あまりにも楽しすぎた
此処で過ごした一週間。あまりにも楽しすぎた。
大人たちから無条件で向けられる温かさ、優しさ。これらは幻想では無かった。親友が、数少ない私の友達が見栄を張るための虚言でも、通学路の途中にある電器屋のテレビジョンの向こうの嘘っぱちでも無かった。
信じていた自分が、あれほどまでに、狂信ともいえるまでに信じていた自分が馬鹿馬鹿しい。
温かい白飯、熱いくらいの風呂、洗濯された衣類。これらをすべてを心ゆくまで堪能していいというのだ。更には、同い年くらいの子供たちと山の輪郭が朱色に少しばかり輝くほどの暗がりまで遊び惚けて良いという。サキがそれを当たり前のように受け入れているところを見ると大いに悔しくなってくる。あんなにはしゃいだのは初めてだった。あんなに安心したのは初めてだった。
一切合切が初めてだった。
「ねえ、どうしたの?はやく行こうよ。リエ。」
終わってしまう。この神社の石畳の上に浮かぶあの奇妙な割れ目に入ってしまったら、すべてが終わる。この幻想が、私の幻想が、私の楽園が終わってしまう。彼岸の彼方に追いやられてしまう。
「ねえってば。」
その手を放してほしい。ごめんなさい。ごめんなさい。でも、嫌だ。もう嫌だ。あんな毎日はもうごめんだ。酒の缶がいたるどころに転がって、恐怖と隣り合わせで、狭い部屋で、逃げられなくて、恐怖が迫り、また一つ、また一つあざが増えていく。何をしても、何をしなくても、あざは増えていく。帰る理由は最早無くなってしまった。
「帰れるんだよ?」
きっと、サキは帰っても幸せなんだろう。暖かさに包まれるのだろう。
きっと私が帰ったら、この博麗神社から見える景色が魂を揺さぶるほど綺麗だと思えなくなってしまう。きっと、あの人里を照らす朱色の朝焼けがいつまでも続くような願いを持てなくなってしまう。
そんなのは嫌だ。私は、貴女とは違う。あの素晴らしい景色をいつまでも見ていたい。
「素晴らしい。素晴らしき自我です。」
その声が聞こえたかと思えば、私はぐいと後ろに引っ張られた。
もう、サキの姿もない。目の前の博麗の巫女が私とサキを無理に引き離し、サキだけをあの割れ目の中についたからだ。
「ありがとうございます。霊夢。やはり、先代と違って融通が利きますね。」
「どのみちこうしましたよ。貴女がいなくても。こんなに怯えた目をされては。」
「似た者同士ですものねぇ。この子も過去がとてもざらついています。当分ここに住まわせても良いのでは?」
「そうですね。魅魔様の相手でもしてもらおうかな?」
私を置いてけぼりにして話がどんどんと進んでいった。
「おかえり、幻想郷へ。」
また、人が増えた。今度は金髪で年増な見た目をしたヤツだ。