あのままだったら二曲目も三曲目も全然合わないまま、観客の心も掴めなかったはずだ。その悪い雰囲気を断ち切った後藤ちゃんは今日のMVP(ヒーロー)だよ」

 

 今日は運が悪かった。

 天候に恵まれず、客にも恵まれず。まぁ客に関しては熱心なファンが二人いたようだが。

 まぁともかく、最悪と言っても過言ではない雰囲気があった。

 

 普通なら、その雰囲気に呑まれて萎縮し、本来の実力を出せないまま沈んでいく。一曲目のように。

 そこから這い上がるのは困難だ。ましてライブ経験のほとんど無い高校生なんて、逃げずに演奏しただけで褒めて良い。

 

 だと言うのに、後藤ちゃんは道を切り拓いた。

 同じ雰囲気の中でならプロでさえ挫けてしまいそうな場面で、彼女は勇敢にも戦い、打ち勝って見せたのだ。

 

「正直、今日は良い経験になれば御の字だろって思ってたんだよ、俺。苦くて悔しい思いをするだろうけど、それをバネに頑張れる子たちだ、って」

 

 挫折しないように、バンドを嫌になってしまわないようにフォローだけはしっかりしてあげよう。そう思っていた。

 だが、

 

「そうはならなかった。後藤ちゃんが立ち上がって、後藤ちゃんの気持ちに応えるみたいに三人とも前を向いて、最後には大盛り上がり」

 

 はっきり言って予想外だった。

 失敗するだろうと決め付けていた自分を殴りたくなる。

 

「結束バンドは良いバンドだし、これからもどんどん伸びるよ。キミたちが尊敬してくれてる《Capliberte》のギタリストとして、この俺が保証する」

 

 

 それを聞いた彼女らの反応はそれぞれ違った。

 素直に喜び、謙遜し、恥ずかしそうに顔を伏せ、決意を新たにメンバーを見つめる。

 

 本当に、良いバンドだ。

 

 

「今日はとっても良いものを見せてもらったよ。須田もすごく褒めてた。そのお礼、ってわけじゃないけどね」

 

 言って、俺は財布から数枚のチケットを取り出す。

 

「十二月、《Capliberte》のライブが決まったんだ。ぜひ観に来て欲しい」

 

 結束バンドにも負けない最高のバンドメンバーで、最高のライブを披露しよう。

 

 

 

 

 

*1
正確にはジャムとは少し違うものらしいです。




PAさんはお酒強そう(願望)
ビールのジョッキに「泡の層」ができる飲み方はアニメでも描かれていました。エンジェルリング空ジョッキはPAさんの傍に置いてありましたが、PAさんがビールを飲む描写はなかったので、星歌さんが飲み干したジョッキたちかもしれません。
でも星歌さんはお酒弱そう(願望)

お酒つよつよ九州人(偏見)の血を引くオリ主くんがPAさんを酒で潰す会、というものを思い付いたのですが、構想を練れば練るほど18禁になりました。書きません。
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