おかえり   作:魔王ヘカーテ

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別れを告げろ

「結局はちっぽけな虐げられた貴族が最後に残ったのね…。」

 

その溜息混じりの一言は、虚しく地下図書館に響くだけである。

 

何百年も昔は毎晩のように舞踏会が開かれ、貴族達は一晩中踊り明かした。

 

貴族は皆『力』を持っていた。財力というものから純粋な力にそれは移り変わり行く時、2人の姉妹が虐げられた。

 

姉は、血をあまり多く吸えなかった。

 

妹は、自らの羽を毟り取ってしまい、あまりにもみすぼらしい見た目であった。

 

「確かに貴女達は、滑稽で醜いさまよ。」

 

そう言って旧友はチェスの駒を一つ進める。チェスの盤面は旧友の方がいささか不利である。

 

「言ってくれるじゃない。ほら、チェックメイト。」

 

最後の貴族はやってやったと言わんばかりの笑みを浮かべる。それに対し、旧友はまだ余裕の笑みを浮かべ、話を続ける。

 

「ただね、自らの美貌と力に溺れた結果の死。これの方がよっぽど滑稽で醜い。貴女達はそれに囚われなかった。」

 

「だから生き残った。」

 

なんとも皮肉なものだ。姉妹を虐げた貴族達の文化体系が結果として自らの死を招くのだ。これを滑稽と言わずして何という?

 

『見て、あの姉妹。血が吸えない姉とみすぼらしい妹だわ。』

 

『なんて非力で醜い姉妹なの。』

 

かつての嘲笑は、形骸化した権威と芸術という華々しい時代に囚われ、眩い喧騒と変革の時代に次々と殺された。

 

「これからどうするの?他の貴族が全滅したと分かった今、人間達を支配でもするのかしら?」

 

「無理ね。あいつらの二の舞だわ。」

 

先日、『吸血鬼狩り』を名乗る者達に居城を盛大に襲撃され、旧友の形状記憶の魔法でまだ修復途中である。他の貴族はこぞって奴らに殺された。何百年もひっそりと生活しているうちに人間は進化した。扱えるかもわからない魔法を捨て、科学の道へと進みめざましい発展を遂げた。返り討ちは容易だったものの、人間は何千、何万と近代化した軍隊を持ち合わせているという。もしそれらの多くがこちらを討ち取らんと牙を剥けたのなら、妹に頼らざるを得ない。だが、そのようなことは絶対にあってはならない。

 

「まやかしに溺れているのなら、駆逐されるのはこちらよ。」

 

割れた天井からは、我こそが女王だと言わんばかりの満月が顔を出しており、その月光は不完全なチェックメイトの盤面を照らしていた。

 

「あの月を真紅に染めたら、あの子は出てきてくれるかしら?」

 

「まだ諦めていなかったの?自由気ままに好きな時に外に出れるようにするって夢。願わくばあの子と一緒にって。」

 

最後の貴族は月に向かい手をかざし、掴めやしないと分かっていても手を握ってみせた。

 

「そう、どこか遠くへ行きましょう。」

 

「え?」

 

「誰からも忘れ去られたような遠くへ行くの。そこで、夢を叶えればいい。ここはもう壊されたのよ。忌むべき過去と一緒にね。ここはもう、私たちの居場所じゃないわ。」

 

旧友はキョトンとした表情だった。無理もない。誰だっていきなりそんな事を言われたらそうなる。

 

「まぁた随分と突拍子も無い事を言う。と言いたい所だけど、賛成だわ。先日、ネズミを逃してしまったし、いつ報復が来るか分かったもんじゃない。早い所とんずらした方がいいわ。」

 

あいも変わらず言葉選びが下手な旧友の賛成を得た彼女は微笑を浮かべ、指を鳴らして見せた。

 

「はい、お呼びでしょうか。お嬢様。」

 

彼女が指を鳴らした直後、まるで先ほどからそこに居たかのように何の足音もなく、タイトな迷彩服に白いエプロンというなんとも奇抜な格好をした銀髪のメイドが現れた。

 

「これから引っ越しをしようと思うの。あては無いけど何処か静かでいい場所へ。そこで、貴女にも了承を得たくて。この英国に別れを告げることになる。もしかしたら一生人間の友人を作ることができないかもしれないわ。」

 

銀髪のメイドはあいも変わらず無表情である。

 

「場所にも人間にも未練などありません。私は御嬢様にどこまでも喜んでお供いたします。」

 

「よし決まりね。パチェ。生成魔法の準備をして。この城を小さくしましょう。二階までの修復が終わり次第、改装に取り掛かるわよ!」

 

「い、今から!?それに貴女城ごと移動させる気?」

 

「ぁぁぁぁぁああああああああ!!」

 

突如、けたたましい金切り声をあげて何かが落ちてきた。落ちてきた者は赤髪の妖怪で、見事に二人のテーブルに激突。テーブルを派手に倒し、チェスの盤面も跡形もなく散らばってしまっていた。赤髪の妖怪はすぐさま顔をあげ自身を見下ろす3人を見て気まずそうにしていた。

 

「あ、あれ、や、やはははははは。あの穴から落ちてきちゃったみたいですね。」

 

「え、泥棒?」

 

最後の貴族とその旧友が顔をしかめ、メイドがナイフを抜くと赤髪の妖怪は指先まで青ざめた。

 

「い、いやいやいや!違います!違います!私は旅をしておりまして、ここの地を訪れたんですがなんせこの辺りの通貨を持っていなくて…。大きな建物あるし食べ物もらえるかなーって思って来たらこの有様で。もう何日も食べてなくて。」

 

「咲夜、確かキッチンは無事だったわよね?」

 

「はい。まぁ、壁に少しばかりヒビが入っておりますが。」

 

「結構。棚にブレットがあったはずだから焼いて持ってきてあげなさい。あと、あったらぶどう酒も。」

 

銀髪のメイドは真っ直ぐとした背中でお辞儀をした直後、音も無く消え去っていた。それを見た赤髪の妖怪は感嘆の声を漏らす。

 

「はえええ。すごい従者さんですね。消えちゃった。」

 

彼女は驚きすぎて礼の言葉が出てこないらしい。

 

「咲夜って、貴女にしては随分と洒落込んだ名前をつけたじゃない。」

 

「ええ、『十六夜咲夜』これが彼女の名前。流石に『ジャック』じゃ余りにも可哀想よ。それに私に仕えるのだもの。相応しい名でないと。」

 

咲夜は『吸血鬼狩り』として先日この城に来たばかりである。彼女は時を止めるという異能を持ちながら使い捨ての駒にされていたのだ。最後の貴族は彼女が有能でありながら死を手に入れる事を惜しく思い、従者として雇ったのである。人間とはどれだけ進歩しても愚かな選択をするものだ。

 

「ところで、赤髪の人ならざる者よ。そなたの名は何と申す?」

 

「私は、紅美鈴と申します。東のほうからずっと旅をして参りました。」

 

「ようこそ。紅美鈴。ここはたった今から過去を捨て、新たなる出発を企てるどうしようもない連中の集いとなったけど、貴女を歓迎しましょう。」

 

旧友は得体の知れない奴を歓迎することに不安を覚えながらも、それより貴族として重要な事を彼女に注意する。

 

「貴女の自己紹介がまだよ。当主様。」

 

最後の貴族。もとい最後の吸血鬼は赤面し、軽く足を組んで見せる。

 

「私はレミリア•スカーレット。ここ紅魔城の当主よ。まあ、見ての通り自分の城すら守れぬちっぽけな当主だけどね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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